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THE SIX ELEMENTS STORY No28






THE SIX ELEMENTS STORY





No28





                                      著 水望月 飛翔



 それから向かった第二の島では、空の領土の人々が「聖なる騎士団」の一行を出迎える様に、
静かに立ち並んでいたのであった。
そして、「聖なる騎士団」の一行が空の民達に近づくと、空の人々は口々に彼らに声をかけたのだった。

「慈愛の化身、ゼンス様。よういらっしゃいました。」
「我らが誇り、ロードス様。お帰りなさいませ。」
「清廉なるユラン様。またお目に掛かれて光栄です。」
などと一言ずつ言葉を述べ、静かに一行を出迎える空の領土の人々。

 そしてジインが最後に姿を現すと、初めて見る大地の領土の者に何の驚きも見せずに空の人々は、
「大地の領土より参られた新しき騎士殿。ようこそ、我らが空の領土へ。」と、静かに声をかけたのだった。

 この時、空の領土の民達の言葉を初めてジインは耳にしたのだった。
空、水、緑、大地、炎、と五つの領土の言葉は、みなそれぞれ違っていたのだが、
「聖なる騎士団」が領土に入ると、それぞれの領土に住む精霊が現れ、一人一人の頭上にいつも控え、
その領土の言葉を使えるように、手助けをしていたのだった。

 例えば、大地の領土に入れば、「聖なる騎士団」の一行は皆、自然と大地の言葉を話す、と言う具合に。
それでは、「迷いの森」の道中ではどうであろうか。

彼らは、それぞれ直前まで滞在していた領土の精霊から、言葉の波動を移してもらい、次の領土に
着くまでは、その力で前の領土の言葉を使っていたのであった。

(なんてすべらかで美しい響きなんだろう。それに、なんて一つ一つの動作が優雅で美しいんだ。)
ジインは、空の領土の人々のたおやかでありながら、同時に優雅な面持ちを持つ出迎えを受け、
また、彼らの静かで流れるような動作に、ただただ素直にそう心に思ったのだった。

 そんな素直で好意に満ちたジインの反応を感じ、空の民達もまた、敬意と感謝を持って静かに
ほほ笑んだのだった。

 そして、そんなジインの姿を「聖なる騎士団」の長老達も、うれしく見つめたのだった。
それから、第三、第四の島と渡るにつれて、空の人々の一人一人が一層、落ち着きと威厳に満ちた
存在の人々へとなっていったのを、ジインは感じ取ったのだのであった。

(空の人々の静けさが、島を登るごとに増している・・・。この様な違いは大地の領土では見る事がない。
本当に此処は大地の領土とは違う世界なんだな。)
 新たな島を渡るごとに、どんどん空に近づき浮遊しているような感覚と、初めて目にする
空の領土の風景、感覚、人々にジインは自分の心まで、まるで浮遊している様な、不思議な感覚に
襲われたのだった。

 そして第四の島に着くと「聖なる騎士団」の一行は、王の迎えが来るまで、「慈しみの礼拝堂」で
しばらく、休息を取ったのだった。 

 この「慈しみの礼拝堂」の壁は、まるで天使の住処かと思われる様な、一枚一枚が美しい
白い羽根の形をしている、光沢のある細工で覆われており、礼拝堂の内部では、低音から高音まで
幾重にも重なった音がどこからともなく奏でられ、それはまるで、天上への祈りを込めている様な、
荘厳さに満ちていたのだった。

(此処がロードス様とイズールが暮らしていた空の領土か。二人の落ち着き整っている気質を、
そのまま見て取れるようだな。)と、ジインは感心しながら、ずっと飽きずに礼拝堂の内部を
眺めまわしていたのだった。

 そんなジインが、大きく開け放たれた礼拝堂の窓の外をふと見ると、まるで高い空の中を自
分が漂っているように、ゆったりと佇む雲を遠くに近くに見たのだった。

 そして、その雲の切れ端からは、時折眩しい太陽の光がいく筋にもなってこぼれ落ち、
神々しい美しさをジインの目の前に見せたのだった。
 そんな美しい空を眺めていると、程なくして空の王の城から、王の使いの者が彼らを迎えに
来たのであった。

 いよいよ、第五の島。空の王のいる城へと、一行は向かったのだった。

一行が第四の島から第五の島へと続く橋を渡っていると、ゆっくりと南側から近づいてきた雲の一団が、
そのまま一行を包み始めた。

 どんどん雲の厚さが増し、ほんの先が全く見えない状態になったのだったが、しかし一同は
さしたる動揺も見せずに、そのまま橋を進んで行ったのだった。
 しかし、初めて渡る高い場所にある橋に、気後れしていたジインだけが一人取り残される形となり、
もうすでに相当なる高さとなっている橋の上で、自身の心細さと相まって、自身の周りを包む霧に
身を固くして、歩みを止めるジインなのであった。

 やがて人の気配が遠のくなかで、ジインは彼らの背中に声をかけたのであったが、何故か、
その声も周りを漂う霧にまるで遮られる様に、彼らには何一つ届かなかったのだった。

 白い霧と静寂に取り囲まれて、最初は不安に思っていたジインであったが、しかし、次第に
その霧の心地よさがジインの心を落ち着かせていったのだった。

(なんだろう?この感覚は。最初は正直、まるでどこに自分が居るのかさえ分からなくなって
しまった様な心細さがあったのに、だんだんと不安がなくなっていく。いやそれどころか、
むしろ何かに守られているような、安らぎすら感じる。)ジインが、しっとりしたこの霧に、穏やかに
身体を預けていると、その時、かすかな声が耳元で聞こえたのだった。

「ようこそいらっしゃいました。」
まるで春風が一瞬で吹き抜けていく様な、軽やかな少女の声が、ジインの耳をふんわりと
かすめ通ったのだった。
不思議に思い、周りを見回したのだったが、何も見つける事ができずにぼんやりと佇むジイン。

 やがて次第に霧が晴れてくると、ジインの目の前には、白く壮麗に佇む空の王の城が、
その姿を悠然と現したのだった。

 空の城はすべてが白い美しい大理石でできており、天へと真っ直ぐに伸びる三本の塔を中心に、
建っていたのだった。

 そして、左右に連なる建物からは、中央にそびえたつ塔を目がけて伸びる羽の様に、
何本もの流麗な線がうねりながら王の城を形作っていたのであった。

 一番下の一階部分は、堅固な城を支える様に、歴代の空の王の像が立派な柱として
力強く支えており、それらの柱や無数の窓を、プラチナの輝きの金属が、ツタの流れのような
曲線を描きながら、この空の城を美しく飾っていたのであった。

 そんな荘厳な佇まいを、祝福するかのような天から降り注ぐ光に照らされて、空の王の城は、
眩いばかりの威厳と崇高な輝きを放っていたのであった。

「なんて立派で美しい城なんだ。」ジインは初めて見る空の城の美しい姿に圧倒されて、
思わず声をあげたのだった。
 そんなジインの驚きの声に、ずっと前を歩いていた一同は歩みを止めて、ジインの方を
振り返ったのだった。
 そして、城の美しさに茫然と立ち尽くしているジインに向かって、「さあ、ジイン殿。
いつまでもそんな所にいないで、早く私達の所に来てください。王の城に入りますよ。」
と、イズールがジインに声をかけたのだった。

 イズールにそう言われて、ジインはハッと我に返り、足早に一同の元へと駆けて行ったのだった。
そしてジインは皆の所に着くと、長老ロードスとイズールに向かって、息せき切ってこう言ったのだった。

「ロードス様、イズール。空の王の城はなんて素晴らしいんでしょう。お二人の故郷は
本当に美しいですね。」ジインは素直にそう感じた事を、二人に言ったのだった。

 そんな幼い子供の様にはしゃぐジインに、イズールは一瞬目を丸くして、言葉に詰まったのだったが、
程なくして優しい微笑みを湛えながら、ジインにこう言ったのだった。
「ありがとう、ジイン。君が我が故郷をほめてくれて、本当にうれしいよ。」と言うと、
すかさずジインは、「そんな、褒め言葉なんかじゃないよ。ただ本当にそう思っただけなんだ。」
と言うと、ロードスはゆっくりとジインの元に行き、ジインの肩に手を置いて、静かにこう言ったのだった。

「新たなる聖なる騎士。ジイン・クイードよ。そなたの率直さや正直さは、何にも代えがたい
美徳の一つであろう。我らが故郷の美しさを解ってもらえて、私もまた本当にうれしく思う。」
そう言うと、一呼吸置いてから静かに続けたのだった。「されど、今は少し心を落ち着けてはいかがか?
我らが空の王は、特に静寂に満ちた秩序ある美しさを気に入っておられる。今のそなたの高揚した
波動をそのまま纏っての謁見は、少し場違いにも思う。」ロードスはジインをじっと見つめると、
ジインにこう告げたのだった。

「わしには今のそなたの高ぶる波動が、どうもいささかこの場にあわぬ様にも思うのじゃ。
今少し、心を落ちつかせるがよかろうて。この先の、水の領土、緑の領土の美しさもまた比類なく、
今のそなたの落ち着きのなさでは、この先持ちこたえられなくなるやも知れぬ。どうか今少し、
心を落ち着かせるがよいように思うが、ジイン、いかがだろうか?」まるで幼子を落ち着かせる様に、
慈愛を込めた瞳でロードスは、ジインを諭したのだった。

 そんなロードスの言葉を聞いて、ジインは自身が「聖なる騎士団」の一員であることを、
改めて自覚すると、ゆっくりと目を閉じて心を落ち着かせたのだった。そして再び目を開けると、
ロードスにこう言ったのだった。

「ロードス様、お言葉ありがとうございます。ロードス様のご心配、しかと心に受けとめました。
私は、「聖なる騎士団」の一人として、いま一度、心落ち着けて参ります。」と、今までの浮き足だった
表情を引き締めるジイン。

 それから一呼吸置くと、ジインは笑顔で、「さあ、皆様。空の王の城へ参りましょうか。」
と、言って先頭切って進んでいたのだった。

 一同はそんなジインの後ろ姿を見つめると、穏やかに笑みを浮かべながら、王の城へと、
入っていったのだった。





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# by maarenca | 2014-09-17 10:21 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No27







THE SIX ELEMENTS STORY






No27




                                       著 水望月 飛翔




 一方、あれからあまり眠る事が出来ずにいたジインは、その日の早朝からそわそわと、
ずっと落ち着きなくいたのであった。
(もうすぐ初めて、空の王と会う。この俺が、他の領土の王に謁見する日がこようとは・・・。
大丈夫だろうか?大きな失態をしなければいいが。)と、一人心の内で心配していたのだった。

 そんな事をジインが考えていると、すぐその背後から、ジインの心を見透かした様にイズールが
こうささやいたのだった。

「そうですね。我らが空の王は思慮深く聡明なるお方ゆえ、君の一挙手一投足だけで、
きっと大地の領土の皆様を推し量る事でしょう。大地の領土の者として、つつがなく謁見の場を
終えないといけませんね。」と、少し笑いをこらえる様にして、ジインにこう言ったのだった。

 そんな、気配なく現れたイズールに驚いたジインは、「イズール。驚くじゃないか。
気配をなくして急に声を掛けないでくれよ。」と、早まる鼓動を抑えつつ、イズールの方を向いて
こう言ったのだった。
 が、すぐに真剣な顔をすると、イズールの顔に近づけて、周りを見渡してから、小声で他の誰にも
聞こえないようにそっと、こう聞いたのだった。

「なあ、イズール。空の王はお優しいお方か?それともロードス様の様に、少し近づきがたいお方か?」
と、聞いたのだった。

 しかし、そんなジインに答える声は、イズールからではなく、全く予期せぬ方角から聞こえてきたのだった。

「おおそうじゃな。偉大なる我らが誇り。空の王、タリオス王のお優しさは見る者の見方によって、
その者の目に映る場合もあれば、映らぬ場合もあるかのう。残念ながら、わしの優しさはそなたには、
見つける事はできない様じゃが。」と、今度は長老ロードスが、ジインの背後からこう言ってきたのだった。

 驚き、振り向くジイン。
先程のイズールに引き続き、全く気配を感じなかった背後からの突然の言葉に、またもや
驚かされるジインなのであった。

「ロードス様。すみません。そんなつもりで言ったのでは。」と、最後は小声で心細そうに、
そう言ったのだった。

 空の領土の二人に、いいようにされているそんなジインの姿をみて、長老ゼンスは
笑いをこらえきれずに、大きな声で笑うと、ジインに向かってこう言ったのだった。

「はっはっは。これは空の領土の者にいいようにやられたのう?大地の若者よ。」
そう言いながらゼンスは、ゆっくりとジインの元へ近づくと、杖を前に置き、こう続けたのだった。

「まあ、この二人を責めるでないぞ、ジイン・クイードよ。空の領土の人々はこの様に
小さな波動の乱れや、心に隠しておいた気配でも、すぐに読み取れる能力を持っておるのじゃ。
ましてや、空の王ともなったら、そなたの心の内など手に取るようにわかるじゃろうて。
だからこそ、無心でいくがよい。そなたがこれから目にする全てのものが初めての事となる。
驚きも動揺もあるじゃろうが、そのまま感じた事を素直に受け取ればよいのじゃ。どうかな?」
と、ジインにほほ笑みながら、優しく長老ゼンスはこう言い諭したのだった。

 そんな言葉にジインは、ゆっくりと頷くと「はい解りましたゼンス様。それに、ロードス様とイズールが、
俺が空の領土に着いてから、驚かないようにと教えてくれたという事も、ちゃんと解っています。」

そう言うとジインは信頼の表情を持って、空の二人の方に向き直り、「お二人とも、ありがとうございます。」
と、姿勢を正してこう言ったのだった。

 そんなジインの言葉に二人も、この大地の若者に静かに微笑みながら、ゆっくりと会釈を
返したのだった。

 その様なやり取りを見届けると、しばらくしてから長老ゼンスは、ゆっくりと丁寧に身支度を
整え始めたのだった。
そうして準備が整うと、今度はロードスがゼンスの身支度が終わるのを待ち構えていたように、
すぐさまゼンスの姿を自身の鏡に映し始めたのだった。

 そして、長老ゼンスはその大きな身体を正すと、空の王への謁見の申し出の口上を、
いつにもなく神妙な面持ちで、こう述べ始めたのであった。

「崇高なる思考を持ちし偉大なる空の王。タリオス王。「聖なる騎士団」のゼンス・ショーインめが、
謹んで王に正式なる謁見の許可をお願いいたしたく、ご挨拶申し上げまする。」そこまで言うと一度、
慇懃にお辞儀をしてからゆっくりと身体を起こし、続けてこう述べたのであった。

「さてこの度、我らが「聖なる騎士団」に、大地の領土より入りし若者がおりますれば、
是非にも、空の領土の方々にもお見知りおきをいただきたく何卒、王並びに空の皆様にも
正式なる謁見をお願いいたしまする。」
そう言うとまた、深々とお辞儀をしたのであった。

そして、長老ゼンスの空の王への口上が終わると、その姿を長老ロードスは、自身の鏡を
王の城に向け、素早い光で送ったのだった。

 それからしばらくして、空の王よりの返伝が「聖なる騎士団」の元に届いた
のだった。
ロードスは自身の鏡に空の城の者からの返伝を受け取ると、それを映し出して、皆に見せたのだった。

「偉大なる「聖なる騎士団の」の長老ゼンス殿。先ほどのあなた様の申し出、しかと承りまいた。
我らが空の王のお許しが出されましたゆえ、どうぞこのまま我等が空の領土へご入領下さりませ。
それでは、お待ち申しておりまする。」と、空の王よりの謁見の許しが伝えられると、
「聖なる騎士団」の一行は、いよいよ空の領土の閉ざされた断崖へと進んでいったのだった。

 空の領土はまず、比較的温かな森に囲まれているのだが、しばらくずっとその森を進んで行くと、
その中央には天高くそびえ立つ、真っ白な雪に覆われた断崖が立ちはだかっていたのだった。

 そして、その中の広く開けた空間には、六つの浮島が連なって浮かんでいたのであった。
しかし、普段は他の者にいっさい道を固く閉ざしている断崖なのであった。そして唯一、
「聖なる騎士団」の一行がその前に立つと、固く閉ざしていた断崖は、その一角を門の様に静かに
開けていったのだった。

「ゴゴゴゴーッ。」と広く周囲に鳴り響く大きな地響きを立てながら、目の前に広い空間と
美しい浮島の姿を、そうして初めて大地の騎士、ジインに見せたのであった。

「うわあ、こんなにも天に届きそうな断崖が開くなんて。それに、こうして島が浮いているなんて・・・。
話には聞いていたけど、なんてすばらしいんだ。なんて美しいんだ。」

 ジインは感嘆の声をあげると、自分の目の前で起こった現象と島が浮いている光景と空の領土の
美しさに、心底驚いた様子で口を開けたままただ立ち尽くしていたのだった。

 するとそんな驚き佇むジインに、「さあ、参りましょう。」と、イズールが優しく促すと、ようやく我に返り、
足を動かしたジインなのであった。

 「聖なる騎士団」の一行がその中に入っていくと、彼らの後ろでまた、大きな地響きを立てながら、
高くそびえる断崖は、元の通りに閉じていったのであった。

 「カラン、カラン。」
断崖の中では、まるで氷かガラスが静かにぶつかる様な、高く涼しげな音が天上から鳴り響き、
「聖なる騎士団」の入領をこの地の者達に知らせていたのだった。

(なんて澄んだ音色なんだ。それに、大地の領土では今まで感じた事の無い静かな涼しさだな。)
ジインはそう思いながら、目にするもの、感じるものすべてに集中ししながら、一歩一歩踏みしめて
いたのだった。

 そう、目には見えないが、静寂の粒がいたるところにある様な。
何かわからぬ落ち着きのある秩序が、この空間を清浄に保つように存在していたのであった。

 こうして、空の領土の六つからなる浮島の、まず一番低い第一の島に入ると、大きくそびえる
大理石の建物が「聖なる騎士団」の一行を悠然と出迎えたのだった。そして、この建物を守る者が
姿を現すと、静かに会釈して「聖なる騎士団」の一行を建物の中に案内したのだった。

 その建物の中はそれは見事な大浴場となっており、広い湯船が乳白色の温かく豊富な湯を昼夜に
問わず、静かに湛えていたのだった。

 湯船の真ん中には、高くそびえる流線の美しい装飾を施した噴水があり、そこから疲れを癒す湯が、
豊富に溢れ出てはその広い空間を癒していた。

 そして、ほんのりといい香りのする穏やかな霧が漂いながら、一行を出迎えたのだった。
「さあ、一同よ。まずはここで我らの身を洗い清めようぞ。」とゼンスが皆に言うと、一行は
それぞれ散らばって、暖かい湯の中へと、身を沈めていったのだった。

 しかしそんな中ジインは、緑の領土出身の長老ゼンスの長いローブの中身が、以前からずっと
気になっており、彼の大きな身体が一体どうなっているのか、その正体を見られる事を、
この時密かに伺っていたのであった。

 そう、緑の領土の人々は個々それぞれが制限のない自由な身体を持っている為、
ゼンスの背中で時折うごめく何者かや、何本あるかわからない彼の手足をこの時に、
はたして見られるのではないかと、心ひそかに期待していたのであった。

 しかしそんな思いを遮るように、この大浴場には静かな靄が存在しており、意味ありげに
ほほ笑みながらジインを見るゼンスの姿を、ゆっくりと隠してしまったのであった。

「あっ、あの~、ゼンス様。」ゼンスの背中を名残惜しそうに見送るジインにゼンスが一言
。「じゃあのう、大地の若者よ。ゆっくりと今までの疲れを取るのじゃぞ。」と、靄の中からジインに
こう言いながら静かに消えていったのだった。

 こうして、ジインの幼い好奇心をなだめるように、静かであたたかな靄が、今度は優しく
ジインの身体を包み込んでいったのだった。

 ゼンスの秘密を見る事が出来ず、残念に思ったジインであったが、すぐに気持ちを切り替えて、
湯船にゆっくりと身体を預けたのだった。

「ああ~、気持ちいいな。今までの緊張が一気に癒されるようだ。」
大きく身体を伸ばし、高く開けている天上を仰ぎ見たジインが、くつろいでいると、先程まで
天井を遮るように漂っていた霧がスーッと晴れ、ジインの頭に美しく気高いドームの天上が、
その姿を現したのだった。

 その美しい滑らかな流線の波は、まるで優雅な音楽を奏でている様な曲線で形作られており、
それを目で追いながら、ジインは本当に久しぶりに心寛げる時を、素直に楽しんだのであった。

(ああ、なんて美しいんだろう。どこもかしこも美しく、なんて気高い空気が漂っているんだろう。
それに、心をこんなに穏やかに和らげてくれるなんて。本当にありがとう。)

 そう一人心の中で思っていると、今度は薄くきらめく小さな羽がゆっくりと、次々と音もなく、
天上から舞い落ちてきたのであった。

 ジインがそんな光景を驚いて見ていると、少し離れた所からイズールの声が聞こえたのだった。
「やあジイン殿。君がこの「癒しの浴室」を気に入ってくれてうれしいよ。この羽は君への感謝を
表しているものなんですよ。実体はないので、どうぞ,このままこの羽の贈り物をゆっくりと楽しんでください。」

 そう言うイズールの周りを、先程まで覆っていた靄が少し晴れると、イズールの存在を短い間、
確認する事が出来たのだった。

 大地の民とは違う肌の色。大理石を思わせるような透き通る肌はまるで、乳白色の陶器を思わせる
滑らかさ。

 大きく広げた羽がイズールの引き締まった肢体の後ろで、キラキラと水滴を含ませて光る様は、
まるで天から舞い降りた天使のようであった。

 ジインは思わず、息をのむとまぶしそうにイズールを見つめたのだった。

この浴室は身を包む暖かで豊富な湯と、自由自在に現れる心地よい靄が現れては消え、
ここを訪れる者をこうしてそれぞれに癒していたのであった。

 そして、イズールの声がやむとまた、イズールの存在をゆっくりと、静かに白い靄が
包かくしてったのだった。
 ジインは今までに見せた事のない、一人の人間としての友の姿を見送ると、また心地よい湯に
静かに身を預けたのだった。

 ジインは自身の成人の儀式以来ずっと、まるで鋭い剣の切っ先にでも立っているような、
己に強いていた緊張があった事に気付き、それがようやく今、緩やかに解けていく感覚をまた
味わっていたのだった。

 こうしてそれぞれが、この「癒しの浴室」を楽しんだのだった。




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# by maarenca | 2014-09-14 19:52 | ファンタジー小説

9月14日 アトリエショップのお知らせ



お布団が気持ちいい季節ですね。

暑くもなく、寒くもないこの季節はベッドに入る時、ついうれしくって「ふふふん♪」と
鼻歌交じりに入ってしまいます。笑


この3連休は各地でお祭りがあると思いますが、わが家の近くの八幡さまも
地元町内会のお神輿が沢山出て、楽しいひと時を創りだします。

そんな、町中が楽しいこの日に、自宅でアトリエショップを開催。


どうぞ華やいだ雰囲気の中、お散歩がてらにお気軽にお越しください。

運がよければ、ワイン、ビールにありつけるかも、、、。笑

新作バッグたちも、皆さまのお越しをお出迎えいたします~。                   by 丸子安子





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# by maarenca | 2014-09-12 19:07 | TUNAGU&TUMUGU

素敵雑貨のお店「アルヴェデパール」さんのブログ



秋めいていますね。

皆さまは先日のスーパームーンをご覧になったでしょうか?
私は久しぶりに娘たちと、たっぷり夜の散歩に繰り出し、月光浴を楽しみました。

さて、女性が大好きな「カワイイ」でできている素敵雑貨のお店「アルヴェデパール」さん。

新宿丸井本館8階と自由が丘店に「TUNAGU&TUMUGU」バッグを置かせていただいておりますが、
またまた、ブログで素敵に紹介をいただいています。

本当にありがとうございます♪♪♪

創る励みになりますね!

皆さまどうぞ、ご覧くださいませ。                                     by 丸子安子


アリヴェデパールさんのウェブ
http://www.arrivee-et-depart.com/top.htm




新宿店のブログ
http://ameblo.jp/arrivee-et-depart-blog2/entry-11922294755.html?frm_src=thumb_module



自由が丘店のブログ
http://ameblo.jp/arrivee-et-depart-blog2/entry-11922915278.html?frm_src=thumb_module



自由が丘店
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自由が丘店
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新宿丸井本館8階店
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# by maarenca | 2014-09-11 09:07 | TUNAGU&TUMUGU

THE SIX ELEMENTS STORY No26






THE SIX ELEMENTS STORY






No26





                                    著 水望月 飛翔


 それからようやく「迷いの森」を抜け、「聖なる騎士団」の一行は空の領土の一番西の端の
森にたどり着いた。
 しかし今回は、ジインの波動の乱れにより、不本意ながら「聖なる騎士団」の一行は、
闇に対して攻撃の力を使ってしまったのであった。
 その為その日一行は、「迷いの森」からあまり離れないよう、空の領土の西の端で、
一晩休息を取った。
その晩、ジインは「迷いの森」での事に興奮してか、なかなか寝付けずに、何ども寝返りばかりを
うっていたのだった。

 遥か東の空の上空を眺めると、高くそびえ立つ、美しい雪に覆われた断崖が、威厳に満ちた
冷たさを纏いながら、その姿を厳然と現していた。

 そしてその上空には、ジインの耳に初めて聞く、空の領土の美しく冷たく整った旋律が、
蒼く輝く星々から静かに、地上へ届けられていたのだった。

 ジインはその整然とした星々をじっと眺めながら、ただ疲れたその身を預けていたのであった。

「美しい。なんて美しいんだろう。まるで大地の領土の星々とは、全く違った存在を見ているようだ。」
そう小さく呟くと、しかし少し肩を上げて「だけど、この整い過ぎた均衡はなんだろう?なんだか俺には
少し場違いな感じだな。本当にこの空の領土の星達は、まるで一つ一つがロードス様のように整って
いるようだ。でもなんだか、ロードス様に監視されている感じみたいだな・・・。」と、最後は苦笑交じりに
一人ごちたのだった。

 しかし、ふとそんな事を一人思っていると、ジインのいる場所から少し離れた草むらで、何やら
人の動く気配をジインは感じ取ったのだった。

 ジインは身体をゆっくり起こし、目を細めてその気配の方をじっと見つめると、イズールと
おぼしき人物が、静かに「迷いの森」の方角へと走り去っていく姿をとらえたのだった。

 ジインは少し不思議に思い、そっと静かに立ち上がると、森へと続くその人影の後を、
気配を殺して追っていったのであった。

 そうして静かな森の中を抜けていくと、ジインの視線の先に、所々から光の反射が見え、
その光の先の方へと先程の人物が近づいて行ったのだった。

「イズール、どうしたのだ?こんな夜中に。」
光の元から声が発せられると、月明かりの差す光にロードスの顔が、照らし出されたのだった。

「ロードス様、すみませぬ。ロードス様が心配になって来てしまいました。」先程から後を着けてきた
人物は、謝るようにそう答えたのだった。

(ロードス様とイズール?いったい二人はこんな夜中に何をしているんだろう?)ジインは
夜中の時分にこっそり「迷いの森」の傍に居る二人の姿を、草むらに隠れてじっと見つめたのだった。

 先程のロードスの問いに答えたイズールに、やれやれという表情をして、長老ロードスは
イズールにこう説明したのだった。

「イズールよ。わしの事なら心配いらぬ。今日は思いに反して、「迷いの森」に攻撃の力を
使ってしまった所為で、いつまで経ってもざわついているこの闇を、ただわしの鏡の光で
なだめているだけなのだ。目には見えぬが確かに存在するこの森の住人が、ただ静かに
眠れるように、とな。」
 そう言うと、ロードスは今宵の月明かりを自身の鏡に反射して、「迷いの森」の暗闇に向かって
注いだのだった。

 それを聞いたイズールは静かに頷くと、ロードスに向かって、こう答えたのだった。
「ええ、解っております。ただ、ロードス様が夜を徹して、こうしてお一人でやってらっしゃるかと思うと、
私もまた眠れないのです。」と言ってイズールは、申し訳なさそうにほほ笑んだのだった。

 二人の話を草陰から聞いていたジインは、今日の「迷いの森」での自分の失態を思い、
そんな二人の会話に鼓動が早まりだしたのだった。

 そんな大地の若者の気配に、ロードスは半ば苦笑いをしながら、ジインの潜む草むらに向かって、
こう言ったのだった。

「「聖なる騎士団」ともあろう者が、草むらに隠れていったい何をしておるのかのう。」
ロードスのその声に、ジインはバツが悪そうにその場に立ちあがり、ゆっくりと姿を見せたのだった。

「すみません、ロードス様。イズール。盗み聞きをするつもりはなかったのですが。ロードス様、
今日の俺の失態の所為でこんな事をさせてしまって、本当に申し訳ありません。」
最後は奥歯を噛みしめるように、ジインはようやく声を絞り出して、そう言うと大きく頭を下げて、
そのままじっと下を向いたのだった。

 そんな憔悴しきった大地の若者に、ロードスは今宵の月を見上げると、ゆっくりとジインに近づき、
静かにこう言ったのだった。

「若き大地の騎士。ジイン・クイードよ。そなたはこの「聖なる神器」を出現させてから、
まだ大した時間も経っておらぬではないか。ましてや「迷いの森」に足を踏み入れたは今回が初めての事。
その様な者に対して、失態などという事が何処にあろうか。」そう言うと、ロードスは今までよりも、
優しい眼差しをジインに向けて、こう続けたのだった。

「己を責めてはならぬ、大地の若者よ。これからじゃ。これから少しずつ、力をつければよい。
ただ、それだけじゃ。」

(ただそれだけじゃ。)最後のこの言葉を噛みしめる様に、ロードスはこう言ったのだった。

 昼間の「迷いの森」での自分の行動に、あるいは責められるのではないのかと、ロードスに
対して疑念を持っていたジインであったのだったが、ロードスのこの優しい言葉を聞いて、
そんな事を思っていた自分が恥ずかしく、また申し訳なく思ったのだった。

 そんな、言葉なくただ立ち尽くすジインに向かってロードスは、「さあ、大地の若者よ。
明日はいよいよ我らが故郷、空の王の城へ向けて出発いたす。我らが空の者の誇り、
偉大なる空の王と王家の皆様に、立派に挨拶ができるであろうかのう?そなたの振舞如何では、
このわしが叱責されるやも知れぬ。どうかな?初めてなる大地の領土の騎士よ。」と、ロードスに
そう言われると、ジインは思わず固唾をのんで、姿勢を正したのだった。

 そんなジインの姿を見て、イズールは長老ロードスの方を向くと、「我らが領土の誇り、
「聖なる騎士団」を創りし偉大なる、ロードス・クレオリス様。あなた様がその様に申されては、
ジインは心配になって今宵、一睡もできなくなってしまうではありませんか?」と、少し可笑しそうに
言ったのだった。

 イズールの言葉に、ジインは頭をかきながらただ苦笑したのだった。

 そんなジインの姿を見てロードスは、「それでは、若き大地の騎士が少しは休める様に、
我らも戻るとするかのう。」と二人の若き騎士に声をかけると、皆のいる場所へと戻っていったのだった。

 明日はいよいよ空の領土へ。

大地の騎士、ジイン・クイードが初めて会う、空の領土の王の元へと。


「ああ、まだかしら。まだ「聖なる騎士団」の皆様はお着きにならないのかしら?」
そう言って、部屋の窓からそわそわと、何度も覗き込むリティシア姫なのであった。

 そんな落ち着きの無い姫の様子を見て、「これはこれは。崇高なる空の領土の姫ともあろう者が、
その様に落ち着かぬ様子を見せていてはいけませんね。我らが偉大なる父王、タリオス王が
姫のその様な姿を目にされたら、きっとお嘆きになりますよ。」と、妹姫に優しく笑いながらたしなめる、
兄のカサレス王子なのであった。

 「それに、まだ成人の儀式を迎えていない姫の石を今はまだ、あまり安易に使わない方がいいでしょう。
石はただの道具ではありませんよ。リティシア。」と、先程とはうって変わって、真剣な眼差しで
姫にこう言ったのだった。

 そう、リティシア姫は、まだ成人の儀式をしていないにも関わらず、ロードスから移してもらった
石の力を何度か使っては、ロードスの持つ鏡の気配を感じ取っていたのであった。

「ごめんなさい兄様。お父様には内緒にしていてくださいね?」兄の注意の
言葉を聞いて飛ぶように兄の足元に来ると、リティシア姫は優しい兄の顔を覗き込むようにして、
こう言ったのだった。

 そんな姫の愛らしい願いに、カサレス王子は一つため息をつくと、「君の願いを断る事が出来る者など、
いったいどこにいるのだろう?もしいたら、ぜひ一度会ってみたいものだよ。リティシア。」
そう言うと、やれやれといった表情を見せるカサレス王子なのであった。

 そして、胸の内で(あの厳格なロードス殿も、こうしてリティシア姫の願いを聞かざるを
得なかったのだろうか?)と、笑みを堪えながら、こう思ったのだった。

 そんな二人のやり取りの後、それからようやく少しすると、空の王の元に「聖なる騎士団」からの、
謁見の願いが届いたのだった。
 そして、カサレス王子とリティシア姫の元にも、「聖なる騎士団」の謁見の場に、二人とも
立ち会う様にとの知らせが入ったのだった。

「やっと来たわ。」リティシア姫は待ちくたびれたとばかりに、ア―キレイとフリュースからの知らせを、
大喜びしながら聞いたのだった。

 そんな姫の様子を微笑みながら見ていたア―キレイが、最後に一言、二人にこう告げたのだった。
「カサレス王子。リティシア姫。この度は新たに「大地の領土」から「聖なる騎士団」に入った者が
おりまする。何卒、正式なる謁見の正装でおいでくださりますよう、お支度をお願いいたしまする。」と、
深々と頭を下げてこう言ったのだった。

 カサレス王子はその言葉を聞くとすぐに、「あい、解った。すぐに「天上の織り成す光衣」を
用意させてくれ。支度をするとしよう。」と、ア―キレイに告げたのだった。

 そして二人が、うやうやしく姫の部屋から退出するのを見届けると、王子は姫の方にゆっくりと
向き直り、なるほどという顔をして、姫にこう言ったのだった。

「リティシア姫。こういう事でしたか。君はよほど大地の領土にご執心のようだね。」と言うと
姫の顔を覗き込んだのだった。

 そして、それから少し考える様子を見せるとまた、リティシア姫の方に向き直り、こう続けたのだった。

「しかし、今回はその者にとって、初めてなる正式な空の王との謁見の場となる。
そして、私達は空の領土の王族として、その者に敬意ある態度を示さねばならない。わかるね?
リティシア姫。今日の所は静かにして居る様に。」と、浮足立っているリティシア姫に、
優しく忠告をしたのだった。

 そんな兄の言葉を聞いて姫は頷くと、「解ったわ兄様。今日は空の領土の姫として、父様に
誇りに思ってもらえる様に振る舞うわ。」と、兄に返事をしたのだった。

 そんな姫にカサレス王子は、「君はいつでも我らの誇りだよ。」と、優しく言いながら姫の頬に
手を添えると、姫の部屋を出て行ったのであった。

「兄様、ありがとう。」そんな優しい兄の後ろ姿を、うれしく見送るリティシア姫なのであった。



空の領土 リティシア姫                                イラスト 佳嶋        
THE SIX ELEMENTS STORY  No26_a0073000_10521070.jpg

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# by maarenca | 2014-09-10 10:59 | ファンタジー小説