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THE SIX ELEMENTS STORY No38







THE SIX ELEMENTS STORY





No38




                                     著 水望月 飛翔


 一方その頃、第二の島でローラインの事を心配していた母と人々は、カサレス王子の
従者アーキレイから、ローラインの無事を聞くと、ホッと安堵の色を浮かべたのだった。

 そして王の城では、先ほどからの異変を何事かと感じていた城の者たちが、中庭に舞い降りてきた二人を、
興味深そうに待ち受けていたのだった。

「カサレス王子、いったいこれは何が起こったというのでしょうか?」
先程まで、第二の島から天に昇っていった光の出現と、今目の前でカサレス王子に抱きかかえられている、
みすぼらしい脚と翼を持つ小さな身体の少女の姿に、王の執政官は皆目見当がつかないという面持ちで、
王子の返事を待ったのだった。

 カサレス王子は、ほほ笑みながら城の者達を見回すと、「やあ、皆様。彼女がこの空の領土始まって
以来の勇者ですよ。ほら、先程まで続いていた天への光。あれは、彼女が天上界に上っていった証し。
私はその勇者を今、この城にお連れしたのです。」  

 そう言いながら一同を見回した後、ローラインの方を覗き込んだカサレス王子。
しかしそんなカサレス王子に対して、ローラインは身を固くして、無言で王子にしがみついたのだった。

 城の者たちの前で委縮するローラインに、カサレス王子はどうしたのかとテレパシーで聞くと、ローラインは、
少し怒ったように王子にこう答えたのだった。

(カサレス王子・・。こんな大勢の人の前で、そんな風に言わないで。私・・・、王の城に来たのも初めてだし、
こんな大勢のお城の人達に、こんな風に見られるのも初めてだから。どうしていいかわからないわ。)
テレパシーでそう言うと、また王子の腕の中に身を隠す様に、小さな身体をもっと小さくしたのだった。

 そんな、今まで王子が見た事が無い、緊張しているローラインの姿にカサレス王子は、すまなそうに
こう答えたのだった。

(ローライン、ごめんね。僕は君が誇らしくて・・、ついみんなに君を見せびらかす様な事をしてしまったね。)
そうローラインにテレパシーで言うと、先ほど王子に質問した城の執政官に向かって、こう言ったのだった。

「申し訳ありません。ランダス執政官殿。彼女は先程天界から落ちたショックで、まだ皆様と話せる状態では
ありませぬ。すぐに私の部屋で休ませたいのですが・・・。」と言いながら一同を見回すと、周りに詰めかけて
いた者達は無言で一斉に頭を下げると、一歩ずつ下がり王子に道を開けたのだった。

 そんな一同に対し、カサレス王子はゆっくりと会釈をすると、そのままローラインを抱いて、王子の部屋へと
向かったのだった。

 繊細な装飾に彩られ、金蓮花色の美しい夕日に照らされている王の城。
しかし、今朝からのめまぐるしく現れた状況に疲れたのか、ローラインは先ほどからずっと、周りの景色も目に
入らずに、ただ王子の胸にしがみついていたのであった。

 またカサレス王子は、そんな心細そうな、雛鳥みたいにしがみついているローラインを愛おしく思い、
これからずっと、自分が彼女を守っていけたらと、心の中で思うのだった。

 それからしばらくして、カサレス王子の部屋に着くと、そのまま王子のベッドへローラインを降ろそうと思い、
カサレス王子はローラインの方に顔を向けたのだった。

「ローライン、着いたよ。」声をかけるカサレス王子。しかし、ローラインの返事はなく、王子は不思議に思い
彼女の顔をのぞいたのだったが、ローラインは今日の疲れが出たのであろう、王子の腕の中でいつの間か、
静かな眠りについていたのだった。

 カサレス王子は一人そっとほほ笑むと、そのまま静かにローラインをベッドに降ろし、薄布をかけると
ベッドの端に腰を降ろして、ローラインの静かな寝息を聞いていたのだった。

(ローライン。どう見ても君の姿はまるでまだ、10歳にも満たない子供にしか見えないというのに・・・。
そんな小さな身体でどうしたら、天界を味方につける様な事ができたのだろう?)

 カサレス王子は、ぼんやりとローラインの小さな身体を見つめながら、そう一人思ったのだった。
そうしてしばし、静かな時が流れ、ゆっくりと静寂の蒼が空の城を包み、夜の訪れを促す祈りの音が、
天空の星々が静かに奏でられていったのだった。

 しばらくすると、カサレス王子の元に、王からの使いの者が来た。
その従者は、すぐ王の部屋に来るようにとの、王の伝言を王子に伝えに来たのだった。カサレス王子は、
一度ローラインの方を振り向くと、まだ深い眠りについているローラインの姿を見届けて、また従者の方に
向き直り、すぐ王の元に行くと伝える様に言ったのだった。

 それから、カサレス王子は静かにローラインの元に近づき、少し乱れた前髪をかき分けるように撫でると、
そっと小さな声で、「少し行ってくるね。」と、眠りについているローラインに囁いたのだった。

 カサレス王子が王の部屋に入ると、先ほど中庭にいた王の第一執政官である、ランダス・カランダム執政官
も王と共に、王子の到着をじっと待っていたのだった。

「お待たせいたしました。」そう二人に王子が言うと、王は王子の顔を見て、ゆっくりとこう聞いたのだった。

「カサレス王子よ。先ほどそなたが抱いていた少女の事だが、あの者はそなたの知っておる者なのか?」
そう王が聞くとカサレス王子は、姿勢をただし王にこう言ったのだった。「はい父上。あの少女は・・・。」
と一瞬口ごもると、王を真っ直ぐに見ながら、続けてこう言ったのだった。

「父上。覚えておいででしょうか?私が幼少のみぎり、いつも私の傍についてくれていた
キュリアス・グリュスターを・・・。彼女は、ローラインはキュリアスの妹なのです。
そして今日、彼女は自身の成人の儀式で、天上界に上り、「天上のよろこび」を右手に宿したのです。」
そう言うとカサレス王子は、王の返事を静かに待ったのだった。

 王とランダス執政官は、カサレス王子の口からキュリアスの名を聞いて、少し驚いたのだった。
そして、なぜキュリアスの妹を王子が知っているのかを、王子に聞いたのだった。

 カサレス王子はその問いになんと答えていいのか、少し困ったのだったが、少しずつ今までのいきさつを、
王とランダス執政官に話したのだった。

 一通り王子の話を聞き終えると王は、ゆっくりとカサレス王子に近づくとこう言ったのだった。

「つまり・・・、カサレス王子よ。そなたはたびたびこの城をぬけ出して、第二の島まで降りていき、その少女と
会っていた。という事であろうか・・・?そして、先ほどその第二の島に住む者を、勝手にこの城に運んできたと
いう事なのだな?」そう言うとタリオス王は、少し険しい顔でランダス執政官と顔を見合わせたのだった。

 カサレス王子は、ローラインの事をあまり歓迎していないような二人の気配を感じ、居心地悪そうに
その場に立っていたのだった。

 しかし、王子はそんな二人にこう言ったのだった。
「はい父上。勝手な振る舞い申し訳ありませぬ。しかし、ローラインは、自身の成人の儀式で、天上界に
上った者。その様な事は未だかつて、どの領土でも成しえた者などはおりませぬ。その様な者が天上から
落ちてきたところを助けたのですから、この城に連れてくることは、至極当たり前の事だと思いますが。」
そう言うと、王子は押し黙ったのだった。

 普段は大人しいカサレス王子が、王に対して意見を言う姿を初めて見たランダス執政官は内心驚いて、
王に代わって王子にこう言ったのだった。

「カサレス王子。そのような・・・。王は王子を責めておられるのではありませぬ。しかし、この空の領土の
王子としてのお立場をお考えいただければ、その様に頻繁に勝手に城を抜け出されたり、ごく一部の者と
だけ個人的に親しくされては、この空の領土の秩序にかかわる事。次を担いし王子の振舞としては、
もう少しご配慮いただきませぬと。」と、王子に苦言を呈したのだった。

 ランダス執政官の苦言を隣で聞いていた王は、短いため息をついたのだった。
そしてカサレス王子は、このランダス執政官の的を得ている言葉に、なすすべもなくただ押し黙ったのだった。

 そんな硬い空気が漂う中、王はカサレス王子にこう聞いたのだった。
「さて、王子よ。かの者は今どうしておる?」重い沈黙を破り、王が王子にこう聞く、カサレス王子は
王の問に対し、「はい父上。ローラインは、疲れと緊張のため、今は私の部屋で休んでおりまする。」と、
そう答えたのだった。

 そんな王子の答えに、タリオス王は少し考えた後、王子に向かってこう告げたのだった。
「カサレス王子よ。今宵のテーブルにその者も連れて来るがよい。少し、聞きたいこともあるのでな。」
そう短く告げると、そのままカサレス王子を部屋に下げさせたのだった。
                            
 そうしてカサレス王子は、王の部屋を出ると、今宵の父王とローラインの面会の事を思い、少し案じたのだった。

 しかし、王子の部屋に置き去りにしてきたローラインの事が気になり、急いで王子の部屋に戻ったのだった。

「ローライン・・・?」部屋のドアを開けて王子はそっと、ローラインの名前を呼んだのだったが、それと同時に
「きゃあ~、待って~。」という大きな声が王子の小さな呼びかけの声をかき消したのだった。

 カサレス王子は一瞬、部屋を間違えたのかと思ったのだったが、もう一度ゆっくりと部屋の中を見渡すと、
そこは間違いなく王子の部屋だったのだった。

 それから王子は、何やら楽しそうな声のする王子のベッドの方にゆっくりと近づいて行くと、ベッドの上では、
目を覚ましたロ-ラインとリティシア姫が楽しそうに二人で、じゃれ合う姿がそこにあったのだった。

 そして、ローラインとリティシア姫は、カサレス王子に気がつくと、「お帰りなさい。王子。」「お帰りなさい。
にいちゃま。」と同時に声をかけたのだった。

 それから二人は顔を見合わせると、先ほどからのおもちゃの掴み合いにまた興じたのだった。

 カサレス王子はそんな二人の楽しそうな姿を見て、少しあきれる様に(やれやれ・・・。
ローライン、これではまるでリティシアと同じくらいの小さな子供ではないか。)と、心の中で思っていると、
ローラインはカサレス王子の心を読み取って、すかさず王子に向かって、「あら、カサレス王子。
わたし子供じゃなくてよ。天上界までいった勇者なんですからね。」と言うと、肩を軽く上げて、
明るく王子に笑顔をむけたのだった。

 また、そんなローラインの言葉にリティシア姫は「ゆーしゃ。ゆーしゃ。」と意味も解らず楽しそうに声を
あげたのだった。

 そんな楽しそうな二人にカサレス王子は、穏やかな寛いだ表情を見せると、「楽しそうだね。
僕も混ぜてくれないかい?」と言って、二人の間に入っていったのだった。

 「きゃあ~。」そんなカサレス王子に、ローラインとリティシア姫は声をあげると、今度は三人で
大騒ぎをしたのだった。

 そうして楽しくひとしきり遊んだあと、三人が少し休んで居ると、リティシア姫を迎えに従者が来たのだった。

リティシア姫は、まだ遊び足りなさそうに、少し物足りない様な顔をしたのだったが、従者の顔を見ると
大人しく戻ろうと、従者に手を伸ばしたのだった。

それから従者に抱かれ、姫の部屋に戻ろうとしたリティシア姫は、最後にくるっとローラインの方を振り返り、
「またあとでね。ねえちゃま。」と言うと手を振りながら、王子の部屋を後にしたのだった。




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by maarenca | 2014-10-22 13:22 | ファンタジー小説