Blog|maarenca - マーレンカ

<   2014年 07月 ( 11 )   > この月の画像一覧

THE SIX ELEMENTS STORY No14






THE SIX ELEMENTS STORY





No14


                                            
                                           著 水望月 飛翔




 そうして、二人が馬車に近づき、見た光景とは。

ゼンスが馬車を降りた後、ユランの導きに応え、身体を呈して闇の攻撃から馬車を守っていた
聖龍なのであったが、そんな姿を想像できぬほど、今はゆったりと寛ぎながら身体を投げ出して、
力を失った闇の最後の残骸を口にくわえ、飲み込んでいる龍の姿がそこにあったのだった。

「なんともはや・・・。」そんな龍の姿に絶句するゼンス。
彼らのいる場所はまだ「迷いの森」の中。
 この信じられない光景に、言葉を失い苦笑しながら馬車に乗り込んだゼンスを、
ユランは今では落ち着いた表情の王妃の寝顔に、ゆったりと「癒しの詩」を歌いながら
穏やかに出迎えたのだった。

 ユランは馬車に戻ったゼンスの無事な姿と、前よりも力強い印象になった精霊の姿を見て、
うれしそうに微笑み、ゼンスにこう言ったのであった。

「やあ、ゼンス殿。あなたもご無事でしたか。一時はどうなる事かと思いましたが。
あなたがいなくなった後、闇の力がどんどん増して、持ちこたえられるかどうかと不安に思いましたが。
しかし先ほど、突然沢山の強い光が森の奥から急に現れて、一気に闇を貫いたのです。
そのおかげで、闇の力が怯みましてな。それと同時に光を浴びた龍の力が回復して、ほらこの通り、
救われたという訳です。」

ユランは楽しそうに微笑みながら、外に寝転ぶ龍を指さして、こう言ったのだった。
 そう言いながらユランは、ゼンスの傍らにいる精霊を横目で見ると、ゼンスにこう付け加えたのだった。
「しかし、ゼンス殿。以前よりも増して、立派になられた様子の精霊殿ですが。もしやこちらの精霊殿が、
お力をお貸しくだされたのではありませぬかな?」
 そう言うと、穏やかにほほ笑みながら、ゼンスの方を見たのであった。そんなユランの言葉にゼンスは、
突然大事なことを思い出したかの様に、大仰にこう言ったのであった。

「おお、そうじゃそうじゃ。こちらの精霊殿がご自身のお力をたいそう発揮されてのう。実はこのわしも、
命を救われたのじゃった。」
 そうゼンスが言うと、二人で「回復の手」を持つ精霊をじっと見つめたのだった。
ゼンスの傍らに佇む「回復の手」を持つ精霊に、意味ありげに視線を送りながら、二人の勿体つけた
大仰な言葉に、精霊は困って自身の身を隠そうと、あたふたとしたのだった。

 そんな精霊の姿に、ゼンスもユランも可笑しさをこらえきれず、フッと噴き出したのだった。
が、しかし、そこは「聖なる騎士団」と呼ばれし者。
少し笑った後に二人は目を合わせると、今度はゆっくりと姿勢をただし、その場に跪くと、
ユランが丁重に精霊に向かってこう言ったのであった。

「「回復の手」を持つ精霊よ。そなたが自身の力を発揮されたおかげで、我々は皆、救われ申した。
そなたの真の力のなんと素晴らしき事。ここに感謝をいたしまする。」そう言いながら、
深々と頭を下げたユランの姿に、少し戸惑いを見せたものの、「聖なる騎士団」からの言葉を受け、
この精霊の心の中で、確かに何かが芽生えたのであった。

 それから精霊は、今は静かに眠りについている王妃の顔を覗き込むと、ホッとした表情を浮かべ、
再び静かに「回復の手」を王妃に向けたのであった。
 その姿をみて、ユランはのど元のアクアマリンに話しかけ、「カーンサークの泉」からもらった水を
戻すため、空気を吸い込むように自身の石に戻したのだった。すると、龍の姿はゆっくりと消えると、
元の竪琴の姿に戻っていったのだった。
 そうして一行は、炎の洞窟に向かって動き出したのであった。

「迷いの森」の闇の力はまだ完全に消えた訳ではない。
しかし、彼らの周りを漂ってはいるものの、今は大した力を向けては来ないのであった。

 そんな中再び、炎の領土に向けて進む一行の馬車。
それからようやく、燃えるような赤い色を帯びた、活発な星々に彩られた空が遠くに、
少しずつ見られるところまで、一行を乗せた馬車は進んだのであった。

 そう、それは炎の領土の空。
ひとつひとつが躍動感に満ち溢れた星々は、常に燃えるような生命力を湛えた赤い色と、
生命の喜びを表す黄色で彩られ、跳ねる様に動くさまは、常にじっとしていられない炎の民達の、
気質そのままを表していたのだった。

 そして、時折おこる民達のたわいのない衝突も、そのまま星の運航に現れ、幾度となく星々が
ぶつかり合い、砕けたその破片がこの炎の領土に振り落ちる事も、また、歪んだ音が炎の空を覆うことも、
そう珍しいことではなったのであった。

 しかし、各地を巡る「聖なる騎士団」のゼンスとユランにとっては、この不協和音に満ちた
騒々しい空を見ることは、そんなにいやな事では無かったのだった。そんな落ち着きの無い星々を目にして、
ゼンスがこう口を開いたのだ。

「おお、いつにも増して、また今宵は一段と騒々しい空を見る事になりそうじゃのう。
しかしのう、ユラン殿。わしはこの秩序の無い、不格好な騒々しい空が割合好きなのじゃ。
まあ、雑多という点では我が故郷の「緑の領土」も大して変わらぬからのう。」

 そう言うと、ふっふっふっと楽しそうに身体を揺らしながら笑うゼンスに、
ユランは「いやいや、ゼンス殿。そなたの故郷「緑の領土」とこの「炎の領土」とでは、
その雑多の意味があまりにも違いまする。この両者を同じようにされては。」と言うと、
少し間を置いてから、ゼンスに向かってこう言ったのだった。

「しかし、実を申せばこの私も、このような空でもあまり嫌いではないのですよ。
ある方角から見れば、ただ騒々しくて調和がとれていないやもしれませぬが、
また違う方角から見れば、こんなにも躍動感に満ち溢れ、生命のエネルギーが輝いて見える。
これは、我が領土「水の領土」にはない、何やら楽しい感覚でもありましてな。」ここまで言うと、
一つ間を置いてから、また続けてこう言ったのだった。

「しかし、こんな事は、「空の領土」ロードス殿の前では迂闊に言えませぬな。」
と、ユランは何やら意味ありげに、ゼンスの方に視線を送ると、二人は目を合わせて、
そのまま短い含み笑いをしたのだった。

 そう、緑、水、大地の領土からは、あまり「炎の領土」の空をしっかりと把握することは
難しかったのであったが、翼を持ち、また高いところに住む空の領土の民達からは、
この隣接する騒々しい、炎の領土の空が手に取るように見え、空の領土に比べて、
いつも不格好に瞬いている炎の領土の星々を目にしては、密かに眉をひそめているのであった。

 そして、この不協和音の気配が少しでも、空の領土に近づいてこようものなら、
すぐさま冷たい冷気を起こし、炎の領土へと追い返していたのだった。

 だからだろうか。
たまに炎の領土に似つかわしくない、冷たい風が吹くのは。

そんなことを二人が話していると、それから程なくして、三人を乗せた馬車は、
炎の領土に入っていったのだった。
 すると、他の者の進入を知らせるかの様に、星達がガチャガチャと音を鳴らし始め、
威嚇するかの様に赤黒く変化したり、奇妙な文様を作っては彼らの馬車に迫ってきたのだった。

 ゼンスはそんな空を見上げながら、「ほう、これはこれは。今宵の歓迎はまたいつにも増して、
にぎやかなものじゃのう。」と、可笑しそうに言ったのだった。
「やれやれ、今からこれでは先が思いやられますな。」と、ユランは半ばあきれながら、
フッとため息を漏らしたのだった。

 そう、未だ「聖なる騎士団」の中に「大地の領土」出身のものはおらず、故に大地の領土の者が
この炎の領土に足を踏み入れたのは、これが初めての事なのであった。

 そして馬車に乗る大地の王妃の、今までに感じた事のない未知なる気配に対し、
きっと星達も何かを感じたのであろう。
 ざわめく空の知らせにより、炎の民達も、やがてあちらこちらから姿を現し、大地の王妃を
乗せた馬車を、不思議そうに迎えたのであった。

 そんな異変が伝わったのであろうか、次第に、ある者は握り拳を振り上げる様に威嚇して、
またある者は大きな奇声をあげながら、彼らの馬車に近づいてきたのだった。 

いつもは「聖なる騎士団」を、温かく迎え入れる炎の民達ではあったのだったが、
大地の王妃の見知らぬ気配の為か、それとも「謎の物体」の残した、不吉な気配を感じたためであろうか、
星々と同様に落ち着きなく、ざわめく群衆の間をぬって、炎の王の城へと進む馬車であったのだった。
 
 炎の領土・・・。
そこはずっと、長きにわたり続いている、火山地帯からなる領土で、その中心部の一番高い山からは、
常に溶岩が流れ出ており、赤々とうねるように動き、営々とその移動を続けていたのであった。
 その、何者をも近づけぬ溶岩の流れは、徐々に冷めてくると少しずつその色を
赤から黒色へと変化をしはじめ、やがて次第にその動きも遅くなると、後から続く溶岩に押されては、
歪んだその溶岩の裂け目から、また赤々と燃える溶岩が新たに生まれる。

 そうして、その繰り返しの先には、次々に海へと落ちていくのだった。
赤と黒の塊が繰り返し永久にうごめくこの光景。
こうして、この領土の下で、その流れを止めない溶岩の動きが常に感じられるからだろうか、
炎の民達は、真に心落ち着くということを、生まれてから死ぬまで、経験することが無かったのやもしれぬ。

 炎の城の下には、この領土の中でも一際熱い溶岩が活発に動いており、常に凄まじいエネルギーが、
その活動を続けていたのだった。

 そして、その溶岩の爆発的な力を長きにわたり、抑えているのが、歴代の炎の王達なのであった。
歴代の王達は、王の城の地下で踊り狂う溶岩の動きを、常に封じなければならず、その為、
城外へは一切出る事をせず、自身の意識を常に地下の溶岩へ集中し、封じていたのであった。


a0073000_1236377.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-07-30 12:21 | ファンタジー小説

8月3日 アトリエセール開催


目黒区の自宅で、アトリエセールをします。


実はこの夏、これで3回目。
毎回、好評なのでこの週末も開催決定!

TUNAGU&TUMUGUバッグがアッシュ・ペー・フランス「ライチ」の、新宿ルミネ、池袋、立川、大阪店に登場!

これを記念して、TUNAGU&TUMUGUバッグもアトリエ価格になっています。

もちろん、マーレンカ商品も50%off~70%offのモノが勢ぞろい。

どうぞ、お気軽にお立ち寄りください。

最寄駅:東急目黒線の西小山駅、または洗足駅から徒歩10分。






a0073000_12575728.jpg


a0073000_1365043.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-07-29 13:07 | TUNAGU&TUMUGU

THE SIX ELEMENTS STORY No13





THE SIX ELEMENTS STORY



No13


                                          
                                          著 水望月 飛翔



さて、炎の領土にある、「タンカークの洞窟」に送られた大地の王妃は、その後いったいどのように
なったのであろうか。

「聖なる騎士団」のゼンスとユランに伴われ、遠く炎の洞窟へとたどり着いた王妃であったが、 
そこまでくる道中は、弱り切った王妃の身体には、とても堪えた旅でもあった。
 顔や身体の多くを炎で焼かれた王妃。その体内の大部分も、謎の物体の侵入により、
多くを焼き尽くされた瀕死の状態なのであった。

 しかし王妃は、大地の王と王子や民達に心配を掛けまいと、何としてもこの大地の領土の中では、
自分が倒れるわけにはいかないと、気丈に最後の気力を振り絞り、炎の領土への道を進めたのだった。

 それでも、乱れる呼吸と時折大きく揺れる馬車の振動に、たびたび、苦痛の表情を登らせる王妃。
そんな懸命な王妃の姿にゼンスとユランは、心を痛めながら、ゼンスは「生命の息吹をもたらす杖」を振り、
森の精霊を集めると薬草を探させ、王妃の傷口に乗せ手当をさせたり、「回復の手を持つ」精霊を呼び出し、
つきっきりで王妃の看病に当たらせたのだった。

 そしてユランは、少しでも王妃の苦痛を和らげようと、「聖なる龍の鱗からなる竪琴」をつま弾きながら、
炎の領土に着くまでの間ずっと、「癒しの詩」を歌い続けたのだった。

 しかし、炎の領土に入る前には、そこに「迷いの森」の存在が、やはり大きく立ちはだかっていた。

 三人を乗せて歩を進めていた馬車であったが、少しずつ暗くなってくる闇の陰鬱な重い空気に、
息苦しいような圧迫感を覚え、時折、「ヒューン、ヒューン。」と見えない何ものかの気配が馬車に近づくと、
その気配が通り過ぎるたびに、馬車を少しずつ凍らせていったのであった。
 そして時折、この世の声ではないような、耳をつんざく悲鳴も加わり、馬車に激しくぶつかってきては、
次第に大きく馬車を揺さぶったのだった。
 一行を乗せた馬車がいよいよ「迷いの森」の深部に来た時、馬車の周りを覆う暗闇が一段と
その黒さを表すと、それまで王妃の看護にあたっていた精霊たちが、馬車の外から次々と押し寄せてくる、
闇の恐怖に恐れをなし、一人また一人と、ゼンスの杖の中に逃げ帰っていったのだった。

 そして、とうとう「回復の手」を持つ精霊までもが、己の務めを忘れ、ゼンスの杖の中に隠れて
しまったのであった。
 精霊の「回復の手」の力がなくなると、王妃の苦痛は一層強まった。
そして、外から迫りくる恐怖と自身の大きな身体の痛みが王妃を貫き、いよいよ王妃の精神は、
「迷いの森」の力により、王妃の身体から引き離れそうになったのだった。

 それを見たゼンスは意を決すると、一人馬車の外に出た。
そして、自身の杖を大きく振りながら「迷いの森」の闇に直接話かけたのだった。
「迷いの森の真なる闇よ。今こそ、我が声を聴け。そなた達はいかなる者であろうや?
そなた達の真なる姿をいま、我の元に現したまえ。」
 そう言いながら、大きく杖を振りかざし、闇の深部に入っていくゼンス。
ゼンスは、少しでも「光のかけら」が残っていないか、探し始めたのであった。

一方、増々激しく馬車が揺さぶられ始めると、一人王妃の元に残っていたユランは、
自身ののど元に宿るアクアマリンに話しかけ、己の意識をアクアマリンから通り抜けさせると、
遥かなる水の領土「カーンサークの泉」の元へと辿り着いたのだった。

 そして、この清き泉の精霊から「聖なる水」をすこし貰うと、のど元のアクアマリンから
また自身の意識とその「聖なる水」を出現させたのだった。
 そして自身の竪琴に飾られている龍の鱗にその水を降り注ぐと、こう言ったのだった。
「我が竪琴の元に眠りし、聖なる龍よ。今こそ己の真の姿を現し、我の元にその姿を現したまえ。」
自身の竪琴に語り掛けるユラン。
 すると、「聖なる水」を吸った龍の鱗が、見る見るうちに龍本体の身体を形成し始めて、
「水の領土」の美しい七色の湖の色を持つ、聖なる龍の姿を出現させたのであった。

 そしてユランの元に出現した龍は、そのまま馬車の周りを自身の身体で守るように覆いつくし、
王妃の魂を闇の力に渡さぬ様、王妃を守ったのであった。
 
 間断なく、激しく馬車に向かって疾風が吹き荒れた。
龍のうろこに突き刺す痛み。
四方八方から攻撃を仕掛けてくる闇に対し、龍は相手を一瞬にして凍らせる程の、冷たい冷気を口から
勢いよく吐いては、姿の見えぬ闇の攻撃に必死に耐えていたのであった。
 馬車の中では、そんな龍の力を持続させるため、一心不乱に力を込めて、呪文を唱え続けるユラン。
王妃は、ユランの「癒しの詩」が無くなった間、必死に恐怖と全身の痛みに耐えたのだった。

 一方、闇の深部に入っていったゼンスもまた、目には見えない攻撃の手が自身に降り注ぐ中、
さらに隠された闇の深部へ迫ろうとしていたのであった。
 肌を刺すするどい疾風。
一足進むごとに、闇の攻撃は増していった。
 先ほどから、ゼンスに襲いかかってきた勢いのある大きな疾風が、次第にその姿を鋭利な形に
変え始め、少しずつゼンスの身体を、ナイフがすり抜けていく様に傷つけていったのであった。
それと同時に先程からゼンスの足元にまとわりついていた闇が、次第にじわじわとゼンスの身体の動きを
静かに止めていったのだった。

 そしてとうとう、ゼンスがもはや一歩も動けぬようになると、一気に闇の力がうねりをあげて、
冷たい泥がゼンスに覆いかぶさって来たのであった。
 埋もれていくゼンス。
身体全部をその冷たい泥が埋め尽くし、動きを止められると、ゼンスの意識は遠のいていったのだった。

 しかし、遠のく意識の中でゼンスは最後の気力を振り絞った。
「ここで終わるわけにはいかぬのだ。わしは、闇を闇のままで終わらせるわけには、いかぬのだ。」
この最後の強い思いに全身全霊をかけて、自身に言い聞かせる様にゼンスが言うと、それまで
怖がってゼンスの杖の中に隠れていた「回復の手」を持つ精霊が、自ら姿を現したのだった。

 そして、そのゼンスの強い思いに呼応して、自身の「回復の手」の力を一気に、
ゼンスの持つ杖に向かって解放したのだった。
 すると、ゼンスの杖から勢いよく溢れだした光。
一瞬にしてゼンスを覆っていた固い泥を粉砕し、闇の中を勢いよく貫いた。

 それまでずっと長い間、この「迷いの森」に光など射した事はなかった。
この重くのしかかっていた暗闇を、まるで浄化するかの様に光の束が、神々しい程の輝きで、
どこまでも遠く、解き放ったのであった。

 その光の一筋に、当たったものが一つ。
それは、弱々しいが確かに闇の中に残っていた「光のかけら」なのであった。
ゼンスはゆっくりと重い身体を起こすと、自身の額に宿るエメラルドに話しかけ、
その頼りない儚げな「光のかけら」を出迎えるよう、道しるべとなる光を放出させたのだった。

 そしてゼンスの額から進み出た、真っ直ぐに伸びるエメラルドの光に出迎えられると、最初は
少し怯えた様に震えていた「光のかけら」であったのだったが、恐る恐るその光の上に自ら乗ったのだった。

 ゼンスの元へと優しく導びくエメラルドの光。
ゼンスは、自身の手にそっと「光のかけら」を乗せると、優しく話しかけたのだった。

「闇の中に残りし「光のかけら」よ。よう、我が元に来てくれたのう。さあ怖がらずともよい。
そなたの思いをこのわしに話してはくれぬか?」
 慈愛に満ちた、深く温かなビロードのようなゼンスの声に、「光のかけら」は、
最初はただ小刻みに震えながら黙っていたのであったが、しばらくしてから、
ゆっくりと小さい声で話し始めたのだった。

「・・・・さびしいの。悲しくて。でも、本当の闇にはなりたくない。助けて・・。」
最後はほとんど消え入るような小さな声で。

 しかし、ゼンスの手の温かな温もりにホッとしたのか、「光のかけら」の震えは次第に止まり、
その後はまるで雪が溶けてなくなるように、スーッと消えてしまったのだった。

「ありがとう。」そうゼンスの耳に小さく残して。

 ゼンスは消え入る小さな「光のかけら」を見送ると、静かに目を閉じて、自分に言い聞かせる様に
ひとり思った。

「やはり、闇は初めから闇として生まれたわけではない。この星に存在している闇をすべて、
元の光の姿に戻してやらねば。それと同時に、生まれた闇の原因を突き止めて、なんとしてもこれ以上、
新しい闇を生ませぬ様にせねばならぬ。」
そうゼンス心に決めたのであった。

 それからゼンスは、少し離れた所に佇む「回復の手」を持つ精霊の方に目をやると、
優しいまなざしでほほ笑み、精霊にこう言ったのであった。

「「回復の手」を持つ聖霊よ。そなたが我が杖に戻りし時は、どうしてくれようかと思ったのじゃが、
よう我が意志に答え、また戻ってくれたの。そなたのおかげで、わしは命拾いをした。
そなたの勇気に深く感謝をいたす。」
そう言うと、ゼンスは精霊に向かって深々と、頭を下げたのだった。
「回復の手」を持つ精霊は、最初に逃げ出した自分を恥ずかしく思う気持ちと、ゼンスに褒められて、
なにかくすぐったい様な気持ちとがないまぜになり、どうしていいのか落ち着かない様子で、
ふわふわと宙を浮いていたのだった。

 そんな精霊にゼンスは優しく手を伸ばし、自身の手に乗せると、そっと精霊に向かって、
「さあ、まだ闇の力が完全に消えたわけではない。急いで馬車に戻るとしよう。」と言うと、
二人で急ぎ馬車に戻っていったのだった。







a0073000_12394935.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-07-26 17:57 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No12



"THE SIX ELEMENTS STORY



No12




                                      著 水望月 飛翔



 一方、王妃と共に自室に戻った姫は、少しの間ではあったが、不在にしていた自身の部屋を眺めると、
戻って来られた安堵感と懐かしさに、ひとり浸ったのだった。
 そう姫の部屋には、幾重にも重ねられた薄絹と、ふわりと漂う細いゴールドの細工と、
色取りどりにきらめくガラス細工が、この愛らしい姫の部屋を、ずっと守っていたのであった。

(ただいま、みんな。私のいない間、この部屋の留守をしてくれてありがとう。)
姫は懐かしそうにそれらのものたちに、テレパシーで話しかけたのだった。

 そして、姫からの感謝の言葉に、部屋に輝くそれらのもの達は、静かにキラキラと輝いて見せたのだった。
しかし、オレンジ色に輝くガラスのきらめきを見ると姫は、大地の王子の瞳の色がよみがえり、
次の瞬間、寂しそうなユーリス王子の横顔を思い出して、自分でも気づかない間に、
両の目からまた次々と、悲しみの涙が溢れだしてきたのであった。

「どうしたのです?姫。」王妃に心配そうに聞かれた姫は、優しく自分を見つめる王妃の顔を見ると、
ひとり心に思ったのだった。

(ああ、私には私をこんなにも心配してくれる母様や父様がいる。そして、私を守ってくれる兄様も。
それなのに、あんなに優しいユーリス王子にはもう、お母様は傍におられないのだわ。)
 心配そうに自身を見つめる母の顔を見て、心の中でそう呟いた姫は、今すぐユーリス王子の傍に行き、
少しでも王子の悲しみを和らげてあげたいと、また新たな涙を流すのであった。

 ただ幼く、明るく無邪気な表情しか浮かべなかった、今までの姫とは明らかに違う変化に、
静かに何かを感じる王妃。
 しかし王妃は、今は何も言わずに、ただ優しく姫をベッドへ促し、二人腰を
降ろすと、王妃は静かに「やすらぎの詩」を姫に歌って聞かせたのだった。
姫はそんな母の胸に頭をもたれながら、少しずつ、穏やかな夢の世界へと入っていったのであった。

 空の領土に姫が無事に戻ったことを知った民達は、一人また一人と、家の外に出て、
静かに天上の音が響き、星々が輝く夜空に向かって、「感謝の詩」を歌ったのだった。

空の民達は、様々な想いを歌に込める民。

 多くの者の歌声が夜空に響き始めると、ずっと姫のいない間、悲しみの色を湛えていた星達は、
少しずつ生気を取り戻し始め、次第に美しい色の変化を見せていったのだった。
 そうして、少しずつ「喜びの音」を空の領土に降り注ぐと、王の城へも祝福を届けたのだった。 
星々達からの祝福を受けた空の王は、星々に感謝をしめすと、少し何やら考え、
それから自身の首元に宿るサファイアの力を呼び覚まし、「やすらぎの詩」を天上に向かって
歌い始めたのだった。

 それは、王の詩を聞きし者の心を、忽ちにして癒す力を持つその歌声を、遥か彼方、
大地の領土へ届けようと、試みたのであった。

 そう、他の領土に向かって、「やすらぎの詩」を届けようとした事など、未だかつて無かった事。
はたして、途中にある謎の闇が支配する「迷いの森」の上空を抜け、無事に大地の領土へ届くのか?

 大地の領土へ向けて歌う王の詩の波動が広がると、カサレス王子や王妃をはじめ、
次々に気づいた空の民達は、王の意志を感じ取り、王の詩を無事に大地の領土へ届けようと、
王の詩の下に自身の歌声で支えをするかの様に、次から次へと現れる波の姿となって、
遥か彼方、大地の領土を目指し進んでいったのであった。
 
 その頃、深い眠りについていたリティシア姫は、城の外から伝わってくる今までに無い
祈りの籠った強い波動と、小刻みに震える空の城の異変を感じとり、眠りから目覚めたのだった。

 そして、ゆっくりと姫は身体を起こし、姫の上にかけられていた薄布をどけると、ふんわりと
空中を漂うように窓の方へ行き、姫の部屋のガラス戸をそっと、開けたのだった。  
そうしてリティシア姫は、空の城を取り巻く風と天空に瞬く星々に、これはいったいどうしたのかと、
静かに尋ねたのだった。

 すると、空の領土を流れる風と星々は、そうした姫の問いかけに、空の王が大地の領土に向かって
「やすらぎの詩」を歌い、その波動に呼応するように王子や王妃も加わると、空の民達も協力をして、
王の詩が無事に届くよう歌の波を形づくっているのだと、姫に教えたのだった。

 それを聞いた姫は嬉しそうに、「ああ、父さま。母さま、兄さま、空のみんなも。ありがとう。
本当にありがとう。」と、心の中で呟くと、姫もすぐに「やすらぎの詩」を歌い始めたのだった。
 すると、姫の小さな澄んだ歌声は、そのまま小さな鳥の姿となって、人々が作る波の上に現れると、
彼らの波の力で運ばれるように、大地の領土へと向かっていったのであった。

「どうか届きますように。大地の領土、ユーリス王子の元に、この「やすらぎの詩」が無事に届きますように。」
 
 空の民達が歌う「やすらぎの詩」とはなにか?
空の領土の者達は皆、人と物との区別をあまり設けず、常にこの世界にある全てのものに、
敬意を払う気持ちを持っている種族であり、いつしか万物に対して、安らぎを届けられるようにと、
祈りを込めた詩「やすらぎの詩」が誕生したのであった。

 そうして、現在の空の王はその「やすらぎの詩」をもっと大きな波動で、もっと多くのものに届けたいという
志を持って、成人の儀式に己の首元にサファイアを埋め、空の領土の玉座に着いた後は、
王の「大いなるやすらぎの力」を持って、この領土を平和に収めていったのであった。

 そんな力強い王の歌声が作り出した、大きな波の上に乗って、姫の歌声から生まれた小さな鳥は、
天上の光に照らし出された、美しい星々で埋め尽くされた空の領土をずっと、優雅に滑るように
渡っていったのだった。

 しかし、ずっと空の領土の端まで来ると、あんなに守るように輝いていた星達の姿がぐんと減り、
かなり心細さを増してきたのであった。
 そうして、いよいよ何もない暗闇が支配の色を強めだし、やがて最後の星の輝きを超えると、
そこから先の、「迷いの森」の上空に入っていったのだった。

 一見何もないような暗い空間に、姿は見えぬが何やら犇めく不穏な気配。
そのうねりを帯びた闇の気配が、息苦しさを感じるその空間。
 先程まで、あんなにすべらかな波に押し出される様に進んできた「やすらぎの詩」であったのだったが、
やがて「迷いの森」の上空に差し掛かると途端に、何者か見えない力によって、波の形が崩れだし、
少しずつ勢いの力が削がれてきたのであった。

 今まで均一だった、心地よい波のリズムが不規則に崩れだすと、小鳥の姿の姫の歌声も、
ともすると支えてくれている王の波から滑り落ちそうになり、何度も「迷いの森」の闇の中へ
吸い込まれそうになったのだった。

 そして時折吹く突風に、身体を激しく揺さぶられたのだったが、そんな時には、王の力強い歌声に
支えられ、ようやくもう少しで、この「迷いの森」を抜ける所まで来たのだった。

 そしてそこへ、大地の領土にある星達が、空の領土からの贈り物の気配を感じとると、
その方角へと出迎えるために、風を従えて向かおうとした矢先であった。
 まるで、最後の攻撃でもあるかのような突風が、迷いの森の暗闇から、姫の歌声の小鳥に向かって
、一気に襲いかかってきたのだった。

 しかしそこへ、姫の小鳥を守るように、王の最後の歌声が盾となり、その突風を遮った。
それと同時に最後の瞬間、強い衝撃に耐えきれず、小さな羽が舞い散るように突き崩されて、
王の盾はそのまま四方八方へと飛び散りながら、消滅してしまったのであった。
 その衝撃に飛ばされた小鳥の元に、大地の星々を運んできた柔らかな風が近づいて、
姫の歌声をそっと受け止めると、そのまま優しく包みながら、大地の城へと運んだのだった。
 
 ここは大地の領土の空。

大地の領土の星々は、穏やかな均衡を保ち、大地の人々を見守るような、温かさを持った音を
ゆったりと奏で、静かに揺らいでいた。
 そこへ、その星々の間を優雅に舞うように、小鳥を抱いた風が通り抜け、大地の王の城に着くと、
そのまま王子の部屋に向かい、そっとユーリス王子の部屋の窓を叩いたのであった。

 その夜も、いつもの様に寝付けずにいた王子は、一人ベッドの上で何度も寝返りを打っていたのだった。
夜が進むにつれ、頭の芯は逆に冴えてきて、繰り返し母の面影が、王子の脳裏に現れては
消えていくのであった。

 最初は穏やかに優しくほほ笑む、母の美しく温かな姿が王子の前に現れるのであったが、
その姿は次第に炎に包まれ、茫然と立ち尽くす母の姿にとって代わり、最後には、冷たい夜の冷気だけが
見送る馬車に乗せられ、無言でこの城を後にする、悲しい王妃の姿で終わるのであった。

「やめて、そんな姿を僕に見せないで。」
何に対して言っているのであろうか、王子の脳裏に映し出される母のさびしい姿を打ち消そうと、
その夜も、必死にもがいていたユーリス王子なのであった。

「トントン。」
そこへ何やら窓を叩く気配に気づき、王子は不思議そうに窓に近づいていくと、窓が静かに開き、
温かく穏やかな風が、王子を包み込んだのであった。

その風の気流の中で、リティシア姫の歌声で形作られた小鳥が、王子の周り
を飛び回り、鈴の様な清らかで愛らしい歌声が、王子の頭上に降り注がれた。
その心地よい歌声に、王子は全身を預け佇んでいたのだったが、やがてその歌声が
最期を迎えると同時に、淡い小鳥の姿も「パッ。」と一瞬で霧散したのだった。

その後に残ったのは、いつもの王子の部屋。

 突然の出来事に、最初は少し戸惑った王子であったが、自身の心に残る感覚の中に、
小鳥の姿のほかにもう一つ、実際にあったことはない、本来の空の姫としてのリティシア姫の姿を、
確かに知覚したのであった。

「さっきの小鳥の姿、あれは。それにあの姫はいったい、誰?」
しばらくの間、その場に佇む王子であったが、しかし、王子の心の中には明らかに、
確かな安らぎが、はっきりと残っていたのだった。

(僕は守られている。)
そう温かな安心感に包まれた王子なのであった。

「もうこれからは、ただ嘆き悲しむだけの時を過ごすのはやめよう。僕自身の手で、父上とこの大地の皆を
励まし、元気づけていこう。そして、一刻も早く大人になって、必ず母上をお迎えに行くんだ。」
そう王子は心に決めたのであった。

 それからの王子は、王や大地の民達の前では積極的に明るく振舞い、皆を安心させようと、
沈んだ表情を皆の前では一切見せずに、毎日を過ごしたのであった。
 ただ時折ふと遠く、炎の領土の方角へ視線を向けると王子は、母が少しでも元気でいられる様にと、
その場に跪き、一人深く祈りを捧げるのであった。

 そして、馬術やあらゆる勉強を意欲的にこなし、少しでも時間が空くと、まだ先の自身の
「成人の儀式」の事を考えるのであった。

「母上を一刻も早く、この大地の領土に連れ帰り、また、今後一切こんなことが起こらないように
する為には、いったいどんな事を石に望み、どんな場所へ宿せばいいのだろう。」
王子は何度も何度もその様に考えたのであった。







a0073000_11214019.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-07-23 13:27 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No11

THE SIX ELEMENTS STORY


No11




                                             著 水望月 飛翔

 

王は静かに、王妃に姫を部屋で休ませるように言うと、王妃はそっと優しく肩を抱きながら、
姫を部屋へと連れて行ったのだった。
 そんな二人の後ろ姿を見送ると、空の王はロードスにこれまでのいきさつを説明するよう促した。
 ロードスは静かに語りだした。
ロードスが綿々と話す大地の王妃に起こった悲しい出来事は、その場にいた空の王や
カサレス王子をはじめ、城の者達に大きな衝撃を与えたのだった。
 ロードスがすべてを話終えるまで、皆一様に押し黙り、時には無言で首を横に振り
、時には深いため息をつき、皆、我がことの様に真剣に聞き入り、大地の王妃と残された
大地の人々の事を思ったのだった。

「そうか。大地の領土でその様な事が起こっていようとは。」
長い沈黙を破って王は、遥か彼方の大地の領土の方角を見つめ、しばらく何かを考えていたのだった。
 しかし、ゆっくりと向きを変え、カサレス王子の方を見ると、静かだが強い口調でこう言ったのであった。

「カサレス・クレドール王子よ、よいか。今後二度と、姫の姿を他のものに変えるような事をしてはならぬ。
今回の出来事が少しでも、もっと悪い方へ進んでいたら、一体どうなっていた事か。
よいな、そなたの力を安易に他の者に使ってはならぬ。私の次に、この空の領土を守る者ならば、
更なる自制と規律を自身に課さなければなるまいぞ。」静かだが、冷たく言い放つ王。
 
その断固たる強い口調を受けて、カサレス王子は深々と頭を下げると、静かにこう言ったのだった。
「はい、父上。この度の短慮なる我が振る舞い、誠に申し訳ありませぬ。以後はこのような事にならぬ様、
自身をもっと自制いたします。」
 カサレス王子は神妙な面持ちで、王に誓って言ったのであった。
その王子の姿に、唇をかみ心配そうに見守る二人の従者。

 すぐ傍で聞いていたロードスは、リティシア姫と大地の王妃に起こった事のカギを自身が
握っているであろう事と、今回の出来事でまた、カサレス王子が王に冷たく責められている事に対し、
心を痛めたのだった。
 そして全てをこの場で、王に事の次第を打ち明けようと思ったのだった。
しかし、すぐに「聖なる騎士団」長老ゼンスに、きつく言われたことを思い出し、一人押し黙ったのであった。

「よいか。空の聖なる騎士、ロードス・クレオリスよ。全てをそなたの所為だと思ってはならぬ。
あれは不可抗力だったのじゃ。まだあの森の謎がわからぬ今、この事を他の者に一切話してはならぬ。
今、少しでも己の所為だと言えば、ただ周りの者に混乱を与えるだけじゃ。これ以上苦しむ者が増えぬ様、
今は我らの胸に閉まっておくのじゃ。よいな。」
 ゼンスは時折、姿の見えぬ精霊と何やら話をしながら、今まで見せた事のない強いまなざしで、
ロードスにそう言い聞かせたのだった。
 そしてその傍らで、ユランも静かに頷き、この二人の強い視線にロードスは、
ようよう、頷いて見せたのであった。

 そんな二人とのやり取りから、自身のいる空の城へと意識を戻したロードスは、
空の王に向かって静かにこう言ったのだった。

「偉大なる父なる空の王、タリオス王。どうか何卒、カサレス王子を責めないでくだされ。
王子の完全なる変身の力があったればこそ、姫も大地の方々に怪しまれもせず、
こうして無事に戻ってこられたのです。
そして、空の王家の皆様をお守りする事が、このわたくしの聖なる役目。
以後も誓って、我が全身全霊を賭けて、皆様をお守りいたします故、何卒。」
ロードスは床に跪き、深々と頭を垂れて、空の王に誓ったのであった。

 そんなロードスの真摯なる願いを聞いて、空の王は神妙な面持ちでこう言った。
「我らが空の領土の誇り、「聖なる騎士団」のロードス・クレオリスよ。そなたの忠誠、深く感謝する。」
王がそう言うと、続いてカサレス王子も「深き智徳の崇高なる賢者、ロードス・クレオリス殿。
あなた様のお言葉、私の胸に深く染み入りました。私もあなた様に少しでも近づけるよう、
もっと自身を向上させまする。」と、ロードスに言ったのだった。

 王と王子に敬意の言葉を掛けられて、ロードスはこれから自身の生涯を賭けて、
「迷いの森」の謎を解き、二度とこのような悲しい出来事が起こらぬ様にと、心ひそかに誓ったのだった。

 一人城の中庭に出たカサレス王子は、おぼろげな昼の月を見上げていた。
「カサレス王子、どうかご自身を責めないでくだされ。」
王子の後を追ってきたロードスが、テレパシーで王子に語りかけてきた。
振り向く王子。
 ロードスの苦悩を感じとったカサレス王子は、穏やかにほほ笑むとテレパシーでこう返した。
「我らが空の誇り、ロードス殿。貴方様もまた、リティシアの持っている運命の重さを
感じとられたのではありませぬか?そしてまた、ご自身もその役目の一端を背負おうと。」

 自分の心の内を見透かしたカサレス王子の言葉に、ロードスはドキリとした。
(この王子の思慮深さには本当に驚かされる。まだ成人の儀式を経てから何年も経っていないというに。
王子のその瞳には、一体どれだけ永きにわたる未来が見えているのであろうか?)
ロードスは胸の内でそう思うと、じっとカサレス王子の瞳を見つめたのだった。

「慈悲深きカサレス王子。あなた様の瞳には一体どのような未来が見えているのでしょうや?」
ロードスはそういいながら、そっと「天上の光宿す鏡」で王子の姿をとらえたのだった。

「ロードス殿。あなた様のその鏡には、いったい私はどの様な姿で映っている事でしょう?
私には一切解りませぬが、しかし、私もあなた様と同様に、リティシアの未来を守りたいと思っているのです。」 
そう言うと、静かにほほ笑んだのだった。

 ロードスは、王子の言葉に観念して、「そうでしたか、カサレス王子。貴方様も何かを感じ取って
おられるのですね。私の年老いた瞳にはおぼろげにしか写りませぬが、姫は何かの使命を
背負われているご様子。私は少しでも、姫の使命の手助けをしたいと思っております。
しかし、とうのご本人はご自身の使命が何なのか、全く気づいてはおられぬ様子。
傍から見れば、姫の願いは無鉄砲に映るやもしれませぬが、今は姫がその使命に導かれますよう、
姫のされたいようにさせてあげたい。と思うておりまする。」
ロードスはそう言うと、深々と頭を下げたのだった。

 カサレス王子はうなづくと、「だからこそ、あなた様はご自身で負のお役目を背負おうとされているのでしょう。」
そう言ってほほ笑んだのだった。
そして、真剣なまなざしで「私もその為には、喜んでこの身を捧げましょう。」
とカサレス王子はロードスに告げたのだった。

 ロードスが去った後、カサレス王子の元に二人の従者が近付いてきた。
この二人はカサレス王子の両翼を守る者。

 右に控えるアーキレイ・カーライルは、アマラントレッドの由来を持つゴールドの輝きを放つ
長い髪をなびかせて、彼の頭上には「変わらぬ誠実」を現す植物のモチーフで作られた装飾が
添えられており、彼の右肩に収めた石の力は「均衡を守りし力」なのであった。
 
その対極の左に控えるフリュース・リュードは、アドリアティックブルーの由来を持つシルバーの
輝きを放つ長い髪を束ね、その頭上には「秘めたる熱情」を現す植物のモチーフの装飾を置き、
彼の左肩に収めし石の力は「何ものをも超えし者」なのであった。

 空の領土の民は、「成人の儀式」を終えた後、自身のこれからの道を指し示す言葉を決め、
その言葉の由来の植物をかたどった装飾を、その額に飾るのであった。

 カサレス王子の装飾は「深き信頼」である。
王子の身である彼にとっては、少し地味でもある装飾なのであるが、カサレス王子は、
何があっても空の民への忠誠と信頼を、一番に持ってきたいと願ったのだった。

 そんな控え目に、民に尽くそうとする王子に対し、タリオス王の装飾は「空翔ける誇り」の
堂々たる装飾であった。
 タリオス王の、空の領土の民を自身が引きあげていこうとする意志と対極にある、
カサレス王子の民と共にいたいという優しさは、王にとっては物足りなく映っていたのだった。

 そんな王に対しカサレス王子は、自身の周りに誰も置かず、一人自身の思うところを成し遂げようと、
孤独を選んだ時期もあったのだったが、そんな王子に対し、この二人の従者は自ら志願して、
王子の傍に就いたのだ。

「カサレス王子、ロードス殿といったい何を話されていたのです?」
フリュースはまっすぐに王子を見つめ、聞いてきたのだった。

 フリュースの熱きまなざしを受け止めると、王子は柔らかくフリュースにほほ笑んだ。
「フリュース。君の私への信頼は、常に私の進むべき力となる。いつも私の事を思ってくれてうれしいよ。
ありがとう。」と言うと、フリュースの隣に立つア―キレイにも礼を送ったのだった。
 カサレス王子の言葉にフリュースに代わってア―キレイが
「カサレス王子。わたくしはこうして、フリュース殿と共に王子のお側でお仕え出来ることこそが、
わたくしの喜びなのです。王子が目指すべき世界を、わたくし達はまだ見る事は出来ませぬが、
この先何があっても王子の元につき従いまする。」そう言うと、深く頭を下げるア―キレイなのであった。

ア―キレイを優しく見つめるカサレス王子。
フリュースは、「カサレス王子。わたくしにはよく解りませぬが、リティシア姫の今回の願いは、
ただの思い付きではなかったのでしょう?我らの住む世界はこれから大きく変わるのでしょうか?」
と、少し不安げに聞いたのだった。

 カサレス王子は少し間を置くと、先ほどまでの優しい表情から、真剣なまなざしに変って、
二人に話し始めたのだった。

「フリュース。ア―キレイ。私と同じようにロードス殿もリティシア姫の天からの信託を感じておられるようだ。
それが何なのかは私もロードス殿も解ってはおらぬ。しかし、ロードス殿もまた、姫の信託と未来を守ろうと
自身を捧げる覚悟を持っておられる。」
 そう言うと、一呼吸おいて、二人を優しく見つめたのだった。

「これからなにが起こるか分からぬが、これからも二人の助けが必要となろう。
いいや、他にも私に付く者達に、いばらの道を歩ませる事になるやも知れぬ。
安らかな道を示す事が出来ず申し訳ない。」そう言うカサレス王子にフリュースは、
「王子、我らはいついかなる時も王子と共におりまする。それこそが我らの幸せである事を、
どうか忘れないでください。」と、熱く語ったのだった。




a0073000_1119494.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-07-19 13:20 | ファンタジー小説

大山のパン屋さん「メルン」オーダータペストリー






TUNAGU&TUMUGUでは、バッグやストールだけではなく、お客様提案のオーダーを受けています。
今回は、板橋区大山にあります美味しいパン屋さん「メルン」さんから頂いたオーダーで
タペストリーとミニ飾りを創りました。

タペストリーは大判で、縦84cmx横72cmの大きさ。
土台布は、麻100%生地を使用。
窓に飾るために、上部裏側には、棒が通せるように布を付けています。
はじめての大作に、ワクワク!

アヴェ・マリアやバッハを聞きながら、創りました。

また、この一週間はパレスチナのガザ地区への攻撃のニュースや犠牲になった子どもたちの写真を
多く目にし、鎮魂と平和への祈りも、このタペストリーに込めさせていただきました。

そして、できあがったタペストリーを目にし、「天国への扉」という題名が浮かび上がったのです。

厳しい事実を目にしても、一人ひとりが希望を捨てず、皆が笑顔になる未来を創造していきたい。

「挫折」の反対は「希望」だそうです。

きっと、私たちの平和を願う一挙一投足が、社会を創っていくはず。

日々を丁寧に、遠い子どもたちに祈りを込めて。

さて、もう一つのミニ飾りはとってもメルヘンな作品になりました。
このオレンジの壁掛け飾りは、もともと「メルン」さんのレジ奥に飾ってある木の飾りにのせたい!という
ご提案で作ったものです。 
木の飾りの輪郭に沿って創ったので、少し変形していますが、大きさは縦横20cmほど。

私は出来上がりを見て、、ミトンやティーポット保温カバーなどもいいな!なんて想像を」膨らませています。

                                                           
                                                           丸子安子


http://merun.web.fc2.com/



本体価格35,000円  税込み価格37,800円
a0073000_16401598.jpg




本体価格4,500円  税込み価格4,860円
a0073000_16403636.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-07-18 17:01 | TUNAGU&TUMUGU

THE SIX ELEMENTS STORY No10

いよいよ、私の大好きな王子が登場します。
これから展開する、空の領土の民の美しき心を一緒に楽しんでください。



THE SIX ELEMENTS STORY


No10



                                         著 水望月 飛翔


 どこまでも青く、気高い空へ。
それは、周りを白い雪で覆われ、高くそびえる断崖に守られた、他の者を拒むその空間。
閉ざされた、空の領土へと向かって。

 しかしその前に、越えなければならない不安定な空。
そう、暗く歪んだ「迷いの森」の上空を、姫を連れてロードスは、無事に越えなければならなかったのであった。
 ロードスは一瞬、不安に思った。
 「聖なる騎士団」を結成してからは、他の二人に考慮して、ロードスは自身の翼で「迷いの森」の
上空を飛んで横断する事がなかったからだ。
 また、「迷いの森」を横断する事は、「迷いの森」の解明の時でもあり、「聖なる騎士団」の
三人はただ無事に通り抜ける事よりも、この森の根源を少しでも探ろうとして、いたのだった。

 近づく者を闇へと引きずり込む「迷いの森」
永い間、その森に近づくものはいなかったのだったが、「聖なる騎士団」が結成されてからは唯一、
それぞれの騎士が持つ「聖なる神器」の力の庇護のもと、ようやく彼らがその森を
通り抜けられるようになったのであった。

 しかし、例え「聖なる神器」の力を借りることが出来たとしても、一瞬でも気を赦す事など
出来ない程の、計り知れない闇の力がこの「迷いの森」には、確かに存在していたのだった。

 鳥の姿の空の姫を抱えながら、空を飛んでいたロードスは、「迷いの森」の上空に差し掛かると、
突然襲い掛かる突風と、気流の落ち着きの無さを感じ取っていた。

「やはり、「迷いの森」の上空はどうしても気流が乱れるな。今回はまた殊更、得も言われぬ闇の
気配を感じるのだが、これは細心の注意をはらわねば、姫を安定した飛行でお運びする事ができぬ。
一層、気を引き締めていかねば。」と、ロードスは自身の翼の動きを慎重に操り、
「迷いの森」の上空を飛んで行ったのだった。

 しかし時折、得体の知れない何者かが、足を引っ張るかのように重く陰気な空気が、
ロードスの足元に絡みついてきたのだった。
 その都度、ロードスは方向感覚までもが狂わされ、目標を見失うのだったが、
そのたびに、彼の右眼のサファイアに話しかけ、彼の持つ「天上の光を宿す鏡」から、
天からの正しい方向を指し示してもらうのだった。
 そうして長い時間、慎重に空の領土に向けて飛行を続けたロードス。
その間、空の姫はずっとロードスの腕にくるまれながら、「迷いの森」から立ち上ってくる、
得も言われぬ恐怖に、小さく身を固めていたのだった。

 やがて、遠くの雲の切れ端から、ようやく黄金の光に輝く雲が、少しずつその姿を現すと、
ロードスは一つ息を吐き、空の姫にこう告げたのだった。
「姫、もうすぐ空の領土に入ります。もうしばらくのご辛抱を。」
ロードスがそう言うと、空の姫は今までにない程の明るい声で「キューン」と一鳴きしたのだった。

 そうして、次第に近づいてくる、晴れやかな神々しい黄金の雲の切れ間から、
柔らかな明るい光が降り注ぎ、美しい天上の音楽が鳴り響くその領域に、二人は入っていったのだった。
黄金に輝く雲達は、二人が近づいてくると、そっと門を開ける様に開き、空の領土へ続く道を促すと、
二人が通った後にはまた、他の侵入者をまるで防ぐかのように、静かにそっと
折り重なり閉じていったのであった。

 優しい柔らかな雲たちの間を抜け、しばらく飛んでいると、まだ遠くの向こうの方から、
二人を出迎える人影が少しずつ近づいてくるのが見えたのだった。
 しばらくして、その人影が二人に近づくと、満面の笑みを湛えた人物が、待ち遠しそうに、
一番に口を切ったのだった。

「リティシア、無事だったか。」一番先に近づいてきた、白くたくましい翼を持つ若者が、
晴れやかな顔でそう言うと、ロードスからすぐに鳥を受け取り、大事そうにそっと両手で抱きあげたのだった。
 鳥の姿の姫が「キューン」と、うれしそうに鳴いた瞬間、その若者は自身のサファイアが宿る
左手をその鳥にかざし、呪文を唱えたのであった。

「我が左手のサファイアよ。我の命に応えよ。汝の役目は終わった。かの者を元の姿に戻したまえ。」
左手のサファイアから、あふれるばかりの光が放出されると、鳥の身体を包み込み、
姫を元の姿に戻したのだった。
 ようやく鳥の姿から本来の姿である、空の姫に戻ったリティシア姫。
リティシア姫は、自身の翼や手足を思い切り伸ばすと、晴れ晴れとした表情で、「兄様。」
と叫びながら、若者に飛びついたのだった。

 
 そう、彼こそが次の空の王を継ぎし者。カサレス・クレドール王子なのであった。
明るく美しい黄金の長い巻き毛が肩で揺らぎ、彼の頭上には黄金の植物で縁取られた
繊細で控え目な細工の髪飾りが、彼の心の美しさを祝福するかのように輝いていた。
 カサレス王子の深い慈愛に満ちた、サファイアブルーの瞳と穏やかなほほ笑みは、
一瞬にして全ての心をつかみ、彼の翼の白く美しく真っ直ぐに伸びたさまは、
また空の領土きっての心の美しさを表していた。

 カサレス王子の石の力は「あらゆるものを変える力」である。
そう、カサレス王子が望めば、あらゆるものを変える力を宿していたのだった。
 そして、妹のリティシア姫のたっての願いで、カサレス王子は姫を鳥の姿に変え、
二人で空を飛んでいるところに、「迷いの森」からの突然大きな突風に、
小さな鳥の姿のリティシア姫だけが一人、大地の領土まで吹き飛ばされてしまったのだった。

 カサレス王子とリティシア姫の二人は、しばらくの間、互いの無事を喜び、
今まで会えなかった、しばしの空白期間を埋めるかのように、お互いを慈しみ深く眺めたのだった。
そして、心配していたよりも、元気そうなリティシア姫の顔を見て、カサレス王子はほっとした様子で
一息つくと、姫に向かってこう言ったのだった。

「リティシア姫、元気そうでよかった。怪我をしたと聞いたが、大丈夫だったかい?
私が姫を鳥の姿に変えたばかりに、こんな危ない目にあわせてしまった。本当に申し訳ない。」
カサレス王子は、先程まで見せていた笑顔から、少し心配そうな面持ちで、
リティシア姫に語り掛けたのだった。

 しかし姫は、そんな兄の姿に首を横に振ると、強くこう言ったのであった。
「兄様、謝らないで。私が、鳥の姿で飛びたいって、無理にお願いしたのだから。
でも、すぐにロードス様に助けてもらって、今はとっても元気よ。
それにね、大地の領土のユーリス王子にずっと看病してもらったの。ねえ兄様。
大地の人達は私にとっても優しくしてくれたのよ。あの人達には翼はないの。
肌の色も髪の色も、瞳の色だって全然私達とちがっているの。ねえ、兄様は大地の人達と
会ったことがあって?」姫は久しぶりに兄の顔を見て、ようやく空の言葉を話せるようになったからか、
次から次へと兄に話しかけたのだった。    

 急に矢継ぎ早に話し出したリティシア姫の姿に、ロードスも王子も、王子に着いてきた二人の従者も、
一同に顔を見合わせると、一斉に噴き出し互いの顔を見たのであった。
 そして、ひとしきり皆が笑った後、「さあ、リティシア。空の城へ戻ろう。」
とカサレス王子は姫を促すと、姫の手を優しく取ったのだった。
 そんな彼らを暖かな優しい風が包み込み、一同は穏やかに語らいながら、空の城へと
向かっていったのだった。

 空の領土は6つの浮島からなる領土で、空の王の城は下から5番目の島に、
高くそびえ立っていたのであった。白く美しく輝く大理石で形作られた三棟の塔で構成され、
中央の塔へと延びる幾重にも重ねられた流麗な装飾が、空の王の偉功を表していた。
 天空の光に輝く空の城は、まるで天界から祝福を受けるがごとく、光り輝いていたのだった。
そんな王の城の中庭に着くと、一同はそのまま王の広間へと入っていったのだった。

「姫よ。元気であったか?どこか具合の悪いところはないか?」
空の王は心配そうにリティシアを覗き込むと、しっかりと両手で姫の肩を抱いたのだった。
「リティシア姫。あなたがどうしているかと、本当にずっと心配していたのですよ。」
続いてそう言いながら、母である王妃にそっと深く抱きしめられると、ほっとしたのか、
姫の目から涙が溢れてきたのであった。

 常に空の領土の事を思い守ってきた父と、その父を支え、いつも王子と姫を優しく見守る母の心に触れ、
姫はようやく、自分が周りに起こした心配の大きさに気づいたのであった。
「お父様、お母様、心配させてごめんなさい。」

 姫はそう言うと、続けてこう言ったのだった。「でも、もう私は大丈夫です。それに、鳥の姿の私を、
大地の領土の王子がずっと優しく看病してくれたの。お父様、お母様。私は大地の方達に本当に
優しくしていただいたのです。でも、ちょうど同じ頃に、大地の王妃様にとても悲しいことが起きて。
お父様、どうかお願いです。お父様の「やすらぎの詩」を大地の領土に届けてくださいませんか?
私の事をずっと看病してくれたユーリス王子は、きっと、こうしている間も,一人で悲しんでおられるのだわ。」
 姫は一気にそう言うと、大地の城での事を思い出し、今もなお一人で悲しんでいるであろう、
ユーリス王子の姿を思い浮かべると、その美しいサファイアの瞳にまた、多くの悲しみの涙を浮かべたのであった。

「姫?」王をはじめ、王妃やカサレス王子、城の者達も皆、そんな姫の姿を見て、心配そうに姫を見つめたのだった。



a0073000_11225096.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-07-16 12:26 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No9




THE SIX ELEMENTS STORY


No9



                                        著 水望月 飛翔



 ロードスは「迷いの森」での出来事から、ユーリス王子の部屋にいる自身に意識を戻した。
ロードスの顔を、心配そうに覗き込むユーリス王子。
 しかしこのままずっと、王子の問いかけに黙っているわけにもいかず、ロードスは王子の前に跪くと、
ようやく重い口を開いたのだった。

 「豊かなる大地の領土に生を受けし、ユーリス・マレンスタイン王子。あなた様はまだ幼きながら、
しかし、大地の王の元に生まれしお方。あなた様は、しかとこの事を胸に留め置かれ、
これから私が話すことをどうか、冷静にお聞きくださいませ。」
 王子の目をしっかりと見つめると、ロードスは初めから、王妃の身に起こった出来事を、
王子にゆっくりと話し始めたのだった。

 そして、王妃を支配し傷つけた謎の物体の最後と、王妃が受けた傷の深さを話し、
もう二度とこの大地の領土に、王妃が戻ってくることはない事を、この幼き王子に伝えたのだった。

 ユーリス王子は、ロードスの話を聞いている間、母を思って泣き叫びたい衝動を懸命に抑え、
心の震えを必死に押し殺そうと、唇を噛み全身に力を入れた。
 しかしその思いとは裏腹に、次第にとめどなく溢れてくる涙に呼応するように、
全身がわなわなと震えだす事を、止められずにいたのであった。

 悲しみの震えを懸命に打ち消そうと、必死に試みる王子の姿を見て、ロードスはゆっくり立ち上がると、
王子を静かにそして力強く抱きしめた。
 しばしの間、ただ王子の口から洩れる小さな嗚咽だけが、王子の部屋に静かに漂っていた。
その光景を、じっと心配そうに見つめる小さな目。

 そう、ベッドの上のこの鳥は、この時の光景を、これからずっと抱き続けるのであった。
そうして少しずつ、自分を取り戻していった王子は、しばらくの間その鳥を自身の部屋で看病したのだった。

 それからの数日、昼間の王子はこの見知らぬ客のおかげで、はたから見ると、
母の事を前向きに捉えているかの様に、元気そうな姿を見せていたのだった。
 しかし、この鳥の目からは、笑ったかと思った王子の瞳に、すぐ上る翳りの色を、
何度も何度も、見つけることが出来たのだった。
 そんな時、その鳥は「キューン」と一声鳴いて、王子の肩にとまると、そっと王子の頬に頭を
寄せるのであった。

 そうした鳥の姿に王子は、「僕の心がわかるんだね。君がいてくれてよかった。ありがとう。
君の事は僕がちゃんと治すからね。」と、語り掛けるのだった。
 そんな二人の姿をロードスは、離れた所からそっと見守り、二人に解らぬ様、
自身の鏡から天上の「癒しの光」を注ぐのであった。

「お二人の未来が、どうか栄光の光に彩られますように。」
ロードスはこの時、この二人の未来がその後、交錯しようとは露にも思わなかったのであった。

 それから少しして、鳥の傷もだいぶ治り、とうとう鳥を空の領土に連れ帰る日が、やってきたのだった。
王子はとても寂しそうに肩をすくめると、まるで自分に言い聞かせる様に、こう言った。

「よかったね。これで君の家に帰れるんだよね。君の家族が待っているんだよね。」
と、鳥の背を撫でながら必死に涙をこらえ、笑顔を作ってロードスの方を振り返るのであった。
 ロードスはそんな王子の問いかけに答えた。「そうですとも、ユーリス王子。王子のおかげで
この鳥の傷もすっかり良くなりました。本当に素晴らしいお働きぶりでしたな。」
と、王子にほほ笑むのだった。
 そんなロードスの言葉に王子は、誇らしげに、しかし少し寂しそうにうなずいたのだった。

 最後にロードスは、大地の王に謁見した。
ロードスは王の前に出ると一礼をし、王にこう言ったのだった。
「雄大なる慈愛の大地の王。この度は、ユーリス王子の懸命なる看病のおかげで、この鳥の傷も、
本当に早い回復を見せました。この度の寛大なるご配慮、誠にありがとうございます。」
と、うやうやしく礼を述べ深く頭を下げたのだった。

 しかし大地の王は、ずっと大地の王妃を心配してか、大分やつれた顔を向けると、
寂しげにロードスにこう言ったのだった。
 「いや、その鳥のおかげでユーリス王子も少しは気が晴れたであろう。
そなた達が居なくなるとまたさびしくなるが、それも致し方あるまい。」
そう言うと、一つため息をついたのだった。

 そして王は、もう一度まっすぐにロードスを見つめると「「聖なる騎士団」のロードス・クレオリスよ。
どうか、どうか王妃の事はよろしく頼む。」と、言ったのだった。
 王の言葉を聞いてロードスは、一つ深く息を吸うと、こう答えたのだった。
「穏やかなる大地を収めし偉大なる王よ。どうか、ご心配なさらずに。
我々「聖なる騎士団」が、この命に賭けて、大地の王妃様をお守りいたします故。」
と言うとロードスは床に深く跪き、大地の王に誓って言ったのだった。
 
そうして、ロードスは鳥を肩に乗せると、空の領土へと向かっていったのだった・・・。

「聖なる騎士団」のロードス・クレオリスは、しばらくの間ずっと無言のうちに大地の領土を歩いた。
 彼の周りに吹く風の優しさも感じようとはせず、木々の囁きに耳を傾けることもせず、
ただロードスは、少しでも早く大地の領土を通り抜けたい一心で、ずっと無言で歩いていたのだった。

 ようやく大地の領土の東の森のはずれまで来ると、ロードスは肩に乗せていた鳥をゆっくりと、
木漏れ日の差す切り株の上に下ろすと、天上の光を鏡に反射させ、その鳥の身体の上に
光を注いだのだった。
 すると、先程まで鏡に映っていた鳥の姿が一変して、純白の美しい翼を持つ、空の姫の姿が
映し出されたのだった。

 年のころは大地の王子、ユーリス王子と同じ位であろうか。
金髪に光る長く美しく伸びた髪の毛が風に揺れ、ホワイトゴールドで紡がれた繊細な花の髪飾りが、
姫の愛らしい顔を縁取り、ライラックの様な薄紫のグラデーションの薄衣を身に纏って、
恥じらい佇む姫の姿がそこにあったのだった。

 ロードスは、鏡に映しだされた姫の姿に、ホッと安堵した表情を浮かべると、
うやうやしく一礼をして、鏡の中の姫にこう言ったのだった。

「我らが空の誇り、美しき天空の花、リティシア・クレドール姫。よう、これまで辛抱なされました。
して、翼の具合はいかがでございましょうや?」
 ロードスが姫にこう語りかけると、鏡の中の姫もゆっくりとロードスに一礼して、こう答えたのだった。
「我らが空の誇り「聖なる騎士団」のロードス・クレオリス様。よくぞ鳥の姿のわたくしを理解し、
助けてくださいました。あなた様がわたくしの傍に居て下さったおかげで、わたくしは、
どんなに心強かった事でしょう。翼の痛みも大分とれました。本当に心から感謝いたします。ありがとう。」
 この空の愛らしい姫の心からの礼にロードスは、しかし内心、心の痛みを伴って聞いていたのだった。

(いいえ、リティシア姫。姫が大地の森まで飛ばされたのはきっと、私のせいなのでしょう。)

 心の中で一人、自分を責めるロードス・クレオリス。
しかし、すぐに柔らかなほほ笑みを作ると、姫に向かってこう言ったのだった。
「さあ、姫様。空の領土まで、まだ大分ございます。そして、その前に「迷いの森」の上空を
飛んでいきます故、どうぞわたくしの元を離れませぬ様。」そう言うとロードスは、
「天上の光を宿す鏡」と、鳥の姿の姫を抱いて、空高く飛び立ったのだった。



a0073000_1146569.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-07-12 10:48 | ファンタジー小説

THE SIXELEMENTS STORY No8


THE SIX ELEMENTS STORY



No8



                                        著 水望月 飛翔



 その変化を感じたゼンスは窓に駆け寄ると、振り向きざまに大地の王に向かって、こう言った。
「大地の王よ、いけませぬ。今すぐ意識を戻されよ。」
ゼンスの強い言葉に、大地の王は、はっと我に返ると、ゼンスの所に駆け寄り、城の外の景色を見た。
 そして、目の前に広がる天候の変化に王は驚いたのだった。王は自身の石に語りかけた。
「我が右手のトパーズよ。我、そなたに命ずる。己の責務をはたせよ。」
そうして、右手のトパーズに冷静なる 王の意志を送り、命じたのだった。

 ロードスも素早く窓のもとに走ると、天上よりの光を自身の鏡に集め、外の世界に光を反射させ、
ユランも「癒しの歌」を歌ったのだった。
 すると、先程まで重暗い色に変容していった空は反転し、少しずつ以前の空の明るさを取り戻していった。
続いて、柔らかな光も雲の隙間からこぼれ始めると、頭を垂れ始めていた草木たちも、
安堵の色を見せたのだった。

 こうして、窓からいつもの世界に戻った空を見渡すと、ゼンスは王の元にゆっくりと歩み寄り、
静かにこう言ったのだった。
「慈しみ深き大地の王よ。王妃へのご心配は我らも重々承知しております。
しかし、どうか王妃の事は我らにおまかせ下さりませぬか。そして、どうかこの大地の領土を今まで通り、
お守りくだされ。」と、進言したのだった。
 大地の王はゼンスの言葉に、心は晴れぬままだったが、しかし、深く頷いて見せたのだった。

そんな大地の王の姿を、ただ静かに見守るロードス。

 それからロードスは一人、王の広間を後にして、ユーリス王子の部屋へと向かったのだった。
王子の部屋に続く廊下には、大きく開け放たれた窓が並び、草木で染め上げた薄布が、
ゆっくりと風に舞っていた。

「王子、ユーリス王子、失礼いたします。」ロードスの呼びかけに、しかしなんの返事もなく、
気配も感じぬ王子の部屋の扉をロードスはそっと開けた。
そして、ゆっくりと、ロードスは王子の部屋に入っていったのだった。

 王子の部屋の中を進んでいくと、ここにもまた、何層にも重なる草木で染めた色取りどりの布が、
ゆったりと天井からはためきながら、ロードスを迎えたのだった。

 王子のベッドに近づくロードス。
その視線の先には、王子のベッドの上で、王子と傷ついた鳥が顔を近づけ、寄り添いながら、
眠っている姿があったのだった。

 「お二人とも、だいぶ疲れていたのであろう。」
そのあどけない光景を見て、ずっとこわばっていた面持ちのロードスの頬に、
ようやく穏やかな色が戻ると、ロードスはそっとベッドの端に座った。
 そして、彼の持つ鏡から、柔らかな癒しの光を二つの頭上に届けたのだった。

 少しすると、王子の傍らで眠っていた鳥が目を覚まし、ロードスの姿を見つけて
「キューン」と小さく鳴いたのだった。

 ロードスは、そっとテレパシーでその鳥に向かって、「解っておりまする。あなた様は我らが誇り、
空の領土の大事な姫。なぜこのようなお姿でおられるのかは存じませぬが、
わたくしが着いておりまする故。どうぞ今しばらくはこの大地の城にて、その傷をお治しくだされませ。
あなた様の傷が治り次第、すぐに空の城へお連れいたしますので、どうかご安心を。」と、伝えたのだった。

 二人がしばし見つめあっていると、王子も目を覚まし、ロードスの姿を見てほっとした表情を浮かべ、
こう言った。
「ロードス。来てくれたんだね。ちゃんと、さっき教えてもらった薬草を傷に付けたんだよ。
もう心配いらないよね?すぐに治るよね?」と、ロードスの顔を覗き込むようにして、王子は聞いたのだった。

 王子の無邪気な姿にロードスも、いつになく柔らかい表情を見せ、
「はい、もう心配はいりませぬ。もう少し王子に看病していただければ、この鳥の傷も直に治りますとも。」
と答えたのだった。
 王子はその言葉に安心して、頷いて見せたのだった。そして王子は、少し間を置いてから、
聞き出すことに恐れを抱きながら、静かにこう聞いたのだった。

「聖なる騎士団のロードス・クレオリス。母上は、母上は無事なのですか?」
先ほどまでの無邪気な少年の顔は去り、何かを決心したかのような面持ちで、
しかし、最後は消え入りそうな程か細い声で、ロードスにこう問いかけたのだった。

 そんな王子の姿に、ロードスの胸は締め付けられた。
そして、まだ幼き王子の元に、母である大地の王妃を、この地に取り戻すこと
が出来なかった自分を、責めたのだった。

 そう、それは空の領土と大地の領土の間の「迷いの森」を歩いている時であった。

ゼンス、ロードス、ユランの三人はいつものように、陣形を組み、迷いの森の
攻撃をかわしながら大地の領土の方角へと向かっていたのだった。

ヒューン、ヒューンと風の通り抜ける音だけがこだまするその森は、しかし、
三人の横を通り過ぎる時、人の泣くような叫ぶような悲鳴と共に、ナイフのよ
うに鋭い切っ先となって、三人が作った結界を傷つけていったのだった。
 冷たい冷気が三人の体温を奪っていく。
近くに、遠くに何者か分からぬ悲しみと恐怖の感情が、この暗闇から、ひしひしと
伝わってくるのであった。

 迷いの森は、人知れぬ「意思」で作られた不思議な森。

隔絶してから、いつ頃から出来たのか?
この森の存在が人々に知れ渡った頃には、各領土の間に大きく闇が存在し、その森を
通ろうとするものを引き込み、二度とその姿を人々の前に戻す事は、なかったのだった。
 
 
 三人はいつもこの闇からの攻撃をかわしながら、こちらから攻撃をする事を一切控えていた。
この「迷いの森」が一体何で出来ているのか?解らないまま力を加える事は、
周りの領土にどのように影響するやも知れぬ。
 だからこそ三人は常に、この森を抜けるまでは必死に攻撃を耐え、攻撃の
風に込められた想いを、慎重に探ろうとしていたのだった。

 しかし、この日のロードスは、「迷いの森」を抜けながら、自身の意識をいつになく空の領土に、
飛ばしていたのだった。

 ロードスの故郷である空の領土は、他の領土よりも一層、整然と整った意志
で守られた領土であった。
 それを収める、タリオス王。

そのタリオス王の責任感と自身への戒めは、強固たるもので、空の人々からも、
絶大なる信頼を勝ち得ていたのだった。
 しかし、時には厳しすぎる一面もあり、幼いころから、自身を厳しく律する
父王に心をいためていたのが、心優しきカサレス王子であった。

 しかし、そうした想いは父王には届かず、互いの想いはすれ違い、
いつしか深い溝が横たわるようになっていったのであった。

「カサレス王子の、お優しきお心がいつの日か、タリオス王に伝わればよいの
だが。」想いにふけるロードス。
と、その時。今までにない、大きな衝撃が三人を襲った。
一瞬、体制を崩し地面にたたきつけられたユランの姿に、カサレス王子の姿が
重なったのだった。

ロードスはとっさに、彼の石の力を使った。
「我に宿りし右目のサファイアよ。この迷いを吹き消し王子をお守りするのだ。」
それは、自身の心にあった迷いだったのだろうか。迷いの森の攻撃の事だった
のだろうか?ロードスは、無意識にサファイアに命じたのだった。
サファイアはロードスの命に応じ、「闇払い」の印を放出すると、倒れたユラン
の身を守るように突風を巻き起こしたのだった。

 突風はすさまじい力で、周りの木々をもなぎ倒した。
「ぎゃあ~。」ロードスの石の力に、恐怖におののく闇の住人の悲鳴が遠く、
吹き飛ばされていった。
「ロードス殿。」ゼンスとユランは、ロードスに駆け寄った。
ロードスは我に返ると、二人を見つめた。

三人の間に言葉はなかった。
ただ黙ってうなづき合うと三人は、もう一度陣形を整えて、それぞれ癒しの波動を
「迷いの森」に送ったのだった。
無言で再び歩き出し、こうして数日、迷いの森を歩き通した三人なのであった。

そして、ようやく「迷いの森」を抜けた三人は、涙にくれ悲しみを抱えたユーリス王子に、
出会ったのだった。



a0073000_1145545.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-07-09 12:01 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No7




THE SIX ELEMENTS STORY

                   
                        
                  
 

            
No7



                                                   著 水望月 飛翔





 ゆっくりと静かに、ロードスが王妃を抱きかかえると、ゼンスがユランに目で促し、
ユランは頷いて「癒しの歌」を奏でたのだった。
 王妃は意識を取り戻した。
心配そうに覗き込む三人の顔を見て、王妃はようやく、自分が謎の物体から解放された事を知り、
ほっと一息ついたのだった。

「もう、終わったのですね。」
喜びと悲しみの両方を顔に上らせて、静かに穏やかにほほ笑む王妃の顔を見て、
ロードスが王妃に何かを言おうとすると、ゼンスがロードスの肩に手を置いて、制した。

 そしてゆっくりと、ゼンスが王妃に語りかけたのだった。
「雄大なる大地の領土をその御身一つで守りし、偉大なる母なる大地の王妃。
よくぞここまでお一人で、あの「謎の物体」をご自分の体内に封印なされましたな。
また、このような深い傷を負われて。あなた様の負った苦痛はきっと、ここにいる我らにも
想像もつきかねる事でしょう。母なる王妃よ。」
そう言うと、三人は改めて王妃に敬意の礼を送ったのだった。

 王妃は少し苦しそうにほほ笑むと、ゆっくりとこう答えたのだった。
「聖なる騎士団」の尊き三賢者の皆様。わたくしがあの物体を抑える事の出来
る時間は、本当に残り少ないものでした。皆様が来てくださったおかげで、わたくしも、
この大地の領土も救われました。本当に感謝に堪えません。ありがとう。」
そう言うと、王妃を抱きかかえているロードスの手を、握りしめたのだった。

 そして、王妃は続けてこう言ったのだった。
「慈愛の賢者、ゼンス様。いったいあの物はなんだったのでしょう?
また、この大地の領土を襲ってくるものなのでしょうか。この大地の領土に住む我らの何かが、
あのような恐ろしい物を引き起こしたのでしょうか?」小さくそう言うと、
「そんな事などありませぬ。そんな事などは、絶対に。」
ロードスは、静かだが強い口調で王妃にこう言ったのだった。

 そして、そんなロードスの言葉に、ゼンスもユランも力強くうなずいたのだった。
そんな三人の表情に、王妃は少し安心をしたのだったが、しかしすぐにその表情は翳りを見せると、
ゼンスにこう聞いたのだった。
「ゼンス様。私のこの傷はもう治ることはないのでしょうね。」

 王妃が意を決したように、ゼンスに聞き彼の顔を見つめると、ゼンスは少し顔をこわばらせながら、
こう切り出したのだった。
「全身全霊でこの領土を守られし大地の王妃よ。残念ながら、あなた様の負ったこの傷は、
痛みを和らげることは出来ても、我らの術ではどうにも治すことはできませぬ。
お力になれず、もうしわけありませぬ。」

 ゼンスが苦しそうにそう言うと、王妃は覚悟を決めたように、こう言ったのだった。
 「あの物体がわたくしの体内に侵入してから、とうに解っておりました。わたくしのこの身体は、
もうこの大地の領土で生きることは出来ない者となったのですね・・。」
そう言うと王妃は、静かに涙を流したのだった。

 声も上げずに、静かに涙を流す気高い王妃の姿を、目の前にして三人は、
この王妃を大地の王の城に、戻すことの出来ぬ自身の力不足を、何とも悔しく思ったのであった。

ゼンスは、呪文を唱えながら杖をドンと床に打ち付けると、「回復の手」を持つ精霊を呼び出し、
ベットに寝かせた王妃の傷の治療にあたらせ、王妃をそのまま眠りの国へといざなったのだった。
 
 静かな寝息をたてる王妃。
その姿を見届けると、三人はしばしの間話し合った。

 ゼンスとユランで王妃を炎の領土にある洞窟へ連れて行く事。
そしてロードスは、しばらくの間大地の城にとどまり、あの傷ついた鳥の治療をした後、
その鳥を空の領土に送り届ける段取りを決めたのだった。
 そのように取り決めをすると、ユランを王妃の元に残して、ゼンスとロードスの二人は、
大地の城へと急ぎ戻っていったのだった。

「嘆きの塔」から少し離れて待たせていた馬車に乗りこもうとしたロードスは、
足をふらつかせて倒れそうになったのだった。ロードスの手をつかみ身体を支えるゼンス。
「大丈夫か?ロードス殿。」心配そうにのぞき込むと「天上の兵士をあれだけ導いたのだ。
その右目がいたむのであろう。ユラン殿と変わられてはいかがじゃ?」
 ゼンスがそう言うと、ロードスは首を横に振りこう言った。
「いいえ、ゼンス殿。大地の王に事の次第を告げるは我の役目。自分の招いた事は自分で
始末をつけねばなりませぬ。」
そう言うと、痛みをこらえて馬車に乗り込んだ。
ゼンスはそれ以上何もいわず、馬車を走らせたのだった。

 そして二人は、王の城に着くと大地の王に、事の次第を話した。
二人の話を聞いて王は、動揺した。
「何故、王妃はこの城へ戻れぬのだ。どうして、炎の洞窟になどへ連れて行かねばならぬ。」
 大地の王は、王妃がこの城へ戻ってこられない事を聞くと、悲しみと、自身の無力さに対する怒りで、
大きく苛立ちの声をあげたのだった。

 いつもは温厚な大地の王の怒りを見て、ゼンスは少し間を置いてから顔をあげ、
苦渋に満ちた表情で静かにこう切り出したのだった。
 「王よ。大地の王よ。どうかお心をお鎮め下され。王妃の体内に侵入した謎の物体は、
王妃の体内をかなり激しい炎で焼き尽くしておりますれば、このまま、この大地の領土の空気を
吸っていては、王妃の身体に害を成し、王妃の命は確実に縮まりまする。
王妃を一刻も早く、炎の領土にお運びせねばいけませぬ。炎の洞窟の空気のみが、
今の王妃をお救いする手立て。炎に焼き尽くされし者は、炎で癒しませんと。」と言うと、
「それは、炎の領土が原因なのか?」と、大地の王はいぶかったのだった。

ゼンスの最後の言葉に大地の王は、王妃に起こった原因が、炎の領土にあるのかと考えたのだった。
それを聞いたロードスは、慌てて王の言葉を遮ったのだった。
「いいえ大地の王、それは違いまする。この度の事は、炎の領土とは何ら関係などありませね。
わたくし達が申しあげたいのは、炎の洞窟の空気のみが、王妃の命を長らえさせる事だと
言っているのです。どうか、そこの所はお間違いの無きよう。何卒。」

 二人の真剣な眼差しに大地の王は、「よい。解った。」と短く答えると、
もう二度とこの大地の領土に戻ってこられぬ王妃の身を、深く案じたのだった。

 大地の王にとって、自身の心の中を大きく支配している事は、何もわからぬ「謎の物体」に、
王妃が傷つきながら、一人でこの城や領土を守ったという事であった。
そして解らなかった事とはいえ、冷たく追放し、今度は得体もしれぬ炎の洞窟へ、
王妃一人を追いやる事に、王は愛する王妃を守れなかった不甲斐なさと、自身の力の無力さに、
深いため息の底に一人、沈んでいったのであった。

(私はいったい何をしてきたのであろうか。我が領土の平和を願い、我が民の事を思い、
「豊穣なる収穫の喜び」を我が右手の石に願った。確かにこの領土はずっとそれから、
健やかなる収穫に恵まれ、どの民達も心配なく平穏な暮らしが出来るようにはなった。
しかし、そんな願いの石の力に、結局われらが領土の守り神、「豊かなる芳情の女神」は
我の声に答えず、王妃を助ける事も出来なかったのだ。ふふっ、自身の愛する者一人を、
助けることも出来ないとは、私の力など何と虚しいことよ。)

大地の王は、一人意識の暗闇に心を囚われ始めたのだった。
王の広間は徐々に重い沈黙に支配され始め、少しずつ大地の領土の空が、
暗い悲しみの雲に覆われ始めたのだった。     

風がざわめき、不安の色が姿を現すと、息吹きを始めていた若い草木の小さな芽が一転、
まるで生命の基を吸い取られたかの様に、みるみるうちに枯れ葉色に変容していったのだった。



a0073000_11441048.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-07-05 10:52 | ファンタジー小説