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THE SIX ELEMENTS STORY No12



"THE SIX ELEMENTS STORY



No12




                                      著 水望月 飛翔



 一方、王妃と共に自室に戻った姫は、少しの間ではあったが、不在にしていた自身の部屋を眺めると、
戻って来られた安堵感と懐かしさに、ひとり浸ったのだった。
 そう姫の部屋には、幾重にも重ねられた薄絹と、ふわりと漂う細いゴールドの細工と、
色取りどりにきらめくガラス細工が、この愛らしい姫の部屋を、ずっと守っていたのであった。

(ただいま、みんな。私のいない間、この部屋の留守をしてくれてありがとう。)
姫は懐かしそうにそれらのものたちに、テレパシーで話しかけたのだった。

 そして、姫からの感謝の言葉に、部屋に輝くそれらのもの達は、静かにキラキラと輝いて見せたのだった。
しかし、オレンジ色に輝くガラスのきらめきを見ると姫は、大地の王子の瞳の色がよみがえり、
次の瞬間、寂しそうなユーリス王子の横顔を思い出して、自分でも気づかない間に、
両の目からまた次々と、悲しみの涙が溢れだしてきたのであった。

「どうしたのです?姫。」王妃に心配そうに聞かれた姫は、優しく自分を見つめる王妃の顔を見ると、
ひとり心に思ったのだった。

(ああ、私には私をこんなにも心配してくれる母様や父様がいる。そして、私を守ってくれる兄様も。
それなのに、あんなに優しいユーリス王子にはもう、お母様は傍におられないのだわ。)
 心配そうに自身を見つめる母の顔を見て、心の中でそう呟いた姫は、今すぐユーリス王子の傍に行き、
少しでも王子の悲しみを和らげてあげたいと、また新たな涙を流すのであった。

 ただ幼く、明るく無邪気な表情しか浮かべなかった、今までの姫とは明らかに違う変化に、
静かに何かを感じる王妃。
 しかし王妃は、今は何も言わずに、ただ優しく姫をベッドへ促し、二人腰を
降ろすと、王妃は静かに「やすらぎの詩」を姫に歌って聞かせたのだった。
姫はそんな母の胸に頭をもたれながら、少しずつ、穏やかな夢の世界へと入っていったのであった。

 空の領土に姫が無事に戻ったことを知った民達は、一人また一人と、家の外に出て、
静かに天上の音が響き、星々が輝く夜空に向かって、「感謝の詩」を歌ったのだった。

空の民達は、様々な想いを歌に込める民。

 多くの者の歌声が夜空に響き始めると、ずっと姫のいない間、悲しみの色を湛えていた星達は、
少しずつ生気を取り戻し始め、次第に美しい色の変化を見せていったのだった。
 そうして、少しずつ「喜びの音」を空の領土に降り注ぐと、王の城へも祝福を届けたのだった。 
星々達からの祝福を受けた空の王は、星々に感謝をしめすと、少し何やら考え、
それから自身の首元に宿るサファイアの力を呼び覚まし、「やすらぎの詩」を天上に向かって
歌い始めたのだった。

 それは、王の詩を聞きし者の心を、忽ちにして癒す力を持つその歌声を、遥か彼方、
大地の領土へ届けようと、試みたのであった。

 そう、他の領土に向かって、「やすらぎの詩」を届けようとした事など、未だかつて無かった事。
はたして、途中にある謎の闇が支配する「迷いの森」の上空を抜け、無事に大地の領土へ届くのか?

 大地の領土へ向けて歌う王の詩の波動が広がると、カサレス王子や王妃をはじめ、
次々に気づいた空の民達は、王の意志を感じ取り、王の詩を無事に大地の領土へ届けようと、
王の詩の下に自身の歌声で支えをするかの様に、次から次へと現れる波の姿となって、
遥か彼方、大地の領土を目指し進んでいったのであった。
 
 その頃、深い眠りについていたリティシア姫は、城の外から伝わってくる今までに無い
祈りの籠った強い波動と、小刻みに震える空の城の異変を感じとり、眠りから目覚めたのだった。

 そして、ゆっくりと姫は身体を起こし、姫の上にかけられていた薄布をどけると、ふんわりと
空中を漂うように窓の方へ行き、姫の部屋のガラス戸をそっと、開けたのだった。  
そうしてリティシア姫は、空の城を取り巻く風と天空に瞬く星々に、これはいったいどうしたのかと、
静かに尋ねたのだった。

 すると、空の領土を流れる風と星々は、そうした姫の問いかけに、空の王が大地の領土に向かって
「やすらぎの詩」を歌い、その波動に呼応するように王子や王妃も加わると、空の民達も協力をして、
王の詩が無事に届くよう歌の波を形づくっているのだと、姫に教えたのだった。

 それを聞いた姫は嬉しそうに、「ああ、父さま。母さま、兄さま、空のみんなも。ありがとう。
本当にありがとう。」と、心の中で呟くと、姫もすぐに「やすらぎの詩」を歌い始めたのだった。
 すると、姫の小さな澄んだ歌声は、そのまま小さな鳥の姿となって、人々が作る波の上に現れると、
彼らの波の力で運ばれるように、大地の領土へと向かっていったのであった。

「どうか届きますように。大地の領土、ユーリス王子の元に、この「やすらぎの詩」が無事に届きますように。」
 
 空の民達が歌う「やすらぎの詩」とはなにか?
空の領土の者達は皆、人と物との区別をあまり設けず、常にこの世界にある全てのものに、
敬意を払う気持ちを持っている種族であり、いつしか万物に対して、安らぎを届けられるようにと、
祈りを込めた詩「やすらぎの詩」が誕生したのであった。

 そうして、現在の空の王はその「やすらぎの詩」をもっと大きな波動で、もっと多くのものに届けたいという
志を持って、成人の儀式に己の首元にサファイアを埋め、空の領土の玉座に着いた後は、
王の「大いなるやすらぎの力」を持って、この領土を平和に収めていったのであった。

 そんな力強い王の歌声が作り出した、大きな波の上に乗って、姫の歌声から生まれた小さな鳥は、
天上の光に照らし出された、美しい星々で埋め尽くされた空の領土をずっと、優雅に滑るように
渡っていったのだった。

 しかし、ずっと空の領土の端まで来ると、あんなに守るように輝いていた星達の姿がぐんと減り、
かなり心細さを増してきたのであった。
 そうして、いよいよ何もない暗闇が支配の色を強めだし、やがて最後の星の輝きを超えると、
そこから先の、「迷いの森」の上空に入っていったのだった。

 一見何もないような暗い空間に、姿は見えぬが何やら犇めく不穏な気配。
そのうねりを帯びた闇の気配が、息苦しさを感じるその空間。
 先程まで、あんなにすべらかな波に押し出される様に進んできた「やすらぎの詩」であったのだったが、
やがて「迷いの森」の上空に差し掛かると途端に、何者か見えない力によって、波の形が崩れだし、
少しずつ勢いの力が削がれてきたのであった。

 今まで均一だった、心地よい波のリズムが不規則に崩れだすと、小鳥の姿の姫の歌声も、
ともすると支えてくれている王の波から滑り落ちそうになり、何度も「迷いの森」の闇の中へ
吸い込まれそうになったのだった。

 そして時折吹く突風に、身体を激しく揺さぶられたのだったが、そんな時には、王の力強い歌声に
支えられ、ようやくもう少しで、この「迷いの森」を抜ける所まで来たのだった。

 そしてそこへ、大地の領土にある星達が、空の領土からの贈り物の気配を感じとると、
その方角へと出迎えるために、風を従えて向かおうとした矢先であった。
 まるで、最後の攻撃でもあるかのような突風が、迷いの森の暗闇から、姫の歌声の小鳥に向かって
、一気に襲いかかってきたのだった。

 しかしそこへ、姫の小鳥を守るように、王の最後の歌声が盾となり、その突風を遮った。
それと同時に最後の瞬間、強い衝撃に耐えきれず、小さな羽が舞い散るように突き崩されて、
王の盾はそのまま四方八方へと飛び散りながら、消滅してしまったのであった。
 その衝撃に飛ばされた小鳥の元に、大地の星々を運んできた柔らかな風が近づいて、
姫の歌声をそっと受け止めると、そのまま優しく包みながら、大地の城へと運んだのだった。
 
 ここは大地の領土の空。

大地の領土の星々は、穏やかな均衡を保ち、大地の人々を見守るような、温かさを持った音を
ゆったりと奏で、静かに揺らいでいた。
 そこへ、その星々の間を優雅に舞うように、小鳥を抱いた風が通り抜け、大地の王の城に着くと、
そのまま王子の部屋に向かい、そっとユーリス王子の部屋の窓を叩いたのであった。

 その夜も、いつもの様に寝付けずにいた王子は、一人ベッドの上で何度も寝返りを打っていたのだった。
夜が進むにつれ、頭の芯は逆に冴えてきて、繰り返し母の面影が、王子の脳裏に現れては
消えていくのであった。

 最初は穏やかに優しくほほ笑む、母の美しく温かな姿が王子の前に現れるのであったが、
その姿は次第に炎に包まれ、茫然と立ち尽くす母の姿にとって代わり、最後には、冷たい夜の冷気だけが
見送る馬車に乗せられ、無言でこの城を後にする、悲しい王妃の姿で終わるのであった。

「やめて、そんな姿を僕に見せないで。」
何に対して言っているのであろうか、王子の脳裏に映し出される母のさびしい姿を打ち消そうと、
その夜も、必死にもがいていたユーリス王子なのであった。

「トントン。」
そこへ何やら窓を叩く気配に気づき、王子は不思議そうに窓に近づいていくと、窓が静かに開き、
温かく穏やかな風が、王子を包み込んだのであった。

その風の気流の中で、リティシア姫の歌声で形作られた小鳥が、王子の周り
を飛び回り、鈴の様な清らかで愛らしい歌声が、王子の頭上に降り注がれた。
その心地よい歌声に、王子は全身を預け佇んでいたのだったが、やがてその歌声が
最期を迎えると同時に、淡い小鳥の姿も「パッ。」と一瞬で霧散したのだった。

その後に残ったのは、いつもの王子の部屋。

 突然の出来事に、最初は少し戸惑った王子であったが、自身の心に残る感覚の中に、
小鳥の姿のほかにもう一つ、実際にあったことはない、本来の空の姫としてのリティシア姫の姿を、
確かに知覚したのであった。

「さっきの小鳥の姿、あれは。それにあの姫はいったい、誰?」
しばらくの間、その場に佇む王子であったが、しかし、王子の心の中には明らかに、
確かな安らぎが、はっきりと残っていたのだった。

(僕は守られている。)
そう温かな安心感に包まれた王子なのであった。

「もうこれからは、ただ嘆き悲しむだけの時を過ごすのはやめよう。僕自身の手で、父上とこの大地の皆を
励まし、元気づけていこう。そして、一刻も早く大人になって、必ず母上をお迎えに行くんだ。」
そう王子は心に決めたのであった。

 それからの王子は、王や大地の民達の前では積極的に明るく振舞い、皆を安心させようと、
沈んだ表情を皆の前では一切見せずに、毎日を過ごしたのであった。
 ただ時折ふと遠く、炎の領土の方角へ視線を向けると王子は、母が少しでも元気でいられる様にと、
その場に跪き、一人深く祈りを捧げるのであった。

 そして、馬術やあらゆる勉強を意欲的にこなし、少しでも時間が空くと、まだ先の自身の
「成人の儀式」の事を考えるのであった。

「母上を一刻も早く、この大地の領土に連れ帰り、また、今後一切こんなことが起こらないように
する為には、いったいどんな事を石に望み、どんな場所へ宿せばいいのだろう。」
王子は何度も何度もその様に考えたのであった。







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by maarenca | 2014-07-23 13:27 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No11

THE SIX ELEMENTS STORY


No11




                                             著 水望月 飛翔

 

王は静かに、王妃に姫を部屋で休ませるように言うと、王妃はそっと優しく肩を抱きながら、
姫を部屋へと連れて行ったのだった。
 そんな二人の後ろ姿を見送ると、空の王はロードスにこれまでのいきさつを説明するよう促した。
 ロードスは静かに語りだした。
ロードスが綿々と話す大地の王妃に起こった悲しい出来事は、その場にいた空の王や
カサレス王子をはじめ、城の者達に大きな衝撃を与えたのだった。
 ロードスがすべてを話終えるまで、皆一様に押し黙り、時には無言で首を横に振り
、時には深いため息をつき、皆、我がことの様に真剣に聞き入り、大地の王妃と残された
大地の人々の事を思ったのだった。

「そうか。大地の領土でその様な事が起こっていようとは。」
長い沈黙を破って王は、遥か彼方の大地の領土の方角を見つめ、しばらく何かを考えていたのだった。
 しかし、ゆっくりと向きを変え、カサレス王子の方を見ると、静かだが強い口調でこう言ったのであった。

「カサレス・クレドール王子よ、よいか。今後二度と、姫の姿を他のものに変えるような事をしてはならぬ。
今回の出来事が少しでも、もっと悪い方へ進んでいたら、一体どうなっていた事か。
よいな、そなたの力を安易に他の者に使ってはならぬ。私の次に、この空の領土を守る者ならば、
更なる自制と規律を自身に課さなければなるまいぞ。」静かだが、冷たく言い放つ王。
 
その断固たる強い口調を受けて、カサレス王子は深々と頭を下げると、静かにこう言ったのだった。
「はい、父上。この度の短慮なる我が振る舞い、誠に申し訳ありませぬ。以後はこのような事にならぬ様、
自身をもっと自制いたします。」
 カサレス王子は神妙な面持ちで、王に誓って言ったのであった。
その王子の姿に、唇をかみ心配そうに見守る二人の従者。

 すぐ傍で聞いていたロードスは、リティシア姫と大地の王妃に起こった事のカギを自身が
握っているであろう事と、今回の出来事でまた、カサレス王子が王に冷たく責められている事に対し、
心を痛めたのだった。
 そして全てをこの場で、王に事の次第を打ち明けようと思ったのだった。
しかし、すぐに「聖なる騎士団」長老ゼンスに、きつく言われたことを思い出し、一人押し黙ったのであった。

「よいか。空の聖なる騎士、ロードス・クレオリスよ。全てをそなたの所為だと思ってはならぬ。
あれは不可抗力だったのじゃ。まだあの森の謎がわからぬ今、この事を他の者に一切話してはならぬ。
今、少しでも己の所為だと言えば、ただ周りの者に混乱を与えるだけじゃ。これ以上苦しむ者が増えぬ様、
今は我らの胸に閉まっておくのじゃ。よいな。」
 ゼンスは時折、姿の見えぬ精霊と何やら話をしながら、今まで見せた事のない強いまなざしで、
ロードスにそう言い聞かせたのだった。
 そしてその傍らで、ユランも静かに頷き、この二人の強い視線にロードスは、
ようよう、頷いて見せたのであった。

 そんな二人とのやり取りから、自身のいる空の城へと意識を戻したロードスは、
空の王に向かって静かにこう言ったのだった。

「偉大なる父なる空の王、タリオス王。どうか何卒、カサレス王子を責めないでくだされ。
王子の完全なる変身の力があったればこそ、姫も大地の方々に怪しまれもせず、
こうして無事に戻ってこられたのです。
そして、空の王家の皆様をお守りする事が、このわたくしの聖なる役目。
以後も誓って、我が全身全霊を賭けて、皆様をお守りいたします故、何卒。」
ロードスは床に跪き、深々と頭を垂れて、空の王に誓ったのであった。

 そんなロードスの真摯なる願いを聞いて、空の王は神妙な面持ちでこう言った。
「我らが空の領土の誇り、「聖なる騎士団」のロードス・クレオリスよ。そなたの忠誠、深く感謝する。」
王がそう言うと、続いてカサレス王子も「深き智徳の崇高なる賢者、ロードス・クレオリス殿。
あなた様のお言葉、私の胸に深く染み入りました。私もあなた様に少しでも近づけるよう、
もっと自身を向上させまする。」と、ロードスに言ったのだった。

 王と王子に敬意の言葉を掛けられて、ロードスはこれから自身の生涯を賭けて、
「迷いの森」の謎を解き、二度とこのような悲しい出来事が起こらぬ様にと、心ひそかに誓ったのだった。

 一人城の中庭に出たカサレス王子は、おぼろげな昼の月を見上げていた。
「カサレス王子、どうかご自身を責めないでくだされ。」
王子の後を追ってきたロードスが、テレパシーで王子に語りかけてきた。
振り向く王子。
 ロードスの苦悩を感じとったカサレス王子は、穏やかにほほ笑むとテレパシーでこう返した。
「我らが空の誇り、ロードス殿。貴方様もまた、リティシアの持っている運命の重さを
感じとられたのではありませぬか?そしてまた、ご自身もその役目の一端を背負おうと。」

 自分の心の内を見透かしたカサレス王子の言葉に、ロードスはドキリとした。
(この王子の思慮深さには本当に驚かされる。まだ成人の儀式を経てから何年も経っていないというに。
王子のその瞳には、一体どれだけ永きにわたる未来が見えているのであろうか?)
ロードスは胸の内でそう思うと、じっとカサレス王子の瞳を見つめたのだった。

「慈悲深きカサレス王子。あなた様の瞳には一体どのような未来が見えているのでしょうや?」
ロードスはそういいながら、そっと「天上の光宿す鏡」で王子の姿をとらえたのだった。

「ロードス殿。あなた様のその鏡には、いったい私はどの様な姿で映っている事でしょう?
私には一切解りませぬが、しかし、私もあなた様と同様に、リティシアの未来を守りたいと思っているのです。」 
そう言うと、静かにほほ笑んだのだった。

 ロードスは、王子の言葉に観念して、「そうでしたか、カサレス王子。貴方様も何かを感じ取って
おられるのですね。私の年老いた瞳にはおぼろげにしか写りませぬが、姫は何かの使命を
背負われているご様子。私は少しでも、姫の使命の手助けをしたいと思っております。
しかし、とうのご本人はご自身の使命が何なのか、全く気づいてはおられぬ様子。
傍から見れば、姫の願いは無鉄砲に映るやもしれませぬが、今は姫がその使命に導かれますよう、
姫のされたいようにさせてあげたい。と思うておりまする。」
ロードスはそう言うと、深々と頭を下げたのだった。

 カサレス王子はうなづくと、「だからこそ、あなた様はご自身で負のお役目を背負おうとされているのでしょう。」
そう言ってほほ笑んだのだった。
そして、真剣なまなざしで「私もその為には、喜んでこの身を捧げましょう。」
とカサレス王子はロードスに告げたのだった。

 ロードスが去った後、カサレス王子の元に二人の従者が近付いてきた。
この二人はカサレス王子の両翼を守る者。

 右に控えるアーキレイ・カーライルは、アマラントレッドの由来を持つゴールドの輝きを放つ
長い髪をなびかせて、彼の頭上には「変わらぬ誠実」を現す植物のモチーフで作られた装飾が
添えられており、彼の右肩に収めた石の力は「均衡を守りし力」なのであった。
 
その対極の左に控えるフリュース・リュードは、アドリアティックブルーの由来を持つシルバーの
輝きを放つ長い髪を束ね、その頭上には「秘めたる熱情」を現す植物のモチーフの装飾を置き、
彼の左肩に収めし石の力は「何ものをも超えし者」なのであった。

 空の領土の民は、「成人の儀式」を終えた後、自身のこれからの道を指し示す言葉を決め、
その言葉の由来の植物をかたどった装飾を、その額に飾るのであった。

 カサレス王子の装飾は「深き信頼」である。
王子の身である彼にとっては、少し地味でもある装飾なのであるが、カサレス王子は、
何があっても空の民への忠誠と信頼を、一番に持ってきたいと願ったのだった。

 そんな控え目に、民に尽くそうとする王子に対し、タリオス王の装飾は「空翔ける誇り」の
堂々たる装飾であった。
 タリオス王の、空の領土の民を自身が引きあげていこうとする意志と対極にある、
カサレス王子の民と共にいたいという優しさは、王にとっては物足りなく映っていたのだった。

 そんな王に対しカサレス王子は、自身の周りに誰も置かず、一人自身の思うところを成し遂げようと、
孤独を選んだ時期もあったのだったが、そんな王子に対し、この二人の従者は自ら志願して、
王子の傍に就いたのだ。

「カサレス王子、ロードス殿といったい何を話されていたのです?」
フリュースはまっすぐに王子を見つめ、聞いてきたのだった。

 フリュースの熱きまなざしを受け止めると、王子は柔らかくフリュースにほほ笑んだ。
「フリュース。君の私への信頼は、常に私の進むべき力となる。いつも私の事を思ってくれてうれしいよ。
ありがとう。」と言うと、フリュースの隣に立つア―キレイにも礼を送ったのだった。
 カサレス王子の言葉にフリュースに代わってア―キレイが
「カサレス王子。わたくしはこうして、フリュース殿と共に王子のお側でお仕え出来ることこそが、
わたくしの喜びなのです。王子が目指すべき世界を、わたくし達はまだ見る事は出来ませぬが、
この先何があっても王子の元につき従いまする。」そう言うと、深く頭を下げるア―キレイなのであった。

ア―キレイを優しく見つめるカサレス王子。
フリュースは、「カサレス王子。わたくしにはよく解りませぬが、リティシア姫の今回の願いは、
ただの思い付きではなかったのでしょう?我らの住む世界はこれから大きく変わるのでしょうか?」
と、少し不安げに聞いたのだった。

 カサレス王子は少し間を置くと、先ほどまでの優しい表情から、真剣なまなざしに変って、
二人に話し始めたのだった。

「フリュース。ア―キレイ。私と同じようにロードス殿もリティシア姫の天からの信託を感じておられるようだ。
それが何なのかは私もロードス殿も解ってはおらぬ。しかし、ロードス殿もまた、姫の信託と未来を守ろうと
自身を捧げる覚悟を持っておられる。」
 そう言うと、一呼吸おいて、二人を優しく見つめたのだった。

「これからなにが起こるか分からぬが、これからも二人の助けが必要となろう。
いいや、他にも私に付く者達に、いばらの道を歩ませる事になるやも知れぬ。
安らかな道を示す事が出来ず申し訳ない。」そう言うカサレス王子にフリュースは、
「王子、我らはいついかなる時も王子と共におりまする。それこそが我らの幸せである事を、
どうか忘れないでください。」と、熱く語ったのだった。




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by maarenca | 2014-07-19 13:20 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No10

いよいよ、私の大好きな王子が登場します。
これから展開する、空の領土の民の美しき心を一緒に楽しんでください。



THE SIX ELEMENTS STORY


No10



                                         著 水望月 飛翔


 どこまでも青く、気高い空へ。
それは、周りを白い雪で覆われ、高くそびえる断崖に守られた、他の者を拒むその空間。
閉ざされた、空の領土へと向かって。

 しかしその前に、越えなければならない不安定な空。
そう、暗く歪んだ「迷いの森」の上空を、姫を連れてロードスは、無事に越えなければならなかったのであった。
 ロードスは一瞬、不安に思った。
 「聖なる騎士団」を結成してからは、他の二人に考慮して、ロードスは自身の翼で「迷いの森」の
上空を飛んで横断する事がなかったからだ。
 また、「迷いの森」を横断する事は、「迷いの森」の解明の時でもあり、「聖なる騎士団」の
三人はただ無事に通り抜ける事よりも、この森の根源を少しでも探ろうとして、いたのだった。

 近づく者を闇へと引きずり込む「迷いの森」
永い間、その森に近づくものはいなかったのだったが、「聖なる騎士団」が結成されてからは唯一、
それぞれの騎士が持つ「聖なる神器」の力の庇護のもと、ようやく彼らがその森を
通り抜けられるようになったのであった。

 しかし、例え「聖なる神器」の力を借りることが出来たとしても、一瞬でも気を赦す事など
出来ない程の、計り知れない闇の力がこの「迷いの森」には、確かに存在していたのだった。

 鳥の姿の空の姫を抱えながら、空を飛んでいたロードスは、「迷いの森」の上空に差し掛かると、
突然襲い掛かる突風と、気流の落ち着きの無さを感じ取っていた。

「やはり、「迷いの森」の上空はどうしても気流が乱れるな。今回はまた殊更、得も言われぬ闇の
気配を感じるのだが、これは細心の注意をはらわねば、姫を安定した飛行でお運びする事ができぬ。
一層、気を引き締めていかねば。」と、ロードスは自身の翼の動きを慎重に操り、
「迷いの森」の上空を飛んで行ったのだった。

 しかし時折、得体の知れない何者かが、足を引っ張るかのように重く陰気な空気が、
ロードスの足元に絡みついてきたのだった。
 その都度、ロードスは方向感覚までもが狂わされ、目標を見失うのだったが、
そのたびに、彼の右眼のサファイアに話しかけ、彼の持つ「天上の光を宿す鏡」から、
天からの正しい方向を指し示してもらうのだった。
 そうして長い時間、慎重に空の領土に向けて飛行を続けたロードス。
その間、空の姫はずっとロードスの腕にくるまれながら、「迷いの森」から立ち上ってくる、
得も言われぬ恐怖に、小さく身を固めていたのだった。

 やがて、遠くの雲の切れ端から、ようやく黄金の光に輝く雲が、少しずつその姿を現すと、
ロードスは一つ息を吐き、空の姫にこう告げたのだった。
「姫、もうすぐ空の領土に入ります。もうしばらくのご辛抱を。」
ロードスがそう言うと、空の姫は今までにない程の明るい声で「キューン」と一鳴きしたのだった。

 そうして、次第に近づいてくる、晴れやかな神々しい黄金の雲の切れ間から、
柔らかな明るい光が降り注ぎ、美しい天上の音楽が鳴り響くその領域に、二人は入っていったのだった。
黄金に輝く雲達は、二人が近づいてくると、そっと門を開ける様に開き、空の領土へ続く道を促すと、
二人が通った後にはまた、他の侵入者をまるで防ぐかのように、静かにそっと
折り重なり閉じていったのであった。

 優しい柔らかな雲たちの間を抜け、しばらく飛んでいると、まだ遠くの向こうの方から、
二人を出迎える人影が少しずつ近づいてくるのが見えたのだった。
 しばらくして、その人影が二人に近づくと、満面の笑みを湛えた人物が、待ち遠しそうに、
一番に口を切ったのだった。

「リティシア、無事だったか。」一番先に近づいてきた、白くたくましい翼を持つ若者が、
晴れやかな顔でそう言うと、ロードスからすぐに鳥を受け取り、大事そうにそっと両手で抱きあげたのだった。
 鳥の姿の姫が「キューン」と、うれしそうに鳴いた瞬間、その若者は自身のサファイアが宿る
左手をその鳥にかざし、呪文を唱えたのであった。

「我が左手のサファイアよ。我の命に応えよ。汝の役目は終わった。かの者を元の姿に戻したまえ。」
左手のサファイアから、あふれるばかりの光が放出されると、鳥の身体を包み込み、
姫を元の姿に戻したのだった。
 ようやく鳥の姿から本来の姿である、空の姫に戻ったリティシア姫。
リティシア姫は、自身の翼や手足を思い切り伸ばすと、晴れ晴れとした表情で、「兄様。」
と叫びながら、若者に飛びついたのだった。

 
 そう、彼こそが次の空の王を継ぎし者。カサレス・クレドール王子なのであった。
明るく美しい黄金の長い巻き毛が肩で揺らぎ、彼の頭上には黄金の植物で縁取られた
繊細で控え目な細工の髪飾りが、彼の心の美しさを祝福するかのように輝いていた。
 カサレス王子の深い慈愛に満ちた、サファイアブルーの瞳と穏やかなほほ笑みは、
一瞬にして全ての心をつかみ、彼の翼の白く美しく真っ直ぐに伸びたさまは、
また空の領土きっての心の美しさを表していた。

 カサレス王子の石の力は「あらゆるものを変える力」である。
そう、カサレス王子が望めば、あらゆるものを変える力を宿していたのだった。
 そして、妹のリティシア姫のたっての願いで、カサレス王子は姫を鳥の姿に変え、
二人で空を飛んでいるところに、「迷いの森」からの突然大きな突風に、
小さな鳥の姿のリティシア姫だけが一人、大地の領土まで吹き飛ばされてしまったのだった。

 カサレス王子とリティシア姫の二人は、しばらくの間、互いの無事を喜び、
今まで会えなかった、しばしの空白期間を埋めるかのように、お互いを慈しみ深く眺めたのだった。
そして、心配していたよりも、元気そうなリティシア姫の顔を見て、カサレス王子はほっとした様子で
一息つくと、姫に向かってこう言ったのだった。

「リティシア姫、元気そうでよかった。怪我をしたと聞いたが、大丈夫だったかい?
私が姫を鳥の姿に変えたばかりに、こんな危ない目にあわせてしまった。本当に申し訳ない。」
カサレス王子は、先程まで見せていた笑顔から、少し心配そうな面持ちで、
リティシア姫に語り掛けたのだった。

 しかし姫は、そんな兄の姿に首を横に振ると、強くこう言ったのであった。
「兄様、謝らないで。私が、鳥の姿で飛びたいって、無理にお願いしたのだから。
でも、すぐにロードス様に助けてもらって、今はとっても元気よ。
それにね、大地の領土のユーリス王子にずっと看病してもらったの。ねえ兄様。
大地の人達は私にとっても優しくしてくれたのよ。あの人達には翼はないの。
肌の色も髪の色も、瞳の色だって全然私達とちがっているの。ねえ、兄様は大地の人達と
会ったことがあって?」姫は久しぶりに兄の顔を見て、ようやく空の言葉を話せるようになったからか、
次から次へと兄に話しかけたのだった。    

 急に矢継ぎ早に話し出したリティシア姫の姿に、ロードスも王子も、王子に着いてきた二人の従者も、
一同に顔を見合わせると、一斉に噴き出し互いの顔を見たのであった。
 そして、ひとしきり皆が笑った後、「さあ、リティシア。空の城へ戻ろう。」
とカサレス王子は姫を促すと、姫の手を優しく取ったのだった。
 そんな彼らを暖かな優しい風が包み込み、一同は穏やかに語らいながら、空の城へと
向かっていったのだった。

 空の領土は6つの浮島からなる領土で、空の王の城は下から5番目の島に、
高くそびえ立っていたのであった。白く美しく輝く大理石で形作られた三棟の塔で構成され、
中央の塔へと延びる幾重にも重ねられた流麗な装飾が、空の王の偉功を表していた。
 天空の光に輝く空の城は、まるで天界から祝福を受けるがごとく、光り輝いていたのだった。
そんな王の城の中庭に着くと、一同はそのまま王の広間へと入っていったのだった。

「姫よ。元気であったか?どこか具合の悪いところはないか?」
空の王は心配そうにリティシアを覗き込むと、しっかりと両手で姫の肩を抱いたのだった。
「リティシア姫。あなたがどうしているかと、本当にずっと心配していたのですよ。」
続いてそう言いながら、母である王妃にそっと深く抱きしめられると、ほっとしたのか、
姫の目から涙が溢れてきたのであった。

 常に空の領土の事を思い守ってきた父と、その父を支え、いつも王子と姫を優しく見守る母の心に触れ、
姫はようやく、自分が周りに起こした心配の大きさに気づいたのであった。
「お父様、お母様、心配させてごめんなさい。」

 姫はそう言うと、続けてこう言ったのだった。「でも、もう私は大丈夫です。それに、鳥の姿の私を、
大地の領土の王子がずっと優しく看病してくれたの。お父様、お母様。私は大地の方達に本当に
優しくしていただいたのです。でも、ちょうど同じ頃に、大地の王妃様にとても悲しいことが起きて。
お父様、どうかお願いです。お父様の「やすらぎの詩」を大地の領土に届けてくださいませんか?
私の事をずっと看病してくれたユーリス王子は、きっと、こうしている間も,一人で悲しんでおられるのだわ。」
 姫は一気にそう言うと、大地の城での事を思い出し、今もなお一人で悲しんでいるであろう、
ユーリス王子の姿を思い浮かべると、その美しいサファイアの瞳にまた、多くの悲しみの涙を浮かべたのであった。

「姫?」王をはじめ、王妃やカサレス王子、城の者達も皆、そんな姫の姿を見て、心配そうに姫を見つめたのだった。



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by maarenca | 2014-07-16 12:26 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No9




THE SIX ELEMENTS STORY


No9



                                        著 水望月 飛翔



 ロードスは「迷いの森」での出来事から、ユーリス王子の部屋にいる自身に意識を戻した。
ロードスの顔を、心配そうに覗き込むユーリス王子。
 しかしこのままずっと、王子の問いかけに黙っているわけにもいかず、ロードスは王子の前に跪くと、
ようやく重い口を開いたのだった。

 「豊かなる大地の領土に生を受けし、ユーリス・マレンスタイン王子。あなた様はまだ幼きながら、
しかし、大地の王の元に生まれしお方。あなた様は、しかとこの事を胸に留め置かれ、
これから私が話すことをどうか、冷静にお聞きくださいませ。」
 王子の目をしっかりと見つめると、ロードスは初めから、王妃の身に起こった出来事を、
王子にゆっくりと話し始めたのだった。

 そして、王妃を支配し傷つけた謎の物体の最後と、王妃が受けた傷の深さを話し、
もう二度とこの大地の領土に、王妃が戻ってくることはない事を、この幼き王子に伝えたのだった。

 ユーリス王子は、ロードスの話を聞いている間、母を思って泣き叫びたい衝動を懸命に抑え、
心の震えを必死に押し殺そうと、唇を噛み全身に力を入れた。
 しかしその思いとは裏腹に、次第にとめどなく溢れてくる涙に呼応するように、
全身がわなわなと震えだす事を、止められずにいたのであった。

 悲しみの震えを懸命に打ち消そうと、必死に試みる王子の姿を見て、ロードスはゆっくり立ち上がると、
王子を静かにそして力強く抱きしめた。
 しばしの間、ただ王子の口から洩れる小さな嗚咽だけが、王子の部屋に静かに漂っていた。
その光景を、じっと心配そうに見つめる小さな目。

 そう、ベッドの上のこの鳥は、この時の光景を、これからずっと抱き続けるのであった。
そうして少しずつ、自分を取り戻していった王子は、しばらくの間その鳥を自身の部屋で看病したのだった。

 それからの数日、昼間の王子はこの見知らぬ客のおかげで、はたから見ると、
母の事を前向きに捉えているかの様に、元気そうな姿を見せていたのだった。
 しかし、この鳥の目からは、笑ったかと思った王子の瞳に、すぐ上る翳りの色を、
何度も何度も、見つけることが出来たのだった。
 そんな時、その鳥は「キューン」と一声鳴いて、王子の肩にとまると、そっと王子の頬に頭を
寄せるのであった。

 そうした鳥の姿に王子は、「僕の心がわかるんだね。君がいてくれてよかった。ありがとう。
君の事は僕がちゃんと治すからね。」と、語り掛けるのだった。
 そんな二人の姿をロードスは、離れた所からそっと見守り、二人に解らぬ様、
自身の鏡から天上の「癒しの光」を注ぐのであった。

「お二人の未来が、どうか栄光の光に彩られますように。」
ロードスはこの時、この二人の未来がその後、交錯しようとは露にも思わなかったのであった。

 それから少しして、鳥の傷もだいぶ治り、とうとう鳥を空の領土に連れ帰る日が、やってきたのだった。
王子はとても寂しそうに肩をすくめると、まるで自分に言い聞かせる様に、こう言った。

「よかったね。これで君の家に帰れるんだよね。君の家族が待っているんだよね。」
と、鳥の背を撫でながら必死に涙をこらえ、笑顔を作ってロードスの方を振り返るのであった。
 ロードスはそんな王子の問いかけに答えた。「そうですとも、ユーリス王子。王子のおかげで
この鳥の傷もすっかり良くなりました。本当に素晴らしいお働きぶりでしたな。」
と、王子にほほ笑むのだった。
 そんなロードスの言葉に王子は、誇らしげに、しかし少し寂しそうにうなずいたのだった。

 最後にロードスは、大地の王に謁見した。
ロードスは王の前に出ると一礼をし、王にこう言ったのだった。
「雄大なる慈愛の大地の王。この度は、ユーリス王子の懸命なる看病のおかげで、この鳥の傷も、
本当に早い回復を見せました。この度の寛大なるご配慮、誠にありがとうございます。」
と、うやうやしく礼を述べ深く頭を下げたのだった。

 しかし大地の王は、ずっと大地の王妃を心配してか、大分やつれた顔を向けると、
寂しげにロードスにこう言ったのだった。
 「いや、その鳥のおかげでユーリス王子も少しは気が晴れたであろう。
そなた達が居なくなるとまたさびしくなるが、それも致し方あるまい。」
そう言うと、一つため息をついたのだった。

 そして王は、もう一度まっすぐにロードスを見つめると「「聖なる騎士団」のロードス・クレオリスよ。
どうか、どうか王妃の事はよろしく頼む。」と、言ったのだった。
 王の言葉を聞いてロードスは、一つ深く息を吸うと、こう答えたのだった。
「穏やかなる大地を収めし偉大なる王よ。どうか、ご心配なさらずに。
我々「聖なる騎士団」が、この命に賭けて、大地の王妃様をお守りいたします故。」
と言うとロードスは床に深く跪き、大地の王に誓って言ったのだった。
 
そうして、ロードスは鳥を肩に乗せると、空の領土へと向かっていったのだった・・・。

「聖なる騎士団」のロードス・クレオリスは、しばらくの間ずっと無言のうちに大地の領土を歩いた。
 彼の周りに吹く風の優しさも感じようとはせず、木々の囁きに耳を傾けることもせず、
ただロードスは、少しでも早く大地の領土を通り抜けたい一心で、ずっと無言で歩いていたのだった。

 ようやく大地の領土の東の森のはずれまで来ると、ロードスは肩に乗せていた鳥をゆっくりと、
木漏れ日の差す切り株の上に下ろすと、天上の光を鏡に反射させ、その鳥の身体の上に
光を注いだのだった。
 すると、先程まで鏡に映っていた鳥の姿が一変して、純白の美しい翼を持つ、空の姫の姿が
映し出されたのだった。

 年のころは大地の王子、ユーリス王子と同じ位であろうか。
金髪に光る長く美しく伸びた髪の毛が風に揺れ、ホワイトゴールドで紡がれた繊細な花の髪飾りが、
姫の愛らしい顔を縁取り、ライラックの様な薄紫のグラデーションの薄衣を身に纏って、
恥じらい佇む姫の姿がそこにあったのだった。

 ロードスは、鏡に映しだされた姫の姿に、ホッと安堵した表情を浮かべると、
うやうやしく一礼をして、鏡の中の姫にこう言ったのだった。

「我らが空の誇り、美しき天空の花、リティシア・クレドール姫。よう、これまで辛抱なされました。
して、翼の具合はいかがでございましょうや?」
 ロードスが姫にこう語りかけると、鏡の中の姫もゆっくりとロードスに一礼して、こう答えたのだった。
「我らが空の誇り「聖なる騎士団」のロードス・クレオリス様。よくぞ鳥の姿のわたくしを理解し、
助けてくださいました。あなた様がわたくしの傍に居て下さったおかげで、わたくしは、
どんなに心強かった事でしょう。翼の痛みも大分とれました。本当に心から感謝いたします。ありがとう。」
 この空の愛らしい姫の心からの礼にロードスは、しかし内心、心の痛みを伴って聞いていたのだった。

(いいえ、リティシア姫。姫が大地の森まで飛ばされたのはきっと、私のせいなのでしょう。)

 心の中で一人、自分を責めるロードス・クレオリス。
しかし、すぐに柔らかなほほ笑みを作ると、姫に向かってこう言ったのだった。
「さあ、姫様。空の領土まで、まだ大分ございます。そして、その前に「迷いの森」の上空を
飛んでいきます故、どうぞわたくしの元を離れませぬ様。」そう言うとロードスは、
「天上の光を宿す鏡」と、鳥の姿の姫を抱いて、空高く飛び立ったのだった。



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by maarenca | 2014-07-12 10:48 | ファンタジー小説

THE SIXELEMENTS STORY No8


THE SIX ELEMENTS STORY



No8



                                        著 水望月 飛翔



 その変化を感じたゼンスは窓に駆け寄ると、振り向きざまに大地の王に向かって、こう言った。
「大地の王よ、いけませぬ。今すぐ意識を戻されよ。」
ゼンスの強い言葉に、大地の王は、はっと我に返ると、ゼンスの所に駆け寄り、城の外の景色を見た。
 そして、目の前に広がる天候の変化に王は驚いたのだった。王は自身の石に語りかけた。
「我が右手のトパーズよ。我、そなたに命ずる。己の責務をはたせよ。」
そうして、右手のトパーズに冷静なる 王の意志を送り、命じたのだった。

 ロードスも素早く窓のもとに走ると、天上よりの光を自身の鏡に集め、外の世界に光を反射させ、
ユランも「癒しの歌」を歌ったのだった。
 すると、先程まで重暗い色に変容していった空は反転し、少しずつ以前の空の明るさを取り戻していった。
続いて、柔らかな光も雲の隙間からこぼれ始めると、頭を垂れ始めていた草木たちも、
安堵の色を見せたのだった。

 こうして、窓からいつもの世界に戻った空を見渡すと、ゼンスは王の元にゆっくりと歩み寄り、
静かにこう言ったのだった。
「慈しみ深き大地の王よ。王妃へのご心配は我らも重々承知しております。
しかし、どうか王妃の事は我らにおまかせ下さりませぬか。そして、どうかこの大地の領土を今まで通り、
お守りくだされ。」と、進言したのだった。
 大地の王はゼンスの言葉に、心は晴れぬままだったが、しかし、深く頷いて見せたのだった。

そんな大地の王の姿を、ただ静かに見守るロードス。

 それからロードスは一人、王の広間を後にして、ユーリス王子の部屋へと向かったのだった。
王子の部屋に続く廊下には、大きく開け放たれた窓が並び、草木で染め上げた薄布が、
ゆっくりと風に舞っていた。

「王子、ユーリス王子、失礼いたします。」ロードスの呼びかけに、しかしなんの返事もなく、
気配も感じぬ王子の部屋の扉をロードスはそっと開けた。
そして、ゆっくりと、ロードスは王子の部屋に入っていったのだった。

 王子の部屋の中を進んでいくと、ここにもまた、何層にも重なる草木で染めた色取りどりの布が、
ゆったりと天井からはためきながら、ロードスを迎えたのだった。

 王子のベッドに近づくロードス。
その視線の先には、王子のベッドの上で、王子と傷ついた鳥が顔を近づけ、寄り添いながら、
眠っている姿があったのだった。

 「お二人とも、だいぶ疲れていたのであろう。」
そのあどけない光景を見て、ずっとこわばっていた面持ちのロードスの頬に、
ようやく穏やかな色が戻ると、ロードスはそっとベッドの端に座った。
 そして、彼の持つ鏡から、柔らかな癒しの光を二つの頭上に届けたのだった。

 少しすると、王子の傍らで眠っていた鳥が目を覚まし、ロードスの姿を見つけて
「キューン」と小さく鳴いたのだった。

 ロードスは、そっとテレパシーでその鳥に向かって、「解っておりまする。あなた様は我らが誇り、
空の領土の大事な姫。なぜこのようなお姿でおられるのかは存じませぬが、
わたくしが着いておりまする故。どうぞ今しばらくはこの大地の城にて、その傷をお治しくだされませ。
あなた様の傷が治り次第、すぐに空の城へお連れいたしますので、どうかご安心を。」と、伝えたのだった。

 二人がしばし見つめあっていると、王子も目を覚まし、ロードスの姿を見てほっとした表情を浮かべ、
こう言った。
「ロードス。来てくれたんだね。ちゃんと、さっき教えてもらった薬草を傷に付けたんだよ。
もう心配いらないよね?すぐに治るよね?」と、ロードスの顔を覗き込むようにして、王子は聞いたのだった。

 王子の無邪気な姿にロードスも、いつになく柔らかい表情を見せ、
「はい、もう心配はいりませぬ。もう少し王子に看病していただければ、この鳥の傷も直に治りますとも。」
と答えたのだった。
 王子はその言葉に安心して、頷いて見せたのだった。そして王子は、少し間を置いてから、
聞き出すことに恐れを抱きながら、静かにこう聞いたのだった。

「聖なる騎士団のロードス・クレオリス。母上は、母上は無事なのですか?」
先ほどまでの無邪気な少年の顔は去り、何かを決心したかのような面持ちで、
しかし、最後は消え入りそうな程か細い声で、ロードスにこう問いかけたのだった。

 そんな王子の姿に、ロードスの胸は締め付けられた。
そして、まだ幼き王子の元に、母である大地の王妃を、この地に取り戻すこと
が出来なかった自分を、責めたのだった。

 そう、それは空の領土と大地の領土の間の「迷いの森」を歩いている時であった。

ゼンス、ロードス、ユランの三人はいつものように、陣形を組み、迷いの森の
攻撃をかわしながら大地の領土の方角へと向かっていたのだった。

ヒューン、ヒューンと風の通り抜ける音だけがこだまするその森は、しかし、
三人の横を通り過ぎる時、人の泣くような叫ぶような悲鳴と共に、ナイフのよ
うに鋭い切っ先となって、三人が作った結界を傷つけていったのだった。
 冷たい冷気が三人の体温を奪っていく。
近くに、遠くに何者か分からぬ悲しみと恐怖の感情が、この暗闇から、ひしひしと
伝わってくるのであった。

 迷いの森は、人知れぬ「意思」で作られた不思議な森。

隔絶してから、いつ頃から出来たのか?
この森の存在が人々に知れ渡った頃には、各領土の間に大きく闇が存在し、その森を
通ろうとするものを引き込み、二度とその姿を人々の前に戻す事は、なかったのだった。
 
 
 三人はいつもこの闇からの攻撃をかわしながら、こちらから攻撃をする事を一切控えていた。
この「迷いの森」が一体何で出来ているのか?解らないまま力を加える事は、
周りの領土にどのように影響するやも知れぬ。
 だからこそ三人は常に、この森を抜けるまでは必死に攻撃を耐え、攻撃の
風に込められた想いを、慎重に探ろうとしていたのだった。

 しかし、この日のロードスは、「迷いの森」を抜けながら、自身の意識をいつになく空の領土に、
飛ばしていたのだった。

 ロードスの故郷である空の領土は、他の領土よりも一層、整然と整った意志
で守られた領土であった。
 それを収める、タリオス王。

そのタリオス王の責任感と自身への戒めは、強固たるもので、空の人々からも、
絶大なる信頼を勝ち得ていたのだった。
 しかし、時には厳しすぎる一面もあり、幼いころから、自身を厳しく律する
父王に心をいためていたのが、心優しきカサレス王子であった。

 しかし、そうした想いは父王には届かず、互いの想いはすれ違い、
いつしか深い溝が横たわるようになっていったのであった。

「カサレス王子の、お優しきお心がいつの日か、タリオス王に伝わればよいの
だが。」想いにふけるロードス。
と、その時。今までにない、大きな衝撃が三人を襲った。
一瞬、体制を崩し地面にたたきつけられたユランの姿に、カサレス王子の姿が
重なったのだった。

ロードスはとっさに、彼の石の力を使った。
「我に宿りし右目のサファイアよ。この迷いを吹き消し王子をお守りするのだ。」
それは、自身の心にあった迷いだったのだろうか。迷いの森の攻撃の事だった
のだろうか?ロードスは、無意識にサファイアに命じたのだった。
サファイアはロードスの命に応じ、「闇払い」の印を放出すると、倒れたユラン
の身を守るように突風を巻き起こしたのだった。

 突風はすさまじい力で、周りの木々をもなぎ倒した。
「ぎゃあ~。」ロードスの石の力に、恐怖におののく闇の住人の悲鳴が遠く、
吹き飛ばされていった。
「ロードス殿。」ゼンスとユランは、ロードスに駆け寄った。
ロードスは我に返ると、二人を見つめた。

三人の間に言葉はなかった。
ただ黙ってうなづき合うと三人は、もう一度陣形を整えて、それぞれ癒しの波動を
「迷いの森」に送ったのだった。
無言で再び歩き出し、こうして数日、迷いの森を歩き通した三人なのであった。

そして、ようやく「迷いの森」を抜けた三人は、涙にくれ悲しみを抱えたユーリス王子に、
出会ったのだった。



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by maarenca | 2014-07-09 12:01 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No7




THE SIX ELEMENTS STORY

                   
                        
                  
 

            
No7



                                                   著 水望月 飛翔





 ゆっくりと静かに、ロードスが王妃を抱きかかえると、ゼンスがユランに目で促し、
ユランは頷いて「癒しの歌」を奏でたのだった。
 王妃は意識を取り戻した。
心配そうに覗き込む三人の顔を見て、王妃はようやく、自分が謎の物体から解放された事を知り、
ほっと一息ついたのだった。

「もう、終わったのですね。」
喜びと悲しみの両方を顔に上らせて、静かに穏やかにほほ笑む王妃の顔を見て、
ロードスが王妃に何かを言おうとすると、ゼンスがロードスの肩に手を置いて、制した。

 そしてゆっくりと、ゼンスが王妃に語りかけたのだった。
「雄大なる大地の領土をその御身一つで守りし、偉大なる母なる大地の王妃。
よくぞここまでお一人で、あの「謎の物体」をご自分の体内に封印なされましたな。
また、このような深い傷を負われて。あなた様の負った苦痛はきっと、ここにいる我らにも
想像もつきかねる事でしょう。母なる王妃よ。」
そう言うと、三人は改めて王妃に敬意の礼を送ったのだった。

 王妃は少し苦しそうにほほ笑むと、ゆっくりとこう答えたのだった。
「聖なる騎士団」の尊き三賢者の皆様。わたくしがあの物体を抑える事の出来
る時間は、本当に残り少ないものでした。皆様が来てくださったおかげで、わたくしも、
この大地の領土も救われました。本当に感謝に堪えません。ありがとう。」
そう言うと、王妃を抱きかかえているロードスの手を、握りしめたのだった。

 そして、王妃は続けてこう言ったのだった。
「慈愛の賢者、ゼンス様。いったいあの物はなんだったのでしょう?
また、この大地の領土を襲ってくるものなのでしょうか。この大地の領土に住む我らの何かが、
あのような恐ろしい物を引き起こしたのでしょうか?」小さくそう言うと、
「そんな事などありませぬ。そんな事などは、絶対に。」
ロードスは、静かだが強い口調で王妃にこう言ったのだった。

 そして、そんなロードスの言葉に、ゼンスもユランも力強くうなずいたのだった。
そんな三人の表情に、王妃は少し安心をしたのだったが、しかしすぐにその表情は翳りを見せると、
ゼンスにこう聞いたのだった。
「ゼンス様。私のこの傷はもう治ることはないのでしょうね。」

 王妃が意を決したように、ゼンスに聞き彼の顔を見つめると、ゼンスは少し顔をこわばらせながら、
こう切り出したのだった。
「全身全霊でこの領土を守られし大地の王妃よ。残念ながら、あなた様の負ったこの傷は、
痛みを和らげることは出来ても、我らの術ではどうにも治すことはできませぬ。
お力になれず、もうしわけありませぬ。」

 ゼンスが苦しそうにそう言うと、王妃は覚悟を決めたように、こう言ったのだった。
 「あの物体がわたくしの体内に侵入してから、とうに解っておりました。わたくしのこの身体は、
もうこの大地の領土で生きることは出来ない者となったのですね・・。」
そう言うと王妃は、静かに涙を流したのだった。

 声も上げずに、静かに涙を流す気高い王妃の姿を、目の前にして三人は、
この王妃を大地の王の城に、戻すことの出来ぬ自身の力不足を、何とも悔しく思ったのであった。

ゼンスは、呪文を唱えながら杖をドンと床に打ち付けると、「回復の手」を持つ精霊を呼び出し、
ベットに寝かせた王妃の傷の治療にあたらせ、王妃をそのまま眠りの国へといざなったのだった。
 
 静かな寝息をたてる王妃。
その姿を見届けると、三人はしばしの間話し合った。

 ゼンスとユランで王妃を炎の領土にある洞窟へ連れて行く事。
そしてロードスは、しばらくの間大地の城にとどまり、あの傷ついた鳥の治療をした後、
その鳥を空の領土に送り届ける段取りを決めたのだった。
 そのように取り決めをすると、ユランを王妃の元に残して、ゼンスとロードスの二人は、
大地の城へと急ぎ戻っていったのだった。

「嘆きの塔」から少し離れて待たせていた馬車に乗りこもうとしたロードスは、
足をふらつかせて倒れそうになったのだった。ロードスの手をつかみ身体を支えるゼンス。
「大丈夫か?ロードス殿。」心配そうにのぞき込むと「天上の兵士をあれだけ導いたのだ。
その右目がいたむのであろう。ユラン殿と変わられてはいかがじゃ?」
 ゼンスがそう言うと、ロードスは首を横に振りこう言った。
「いいえ、ゼンス殿。大地の王に事の次第を告げるは我の役目。自分の招いた事は自分で
始末をつけねばなりませぬ。」
そう言うと、痛みをこらえて馬車に乗り込んだ。
ゼンスはそれ以上何もいわず、馬車を走らせたのだった。

 そして二人は、王の城に着くと大地の王に、事の次第を話した。
二人の話を聞いて王は、動揺した。
「何故、王妃はこの城へ戻れぬのだ。どうして、炎の洞窟になどへ連れて行かねばならぬ。」
 大地の王は、王妃がこの城へ戻ってこられない事を聞くと、悲しみと、自身の無力さに対する怒りで、
大きく苛立ちの声をあげたのだった。

 いつもは温厚な大地の王の怒りを見て、ゼンスは少し間を置いてから顔をあげ、
苦渋に満ちた表情で静かにこう切り出したのだった。
 「王よ。大地の王よ。どうかお心をお鎮め下され。王妃の体内に侵入した謎の物体は、
王妃の体内をかなり激しい炎で焼き尽くしておりますれば、このまま、この大地の領土の空気を
吸っていては、王妃の身体に害を成し、王妃の命は確実に縮まりまする。
王妃を一刻も早く、炎の領土にお運びせねばいけませぬ。炎の洞窟の空気のみが、
今の王妃をお救いする手立て。炎に焼き尽くされし者は、炎で癒しませんと。」と言うと、
「それは、炎の領土が原因なのか?」と、大地の王はいぶかったのだった。

ゼンスの最後の言葉に大地の王は、王妃に起こった原因が、炎の領土にあるのかと考えたのだった。
それを聞いたロードスは、慌てて王の言葉を遮ったのだった。
「いいえ大地の王、それは違いまする。この度の事は、炎の領土とは何ら関係などありませね。
わたくし達が申しあげたいのは、炎の洞窟の空気のみが、王妃の命を長らえさせる事だと
言っているのです。どうか、そこの所はお間違いの無きよう。何卒。」

 二人の真剣な眼差しに大地の王は、「よい。解った。」と短く答えると、
もう二度とこの大地の領土に戻ってこられぬ王妃の身を、深く案じたのだった。

 大地の王にとって、自身の心の中を大きく支配している事は、何もわからぬ「謎の物体」に、
王妃が傷つきながら、一人でこの城や領土を守ったという事であった。
そして解らなかった事とはいえ、冷たく追放し、今度は得体もしれぬ炎の洞窟へ、
王妃一人を追いやる事に、王は愛する王妃を守れなかった不甲斐なさと、自身の力の無力さに、
深いため息の底に一人、沈んでいったのであった。

(私はいったい何をしてきたのであろうか。我が領土の平和を願い、我が民の事を思い、
「豊穣なる収穫の喜び」を我が右手の石に願った。確かにこの領土はずっとそれから、
健やかなる収穫に恵まれ、どの民達も心配なく平穏な暮らしが出来るようにはなった。
しかし、そんな願いの石の力に、結局われらが領土の守り神、「豊かなる芳情の女神」は
我の声に答えず、王妃を助ける事も出来なかったのだ。ふふっ、自身の愛する者一人を、
助けることも出来ないとは、私の力など何と虚しいことよ。)

大地の王は、一人意識の暗闇に心を囚われ始めたのだった。
王の広間は徐々に重い沈黙に支配され始め、少しずつ大地の領土の空が、
暗い悲しみの雲に覆われ始めたのだった。     

風がざわめき、不安の色が姿を現すと、息吹きを始めていた若い草木の小さな芽が一転、
まるで生命の基を吸い取られたかの様に、みるみるうちに枯れ葉色に変容していったのだった。



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by maarenca | 2014-07-05 10:52 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No6



 今日このNo6を載せようとしたところ、手違いで3ページ分が消えてしまいました。
最初は冷や汗ものでした。苦笑
急いで書きなおしましたが、前よりも新たな場面が加わったので、終わりよければ全てよし。
というところでしょうか。

それでは、どうぞお楽しみください。

丸子安子




THE SIX ELEMENTS STORY

                   
                        

No6

                  
            


                                                 著 水望月 飛翔





 三人は塔の前に立った。
その塔は、曲がりくねった植物たちが幾重にも絡み合い、イラクサの様な棘がいびつに巻き付いて、
一層、立ち入る者の心を砕くように凍りつかせた。

 先頭を行く長老ゼンスは額に宿るエメラルドに「闇払い」の呪文をかけながら、
彼の持つ「生命の息吹をもたらす杖」を強く床に打ち付けて、後に続く二人の足元の闇を払ったのだった。
 長老ロードスは「天上の光を宿す鏡」に天からの光を集めると同時に、天界へ通じる門を開くよう、
自身の右目のサファイアに「道開き」の呪文をかけたのだった。
 そして長老ユランは「龍の鱗からなる聖なる竪琴」をつま弾きながら、遠く自身の水の領土の聖なる泉
「カーン・サーク」へと意識を飛ばし、自身ののど元に宿るアクアマリンに「開放」の呪文を掛けたのだった。
こうして三人は、おのおの準備をしながら、王妃のいる最上階の部屋を目指して、
長い階段を登っていったのであった。

 いったい、どれだけの長い孤独が作りあげていったのであろう。

すべての生命の鼓動をも凍りつかせるような、冷たい冷気が漂う最上階のドア。
 その前に立つと三人は、一呼吸しゆっくりと目を合わせると、王妃のいる部屋のドアを、
一気に開けて入ったのだった。

部屋の真ん中にある椅子に、茫然と力なく座る王妃。
三人は部屋に入ると、すかさず王妃の周りを取り囲むように立ったのだった。

 ゼンスは額のエメラルドに命じ、大きな声で「呪縛の呪文」を唱えながら杖を大きく振りかざし、
王妃の身体を動けなくした。
 ロードスは右目のサファイアに命じ、「正義の文様」を形作らせながら、先ほど集めた天上からの
光を王妃に当てた。
 ユランはのど元のアクアマリンに命じ、竪琴を大きく弾き鳴らしながら、謎の物体を誘導するように
「道示しの歌」を歌ったのであった。

 こうして三人に取り囲まれた王妃の身体は、硬直したように動けなくなると、少しずつゆっくりと、
宙に浮き始めたのだった。

 すると、次第に王妃の身体が内部から、激しく揺さぶられるように、身体がしなった。
そして、王妃のおなかの辺りが、まるで別の生き物がうごめく様に、大きく波打ちはじめたのだった。
「あっ、あっ、あああ~。」苦しみの声を上げる王妃。
王妃の肩が身体が、大きく上下に動き出すと、しばらくして、謎の黒い物体がゆっくりと、
王妃の口から、長い尾を引くように出てきたのであった。

 ぬめっと床に落ちる様に出てきた謎の物体。
ゆっくりと動き始めると、さまざまな形を作っては、三人に襲いかかってきたのだった。

 耳をつん裂くような悲鳴をあげ、何千もの槍の雨を降らす。
しなやかな鞭の姿となっては、大きく三人に鞭を見舞わせる。
最後に、黒い霧となって、三人を分断し、それぞれ三人の意識を惑わせたのだった。

ドサッと誰かが倒れるような音がした。

「さあ、お前の味方の一人にとどめを刺したぞ。どうだ、息が苦しくなってきただろう。
身体がしびれてきただろう?もうすぐお前の命は尽きる。さあどうする?今ならお前を助けてやろう。
お前のその身体をわれらに差し出せ。さあ、早く。早く。」
 頭の中で、様々な老若男女の声で響く声。
三人は本当に息苦しく、身体がしびれて身動きが取れなくなった。

 
その時。
ロードスは右目に宿りしサファイアに語りかけると、自身の持つ鏡から、先ほど集めた天上からの光を、
自身の右眼に向けて放出させ、その光をサファイアに吸収させたのだった。

「さあ、我が右目に宿りしサファイアよ。今こそ汝の力を示せ。天上の門を開け、天界の兵士を導くのだ。」
するとロードスの美しいサファイアから、「天上の戒めの軛」の文様が現れると、
そこから美しい白の装束を身にまとった、天上界の兵士が次々と現れたのだ。

 そう、彼らこそは天上界を守る兵士。
彼らの姿はみな美しく、黄金に輝く長い髪。天上からいただいた光から創られた剣を持ち、
一点の曇りもない白い装束と、闇を照らす目を持つ兵士なのであった。

 彼らは自身の衣の袖を次々に伸ばすと、謎の物体を縛りあげ、その動きを止めた。
先ほどまでの暗い闇は消え去り、天上の兵士の姿を見たゼンスは、彼の額に宿るエメラルドに
語り掛けたのだった。
「我に宿りしエメラルドよ。今こそ汝の役目を果たせ。この謎の物体を本来の姿へと戻すのじゃ。」
エメラルドの光を自身の杖で導きだすと、そのまま素早く彼の杖で「浄化の印」を結ぶゼンス。
そして、その物体に「浄化の印」を投げ、多い尽くしたのだった。

 叫び声をあげ、もがく謎の物体。
しばらくすると、少しずつその物体の力が弱まりだした。

 それを見てユランは、自身ののど元に宿るアクアマリンに語り掛けた。
「我に宿りしアクアマリンよ。今こそ汝の門を開けよ。我らが領土の聖なる泉
「カーン・サークの泉」から癒しの水を導くのだ。」
水の領土を守る聖なる泉「カーン・サークの泉」から癒しの水が時空を超え、
ユランののど元の石から、弓矢の形となって現れたのだった。

 ユランはその矢を手にすると、自身の竪琴の糸を使って、一気にその謎の物体に放ったのだった。
矢は命中すると、再び水の姿となって「パーン」と砕け散った。

 この世のものとは思えない、叫びの声をあげて身をよじる謎の物体。
すると、それまで形づくっていた力強い黒い物質は、見る見るうちに灰と変わり、
最後にシューッと音を立てて、手のひらに乗る程度の大きさの灰の玉に変わったのだった。

 ポトリと床に落ちた灰の玉。
それを見た三人は、お互いに目を合わせると、ロードスは彼の持つ鏡から、
今度は柔らかな優しい光を放出して、その球をそっと包み込み、ユランは「許しの歌」を歌い、
ゼンスは穏やかに「浄化の呪文」を唱えて、大きく杖を振った。灰の玉は粉々に砕け散り、
その微細に飛び散った細かいかけらは、天上から降り注ぐ光の柱にスーッと入ると、
天上の兵士たちにいざなわれ、そのまま天へと昇っていったのだった。

 その光景を見届けると三人は、ほっとして顔を見合わせたのだった。
すると、先ほどまで込めていた渾身の力に緊張して、疲れ重く感じる身体の存在を思い出すと、
互いに顔を見合わせて苦笑したのだった。

そして、気を失って床に倒れたままの王妃の元に、三人は駆け寄ったのだった。

つづく



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by maarenca | 2014-07-02 14:00 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No5






THE SIX ELEMENTS STORY




No5


                                                          著 水望月 飛翔


 三人は言葉を失った。
「まさかこのような事が、この大地の領土で起こっていようとは。これは、もしや「迷いの森」での
攻撃が原因なのか?」ロードスは顔をこわばらせた。
「ロードス殿。そのように決めつけてはなりませぬ。」ユランがそう言うと、ゼンスも神妙な面持ちで
ロードスに近づいたのだった。

「空の領土の誇り、気高き賢者ロードス・クレオリス殿。今大事な事は、そのような詮索ではござらぬ。
今は一刻も早く大地の王妃の元へ行き、お助けする事じゃろう?」問いかけとは裏腹に、
ゼンスは有無をも言わさぬ強い視線を、ロードスに向けたのだった。
 
まっすぐに見つめるゼンスにロードスは、今は時間を使う事を避けるため、うなづいた。
「分りました。今はその事に集中いたしましょう。」そう言うと、三人はこれからの段取りを話し合ったのだった。

 しばらくして目をさまし、ゆっくりと身体を起こすユーリス王子。
そして、三賢者の姿を不思議そうに見つめている王子の元に、三人は歩み寄ると、
静かに膝まづいたのだった。

 「良いですかな王子。我らはすぐにも大地の王に、非常に大事な話をせねばなりませぬ。
これは、一刻も時間を無駄にはできぬ事。どうぞ我らと共にすぐに大地の城にお戻りくださいませ。
もちろん、その鳥は城に着いてからすぐに傷の手当をいたしましょう。」
心の動揺を王子に悟られないよう、ゆっくりと落ち着いた調子でゼンスが言うと、
王子は神妙な面持ちでうなずき、三賢者と連れ立って、王の城へと急いだのだった。

「この三人だったら、きっと何とかしてくれるに違いない。」
幼き王子がそう思ったのは、胸に抱く傷ついた鳥の事であろうか。
それとも、傷つき追放された優しい母の事であったろうか。

大地の城へと向かう間、誰も言葉を発っしなかった。
ただ、優しい風だけが吹き抜けていったのだった・・・。


 やがて四人は大地の城に着くと、王の広間に通され、大地の王が現れるのを待ったのだった。
そしてその間ロードスは、傷を負った鳥を王子から受け取ると、痛めた羽を治療する傍ら、
他の誰にも気づかれぬよう、そっとその鳥に話しかけたのだった。

「どうかご心配なされませぬよう・・。わたくしが必ずや、空の領土へお連れいたしますゆえ。
今しばらくは、この大地の城で傷をお治しくだされ。」静かにテレパシーで話しかけるロードス。
その鳥は不安にずっと震えていたのだったが、ロードスのその言葉に「キューン」と一声鳴くと、
ようやく安心したのか首をうずめ、身体を丸くしたのだった。

 それから王子はその鳥を受け取ると、ロードスから薬草のあげ方を教わり、
その鳥を連れ王子の部屋へと引き上げたのだった。
そして、王子のベッドに鳥をそっと置き薬草を塗った後、その鳥の背を優しくなでていると、
その鳥はやがて眼を閉じて、すやすやと眠ったのだった。

「大丈夫だよ。僕がついているからね。ロードス様は食べ物を絶対あげてはいけないって言うけれど、
なんでだろう?おなかすかないかな?」そう言うと、心配そうに見つめたのだった。
「でも、いろんな事を知っているロードス様の言葉だから、きっと何か理由があるんだよね。
僕が傍にいるから、なにも心配いらないよ。」そう言いながら鳥の身体に顔を近づけると、
鳥の小さな寝息と温もりに安心したのか、王子もいつの間にか、夢の中へと入っていったのであった。


 一方、こちらは王の広間・・・。
沈んだ表情で身体を重たそうに引きずりながら、大地の王が広間に現れると
「聖なる騎士団」の三賢者は、うやうやしく礼をして跪いた。

 そして、長老ゼンスが静かにこう切り出したのだった。
「豊穣なる大地を収めし偉大なる王よ。ご尊顔を賜り恐悦至極に存じまする。」
そして、一呼吸置くと、「さて、先程東の森で王子にお会いしました。
そして、大地の領土で起こったこの2、3日の出来事を、この大地の森の精霊より見聞きをいたしました。
王妃におかれましては悲しき出来事、何とも言葉になりませぬ。」  
こう言うとゼンスは少し顔をゆがませて、一旦言葉を飲み込んだのだった。

 しかし、顔をあげると王に続けてこう言ったのだった。
「しかるに我らこの3人で、何とも王妃様をお助けいたしたく、こうしてはせ参じた次第でございます。
どうか何卒、今すぐ我らを王妃の元にお遣わしくだされ。大地の王。」
そう言うと、いつもの落ち着いた物言いとは違う、深刻な表情を見せたゼンスなのであった。

 先ほどまでは、ぼんやりと力なく玉座に着いて、意識の遠くで聞いていた大地の王であったのだったが、
「慈愛の賢者」と呼ばれし長老ゼンスの真摯な呼びかけに、王の虚ろな目にはゆっくりと、
希望の光が戻って来たのであった。

 「なんと、そなた達で我が王妃を救ってくれるというのか。」
王が両手に力を入れて、玉座の手すりをつかみながら、身体を前の方に乗り出すと、
ユランが静かに王にこう言ったのだった。
「お待ちください。雄大なる平原を収めし大地の王よ。残念ながら今は、我々が完全に
王妃を救えるとは言えませぬ。しかし、我らの持っている力が少しでも、大地の王妃様のお役に
立つのであらば、何としてもお助けしたい。」

ユランが言い終わるやいなや、ロードスは残りの言葉を奪うように、こう言ったのだった。
「永きにわたりこの大地を収めし寛大なる大地の王。何卒、何卒すぐに我らを王妃様の元に
お遣わしくだされ。」

 ロードスは内心焦っていたのだった。
しかし明らかにいつもの冷静な物言いとは違う、空の領土出身のロードスの言葉を、
この時王は何の疑いもなく、希望を持って聞いたのだった。
 そんな大地の王の心は震え、次第に王の目に涙が溢れてきたのであった。
ゆっくりと玉座を降りる大地の王。   

 少し震える声で三人にこう声をかけた。
「「聖なる騎士団」の三賢者、ゼンス・ショーイン殿、ユラン・アユター殿、そしてロードス・クレオリス殿。
お三方の申し出、何ともありがたい。どうか、どうか我が王妃を救っていただきたい。」
そう言うと王は、すぐ城の衛兵を呼び、三人を王妃のいる「月嘆きの塔」に案内させたのであった。

 そうして、それからすぐに三人を乗せた馬車は、王妃のいる「月嘆きの塔」へと出発したのだった。
 
 その塔に向かう馬車の中で、ずっと三人は押し黙り、それぞれの「聖なる神器」と自身の石に
強く語りかけていた。
未知なる謎の物体。 

 それはたとえ、「聖なる騎士団」の力をもってしても、この問題を解決するには容易なことではない事を、
それぞれが胸に感じていたのであろう。


 王妃が追放されて送られた「月嘆きの塔」とは何か・・・?
それは、ずっと長い間、誰にも使われず、誰にも思い返されることのない、
過去に封印された塔なのであった。

 かつて遠い昔、何代も前に気のふれてしまった王妃を、閉じ込めるのに使われた古い塔。
そこへ幽閉された王妃の夜な夜なすすり泣く声が、夜空に響き渡ったため、
 それからその塔は「月嘆きの塔」と呼ばれるようになったのだった。

 そして、その気のふれた王妃が静かに塔の中で息を引き取ってからは、誰も近づく者はおらず、
今では昼なお暗く、陰鬱な影を落としていたのであった。







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by maarenca | 2014-06-28 15:09 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY  No4






THE SIX ELEMENTS STORY




No4





                                          著 水望月 飛翔




「いかがされたのです?ロードス殿。そのような怖いお顔をされては、ユーリス王子が
おこまりではありませぬか。」優美なヒレを漂わせて、間に入ったのは最後の一人、
水の民のユラン・アユター。

「聖なる龍のうろこからなる竪琴」をつま弾きながらユランは、ロードスに声をかけると、
優しくユーリス王子にほほ笑んだのだった。

「雄大なる領土を収めし大地の王のご子息、ユーリス・マレンスタイン王子。
また随分とご立派にご成長されました事、ここにお喜び申し上げまする。」
ユランは美しい旋律を一つ奏でると、のど元に宿るアクアマリンの石の力を使って、
癒しの波動を乗せた言葉を王子に送ったのだった。

そして、長い腕を広げ、陽炎の羽の様な美しいヒレを震わせて、王子に頭を下げたのだった。

そう、彼らこそは「聖なる騎士団の三賢者」と呼ばれし者達なのであった。

彼らはそれぞれ、16歳の成人の儀式のおり、自身の石との一体化に成功したと同時に、
この惑星で唯一「聖なる神器」を出現させた者。
 そして、長い時間をかけ各領土の間に生まれた、人を寄せ付けぬ森「迷いの森」を見事通り抜け、
出会った者達なのでであった。

 その後、この三人は永きにわたる隔絶と差別、無理解、違いを乗り越え、
今再び互いの領土の結びつきを願い、各領土への旅を始めた。
また、それと同時に最大なる壁の「迷いの森」の探求に乗り出したのだった。

しかし、何千年という永い隔絶にいた各領土。
最初の頃は、それぞれの領土の民達から理解を得るまでには、多くの苦労があった事だろう。
壮大な夢を胸に抱いた少年だった彼らは、今は長老と呼ばれる年齢になっていたのだった。
そして、多くの困難を乗り越え、やがては全ての領土の王族、民達から
「聖なる騎士団の三賢者」と言われるまでの尊敬と、信頼を勝ち得た者達なのであった。

 さて、ユーリス王子だが、先ほどユランの癒しの旋律を聞いたためか、
この二日間の緊張から解き放たれると、みるみる少年の顔に戻り、悲しみの涙を流したのだった。

「賢者様。母上が・・・、母上が・・・。」しゃくりあげ言葉が続かぬ王子。
いつも屈託のない明るい笑顔の王子の身に、いったい何があったのか?

何事か今までにない動揺を、王子から受け取った三人は、無言でうなづき合うと、
王子を中心に少し離れて三角形を作り、それぞれその場に立ったのだった。

 王子の右前に立ったゼンス・ショーインが「生命の息吹をもたらす杖」を大きく振りかざし,
勢いよく地面に下ろすと、呪文を唱えてその地の精霊を呼び出した。

 そして王子の左前にはユラン・アユターが「聖なる龍のうろこからなる竪琴」をつま弾きながら、
夢へのいざないの旋律を奏でたのだった。

 そして王子の後ろに立ったロードス・クレオリスは「天上の光を宿す鏡」を
天上に向けると、天からの光を集めて、その光を王子の背中に送ったのだった。

 ユランの旋律に夢見心地になった王子は、静かに夢の中に沈んでいくと、
先ほどゼンスに呼び出された大地の精霊が、王子の身体を受け止めて、ゆっくり
とその場に寝かせたのだった。

 そしてゼンスの言葉にうなづきながら、精霊は一旦王子の額の奥にすっと消えると、
過去の記憶を手に持ちながら再び現れ、今度はロードスの鏡の中へと消えていった。
 すると、鏡の中から光が射し、三人の中央で次第に、ある光景が映し出されてきたのだった。

それは二日前、大地の王と王子が西の端の村々へ向かった日へと遡る・・・。

 王妃はその日、王子の好物の木の実と、ある薬草を摘もうと一人、この東の森へとやってきたのだった。
王妃の森への感謝を讃える美しい歌声に、まだ春早い冷たい日差しが一気に華やぐと、
その辺り一帯の生命ある者たちが、うっとりと王妃の美しい歌声に耳を傾け、
それぞれに明るくなった日差しを楽しんでいたのだった。
 

 しかし、その時。

 急に空の領土との境にある、「迷いの森」の方角から、「ドンッ。」と大きな衝撃が遠くに聞こえたのだった。
それからしばらくすると、得体のしれない黒い物体が、低い地鳴りと共に地を這いながら、
ものすごいスピードで王妃めがけて迫り来たのであった。

 「きゃあ~。」得も言われぬ恐怖をまといながら、動きが取れぬ程のスピードで、
猛然と迫りくる黒い物体。
王妃は恐怖を覚え悲鳴を上げたのだったが、なんとその黒い物体は、王妃の口をめがけて
突進してきたのだった。
 
 そして、王妃の口から侵入すると、一気に王妃の体内に広がっていったのだった。
するとその謎の物体は、すぐさま王妃の身体の感覚をすべて奪うと、ただ重苦しく冷たい恐怖で、
王妃の身体を支配していったのだった。
 王妃は、今までに味わった事の無い恐怖に慄きつつも、この黒い物体が何なのか、
自身の石に尋ねようと、そっと王妃のトパーズが宿る左手に右手を伸ばそうとした。

 その時、王妃の体内を支配していた物体が、今度は素早く王妃の思考にまで侵入すると、
すぐに王妃の意識を奪ってしまったのであった。
そうして、王妃は意識を失い、気絶した。

 すると謎の物体は、意識の無い王妃の身体を宙に浮かせると、そのまま大地の王の城まで
運んだのだった。

 そして、王の広間に着くと、謎の物体は王妃の身体からはい出そうとしたのだった。

 先ほどまで意識を失っていた王妃が目を覚ますと、王の広間にいる自分に驚いたのだった。
しかし王妃は瞬時に何かを理解したのか、この謎の物体を、自ら自身の体内に戻そうと、封印の呪文を唱えた。
 そして王妃は、王妃の身体の中に封印すると、誰も近づいてこれない様に、
自身の周りに火を放ったのであった。

 すぐさま炎は大きくなり、轟々と叫びくるう炎となって、王妃の身体にも容赦なく迫ってきたのだった。
しかし王妃は、自身に襲い来る熱い炎をよけようともせず、燃えさかる炎の中にいながらも、
ただ一心に封印の呪文を唱え続けたのだった。

 それからどれほどの呪文を唱え続けたのだろう・・・。

もし一瞬でも気を許したら、忽ち全てを支配されてしまったであろう・・・。
王妃はこれ以上、誰かが犠牲にならぬよう、そしてこの領土を守ろうと、ただ必死で
謎の物体と一人、闘っていたのであった。

 そして、意識も気力も尽きかけた頃、ようやくそこへ、大地の王と王子が城へ戻って来たのだった・・・。

 熱い炎の向こうで、王妃に呼び掛ける大地の王。
しかし、その声に王妃の返答はなく、呪文を唱える為に、必死で最後の気力を振り絞る王妃の姿・・・。 
 最後に王妃は、王に何か話しかけようとした。
しかしここで、白い靄が現れて事の次第に見入っていた三人の前から、王妃の姿をゆっくりと
消していったのだった。

 そして、次に鏡に映ったのは、静寂の月夜に照らされながら、質素な馬車に乗せられて
「月嘆きの塔」に向かう王妃のさびしい姿なのであった。
 王妃はこの時も、謎の物体を外に出さないように、必死で呪文を繰り返していたのだった。
しかし、王妃の体内に封印された謎の物体が、封じ込められてからずっと、王妃の体内を
炎で焼き尽くしていた事など、誰も知る由もなかったのだった。

 王妃は馬車に乗せられ、懐かしい大地の城を後にしながら、心の中では必死に王子と王に
語り掛けていたのであった・・・。

「王子・・・、愛しいユーリス王子、もう私の言葉をあなたに届ける力は、私には残っていないようです。
ユーリス。
だけど、これだけは忘れないで。心の底からあなたの幸せを私はただ願っています・・・。
大地の王よ・・、あなた。もう私はあなたと話すことも、きっと出来ないでしょう。
あなたと共に生きたことを私は決して忘れません。どうか・・、いつまでもお元気で。
ユーリス・・。あなた・・・。」

 そうしてしばらくすると、映し出されていた場面が、すうっと消えたのであった。





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by maarenca | 2014-06-25 13:43 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY  No3

        






THE SIX ELEMENTS STORY
   
 


No3
                                                    
                                                 
                                              

   
                                             著 水望月 飛翔



 その晩王子は夜の間中、広間での光景を思い出しては眠れずに、何度も寝返りを打っていたのだった。
「母上・・・。一体母上に何があったんだ。」
そして王子は、夜がまだ明けきらぬうちにそっと部屋を抜け出すと、広間の方へ行ったのだった。

 王の広間からは、木の柱が焦げたにおいがツンと王子の鼻をさした。
「もしかしたら昨日の事は夢だったのかも?」という、王子の淡い期待は一瞬で打ち砕かれたのだった。
 恐る恐る広間を覗くユーリス王子。
「ユーリス王子。広間にいてはなりませぬ。」そう背後から王子に語りかける声。
驚いて王子が後ろを振り向くと、一番古老の学者がそこにいたのだった。

「先生、なぜ僕が広間にいてはいけないのですか?母上は?母上の要体は?」
王子の問いに学者は眉間にしわを寄せると、ため息を吐きながら、ゆっくりと首を横に振ったのだった。
「ユーリス王子よ。どうか心してお聞き下され。王妃様の意識はまだ戻られてはおりませぬ。 
昨日からずっと、王の魔法の蔓で王妃様の回復を図っておられますが・・・、この傷を治すには難しいかと。」  

「母上と父上は?お部屋にいるのですか?だったら僕も行きます。」
そう言って王と王妃の部屋に行こうとしたのだったが、すぐに従者が呼ばれ、
王子の行く手は、またしても阻まれたのだった。
「ユーリス王子よ。今はなりませぬ。昨日の王妃はいつもの王妃ではありませんでした。
王妃様の行動にはきっとなにか原因があるはず。まずその解明をしなければ、
大事なる王の跡継ぎであります王子の身を、王妃様に近づける事は出来ないのです。
どうか分ってくだされ。」学者はそう言うと、もう一度、王子の部屋に連れ戻すよう、
従者に命令したのだった。

「先生。」
王子は悲しそうな目で学者を見たのだったが、抵抗をあきらめ、そのまま王子の部屋に向かった。
そして王子は部屋に戻ると、自分が母の元に近寄ることすらできない自身の幼さを、悔しく思ったのだった。

 しかし、その日一日部屋から一歩も外へ出る事を禁じられた王子は、部屋を出る機会を狙っていた。
次の日の夜明け前。王子の部屋の前で見張っている従者の交代の隙間をついて、
王子はこっそりと部屋から出たのだった。
 冷たい冷気が漂う廊下を、気配を殺して歩いて行くと、城の者が話す小さな声が、
王子の耳に届いたのだった。
 それは、夜中のうちに王妃をこの城から「月嘆きの塔」に幽閉した事を、話していたのだった。

ユーリス王子の鼓動が一つ痛みと共に鳴った。
「母上?!」王子は後ずさりすると、そっと人目につかぬよう城を飛び出し、そのまま森へと走ったのだった。

 城の者が言っていた「月嘆きの塔」とは?
王子は初めて聞くその言葉に、よくは分らないが何か冷たいものを感じ、何もできない自分と、
母への想いを募らせたのだった。
 方角も分らず森をさまよう王子。
当てもなく、王妃を探して森を走りまわったのだったが、まだ少年の王子が、自身の足で聞いた事もない
「月嘆きの塔」を見つける事は、到底出来ないのであった。

 どれだけの時間が過ぎただろうか。
やがて疲れた王子は足を止めると、力なくその場に泣きくずれたのだった。

そうして泣きつかれ、知らぬ間に深い眠りに落ちていった王子。

「・・リス。ユーリス王子。どうか泣かないで。私はずっとあなたの傍にいますから。」
白い靄が立ち込める中、そっと王子の頭をなでる優しい手。

「母上・・・?」
王子は聞きなれたような、初めて聞くような不思議な感覚で王子に語りかける声を聞いたのだった。

「いや、母上ではない。一体あなたは誰?」
王子が不思議そうにその声の主に聞くと、王子をなでる手がすっと遠のき、少し離れた所に、
見た事もない金色の長い髪をした少女の後ろ姿を見たのだった。


「君は、誰・・・?」
王子がもう一度聞くと、顔は見えないが少しこちらに振り向いた様な気配を見せると、
すぐにその少女の姿は白い靄の中に消えていったのだった。
「待って。」
少女に向かって叫ぶ王子。王子は自身の声に驚き、目をさましたのだった。

 夢と現実の境界線が分らず、ぼんやりした頭で王子は、今自分がどこにいるのか、考えたのだった。
高い木々の枝からまぶしい木漏れ日を受けると、少しずつ、儚い夢から悲しい現実へと、
引き戻されたのだった。

 力なく笑いながら、ゆっくりと立ち上がろうとした王子。
その目の先に、ふとこの大地の領土では見た事もない鳥が一羽、うずくまっていた。
よく見るとその鳥は、片羽を痛めたのか動けないようでじっと身をすくめていたのだった。
 その鳥は、ちょうど鳩位の大きさで、滑らかで光沢のある美しい乳白色の羽と、濃いブルーの瞳を持ち、
胸元にはまるで美しいネックレスでもしているかの様な、色取りどりの羽が立ち並んでいた。

 そして、桜貝の様な愛らしい嘴が小さく震えるたびに、「キューン。キューン。」と、
心細そうな鳴き声がこぼれてくるのであった。

 王子はゆっくりと近づき、静かにその鳥を両手に抱えると、そっとその鳥に聞いたのだった。
「お前はどこから来たの?・・怪我をしたのかい?・・お前の仲間は?」
優しく話しかけるユーリス王子。
しかし、ただその鳥は心細そうに「キューン・・・キューン・・。」と、小さく鳴くだけなのであった。

 王子はこの時、この傷ついた鳥を王妃の姿と重ね合わせ、この鳥を助けたいと思うのだった。
苦しむ母を助けられなかった無念を、まるで埋め合わせようとするかの様に。
「もう大丈夫。僕が君の傷を直してあげるね。」そう言うと、優しく鳥の頭をなでたのだった。

 その時、穏やかな風が暖かな空気を連れて、王子の周りを吹き抜けていった。


 風が過ぎ去ったあとの方角を何気なく見つめていると、王子は何やら草が動く気配を感じた。
「こんな森の中で何だろう?動物達の気配ではないようだけど。」しばらくじっとして目を凝らしていると、
王子の目の前に大きな杖を持った、3mはあろう大男が姿を現したのだった。

「ゼンス様。」王子は、その男を見るなり懐かしそうに駆け寄った。

「おお、これはこれは。広大なる大地を収めし王のご子息、ユーリス・マレンスタイン王子。
我らは今しがた、大地の領土にようやく足を踏み入れたばかりと思いましたが、
まさかこのような時間にこのような森でお会いするとは。」
 大男はそう言うと、身体をギシギシ言わせながら、王子に頭を下げたのだった。

 それから顔をあげ彼の持つ「生命の息吹をもたらす杖」を大きく回し周りを見回すと、
不思議そうに王子に聞いたのだった。
「して、ユーリス王子。まさかこの様な時間に、森にお一人でおられるとは思いませぬが、
お付きの者はいかがなさいましたかな?」
 
 樹木の枝の様な三本の腕を持つ緑の民のゼンス・ショーインは、先ほどよりもっと身体をかがめて、
王子の顔を覗き込むように、優しく王子に問いかけたのだった。
 それと同時に、ゼンスの背中にいる小さな住人達が、何やら落ち着かぬようにざわめいているのを、
ゼンスの額に宿るエメラルドは感じとっていたのだった。

 ゼンスの問いかけに、何から話していいのか想いを巡らせる王子。
すると、今度はゼンスの背後から、落ち着いたブルーグレーの色合いの翼を持った人物が、
王子に声をかけたのだった。
「お久しゅうございます。安寧なる大地を司りし大地の王のご子息、ユーリス・マレンスタイン王子。
ご健勝の事、喜ばしく・・・。」ロードスは、あいさつの口上の途中で王子に抱かれた鳥に気付くと、
言葉を失い自身の目を疑ったのだった。
 ロードスの右目のサファイアが鋭く光った。

 ロードスはそっと、誰にも気づかれぬように注意深く、胸に抱いた「天上の光を宿す鏡」に
その鳥の姿を映し出した。
 そして、鏡に映し出された姿に息を呑んだのだった。
「王子。この鳥は一体・・。この鳥をどこで見つけたれたのですか?」
 いつもは3人の中で常に寡黙で、「崇高なる賢者」と呼ばれし、空の民のロードス・クレオリスであったが、
いつになく翼を広げ肩を震わせると、こわばった表情で王子に近寄ったのだった。
 ユーリス王子は、いつにないロードスの気迫に驚き、後ずさりした。

(つづく)






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by maarenca | 2014-06-21 10:20 | ファンタジー小説