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カテゴリ:ファンタジー小説( 51 )

THE SIX ELEMENTS STORY No22









THE SIX ELEMENTS STORY



No22




                                       著 水望月 飛翔




 天上からの光に照らされる中を、色とりどりの美しい花々が咲き乱れながら空中を漂い、
その合間を宙に舞うまだ固い種から次々と、まるで生き物の様に動くつるが自由に伸びていき、
その間を踊るように美しい鳥や蝶が飛び回るのだった。

 大勢の笑いあう人々の姿。
そして、その中で黄金色のマントを来た若者が被っていたフードを取って、こちらに振り向いて。

 周りの人々の祝福の言葉に笑顔で答える姿に、祝いの言葉をかけたのだったが。
どうしても私に気づいてくれない。王子。どうして私に気づいてくれないの?
手を伸ばして近づこうとするけれど、どうしても王子の傍にたどり着けない。
「王子。~リス王子・・。」その問いかけと同時にリティシア姫は、やがて姫のベッドの上で
目を覚ましたのだった。

 天上に向かってのばした腕は掴む物もなく、そっと腕を下ろすと、姫は心細そうに
ぼんやりしながら天上を見つめたのだった。

姫の心には自分を見つけてくれない、一抹の悲しさが心に残っていた。(ユーリス王子・・・。)
 しかし姫は、ユーリス王子の成人の儀式の成功を思い出すと、(ああ、ユーリス王子は
無事に成人の儀式を終えられたのね。よかった。でもどうして、私に気づいてくれなかったのかしら?)
と一人、あれこれを想いを巡らせたのだった。

 そうして、ふとベッドのわきに視線を向けると、兄であるカサレス王子が目を閉じて、
腕を組んで座が目に入ってきた。

 その姿を見ながらリティシア姫は、(何故、兄様が私の部屋にいるのかしら?)
と、ぼんやりと考えていたのだったが、しばらくして、クラスカス山へ一人で行ったことを、
ようやく思い出したのだった。

(どうしましょう。)
リティシア姫は、夢の中と現実の違いを思い出し、気まずい思いで胸に手を置き、
兄を見つめたのだった。
 するとカサレス王子は目を開け、姫の顔を見るとにっこりとほほ笑んで、こう言ったのだった。

「おやっ?どうしてそんな顔をしているのかな?リティシア。何か悪い夢でも見たのかい?」
少し含みを入れながら微笑み、リティシア姫にこう言うと、王子は椅子から立ち上がり、
美しく長い巻き毛をはらうと、その伸びやかな身体を思い切り伸ばしたのだった。

 それからふと思い出した様に姫の方に向き直ると、王子は姫にこう言ったのだった。
「リティシア。君には夢遊病の気があるとは思っていたけど、どうやら私もそうだったらしい。
クラスカス山の頂上から、君を抱いてここまで連れてきた夢を見たのだが、どうも腕が重いな。
まるで言う事を聞かない重たい生き物を抱えた様に、なんだか腕が痛いよ。」

 そう言いながら、腕をさすっていると、リティシア姫は王子に向かって、「兄様ひどい。
私はそんなに重くないわ。」と叫んだのだった。

 その後姫はハッとして、バツが悪そうに下を向いて押し黙ったのだった。
こうして二人の静かな沈黙の中、カサレス王子はゆっくりと姫のベッドに腰を降ろすと、
姫の手を取りこう言ったのだった。

「リティシア。確かに君はそんなに重くないよ。だけど、君のとった行動はどうだろう。
父上や母上にとって、君のとった行動はそんなに軽いものなのだろうか?」
 そう優しく静かに語りかける王子の問いに、リティシア姫はうつむいて、しばらくしてから
兄の顔を覗き込むと、こう言ったのだった。

「兄様、ごめんなさい。また兄様に迷惑をかけてしまったわ。私、こんなことをして、ごめんなさい。」
そこまで言うと一息つき、そして静かにこの優しい兄に向けてこう言ったのだった。

「でも兄様、また助けてくれてありがとう。」やっとの事でそう言うと、姫は恥ずかしそうに下を向きながら、
小さく兄にそう言ったのだった。

 そんなリティシア姫に、やれやれといった表情をしながらも、優しく姫の頬に手を添えると
カサレス王子は、「今夜はもう遅い。もう眠りなさい。」と言って、姫を横にならせたのだった。

 そして、左手で姫の部屋に飾ってある花から、一枚花びらを抜き取ると、優しく握って、
手の隙間からそっと息を吹きかけたのだった。

 それから静かに握った手を開くと、淡いブルーの花びらが同じ色の羽の美しい小鳥となり、
優しく子守唄を歌いながら、姫の頭上を飛び回り、淡く穏やかな夢の世界へと、
いざなっていったのだった。
 リティシア姫はそんな小鳥の心地よい歌声に導かれるように、すぐにスーッと穏やかに眠りに着くと、
それを見届けた王子は、静かに姫の部屋を後にしたのだった。


(リティシア。今は私に何も話してくれないんだね。それでもいい。私は君の事をずっと見守っているよ。)
カサレス王子は一人、胸の内でそう呟いたのだった。そして、自身の部屋に戻ろうとした時、
父であるタリオス王とすれ違ったのだった。王は、外の気配を纏っているカサレス王子に、
厳しい目を向けるとこう言ったのだった。

「カサレス王子よ。このような時分に何をしておるのだ?何やら城のものではない空気を
纏っておるようだが。この空の領土を継ぎしそなたが、何をこそこそと動いておるのだ。」
そう言うと、思い出したようにこう続けたのだった。

「おおそうじゃ。大地の王子が今日の成人の儀式で、己の額にしかと石を宿したそうじゃ。
何か良い贈り物を考えねばならぬの。さてそれより、そなたはその左手からもっと上位に石を
移す策でも見つけたのか?それとも少しはましな力が使える様にでもなったのであろうかの。」
と冷たく突き放す様に王子に言ったのだった。

 そのような冷たい言葉を父王から受けながらも、カサレス王子はにっこりとほほ笑むと
王に向かって、「はい、父上。今宵の父上にはこの様なものがよろしいかと。」そう言うと王子は、
廊下に飾ってあった銀の飾り皿を、石の宿った左手でそっと撫でると、皿に施された妖精の
レリーフが飛び出して、タリオス王の目の前で楽しそうに踊りだしたのだった。

 それを見た王は怒ったような顔を見せ、「もうよい。その様なくだらぬものなど、私には必要ない。」
と短く言うと、さっと王子に背を向けて足早に去っていったのだった。

 そんな王の冷たい声に、楽しそうに踊っていた妖精は元気をなくし、悲しそうな顔を
王子に見せたのだった。
 するとカサレス王子は、そんな妖精に申し訳なさそうな顔を向けると、
「ごめんね。王はきっと疲れていたのだろう。君の踊りはとっても素敵だったよ。」
と言って、左手で優しく妖精を撫で、元の飾り皿の上に戻したのだった。

 そうして、窓の外に浮かぶ美しく冷たく輝く銀入りの月を眺めながら、カサレス王子は一人、
何を思っていたのであろうか。

 その頃タリオス王は、自身の部屋に戻ると、王の椅子にどっかりと疲れた様に座り、
一人物思いにふけったのであった。

「やれやれ、次を継がねばならぬ空の領土の王子が、手の位置などという低い場所に石を収め、
なおかつ、あのようなくだらぬ事にしか力を使えぬとは。  しかも、いつもあの様に腑抜けたように
笑う王子に、果たしてこの空の領土を守る事が出来るのであろうか?」と、呟いたのだった。

 父であるタリオス王は、崇高なる志の高き王であり、常に空の領土の事を思っていたのだった。
故に、いつも何かを思いつめているような、張り詰めた面持ちでもあったのだった。
そんな王の心に呼応するようにまた、空の領土は少しずつ寒さが増し、張りつめた空気は
崇高な美しさを漂わせていたのだった。

 もちろん、空の領土の民達からは、この責任感の強い偉大なる王に、絶大な
る信頼を贈られていたのであったが、カサレス王子は、父王が心から楽しそうにして寛いでいる
姿を見た事が無く、幼い頃よりずっと、そんな父王にいつか笑ってもらいたいと、思う様になったのであった。

 美しく整然と整っている空の領土。

しかし、すべてが美しく無駄なく整っているからこそ、また少しの笑いもない息苦しさをカサレス王子
は幼き頃より、ひとり感じ取っていたのだった。

さて、「聖なる騎士団」が結成されてから何十年か経ち、ようやくこの頃になって、それぞれの領土の
交流が少しずつもたらされる様になり、互いの王位につく者への成人の儀式の成功を祝って
、心づくしの品が「聖なる騎士団」の手により、渡される様になったのだった。

 故に、何処の領土の王子や姫が、身体のどの位置にどのような力を宿したのかも伝えられ、
それぞれが少しずつ心に思うところがあったのであろう。

 特に、太古の昔より自身の先達たちの志の高さを、誇りに思っていた空の領土の王達は、
常々更なる自身の高みを宗としていたのであった。
 そんな中、今の王の元に生まれしカサレス王子の優しさの、真の素晴らしさを、残念ながら今はまだ、
この父王には理解してもらえなかったのであった。

 それでもカサレス王子は、笑いを忘れた父王に、いつかは安心して笑ってもらいたいと、
強く心に思っていたのだったが。

 そんな優しい兄が大好きなリティシア姫は、まだ小さい頃から知らず知らずの内に、
ふと感じる兄の悲しみを和らげようと、この優しき兄の手を取ると、石に向かって「きれいね。きれいね。」
と優しく撫でるのであった。
 そんな幼いながらも、優しい気遣いを見せる愛らしい妹姫に、いつもカサレス王子は、
救われる思いを抱き、そしてそんな妹姫の喜ぶ顔を見たくて、いろいろなものを変身させては、
喜ばせていたのだった。

「そんな幼かったリティシアも、今では私に何か秘密を持ち、もう成人の儀式を迎える年までになったとは。」

自身の部屋に戻った王子は、窓にもたれながらまだ幼かった頃の姫を思い出し、一人懐かしんでいたのであった。

 そう、姫のこれからの行く末を、きっと誰よりも強く案じながら。


 昨日のユーリス王子の成人の儀式より、一夜明けた大地の王の城の中庭で、何やら一人、
踊る様な優美な動きで、剣を操る者の姿あり。
                                
きらめく朝日に照らしだされて、静かに祈りを込めて動くそのさまは、風に
吹かれたるつる草のごとく、あちらこちらに反転する剣が、まるで他の生き物の様に、
自在なる動きを見せていたのであった。
 剣の動きが一つ変わるごとに、その切っ先からは鮮やかな光の波動が生まれだし、
四方八方に散らばっていったのだった。
「朝早くから何ともうるさいのう。」そう言いながら、「聖なる騎士団」の長老ゼンスが、
杖を突きながら中庭にやってきたのだった。

「ゼンス様、これはすみませぬ。しかし、私は音を立てたつもりはないのですが?」
ゼンスの突然の登場に、先程まで自身の剣を用いて、「悲断の舞」を舞っていたジインであったが、
すぐさまその場に跪き、ゼンスにそう言ったのだった。

と、そこへもう一人、「何を申しておる。そなたのその抑え切れぬ大きな波動を、我らが解らぬとでも
思うておいでか。」と言いながら、長老ロードスも姿を現すと、「本当に。まだまだ力のコントロールが
出来ておりませぬな。これは後ほどみっちりと、また特訓をせねば。」と、長老ユランも続けて
こう言ったのだった。

 そんな三長老の言葉にジインは、「そんな。今日は勘弁してください。やっと久し振りに、
この大地の領土に戻ってこられたのですから。」と、困った顔をして言うジインなのであった。

 しかしそこへまた、「いやいや、少し長老方にお手合わせをしていただいた方が、
少しは余分な波動も落ち着きを取り戻す事でしょう。この大地の領土に入る前からずっと、
そわそわと浮足立って、とても君の傍に居られたものではなかったのだから。」と、
笑いながら空の若き騎士、イズール・キョークが言うと、水の若き騎士、リューレン・クボーも
その後を引き取って、「そうそう、あなたの波動の荒さに、私の肌も悲鳴を上げていたのですよ。
まさか私は、自分自身に自身の「癒しの手」の力を使うとは思ってもみませんでしたよ。」
と、両手をかかげながらそう言ったのだった。

「参ったな。皆様、そんなに俺をいじめないで下さいよ。」と、剣を担いで困ったように
言うジインなのであった。
 そんな一同の、穏やかに笑いあう姿を、ユーリス王子は二階の窓から、身を乗り出して
眺めていたのだった。

「ジイン、よかった。「聖なる騎士団」の皆と仲良くやっているのだな。彼にはもう、
新しい仲間が出来たのだな。」と、ホッとした反面、また少し取り残されたような寂しい感情もある事を、
ユーリス王子は残念ながら、認めざるを得なかったのであった。

 そんな事を、一人思っていたユーリス王子の姿を見つけると、ジインはうれしそうに手を振りながら、
「よお、ユーリス。身体の調子はどうだい?」と、つい二人だけの時の調子で王子に声をかけたのだった。

 しかし、それを聞いた「聖なる騎士団」の皆は驚いて、すぐさま厳しい注意を受けるジインなのであった。

「大地の領土の誇りであろう、「聖なる騎士団」のジイン・クイードよ。どうやらまた、私の教えを特別に
受けたいようですな。」と神妙な面持ちで、ロードス・クレオリスに言われるジインに、
ユーリス王子をはじめ、どっと笑いが起こる一同なのであった。

 こうして、穏やかな温かい風を受けて、ユーリス王子は懐かしい友との再会をうれしく思ったのだった。



空の領土 カサレス王子                                   イラスト 佳嶋 
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 (キャラクター著作権は水望月飛翔が保有しているため、無断使用、転載は堅くお断りいたします。)

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by maarenca | 2014-08-27 11:17 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No21







THE SIX ELEMENTS STORY





No21


                                 


                                       著 水望月 飛翔



 この日の大地の領土は、何と喜びに満ちた、幸せな一日を過ごしたことであったろう。
ユーリス王子の、「愛する者を守りし力」を持ったトパーズが無事に額に収まった喜びと、
そんな晴れやかな日に「聖なる騎士団」の一行が祝福に訪れるとは。

 この素晴らしき一日を、大地の民達はきっと、それぞれが胸に強く焼き付けた事であろう。
その夜は一晩中、大地の王の城でもずっと、祝宴が催されたのであった。
大地の領土の星々は、久しぶりに穏やかに温かな祝福の色を湛え、次々と美しい文様を創っては、
本当に久しぶりに悲しみの色を脱ぎ捨てて、慶びの詩を奏でたのであった。

 そんな祝福に満ちた星々が瞬く夜空の下、王の広間からバルコニーに姿を現した二人の影。
それは、今日の大事を終えて、寛いだ表情で笑うユーリス王子と、そんな王子の姿を、
優しく兄の様に見つめるジイン・クイードであった。

「ユーリス王子。本当に素晴らしい成人となられたお姿。私も心から嬉しく思います。」
しかし、そんなジインの騎士らしい儀礼的な言葉に、王子は少しそっけないように、こう言ったのだった。

「こちらこそ。我らが誇り、ジイン・クイード殿。あなた様のお言葉、感謝いたします。」そう言うと、
ユーリス王子は一瞬黙ったのだったが、目をそらしたまま、こう言ったのだった。
「しかし、貴殿からそのような他人行儀な物言いをされては、若輩であるわたくしは、
いったいどのような言葉をお返しせねばならぬのか、皆目見当も尽きませぬ。」

そうして下を向いてから、王子はジインの方に向き直りこう言ったのだった。
「そんな他人行儀な言葉、ジインには使ってほしくない。僕は今でも、君の前では
ただのユーリスだよ、ジイン。今日は来てくれて本当にありがとう。また君に会えて本当にうれしいよ。」
と、ユーリスが王子としての姿でも、また成人の姿でもなく、幼いころから変わっていない、
二人の間で交わされたままの姿でジインにこう言ったのだった。

 するとジイン・クイードは、聖なる騎士団としてではなく、一人の青年の顔に戻ると、
必死に涙をこらえながら、ユーリス王子の肩に両手を置き、こう言ったのだった。

「ユーリス・・・。俺は、俺は、「聖なる騎士団」に入ってからもずっと、お前の事を一瞬たりとも
忘れた事などなかった。王妃様にあの様な事が起こった時、俺はひどい怪我でずっと起きられず、
お前の傍に居てやることができなかった。ようやく俺が起き上がれる様になってからも、
お前が必死に悲しみをこらえる姿に、無力な俺は何も出来ずに、どんなに悔しかった事か。」

 そう言うとその当時を思い出したのか、ジインの目に涙が溢れてきたのだったが、
しかしジインはそのまま真っ直ぐに王子を見詰めて、続けてこう言ったのだった。

「ユーリス。あの頃の俺には、何もお前にしてやれる事ができなかった。だからこそ、
俺は自分の成人の儀式に大層な願いを賭けた。お前の悲しみを、この大地の悲しみを、
少しでも断ち切りたかったから。」 
そう言うとジインは、自身の剣を手にして、優しく撫でたのだった。

「だけど、せっかくこんなに素晴らしい剣が出現しても、俺の力がまだまだ未熟だったから、
お前の悲しみをすべて拭い去る事はできなかった。だからこそ、「聖なる騎士団」に入ってからの俺は、
長老や周りの仲間達の教えを一つ残らず聞いて、早く俺の力がもっと強くなる事を願ってきたんだ。」

 そこまで言うと、ジインは先程まで思いつめていた表情を和らげ一息つくと、ホッとした表情で、
今宵の穏やかな星々を眺めては、今度はうれしそうな顔を王子に向けたのだった。

「ユーリス。よくやったな。俺の弟にしてやった甲斐があったぜ。」
そう言ってほほ笑むジインの姿に、ユーリスは幼い頃から王子の供として守り、
時には兄の様な存在で、ずっと共に過ごした楽しかった時の事を、ゆっくりと思い出したのだった。

 そして、そんなジインが「聖なる騎士団」へ入ってからのこの何年間、これまで一人で
堪えていた感情が一気に溢れだし、次第に涙がとめどなく溢れてきたのだった。

「ジイン。君が自分の成人の儀式を終えて、すぐ僕と父上の元に来てくれたあの時の事を、
僕はずっと忘れた事などなかったよ。本当に、本当にうれしかったんだ。ボロボロになった身体で、
まだ慣れていないその剣を持って、何度も呪文を唱えてくれたね。でもあの時は、
まだ何も術が発動しなくて。そのうち君は怒って、悔しそうに泣き出したけど。
でも父上と僕は本当にうれしかったんだ。あの時の君の姿があったからこそ、
僕は今日の日を迎えられた。あの後、君の剣が放つ波動で、何度も悲しみを癒してもらったけれど、
でも、僕と父上が一番癒されたのは、そう、何も発動されなかったあの日の君の姿なんだ。
何にも勝る、あの日の君の姿だったんだよ。」

 ユーリス王子にとって、あの日の事は何があろうとも、きっと一生忘れる事などできないであろう。
ジインは、大した輝きを持たぬ自身の石に、大地の領土に依然として残る悲しみを断ち切りたいが為、
遥かに分を超えた望みを自身の石に賭け、成人の儀式に挑んだのだった。

 しかしそれは、相当なる石の反発を受け、長い時間を何度も絶望の淵にさらされたのであった。
そして、ようやく石の力を宿したのだったが、彼の身体は大層なダメージを受け、ボロボロになった
身体を引きずりながらも、ユーリスと王の前に現れたのだった。

 しかし、石を宿したからといって、すぐに石の力を使えるわけではなかったのだった。
ジインはその日、何度も術を発動させようと、懸命に自身の剣に呪文を唱え続けたのであったが、
気持ちばかりが空回りして、とうとうその日は、何も起こらなかったのであった。
 そしてジインは、あまりの自身の不甲斐なさに、王の前であることも忘れ、大きくその場に
泣き崩れたのだった。

 その時の場面を、ユーリス王子はまるで昨日の事の様に、鮮明に思い出し、そしてその時の
ジインの強い気持ちがずっと自身の支えとなった事を伝えたのだった。
そんな成長したユーリス王子の姿に、じっと聞いていたジインの二人は、今日のこの再会の日を、
本当にうれしく味わっていたのだった。


 そんな穏やかで、平和な時を過ごしていた大地の領土から、迷いの森を抜けて、
遥か彼方、空の領土。
その空の領土の中で一番天の近くに浮いている島に一際高くそびえたつ山。

そのクラスカス山に、一人近づく者の姿あり。

 ライラックと薄紅色からなる、グラデーションの色彩に彩られた柔らかな羽へと成長した、
美しき乙女となりしリティシア姫、その人であった。

 かねてより、ロードス・クレオリスの右眼に宿りしサファイアから、リティシア姫の持つ
サファイアへ移してもらった波動の力により、今日、かの大地の領土からの便りの波動を感じ取った
リティシア姫であったのだった。

 もともと高いところにある浮き島を領土としていた空の領土の気温は、他の領土よりも一段低く
肌寒いものであったのだったが、この一番上の浮島にそびえ立つクラスカス山の気温はまた一層冷たく、
氷の粒をいつも空気の層に忍び込ませているかの様な寒さであったのだった。

 そんな寒い冷気の中、リティシア姫はそっと城を抜け出して一人、クラスカス山の頂をめざし、
飛んでいたのであった。
「ロードス様からのこの知らせ。きっと、ユーリス王子の成人の儀式の知らせだわ。
ああ、どうかご無事で、成人の儀式が終わっています様に。」そう祈りながらリティシア姫は、
寒さに凍えながら飛び続けたのだった。

 静かに美しく瞬く星空の元、夜空の色彩が冷たく漂う空の領土。
そのクラスカス山の頂に、夜空のそれとは違う小さな輝きが、なにやら明るい光を放っていたのであった。

「ああ、あの光。きっとあれだわ。」
その小さな輝きを見つけると、リティシア姫は急いで傍に近づいて、その光をそっと両手ですくい上げると、
フーっと優しく息を吹きかけたのだった。

 姫の温かな優しいぬくもりを感じた光は、少しずつ大きく光を広げていき、やがては、
人がすっぽり入れるほどの大きな光に成長し、その中に少しずつ何やら人だかりの映像が
現れてきたのだった。

 それから、大勢の大地の人々の笑顔の中で、黄金色に輝く美しい衣装を纏った若者が、
時折自身の額のトパーズに手をやりながら、誇らしそうに笑っている姿に、姫の視線が止まったのだった。

「ユーリス王子。」姫はそう言うと、涙が出そうになるのを必死にこらえたのだった。
「よかった。ご無事に成人の儀式を果たされたのですね。何と美しいトパーズの輝きなのでしょう。
きっと素晴らしいお力を手に入れたのですね。」
 姫はホッとした表情で、ユーリス王子の姿をじっと見つめていたのだった。
しかし、ここは一際寒いクラスカス山の頂、薄布しか纏わずにきた姫は、そのあまりの寒さに、
次第に気を失ってしまったのだった。

 しばらくすると、月の明かりに静かに照らし出された一人の若者の姿が。
「やれやれ、リティシアときたら。こんな薄布だけでこの山の頂に来るとは、相変わらず無鉄砲な事をする。」
そう一人ごちると、暗闇から現れた若者は姫を抱えて空の城へと、そのまま飛んでいったのであった。




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by maarenca | 2014-08-23 09:58 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No20






THE SIX ELEMENTS STORY






No20




                                          著 水望月 飛翔




「おお、ユーリス王子よ。よう戻られた。」
王は、王子をうれしそうに抱きしめ、じっと王子を見つめると、「王子よ。よう乗り越えたの。
なんと立派な晴れがましい姿じゃ。」と、ユーリス王子を眩しそうに見つめたのだった。

 そんなうれしそうな父王の顔を見て、王子もまたうれしく思ったのだったが、一歩王から離れると
その場で父に跪き、こう言ったのだった。

「父上。ただいま戻りました。これからは、もっとわたくしが父上をお助けして参りますので、
どうぞ、わたくしを正しい道にお導きください。」と王に告げるユーリス王子。それを聞いて、
嬉しそうにうなずく父王。

 そんな二人のやり取りに、周りにいた城の者達は、「ユーリス王子に栄光あれ。大地の領土に未来あれ。」
と、一人また一人と、次々に歓声を挙げたのだった。
そうして、大地の「祈りの寺院」の鐘が、今度は晴れやかに、王子の成人の儀式の成功を高らかに
鳴らしはじめると、大地の領土の人々は、その喜びを伝え聞き、一人、また一人と大地の城に向かって、
祝福の祈りを捧げたのだった。

 そんな大地の人々が喜ぶ中、ようやくこの大地の領土の空にも、それまで日の光を遮っていた
悲しみの薄雲が少しずつ消えていき、天からの祝福の光が、幾重にもさし込んできたのであった。

 それは、大地の王妃がこの地を去ってからこの方、ようやくこの領土にも、晴れやかな喜びが
戻って来た、瞬間でもあったのだった。

 しばらくてユーリス王子と大地の王が共に、喜びに満ちた姿を城の外に現すと、
城外に集まっていた大地の民達は次々とその場に跪き、王と王子に祝福の言葉を捧げたのだった。
 それは、どの顔にも喜びが満ち溢れ、次代を継ぐ若き王子に、大地の領土の新たなる未来と喜びを
共に見るのであった。

 そして、そんな歓喜の民達の中、周りと違う一つの集団の姿が。

それまで、多くの民達から、祝福を受けていたユーリス王子であったが、まだ大分離れた所から、
その集団の気配を感じとると、先程までの成人の儀式をやり遂げた大人びた表情とは打って変わって、
まだ16歳の一人の少年の、満面の笑顔の姿に戻っていったのだった。

「ジイン・・・。ジイン・クイード。」
ユーリス王子は大きな声でそう叫ぶと、その集団の中にいる人物めがけて、素早く駆け寄って
いったのだった。

「ユーリス王子・・・。なんたる素晴らしきお姿。」
王子に名を呼ばれたその者は、跪いていたその場から立ち上がると、二、三歩王子の方に進んで、
駆け寄ってきた王子の身体をしっかりと、その大きな身体で受け止め、抱きしめたのだった。

 二人はしばし、しっかりと抱き合い、お互いの顔をうれしそうに見つめ、この喜びの時を一緒に
噛みしめたのだった。

 そして、そんな二人の目に確かに光るものが。

そんな二人の背後から、懐かしく温かい声が聞こえてきたのであった。
「次なる平安の時代を築きし若き大地の王子。ユーリス・マレンスタイン王子。成人の儀式を無事に終え、
この様に立派になられたお姿に、祝福の言葉をお掛けできる事は何たる幸せ。このめでたき日の喜びを、
偉大なる大地の王と、大地の領土の方々に、「聖なる騎士団」を代表して、お祝い申し上げまする。」

 緑の領土出身、「聖なる騎士団」の長老、ゼンス・ショーインがゆっくりと、そこに居合わせた人々に
そう言うと、大地の人々の喜びと誇りもまた、大きく膨らんでいったのだった。

 そして、ゼンスが自身の持つ杖を高く上げ、そこから大きく地面に「ドン。」と打ち付けると、
大地の領土の精霊たちが、そこかしこから姿を現し、今までに見た事の無い新しい種類の花々や
植物の種をふり撒いて、この地の領土を継ぎし若き王子に祝福をしたのだった。

 宙を舞うその花々や種たちに、次は空の領土出身の「聖なる騎士団」の長老、ロードス・クレオリスが
自身の鏡で天上の光を誘導し、天からの祝福を注ぐと、まだ固い蕾のものが次々と満開に花開き、
まだ固い種だったものも、次々と初々しい若い芽を成長させていったのだった。

「新しき時代を創りし大地の王子。ユーリス・マレンスタイン王子。この晴れがましき立派なお姿を早々に
拝見出来ようとは、何たる喜び。王子の意志の強さ、正しさは、きっと天上の父もお喜びと存じまする。
大地の王、ならびに大地の皆様、どうぞ天界からの祝福をお受け下され。」と、祝福を届けるロードス。
 
 その光景を見届けると今度は、水の領土出身の「聖なる騎士団」の長老、ユラン・アユターも
自身の竪琴をつま弾いて、喜びと未来への希望の詩を届けると、満開の花びらが次々と違う色の
変化を見せ、その花の香りに誘われるように、様々な種類のめずらしい美しい鳥や蝶たちが集まり、
まるで祝福を届ける様に優雅に飛び回ったのだった。
「馥郁(ふくいく)たる喜びをもたらしたもう、大地の王子。ユーリス・マレンスタイン王子。王子のお心の強は、
この大地の領土の誇りでありましょう。この喜びの時にお目にかかれたるは何たる幸せ。
どうぞ、生きとし生ける物の祝福を皆様に。」ユランはゆっくりと、周りの大地の民達にも祝福したのだった。
 
 そんな三人からの祝福に、何処からともなく華やいだ暖かい風が吹き始め、大地の領土の人々は、
久しぶりに声を挙げて、この時を大いに楽しんだのだった。

 そんな群衆の歓喜の中、先程から共に喜びを分かち合っていたユーリス王子とジイン・クイードで
あったが、少しするとジインは大地の王の元に歩み寄り、王の元に跪いてこう言ったのだった。

「広き平和なる領土を守りし、偉大なる大地の王。ご子息ユーリス王子のこの素晴らしき成人の日に、
またお目に掛かれたるは何たる幸せ。お二人の輝かしいお姿に、今日ほどこの大地の領土に
生まれたる事を誇らしく思えた事はありませぬ。偉大なる大地の父。今日の日のこの慶び、
誠におめでとうございまする。」ジイン・クイードが歓喜を胸にそう告げたのだった。

 大地の王はこの祝いの言葉に対し、「我らが大地の領土の誇り、「聖なる騎士」となりし、
ジイン・クイードよ。今日のこの喜びの日にそなたにまた会えるとは、何たる幸せ。
幼き頃より我が息子、ユーリスを良く守り、また良き理解者としてずっと傍についていてくれた。
あれの母の不幸の後は、そなたの兄の様な働きぶりに、我らはなんと心強かった事か。
また、そんなそなたが成人の儀式を乗り越えて、聖なる神器「悲しみを断ち切りし剣」を出現させて、
我ら父子の悲しみを随分と和らげてもくれた。「聖なる騎士団」に入ってからは、何年振りかのう。
よう、この祝いの日に戻ってきてくれた。そなたの立派な姿を見る事が出来て、なんとうれしい事か。
ほんに、よう来てくれた。今日は一緒に王子の成人の儀式の成功を祝ってくれ。」

 この大地の領土から初めて、「聖なる騎士団」となった、ジイン・クイードを自身の息子を見る様な
温かい、父なる慈愛の目で、大地の王は見つめ、こう言ったのだった。

 そして、そんな二人の前に静かに現れた二人の姿。
 
 一人は空の領土出身、ジインよりも前に「聖なる騎士団」に入り、己の舌に
サファイアを宿し、「真実の言葉」を持ちし者。イズール・キョーク。
そしてもう一人、水の領土出身でイズール・キョークの次に「聖なる騎士団」に入り、己の両手に
アクアマリンをちりばめて、「聖なる癒しの手」を持ちし者。リューレン・クボーの二人であった。

 そんな二人の先陣を切って大地の王に挨拶をしたのは、空の若き騎士、イズール・キョーク。
イズールは、聖なる神器「闇を払いし槍」を持って優美に踊るように槍さばきを披露すると、
そのまま滑るように王の前に赴き、すべらかに流れる風の様な声で、祝福を伝えたのだった。

「豊かなる大地を収めし慈愛なる大地の王。ご子息、ユーリス王子におかれましては、
誠に健やかなるご成長。強く素晴らしき意志を感じたる本日の成人の儀式のご成功。
この大地の領土にもたらされし慶びを、深く祝福申し上げまする。」穏やかに響くその声の、
何と美しく心地よい事か。
 安らぎをもたらすような淡い黄色を漂わす、ふっくらと豊かな羽を持ち、プラチナブロンドの
長く美しい髪を優雅に風になびかせて、月桂樹を思わせる葉の飾りに縁取られた「崇高なる意思」の
シルバーに輝く細工が彼の誠実さを、頭上で表しているイズール・キョークの祝いの言葉に、
大地の王はうれしく答えたのだった。

「「真実の言葉」を宿す者。空の領土の誇りであろう、「聖なる騎士団」のイズール・キョークよ。
また一段と立派になられたその様子。かの深き智徳のロードス・クレオリス殿も、さぞや
そなたを誇りに思うておる事であろう。また、「真実の言葉」を宿すそなたに我が王子をその様に
讃えられたるは、なんたる喜び。今日は本当に佳き日である。そなたの祝辞、感謝いたす。」
と、大地の王は、若き空の騎士に深く礼を述べたのであった。

 続いて、清涼なるグリーンとブルーの美しい色彩を放つ、滑らかでしなやかな肢体を持つ、
リューレン・クボーが、蜻蛉の羽の様な美しいヒレを漂わせ、その優美なる長い両手をかかげながら、
聖なる神器「清流の流れの如き鞭」をしなやかに舞わせて、大地の王に祝福を告げたのだった。

「馥郁たる大地を守りし父なる大地の王。この地、この空、この民達の、今日は何たる歓喜を
見つけられたる事。真の大地の領土のこの素晴らしき姿を拝見できる事、誠にうれしく存じます。
また、ユーリス王子のなんとご立派なるお姿。わたくしの微々たる癒しの力が、今日ほどこの大地の
領土にいらぬ事を感じた事はございませぬ。何たる佳き日。誠におめでとう存じまする。」

そう続けて、水の領土の若き騎士の誠実な祝辞を受けると、大地の王も少し気分が高揚したのか、
少し目を潤ませてこう言ったのだった。
「清らかなる水の領土の誇りであろう、「聖なる騎士団」のリューレン・クボーよ。このような慶びに
満ちたる日なれど、やはりそなたの「聖なる癒しの手」をその様に振り動かされては、
年重ねし私の目から何やらいらぬものが顔を出してきそうじゃ。今日のこの日ははっきりと、
鮮明にこの大地の領土を眺めたいのだ。今しばらくはそなたの癒しの力は控えてくれぬか。」

大地の王のこの言葉に、リューレン・クボーは少し慌てた様に、「いいえ、そのような。大地の王。
わたくしは一切癒しの力など使ってはおりませぬ。」と長い両手を懸命に振りこう言うと、
周りにいた人々は一斉に笑ったのだった。

 そうあれから、新たなる若き正しき力を持った者達が、「聖なる騎士団」に加わり、この惑星の
平和を守っていたのだった。
 この若き、空の領土、水の領土、大地の領土の者達それぞれがまた、胸に秘めたる決意を
もっていたのであった。
 
 そんな三人と、大地の王とのやり取りを少し離れた所で見ていた「聖なる騎士団」の三長老もまた、
この喜びをかみしめ、優しい眼差しでうれしく見つめていたのだった。

 そしてそんな中、ロードス・クレオリスは密かに自身の「天上の光を宿す鏡」を大地の民達から
祝福を受けて、晴れやかに笑みを湛えているユーリス王子の誇らしい姿に、そっと向けるのであった。

「リティシア姫。今日のユーリス王子のなんと素晴らしきお姿。この立派なるお姿を姫にお届けせねば。」
ロードスはそう心に思うと、静かに目を閉じて自身の右眼に宿りしサファイアに、そっと呼びかけたのだった。

「我が右目に宿りしサファイアよ。この大地の領土より、我らが故郷、空の領土への道しるべを
我の脳裏に甦らせよ。そして、我が捉えしユーリス王子のお姿を、そのまま空の領土の
「聖なる山」クラスカス山の頂へと届けるのじゃ。」そう自身のサファイアに呼びかけると、
ロードスの脳裏に大地の領土から空の領土へ一直線につなぐ道が記されると、空の浮島の
第六の島にあるクラスカス山の頂が姿を現し、そのままロードスが持つ鏡から、ユーリス王子を
映した姿が一筋の光となって、素早く飛び立っていったのだった。

その一瞬の気配を感じた者は、ただ一人。

ジイン・クイードは一瞬かすかに、「なんだろう?」とその光の残像を追ったのであった、がしかし、
大した事もないだろうと、すぐさまこの歓喜の輪の中に意識を戻したのだった。  
 
この時ばかりは、ジイン・クイードその人も、この時の気配がよもや自身の運命を大きく飲み込んで
いこうとは、想像する事も出来なかったであろう。



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by maarenca | 2014-08-20 12:19 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No19






THE SIX ELEMENTS STORY





No19




                                          著 水望月 飛翔

 王の広間に残りしは、巨大な姿の光の発光体のみ。
その光の中で、いよいよ王子と石との問答が、始まろうとしていたのだった。

 白く輝く光の発光体の中で、王子は先程襲った強い光線に目がくらみ、少し身体をふらつかせて
いたのだったが、恐々目を開けると、その発光体の内部をゆっくりと眺めまわしたのだった。
 その内部のさまは、まるで真珠か白蝶貝の輝く小さな粒が、小刻みに振動しながら、
しかし、外部からの侵入は一切拒むかの様に、強い意志を持って成り立っていたのだった。

 そして、その空間の中央、王子の目線の先に、王子のトパーズが輝きを放ちながら、
静かに浮遊し、存在していたのだった。

 静かに対峙する両者。
トパーズはやがて両者の沈黙を破り、王子に向かってこう言ったのだった。
「なんじ、我が眠りを遮り、我の主を名乗る者であろうか?さて、なんじの望む、我がかなえし力を
今一度、我に申してみよ。」

そうゆっくりと、トパーズの声が王子の頭の中に直接響き渡ったのだった。
 王子は驚き、思わず辺りを見回したのだったが、すぐに自身を落ち着かせようと、
自身の内部に意識を集め、トパーズからの王子への問いをもう一度、頭の中でなぞらえたのだった。

 それから一呼吸すると、ゆっくりとかみしめる様に、自身のトパーズに向かって、こう言ったのだった。
「我の手の中に生まれし、我がトパーズよ。我の願いをいま一度申す。我がそなたに望みし願いは、
「愛する者を守りし力」である。」

 王子の意を決した言葉を聞いて、トパーズは再度王子に問うたのだった。
「「愛する者を守りし力」とな。それはいったいどの様なものじゃ?我に申してみよ。」
このトパーズの問いに王子は、「愛する者を守りし力」とは、真にどの様なものなのかを考えたのだった。

(そうか。石が納得できるように説明をしなければならないのだな。
愛する者を守りし力。ただその言葉をなぞらえるだけではいけないのだな。愛する者を守りし力とは・・・。)

ユーリス王子は真の答えを見つけようと、自身の意識に集中したのだった。
 そう、成人の儀式を終えた者は、絶対に自身と石とのやり取りを他の者に話してはいけないのだった。
                 
 それは、どんな領土の者もどんな身分の者も一切が等しく、石を自身の身に宿す過程を知らされず、
前知識などなくただ自身の石と対面し、一人でやり遂げる事が、この惑星の習わしなのであった。
 
 王子は考えた。真に「愛する者を守りし力」とはどういう事なのかを。

「僕は力が欲しいのだろうか?力とは何なのだろうか?闇に対抗する力なのか。
闇を潰す力の事なのか?いや、その様な力では普段は平和の内にある我が領土の民達や、
傷つき、いまは遠く炎の洞窟に居る母上を迎えに行くことの足しになど何にもならない。
何ものかをねじ伏せる力や、何ものかを倒す力が欲しいわけじゃない。僕が真に欲しい力とは。」

 そう考えをめぐらし始めるとユーリス王子は、もっと心の内部の奥深くまで、自身の意識を
降ろしていったのであった。

 それから王子は、また心の中で自身に問いかけた。
「真に欲しい力。それは、心の内が常に穏やかで泰然とした姿を保ち、周りの人達が少しの
不安も持たない様、堂々としたさまを表す事。
そう、何事が起ころうとも、真に輝く心の強さを持つ事こそが、我が領内のすべてのものを平和に導く力。
心の正しさを示す強さこそが我が本当の願い。」

 こうしてユーリス王子が自身の心の中で真の意味を導き出した瞬間、トパーズは自身の
エネルギーを放出するかの様に、一気に光り輝きだしたのだった。

 王子は驚き、その光を眩しそうにしながらも、トパーズをじっと見つめていると、トパーズは
ユーリス王子に、向かってこう言ったのだった。

「次に大地の領土を収めたもうユーリス王子よ。そなたの真意、よう解った。そなたの導き出した
答えの正しさ故に我の力は今、解放された。我はそなたの力となろう。しかし、この目覚めし力を、
そなたの身体に宿す覚悟は出来ておろうか?この力をそなたが収める事はできようか?」

 トパーズは静かに、ユーリス王子にこう問うたのだった。
ユーリス王子は、トパーズからの問いかけに、これからトパーズを自身の額に宿す為、
いま一度自身を奮い立たせる様に、覚悟を持ってこう言ったのだった。

「我はすでに覚悟せし者。いかなる苦痛が待っていようとも、大地の王子に生まれし覚悟を持って、
今ここで宣言いたす。稀なるパワーを持ちし我がトパーズよ。その力を持って我の額の内に収まりたまえ。さあ。」
 王子はそう言うと、静かに両手を広げ、両の目を閉じたのだった。
その覚悟を見て取ったトパーズは、「あい解った。」と短く言うと、スーッと王子の額に近づいて
いったのだった。

 王子は目を閉じているにも関わらず、トパーズが近づくごとに強い光の眩しさと、トパーズの
エネルギーが放つ熱さに、一瞬恐怖を感じたのだった。
 しかしすぐさま王子は、未知なる苦痛を自らが怖れを抱いては、石宿しなど出来ぬと、
自身に言い聞かせたのだった。
それからトパーズは王子の額のすぐ手前まで来ると、少しずつ回転を始めたのだった。
やがて、回転をしているのかさえわからない程のスピードに達すると、ユーリス王子の額に
少しずつ進んでいったのだった。

「うっ、わあ~。」
何というエネルギーであろうか。
トパーズの放出する力と熱が王子の額に伝わってくると、思わず王子は苦痛の声をあげたのだった。
トパーズの勢いに身体が押され、少し後ろに押されたのだったが、王子はトパーズを受け止めようと、
痛みに耐えながら自ら身体を前に倒すように、額を前に突き出したのだった。

 こうして、この両者のぶつかり合いにより、さらにトパーズは王子の額の中へと、進んでいったのだった。
王子はまさに自身の額を割られる様な、あまりの激しい痛みに、自身の頭を振りほどきたい衝動に
駆られながらも、トパーズが無事に額に収まる様、じっと苦痛を耐えるのだった。

 いったい、どれほどの時間が経ったのであろう。
王子が残り少ない最後の気力を振り絞っていると、王子の頭の中で、トパーズの声が響いたのだった。

「王子よ。ユーリス王子よ。我の声がそなたに聞こえるであろうか?これから我の力をそなたの血の
道筋に送る。我の熱き鼓動をしかと己のものにするがよい。」トパーズはそう言うと、王子の額を
通る全ての血管から、じわじわと熱いトパーズのエネルギーを王子の全身の隅々まで伝わらせたのだった。

 それは、まるで電流でも流された様な、痺れを伴う感覚であったろうか。
王子はその鋭い感覚が、全ての手の先まで、足のつま先まで、到達するのを必死でこらえて
いたのであった。


これが、王族の元に生まれし者の務め。
これが、美しい輝きの石を持つという事の・・・。

 やがて、痺れの回る王子の頭の中で、トパーズの声が、ようやく一体となる儀式の終わりを
告げたのだった。

「この大地の領土を収めるものとなるであろう。ユーリス・マレンスタイン王子よ。よう我のエネルギーを
受け止めたもうた。いま、まさに我らは一体となり申した。我が力をそなたの助けに使うがよい。」

 そうトパーズの声が王子の頭の中でこだますると、ユーリス王子はやっと苦痛から解放された安堵に、
そのまま深い眠りに落ちていったのだった。

 王子が見ている夢の中の世界では、白い靄が静かに立ち込め、しっとりと王子の全身を包み込んでいた。
王子の髪や頬をなでる優しい風の感触に、王子がしばらく身を預けていると、なにやら遠くの方から、
かすかな声が聞こえてきたのだった。

 最初は何と言っているのか、聞き取れずにいたのだったが、そのうち、「・・~リス。ユーリス王子。」と、
優しい、懐かしい様な声が聞こえてきたのだった。
 その声が、いったい誰の声なのか、はっきりと解らないのだが、しかし、心の中には、何とも
懐かしい感情が溢れてきたのだった。

 そして王子がその声の方を見ると、次第に何やら宙に浮く薄布がゆらゆらと漂う姿が見え、
何者かがその中にいるような気配はあるのだが、しかし、その薄布の中は、見えそうで見えない
もどかしさを、静かに称えていたのであった。
そして、ユーリス王子が重たい身体を引きずって、その薄布に手を伸ばそうとした瞬間、
額に収まった王子のトパーズが王子に話しかけてきたのであった。

「ユーリス王子よ。目覚めの時が参りました。どうぞ、ご自身の意識をお戻しください。」と、
儀式の前の物言いとはまったく違った、完全に王子に付き従うかの様な声で王子にこう告げたのだった。

 それからしばらくして、王子がゆっくりと目を開ける周りを見回すと、王子の身体は光の発光体の中で
仰向けに横たわり、柔らかく宙に浮いていたのだった。
 王子はその姿勢のまま、額のトパーズに頭の中でそっと話しかけた。
「我が額に収まりしトパーズよ。もう、一体となる儀式は終わったのだな?私はこれからそなたに、
この様に話しかけることができるのだな?」

ユーリス王子はまだ慣れないため、少し不安に思いながら自身のトパーズにそう聞いたのだった。
 その少し気弱そうな王子の問いかけに、トパーズは少し笑いながら、こう言ったのだった。
「はい、いかにも、ユーリス王子。わたくしはもう、王子にいかなる苦痛もおこしは致しませぬ。
いいえ、これからは、どの様な苦痛からもあなた様をお守りいたしましょう。どうぞ、わたくしが、
常に喜びを持ってあなた様をお助けできますよう、堂々と、正しく美しいお姿をお示しくださいませ。」
トパーズがそう言うと、王子を取り囲んでいた発光体がゆっくりと、溶ける様に消え、ユーリス王子は
王の広間の中央に、一人姿を現したのだった。
                                
 ユーリス王子は王の広間をゆっくり眺めまわすと、まるで何年もの長い時を留守にしていたかの様な、
懐かしさと安堵感を味わい噛みしめたのだった。

 そしてそれから、ゆっくりと大きな声で、自身の帰還を宣言したのであった。

「平安なる大地の領土を継ぎし者。我ユーリス・マレンスタイン。ただいま王の広間に戻りました。」

 その堂々たる若々しい宣言の声に、王をはじめ、城の者達は歓喜の声を挙げながら、続々と
王の広間に入ってきたのだった。





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by maarenca | 2014-08-16 12:43 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY  No18


いよいよ、大地の王子の「成人の儀式」が始まります。


THE SIX ELEMENTS STORY




No18





                                     著 水望月 飛翔



 あれから何度、季節が通り過ぎていっただろうか。

大地の領土に吹く風は、常に穏やかに流れ、人々は静かに祈りを口に佇ませながら、
平穏な暮らしを紡いでいたのだった。
 しかし、王妃がいた以前の様な晴れやかな、本当に晴れやかな青き空と、輝かしく眩しい程の
日の光が顔を出すことはほとんど無くなり、ときおり吹く少し寂しげな悲しみの名残を含ませた風に、
うすく漂う雲が大地の領土の空に姿を現していたのだった。
 そう、そしてそれは、大地の王をはじめとして、大地の領土の民達に現れたる表情と、
とても近しいものであったのだった。
 
そんなある日の事。
大地の領土の広々と開けた雄大な空の元、一人馬に乗り東の森へと走る少年の姿あり。 

 ある決意を胸に、ときおり遠く空の向こうに視線を向け、一人何を思う。
優しい風がときおり少年の顔を優しくなでたのだったが、少年はその優しさも気づかず、
馬を走らせたのだった。

 少年は森の中へとそのまま馬を進め、少し草木が空いた場所まで来ると、馬から降りて、
少し歩いて日の光がさすその場にそのまま跪いた。

 そして自身の首にかかっていたペンダントを握りしめ、深く目を閉じたのだった。
ただ、風に揺らぐ草木のこすれる音が、優しくかすかな音を奏でるだけのその空間。
少年はただ一心に、その握りしめたペンダントに収まっている自身の石に語りかける様に言ったのだった。

「母上、いよいよ私の成人の儀式の日がやってまいります。この日をどんなに長く、待ちわびた事か。
明日、長年の我が願いを必ずや叶えまする。そして、母上。あなた様を1日でも早くお迎えに。」
そう言うと、深く頭を垂れ、自分自身にそう言い聞かせる様に、改めて、固い決意を胸に
刻みつけたのだった。

 東の森のこの場所は、かつて母である大地の王妃が訪れて、「迷いの森」から現れた、
謎の物体に憑りつかれた場所なのであった。

ユーリス王子は後に、「聖なる騎士団」の長老達に、母の事を詳しく聞きだし、
この場所を教えてもらってからは、たびたび一人でここを訪れては、遠く「炎の洞窟」に住む母に一人、
話しかけていたのだった。
 
 一人涙にくれた日も、新たに決意を掲げた日も、誰も知らぬ多くの王子のさまざま思いを、
この森の草木だけは、知っていたのであった。

 それから、王子はゆっくりと立ち上がると、王子を包み込むように、暖かく滑らかな風が王子の周りを
吹き抜けていったのだった。
 そしてその時、一瞬王子の耳元で囁くような声がしたのであった。
「大丈夫、一人じゃない。」と。
 それはいったい、誰の声であったのだろうか。王子はあたりを見回してから、空を見上げ、
こう呟いたのだった。

「ああ、大丈夫。すべて乗り越えて見せるよ。」風に吹かれながら、じっと目を閉じ、そう呟いたのだった。
 それから王子は馬に飛び乗ると、大地の城へと戻っていったのだった。

 その頃、大地の城では次の王としての、大事な王子の成人の儀式とあって、明日の準備に皆が
あわただしく取り掛かっていたのだった。

 王の広間はピカピカに磨き上げられ、「天上の大いなる意思」と大地の領土の守り神である
「豊かなる芳情の女神」への捧げものが、次々と運びこまれてきていたのであった。

 いったいどれだけの人が出入りをしていたのであろう。
しかし、この王の広間は、天上と大地の守り神を迎えるべく、誰ひとり、口を開きその広間を
汚す事の無いよう、皆押し黙っていたのであった。

 ユーリス王子が城へ戻ると、そのまま「光さす浴室」へと促され、明日の儀式の為、一人身を清め、
この日の為にと織られた、希少なる植物の糸で紡がれ、縫われた黄金に輝く色の衣をまとい、
代々伝わる短剣を腰に差し、「祈りの小部屋」へと、入っていったのだった。

 それから、今宵の月を月見窓から眺めながら、自身のトパーズを手に取り、じっと見つめたのだった。
「いよいよ明日には、このトパーズを我が身に宿す時が来る。僕はずっとこの時を待っていた。
母を迎えに行く為に。その為には覚悟をせねば。我が石を我が願いに従わす為に。
やらなければならぬ。絶対に。」
 そう自分に言い聞かせる様に言う王子は、しかし、たびたび湧き起ってくる儀式への恐怖を抑えようと、
ただひたすら己に繰り返し言い聞かせたのだった。

そして、夜が終わりの時を告げ、新しい朝が訪れようとした時、王子は浅い眠りから目を覚し、
なんとなく月見窓の方を見たのだった。

 すると、そこに一羽の懐かしく見覚えのある鳥の姿が、透ける様に淡く儚げに姿を現していたのであった。
王子がゆっくりと起き上がるとその鳥は、「キューン。」と愛らしく小さく鳴いたのだった。
王子はそっと近づいていったのだったが、その鳥に伸ばした手は、実体をつかむことは出来ず、
ただ空を切るばかりであったのだった。

 しかし王子はその鳥の姿に確かに温かな思いを感じ、鳥に向かってこう言ったのだった。
「ありがとう。よく来てくれたね。僕はもう大丈夫だよ。」
そう言うと、懐かしくその鳥を見つめたのだった。

 そしてもう一度手を伸ばそうとした瞬間、おぼろげな鳥の姿はパッと消え、その細かな破片も、
スーッと窓の外へと消えていったのだった。
その後を目で追いながら王子は、確固たる覚悟を胸に刻みつけたのだった。

 しばらくして、朝の光が大地の領土を少しずつ照らし始めると、大地の「祈りの寺院」から、
大きく長く鐘が鳴らされ始め、王子を迎えに、使者が二人静かに部屋に入ってきて、
無言の内に王子を王の広間へと促したのだった。

 ずっと続く荘厳な鐘の音に、大地の民達は一人また一人と家の外へ出ては、王の城の方角へ跪き、
王子の石宿しの儀式が無事に終わるよう祈ったのだった。

 王の広間では王が玉座に着き、周りを城の者たちが大勢、取り囲んで王子が現れるのを、
じっと待っていた。

 自身の石を身体に収める「成人の儀式」は、16歳の誕生日に取り行われる。

石は魂のレベルによって、光を見いだせない原石であったり、宝石のように輝く石であったりする。
そして、王族に生まれし者は、すでに自身の覚悟と役目を選んで生まれてくれるため、その石は
宝石の輝きを身にまとっていのであった。しかし、石が美しければ美しいほど、石の力は増し、
石の抵抗も強いゆえ、「成人の儀式」で石の反発にあい、命を落とす者もいるのであった。

 また願い出る望の高さや、石を収める身体の位置によっても、石の反発は違いを見せた。
多くの民達は大抵、自身の得意な分野に役立つ場所に石を収める。
 それは、物作りが得意なものは手に、素早く走ったり、遠くまで行き来する者は足などに。
そうして、一体となった石の魔法の力を借りて、それぞれの生活に役立てていたのであった。
 その中で王族は、自身の領土に尽くすため、もっと多きな願いを石に込めた。

 しかし同時に大きな負荷も掛かるため、王子や姫の「成人の儀式」の失敗は、その領土の存続にも
かかわる大事なのであった。
だからこそ、人々は王子の儀式の成功を祈った。
 
 それぞれの領土では、石の特質も違っていた。
空の領土では、「崇高なる意志」を表すサファイアが。
水の領土では、「清廉なる意志」を表すアクアマリンが。
緑の領土では、「悠久なる意志」を表すエメラルドが。
炎の領土では、「躍動なる意志」を表すルビーが。
そして大地の領土では、「安寧なる意志」を表すオパールが。

それでは、身体を持たぬ「風の民」は一体どのような石を持っていたのであろう?
 身体を持たず自他と他者との違いを持たぬ風の民の事。
彼らにとっては、物など必要ではないのだが、その輝きは陽の光に輝く、「ダイヤのきらめき」
とでも言っておこうか。 

 さて、ここ大地の領土。
今はただ、長い沈黙と「祈りの寺院」からの遠く聞こえる鐘の音だけが、王の広間に存在して
いたのであった。
 やがて「祈りの寺院」の鐘が鳴り終わると、頭からすっぽりと黄金色のマントのフードを被った
王子の姿が、一同の前に現れたのだった。

 静かに、ゆっくりと、一歩一歩かみしめる様に王子は、王のいる玉座の前まで歩み出て、
王の元に跪くと、ゆっくりと顔を覆っていたフードを取ったのだった。
そして、王と王子が見つめあい、互いに頷きあうと、王は無言のまま手をあげて合図を送り、
成人の儀式を執り行う司祭が、ゆっくりとユーリス王子の前に進み出てきたのだった。

 そして、王子の顔をゆっくり確認してから、右手に持つ教本の上にトパーズを宿した左手をかざし、
目を閉じながら、静かに呪文を唱え始めたのだった。

 するとしばらくしてから、司祭の持つ教本から魔方陣が浮かび上がり、そこから無数の光が
噴水の様に湧き出てきたのだった。
 その無数の光を確認すると、ユーリス王子はゆっくりと立ち上がり、光に溢れたその魔方陣の中に、
自身のトパーズを置いたのだった。

 王子のトパーズは、溢れる光に洗われてその光の噴水に押し上げられるように宙に浮いていたのだった。
司祭は宙に浮くトパーズをゆっくり見つめた後、王子の顔に視線を向けて、静かに頷いて見せたのだった。

 ユーリス王子は、一度大きく息を吸うと、ゆっくりと大きな声で、こう宣言をしたのだった。
「大地の王の元に生を受けし我の名は、ユーリス・マレンスタイン。
我、我が石に命じる。本日今を持って、我の額に収まりたまえ。
我の願いし「愛するものを守りし力」を持って。」

 そう言うと王子は、腰に収めた王家に伝わる短剣を、自身の額にかざしたのだった。
それまで、司祭の教本の上で漂っていたトパーズは、王子の宣言を聞くと次の瞬間、
パッと眩しい程の閃光を四方八方へと放つと、そのまま大きな球体を形作り、王子を
そのまま飲み込んでいったのだった。

 こうしてこれから先は、王子と石との問答が、何者をも入れぬその空間で、静かに始まろうと
していたのであった。
 王の広間に取り残された人々は、まず王が玉座を降り広間を退出するのを見届けると、
次々と皆、広間を後にした。

 そう、石宿しの成人の儀式は、石とその主だけの神聖なる場。
石と主が問答を終え、一体となって光の中から出てくるまでは、誰もその場にいては
ならなかったのだった。
 それは、どの領土の者も、ただ一人、己の力だけでやり遂げねばならぬ事。
一切の口出しも、一切の手出しも許されぬ事なのであった。

 王の部屋に戻った王は、さき程の我が息子ユーリス王子の宣言を、繰り返し頭の中で唱えては、
王子を誇らしく思ったのであった。

「ユーリス王子。自身の石を宿す場所を額と定め、確か、「愛する者を守りし力」と言っておったな。
なかなか良い覚悟じゃ。「愛する者を守りし力」か。きっと、王妃を思うての事であろう。
漠然とした大きな望みなればこそ、石の理解も難儀なはず。これは相当なる反発を伴うものであろう。
王子の無事を願う我の力を届ける事はできぬが、何とも無事に石を宿し、成人となった王子を
早く祝福してやりたいものだ。王妃よ。そなたが守った王子は、たいそう大きな願いを決心いたしたぞ。」

そう呟いて、炎の領土の方角を遠くに、視線を飛ばしたのだった。
それから王の広間の方に目をやり、王子に向かってこう呟いたのだった。
「ユーリス王子よ。信じようぞ、そなたを。」

 それから王は、固く目を閉じて、一人静かに儀式の終わりを待ったのだった。
一方、城の中庭に出てきた城の者たちも、小声で周りの者同士、王子の決意を讃え、
また王子の無事を静かに待ったのだった。




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by maarenca | 2014-08-13 10:02 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No17




THE SIX ELEMENTS STORY





No17




                                        著 水望月 飛翔



「偉大なる力を従わせし美しき女神よ。どうか、どうかおまちくだされ。」
そこまで言うと、大きく肩で息をしながら、ゼンスは続けてこう言ったのだった。
「気高き女神よ。我らの少しばかりの貢物を献上いたしまする故、何卒、なにとぞ王への代償は
お取下げいただきたい。」
 こうして、杖を振りかざしながら、必死に願い出るゼンスと、その横で一緒に願いを込めた顔つきで、
じっと女神を見つめるユランなのであった。

 しかし、この突然の見知らぬ侵入者に、視線を向けた女神は、再び大きくその身を広げ広間の
天井を占領すると、高い位置から二人をじっと、静かに見つめたのだった。

 そうしてしばらくの間、一言も発せず、じっと二人を見ていた女神だったが、それからしばらくすると
女神は、王に向かってこう聞いたのだった。

「この者達はいったい何者じゃ?何故炎の領土の者でない者が、我が領土に踏み入っておるのじゃ?」
そんな女神の問いかけに、ルーフェン王はゼンスとユランの方をゆっくり見ると、信頼を湛えた笑みを向け、
二人に頷いたのだった。

 そしてまた、女神の方に向き直り、一歩前に進み出て、女神にこう言ったのだった。

「我らが領土の栄光なる守り神。彼ら二人は「聖なる騎士」と呼ばれし者。
杖を持ちし御仁は遥か、「緑の領土」出身のゼンス・ショーイン殿。彼の持ちたる聖なる神器
「生命の息吹をもたらす杖」は、過去、現在、未来の精霊を呼び出し、彼らの力を導く杖。
そして彼ほど、慈愛深き智徳を持つ者はおらぬ程の徳高き御仁。
そして「聖なる龍の鱗からなる竪琴」を持つ、ユラン・アユター殿は、遥か「水の領土」より
参られし比類なき賢者。かの者のつま弾く音色と歌声は、この地上の全てのものを癒し、
安らぎへと導くもの。 このお二人の温かき広きお心により、何度我が民達は良き方向へと
導かれましたことか。我が信頼を預けしこれらの友に、どうか、わが聖なる女神のご信頼を。」

 王の広間に響き渡る、炎の王の堂々とした物言いに、かの女神も「ほう・・。」と聞き入っていたのだったが、
しかし、女神の口から出た言葉は、その身に合わない何とも冷たい言葉であったのだった。

「今を守りし炎の王よ。そのように他の領土の者に頼るとは、初めて聞くわ。なるほどのう。
弱き力の者は、他の領土の者の力まで頼るとはのう。」

 そんな、言葉を吐き捨てる様に言う女神に対し、ユランは己の竪琴をつま弾きながら、歌うような旋律で、
この非情な女神にこう言ったのだった。

「紅き衣の優美なる女神。炎の王は我ら「聖なる騎士団」の入領を寛大なるお心でお許しくだされた、
心優しきお方。なれど、そのお心は決して弱きものではありませぬ。自身の領土の守り神。
その地の女神を呼び寄せしお力は、他の領土の王でも、そう容易くは出来ぬ事。残念ながら、
偉大なる今の「水の領土」の王でさえ、水の領土の守り神、「清廉なる流れの女神」を呼び寄せる事は
出来ませぬ。それをこの地、炎の領土では代々の王が呼び寄せられているのでございましょうや?
もしそうであらば、これは誠に素晴らしき事。どうかご自身の領土の王の素晴らしき力をお喜びいただいて
、どうか、どうか、王への代償はお取下げいただきたい。美しき女神よ。」

そう言い終わると、ユランは深々と跪いたのだった。

 そんなユランの言葉を引き取って、ゼンスも続けてこう言ったのだった。
「誇り高き偉大なる紅の女神よ。我らが緑の領土も右に同じく、常に代々すべての王が我が領土の守り神。
「悠久たる慈愛の女神」を呼び寄せる力を持っているわけではありませぬ。このような慶ばしき事、
深く敬服いたしまする。どうか、この連綿と続きし過去よりのお慶びをこの場にて、祝いをさせていただきい。」
と、そう言うとセンスは、杖を一振りしてから床に一度、「ドン。」と打ち付けると、過去からの精霊を
呼び出して、歴代の王の姿を呼び出させると、彼らと今の王の偉大なる力を、晴れやかに
讃えさせたのだった。
 
 そうして、過去からの精霊がその小さな手を「パン。」と叩く度に、歴代の王が次々と広間に
現れたのだった。その場に居合わせた城の者達は皆、懐かしむように歓声を上げて喜んだのだった。

 そして、過去の精霊がその王達の中に今の王を引き入れて、次にまた「パン。」と、
その小さな手で一つ手を叩くと、今度は精霊が二人に分裂したのだった。
 それからその精霊は、王達の周りを飛び回りながら、一つ、またひとつ手を叩き、
精霊の数を増やしていったのだった。

 そうして、沢山の小さな精霊たちが歴代の炎の王達の周りにそろうと、天上の高いところまで
飛んでいき、今度はその身を震わせ始めたのだった。
 すると、その精霊たちの身体から、金銀の輝く光が溢れだし、それが歴代の王達の頭上に振りまかれ、
祝福をしたのだった。
 その光景を見にした女神は、小さな声で自身に問う様に言ったのだった。

「これは、いにしえから伝わる「祝福の光」。これがなぜ?」
その声を聞いたゼンスは、女神にこう言ったのだった。

「悠久なる時を司りし、美しき女神よ。これは、永くこの地に埋まっておりました物。この長きにわたる、
偉大なる王達のお力を聞きしこの領土の地より、

 長きにわたって積もって出来ました「祝福の光」を過去よりの精霊が取り出しただけの事。
これだけの素晴らしき光が、この地に宿り、それをこの目で見ました事は、我らもまた、
大変光栄に存じまする。」ゼンスがそう言うと、ゼンスとユランは、この紅の女神に深々と頭を下げ、
敬意を表したのだった。

 こうして、この輝かしい光景を目にした、サルディア執政官をはじめ城の者達は、
ある者は涙を流し、ある者は声を高らかに、それぞれが大いに喜びを噛みしめだった。

 そして、歴代の王達に混じり、自身の頭上にも「祝福の光」を注がれた、ルーフェン王はしっかりと
胸に熱いものを感じていたのだった。

「報われている。我ら歴代の王が成し遂げてきた事が、ちゃんとこの地に伝わっていようとは。
こんなにうれしいことはない。」

 そう一人思いながら、ふと少し先に視線を向けると、そこに懐かしく慈しむように王を見つめる、
一人の王の視線とぶつかったのだった。

「父上。」
そう、それはだいぶ前にすでに亡くなっていた、先代の炎の王の姿であった。
そのルーフェン王の呼びかけに、懐かしそうに微笑み頷く父王の姿。

 そして、ルーフェン王が懐かしい父王に一歩近づこうとした時だった。
「祝福の光」も終わりを告げると、歴代の王達も一人、また一人と静かに姿を消していったのだった。

父王は、もう一度ルーフェン王に頷くと、そのまま静かに消え入り、ルーフェン王の伸ばした指は、
ただ空を切るだけであったのだった。

「父上・・・。」一人残ったルーフェン王は、名残惜しそうにその場に佇み、歴代の王達の残像を
見送ったのだった。
 そうして、大勢いた精霊達も、先程とは逆に「パン。」と一人が手を打つごとに一人ずつ、
その姿が消えていき、やがて最後の一人に戻ると、スーッとゼンスの元により、ゼンスからの礼を受けると、
くるっとその身を回転させて消えていったのだった。
 
 先程からの光景をじっと見つめていた女神であったが、炎の王の両目を見据えると、
ゆっくりと王の周りをまわり、次にゼンスとユランの周りをゆっくりと回った後、静かにまた天上の
高い位置へと戻ったのだった。

 そして、ゆらゆらと漂いながら、女神は三人にこう告げたのだった。

「あい解った。今回はこの珍しき侵入者の面白い余興により、先程の王への代償は
取り下げる事といたそう。しかしのう、我の力は計り知れぬ程のもの。その力を微細に留めたるは
勝手がいかぬ。そなたらの力が少しでも、我の役に立てばよいのだがのう。」

 そう言うと、横目で三人をちらっと見るやいなや、この紅の女神は先程まで纏っていた、
鮮やかな真紅の炎を徐々に弱めると、触れれば消えてしまいそうな程、可憐な薄紅色の炎に姿を変えて、
大地の王妃をそっと包み込んだのだった。

 そうして、柔らかく温かな炎で王妃の身体を少しずつ、全身の傷を直しながら、炎の民達と同様の
褐色の肌へと変容させていったのだった。

 その間、炎の王は自身の石を宿す右手の平を女神の方に向け、呪文を唱えながら、
時々パチッと爆ぜる女神の炎をずっと、吸い続けたのだった。
 そしてゼンスは、現在の精霊を呼び出すと、杖を我が前に持っていき、微動だにせず呪文を唱え続け、
現在の精霊を眠りについている王妃の夢の中に入り込ませ、楽しい夢を届けさせたのだった。

 そしてユランは、自身の竪琴を鳴らしながら、その癒しの歌声で、女神の炎を落ち着かせる様に
優しくなで続けたのだった。

 なんと素晴らしきこの光景・・・。

 先程の、歴代の王に対しこの地から送られた、「祝福の光」の光景共々、代々続きし我らが王達の、
力の偉大さを目の辺りにして、今まで以上に誇らしく、またうれしく見守る執政官や護衛兵たちで
あっただろう。
 我らが王達を讃えられたうれしさと、今目にしている、「紅き包容の女神」の力と、
「聖なる騎士団」の力と共に、我が炎の王の協力している光景に、きっとあまりの熱き気持ちが
湧き上がったのだろう。

 一人の護衛兵が、思わず雄たけびをあげると、たちまち広間に居並ぶ者達が、
次から次へと声をあげ、今目の前で行われている光景を、城の外へと、民達の元へと届けとするように、
次第に大きなうねりとなって、炎の領土を覆い尽くしていったのだった。





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by maarenca | 2014-08-09 12:05 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No16





THE SIX ELEMENTS STORY




No16



                                      著 水望月 飛翔
 
 

 こうして、炎の領土が抱えている問題を初めて、ゼンスとユランは知ったのであった。
それからしばしの沈黙の後、ゼンスは王にこう言ったのだった。
「偉大なる力を持ちし炎の王よ。我らはこの領土の問題も知らずに、また厄介な事をあなた様に、
お願いしたとは。誠に申し訳ありませぬ。何と申してよいのやら。」珍しく言葉に詰まるゼンス。
しかし、炎の王にとって、彼らが初めてこの炎の領土を訪れてから、彼らの数々の厚意により、
この炎の領土の民達が、良き方に変化を見せている事に、ずっと感謝をしており、自身が何か報いたいと、
常々思っていたのであった。

 そして、王は今この時も、この年老いた騎士の力に何とかなりたいと、ただそう思っていたのだった。
それから少し沈黙が続いた後、炎の王はようやく意を決したようにこう言ったのだった。 
「あい解った。そなた達の申し出受ける事といたそう。」王は、ゼンスに向かってこう言ったのだった。

そこへ先ほどの執政官が、慌てた様に王に詰め寄ったのだった。
「お待ち下さい、我らが王。そのような、この先何が起こるやも知れぬことを、
軽々しくお引き受けなさってはなりませぬ。それに、今までどのような者かも知れぬ大地の者を、
我らが大事の「タンカークの洞窟」に住まわすなどとは、どうしても合点がいきませぬ。
お叱りはこの身に甘んじて受けましょう。しかし、この領土に少しの不安を許すことはわたくしには、
何があってもできぬ事。それに、王よ。貴方様の御身になにかあったらわたくしは、
先代の王に顔向けができませぬ。どうか、今一度お考えをお改めくださいませ。」
そう必死になって王に進言したのであった。

 王は、我が身に新たなる負担を感じて、あえて進言をしたであろう、この執政官を、
じっと見つめてこう言ったのであった。
「幼いころより、我を見守ってくれたそなたなればこその進言、感謝いたす。しかしのう、サルディア。
ここに横たわりし大地の王妃は、我と似てはいないであろうか?我が身を盾に、自身の領土を守りし者を、
このまま放っておいてよいものだろうか?すでにかの地で、この様な不穏な事が起こったのだ。
いつ何時この炎の領土にも、このような事が起こるやも知れぬ。もしその時、わしがこのように
傷ついたとき、他の領土の者が助けてくれなんだら、そなたはどう思うだろう?
この大地の王妃をわしと思ってはくれまいか?どうだろう、サルディア。」
ルーフェン王のこの静かな物言いに、王の広間に居合わせた城の者は、皆、押し黙ったのだった。

 王の語り掛けに、サルディア・ドゥール執政官は顔に苦渋の色を見せたものの、
王に向かってこう言ったのだった。
「我らが誇り、ルーフェン王。あなた様のお考えようわかり申した。大地の人々がどのような方か
わかりませぬが、我らもこのお方をお守りいたしましょう。」サルディア執政官がそう言うと、
周りの者達も次々に王に向かって大きい声で答えたのだった。

 そして、サルディア執政官はひとり、胸の中でまた新たなる決意を思っていたのだった。
(幼き頃より、ずっとお側でお仕えしていたルーフェン王。あなた様に何か起こった時には必ず、
このサルディアが我が身を捨ててでも、あなた様をお守りいたしまする。)

 そんなやり取りを、じっと見ていたゼンスとユランは、この炎の人々に深く感謝し、
またずっと長きに渡り、この炎の領土に起こっていた問題を知らずに、この地の人々を
軽く見ていたことを恥じ入り、そして、王と人々の絆の深さを感じ入ったのだった。

 それから、炎の王が玉座を立つと、大きな声で城の者にこう告げたのだった。
「さあ、大地の王妃を我が元に連れてまいれ。今から聖なる炎で大地の王妃が身にまといし傷と、
大地の者の気配を焼き払う。その後に、炎の洞窟「タンカークの洞窟」に王妃を連れてまいるがよい。」
炎の王がそう言い渡すと、城の護衛達が、王妃を寝かせた長椅子を慎重に王の足元に置いたのだった。

 それからルーフェン王は、大地の王妃をじっと見ると、両腕を肩の高さで大きく広げ、周りの者に
もっとその場を離れる様に、合図をしたのだった。
 「聖なる騎士団」のゼンスとユランをはじめ、城の者達が静かに後ずさりをして、王と王妃から
離れた所に着いたのを見届けると、王は目を閉じ、大きく広げた両手を「パンッ。」と大きく打ち合わせ、
そのまま合掌をした格好で、右手に宿したルビーに、呪文を唱え始めたのだった。

 大抵他の領土の王達は、それぞれ自身の身体に我が石を宿すとき、多くは胸から上に石を置く。
しかし、歴代の炎の王達は城の下でうごめく溶岩を制御し、封印の力を注ぐため、必ず左右
どちらかの手の内に石を収めたのだった。

 されどそれを知らぬ他の領土の者達は、王たる者の手の内の石宿しを、ずっと冷やかに
見ていたのであった。
 そうそれは、先の空の領土の王子、カサレス王子に対する空の王や城の執政達の、
冷やかな態度にも現れていたのだった。
 しかし、そんな他の領土の者達の、意識を知ってか知らずか、炎の領土の民は、
我が身を領土の平和に捧げたる歴代からの王に対し、深い感謝と共に、「王の為なら何物をもいとわず。」
という熱き決意を、一人一人が持っていたのであった。

 そんな炎の王の手の内の力を、初めて見るゼンスとユランは内心、これから始まるこの行為により、
更なる苦痛を、この大地の王妃に課してしまうのではないかと、少し心配をしていたのであった。

 しかしそんな二人の心配をよそに、炎の王は呪文を唱え終えると、今度は口の中で舌をコロコロと
転がしながら、次第に高く低く歌うような呪文の旋律を発し、ピッタリ合わせた両の手を少しずつ
膨らませると、その隙間から自身に宿した石に歌い聞かせたのだった。

 するとやがて、そのコロコロと鳴らす楽しく優しい旋律に導かれるように、王の右手の石から、
スーッと赤い色の霧の様な精霊が姿を現したのだった。

 その精霊とは、炎の領土の守り神。「紅き包容の女神」であった。

女神は王の石から抜け出すと、大きくゆっくりと回転をしながら城の天上高くまで上昇し、
ゆらゆらと漂いながらその場に留まったのだった。

 そうして、その高い場所からゆっくりと炎の王を見つめると、しばらくして静かにこう言ったのだった。
「久し振りだのう。炎の王よ。さて、少し挨拶をしようかのう。」そう言うと女神は、先程まで
大きく広間を浮遊していた自身の姿を瞬時に、細く鋭い切っ先へと変え、物凄いスピードで
王の右手に宿る石をめがけて、素早く通り抜けたのだった。

「うっ。」熱くするどい痛みに、思わず短い声をあげた王を見返した後、王に向かってこの紅の女神は、
「フン。」と鼻で笑うと、冷く見下した様な表情でこう言ったのだった。

「その程度で声をあげるとは大した事もないのう。さて、炎の王よ。何故わらわを呼びだしたのじゃ?
わらわを呼んだという事は、三度の内の一つ。そなたの望みを叶えるため、という事でよいのかのう?」

「スー。スーッ。」と、その身を空中に翻しながら、少し挑発するような笑みを含ませて、
炎の王にこう問いかけたのだった。
 そんな女神の問いかけに、王は痛みのために先程まで抑えていた手をほどくと、まっすぐに、
この不遜な女神を見つめ、こう宣言したのだった。

「我が熱き領土の女神「紅き包容の女神」よ。我、今ここで願う。我が第一の願いを。」
と、はっきりと女神に向かって言うと、そんな王の声に、女神はちらっと横目で王を見て、
そっけないようにこう言ったのだった。

「ほう。これはまた威勢のいいこと。ルーフェン・オスモール王よ。して、そなたの願いは何ぞ?」
 先程まで、まるで小ばかにしていた様な笑みを捨て、炎の王をじっと見据えてそう問う女神に、
炎の王は続けてこう言ったのだった。

「太古の昔より長きにわたり、我ら領土を守りし女神よ。今ここに横たわるは遥か大地の領土より
参った大地の王妃である。かの者の傷をそなたが女神の力で、一寸の痛みもなく治していただきたい。
かの者は自身の領土を守りし為、この様な酷い傷を負いし者。さあ、いかがか?
一分の痛みも負わせず身体の内外を治していただきたく。それが、第一の我が願いである。」

 そう堂々と言い切る炎の王に対して、王の宣言を聞き終わると、女神は「フフン。」と鼻で笑い、
くるりと身を一回転させると、スーッと炎の王の元に行き、王の身体をその真紅の炎で包みながら
こう言ったのだった。

「ほう。一分の痛みもなく、とはな。しかもこの者、大地の王妃とな?他の領土の者を治せとは、
それは何と強欲な。我の力はこの炎の領土など、一瞬にして灰と焼き尽くす程の強大なる力。
その膨大な力を使わずに、小賢しい炎を我に使わせるとは、何とつまらぬ願いじゃ。
つまらぬ者はつまらぬ願いをするものよのう。して、その代償たるやいかに?」

 鋭いい視線を向ける女神の問いかけに、王はゆっくりと息を吸うと、大きく広間中に響き渡るように、
こう言ったのだった。
「我が左足を代償に。」
炎の王は、声高らかにこう言い放ったのだった。

 先程から静かに、女神とルーフェン王の問答を聞いていた、ゼンスとユランであったのだったが、
その王の最後の言葉を聞いて驚き、二人顔を見合すとすぐさま、王と女神の間に割って入ったのだった。

「お待ちくだされ。しばしお待ちくだされ。」
ゼンスが杖を大きく振りながら両者の間に割って入ると、両手を広げてこう言ったのだった。




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by maarenca | 2014-08-06 12:31 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No15





THE SIX ELEMENTS STORY




No15




                                         著 水望月 飛翔


 そんな歴代の王達の、連綿と続く自己犠牲の元からなるこの領土の安定に、炎の民達は
深く感謝をしており、だからこそ、外からの見知らぬ気配が、王の精神の安定を少しでも損ねる事を、
ひどく嫌い警戒していたのであった。

 そして、城の外に出られない王に対して、自分たちは元気で暮らしているという事を
知らせたい気持ちと、王を励ましたいという気持ちの表れとして、何をするにも声高く、
大きな動きとなっていったのやもしれぬ。

 しかし時として、王の制御の力より、溶岩の力の方が勝るのか、はたまた、民達の王を思う気持ちが
暴走してなのか、時々の不安定な空の光景として、現われたのだった。
 だが、このような「炎の領土」の現状は一切他の民族には明かされてはおらず、
「聖なる騎士団」の長老達ですら知らなかったのだった。
 故に、未だにロードスをはじめ空の民達は、この「炎の領土」の真の意志を知るすべは
なかったのであった。

 では、何故炎の領土の者は、一切説明をしなかったのであろうか。
それは、彼らのプライド。と言うよりは、他の領土の者に自身の領土の秘密を、
知られることを恐れての事では無かっただろうか。
 きっと、自身で生んだ恐怖心と猜疑心からくるものであろう。

だからこそ、「炎の領土」の者達が、単に浅はかで落ち着きの無い民達ではない事を、
ここに、読者の皆さんには理解していただきたいのである。

 彼らもまた、この惑星の美しき魂の持ち主であるという事を。

 しかしこの様な領土の特性が、これから後、この王家の中で悲しい分裂を起こそうとは、
この時、誰が予測できたであろうか。

 さて、王の城の城門をくぐった一行の馬車は、今までよりも一段と熱い地表の熱風に
気押されながら、ようやく王の城の前に到着し、ゼンスとユランは炎の王への謁見を願い出たのだった。
 しかし、王の広間に通されるまでは、王を守る護衛長をはじめ、学者達や執政官たちに、
何度も大地の王妃の事を説明しなければならなかったのであった。

 そして長い時間をようしてから、ようやく王への謁見が許されたのであった。

 大地の王妃を長椅子に寝かせて、王の広間に入った三人の元に現れたのは、
今を収めし炎の王、ルーフェン・オスモール王。

 ルーフェン王は全身バネの様な鋼の身体を持ち、褐色の滑らかな肌には色とりどりの鳥の羽と、
王の躍動を表すように、身体に付けたいくつもの鈴の音が王の登場を高らかに知らしめたのだった。
 そのしなやかな手足には民達から送られた王を守るまじないの入った腕輪や足輪の装飾が
幾重にも重ねられていたのだった。

 そして、王の右手には地上のどの赤よりも紅きルビーの石が「ゆるぎなき意志」の力を宿し、
その手のうちに収まっていたのであった。
 
「聖なる騎士のゼンス殿、ユラン殿。よう参られた。この度は変わった客人が一緒のご様子だが、
して、この炎の我らにどのような用件で参られたのであろうか?」
黒い瞳で、まっすぐに見つめながら、ルーフェン王は二人に声をかけた。

 そして王は長椅子に横たわる大地の王妃の姿を、じっと見ながらゆっくりと玉座に座ると、
「聖なる騎士団」からの説明を待ったのだった。

 ゼンスとユランは王の元に進むと跪き、ゼンスはうやうやしく、こう述べたのだった。
「底知れぬ力を宿す領土を収めし炎の王、ルーフェン・オスモール王。この度は、
我らの入城をお許し下さり、誠にありがとう存じまする。さて、この長椅子に横たわるお方は、
遥か大地の領土の王妃様にて、このか弱き御身一つで、かの領土を守りし御仁に存じまする。
 しかし、ごらんのとおり、王妃の身もまた、このように酷く傷つき、もうかの大地の領土では生きる事は
出来ぬ御身になり申しました。「迷いの森」よりの謎の物体の侵入により、王妃の身体の内外が
この様に焼き尽くされ、もはやこの炎の領土、「タンカークの洞窟」の炎の元でしか、
お体を休める事ができませぬ。どうか、何卒こちらの元に、大地の王妃をお留めいただくことは、
出来ませぬでしょうか。」
 
 この後も「聖なる騎士団」の長老ゼンスから、大地の王妃に起こった事の説明を、
じっと静かに聞いていたルーフェン王だったが、その間ずっと長椅子に横たわり、
衰弱しきった大地の王妃の、激しく崩れた容貌を、視線もそらさずじっと凝視していたのだった。

 そして、ようやくゼンスとユランの説明が終わると、じっと目を閉じて、一人深く自身の心界へと
入っていったのだった。

「なるほどのう。目の前に横たわりしこの大地の王妃もまた、我を含む我らが歴代の王と同じく、
我が城、我が民、我が領土を守ろうとしたが故のあの姿。
さて、他の属性の者を我が領内にずっと留める事は、この後いったいいかなることになるのだろうか?
それは、わからぬ。しかし、かの者は我が身一つで耐えし者。そのような者を放っておいていいものか。」

 熱き心の持ち主、炎の領土を守りしルーフェン王にとって、この見知らぬ領土の王妃を、
ただ全く知らない存在として、簡単に片づける事は出来なかったのだった。

 そうして王が一人、心のうちで問答をはじめてから、どの位経ったのだろうか。
その時不意に、執政の者が王に声をかけたのだった。

「我らが誇り、炎の王。今すぐ、ご自身の意識に立ち返られよ。城の地殻で異変が起こっておりまする。」
慌てた声で、王に叫んだのであった。
 そう、炎の王が少しの間、自身の心のうちに意識を集中させるや否や、城の地下では溶岩の動きが
大きくなり、城が大きく揺れ始めたのであった。

 そして、それと同時に炎の領土の空が、「ギューン」と音を立てながら、何かわからぬ強い力を
受けたかの様に、ねじ曲がったように萎縮し始め、ひずんだ色に変化し始めると、王の広間に居た者達は、
この城の変動に怯え、あたふたと騒ぎだしたのだった。

 この執政の突然の声により、炎の王は直ちに意識を地上に取戻すと、窓の外から空の変化を確認して、
すぐさま広間の中央に立ち、目を瞑りながら呪文を唱えたのだった。
 そしてしばらくすると、かっと目を見開き、大きく広げた両手を「パンッ」と力強く合わすと、
右手に宿した己のルビーにこう話しかけたのだった。

「我に宿りし、熱き血潮のルビーよ。今すぐ己の務めを果したまえ。我そなたに命ずる。
今すぐこの地を正常に戻したまえ。」そう言いながら、ルビーの宿る右手を地面の方に向け、
王の全身の力を地面に注いだのだった。

 すると、王の右手から紅い強力な光が放出され、地面へ向かって行くと、少しずつ、
先程までの溶岩の勢いが収まりを見せ始め、炎の城もまた落ち着きを取り戻し始めたのだった

 そしてまた、王の広間は落ち着きを取り戻したのだった。
すると、目の前で起きた初めて見る光景に、「聖なる騎士団」の二人は、驚いて王にこう聞いたのだった。
「恐れながら、偉大なる炎の王。これはいったい何が起こったのでしょうや?」ゼンスの問いかけに、
王の傍に居た先ほどの執政が、声を荒げてすかさずこう言ったのだった。

「「聖なる騎士団」のゼンス殿。たとえあなた様の様に尊敬を集めるお方であろうとも、
この炎の領土の秘密を知る権利などは無い。ただちに控えなさるがよい。」語気を荒げた物言いに、
たとえ他の領土より気が荒い炎の者としても、ずっとゼンスやユランを含む「聖なる騎士団」に対して、
この様な荒々しい物言いをしなかった王の執政が、普段は見せた事のない激しい言い方をした事に、
ゼンスとユランはまた、不思議に思ったのだった。

 怪訝な顔をする二人を前に、炎の王は執政を抑える様に手で遮り、落ち着かせるように
こう言ったのだった。「まあよい。そのようにこの地の秘密をそなたが暴露する事もなかろうて。」

 少し笑いながら執政の方に顔を向けて言うと、先程の執政は、ハッとして、自身の言った言葉に
慌てた様に、困った顔をしたのであった。

 そして少しの沈黙の後、ようやく炎の王はゆっくりと口を開いたのだった。
「「聖なる騎士団」のゼンス殿、並びユラン殿。今そなた達が目にした事は、永く我が領土が抱えし事。
この城の地下にある溶岩の動きは、ほかとは違い、相当の力を有するもの。この動きを抑える為、
我ら歴代の王の務めとして代々ずっと、この溶岩の力を常に封じ込めねばならぬ宿命なのである。
しかし、少しでも我が意志を他に削がれたる時は、先ほどの様に、すぐさまこの領土に変化が現れるのだ。
だからこそ、我ら炎の王に着きたる者は、常にこの城にてこの領土を守らねばならぬ。
この城が先に出来たのか、溶岩の勢いを封じるために城が出来たのか、わしには解らぬが、
この様にわしは、ただこの城の囚われ人に過ぎないのだ。」

王がこのように言うと、先程の執政官をはじめ城の者達は、寂しそうに王を見つめ、うつむいたのだった。






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by maarenca | 2014-08-02 14:28 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No14






THE SIX ELEMENTS STORY





No14


                                            
                                           著 水望月 飛翔




 そうして、二人が馬車に近づき、見た光景とは。

ゼンスが馬車を降りた後、ユランの導きに応え、身体を呈して闇の攻撃から馬車を守っていた
聖龍なのであったが、そんな姿を想像できぬほど、今はゆったりと寛ぎながら身体を投げ出して、
力を失った闇の最後の残骸を口にくわえ、飲み込んでいる龍の姿がそこにあったのだった。

「なんともはや・・・。」そんな龍の姿に絶句するゼンス。
彼らのいる場所はまだ「迷いの森」の中。
 この信じられない光景に、言葉を失い苦笑しながら馬車に乗り込んだゼンスを、
ユランは今では落ち着いた表情の王妃の寝顔に、ゆったりと「癒しの詩」を歌いながら
穏やかに出迎えたのだった。

 ユランは馬車に戻ったゼンスの無事な姿と、前よりも力強い印象になった精霊の姿を見て、
うれしそうに微笑み、ゼンスにこう言ったのであった。

「やあ、ゼンス殿。あなたもご無事でしたか。一時はどうなる事かと思いましたが。
あなたがいなくなった後、闇の力がどんどん増して、持ちこたえられるかどうかと不安に思いましたが。
しかし先ほど、突然沢山の強い光が森の奥から急に現れて、一気に闇を貫いたのです。
そのおかげで、闇の力が怯みましてな。それと同時に光を浴びた龍の力が回復して、ほらこの通り、
救われたという訳です。」

ユランは楽しそうに微笑みながら、外に寝転ぶ龍を指さして、こう言ったのだった。
 そう言いながらユランは、ゼンスの傍らにいる精霊を横目で見ると、ゼンスにこう付け加えたのだった。
「しかし、ゼンス殿。以前よりも増して、立派になられた様子の精霊殿ですが。もしやこちらの精霊殿が、
お力をお貸しくだされたのではありませぬかな?」
 そう言うと、穏やかにほほ笑みながら、ゼンスの方を見たのであった。そんなユランの言葉にゼンスは、
突然大事なことを思い出したかの様に、大仰にこう言ったのであった。

「おお、そうじゃそうじゃ。こちらの精霊殿がご自身のお力をたいそう発揮されてのう。実はこのわしも、
命を救われたのじゃった。」
 そうゼンスが言うと、二人で「回復の手」を持つ精霊をじっと見つめたのだった。
ゼンスの傍らに佇む「回復の手」を持つ精霊に、意味ありげに視線を送りながら、二人の勿体つけた
大仰な言葉に、精霊は困って自身の身を隠そうと、あたふたとしたのだった。

 そんな精霊の姿に、ゼンスもユランも可笑しさをこらえきれず、フッと噴き出したのだった。
が、しかし、そこは「聖なる騎士団」と呼ばれし者。
少し笑った後に二人は目を合わせると、今度はゆっくりと姿勢をただし、その場に跪くと、
ユランが丁重に精霊に向かってこう言ったのであった。

「「回復の手」を持つ精霊よ。そなたが自身の力を発揮されたおかげで、我々は皆、救われ申した。
そなたの真の力のなんと素晴らしき事。ここに感謝をいたしまする。」そう言いながら、
深々と頭を下げたユランの姿に、少し戸惑いを見せたものの、「聖なる騎士団」からの言葉を受け、
この精霊の心の中で、確かに何かが芽生えたのであった。

 それから精霊は、今は静かに眠りについている王妃の顔を覗き込むと、ホッとした表情を浮かべ、
再び静かに「回復の手」を王妃に向けたのであった。
 その姿をみて、ユランはのど元のアクアマリンに話しかけ、「カーンサークの泉」からもらった水を
戻すため、空気を吸い込むように自身の石に戻したのだった。すると、龍の姿はゆっくりと消えると、
元の竪琴の姿に戻っていったのだった。
 そうして一行は、炎の洞窟に向かって動き出したのであった。

「迷いの森」の闇の力はまだ完全に消えた訳ではない。
しかし、彼らの周りを漂ってはいるものの、今は大した力を向けては来ないのであった。

 そんな中再び、炎の領土に向けて進む一行の馬車。
それからようやく、燃えるような赤い色を帯びた、活発な星々に彩られた空が遠くに、
少しずつ見られるところまで、一行を乗せた馬車は進んだのであった。

 そう、それは炎の領土の空。
ひとつひとつが躍動感に満ち溢れた星々は、常に燃えるような生命力を湛えた赤い色と、
生命の喜びを表す黄色で彩られ、跳ねる様に動くさまは、常にじっとしていられない炎の民達の、
気質そのままを表していたのだった。

 そして、時折おこる民達のたわいのない衝突も、そのまま星の運航に現れ、幾度となく星々が
ぶつかり合い、砕けたその破片がこの炎の領土に振り落ちる事も、また、歪んだ音が炎の空を覆うことも、
そう珍しいことではなったのであった。

 しかし、各地を巡る「聖なる騎士団」のゼンスとユランにとっては、この不協和音に満ちた
騒々しい空を見ることは、そんなにいやな事では無かったのだった。そんな落ち着きの無い星々を目にして、
ゼンスがこう口を開いたのだ。

「おお、いつにも増して、また今宵は一段と騒々しい空を見る事になりそうじゃのう。
しかしのう、ユラン殿。わしはこの秩序の無い、不格好な騒々しい空が割合好きなのじゃ。
まあ、雑多という点では我が故郷の「緑の領土」も大して変わらぬからのう。」

 そう言うと、ふっふっふっと楽しそうに身体を揺らしながら笑うゼンスに、
ユランは「いやいや、ゼンス殿。そなたの故郷「緑の領土」とこの「炎の領土」とでは、
その雑多の意味があまりにも違いまする。この両者を同じようにされては。」と言うと、
少し間を置いてから、ゼンスに向かってこう言ったのだった。

「しかし、実を申せばこの私も、このような空でもあまり嫌いではないのですよ。
ある方角から見れば、ただ騒々しくて調和がとれていないやもしれませぬが、
また違う方角から見れば、こんなにも躍動感に満ち溢れ、生命のエネルギーが輝いて見える。
これは、我が領土「水の領土」にはない、何やら楽しい感覚でもありましてな。」ここまで言うと、
一つ間を置いてから、また続けてこう言ったのだった。

「しかし、こんな事は、「空の領土」ロードス殿の前では迂闊に言えませぬな。」
と、ユランは何やら意味ありげに、ゼンスの方に視線を送ると、二人は目を合わせて、
そのまま短い含み笑いをしたのだった。

 そう、緑、水、大地の領土からは、あまり「炎の領土」の空をしっかりと把握することは
難しかったのであったが、翼を持ち、また高いところに住む空の領土の民達からは、
この隣接する騒々しい、炎の領土の空が手に取るように見え、空の領土に比べて、
いつも不格好に瞬いている炎の領土の星々を目にしては、密かに眉をひそめているのであった。

 そして、この不協和音の気配が少しでも、空の領土に近づいてこようものなら、
すぐさま冷たい冷気を起こし、炎の領土へと追い返していたのだった。

 だからだろうか。
たまに炎の領土に似つかわしくない、冷たい風が吹くのは。

そんなことを二人が話していると、それから程なくして、三人を乗せた馬車は、
炎の領土に入っていったのだった。
 すると、他の者の進入を知らせるかの様に、星達がガチャガチャと音を鳴らし始め、
威嚇するかの様に赤黒く変化したり、奇妙な文様を作っては彼らの馬車に迫ってきたのだった。

 ゼンスはそんな空を見上げながら、「ほう、これはこれは。今宵の歓迎はまたいつにも増して、
にぎやかなものじゃのう。」と、可笑しそうに言ったのだった。
「やれやれ、今からこれでは先が思いやられますな。」と、ユランは半ばあきれながら、
フッとため息を漏らしたのだった。

 そう、未だ「聖なる騎士団」の中に「大地の領土」出身のものはおらず、故に大地の領土の者が
この炎の領土に足を踏み入れたのは、これが初めての事なのであった。

 そして馬車に乗る大地の王妃の、今までに感じた事のない未知なる気配に対し、
きっと星達も何かを感じたのであろう。
 ざわめく空の知らせにより、炎の民達も、やがてあちらこちらから姿を現し、大地の王妃を
乗せた馬車を、不思議そうに迎えたのであった。

 そんな異変が伝わったのであろうか、次第に、ある者は握り拳を振り上げる様に威嚇して、
またある者は大きな奇声をあげながら、彼らの馬車に近づいてきたのだった。 

いつもは「聖なる騎士団」を、温かく迎え入れる炎の民達ではあったのだったが、
大地の王妃の見知らぬ気配の為か、それとも「謎の物体」の残した、不吉な気配を感じたためであろうか、
星々と同様に落ち着きなく、ざわめく群衆の間をぬって、炎の王の城へと進む馬車であったのだった。
 
 炎の領土・・・。
そこはずっと、長きにわたり続いている、火山地帯からなる領土で、その中心部の一番高い山からは、
常に溶岩が流れ出ており、赤々とうねるように動き、営々とその移動を続けていたのであった。
 その、何者をも近づけぬ溶岩の流れは、徐々に冷めてくると少しずつその色を
赤から黒色へと変化をしはじめ、やがて次第にその動きも遅くなると、後から続く溶岩に押されては、
歪んだその溶岩の裂け目から、また赤々と燃える溶岩が新たに生まれる。

 そうして、その繰り返しの先には、次々に海へと落ちていくのだった。
赤と黒の塊が繰り返し永久にうごめくこの光景。
こうして、この領土の下で、その流れを止めない溶岩の動きが常に感じられるからだろうか、
炎の民達は、真に心落ち着くということを、生まれてから死ぬまで、経験することが無かったのやもしれぬ。

 炎の城の下には、この領土の中でも一際熱い溶岩が活発に動いており、常に凄まじいエネルギーが、
その活動を続けていたのだった。

 そして、その溶岩の爆発的な力を長きにわたり、抑えているのが、歴代の炎の王達なのであった。
歴代の王達は、王の城の地下で踊り狂う溶岩の動きを、常に封じなければならず、その為、
城外へは一切出る事をせず、自身の意識を常に地下の溶岩へ集中し、封じていたのであった。


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by maarenca | 2014-07-30 12:21 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No13





THE SIX ELEMENTS STORY



No13


                                          
                                          著 水望月 飛翔



さて、炎の領土にある、「タンカークの洞窟」に送られた大地の王妃は、その後いったいどのように
なったのであろうか。

「聖なる騎士団」のゼンスとユランに伴われ、遠く炎の洞窟へとたどり着いた王妃であったが、 
そこまでくる道中は、弱り切った王妃の身体には、とても堪えた旅でもあった。
 顔や身体の多くを炎で焼かれた王妃。その体内の大部分も、謎の物体の侵入により、
多くを焼き尽くされた瀕死の状態なのであった。

 しかし王妃は、大地の王と王子や民達に心配を掛けまいと、何としてもこの大地の領土の中では、
自分が倒れるわけにはいかないと、気丈に最後の気力を振り絞り、炎の領土への道を進めたのだった。

 それでも、乱れる呼吸と時折大きく揺れる馬車の振動に、たびたび、苦痛の表情を登らせる王妃。
そんな懸命な王妃の姿にゼンスとユランは、心を痛めながら、ゼンスは「生命の息吹をもたらす杖」を振り、
森の精霊を集めると薬草を探させ、王妃の傷口に乗せ手当をさせたり、「回復の手を持つ」精霊を呼び出し、
つきっきりで王妃の看病に当たらせたのだった。

 そしてユランは、少しでも王妃の苦痛を和らげようと、「聖なる龍の鱗からなる竪琴」をつま弾きながら、
炎の領土に着くまでの間ずっと、「癒しの詩」を歌い続けたのだった。

 しかし、炎の領土に入る前には、そこに「迷いの森」の存在が、やはり大きく立ちはだかっていた。

 三人を乗せて歩を進めていた馬車であったが、少しずつ暗くなってくる闇の陰鬱な重い空気に、
息苦しいような圧迫感を覚え、時折、「ヒューン、ヒューン。」と見えない何ものかの気配が馬車に近づくと、
その気配が通り過ぎるたびに、馬車を少しずつ凍らせていったのであった。
 そして時折、この世の声ではないような、耳をつんざく悲鳴も加わり、馬車に激しくぶつかってきては、
次第に大きく馬車を揺さぶったのだった。
 一行を乗せた馬車がいよいよ「迷いの森」の深部に来た時、馬車の周りを覆う暗闇が一段と
その黒さを表すと、それまで王妃の看護にあたっていた精霊たちが、馬車の外から次々と押し寄せてくる、
闇の恐怖に恐れをなし、一人また一人と、ゼンスの杖の中に逃げ帰っていったのだった。

 そして、とうとう「回復の手」を持つ精霊までもが、己の務めを忘れ、ゼンスの杖の中に隠れて
しまったのであった。
 精霊の「回復の手」の力がなくなると、王妃の苦痛は一層強まった。
そして、外から迫りくる恐怖と自身の大きな身体の痛みが王妃を貫き、いよいよ王妃の精神は、
「迷いの森」の力により、王妃の身体から引き離れそうになったのだった。

 それを見たゼンスは意を決すると、一人馬車の外に出た。
そして、自身の杖を大きく振りながら「迷いの森」の闇に直接話かけたのだった。
「迷いの森の真なる闇よ。今こそ、我が声を聴け。そなた達はいかなる者であろうや?
そなた達の真なる姿をいま、我の元に現したまえ。」
 そう言いながら、大きく杖を振りかざし、闇の深部に入っていくゼンス。
ゼンスは、少しでも「光のかけら」が残っていないか、探し始めたのであった。

一方、増々激しく馬車が揺さぶられ始めると、一人王妃の元に残っていたユランは、
自身ののど元に宿るアクアマリンに話しかけ、己の意識をアクアマリンから通り抜けさせると、
遥かなる水の領土「カーンサークの泉」の元へと辿り着いたのだった。

 そして、この清き泉の精霊から「聖なる水」をすこし貰うと、のど元のアクアマリンから
また自身の意識とその「聖なる水」を出現させたのだった。
 そして自身の竪琴に飾られている龍の鱗にその水を降り注ぐと、こう言ったのだった。
「我が竪琴の元に眠りし、聖なる龍よ。今こそ己の真の姿を現し、我の元にその姿を現したまえ。」
自身の竪琴に語り掛けるユラン。
 すると、「聖なる水」を吸った龍の鱗が、見る見るうちに龍本体の身体を形成し始めて、
「水の領土」の美しい七色の湖の色を持つ、聖なる龍の姿を出現させたのであった。

 そしてユランの元に出現した龍は、そのまま馬車の周りを自身の身体で守るように覆いつくし、
王妃の魂を闇の力に渡さぬ様、王妃を守ったのであった。
 
 間断なく、激しく馬車に向かって疾風が吹き荒れた。
龍のうろこに突き刺す痛み。
四方八方から攻撃を仕掛けてくる闇に対し、龍は相手を一瞬にして凍らせる程の、冷たい冷気を口から
勢いよく吐いては、姿の見えぬ闇の攻撃に必死に耐えていたのであった。
 馬車の中では、そんな龍の力を持続させるため、一心不乱に力を込めて、呪文を唱え続けるユラン。
王妃は、ユランの「癒しの詩」が無くなった間、必死に恐怖と全身の痛みに耐えたのだった。

 一方、闇の深部に入っていったゼンスもまた、目には見えない攻撃の手が自身に降り注ぐ中、
さらに隠された闇の深部へ迫ろうとしていたのであった。
 肌を刺すするどい疾風。
一足進むごとに、闇の攻撃は増していった。
 先ほどから、ゼンスに襲いかかってきた勢いのある大きな疾風が、次第にその姿を鋭利な形に
変え始め、少しずつゼンスの身体を、ナイフがすり抜けていく様に傷つけていったのであった。
それと同時に先程からゼンスの足元にまとわりついていた闇が、次第にじわじわとゼンスの身体の動きを
静かに止めていったのだった。

 そしてとうとう、ゼンスがもはや一歩も動けぬようになると、一気に闇の力がうねりをあげて、
冷たい泥がゼンスに覆いかぶさって来たのであった。
 埋もれていくゼンス。
身体全部をその冷たい泥が埋め尽くし、動きを止められると、ゼンスの意識は遠のいていったのだった。

 しかし、遠のく意識の中でゼンスは最後の気力を振り絞った。
「ここで終わるわけにはいかぬのだ。わしは、闇を闇のままで終わらせるわけには、いかぬのだ。」
この最後の強い思いに全身全霊をかけて、自身に言い聞かせる様にゼンスが言うと、それまで
怖がってゼンスの杖の中に隠れていた「回復の手」を持つ精霊が、自ら姿を現したのだった。

 そして、そのゼンスの強い思いに呼応して、自身の「回復の手」の力を一気に、
ゼンスの持つ杖に向かって解放したのだった。
 すると、ゼンスの杖から勢いよく溢れだした光。
一瞬にしてゼンスを覆っていた固い泥を粉砕し、闇の中を勢いよく貫いた。

 それまでずっと長い間、この「迷いの森」に光など射した事はなかった。
この重くのしかかっていた暗闇を、まるで浄化するかの様に光の束が、神々しい程の輝きで、
どこまでも遠く、解き放ったのであった。

 その光の一筋に、当たったものが一つ。
それは、弱々しいが確かに闇の中に残っていた「光のかけら」なのであった。
ゼンスはゆっくりと重い身体を起こすと、自身の額に宿るエメラルドに話しかけ、
その頼りない儚げな「光のかけら」を出迎えるよう、道しるべとなる光を放出させたのだった。

 そしてゼンスの額から進み出た、真っ直ぐに伸びるエメラルドの光に出迎えられると、最初は
少し怯えた様に震えていた「光のかけら」であったのだったが、恐る恐るその光の上に自ら乗ったのだった。

 ゼンスの元へと優しく導びくエメラルドの光。
ゼンスは、自身の手にそっと「光のかけら」を乗せると、優しく話しかけたのだった。

「闇の中に残りし「光のかけら」よ。よう、我が元に来てくれたのう。さあ怖がらずともよい。
そなたの思いをこのわしに話してはくれぬか?」
 慈愛に満ちた、深く温かなビロードのようなゼンスの声に、「光のかけら」は、
最初はただ小刻みに震えながら黙っていたのであったが、しばらくしてから、
ゆっくりと小さい声で話し始めたのだった。

「・・・・さびしいの。悲しくて。でも、本当の闇にはなりたくない。助けて・・。」
最後はほとんど消え入るような小さな声で。

 しかし、ゼンスの手の温かな温もりにホッとしたのか、「光のかけら」の震えは次第に止まり、
その後はまるで雪が溶けてなくなるように、スーッと消えてしまったのだった。

「ありがとう。」そうゼンスの耳に小さく残して。

 ゼンスは消え入る小さな「光のかけら」を見送ると、静かに目を閉じて、自分に言い聞かせる様に
ひとり思った。

「やはり、闇は初めから闇として生まれたわけではない。この星に存在している闇をすべて、
元の光の姿に戻してやらねば。それと同時に、生まれた闇の原因を突き止めて、なんとしてもこれ以上、
新しい闇を生ませぬ様にせねばならぬ。」
そうゼンス心に決めたのであった。

 それからゼンスは、少し離れた所に佇む「回復の手」を持つ精霊の方に目をやると、
優しいまなざしでほほ笑み、精霊にこう言ったのであった。

「「回復の手」を持つ聖霊よ。そなたが我が杖に戻りし時は、どうしてくれようかと思ったのじゃが、
よう我が意志に答え、また戻ってくれたの。そなたのおかげで、わしは命拾いをした。
そなたの勇気に深く感謝をいたす。」
そう言うと、ゼンスは精霊に向かって深々と、頭を下げたのだった。
「回復の手」を持つ精霊は、最初に逃げ出した自分を恥ずかしく思う気持ちと、ゼンスに褒められて、
なにかくすぐったい様な気持ちとがないまぜになり、どうしていいのか落ち着かない様子で、
ふわふわと宙を浮いていたのだった。

 そんな精霊にゼンスは優しく手を伸ばし、自身の手に乗せると、そっと精霊に向かって、
「さあ、まだ闇の力が完全に消えたわけではない。急いで馬車に戻るとしよう。」と言うと、
二人で急ぎ馬車に戻っていったのだった。







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by maarenca | 2014-07-26 17:57 | ファンタジー小説