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カテゴリ:ファンタジー小説( 51 )

THESIX ELEMENTS STORY No32







THE SIX ELEMENTS STORY




No32





                                    著 水望月 飛翔


左手に美しいサファイアを宿したカサレス・クレドール王子。
この美しき王子の成人の儀式は、大地の王妃に起こった悲劇より、一年前まで遡る。

 カサレス王子は幼い頃より、いつも何か思い耽るような面持ちの厳格なる父、タリオス王に対し、
時にはもっと、寛げる様な安らぎを持ってもらいたい、という思いをずっと、心の隅に持ち続けていた。

 そう、この空の領土を司りし父王タリオス王は、常にこの領土の空気の清浄を心がけ、
少しでも星達の歪みや乱れがないか、また領土の民達の生活は均衡が保たれているか、
自身の精神を集中していたのであった。

 そのためか、まだ幼いカサレス王子に対する視線も、常に王子の肩越しに視線を送るような、
まっすぐに見つめる王子の目線と交わらない寂しさを、カサレス王子は一人味わっていたのだった。

そして、カサレス王子の胸に、ずっとありつづけるもう一つの想い。

それは、カサレス王子が一生忘れる事の出来ない、幼い頃の悲しい別れの記憶。
その悲しい思いをずっと胸に収めた王子は、その事により、ある大いなる決意を
芽生えさせていたのだった。

 しかし、その理由は誰も知らず、また一切誰にも知られてはならぬ事。

この人知れぬ思いによりカサレス王子は、自身の成人の儀式に、歴代の王とは明らかに違う、
低い位置とされるその手の内に、「あらゆるものを変える力」を宿したのであった。

 そうカサレス王子は自身の固い決意の元、成人の儀式を見事成し遂げたのであった。
がしかし、王子を取り巻く周りの反応は、多くの失望と落胆が色濃く上る表情を湛えた、
静かな冷たい反応だけなのであったのだった。

 その時、その場にいた長老ロードスさえもまた、長老ゼンスと長老ユランの手前、
自身の領土の王子の不甲斐なさに、大いなる失望を持ったのだった。

 もちろんゼンスもユランも、カサレス王子のこの石宿しを、ロードスが憶測したような
低い志とも臆病者とも思う事などなく、ただ、この力をどのように使う為に願ったのだろうと、
不思議に思うぐらいであったのだった。

 がしかし、さしたる表情の変化を見せない二人に対し、この時ロードスは、恥ずかしい、
という風に思い、そうして落胆の表情をそのままカサレス王子に向けたのだった。

 しかしそれから後に目にする事となる、ある事によってロードスは、カサレス王子に対して
とった己の行動をひどく恥じ、それから後はずっと陰ながら、王子を支えていたのだが、
しかし、まさかその様に自身を見守る目があろうとは思わず、カサレス王子はこれから長い時を一人、
真に宿す王子の深き優しい心を、誰にも理解される事など無いだろう事を胸に秘め、自身の道を
一人きりで進んでいく事を、選んだのであった。

 普段人前では、いつも優しい微笑みを浮かべているカサレス王子であったが、ふとした瞬間に
見せる瞳の奥の悲しみを、幼い頃からリティシア姫一人だけは、感じ取っていたのだった。

 そして、そんな兄の悲しみを少しでも和らげようと、兄の左手を取ると、「きれいね。」といつまでも
優しくなで続けるリティシア姫。

 そんな幼くあどけないリティシア姫の小さな手の感触に、少しずつカサレス王子は、
柔らかさを取り戻していったのだった。


 カサレス王子は若き騎士団の三人との昼食会の後、自身の部屋に戻り、小さなテーブルの上に
置かれている美しい装飾が施された箱を開けると、鈍く光る銀の釦を一つ取り出して左手の上に乗せ、
自身のサファイアとその釦をじっと、長い事見つめたのだった。

「キュリアス・・・。いったい君はいま何処に居るのだろう?」

小さく口の中でそう呟くと、王子はギュッとその釦を握りしめ、窓に近づき、今宵の青々とした
冷たく輝く月の姿に、遠い日の友の影を探したのであった。


 そうあれは、まだリティシア姫が生まれる前の事。
まだカサレス王子が4、5歳の幼い頃の事であった。

その頃、王子と共にいつも一緒にいた16歳の少年がいたのだった。
彼の名は、キュリアス・グリュスター。
心優しきキュリアスは、まだ幼い王子のお守り役として、いつも正しい方に王子を導いていたのだった。

 カサレス王子は、この頼もしい年の離れた友人を兄として尊敬し、またそんなカサレス王子を、
いつも大事に思っていたキュリアスなのであった。

 この二人は本当に、いついかなる時も一緒であった。
カサレス王子が初めてテレパシーを使って、会話をしたのはキュリアス。
また、カサレス王子がはじめて「聖なる騎士団」の長老達に会い、空の民とは違うその姿に驚いて、
とっさに隠れたのもキュリアス。
 そしてキュリアスは、そんなカサレス王子を優しい微笑みで和ませて、無事に長老達への
挨拶をさせたのだった。

 そんな頼れるキュリアスは、やがて自身の成人の儀式を迎えたのだった。

キュリアスはある強い思いを胸に持っていたのであった。
それは、自身が「聖なる騎士団」に入る事。
そしてキュリアスは大層な願いを胸に、成人の儀式へと向かったのであった。

 しかし、それは残念ながら失敗に終わった。

彼の石は、彼の望みを拒絶して、その目覚めた力はもはや彼の力では、到底抑える事が
出来ないまでに暴走を始め、次第に石は誰が己の主かも忘れると、とうとう大きな閃光を放ち、
一瞬で粉々に砕け散ったのであった。

 そして、その閃光と熱い爆風で大きく身を焼かれたキュリアスは、意識を失いその場に倒れたのだった。

 キュリアスの事を王子が聞いたのは、それからだいぶ経ってからの事。
成人の儀式の日以来、ずっと城に姿を見せないキュリアスを案じ、城の者達に聞いて回った
カサレス王子であったのだったが、何人もの者たちに聞いては歩き、しかし、一向にキュリアスの
事を話さない中で、ようやくその重い口を開いた者から聞いた言葉は、カサレス王子の想像とは
とてもかけ離れた、残酷な現実なのであった。

 そうして、キュリアスの成人の儀式の失敗を聞いたカサレス王子は、激しく動揺すると、
一人自室に籠ったのだった。

 しかし、キュリアスの成人の儀式の失敗を思うたびに、胸の鼓童が今まで経験したことのないほど
激しく脈打ち、カサレス王子はその夜とうとう寝付けずに、一人でそっと城を抜け出して、
キュリアスが成人の儀式を行った、焼けただれた「真実の礼拝堂」その場所に、一人立ったのだった。

 そう、その頃にはすでに、キュリアスの行方は分からず、もう空の領土内でキュリアスの姿を
見た者など、誰もいなかったのだった。

 一人さびしくその場に立つ、まだ幼いカサレス王子の脳裏には、いくつもの表情のキュリアスの
姿が、王子に呼びかけては、また静かに消えていったのであった。

 そんなキュリアスの幻影に、カサレス王子は必死になって話しかけたのであったが、とうとう、
すべての幻影が王子の前から消えていったのだった。

 そうして、一人とり残され涙にぬれた王子の瞳の端に、くずおれた壁の隙間から零れ落ちてきた
月の光に照らされて、なにやら小さく光るものが一つ。

「なんだろう?」そう不思議に思いながらも、カサレス王子はその光の方に近づいていったのだった。
するとそこには、キュリアスがいつも身に着けていたマントの釦が、今は寂しく、ただ転がっていたのだった。

 震えるその手を近づけて、その釦をそっと拾い上げるとカサレス王子は、大事な友、キュリアスの
気配を少しでも感じ取ろうと、顔を近づけて必死に握りしめたのだった。 

 しかし、それはもはやただの薄汚れた釦でしかなく、なんの反応もないままに、カサレス王子は
やがて、悲しみのあまりその場に力なく、泣き崩れたのであった。

「キュリアス、キュリアス・・・。どこに行ってしまったの?お願いだよ、また僕の傍にもどってきて。
キュリアス。石なんかいらない。石なんかなくたって、キュリアスはキュリアスなんだから・・・。」

 そう心の中で叫びながら、まだ幼いカサレス王子は一人、冷たく蒼く輝く月に向かって、
声を押し殺して泣いたのだった。

ただ冷たい風に、吹かれながら・・・。

 こうしてそれから後、カサレス王子はこの時の哀しい思いと、ある少女との出会いによって、
自身の石の力を定めていったのであった。

 あれから大分月日が流れ、カサレス王子は16歳となり、自身の成人の儀式の日を
とうとう迎えたのであった。 

 カサレス王子はこの日、今までの空の領土の王族にはあるまじき、第一の島まで降りて、
「癒しの浴室」で身を清めてから、王の城までゆっくりと歩いていったのであった。

 そんなカサレス王子の姿を見送った空の領土の人々は、王子の美しい純白のマントに似つかわしくない、
くすんだ釦を見つけたのだった。

「あれは、キュリアスの・・・。」

空の人々は声を出さずに押し黙り、静かに王子の姿を見送ったのだった。
 そして、カサレス王子が自身の儀式を無事に終え、左手に石を宿した姿を見せると、
王をはじめ人々は、「王子はきっと、キュリアスの失敗で怖気づき、あのような低い手の位置に、
大した役にも立たない力を願ったのであろう。」と思ったのだった。

 そうこの時はまだ、誰一人として、カサレス王子の真の意志を知ろうとする者はいなかったのだった。



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by maarenca | 2014-10-01 09:42 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY  No31








THS SIX ELEMENTS STORY






No31




                                      著 水望月 飛翔



ジインの心の中の思いを、最初からずっと感じとっていた城の従者達であったのだったが、
そんなジインのあまりの不躾な思いに、さすがの彼らも少し気を悪くしたのであった。

 それまではゆったりとそれぞれに、この空間を楽しんでいたイズールとリューレンだったが、
カサレス王子の両翼の一人、フリュース・リュードがイズールに、テレパシーで話しかけて
きたのであった。

「聖なる騎士団のイズール殿。あまりこう言う事を言いたくはないのだが。この大地の騎士殿の
無遠慮な思いは、いかがなものだろうか?そなたは、かの御仁の思いに気が付いておいでか?」
と、聞いたのだった。

 そんな問いかけにイズールは、ハッとしてジインの気配を感じ取ると、テレパシーで
こう答えたのだった。
「カサレス王子の両翼のお一人、フリュース・リュード殿。これは、申し訳ありませぬ。
大地の騎士ジイン殿は、まだ最近騎士になったばかり。彼はまだまだ心のコントロールが
着いておりませぬ。どうか、今はまだ寛大にお許しいただけないでしょうか?」と、イズールは
従者フリュースに謝ったのだった。

 空のテレパシーを使うことは出来ないリューレンだったが、そんなイズールの異変を隣で
うすうす感じ取ると、イズールに大丈夫ですか?と小さな声で聞いたのだった。

 イズールは、心配そうに聞いてきたリューレンに、何でもないと答えたのだったが、
それでもリューレンは、(きっとジイン殿の退屈そうにしている思いに、この城の従者の方々が
不快に思ったのであろう。まだコントロールが出来ていないとはいえ、ジイン殿は、この静かに
緊張している気配を全く解っていないようだ。罪な事を。)と心に思ったのであった。

 そんなそれぞれの思いが交錯している中、部屋のドアが静かに開いて、カサレス王子と
リティシア姫が、足音もせずに静かに室内に入ってきたのだった。

 しかし、カサレス王子は一足この部屋に入るなり、こうした彼らの思いの残像を瞬時に感じ取ると、
一同にこう言ったのだった。

「これはこれは。大変お待たせをした様ですね。申し訳ありません。「聖なる騎士団」の皆様。」
と言うと、すぐその後にテレパシーで(遅れてすまない、フリュース。アーキレイ。)と従者達に
言ったのだった。
 リティシア姫も部屋の空気を感じ取り(遅くなってごめんなさい。)とテレパシーで謝ると、
カサレス王子の右翼を担うもう一人のアーキレイ・カーライルは(いいえ、そんな。)
と、恐縮したのだった。

 カサレス王子が騎士に声をかけると、すかさず三人は王子と姫を迎えて立ち上がったのだった。
そんな三人にリティシア姫が続けて、「お待せしてごめんなさい。でも、本当に皆様と
お話しできる事を楽しみにしていたんですのよ。」と言うと、優雅にふんわりとお辞儀をしたのだった。

 そんな、気品の中に親しみやすい愛らしさを漂わす姫の立居振舞に、若き三人もそれぞれ
親しみを持って、礼を返したのだった。

「さあ、どうぞお座りください。」カサレス王子の優しい物言いに、ジインはホッとして、
椅子に座りなおしたのだった。

 それからカサレス王子は、ゆっくりと三人を見ると、イズールとリューレンにこう話しかけたのだった。
「イズール殿。リューレン殿。お二人ともまた立派になられた様子。お二人の生気に満ちた
お姿を拝見できて、この惑星に住む者として、大変うれしく思います。」

 そうカサレス王子が穏やかに言うと、イズールが、「我らが空の領土の誇り、慈しみ深き優しさに
満ちたカサレス王子。あなた様にそのようなお言葉をいただき、私は本当に誇りに思います。
カサレス王子あなた様こそ、そのお優しさ、慈しみ深さが増々輝きをもって放たれたる事。
それをまた、間近に受けられたるは誠に幸せにございます。」

 そう言うと今度はリティシア姫に向かって、「そしてリティシア姫には、その名の持つ「天空の花」に
ふさわしく、この領土をそのお優しさ美しさで導かれております事を感じられ、これもまた、
私の喜びでございまする。」と、イズールはいつになく、彼の胸の内を真っ直ぐに二人に伝えたのだった。

 それに続いてリューレンも、「私もまたお二人にこうしてお会いできます事、真にうれしく、
光栄に存じます。他の領土にはない圧倒的な均衡を保つ空の領土にて、カサレス王子、
リティシア姫のお優しさに接する事が出来ます事は、私の最高の喜びでございます。」
と、深々と一礼したのであった。

 それを聞いてリティシア姫は、「まあ、あなた様のような誠意の方にそう言っていただけて、
とてもうれしいですわ。」と嬉しそうに言ったのだった。

 そして、ゆっくりとカサレス王子の方を向くと、リティシア姫は少し意味ありげに王子に
視線を送ったのだった。

 カサレス王子はすかさずテレパシーで、(はい、解っていますよ。リティシア。)と返事をすると、
静かにジインに視線を向けてこう言ったのだった。

「ようこそ、大地の若き騎士、ジイン・クイード殿。よう我らが空の領土に参られました。
いかがですか?この空の領土の感想は?」と、ジインに聞いたのだった。

 先程から四人のやり取りをじっと見入っていたジインであったが、王子の視線が自身に
真っ直ぐ向けられると、ジインの鼓動が一つ高く鳴ったのだった。

 そして、一瞬言葉に詰まったジインであったが、ゆっくりと息を吐くとカサレス王子と
リティシア姫に向かって、こう言ったのだった。

「はい、あの、とてもスゴイです。大地の領土にはこんな高い所なんてないですし。
こんな雲の中の城に自分が居るなんて、まだ信じられない感じです。でも、ちょっと冷たい様な
寒い空気が、俺にはなんだか、ピリピリするようで。」と腕をさすりながら言うと、カサレス王子の
左手のサファイアに目が止まり、王子の左手をじっと見ながらこう言ったのだった。

「それに、カサレス王子は、左手に石を宿しているのですね。空の領土の王子にしては
珍しい様な気がしますが、いったいどんな力を宿しているのですか?ほんとにきれいな
サファイアですね。もっと近くで見てもいいですか?」  
   
 ジインは自分を真っ直ぐに見つめる王子の視線にドキドキすると、視線をそらそうと
ふと向けた先に、王子のサファイアに目が留まったのだったが、その深く澄んだ青い石に魅入られ、
つい王子に軽く聞いたのだった。

 しかし、そんな不躾な事を遠慮なしに聞いてくるジインに、先程から料理などを運んでいた
従者達の手が止まると、従者達は何か言いたそうに、カサレス王子の第一の従者アーキレイと
フリュースに視線を投げかけたのだった。

 フリュースは、そんな皆の思いを受け取ると、皆を制するように右手を挙げると、そのまま静かに
腰の剣に手を置いたのであった。

 そんな動きを見てカサレス王子は静かに、(フリュース。)とテレパシーで言うとフリュースは
(解っております、何もいたしません、王子。ただこのような無礼な振る舞いを、捨て置く訳には・・・。)
とテレパシーで答えたのだった。

 そんな最後の言葉を濁すフリュースに、カサレス王子は少し遠い目をすると、再びテレパシーで、
こう言ったのだった。

(許してやって欲しい。フリュース、皆の者。彼は全く悪意を持って言っているのではない。
王子の身分である者の、手の内の石宿しにただ興味を抱いているだけなのだから。
しかし、もし彼の言葉が屈辱的に聞こえるのだとしたら、それは私の力が弱いからであろう。
むしろ責められるのは、私の方かもしれない。肩身の狭い思いをさせてしまって、済まない。みんな。)  

 そんなカサレス王子の気遣いの言葉に、フリュース、アーキレイと居並ぶ従者達は、あるいは
自分たちの反応が、この優しき王子を傷つけてしまったのではないかと、また心を痛めたのだった。

 そんなやり取りなど知らないであろう発端のジインの不躾な質問に、イズールとリューレンもまた、
内心飛び上るほど驚いて、ジインに何か一言言おうと思っていた時だった。

 しかし、王子のサファイアの美しさに、ただ好奇心が抑えきれずに、ワクワクしながら無邪気に
聞くジインの表情と、彼の不躾な質問に眉をひそめる周りの者の対照的な反応の違いを見て、
カサレス王子とリティシア姫は顔を見合わせると、次の瞬間、大きな声を出して笑い出したのであった。

 そんな王子と姫の姿に驚いた一同を見て、ジインの隣に座っていたリューレンは、
内心穏やかでいられず、困った顔をしながら、ジインを見つめたのだった。しかしカサレス王子は
左手をあげると、やんわりとリューレンを制し、楽しそうにこう言ったのだった。

「これはなんとも素晴らしい。新しいタイプの騎士の誕生ですね。私もリティシアも本当に
久しぶりに笑ったような気がします。」と言うと、憮然としている周りの者達に穏やかな視線を投げると、
カサレス王子はそれから続けてこう言ったのだった。

「ごらんのとおり、整然とした美しさは本当に素晴らしいのですが、やや楽しさに欠ける我が領土。
この冷たい空気に、こんなに楽しく温かな風を運んでくれようとは、ありがとう。ジイン・クイード。」

 一通り笑ってそう言うと、少し間を置いてカサレス王子は、ゆっくりと自身の左手のサファイアを
しみじみと眺めたのだった。

 それからしばらくして、ジインの方に顔を再び向けると、ゆっくりとこう言ったのだった。

「そうですね。大抵王子の地位にいる者にとって、自身の手などという低い位置に石を置く者は
あまりいないでしょう。そう、かの地、炎の領土を別としては。私のサファイアが持つ力とは、
「あらゆるものを変える力」なのですよ。まあ、皆さんの様な、大いなる素晴らしい力ではありませんが、
私はこの力をとっても気に入っているのです。」と言うと、ジインに優しくほほ笑んだのであった。

 カサレス王子が穏やかにこう言うと、リティシア姫はそんな兄に向かって、
「兄様、私も兄様の石の力が本当に好きよ。それに。私は兄様がそんな風に笑ってくれる事が
本当に好きなの。」少しの哀しみもない王子の軽やかな笑顔を見て、リティシア姫はうれしく思い、
ジインの方に向き直ると、「ありがとう。ジイン様。」と、愛らしくほほ笑んだのだった。

 ジインは、昨日の王との謁見の時から、ずっと見とれていた美しい二人にまっすぐに
見つめられながら、そう言われて、思わず顔が赤くなるのを感じたのであった。それと同時に、
自分の軽はずみな言動が、この場にいる皆を混乱させた事をようやく理解したのだった。

「いえ・・、その・・俺は・・・。」
そう言ったきり、口ごもるジイン。

 しかし、久しぶりに見る、晴れ晴れと笑みを湛えたカサレス王子とリティシア姫の表情を見て、
イズールも、そしてカサレス王子の右翼を担うアーキレイと左翼を担うフリュースをはじめ、
その場にいた従者達も、ホッとした表情を見せたのだった。

 そしてイズールは、まだ内心一人心配そうな面持ちでいるリューレンに小声で、
「大丈夫なようですよ。」と嬉しそうに言うと、心配そうな面持ちのジインに、楽しそうに
目配せをしたのだった。
 
 イズールのそんな表情を見て、ようやく安心して笑みを浮かべるジイン。
 こうして、それからの時間を王子と姫と騎士団の三人は、楽しく和やかな空気の中、
いつまでも長い時間を共に過ごしたのだった。

 そして、空の色が少しずつ金蓮花色に変わり、やがてロワイヤルブルーに暮れていく頃に、
ようやく長老達の待つ部屋に、この若き三人は戻っていったのだった。

 今までになく、軽やかな気配を身にまとって戻ってきた三人に、長老達は「おやっ?」
と思いながら、三人を眺めたのだった。

 そして、すこししてから、ゼンスがこの若き三人にこう聞いたのだった。
「今日の王子と姫との昼食会は、ほんにそなた達には良い時間であった様だの。今まで以上に
良い交換ができたようじゃて。」と三人を見つめながらそう声をかけたのだった。

 そんなゼンスの温かい言葉を受けてイズールは、「はい、ゼンス様。今日のこのひとときは、
我らにとっては本当に楽しいものとなりました。正直な所、最初はどうなる事かと、私とリューレンは
とても心落ち着けたものではありませんでしたが・・・。」と言うとリューレンの方に視線を送ると、
リューレンもしきりにうなずいたのだった。

 それから続けてイズールは、「しかし、ジインの、何と言うのでしょう、素直な言動や正直さは、
やはり人々に暖かい気持ちを抱かせるようで、カサレス王子とリティシア姫と共に、本当に
楽しい一時を過ごすことができました。」と、長老達にこう言のだった。

 それを聞いて長老ロードスは、「カサレス王子もリティシア姫も楽しそうだったのだな?」
と念を押す様に聞いたのだった。

 その問いかけに「はい。」と晴れやかに返事をするイズールの顔を見て、
「それは本当に良かった。」と小さく言うと心の中で、(王子が楽しい時を過ごされた。ほんによかった。)
と一人何度も繰り返し、そう呟くロードスなのであった。

 こうしてまた一つ、空の領土の星たちの間に温かなまたたきが、増えた瞬間でもあったのだった。




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by maarenca | 2014-09-27 17:49 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No30









THE SIX ELEMENTS STORY





No30



                                  著 水望月 飛翔


 (お二人に何か、話さなければ。)
ようやく少し身体を動かすとジインは、緊張した面持ちで「カ、カサレス王子。リティシア姫。
お目にかかれて、光栄です。俺、いやわたくしこそ、どうぞ空の領土の事をいろいろ教えてください。」
と、短い返事を返すので精いっぱいのジインなのであった。

 そんな、顔を赤くしながら、緊張しているジインの姿を見て空の王は、(ふむ、今日はこれ以上
、この者を緊張させない方がよかろう。)そう思うと、(皆のもの。本日の謁見は、ここまでといたす。)
と、王の広間にいた皆に、テレパシーを送ったのだった。

 そして、ジインに向かって「それでは、大地の騎士ジイン・クイード殿よ。我らが空の領土の
滞在をゆるりと楽しまれるがよい。」と言うと、タリオス王は長老達の方に視線を送り、静かに頷くと、
王妃と共に王の広間を静かに退出していったのだった。

 その姿を見送った空の領土の人々は、今一度「聖なる騎士団」の一向に礼を送ると、
続けて静かに退出していったのだった。そんな静かなる光景を見て、ジインは少し取り残されたような
寂しさを、覚えたのだった。

 ぼんやりと、寂しそうに立ち尽くすジイン。その耳元に突然、(またあとで。)と、小さな声が
頭の中で通り過ぎていったのだった。

 一瞬の事に驚いたジインは、その声の主を探すように周りを見回したのだったが、
しかしそんなジインの目に映ったものは、人々の列の先頭で、腕を組んで退出していく、
カサレス王子とリティシア姫の遠い後姿なのであった。

 人々が去った後、ゼンスは「聖なる騎士団」の一同を見回すと、「さあ、我らも退出するとしようかのう。」
と、声をかけたのだった。

 そんな彼らに、空の城の従者が近づくと、彼らを部屋に案内したのだった。
そして、「聖なる騎士団」の一行は従者の後について、広い王の城の廊下を進んで行ったのであった。
城の中をめぐる廊下の天井には、空の人々の頭上を飾る細工と同じように、細い金属の細工が繊細な
優美さを持ってこの廊下を静かに飾っており、人々がその廊下を通るたびに、「キーン。」と、
小さく高く美しい音色を震わせていたのだった。

 先程の空の王との謁見で、まだ緊張が解けぬジイン。
上の空の面持ちで、一同の一番後についていたジインは、前を歩くイズールにそっと小さな声で、
こう尋ねたのだった。

「なあイズール。カサレス王子とリティシア姫って、いったいどういう人なんだい?」と誰にも
聞かれないように小声で聞くジイン。

 そんなジインの質問に、イズールは少し考えた後そっと「カサレス王子とリティシア姫が、
どうかされましたか?」と小声で聞き返したのだった。

 そんなイズールの問いにジインはドキッとしたのだったが、しばらくして、「いや、あの、
お二人の姿がその、あまりにきれいだったから。」と、顔を赤くしながら、答えるジイン。

 そんなジインの言葉にイズールは、少し驚いた表情を見せたのだった。
そして、ジインの顔を無言でじっと見ると、少し間を置いてからジインにこう言ったのだった。

「ジイン殿。あなたは、本当に心に思ったことを素直に表現される方なんですね。」そう言いながらフッと
優しく笑うと、温かい目でジインを見ながらイズールは、こう続けたのだった。

「ジイン殿。あなたがそのように好意的に思ってくれて、私も本当にうれしいです。この領土では、
心に思ったそのままを素直に言う人は、あまりいませんから。」そう言うとイズールは、
一旦ジインから目をそらし、どこか高い空を見つめたのだった。

 と、ちょうどその時、イズールにカサレス王子から、テレパシーで伝言が届いたのだった。
「空の若き騎士、イズール殿。もしよろしければ、明日の昼食会に若き三人の騎士を招待いたしたい
のだが。いかがだろうか?」そう、イズールに問う声に、イズールはすぐさま、「ありがとうございます。
カサレス王子。もちろん、喜んで伺います。」と返事を返したのだった。

 それからまた、ゆっくりとジインに視線を戻すと、静かに微笑みながらこう告げたのだった。
「それよりジイン殿。明日は王子と姫との昼食会に、私達若き騎士も呼ばれております。
どうかその時にでも、お二方にご自分のお心を正直にお伝えください。お二人もきっと喜ばれる
ことでしょうから。」と言ったのだった。

 イズールの言葉にドキッとするジイン。
「えっ?それは・・・。」イズールの言葉に、明日また会えるといううれしさ反面、何か落ち着かない
ジインなのであった。

 それから程なくしてようやく「聖なる騎士団」の一行は案内された部屋に着くと、それぞれの身体に
あった椅子を見つけては、その身を深く沈めて、ホッと一息ついたのだった。

 その部屋は、天上からつるされた薄い布のドレープで室内が飾られており、
そこから見え隠れする星の形の飾り達が静かな囁きで奏でる音で、一同を落ち着かせていたのだった。

 窓が開いているわけではないのだが、ゆったりとした、清涼な風が部屋をながれ、スーッとする
香りに一同は思い思いにしばし寛いだのだった。

 それからしばらくすると、水の若き騎士、リューリン・クボーが、静かにこう切り出したのだった。
「やはり空の王の前では、他のどの王の前よりも一番身が引き締まる思いがいたします。
まだ私も、ようやくこちらは二度目の滞在ですので、少し緊張いたしました。」とそこまで言うと、
少し間を置いてから、「しかし、ロードス様。以前私が歌っていただいた「祝福の詩」とは、
今日は少し何かが違っていたような気がいたしましたが、これは私の単なる思い違いでしょうか?」
と、ロードスの方を向いて聞いたのだった。

 そんな質問を受けてロードスは、じっとリューレンを見つめると、感心したようにこう言ったのだった。
「さすがだのう。リューレン・クボーよ。以前自身に贈られた「祝福の詩」と、今日の詩の違いに気づくとは。
やはりそなたは、誰にも負けぬ繊細な感覚を持っておるのう。」と言うと、ロードスは押し黙って
何かを考え込んだのだった。

 そんなロードスを見てイズールは、少し可笑しそうに小さく笑ったのだった。
イズールの小さな動きに気づいたリューレンは、「どうしたのですか?イズール殿。」と、不思議そうに
聞いたのだったが、リューレンに問いただされたイズールは、少し困ったような顔をすると、
「いや、これは。私の口から申す事ではないので。」と、ロードスの方を見ながら、言葉を濁したのだった。

 そんな救いを求める様なイズールに対して、ロードスは少し咎めるように、イズールを見てから、
すぐにリューレンの方に向き直り、こう答えたのだった。

「若き水の騎士、リューレン・クボーよ。確かにそなたの為に歌われた「祝福の詩」は、真にそなたに
祝福を込めて歌われたもの。しかしのう、今日歌われた「祝福の詩」はそなたの時とは確かに
少し違っていたのじゃよ。」

 そう言うと一同をゆっくり見回すと、続けてこう言ったのだった。
「今日ジインのために歌われた詩の旋律の中には、少し落ち着きを与える為に「やすらぎの詩」の旋律も、
実は入っておったのじゃよ。」と、一同にその違いを明らかにしたのであった。

 ロードスのそんな言葉にジインは、理解できずに不思議そうにロードスの方に目を向けると、
ロードスは続けてこう言ったのだった。
「大地の騎士、ジイン・クイードよ。そなたはまだまだ自身の心をコントロールする事が、難しいようじゃて。
もちろん、私もそなたの正直さが嫌いではない。だがの、どうもこの空の領土の保たれた均衡に、
少し乱れを起こすほどの波動の強さがあるようなのじゃ。それゆえ王は、そなたの波動を
落ち着かせる為に、「やすらぎの詩」の旋律を入れたのじゃよ。」とロードスはこう言うと、
ジインの顔をじっと見つめたのだった。

 それからまた、「しかしのう、王をはじめ空の方々も、そなたのそんな正直さを嫌いではなさそうじゃ。
どうもそなたは人々に温かな気持ちを持たせるような、そんな不思議な力を持っておる様じゃな。
何はともあれ、我らが空の王もそなたを認めた事に間違いはない。まだまだ精進すべき点は多々あれど、
そなたはそなたの備わっている力をこれからも大事にするがよい。」と、ジインにそう言ったのだった。

 そんなロードスの言葉に、ジインは少し複雑そうな顔をすると、「ロードス様、俺は素直に喜んで
いいのでしょうか?」と、不安そうに聞いたのだった。  

 そんなジインに一同は一斉に笑いだし、「もちろんですよ。ジイン・クイード。」とイズールが言うと、
皆も口々に「おめでとう。よかたったのう。」と、ジインを祝福したのだった。
 こうして「聖なる騎士団」の一同に祝いの言葉をかけられて、ようやくジインは今日一日の緊張から
解放されたのだった。
 
 大地の騎士ジインが、皆とそんな祝いの時を過ごしている頃、リティシア姫は、姫の部屋で
久しぶりに味わう大地の領土の気配を懐かしむように、一人思いにふけっていたのだった。

 そして、城の外では今までにない、まるで雛鳥でも抱くかのような、温かい安らぎに満ちた
星々の輝きが、今宵の空の領土を慈しんでいたのであった。

 次の日、「聖なる騎団」の長老達が、空の王や執政たちとの話し合いの席についている頃、
イズール、リューレン、ジインと、若き騎士たちは、カサレス王子とリティシア姫との昼食会に
招かれていたのであった。

「聖なる騎士団」は、まずそれぞれの領土に着くと、その領土の王との話し合いの席に着き、
領土内で何か変わったことは無いか、困っている事は無いか、互いに意見交換をするのであった。

 そうして、その領土内や他の領土での問題点を、広く共有する事でスムーズに解決できる様に
努めるのが、また「聖なる騎士団」の存在理由の一つであったのだった。

 そして、これからを継ぐ各地の若き王族と若き騎士たちが、交流を持って各地の理解を
深める事が、この惑星の平和を守っていく事の大事の一つでもあったのだった。

 王子と姫より先に、昼食会の席に着いていた「聖なる騎士団」の三人は、それぞれが違う思いで、
この部屋の空気を感じていたのだった。

 空の領土出身のイズールは、子供時代をずっと第三の島で過ごし、この王の城のある第五の島を、
ずっと下から眺めながら育ったのだった。

 空の領土の民達は、王の城があるこの第五の島へは、特別な行事でもない限り、そう足を
踏み入れる事は無かったのであった。

 そして、イズールが「聖なる騎士団」に入り、ようやくこの王の城に足を踏み入れる事になってから数年。

 空の領土の者にとっては、この王の城に居るという事自体が、大いなる名誉なのであった。
「王の城のこの整った均衡が張り詰めた空気は、やはりここ以外、何処を探してもないもの。
こうして、此処の空気を味わえることは、私にとってはまるで、下界の雑多な思いを洗い清められて
いるようだ。」と、イズールは一人、この清浄なる空気を楽しんでいたのだった。

 そして水の領土出身のリューレンもまた同じように、この王の城の空気を楽しんでいたのだった。
「我らが水の王の城がある「聖なる龍の住む湖」の清らかさ神々しさは、格別なれど、この空の王の城の
気高い程の凛とした空気もまた、唯一無二のもの。まるで我が身の歪みや汚れを正してくれているようだ。
これほどの美しい気配を、どうしたら我らが水の王にお伝えする事が出来るであろうか?」と、
こちらも一人思いを馳せていたのであった。



 一方新しき騎士、大地の領土出身のジインはどうであろうか。

「イズールもリューレンも、さっきから何を考えているんだろう?こんな何の音も余分もない静けさで
よく落ち着いていられるな。俺にはなんだか居心地悪くて落ち着かないな。あー、早く王子と姫が
来てくれないかな?この城の従者もさっきからじっとしているままだし、このままじゃ、
息が詰まってしまうよ。あんなに真面目な顔をして、楽しい事がないのかな?」と、
ずっと動かず静かに王子と姫の到着を待っている、城の従者たちの存在にも先程から気になっては、
一人落ち着かないジインなのであった。






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by maarenca | 2014-09-24 14:20 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No29







THE SIX ELEMENTS STORY





No29





                                  著 水望月 飛翔

 空の王の広間では、衛兵から学者、執政の者や王族の人々がみな打ち揃い、
王と王妃の入室を静かに待っていた。しかし、その静けさたるや、まるでこの世の者では
ない様な、気配と動きを感じさせぬ優美な佇まいで、その広い空間を清めている様でも
あったのだった。

 彼らの翼は白を基調とした淡いグラデーションになっており、ある者はグレーがかった
グラデーション、またある者はブルーがかったグラデーションと、様々な色の羽を持ち、
その羽に合った色の衣装が、深く美しいドレープを創り出していたのだった。

 それらのドレープが表したのは、彼らの思想の深さであろうか。
また、男女問わず美しく伸ばした髪は、銀髪や金髪、または白髪と淡く、なんとも壮麗で
静かな美しさを完成させていたのであった。

 そして彼らの頭上には、それぞれ自身の指針となる言葉が込められた植物で形作られた、
細い金属の細工が美しく人々を飾っていたのだった。

 そんな人々が生み出した静寂に、深淵たる厳格な空気が漂った。
ジインはなんだろう?と城内を見回すと、今までいりも一層深い威厳を漂わせながら、
空の王と王妃が姿を現したのだった。ジインは空の王の姿を見とめると、目に見えぬ
何ものかにはじかれたように、自身の身体を貫いた感覚に襲われたのだった。

 そして王と王妃が玉座に着くと、「聖なる騎士団」の一行は、空の人々があけた空間の中央を通り、
そのまま王と王妃の前まで進んだのだった。

 「聖なる騎士団」の一同が揃って深くお辞儀をして王の前に跪くと、長老ゼンスが代表として、
一人その場に立ち、空の王への口上を述べ始めたのだった。

「燦然たる空の領土を築きし偉大なる空の王。タリオス王。この度は我ら「聖なる騎士団」に、
この様な正式なる謁見の場をお与えくださり、誠にありがとう存じまする。王並びに王族の皆様にも
ご健勝のよし、誠に喜ばしく。」と言って、一度頭を下げると、続けてこう言ったのだった。

「さて、この度は我ら「聖なる騎士団」に大地の領土より、新たに入りましたる若者をご紹介いたしたく、
はせ参じました次第。どうか皆様、以後はこの者をお見知りおきいただきたく、何卒よろしく
お願いいたしまする。」と言うと、深々とお辞儀をして、その場に跪いたのだった。

 こうして、長老ゼンスからの言を受けると、空の王はゆっくりと一同を見回し、
静かにこう述べたのだった。

「永きに渡り、「聖なる騎士団」を司りし、長老ゼンス・ショーインよ。そなた達の尽力のおかげで、
この惑星も一段と秩序を増しておる事、誠に感謝いたす。」そうして高貴なる佇まいで、
「聖なる騎士団」の一同に頭を下げると、続けて「して、いよいよ大地の領土より「聖なる騎士」が
誕生いたした事、誠に喜ばしい。空の領土よりの祝福をその者に授けたいのじゃが。
いかがかな?大地の領土の聖なる騎士よ。」と、最後はジインの方を向いて、こう言ったのだった。

 ジインは下を向きながらも、空の王の目が自身に注がれていると思うと、緊張が走ったのだった。
そしてゆっくりと顔をあげると、ジインは緊張しながらも、空の王への口上を述べ始めたのだった。

「比類なき崇高なる空の王。タリオス王。はじめてお目に掛かりまする。我、大地の領土より参りました、
ジイン・クイードと申す者。自身の成人の儀式により、己の右腕に石を宿し、聖なる神器
「悲しみを断ち切りし剣」を出現させし者にて。この度「聖なる騎士団」へ入りましたる事、
大地の領土の誇りにかけましても、我が身命を賭す所存でございまする。どうか、空の王並びに
空の方々にも、お見知りおきをいただきたく、何卒よろしくお願いいたしまする。」
ジインは、一つ一つ慎重に誠心誠意を込めて、述べたのだった。

 大地の領土の者の初めて聞く空の言葉に、今まで聞いた事もない、熱く強い思いの波動を
感じた空の人々は、穏やかな優しい笑みを浮かべたのだった。

 それは嘲笑などというものではない。なにか久しぶりに感じた温かさに、少し懐かしむような
思いを抱いたのであろう。

そんな穏やかな気配が、この王の広間を包んだのであった。
 いつもは厳格なる空の王も、今までにない波動を持つこの大地の若者に対して、
優しくこう言ったのだった。
「聖なる神器、「悲しみを断ち切りし剣」を持つ大地の騎士、ジイン・クイードよ。
よう我が空の領土へ参られた。そなたが我が領土を讃えてくれている事は、わしにも
よう伝わっておる。同じく我等にもそなたを讃えさせてはくれまいか。」そう言うと空の王は、
ゆっくりと玉座を降りながら、この大地の若者に「祝福の詩」を歌い始めたのだった。

 すると、隣に座っていた王妃も玉座を降り、美しく優しい声で王の詩に加わると、
次々と広間に居る空の人々が一緒に、「祝福の詩」を歌い始めたのだった。

「聖なる騎士団」の一行がこの王の広間に入って来た時は、氷の結晶の様な美しい文様が、
キラキラと静かに王の広間の天井に、輝きを与えていたのだったが、「祝福の詩」が広間中に
響き始めると、「癒しの浴室」で起きた様に、うすく小さな羽が次々と舞い降りてきたのだった。

 この美しい祝福に、ジインはとても感動し、心の震えを抑えるのに必死なのであった。
(ああ、なんて美しいんだ。こんなに美しい城で、こんなに美しい祝福をしてもらっているなんて。
ユーリス、空の人々の美しさを、おまえにも見せてやりたいよ。)

 そんなジインの思いと感動で打ち震える姿に、空の人々もまた優しくほほ笑みながら、
歌い続けたのだった。

 少しすると、ようやく周りに視線を向ける事ができる様になったジインは、王と王妃の近くで
一際輝く様な姿の、カサレス王子とリティシア姫の姿に目が留まると、そのままジインは
この若々しい二人の美しい姿に目が奪われ、じっと見とれたのだった。

 二人は美しい文様が浮かび上がった、純白の絹の様な軽やかなローブを身に纏い、
カサレス王子の頭上には、黄金の美しく伸びた植物たちが形作る装飾が置かれ、
彼の金色の巻き毛と相まって、その誠実な横顔を縁取っていたのだった。

 そして、リティシア姫の頭上には、プラチナに輝く可憐な花々をちりばめた細工が、
彼女の愛らしさを一層讃えていたのであった。

 そんな二人に見とれていたジインの気配を感じ、そちらの方へ目を向け、ジインと
目があった二人は、ほほ笑みながら軽く会釈をすると、ジインもすかさず礼を返したのだった。

 こうして、「祝福の詩」が終わると、王がジインの元に歩み寄り、こう言ったのだった。
「新たなる力を宿いし大地の騎士よ。そなたの力がこの惑星の平安を一層強固なものと
してくれるであろう。しばらくは我が領土にて、ここの美しさをその目に焼き付けていかれるがよい。」
と言葉をかけると、いったん後ろを振り向き、王妃に目で促したのだった。

 王妃は、静かに自身のドレスの袖を振り払うと、一瞬で軽やかにジインの傍に着き、
天上の光のような笑顔をジインに向けたのだった。

「大地の聖なる騎士、ジイン・クイード殿。よう我らが空の領土にいらっしゃいました。
旅の疲れはありませぬか?そなたの故郷とこの空の領土。いろいろ違いがあるやもしれませぬが、
どうかこの滞在にて、我らが空の領土を楽しまれていかれませ。」王妃がジインに向かって
話しかけている間、ジインは王妃の優雅さ、まるで聖母を思わせる美しさに見とれ、ぼーっとしたのだった。

 そんなジインに優しく微笑む王妃。
そして王妃が王のもとに戻ると、王は後ろに控えているカサレス王子とリティシア姫を呼んだのだった。

そして、もう一度ジインに顔を向けると二人を紹介したのだった。
「さて、大地の聖なる騎士、ジイン・クイードよ。これに控えしは、次の空の
領土を収めしカサレス王子と、リティシア姫である。これからを担いし者同士、どうか
仲良くしてやってくれ。」そう言うと王は、カサレス王子の方に顔を向けたのだった。

 王子が静かにローブの裾を一度振り払うと、今度は一瞬で、その場の空気が穏やかな
たたずまいに変わったのだった。

 カサレス王子は優美な頬笑みを向け、ジインの元に軽くひと飛びすると、ゆったりと優雅に
ジインに会釈をしたのだった。

 ジインは目を奪われた。
「新しき力を誕生させし大地の騎士。ジイン・クイード殿。わたくしはカサレス・クレドールと申します。
あなたの訪問により、益々互いの領土の距離が縮まり、理解が深まります事を切に願います。
どうかあなたの知識をわたくしにもお授けいただけないでしょうか?」そう、ほほ笑みジインに聞く王子。

 しかし、その場に固まって言葉が出ないでいるジインを見て、少し間を置いてから王子は最後に
「そして、この空の領土の滞在を良きものにして下さる事を切に望みます。」そう言うと、
ほほ笑みまっすぐにジインを見つめたのだった。

 ジインは息をのんだ。
それは、初めて感じる感覚だった。

 空の領土に入ってからは、空気や人々、全ての存在の美しさを大いに感じていたジインだったが
、威厳あるタリオス王や王妃とはまた違う、カサレス王子の優美さ、神々しさに圧倒されたのだった。

(カサレス王子・・・。この方はなんて優美な人なんだ。この神々しさ。なんというのだろう?
カサレス王子の優しさは、まるで天からの祝福を一斉に受け、王子の内側から光り輝いているようだ。)

 頭の中で一人思うジイン。しかし、ジインのそんな思いは、空の領土の人々にとっては
筒抜けなのであった。
 そうして、動けないでいるジインに、今度はリティシア姫の愛らしい声が届いたのだった。

「穏やかなる大地の領土より、よくこの空の領土へいらっしゃいました。ジイン様。
わたくしは、リティシア・クレドールと申します。どうか、あなた様の故郷、大地の領土の事を
わたくしに教えてくださいませね。」

 カサレス王子と同じように、ふわっとジインの元にひと飛びすると、会釈をしながらリティシア姫は
ジインにそう話しかけたのだった。

リティシアは、色々話したい衝動を抑えながら、にっこりとジインにほほ笑んだ。
その姿はまるで、崇高なる天上に咲きし花。

 先ほどまで張りつめていた思いのジインは、リティシア姫の愛らしい声と頬笑みに、
ようやく我に返ったのだった。



空の領土    カサレス・クレドール王子              イラスト 佳嶋
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キャラクター著作権は水望月飛翔が保有しているため、無断使用、転載は堅くお断りいたします。)


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by maarenca | 2014-09-21 11:01 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No28






THE SIX ELEMENTS STORY





No28





                                      著 水望月 飛翔



 それから向かった第二の島では、空の領土の人々が「聖なる騎士団」の一行を出迎える様に、
静かに立ち並んでいたのであった。
そして、「聖なる騎士団」の一行が空の民達に近づくと、空の人々は口々に彼らに声をかけたのだった。

「慈愛の化身、ゼンス様。よういらっしゃいました。」
「我らが誇り、ロードス様。お帰りなさいませ。」
「清廉なるユラン様。またお目に掛かれて光栄です。」
などと一言ずつ言葉を述べ、静かに一行を出迎える空の領土の人々。

 そしてジインが最後に姿を現すと、初めて見る大地の領土の者に何の驚きも見せずに空の人々は、
「大地の領土より参られた新しき騎士殿。ようこそ、我らが空の領土へ。」と、静かに声をかけたのだった。

 この時、空の領土の民達の言葉を初めてジインは耳にしたのだった。
空、水、緑、大地、炎、と五つの領土の言葉は、みなそれぞれ違っていたのだが、
「聖なる騎士団」が領土に入ると、それぞれの領土に住む精霊が現れ、一人一人の頭上にいつも控え、
その領土の言葉を使えるように、手助けをしていたのだった。

 例えば、大地の領土に入れば、「聖なる騎士団」の一行は皆、自然と大地の言葉を話す、と言う具合に。
それでは、「迷いの森」の道中ではどうであろうか。

彼らは、それぞれ直前まで滞在していた領土の精霊から、言葉の波動を移してもらい、次の領土に
着くまでは、その力で前の領土の言葉を使っていたのであった。

(なんてすべらかで美しい響きなんだろう。それに、なんて一つ一つの動作が優雅で美しいんだ。)
ジインは、空の領土の人々のたおやかでありながら、同時に優雅な面持ちを持つ出迎えを受け、
また、彼らの静かで流れるような動作に、ただただ素直にそう心に思ったのだった。

 そんな素直で好意に満ちたジインの反応を感じ、空の民達もまた、敬意と感謝を持って静かに
ほほ笑んだのだった。

 そして、そんなジインの姿を「聖なる騎士団」の長老達も、うれしく見つめたのだった。
それから、第三、第四の島と渡るにつれて、空の人々の一人一人が一層、落ち着きと威厳に満ちた
存在の人々へとなっていったのを、ジインは感じ取ったのだのであった。

(空の人々の静けさが、島を登るごとに増している・・・。この様な違いは大地の領土では見る事がない。
本当に此処は大地の領土とは違う世界なんだな。)
 新たな島を渡るごとに、どんどん空に近づき浮遊しているような感覚と、初めて目にする
空の領土の風景、感覚、人々にジインは自分の心まで、まるで浮遊している様な、不思議な感覚に
襲われたのだった。

 そして第四の島に着くと「聖なる騎士団」の一行は、王の迎えが来るまで、「慈しみの礼拝堂」で
しばらく、休息を取ったのだった。 

 この「慈しみの礼拝堂」の壁は、まるで天使の住処かと思われる様な、一枚一枚が美しい
白い羽根の形をしている、光沢のある細工で覆われており、礼拝堂の内部では、低音から高音まで
幾重にも重なった音がどこからともなく奏でられ、それはまるで、天上への祈りを込めている様な、
荘厳さに満ちていたのだった。

(此処がロードス様とイズールが暮らしていた空の領土か。二人の落ち着き整っている気質を、
そのまま見て取れるようだな。)と、ジインは感心しながら、ずっと飽きずに礼拝堂の内部を
眺めまわしていたのだった。

 そんなジインが、大きく開け放たれた礼拝堂の窓の外をふと見ると、まるで高い空の中を自
分が漂っているように、ゆったりと佇む雲を遠くに近くに見たのだった。

 そして、その雲の切れ端からは、時折眩しい太陽の光がいく筋にもなってこぼれ落ち、
神々しい美しさをジインの目の前に見せたのだった。
 そんな美しい空を眺めていると、程なくして空の王の城から、王の使いの者が彼らを迎えに
来たのであった。

 いよいよ、第五の島。空の王のいる城へと、一行は向かったのだった。

一行が第四の島から第五の島へと続く橋を渡っていると、ゆっくりと南側から近づいてきた雲の一団が、
そのまま一行を包み始めた。

 どんどん雲の厚さが増し、ほんの先が全く見えない状態になったのだったが、しかし一同は
さしたる動揺も見せずに、そのまま橋を進んで行ったのだった。
 しかし、初めて渡る高い場所にある橋に、気後れしていたジインだけが一人取り残される形となり、
もうすでに相当なる高さとなっている橋の上で、自身の心細さと相まって、自身の周りを包む霧に
身を固くして、歩みを止めるジインなのであった。

 やがて人の気配が遠のくなかで、ジインは彼らの背中に声をかけたのであったが、何故か、
その声も周りを漂う霧にまるで遮られる様に、彼らには何一つ届かなかったのだった。

 白い霧と静寂に取り囲まれて、最初は不安に思っていたジインであったが、しかし、次第に
その霧の心地よさがジインの心を落ち着かせていったのだった。

(なんだろう?この感覚は。最初は正直、まるでどこに自分が居るのかさえ分からなくなって
しまった様な心細さがあったのに、だんだんと不安がなくなっていく。いやそれどころか、
むしろ何かに守られているような、安らぎすら感じる。)ジインが、しっとりしたこの霧に、穏やかに
身体を預けていると、その時、かすかな声が耳元で聞こえたのだった。

「ようこそいらっしゃいました。」
まるで春風が一瞬で吹き抜けていく様な、軽やかな少女の声が、ジインの耳をふんわりと
かすめ通ったのだった。
不思議に思い、周りを見回したのだったが、何も見つける事ができずにぼんやりと佇むジイン。

 やがて次第に霧が晴れてくると、ジインの目の前には、白く壮麗に佇む空の王の城が、
その姿を悠然と現したのだった。

 空の城はすべてが白い美しい大理石でできており、天へと真っ直ぐに伸びる三本の塔を中心に、
建っていたのだった。

 そして、左右に連なる建物からは、中央にそびえたつ塔を目がけて伸びる羽の様に、
何本もの流麗な線がうねりながら王の城を形作っていたのであった。

 一番下の一階部分は、堅固な城を支える様に、歴代の空の王の像が立派な柱として
力強く支えており、それらの柱や無数の窓を、プラチナの輝きの金属が、ツタの流れのような
曲線を描きながら、この空の城を美しく飾っていたのであった。

 そんな荘厳な佇まいを、祝福するかのような天から降り注ぐ光に照らされて、空の王の城は、
眩いばかりの威厳と崇高な輝きを放っていたのであった。

「なんて立派で美しい城なんだ。」ジインは初めて見る空の城の美しい姿に圧倒されて、
思わず声をあげたのだった。
 そんなジインの驚きの声に、ずっと前を歩いていた一同は歩みを止めて、ジインの方を
振り返ったのだった。
 そして、城の美しさに茫然と立ち尽くしているジインに向かって、「さあ、ジイン殿。
いつまでもそんな所にいないで、早く私達の所に来てください。王の城に入りますよ。」
と、イズールがジインに声をかけたのだった。

 イズールにそう言われて、ジインはハッと我に返り、足早に一同の元へと駆けて行ったのだった。
そしてジインは皆の所に着くと、長老ロードスとイズールに向かって、息せき切ってこう言ったのだった。

「ロードス様、イズール。空の王の城はなんて素晴らしいんでしょう。お二人の故郷は
本当に美しいですね。」ジインは素直にそう感じた事を、二人に言ったのだった。

 そんな幼い子供の様にはしゃぐジインに、イズールは一瞬目を丸くして、言葉に詰まったのだったが、
程なくして優しい微笑みを湛えながら、ジインにこう言ったのだった。
「ありがとう、ジイン。君が我が故郷をほめてくれて、本当にうれしいよ。」と言うと、
すかさずジインは、「そんな、褒め言葉なんかじゃないよ。ただ本当にそう思っただけなんだ。」
と言うと、ロードスはゆっくりとジインの元に行き、ジインの肩に手を置いて、静かにこう言ったのだった。

「新たなる聖なる騎士。ジイン・クイードよ。そなたの率直さや正直さは、何にも代えがたい
美徳の一つであろう。我らが故郷の美しさを解ってもらえて、私もまた本当にうれしく思う。」
そう言うと、一呼吸置いてから静かに続けたのだった。「されど、今は少し心を落ち着けてはいかがか?
我らが空の王は、特に静寂に満ちた秩序ある美しさを気に入っておられる。今のそなたの高揚した
波動をそのまま纏っての謁見は、少し場違いにも思う。」ロードスはジインをじっと見つめると、
ジインにこう告げたのだった。

「わしには今のそなたの高ぶる波動が、どうもいささかこの場にあわぬ様にも思うのじゃ。
今少し、心を落ちつかせるがよかろうて。この先の、水の領土、緑の領土の美しさもまた比類なく、
今のそなたの落ち着きのなさでは、この先持ちこたえられなくなるやも知れぬ。どうか今少し、
心を落ち着かせるがよいように思うが、ジイン、いかがだろうか?」まるで幼子を落ち着かせる様に、
慈愛を込めた瞳でロードスは、ジインを諭したのだった。

 そんなロードスの言葉を聞いて、ジインは自身が「聖なる騎士団」の一員であることを、
改めて自覚すると、ゆっくりと目を閉じて心を落ち着かせたのだった。そして再び目を開けると、
ロードスにこう言ったのだった。

「ロードス様、お言葉ありがとうございます。ロードス様のご心配、しかと心に受けとめました。
私は、「聖なる騎士団」の一人として、いま一度、心落ち着けて参ります。」と、今までの浮き足だった
表情を引き締めるジイン。

 それから一呼吸置くと、ジインは笑顔で、「さあ、皆様。空の王の城へ参りましょうか。」
と、言って先頭切って進んでいたのだった。

 一同はそんなジインの後ろ姿を見つめると、穏やかに笑みを浮かべながら、王の城へと、
入っていったのだった。





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by maarenca | 2014-09-17 10:21 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No27







THE SIX ELEMENTS STORY






No27




                                       著 水望月 飛翔




 一方、あれからあまり眠る事が出来ずにいたジインは、その日の早朝からそわそわと、
ずっと落ち着きなくいたのであった。
(もうすぐ初めて、空の王と会う。この俺が、他の領土の王に謁見する日がこようとは・・・。
大丈夫だろうか?大きな失態をしなければいいが。)と、一人心の内で心配していたのだった。

 そんな事をジインが考えていると、すぐその背後から、ジインの心を見透かした様にイズールが
こうささやいたのだった。

「そうですね。我らが空の王は思慮深く聡明なるお方ゆえ、君の一挙手一投足だけで、
きっと大地の領土の皆様を推し量る事でしょう。大地の領土の者として、つつがなく謁見の場を
終えないといけませんね。」と、少し笑いをこらえる様にして、ジインにこう言ったのだった。

 そんな、気配なく現れたイズールに驚いたジインは、「イズール。驚くじゃないか。
気配をなくして急に声を掛けないでくれよ。」と、早まる鼓動を抑えつつ、イズールの方を向いて
こう言ったのだった。
 が、すぐに真剣な顔をすると、イズールの顔に近づけて、周りを見渡してから、小声で他の誰にも
聞こえないようにそっと、こう聞いたのだった。

「なあ、イズール。空の王はお優しいお方か?それともロードス様の様に、少し近づきがたいお方か?」
と、聞いたのだった。

 しかし、そんなジインに答える声は、イズールからではなく、全く予期せぬ方角から聞こえてきたのだった。

「おおそうじゃな。偉大なる我らが誇り。空の王、タリオス王のお優しさは見る者の見方によって、
その者の目に映る場合もあれば、映らぬ場合もあるかのう。残念ながら、わしの優しさはそなたには、
見つける事はできない様じゃが。」と、今度は長老ロードスが、ジインの背後からこう言ってきたのだった。

 驚き、振り向くジイン。
先程のイズールに引き続き、全く気配を感じなかった背後からの突然の言葉に、またもや
驚かされるジインなのであった。

「ロードス様。すみません。そんなつもりで言ったのでは。」と、最後は小声で心細そうに、
そう言ったのだった。

 空の領土の二人に、いいようにされているそんなジインの姿をみて、長老ゼンスは
笑いをこらえきれずに、大きな声で笑うと、ジインに向かってこう言ったのだった。

「はっはっは。これは空の領土の者にいいようにやられたのう?大地の若者よ。」
そう言いながらゼンスは、ゆっくりとジインの元へ近づくと、杖を前に置き、こう続けたのだった。

「まあ、この二人を責めるでないぞ、ジイン・クイードよ。空の領土の人々はこの様に
小さな波動の乱れや、心に隠しておいた気配でも、すぐに読み取れる能力を持っておるのじゃ。
ましてや、空の王ともなったら、そなたの心の内など手に取るようにわかるじゃろうて。
だからこそ、無心でいくがよい。そなたがこれから目にする全てのものが初めての事となる。
驚きも動揺もあるじゃろうが、そのまま感じた事を素直に受け取ればよいのじゃ。どうかな?」
と、ジインにほほ笑みながら、優しく長老ゼンスはこう言い諭したのだった。

 そんな言葉にジインは、ゆっくりと頷くと「はい解りましたゼンス様。それに、ロードス様とイズールが、
俺が空の領土に着いてから、驚かないようにと教えてくれたという事も、ちゃんと解っています。」

そう言うとジインは信頼の表情を持って、空の二人の方に向き直り、「お二人とも、ありがとうございます。」
と、姿勢を正してこう言ったのだった。

 そんなジインの言葉に二人も、この大地の若者に静かに微笑みながら、ゆっくりと会釈を
返したのだった。

 その様なやり取りを見届けると、しばらくしてから長老ゼンスは、ゆっくりと丁寧に身支度を
整え始めたのだった。
そうして準備が整うと、今度はロードスがゼンスの身支度が終わるのを待ち構えていたように、
すぐさまゼンスの姿を自身の鏡に映し始めたのだった。

 そして、長老ゼンスはその大きな身体を正すと、空の王への謁見の申し出の口上を、
いつにもなく神妙な面持ちで、こう述べ始めたのであった。

「崇高なる思考を持ちし偉大なる空の王。タリオス王。「聖なる騎士団」のゼンス・ショーインめが、
謹んで王に正式なる謁見の許可をお願いいたしたく、ご挨拶申し上げまする。」そこまで言うと一度、
慇懃にお辞儀をしてからゆっくりと身体を起こし、続けてこう述べたのであった。

「さてこの度、我らが「聖なる騎士団」に、大地の領土より入りし若者がおりますれば、
是非にも、空の領土の方々にもお見知りおきをいただきたく何卒、王並びに空の皆様にも
正式なる謁見をお願いいたしまする。」
そう言うとまた、深々とお辞儀をしたのであった。

そして、長老ゼンスの空の王への口上が終わると、その姿を長老ロードスは、自身の鏡を
王の城に向け、素早い光で送ったのだった。

 それからしばらくして、空の王よりの返伝が「聖なる騎士団」の元に届いた
のだった。
ロードスは自身の鏡に空の城の者からの返伝を受け取ると、それを映し出して、皆に見せたのだった。

「偉大なる「聖なる騎士団の」の長老ゼンス殿。先ほどのあなた様の申し出、しかと承りまいた。
我らが空の王のお許しが出されましたゆえ、どうぞこのまま我等が空の領土へご入領下さりませ。
それでは、お待ち申しておりまする。」と、空の王よりの謁見の許しが伝えられると、
「聖なる騎士団」の一行は、いよいよ空の領土の閉ざされた断崖へと進んでいったのだった。

 空の領土はまず、比較的温かな森に囲まれているのだが、しばらくずっとその森を進んで行くと、
その中央には天高くそびえ立つ、真っ白な雪に覆われた断崖が立ちはだかっていたのだった。

 そして、その中の広く開けた空間には、六つの浮島が連なって浮かんでいたのであった。
しかし、普段は他の者にいっさい道を固く閉ざしている断崖なのであった。そして唯一、
「聖なる騎士団」の一行がその前に立つと、固く閉ざしていた断崖は、その一角を門の様に静かに
開けていったのだった。

「ゴゴゴゴーッ。」と広く周囲に鳴り響く大きな地響きを立てながら、目の前に広い空間と
美しい浮島の姿を、そうして初めて大地の騎士、ジインに見せたのであった。

「うわあ、こんなにも天に届きそうな断崖が開くなんて。それに、こうして島が浮いているなんて・・・。
話には聞いていたけど、なんてすばらしいんだ。なんて美しいんだ。」

 ジインは感嘆の声をあげると、自分の目の前で起こった現象と島が浮いている光景と空の領土の
美しさに、心底驚いた様子で口を開けたままただ立ち尽くしていたのだった。

 するとそんな驚き佇むジインに、「さあ、参りましょう。」と、イズールが優しく促すと、ようやく我に返り、
足を動かしたジインなのであった。

 「聖なる騎士団」の一行がその中に入っていくと、彼らの後ろでまた、大きな地響きを立てながら、
高くそびえる断崖は、元の通りに閉じていったのであった。

 「カラン、カラン。」
断崖の中では、まるで氷かガラスが静かにぶつかる様な、高く涼しげな音が天上から鳴り響き、
「聖なる騎士団」の入領をこの地の者達に知らせていたのだった。

(なんて澄んだ音色なんだ。それに、大地の領土では今まで感じた事の無い静かな涼しさだな。)
ジインはそう思いながら、目にするもの、感じるものすべてに集中ししながら、一歩一歩踏みしめて
いたのだった。

 そう、目には見えないが、静寂の粒がいたるところにある様な。
何かわからぬ落ち着きのある秩序が、この空間を清浄に保つように存在していたのであった。

 こうして、空の領土の六つからなる浮島の、まず一番低い第一の島に入ると、大きくそびえる
大理石の建物が「聖なる騎士団」の一行を悠然と出迎えたのだった。そして、この建物を守る者が
姿を現すと、静かに会釈して「聖なる騎士団」の一行を建物の中に案内したのだった。

 その建物の中はそれは見事な大浴場となっており、広い湯船が乳白色の温かく豊富な湯を昼夜に
問わず、静かに湛えていたのだった。

 湯船の真ん中には、高くそびえる流線の美しい装飾を施した噴水があり、そこから疲れを癒す湯が、
豊富に溢れ出てはその広い空間を癒していた。

 そして、ほんのりといい香りのする穏やかな霧が漂いながら、一行を出迎えたのだった。
「さあ、一同よ。まずはここで我らの身を洗い清めようぞ。」とゼンスが皆に言うと、一行は
それぞれ散らばって、暖かい湯の中へと、身を沈めていったのだった。

 しかしそんな中ジインは、緑の領土出身の長老ゼンスの長いローブの中身が、以前からずっと
気になっており、彼の大きな身体が一体どうなっているのか、その正体を見られる事を、
この時密かに伺っていたのであった。

 そう、緑の領土の人々は個々それぞれが制限のない自由な身体を持っている為、
ゼンスの背中で時折うごめく何者かや、何本あるかわからない彼の手足をこの時に、
はたして見られるのではないかと、心ひそかに期待していたのであった。

 しかしそんな思いを遮るように、この大浴場には静かな靄が存在しており、意味ありげに
ほほ笑みながらジインを見るゼンスの姿を、ゆっくりと隠してしまったのであった。

「あっ、あの~、ゼンス様。」ゼンスの背中を名残惜しそうに見送るジインにゼンスが一言
。「じゃあのう、大地の若者よ。ゆっくりと今までの疲れを取るのじゃぞ。」と、靄の中からジインに
こう言いながら静かに消えていったのだった。

 こうして、ジインの幼い好奇心をなだめるように、静かであたたかな靄が、今度は優しく
ジインの身体を包み込んでいったのだった。

 ゼンスの秘密を見る事が出来ず、残念に思ったジインであったが、すぐに気持ちを切り替えて、
湯船にゆっくりと身体を預けたのだった。

「ああ~、気持ちいいな。今までの緊張が一気に癒されるようだ。」
大きく身体を伸ばし、高く開けている天上を仰ぎ見たジインが、くつろいでいると、先程まで
天井を遮るように漂っていた霧がスーッと晴れ、ジインの頭に美しく気高いドームの天上が、
その姿を現したのだった。

 その美しい滑らかな流線の波は、まるで優雅な音楽を奏でている様な曲線で形作られており、
それを目で追いながら、ジインは本当に久しぶりに心寛げる時を、素直に楽しんだのであった。

(ああ、なんて美しいんだろう。どこもかしこも美しく、なんて気高い空気が漂っているんだろう。
それに、心をこんなに穏やかに和らげてくれるなんて。本当にありがとう。)

 そう一人心の中で思っていると、今度は薄くきらめく小さな羽がゆっくりと、次々と音もなく、
天上から舞い落ちてきたのであった。

 ジインがそんな光景を驚いて見ていると、少し離れた所からイズールの声が聞こえたのだった。
「やあジイン殿。君がこの「癒しの浴室」を気に入ってくれてうれしいよ。この羽は君への感謝を
表しているものなんですよ。実体はないので、どうぞ,このままこの羽の贈り物をゆっくりと楽しんでください。」

 そう言うイズールの周りを、先程まで覆っていた靄が少し晴れると、イズールの存在を短い間、
確認する事が出来たのだった。

 大地の民とは違う肌の色。大理石を思わせるような透き通る肌はまるで、乳白色の陶器を思わせる
滑らかさ。

 大きく広げた羽がイズールの引き締まった肢体の後ろで、キラキラと水滴を含ませて光る様は、
まるで天から舞い降りた天使のようであった。

 ジインは思わず、息をのむとまぶしそうにイズールを見つめたのだった。

この浴室は身を包む暖かで豊富な湯と、自由自在に現れる心地よい靄が現れては消え、
ここを訪れる者をこうしてそれぞれに癒していたのであった。

 そして、イズールの声がやむとまた、イズールの存在をゆっくりと、静かに白い靄が
包かくしてったのだった。
 ジインは今までに見せた事のない、一人の人間としての友の姿を見送ると、また心地よい湯に
静かに身を預けたのだった。

 ジインは自身の成人の儀式以来ずっと、まるで鋭い剣の切っ先にでも立っているような、
己に強いていた緊張があった事に気付き、それがようやく今、緩やかに解けていく感覚をまた
味わっていたのだった。

 こうしてそれぞれが、この「癒しの浴室」を楽しんだのだった。




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by maarenca | 2014-09-14 19:52 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No26






THE SIX ELEMENTS STORY






No26





                                    著 水望月 飛翔


 それからようやく「迷いの森」を抜け、「聖なる騎士団」の一行は空の領土の一番西の端の
森にたどり着いた。
 しかし今回は、ジインの波動の乱れにより、不本意ながら「聖なる騎士団」の一行は、
闇に対して攻撃の力を使ってしまったのであった。
 その為その日一行は、「迷いの森」からあまり離れないよう、空の領土の西の端で、
一晩休息を取った。
その晩、ジインは「迷いの森」での事に興奮してか、なかなか寝付けずに、何ども寝返りばかりを
うっていたのだった。

 遥か東の空の上空を眺めると、高くそびえ立つ、美しい雪に覆われた断崖が、威厳に満ちた
冷たさを纏いながら、その姿を厳然と現していた。

 そしてその上空には、ジインの耳に初めて聞く、空の領土の美しく冷たく整った旋律が、
蒼く輝く星々から静かに、地上へ届けられていたのだった。

 ジインはその整然とした星々をじっと眺めながら、ただ疲れたその身を預けていたのであった。

「美しい。なんて美しいんだろう。まるで大地の領土の星々とは、全く違った存在を見ているようだ。」
そう小さく呟くと、しかし少し肩を上げて「だけど、この整い過ぎた均衡はなんだろう?なんだか俺には
少し場違いな感じだな。本当にこの空の領土の星達は、まるで一つ一つがロードス様のように整って
いるようだ。でもなんだか、ロードス様に監視されている感じみたいだな・・・。」と、最後は苦笑交じりに
一人ごちたのだった。

 しかし、ふとそんな事を一人思っていると、ジインのいる場所から少し離れた草むらで、何やら
人の動く気配をジインは感じ取ったのだった。

 ジインは身体をゆっくり起こし、目を細めてその気配の方をじっと見つめると、イズールと
おぼしき人物が、静かに「迷いの森」の方角へと走り去っていく姿をとらえたのだった。

 ジインは少し不思議に思い、そっと静かに立ち上がると、森へと続くその人影の後を、
気配を殺して追っていったのであった。

 そうして静かな森の中を抜けていくと、ジインの視線の先に、所々から光の反射が見え、
その光の先の方へと先程の人物が近づいて行ったのだった。

「イズール、どうしたのだ?こんな夜中に。」
光の元から声が発せられると、月明かりの差す光にロードスの顔が、照らし出されたのだった。

「ロードス様、すみませぬ。ロードス様が心配になって来てしまいました。」先程から後を着けてきた
人物は、謝るようにそう答えたのだった。

(ロードス様とイズール?いったい二人はこんな夜中に何をしているんだろう?)ジインは
夜中の時分にこっそり「迷いの森」の傍に居る二人の姿を、草むらに隠れてじっと見つめたのだった。

 先程のロードスの問いに答えたイズールに、やれやれという表情をして、長老ロードスは
イズールにこう説明したのだった。

「イズールよ。わしの事なら心配いらぬ。今日は思いに反して、「迷いの森」に攻撃の力を
使ってしまった所為で、いつまで経ってもざわついているこの闇を、ただわしの鏡の光で
なだめているだけなのだ。目には見えぬが確かに存在するこの森の住人が、ただ静かに
眠れるように、とな。」
 そう言うと、ロードスは今宵の月明かりを自身の鏡に反射して、「迷いの森」の暗闇に向かって
注いだのだった。

 それを聞いたイズールは静かに頷くと、ロードスに向かって、こう答えたのだった。
「ええ、解っております。ただ、ロードス様が夜を徹して、こうしてお一人でやってらっしゃるかと思うと、
私もまた眠れないのです。」と言ってイズールは、申し訳なさそうにほほ笑んだのだった。

 二人の話を草陰から聞いていたジインは、今日の「迷いの森」での自分の失態を思い、
そんな二人の会話に鼓動が早まりだしたのだった。

 そんな大地の若者の気配に、ロードスは半ば苦笑いをしながら、ジインの潜む草むらに向かって、
こう言ったのだった。

「「聖なる騎士団」ともあろう者が、草むらに隠れていったい何をしておるのかのう。」
ロードスのその声に、ジインはバツが悪そうにその場に立ちあがり、ゆっくりと姿を見せたのだった。

「すみません、ロードス様。イズール。盗み聞きをするつもりはなかったのですが。ロードス様、
今日の俺の失態の所為でこんな事をさせてしまって、本当に申し訳ありません。」
最後は奥歯を噛みしめるように、ジインはようやく声を絞り出して、そう言うと大きく頭を下げて、
そのままじっと下を向いたのだった。

 そんな憔悴しきった大地の若者に、ロードスは今宵の月を見上げると、ゆっくりとジインに近づき、
静かにこう言ったのだった。

「若き大地の騎士。ジイン・クイードよ。そなたはこの「聖なる神器」を出現させてから、
まだ大した時間も経っておらぬではないか。ましてや「迷いの森」に足を踏み入れたは今回が初めての事。
その様な者に対して、失態などという事が何処にあろうか。」そう言うと、ロードスは今までよりも、
優しい眼差しをジインに向けて、こう続けたのだった。

「己を責めてはならぬ、大地の若者よ。これからじゃ。これから少しずつ、力をつければよい。
ただ、それだけじゃ。」

(ただそれだけじゃ。)最後のこの言葉を噛みしめる様に、ロードスはこう言ったのだった。

 昼間の「迷いの森」での自分の行動に、あるいは責められるのではないのかと、ロードスに
対して疑念を持っていたジインであったのだったが、ロードスのこの優しい言葉を聞いて、
そんな事を思っていた自分が恥ずかしく、また申し訳なく思ったのだった。

 そんな、言葉なくただ立ち尽くすジインに向かってロードスは、「さあ、大地の若者よ。
明日はいよいよ我らが故郷、空の王の城へ向けて出発いたす。我らが空の者の誇り、
偉大なる空の王と王家の皆様に、立派に挨拶ができるであろうかのう?そなたの振舞如何では、
このわしが叱責されるやも知れぬ。どうかな?初めてなる大地の領土の騎士よ。」と、ロードスに
そう言われると、ジインは思わず固唾をのんで、姿勢を正したのだった。

 そんなジインの姿を見て、イズールは長老ロードスの方を向くと、「我らが領土の誇り、
「聖なる騎士団」を創りし偉大なる、ロードス・クレオリス様。あなた様がその様に申されては、
ジインは心配になって今宵、一睡もできなくなってしまうではありませんか?」と、少し可笑しそうに
言ったのだった。

 イズールの言葉に、ジインは頭をかきながらただ苦笑したのだった。

 そんなジインの姿を見てロードスは、「それでは、若き大地の騎士が少しは休める様に、
我らも戻るとするかのう。」と二人の若き騎士に声をかけると、皆のいる場所へと戻っていったのだった。

 明日はいよいよ空の領土へ。

大地の騎士、ジイン・クイードが初めて会う、空の領土の王の元へと。


「ああ、まだかしら。まだ「聖なる騎士団」の皆様はお着きにならないのかしら?」
そう言って、部屋の窓からそわそわと、何度も覗き込むリティシア姫なのであった。

 そんな落ち着きの無い姫の様子を見て、「これはこれは。崇高なる空の領土の姫ともあろう者が、
その様に落ち着かぬ様子を見せていてはいけませんね。我らが偉大なる父王、タリオス王が
姫のその様な姿を目にされたら、きっとお嘆きになりますよ。」と、妹姫に優しく笑いながらたしなめる、
兄のカサレス王子なのであった。

 「それに、まだ成人の儀式を迎えていない姫の石を今はまだ、あまり安易に使わない方がいいでしょう。
石はただの道具ではありませんよ。リティシア。」と、先程とはうって変わって、真剣な眼差しで
姫にこう言ったのだった。

 そう、リティシア姫は、まだ成人の儀式をしていないにも関わらず、ロードスから移してもらった
石の力を何度か使っては、ロードスの持つ鏡の気配を感じ取っていたのであった。

「ごめんなさい兄様。お父様には内緒にしていてくださいね?」兄の注意の
言葉を聞いて飛ぶように兄の足元に来ると、リティシア姫は優しい兄の顔を覗き込むようにして、
こう言ったのだった。

 そんな姫の愛らしい願いに、カサレス王子は一つため息をつくと、「君の願いを断る事が出来る者など、
いったいどこにいるのだろう?もしいたら、ぜひ一度会ってみたいものだよ。リティシア。」
そう言うと、やれやれといった表情を見せるカサレス王子なのであった。

 そして、胸の内で(あの厳格なロードス殿も、こうしてリティシア姫の願いを聞かざるを
得なかったのだろうか?)と、笑みを堪えながら、こう思ったのだった。

 そんな二人のやり取りの後、それからようやく少しすると、空の王の元に「聖なる騎士団」からの、
謁見の願いが届いたのだった。
 そして、カサレス王子とリティシア姫の元にも、「聖なる騎士団」の謁見の場に、二人とも
立ち会う様にとの知らせが入ったのだった。

「やっと来たわ。」リティシア姫は待ちくたびれたとばかりに、ア―キレイとフリュースからの知らせを、
大喜びしながら聞いたのだった。

 そんな姫の様子を微笑みながら見ていたア―キレイが、最後に一言、二人にこう告げたのだった。
「カサレス王子。リティシア姫。この度は新たに「大地の領土」から「聖なる騎士団」に入った者が
おりまする。何卒、正式なる謁見の正装でおいでくださりますよう、お支度をお願いいたしまする。」と、
深々と頭を下げてこう言ったのだった。

 カサレス王子はその言葉を聞くとすぐに、「あい、解った。すぐに「天上の織り成す光衣」を
用意させてくれ。支度をするとしよう。」と、ア―キレイに告げたのだった。

 そして二人が、うやうやしく姫の部屋から退出するのを見届けると、王子は姫の方にゆっくりと
向き直り、なるほどという顔をして、姫にこう言ったのだった。

「リティシア姫。こういう事でしたか。君はよほど大地の領土にご執心のようだね。」と言うと
姫の顔を覗き込んだのだった。

 そして、それから少し考える様子を見せるとまた、リティシア姫の方に向き直り、こう続けたのだった。

「しかし、今回はその者にとって、初めてなる正式な空の王との謁見の場となる。
そして、私達は空の領土の王族として、その者に敬意ある態度を示さねばならない。わかるね?
リティシア姫。今日の所は静かにして居る様に。」と、浮足立っているリティシア姫に、
優しく忠告をしたのだった。

 そんな兄の言葉を聞いて姫は頷くと、「解ったわ兄様。今日は空の領土の姫として、父様に
誇りに思ってもらえる様に振る舞うわ。」と、兄に返事をしたのだった。

 そんな姫にカサレス王子は、「君はいつでも我らの誇りだよ。」と、優しく言いながら姫の頬に
手を添えると、姫の部屋を出て行ったのであった。

「兄様、ありがとう。」そんな優しい兄の後ろ姿を、うれしく見送るリティシア姫なのであった。



空の領土 リティシア姫                                イラスト 佳嶋        
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 (キャラクター著作権は水望月飛翔が保有している為、無断使用、転載は固くお断りいたします。)

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by maarenca | 2014-09-10 10:59 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No25










THE SIX ELEMENTS STORY




No25





                                      著 水望月 飛翔


 そんな、身じろぎも出来ないでいるジインの肩に手を置くと、長老ゼンスは明るくジインに
こう言ったのだった。
「さあ、大地の若き騎士、ジイン・クイードよ。これから通る「迷いの森」に、少しの迷いや己の弱さを
見つけてはならぬぞ。もし、少しでも恐怖を受け入れれば、たちまち闇の侵入を赦してしまうからのう。」
と言うと、大きく呪文を唱えて自身の杖を高く振ると、地面に勢いよく打ち付けたのだった。

 そんな突然のゼンスの行動に驚いて、目を見張って見ているジインを横目に、ゼンスはそのまま
森の精霊を呼び出すと、その精霊が自ら明るい灯りとなって、この「迷いの森」に小さな希望の灯りを点
したのだった。

 それを見届けると、続いて長老ロードスが呪文を唱え始め、今まで歩いてきた大地の森で集めた光を
大きく放出させて、「聖なる騎士団」の一行をその光で包み込んだのだった。

 そして、「聖なる騎士団」の一行が全て、この光の中に入ったのを確認すると、長老ユランは
竪琴をつま弾きながら彼の美しい歌声を響かせ始めたのだった。

 すると、その歌声が優雅な噴水の流れの様な姿となり、ロードスが放った光を内側から支え、
その守りに着いたのだった。

 こうして一行を守る光の陣が出来上がると、「さあ、行きましょう。」と、空の若き騎士、
イズールがジインに向かって声をかけたのだった。

 そして、一番前には長老ゼンスが灯りの先導となり、次に長老ロードスと長老ユランが立ち、
後方に若き騎士のイズールとリューレンが守り、その真ん中に大地の騎士ジインを促したのだった。

 ジインは、こうして皆に守られる様にしているしかない自身を歯がゆく思ったのだったが、
今の自分には残念ながら皆の力になる事も出来ずに、そのまま皆に従ったのだった。

 やがてロードスが出現させた光に守られながら、一行は「迷いの森」を進んでいったのだった。

 彼らを守る光の周りを、「ヒューン。ヒューン。」と音を立てながら、不気味な風が何度もすり抜けて
いったのだった。ジインはなるべく不気味な気配のする方を見ないように、まっすぐ前だけを見つめ
歩を進めた。しかし、そのうねる様な音を従えた何者か達が、姿を見せずにずっと一向につきまとい、
「迷いの森の」の闇が一層暗くなり始めると徐々に、「ドン。」と彼らの光に体当たりを始めたのだった。

 そして、「聖なる騎士団」を守る光への攻撃の数が、次第に多くなり、やがては雨の様に間断なく
襲いかかり始めると、そのつど彼らを守る光の輪が大きく歪み始めたのだった。

 次第に強くなってくる闇の攻撃に対し、長老ユランの歌う歌声になぞらえる様に、イズールも
「真実の言葉」が宿る石の力を歌声に乗せ、一行を守る光に力を添え、リューレンもまた、
「癒しの手」の力で皆の精神統一を助けていたのだった。

 こうして、それぞれが自分の力を発揮しながら、「迷いの森」を進む中、ジインは己が何も
出来ていない事のいらだちと、その反面、皆を守っている光を突き破ろうと向かってくる闇に、
自身の怯えの心を感じて、己の剣を力を入れて抱いたのだった。

 すると、ジインの心の乱れの波動に剣が呼応したのか、突然狂った生き物の様に、
激しくその身を揺さぶり始めたのだった。

 そんな己の剣にジインは驚いて、「どうしたんだよ。暴れないでくれよ。」と、必死になって
その荒れ狂う剣を抑え込もうとしたのだった。

 しかし、自身の冷静さを欠いている主の言う事など、剣に届くはずはなく、制御不能となった剣は、
やがて、収められていたさやから抜き出ようとしたのだった。

 そんなジインの剣の気配を感じて、振り返った長老ロードスは、鋭い視線を送ると、
素早くジインの剣に向かって、「なんじ、己の意志を思い出すがよい。」と諭すように言ったのだった。

しかし我を忘れた剣はその後も暴れ続け、ジインの手のうちから逃げ出そうとしたのだった。
するとロードスは素早く「戒めの軛」の呪文を唱えると、天上の兵士を鏡から出現させたのだった。

 ロードスから呼び出された天上の兵士たちは、自身の衣の長い袖を伸ばし、次々とジインの剣に
巻きつき、その激しい動きを抑えたのだった。
 しかしそれと同時に、先程まで一行を守っていた光の力が弱まったのだった。

 すると、それまで光の中を伺っていた闇達が、その一瞬の隙を突いて「聖なる騎士団」の元に近づくと、
徐々にその闇の勢力を拡大し始めたのだった。

 そして、四方八方に闇を大きく拡大させると、次の瞬間、一気にその秘めたる牙をむき出しにして、
容赦なく一行に襲い掛かり、防御の光を突き破ったのだった。

 長老ゼンスはそんな闇の攻撃に対して、杖を大きく振ると、「光の精霊」を呼び出して、
闇の攻撃を躱す盾へと変身させて防御し、長老ユランは竪琴から急ぎ龍を呼び出すと、
闇への反撃に出たのであった。

 イズールは石の宿った舌を丸めて「ヒューッ。」と長く口笛を吹くと、空の高いところから
白く半透明な一羽のオオワシを呼び寄せたのだった。

 そしてオオワシは「闇をはらいし槍」の切っ先に止まると、イズールが流れるような動きで、
一突き二突きするごとに、大きく羽を広げては、光の波動を放ち、闇を次々と振り払ったのだった。    

 リューレンは石の力を散りばめた両手で、印を作ると青く光る細長い身体の、泉の使いである
蛇を出現させると、自由になめらかに動く「清流の流れの如き鞭」に沿わせて、襲いかかってくる闇を
鋭い牙でくわえては、遠くに追い払う様に応戦したのだった。

 こうして、各々が自身の武器を出現させて、輪郭のはっきりしない、しかし容赦の無い闇の攻撃を、
必死でうち払っていたのだった。

 そんな彼らの交戦を、恐怖で固まった身体で、じっと見つめるジイン。
しかし次の瞬間、必死で闇と闘っている彼らの間をすり抜けて、闇の一撃がジインに狙いを定め、
物凄いスピードで向かって来たのだった。

 それまでジインの剣を抑えていた天上の兵士の一人が、闇の気配に気がついて、自身の袖を
振り払うと、そのままジインの前に立ちはだかったのだった。

 ジインは、恐怖のあまり身体が動けずにいたのだったが、その兵士の後ろ姿に一瞬、
ユーリス王子が「ジイン。」と大きく叫ぶ姿が現れた様に見えたのだった。

 しかし次の瞬間、ジインを守ろうとした天上の兵士の身体が、闇からの攻撃をもろに受けると、
一瞬で砂の様に崩れ落ちたのだった。

 そして、崩れ落ちる兵士の背中と共に、ユーリス王子の心配そうな残像も、もろく崩れていったのだった。

 ジインはその残像を、ただ力なく見送ったのであった。
そして固く目を瞑ると、心の中でこう呟いたのだった。
(ユーリス。ユーリス・・・。)

 そうして、肩で大きく息をすると、ジインは次第に自身への不甲斐なさに対する怒りが、
こみ上げてきたのであった。

(俺は、こんな事で怯える為に「聖なる神器」を出現させた訳ではない。こんなところで、
一体俺は何をやっているんだ。)

そう心の中で言葉を履くと、ジインはカッと目を見開いて、「見ていてくれ。ユーリス。」
そうひとり呟くと、ようやく我に返ったかのように、怯えの見えた瞳に勇気の力が戻ってきたのであった。

 それからスッと石を宿した右腕に左手を添えると、勢いよく「行くぞ。」と声をかけ、
ロードスが出現させた天上の兵士たちが動きを抑えている、自身の剣に改めて力をいれたのだった。

 すると、今度はジインの強い波動により、天上の兵士たちがはじかれる様に次々と
剣から手を放していったのだった。

 そうして剣は、己の主の手中に収まると、息を吹き返した様に、闇の中を進み
切り裂いていったのであった。

 そんなジインの力強い動きに、一同は驚き目を見張ったのだった。
「私が出現させた、天上からの兵士を振りほどくとは。」

 ロードスは驚きを持ってジインの姿を追ったのだったが、ジインの反撃の前に闇の攻撃が
少し弱まりを見せ始めると、すかさずロードスが天上の兵士を鏡に戻し、「防御の光」を
再び出現させて、一同はこの光の中へと素早く入ったのだった。

 そして各々がまた先程の様に、闇からの守りの陣を敷き直したのだった。
「まだ安心してはならぬ。陣を整えて、一気にこの闇をぬけるのじゃ。」そう一同に声をかけるゼンス。

 ジインは両手で剣を思い切り強く握ったまま、肩で荒く息をしながらも、少しずつ自身の
意識を己の剣に集中させていったのだった。

 そして、そんなジインの心がゆっくりと、収まりを見せ始めた時だった。

ジインの右腕に宿った石が光りだすと、剣もまたそれに呼応するように輝き始めたのだった。
 それを見たゼンスはジインに向かって、「よしよし。若き大地の騎士よ。そのまま己の剣に
呼びかけるがよい。己の剣を信じるのじゃ。そなたの剣がそなたの力を見せてくれるであろうて。」
と、優しく言ったのだった。

 ゼンスのそんな言葉にジインは目を閉じて、己の剣に心の中で語りかけたのだった。

「剣よ。「聖なる神器」の俺の剣よ。どうか俺の声に応えてくれ。俺は皆の力になりたいんだ。
皆が自身の力を如何なく発揮できるように、俺はその手助けをしたいんだ。どうしたらいい?
悲しみを断ち切りし俺の剣よ。」

 ジインは己の剣に向かって、一心に語り掛けたのだった。
すると、そんな主の真剣な声に、剣は先程の様に荒れ狂った動きとは違い、今度はすべらかに
踊る様な動きをジインの手の内で見せたのだった。

 そして、ジインはそのまま力を入れずに、剣の動きをなぞらえるように身を預け、
優雅な舞を舞うような動きを見せたのだった。
 
 そんな剣と主が一体となった動きから、しばらくすると少しずつ穏やかな波動が広がり、
周りの者の心に、勇気と安らぎの力を伝わらせていったのだった。

「おお、これは何とも心地よい温かな力ですな。」とユランが言うと、ゼンスも「ほんにそうじゃな。
この様な後押しがあれば、これからはもっと楽に「迷いの森」を行き来できるじゃろうて。
力で抑えるのではない。もっと闇の声を聞き、もっと闇の解明をする事が出来るじゃろう。」
と、うれしそうに言うと、それを聞いたロードスも若き二人も、静かに頷いたのだった。

 しかし、そんなうれしい言葉もジインの耳には届いていなかったのだった。
ただひたすらに一心に剣と一体となる為、己の剣に集中しているジインなのであった。






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by maarenca | 2014-09-06 09:40 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No24








THE SIX ELEMENTS STORY






No24






                                       著 水望月 飛翔






こうして、大地の領土を出発するまでの期間、ジインへの「聖なる騎士団」としての心得と、
剣の指導が始まったのであった。
 そして、この新しき若き騎士の教育係として、長老ロードス・クレオリスが、それから毎日、
朝から晩までつきっきりで、指導をしたのであった。
 それは術の発動だけではない。「聖なる騎士団」としてこれから訪れる、初めて接する領土の人々に、
失礼があっては絶対ならぬ事。

 それは一つ間違えば、長年ようやくの苦労の末に勝ち取った「聖なる騎士団」全体への信頼の、
失墜にもなりかねない事なのであった。

 故にロードスは、各地の領土のしきたりや性質の違い、王族に対する正式なる礼儀なども、
事細かに教え込んだのだった。

 そう、ジインは幼き頃より、大地の王の城にてユーリス王子と共に過ごしてきたのではあったが、
子供同士の世界を大事に思っていた王と王妃の寛大なる厚意により、ジインの言動は随分と
許されていた為、他の王族の前にそのまま出すには、特に厳格なる空の領土出身のロードスとしては、
かなり心配をしていたのであった。

「ジイン・クイード。彼の未知なる力には、他の者には無い力強さが宿っている。その力が如何なく
発揮される時には、何にも勝る力となろう。しかし、あの様に不安定な制御では一歩間違えると、
もろ刃の剣と化すやもしれぬ。一刻も早く、力の制御を身に着けさせねば。」と、心の中で一人、
強く思うロードスなのであった。
                                
 今までもそれ程明るい笑顔を見せる人ではなかったのであったが、ジインの教育係を
引き受けてからは、ジインの空回りする力の不安定さに、次第に何かを思いつめた様な寡黙な姿を、
ふと見せる様になっていたのであった。

 そして、そんなロードスの後ろ姿を見ては、一人心配をする空の若き騎士、イズール・キョークの
姿があったのだった。

 それからどの位の日が経ったであろう。
ジインの力の制御が、少しずつ安定を見せる様になってきた頃、長老ゼンスが二人の長老に
こう切り出したのだった。

「どうかのう?ジインの力の制御も少しは安定を見せてきたように思うのじゃが。そろそろ明日にでも
出発するというのは、いかがであろうかのう?」    

 そう言う長老ゼンスに、長老ユランは同意する様に、「そうですね。まだまだ荒削りではありますが、
そろそろいいかもしれないですね。」と、相槌を打ったのだった。

 しかしそんな二人の言葉にロードスは、一人反対意見を言ったのだった。
「しかし、まだまだジインの力は不安定で、とても安心して見てはいられませぬ。それに彼の
立居振る舞いは、まだ各地の王族の方々の前にお出しするには程遠く。どうか今しばらくの猶予を
お考え下さりませぬか。」と、二人に進言したのであった。

 そんな心配そうな顔のロードスに、穏やかにほほ笑みながらゼンスは、一歩近づくと、
こう言ったのだった。
「どうだろうか?ロードス殿。これからも道々そなたが教えていけば、きっと空の領土に着く頃には、
もっと立派になっておると思うのじゃが。それに、道中はわしらが皆おるではないか。
このまま何もないこの穏やかな土地で修業をするよりは、少し荒療治ではあるが「迷いの森」での
経験を積ませる方がいいと思うのじゃが。」と言ったのであった。

 そう言うゼンスに、しかし、なおもロードスは食い下がるように、こう言ったのだった。
「しかし、ゼンス殿。もし「迷いの森」で術が暴発でもすれば、大変な事になる事は解っているでは
ありませぬか。私はもう二度と、あのようなになる事は・・。」そう言うと、最後は苦しそうな表情を浮かべ、
最後の言葉を飲み込むように、おし黙ったロードスなのであった。

 そんなロードスに、ゼンスとユランはもう一歩近づくと、「わしはそなたを信じておる。
だからこそ明日の出発を決めたのじゃ。」とゼンスが言うと、「私も。それに、私達も居るではありませんか。
それとも、私達の事は信じてはいただけませぬか?」と、ユランが優しく聞いたのだった。

 ロードスは「聖なる騎士団」を一緒に作り、この長きに渡って共に過ごしてきた二人をじっと見つめると、
そんな二人の言葉にようやく自分に言い聞かせる様にこう言ったのだった。「解りました。
彼の力を信じましょう。しかし、もし何かが少しでも起こったら、その時には何ものにも代えて、
きっと私が守りましょう。」と二人に言ったのだった。

 そんなロードスにゼンスとユランは、永き時間を共にしたこの友に対し、信頼を持ってほほ笑みを送ると、
三人で肩をたたきあったのだった。

 しかし、長老たちがそんな話をしている所に、ひっそりと身を隠して一部始終を聞いていた人物がひとり。

長老たちがその場を静かに立ち去るまで、ずっと草陰から聞いていたジインなのであった。
ジインは、はやる気持ちと同時に少し不満そうに、寂しく聞いていたのだった。

「俺はロードス様に、まだまだ信用されていなのだな。」
そう小さくつぶやくと、乱暴に剣を振りながら空を見上げたのだった。

そんなジインに、優しい風が吹き抜けていったのだった。

 そうして、それから少しすると、長老たちから大地の領土を明日、出発すると若き騎士たちに
告げられたのだった。

 それから、ジインとユーリス王子は、その日の残された時間を二人だけで、大地の領土で
一番広く開けている、雄大なる「メグレスコ平原」をずっと馬で駆け抜けたのであった。

 それは、これから長い間を後にする、大地の領土のこの光景と空気を、強く自身に刻みつけるかの様に、
ただずっとひたすらに走り続けたのだった。

 そしてユーリス王子もまた、ずっと一緒だった兄と頼る友との別れを前にして、これから大地の領土
を守る為、自身の成人の儀式へ向けて、一人でやっていかなければならない覚悟を、
馬の鼓動と共に刻みつけようとしていたのだった。

 こうして二人は長い間、言葉を交わすこともなく、この平原に吹く風に耳を澄ませながら、
ただひたすら馬を走らせたのだった。

 馬が疲れを見せはじめてようやく、二人は馬を降りると、遠く高い空の下に漂う雲が、
速い流れで移ろうさまを眺めながら、二人は長い沈黙を破って、ジインがユーリス王子に
こう切り出したのであった。

「ユーリス。もう少しだけ待っててくれ。俺は必ず、この剣の力を自分のものとして、
この大地の領土に戻ってくる。必ず。」そう言うと、一人取り残される王子の寂しい心を思いながら、
しかし、友を信じる真剣なまなざしをユーリス王子に向けたのだった。

 そんな友の眼差しを受けながら、ユーリス王子もジインにこう言ったのだった。
「ジイン。君なら必ず立派な騎士になれるよ。大地の領土出身の者として、他の領土の人々に
慕われる騎士に。」そう言うと、人呼吸置いてからまた、「でもきっと次に会う時には、
僕も君の剣の力を頼らなくてもいい者になっている様にするから。」とユーリス王子は自身の寂しさを
押し隠す様に、ジインの顔を見つめて、こう明るく言ったのだった。

 そんな王子の言葉にジインは、「ああ。」と短く返事をすると、また二人は遠くの空を見つめたのだった。

 そうして次の日の早朝、まだ朝もやが立ち込める中、新たなる仲間を加え、「聖なる騎士団」の一行は、
次なる訪問地、空の領土へと静かに出発して行ったのであった。

 ジインは城に残るユーリス王子を心配する思いを断ち切ろうと、一生懸命に前を見つめ、
元気な様子を見せていたのだった。

 心の中で、ユーリス王子にこう言いながら。(ユーリス、行ってくるよ。ちゃんと成長して
この大地の領土に戻ってくるから。)と。

 その頃ユーリス王子は、王子の部屋の窓から、聖なる騎士団の一行の出発をそっと
一人見送りながら、心の中でジインに呟いたのだった。

(ジイン、頑張って。僕はこれからは、誰かを頼る気持ちを捨てて、もっと一人でちゃんと
立っていられる人物になるよ。)そう一人、誓ったのだった。

 ジインは「聖なる騎士団」の皆と森を歩き始めると、最初の頃は、これから目にする
新しい世界への期待に、ワクワクして元気な姿を見せていたのだった。

 しかし、穏やかな大地の森を進み、この森を奥に奥にと進んで行くと、次第にまるで冬枯れている様な、
生気のない木々が姿を多く現し始め、陰鬱な空気が漂い始めるのを、少し不安に感じ始めていたのだった。

 それからやがて、空の領土との境にある「迷いの森」からの、何かゾッと背筋が凍るような
気配を少しずつ感じ始めると、いよいよこの先は、大地の領土の者が初めて足を踏み入れる世界が、
ジインを不気味に待ち受けていたのであった。
 そう、穏やかな静けさの大地の領土の森を背に、ジイン・クイードは、自身の目の前に広がる
未知なる漆黒の闇を前に、立ったのだった。

 その場に立っているだけでも、目の前の闇に引きずり込まれそうになる、冷たい感覚を足に受け、
ジインは思わず身震いした。

 もちろん、普段大地の領土の者が、この「迷いの森」との境界線まで来る様な事などはなく、
この何とも身の凍るような得体の知れない闇を、ジインは初めて体感したのであった。




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by maarenca | 2014-09-03 13:17 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No23









THE SIXELEMENTS STORY




No23



                                      著 水望月 飛翔




 それからユーリス王子は、ジイン・クイードが「聖なる騎士団」に入ってから、各地を巡った話を
いろいろ聞いたのだった。

 しかしその前に、若き空の領土の騎士、イズール・キョークが、緑の領土の森で大地の領土からの
今までに感じた事のない波動に出会った時の事まで、遡らなければならないだろう。

 緑の領土の森には、「アンドゥールの森」という、一際太古からなる植物たちが生い茂る
古い聖なる森が存在していたのであった。
 そしてこの時も「聖なる騎士団」の一行は、ちょうどこの森の神秘を探っていたところで
あったのだった。
 そう、この森の空気は、他のどの場所とも全く異なり、重さも存在も感じない空気の中にあって、
何やら息づいているような・・、しかし、まだそれが何なのかは、一切解らない不思議を宿している
森なのであった。

「聖なる騎士団」の者達は、各々がそれぞれの力を使ってこの森の不思議を探っており、
そしてそれらの行為により、森の解明と同時に、また自身の能力を向上させるという、
大事な機会でもあったのだった。

 空の若き騎士「真実の言葉を宿す者」イズール・キョークは、両の掌を上に向け、
目を閉じながら一心に精神を集中し、この「アンドゥールの森」からの真実を自身の舌の上に
乗せようと試みていたのだった。

 そうそれはずっと昔、気の遠くなるような太古の時代から、この森に住む精霊達の、
かすかな息遣いをひとつ残らず聞き逃すまいと、じっと身体じゅうの神経を研ぎすませながら、
色々な方角に身体を向けていたのだった。

 そしてふと、身体の向きを大地の領土の方に向きなおした時の事であった。
突然イズールの額の奥の方に、何か電気でも送られたような痺れが伝わると、自身の身体が
一切の自由を奪われ、程なくしてイズールは己の意思ではない言葉を発したのであった。

「「聖なる騎士団」の一同よ。これより、我の真実の言葉を聞くがよい。我はこの森に住む
太古よりの精霊なり。今しがたこの緑の領土よりさらに東の方角、遥か大地の領土にて、
新たなる「聖なる神器」が現れたもうた。かの者は、己の右腕にトパーズを宿し、
「悲しみを断ち切りし剣」を出現せし者。しかしかの者、制御の力が未だ不安定にもかかわらず、
無理にその力を使おうとしており、このままではいつその力が暴発するやも知れぬ。
一刻も早く、かの者の元に集い、その者を正しき方へと導きたまえ。」と、広く大きく森じゅうに
その声を響き渡らせたのであった。

 イズールは硬直した身体と、自分でも何処から発しているかも解らぬ強い意志の支配に驚きつつも、
この神秘な力にしばし身を預けたのだった。

 そして、「アンドゥールの森」のなかを響き渡るその声を聞き、方々に散らばって探索をしていた
「聖なる騎士団」の一同は、すぐにイズールの元に集まると、新たなる仲間の出現を喜んだのだった。

 その中でも特に長老ゼンスは、大地の領土での初めての騎士の出現をたいそう喜んだのだった。
「おお、そうであるか。大地の領土にのう。また新たなる正しき力が誕生したとは、なんとうれしい事じゃ。
そうか、「悲しみを断ち切りし剣」とはのう。王妃様の出来事を思っての事であろうが、これで少しは
大地の領土の悲しみも和らげばよいのう。」と、うれしそうに言ったのだった。

 しかし、隣にいたロードスが自身の鏡からジインの荒々しい気配を読み取ると、少したしなめる様に、
ゼンスに向かってこう言ったのだった。
「しかし、ゼンス殿。かの者は未だ力のコントロールが出来ていないにも関わらず、強引に術を
発動させようとしておりまする。まずは一刻も早くこの者の元に我等が赴き、この者の力が
正しく発動できる様に導きませんといけませぬ。」と告げたのだった。

 そして、ロードスのすぐ隣に居たユランも、目を閉じながら自身の竪琴を鳴らし、
その響きの中からジインの落ち着かぬ波動を感じ取ると、少し苦笑いしながらこう言ったのだった。

「おやおや、この者は相当慌てておる様ですな。何とも荒々しく。しかし、穏やかな
る大地の領土の民にしては、如何したのでしょう?この様な乱れた波動を、今まで大地の民から
感じたことはありませぬ。これは早急にその者に会った方がよろしいでしょう。」と、こうゼンスに
進言したのだった。

 ゼンスは二人の進言に、静かにうなづきながら一同をゆっくり見回すと、「仕方あるまい。
次の訪問を予定していた水の領土はまたとして、すぐに大地の領土へ出発せねばなるまい。」
と言ったのだった。 

 この言葉を聞いて、若き水の騎士、リューレン・クボーは少しがっかりしながら自分に言い聞かせる様に、
こう言ったのだった。

「「聖なる騎士団」に入ってからは、初めての水の領土の帰還でしたが、仕方ありませんね。
我らが新しき仲間を迎えに行かねば。」と、少し寂しそうに肩をすくめて言ったのだった。

 その言葉を聞いてゼンスは、「すまぬのう。リューレン・クボーよ。わしもそなたの立派になった姿を
、水の領土の皆様にお見せしたかったのだが。しかし、そなたの故郷に行く前にまた他の領土を
巡っていけば、今よりも増々そなたが成長を遂げた立派な姿を、方々にお見せ出来ようて。」
と言って、元気づける様にウインクをして見せたのだった。

 その言葉に一同は頷くと、「聖なる騎士団」の一行は、これより大地の領土へと向かったのだった。

 その日は、少し冷たい風が一日中吹いていた日であった。
そんな風の吹くなか、大地の領土の西の森で、一人ジインは何度も剣をふりまわしては、
術を発動させようとしていたのだった。しかし、気ばかりが焦る精神の元では、石の力は
発動する訳などなく、若者らしい性急さをもって、イライラと周りの草を、その剣で切り散らかして
いたのであった。

 そんな時、ふとジインが森の奥から近づいてくる人影の気配に気づき、それまでの荒々しい
動きを少し止めて、その気配の方向に視線を向けたのだった。  
 そして、動きを止めてじっとそちらの方を見ていると、何やら人影が近づいて来たかと思うと同時に、
木陰からジインにこう話しかけてきたのであった。

「なんとも。ここは確か、穏やかなる大地の領土と思うて来たのじゃが、さては我々はどこぞの
荒々しい新天地へ迷い込んだのかのう?」と、穏やかに笑いながら長老ゼンスが第一声をかけたのだった。

 それに続けながら長老ロードスが次に口を開くと、「そなたの剣はその様な使い方をするものでは
ありますまい。我らが新しき仲間の素晴らしき剣を、どうか我らに見せては下さらぬだろうか?」
と、ジインに向かってこう言ったのだった。

「我らの新しき仲間?」
ロードスのその言葉を聞くと、ジインはハッとしてその場に跪き、バツが悪そうにこう聞いたのだった。
「「聖なる騎士団」の皆様。お久しゅうございます。せっかくこうして皆様とまたお目に掛かれましたのに、
この様な情けない姿をお見せして、申し訳ありませぬ。しかし、私の持つこの剣は、本当に皆様と同じく
「聖なる神器」なのでしょうか?こうして何の力も発動させる事が出来無い私には、この剣を持つ資格など
無いのではないでしょうか?」

 最後は苦しそうに、顔を歪めながらそう言うジインなのであった。
そんなジインの方に歩み寄り、そっと彼の前で跪くと、長老ユランは彼の肩に手を置きながら、
静かにこう言ったのだった。

「その様な言葉は「聖なる騎士団」になりし者には似つかわしくありませぬぞ。
さあ、その輝かしい剣をどうぞ我等に見せてくださりませぬか?」
そう優しくジインに言うと、ゆっくりとジインから剣を受け取り、ゼンスとロードスの元に見せたのだった。

 そんな光景を、心配そうに覗き見るジインと目があったイズールは、穏やかなほほ笑みを湛えながら、
「きっと心配ないですよ。」とジインに告げたのだった。

 しかしジインは、心配に思っている自分の心を見透かされて、バツが悪そうに下を向いたのだった。
一方、ジインの剣を調べていた長老達は、目を合わせながら頷くと、ゆっくりと、ゼンスが大事そうに
両手で剣をかかげ持ちながら、ジインに向かってこう宣言をしたのだった。

「この豊穣なる大地の領土に、新たなる「聖なる神器」を誕生せしたる若者よ。この剣、いかにも
「聖なる神器」である事間違いなし。」

それから一呼吸置き、優しい笑顔をジインに向けると、覗き込むようにジインの方を見ながら
温かい慈愛の声で、「我らが仲間に入りし意志は、持っているであろうかのう?ジイン・クイードよ。」
と、聞いたのだった。

 そんなゼンスの言葉を聞いてジインは、とまどいながらゼンスを見つめると「「聖なる騎士団」を
創りし偉大なる長老ゼンス様。本当に私は皆様の仲間に入れる資格があるのでしょうか?」
と、思い詰めた様に聞いたのだった。

 そんなジインの自信の無い言葉を聞くと、ゼンスは一言、「そなたに入る意志があらば、
それが唯一の資格であろう。」と言い諭したのだった。

 続けてロードスもジインに歩み寄ると、「焦らずともよい。若き大地の騎士よ。そなたの
強き意志の表れは、我らもしかと受け取っておる。」と告げたのだった。
そしてユランも、「あなたを生んだ大地の領土を誇りを胸に、これからは我らと共に歩んでまいりましょう。」
と言ったのだった。
 先程から一人、黙って見ていたリューレン・クボーが、微笑みを湛えながら「ようこそ、
大地の領土からの新たなる正しき力。」と言うと、ゆっくりとジインに手を差し出したのだった。

 こうして、彼らの温かい歓迎の言葉を聞いたジインは、リューレンに手を引かれて
ゆっくりと立ち上がると、ようやくその顔に笑顔を登らせたのだった。

 そして、新たなる仲間を加えた「聖なる騎士団」の一行は、共に大地の城へと向かい、
大地の王の元にはせ参じたのであった。

 一行が大地の王の城に着くと、長老ゼンスがジイン・クイードを新たに「聖なる騎士団」として迎え入れ、
これより先は、他の領土へと一緒に連れだす許可を、大地の王に請うたのだった。

 王は、この大地の領土からなる初めての「聖なる騎士団」の誕生を大層うれしく誇りに思い、
これを快く許したのだった。

「おお、そうか。なんと素晴らしい。ジインよ。そなたはほんに我等の誇り。どうか。この大地の領土の
誇りを持って、この惑星の為に平和の一員となるよう努めてくれ。」と嬉しそうに、ジインに
こう言ったのだった。
 ジインは、この大地の王妃に起こった悲しい事件より、ずっと王の顔の上に何者をも
ぬぐう事の出来ない、くらい影がある事に、長い間ずっと心の痛みを持っており、このうれしい知らせに、
久しぶりにのぼる王の温かい笑顔を見て、自身もまた安堵の表情をのぼらせたのだった。



 



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by maarenca | 2014-08-30 13:59 | ファンタジー小説