Blog|maarenca - マーレンカ

カテゴリ:ファンタジー小説( 51 )

THE SIX ELEMENTS STORY No52



今年の夏から一週間に2作ずつ発表して参りました
THE SIX ELEMENTS STORY
第一巻分がこの章で最終回となります。

今まで読んで下さり、ありがとうございました。

第二巻はどのような形で皆様とお会いできるか解りませんが、
またお会いできる事を楽しみにしています。

水望月 飛翔  (丸子安子) 




THE SIX ELEMENTS STORY





No52



                                    著 水望月 飛翔




 そうして、遠き古の彼らの姿が、静かに消え去ると、ストーは星達との交信に疲れたのか、意識を失って
その場に崩れたのだった。
 そんな彼を心配してミラディアは急いで近づくと、ストーの身体を支えながら、カサレス王子を真っ直ぐに
見つめたのだった。

 そんなミラディアの、真っ直ぐな瞳を受け止めた王子の顔には、今までの悲しみと戸惑いの色はもうすでに
なく、カサレス王子はミラディアに優しく頷くと、その瞳は目の前の仲間を真っ直ぐに見つめたのだった。

「みんな。どうか聞いてほしい。僕は今日、自身の成人の儀式でこの左手に我が石を宿した。その石の力は
「あらゆるものを変える力」というもの。この力の中には、これから僕が目指そうとする新たな世界を創る鍵が
入っている。でもこの力に込められている意味を、今は他の者に知られたくはないんだ。父王は僕が手の
位置に石を宿したことに、落胆している。いや父王だけではない。この空の城に仕える者達の多くは、
この力の意味を知らず、少なからずも僕に失望しているようだ。その批判の矛先は僕だけに止まらず、
君たちにも向けられるかも知れない。それでも皆は、僕に着いてきてくれるだろうか?」

 王子は、今までの皆との距離を置く様な言葉を使わず、カサレス王子自身の言葉で皆に語り掛けたの
だった。
 そんな王子にフリュースは、身体を震わせながら王子にこう言ったのだった。
「カサレス王子。そんな王子ご自身のお言葉を、私はずっと待っておりました。あなた様は私の光。
私のこの槍で、あなた様の悲しみを払い、あなた様の喜びをきっと捉えてごらんにいれましょう。」
そう言うと、カサレス王子の元に跪いたのだった。

 そんなフリュースに続いて、意識が戻ったストーがミラディアの助けを借りながら王子の前まで進むと、
こう言ったのだった。
「星が選びし主、カサレス王子。どうかあなた様はご自身の思いのままにお進みください。私は、星達の
言葉のとおり、あなた様をお守りいたしましょう。」 

 そう言うストーに続いて、ミラディアも「カサレス王子。わたくしは未だ、あなた様のお力には何も
なれませんが、わたくしは、この空の執政に尽くし、あなた様がご自分の道を進まれる様、心を尽くしますわ。」
そう言って、カサレス王子の目を見つめたのだった。

 こうして次々に王子の足元に進むと、それぞれ自身の決意を誓い、跪いたのだった。そんな彼らを信頼の
瞳で見つめるカサレス王子。

 それを後ろから見ていたラフェールは、ゆっくりとカサレス王子とローラインの元に行くと、天を見上げながら
こう言ったのだった。
「どうでしょう、カサレス王子。そろそろ例のものをローライン様にお渡ししては?」と言うと、にっこりと王子に
ほほ笑んだのだった。

 そんなラフェールをローラインは見つめると、はにかんだ笑みを見せたのだった。
そんな二人にカサレス王子と他の者達は、なんのことかサッパリ解らずに、顔を見合わせたのだった。

「どうしたんだい?ローライン。」
カサレス王子が不思議そうに聞くと、ローラインは少し困って、またラフェールの顔を見たのだった。

 そんなローラインを後押しするように、ラフェールはゆっくり頷くと、ローラインはカサレス王子の顔を
見つめて、こう言ったのだった。

「カサレス王子、あのね。なにか、私に渡そうとしている物が、あるのではなくて?」
ローラインは、先程とは違う少し神妙な面持ちで、カサレス王子にこう聞いたのだった。

 思いもよらないローラインのそんな言葉に、カサレス王子は驚いたのだったが、先程から目で話している、
ローラインとラフェールの顔を見て、カサレス王子は観念したようにこう言ったのだった。

「ローライン、ラフェール。天の父と話せる君達二人には、残念ながらとうに僕の思いはお見通しのようだね。」
そう言うとカサレス王子は、改めてローラインの瞳を見つめてこう言ったのだった。

「ローライン。僕は君に受け取ってもらいたい物があるんだ。」
そう言いながらカサレス王子はローブの内側から、一本のピンクホワイトの羽を出したのだった。
それからまた続けて、ローラインにこう言ったのだった。

「ローライン。これは、ある方からいただいた大事なもの。今日、僕が宿した石の力「あらゆるものを変える力」
を使って、この羽と同じ色の翼を君にあげたいんだ。」と、カサレス王子はローラインに言ったのだった。

 ローラインは王子が手に持つ羽を見つめると、「まあ、きれい。とっても好きな色の羽だわ。うれしい。」
と言うと、また王子の顔を見て、「ありがとう、カサレス王子。私、喜んで受け取るわ。」と瞳をキラキラさせて
答えたのだった。

 そんなローラインの返事を、カサレス王子はうれしく聞いたのだった。
それから、ローラインと皆を見渡して、王子はこう言ったのだった。

「ローライン、皆。どうか聞いてほしい。しかし僕は、今すぐローラインの羽をすべて変える事は避けたいと
思う。もしローラインの翼をすぐに全て変えてしまったら、この自然界にそぐわぬ変化をきっと周りの者が
いぶかるだろう。そして、その様な変化をした者を疑う事であろう。だから、僕はローラインの羽を時間を
かけて、少しずつ変化するようにしたいと思っている。」

 それから、ローラインの方をもう一度見つめるとカサレス王子は、「ローライン。君の羽がすべてこの
ピンクホワイトの羽に変わるには、10年の時を掛けようと思う。君はそれまで、待ってくれるかい?
そして、他の人に決してこの事を話さないでほしい。ローライン、そうしてくれるかい?」王子はローラインの
瞳を覗き込むように、こう聞いたのだった。 

 そんな王子の問いに、ローラインは微笑みを持って答えたのだった。
「ええ、カサレス王子。私、待つわ。そして私は、決してこの事を誰にも言わないわ。それは、これから
あなたがやろうとしている事の、足掛かりになる事なのですものね?」
そう言って王子にほほ笑んだのだった。
 
 カサレス王子は、ローラインのその言葉に驚いたのだった。
「ローライン。君は知っていたの?」と聞くと、ローラインはまたしてもラフェールの方を見て、
ほほ笑んだのだった。

 王子もラフェールの顔を見ると、ラフェールはカサレス王子の瞳を見つめ、静かに頭を下げたのだった。

 そんな二人に、カサレス王子は少し苦笑をしたのだったが、また真剣な眼差しに戻ると、皆に
こう言ったのだった。

「みんな、これからの長きに渡る秘密を、どうかこの僕と一緒に共有してほしい。それと・・・。」
少し言葉に詰まったカサレス王子だったが、意を決したようにローラインを見つめると、こう言ったのだった。

「ローライン。10年後の今日、君の羽がすべてこのピンクホワイトの色に変わったら、どうか僕の妻に
なってほしい。」

 ローラインは、王子の言葉に驚いた。
まさか、カサレス王子がその様に、自分を見てくれたなんて、ローラインはこの時まで、本当に思いも
よらなかったのだった。
いや、そんな希望を持つことは恐れ多い事だと、自分に言い聞かせていたのだった。
「カサレス王子・・・。」

 カサレス王子は、王子の言葉に驚いて、動けないでいるローラインの返事を待たずに、この仲間たちの
方を向いてこう言ったのだった。
「そして、僕は君達にこの約束の証言者にもなってほしいんだ。」そう言ったのだった。

 そして、「どうかな?」とローラインと皆に聞くカサレス王子の問いに、この仲間たちは、心底喜びを
かみしめたのだった。

「もちろんですとも、カサレス王子。」フリュースは、王子からの大きな秘密の共有と、王子の大事な証人と
なれた自分に、本当に喜んだのだった。

 ミラディアも、この王子の申し出を、悲しみよりも喜びを大きくさせて頷いたのだった。 

そして、そんな喜びに満ちている者達を少し離れた所から、控えて見ていたアーキレイに、カサレス王子は
顔を向けるとこう言ったのだった。

「もちろん、君もだよ、アーキレイ。」
と、カサレス王子がアーキレイに言うと、アーキレイをじっと見つめたのだった。

「君はただの従者じゃない、アーキレイ。僕にとって君はとても大事な存在なんだ。今までも、そして、
これからも。」アーキレイを真っ直ぐに見つめるカサレス王子。
 続けて王子は「アーキレイ、フリュース。二人には右のアーキレイ、左のフリュースとして、これから二人で
僕の両翼となってほしい。そして、僕の進むべき道を二人で切り開いてほしい。」
そう言うと、カサレス王子はアーキレイとフリュースに信頼の瞳を注いだのだった。

 アーキレイはカサレス王子の心を思い、自身の思いとは裏腹に、ずっと遠慮がちにしてきた自身を、
王子が認めてくれていた事がうれしく、静かに熱い涙を流しながら、フリュースの隣に進み、跪いたのだった。

 そんなアーキレイにフリュースは、自身と共に両翼となって王子を守る同志の肩に手を置くと、力強く頷いて
見せたのだった。

 それから、ゆっくりと一人一人の顔を見つめるとカサレス王子は、「ストーには、古からの星の言葉を常に
聞き届けてほしい。そして、その言葉と共に僕の道しるべとなってくれ。」とストーに言うと、今度はゆっくりと
ミラディアを見つめたのだった。

「それからミラディア。君には常に僕の王としての振舞と、王としての進むべき道を君の清らかな瞳で
見極めてほしい。」

 そんなカサレス王子の言葉に、ストーもミラディアも喜びで身体を震わせながら、この時を噛みしめたの
だった。それから王子はラフェールとローラインの顔を交互に見て、こう言ったのだった。

「それから、ラフェール、ローライン。二人には・・・。」と言う王子の言葉を遮るようにラフェールは、
「ご心配なく、カサレス王子。天の光は常にあなたに降り注いでおります。天上の祝福も、女神からの
贈り物も、すぐにあなた様にお届けいたしましょう。そうでしょ?ローライン様。」

そう言って、ローラインににっこりほほ笑んだのだった。
 ラフェールからの言葉を受けて、ローラインはラフェールを見つめて頷くと、カサレス王子の方に向きなおり、
「ええ、カサレス王子。全ての祝福をあなたに届けましょう。私の持つすべての愛とともに。」
と言って、王子にほほ笑んだのだった。

 それから王子を見つめると、ローラインは、「カサレス王子。私・・・、ずっとあなたのお傍に居ていいのね?」
と聞いたのだった。

 ローラインの瞳から一筋の涙がこぼれた。その涙を優しくぬぐう王子。
ローラインの問いにカサレス王子は、しっかりと頷くと、それからローラインと王子は心の中で、同時に
同じ言葉を同じ人に伝えたのだった。

(キュリアス・・・。兄様・・。私達はずっと、これからも共に生きていきます・・・。)と。
 すると、優しい風が二人の頬をなで、星達が煌めいたのだった。

 それから王子は、一つ息を整えると、皆にこう宣言をしたのだった。
「それでは、これからローラインに新たなる羽を授ける。ローライン、準備はいいかい?」と聞く王子に
ローラインは、「ええ、カサレス王子。」と短く言うと、フリュースとアーキレイの二人はローラインを
抱きかかえ、王子の前に跪いたのだった。

 他の者は、静かに少しずつ後ろに控えると、ローラインは目を瞑り、カサレス王子にゆっくりと頭を下げた
のだった。

 カサレス王子は、左手に宿る自身の石を見つめると、大きく言葉を放ったのだった。
「我に宿りしサファイアよ。今そなたに命ずる。己の「あらゆるものを変える力」を持って、我の願いに応えよ。
この者、ローライン・グリュスターの羽を我の手に持つ羽と同じにならしめよ。これから10年の時を持って。」
と言って、左手の石に呼びかけたのだった。

 そしてゆっくりと右手に持つ羽を引き合せる様に、そのまま合掌したのだった。それから静かに両手を広げると、
「フーッ。」と静かに息を吹きかけ、ローラインの翼にピンクホワイトの羽を飛ばしたのだった。

 そうして、ローラインの翼の上にその羽が落ちると、スーッと消えていき、やがて、一枚ローラインの灰色の
羽が落ちると、そこからピンクホワイトの羽が一枚生えてきたのだった

 そんな奇跡の光景を、ただ今宵の星々のみが、静かに、優しく見守っていたのだった。




a0073000_17323337.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-12-10 17:32 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No51






THE SIX ELEMENTS STORY




No51





                                         著 水望月 飛翔





冷たい星空。冷たい風。
今ひっそりと、カサレス王子はまるでこの世に自分一人しか存在していないような、孤独を感じていたの
だった。

 そして、冷たい、本当に冷たい空の色にカサレス王子は、ただローラインに会いたい、そして王子の元に
集まってくれたみんなに会いたいと思ったのだった。「ローライン・・・。」カサレス王子が小さく口の中で、
ローラインの名を呼んだその時であった。

 塔のだいぶ下の方から、王子を呼ぶ声が聞こえたのだった。
「・・・王子。カサレス王子。」
カサレス王子は、その声のする方を見ると、いま会いたいと思っていたローラインが、アーキレイに抱かれ
ながら、王子の元に飛んでくる姿を見つけたのだった。

 カサレス王子は驚いて、二人を見つめた。
「ローライン、アーキレイ。どうしたんですか?二人とも。」二人に向かって驚きながらカサレス王子は
こう言った。
 王子に聞かれてアーキレイは「すみません、王子。」と口ごもったのだった。が、そんなアーキレイを
よそにローラインは、王子に笑顔を向けながら、「あら、だって王子は私達に会いたかったんでしょ?」
と言ってほほ笑んだのだった。
 カサレス王子は、自身の今しがたの思いをローラインに見透かされたかと思い、ローラインをじっと
見つめた。

 するとローラインは、小さく肩を上げながら、王子にこう言ったのだった。
「ううん違うの、ごめんなさい。私がどうしても、王子に会いたかったの。」と言うと、カサレス王子を真っ直ぐに
見つめたのだった。

 カサレス王子はしばらくして、穏やかにローラインにほほ笑むと、ゆっくりとローラインを引き寄せ、王子の
膝の上に抱いたのだった。ローラインはカサレス王子の左手をゆっくりと取ると、「きれいね。王子の輝き。
王の中の王、ロワイヤル・ブルーのサファイアね。どんなものでもその色の中に穏やかに包み込む。
この輝きはあなたそのものだわ。」

 そう言うと、ローラインはカサレス王子の左手に自身の右手を添えたのだった。
すると、二人の石が共鳴して、先程までの冷たい夜空を、温かく喜びに満ちた星の輝きに、着替えさせた
のだった。
 先程まで、あんなに寒々として、冷たく悲しみの音を奏でていた星達が、瞬く間に祝福と歓喜の色を
見せると、王の城の中庭に密かに集まっていたカサレス王子の仲間たちが、驚きながらその夜空を見上げた
のだった。

 彼らは、今日のカサレス王子の成人の祝いの席に呼ばれる事を信じ、じっと待っていたのであった。
しかし城の従者から、今日呼ばれることは無いと冷たく言われ、がっかりしながら、それでも己の部屋に
戻る気にならず、みな中庭に残っていたのだった。

「なあ、カサレス王子の成人の儀式は、うまくいったのだろう?カサレス王子は、本当に我らを呼び戻しては
くれないのだろうか?」
フリュースは明らかに、気落ちしていたのだった。

 その隣で、先程からずっと目を閉じて、風の詩を聞いていたラフェールはゆっくりと目を開けると、フリュース
の方を見てこう言ったのだった。

「そうですね。どうやら今宵は王子に近づくことは難しそうです。風たちが大人たちの気配に悲しんで
おります。」と言ったのだった。

 それを聞いたストーが、「どうしてですか?カサレス王子の石宿しは成功したのでしょう?」と言うと、
答えを求める様に、冷たい星々をじっと見つめたのだった。

 ラフェールはまた新たに風の声を聞くと、神妙な面持ちでこう告げたのだった。
「やはり、カサレス王子には、強く秘めたある思いがあるようです。しかし、それを周りの大人たちは
全く理解をしていない。ふーん、そうですか。カサレス王子は、どうも一人で悲しい道を進むことを選んだ
ようですね。」そう言うと、周りのみんなを見回したのだった。

 そんなラフェールの言葉をきいて、「そんな。カサレス王子。わたくし達では王子の力にはなれないの
ですか?」と、ミラディアは今にも泣きだしそうに、そう言ったのだった。

その時であった・・・。

一番高い塔から、温かな光が溢れだすと、それまで一面に覆いかぶさっていた悲しい色の星々を、
次々と喜びの色に変えていったのであった。

 一同は顔を見合せ頷くと、すぐにその塔の方へ向かい、飛び立ったのだった。

そして、塔の一番高い所まで来ると、一同はそこにカサレス王子と、王子に抱かれたローライン、そして
アーキレイの姿を見つけたのだった。

 こうして、勢い込んで姿を現した一同の姿に驚いて、「これは、いったいどうしましたか?皆さん。」
と、カサレス王子は皆の顔を見つめて、こう言ったのだった。

 一同は、そこにまさかカサレス王子が居ようとは思わずに、この思いもかけない対面に、驚いて言葉を
失ったのだった。

 そして、今まで会った事もない、小さくみすぼらしい翼の少女の存在にも、驚きを隠せないでいたのだった。
 しかしそんな均衡を破って、ローラインは嬉しそうに、「まあ、どうしたのか?はないでしょう、カサレス王子。
皆様が王子を祝福しに来てくれたというのに。」とほほ笑みながら言うと、カサレス王子は戸惑ったような顔を
して、皆にこう言ったのだった。

「すみません、皆様。私は、たぶん皆様の期待には、添えられないと思うのです。」
そう言うと、カサレス王子はそのまま押し黙ったのだった。 

 しかしそんな王子に、フリュースはとうとう号を煮やした様に、強く王子にこう言ったのだった。
「カサレス王子。どうして、我らの事を真っ直ぐに見てくれないのです。我らは、そんなにあなたにとって
信用できない存在なのですか?」フリュースの語気を強めた言葉にカサレス王子は、一瞬目の前の
フリュースにキュリアスの顔が重なって見えたのだった。

 今まで押し黙っていたアーキレイもフリュースに続いてこう言ったのだった。
「カサレス王子、私では何も王子のお役に立つことができないかもしれません。でも私は、王子のお役に
立ちたい。どうか、お傍に置いてください。いいえ、私は一生、王子のお傍を離れたくはありません。」

(フリュース、アーキレイ・・・。)
王子は心の中で呟くと、キュリアスの面影は消えて、王子の目の前にははっきりと、カサレス王子を
真っ直ぐに見つめる、フリュースとアーキレイの顔を見とめたのだった。

 それから王子はゆっくりと、そこに集まっている一人一人の顔を改めて、見つめたのだった。
そんなカサレス王子を、ローラインはただ微笑みを持って、静かに見つめたのだった。
(何故だろう?彼らはきっと、最初からずっと僕の事を、この様に真っ直ぐに見ていてくれていたのだろう。
しかし、今まで僕はちゃんと彼らの目を、見た事などなかった様な気がする。)そう思うと、
(すまない、みんな。)と心の中で皆に謝ったのだった。

 そしてカサレス王子は、今まで一人で描いていた悲しい未来を捨てて、新たな希望の未来を、
王子自ら選んだのだった。

(キュリアス。僕は一人ではないんだね。)
王子は一度目を瞑ると、胸の中でキュリアスにこう話しかけたのだった。
 王子の心の中に現れたキュリアスも、嬉しそうにカサレス王子を見つめると、それからゆっくりと頷いた
のだった。

 そして王子はゆっくりと目を開け、もう一度みんなを優しく見つめると、そんな王子にラフェール・イシレーは
にっこりとほほ笑み、こう言ったのだった。

「おかえりなさいませ、我らが主、カサレス王子。ここに集いし我々は、みなあなた様に付き従いたく集いし者。
今は何も王子の心の内を明かされなくとも、いつまでも王子に付き従いまする。」とカサレス王子の目を
真っ直ぐに見つめ、こう言ったのだった。カサレス王子はこの友人を信頼の目で見つめた。

 しかしラフェールは、風達が運んできた知らせに耳を傾けると、急いで一同にこう言ったのだった。
「下の大人たちが何やら騒いでおりまする。お二方、どうぞお力を。」と言うと、アーキレイとフリュースの方を
見たのだった。

 二人は顔を見合わせ頷くと、アーキレイは自身の右肩に宿る「均衡を守りし力」を持って、この塔に居る
者達の気配を消したのだった。

「我の右肩に宿りし「均衡を守りし力」よ。我の願いに応えよ。今すぐその力をもって、われらの気配を
消し去りたまえ。」アーキレイの石の力が発動するのを見届けると、フリュースは自身の左肩に宿る
「何ものをも越えし者」の力を開放して、下の世界とこの塔の空間を分断したのであった。
「我の左肩に宿りし「何ものをも越えし者」の力よ。今こそ我の願いに応えよ。我らの世界と下の世界を
切り離し、新たなる時空を我らに与えよ。」

 それまで王の城では、塔の上で何かが起こっている気配に気づき、人々が集まりだしていたのだったが、
こうして塔の気配が分断されると、何事もなかったようにまた静まり返ったのだった。 

 アーキレイとフリュースは顔を見合わせると、新たな友情を互いの瞳に注いだのだった。
そして、下の気配の静けさを確認すると、ストーは自身の右眼に宿った「星の意思を読みし力」を使い、
古の星達の言葉を引き出すために、天空の星たちに自身の意識を集中したのだった。

「我の右目に宿りし「星の意思を読みし力」よ。どうか我らが主に、古の星々の言葉を与えたまえ。
そして我が主の道が栄光に輝くために、その道を指し示したまえ。」

 すると、ストーの意識が古き時代の星たちと結びつき、その時代の意識をもらい受け、ストーは遠く
古代の空の言葉を話し始めたのであった。

 そんなストーの姿をみて、ラフェールはカサレス王子に振り返り、こう言ったのであった。
「カサレス王子。我らはすでにあなた様に付き従うと心に決めた者。貴方様のその固いご決意を持って、
古くはこの空の領土の創世の王と同じく、どうぞ我らにその、意志をお示しください。」

 そうして、その比類のない美しい瞳で、カサレス王子を真っ直ぐに見つめたのだった。
それからラフェールは、ストーの話す古代の言葉を訳して、皆に話したのだった。
「我ら創世の王と共に付き従いし者。この殺戮と争いに終止符を打つべく、この厳戒なる領土に我等だけの
領土を新たに創りし給う。天空の星々よ。今宵我らの声を聞き届けよ。我らの誓いを。我らの王の意志と
共に。」
そう言うと、今宵の夜空に創世の王とその前に跪く者達の姿が、ゆっくりと写しだされたのだった。

「王よ。これからどの様な事があっても、我らはあなた様のご決断に付き従いまする。どうぞ、我らをお信じ下さりませ。」
王の前には多くの者が跪いて、王の言葉を待ったのだった。
彼らの熱く見つめるその視線を受けて、創世の王は、その重たい口をようやく開くと、目の前の者達に
こう告げたのだった。

「そなた達・・・。私は、ずっとこの世界の争いを鎮めようと今まで手を尽くしてきたのだが。
しかし、この惑星の荒廃を私はもう見てはおれぬ。それぞれの部族の考えが違うからといって、もうこれ以上
この星の、そして人々の破壊と殺戮を許すことはできぬのじゃ。どうか、私に付き従って着いてきてほしい。
そして、我らだけの理想の世界を創りあげる為に、そなた達の力を貸してほしい。」

 創世の王が皆にそう言うと、その者達は声を同じくして、「誓いまする。この空に。この天に。いかなる時も
王に付き従い、王をお守りする事を。」と言って、この夜空に誓い合ったのであった。




a0073000_1453858.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-12-06 14:15 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No50










THE SIX ELEMENTS STORY




No50




                                 著 水望月 飛翔



 カサレス王子は、その翼の言葉を静かに聞くと、一瞬悲しみの色をたたえたのだったが、
しかし、王子の瞳の奥にある輝きは、純然たる石の強さを秘め一層蒼く、深く輝いたのだった。

「美しき崇高なる翼よ。私は、我が父王を心より尊敬しておりまする。この空の領土の均衡のとれた
美しさは、これまで父王が努力をされて創りだされたもの。そして父王が、私の事を頼りなく思っている事は
当に承知の事。しかし私は、私のこれからやろうとしている事を、今父に解っていただこうとは思っては
おりませぬ。それは、父が大事にされている秩序を壊す事でもありますれば。しかるに私は、すでに決心を
いたした者。この小さく芽生えた決意に、私は目を背けたくはないのです。」と言うとカサレス王子は、
両手を広げながら、こう続けたのだった。

「この「癒しの浴室」を司る心優しき聖霊よ。貴方は当に私の心をお読みのはず。どうか、今は何も言わず
私の道を進ませて欲しい。」カサレス王子がそう言うと、プラチナの翼は王子の言葉を聞き届けたかの様に
次の瞬間、「パーン。」と羽がはじけて、四方八方に散らばると、速やかにひとつ残らずその姿を消したの
だった。

 ただ最後の言葉に余韻を残して。
「カサレス王子よ。そなたの意志の強さはしかと受け止めた。そなたはそなたの道を進まれるがよい。
そなたの手中に残りし羽は、私からの贈り物じゃ。大事に使われるがよい。」

 そうして、この浴室の主は静かに姿を消したのだった。

「ありがとう。わが美しき飛翔の女神。」
小さくそう呟くと、カサレス王子は自身の手の中に残る、ピンクホワイトの羽をじっと見つめたのだった。
 
 そして、カサレス王子は自身の成人の儀式へと向かって行ったのだった。

 さてこの夜は、カサレス王子の成人の儀式を祝う宴が、用意されていたのだったが、その宴の間中
漂う空気は、とても祝い事の為のそれではなく、まるで何か悲しみ事でもあったかの様な、冷やかさと
静けさに満ちたものであった。

 そして、まだ幼いリティシア姫は、この王の広間に漂う冷たい空気に、じっと身を固くして、以前ローラインに
作ってもらったお人形を抱きしめながら、この宴の終わりを待っていたのだった。

 一方タリオス王は、とうとうこの宴の間中、一言も言葉を発する事なく、王妃も王の隣で、時折王と王子に
視線を送りつつ黙っているしかないのであった。

 そして、カサレス王子の元に集まった若き仲間達は、とうとうこの日、この祝いの席に呼ばれる事なく、
その夜を終えたのだった。

 こうしてカサレス王子は、自身の成人の日に誰からも祝いの言葉を掛けられず、王子に近づく者もおらず、
王の広間で一人寂しく佇んでいたのであった。

「のうロードス殿、今宵はせっかくの王子の祝いの席だというに。この冷たい空気は空の領土の習わし
かのう?」

「聖なる騎士団」の長老ゼンス・ショーインは、小さい音を立てるのもはばかれる様な、この冷たい静けさの
中にいる事に、少々不満げに言ったのだった。

「すみませぬ、ゼンス殿。」いつもは雄弁な長老ロードス・クレオリスであったのだったが、今宵の事を何と
言っていいのやら、言葉に詰まったのであった。

「カサレス王子は、難儀な道を選んだかのう。」ゼンスが小さく言うと、もう一人の長老、ユラン・アユターが
その言葉に小さくうなずく姿をみて、ロードスは二人がカサレス王子に対して、失望の言葉を交わしている
と思ったのであった。

 そして、そんなロードスはカサレス王子と目が合うと、なにか逃れる様に、すぐに視線を外したのだった。

そんな重くるしい空気の宴が早々に終わると、カサレス王子は静かに王の広間を後にして、そのまま王の
城の一番高い塔に登ると、今宵の冷たく輝く星々を、ただ静かに見上げたのだった。

 と、そこへ片羽が途中でちぎれてしまっている蛾が、フラフラと王子の目の前を力なく飛んでいる姿が、
王子の目に入ってきたのだった。
 その蛾は、くすんだ土色の羽に所々にぼやけた黒い斑が入っており、何かとても寂しげな風情を漂わせて
いたのだった。

 カサレス王子は、今の自身の心鏡に似たもの悲しさを、その蛾に感じたのであろうか。
そっと右手を伸ばしその蛾を優しく包み込むと、自身の方にゆっくりと引き寄せたのだった。

 そうしてその蛾に向かって優しくほほ笑むと、「君の羽を治してあげようね。僕は君の羽をもっと素敵な色に
してあげる事も出来るよ。君はどの様な羽の色がいいかな?さあ、君の好きな色を願ってごらん。」と、
手の中の蛾にそう話しかけると、サファイアが宿っている左手に、「フーッ。」と息を吹きかけて、その蛾を
両手で包み込んだのだった。

 それからゆっくりと両手を広げると、ちぎれていた羽はきれいに治り、その蛾はゆっくりと羽を動かしたの
だった。
 しかし、羽の色は、残念ながら元のくすんだ土色のままなのであった。
王子はがっかりしながら、ため息をつくと、「ちぎれた羽は治せたけど。君を素敵な色に変えてあげる事は
できなかったね。僕の力はまだまだだな。」と、寂しく呟いたのだった。

 しかしその蛾は、カサレス王子の心とは裏腹に、まるで王子に喜んでお礼を言っているかの様にしばらく
ずっと、王子の周りを軽やかに飛び続け、王子の左手にキスをすると、やがて何処かに飛んで行ったの
であった。

 そうして一人残された王子は、また冷たく輝く夜空を遠く、一人眺めたのだった。

 一方、冷たい別れをしたローラインは、今日のカサレス王子の成人の儀式の報告をじっと身体を
固くしながら一日中、第二の島の家で待っていたのだった。

 しかし、そんなローラインの元に届いたのは、晴れやかな成功のお触れではなく、ただ儀礼的な知らせが
届いただけなのであった。
 ローラインは不安に思った。「カサレス王子。なぜ、成功を伝える知らせではないの?カサレス王子は
本当にご無事なの?」
ローラインは耳を澄まし、風たちの声に一心に耳を傾けたのだった。

 王子の悲しみ。周りの失望。
ローラインがつかんだ気配は、そのような悲しみに彩られたものだった。
(カサレス王子。あなたの心はどこへ行ったの?今の私にはあなたの悲しみしか伝わってこないわ。
ああ、王子。私、どういしたらいいの?あなたの元へ今すぐ行きたい。こんな時、自由に飛べる翼があったら。
走っていける脚があったら・・・。)ローラインは車輪付きの椅子に乗ると、ドアを開け外へ飛び出して行った
のだった。

 そんなローラインの後ろ姿を、何も言わずに見送る母。きっと何かを感じたのであろう。
(ローライン。あなたの自由に思うままにいきなさい。)と、小さく胸の中で呟いたのだった。

 ローラインは車輪を懸命に回し、くず折れた「真実の礼拝堂」まで行くと、周りを漂う風に強く願った
のだった。

「どうかお願い。私の願いをアーキレイ様に届けて。」そう言うと、どこにいるかもわからないアーキレイに
テレパシーで話しかけたのだった。
(アーキレイ様。どこにいらっしゃいますか?どうか、私の声に答えてください。)一心に祈るローライン。

 風たちはいつもよりざわつきながら、空の領土を吹き渡った。
しかし、いつまでたってもただ時間だけが過ぎていき、ローラインの元にアーキレイの返事は返って
こなかったのだった。

 ローラインの瞳から大粒の涙がこぼれた。「キュリアス兄さま、助けて。」
その時、急に突風が吹きローラインの髪が舞い上がったかと思うと、第四の島へ風が向かったのだった。

「ア―キレイ様、どこにいらっしゃいますか?どうか、私の声に答えてください。」
その頃、ずっと一人自室にこもっていたアーキレイの元に、先ほどまでしっかりと閉ざされた窓が勢いよく
開くと、部屋に入ってきた風の中から声が聞こえたのだった。「ローライン様?」アーキレイは周りを見回した。

 しかし、この第四の島にローラインはいるはずもなく、アーキレイは首を横に振ると、ただの空耳だろうと
一人苦笑したのだった。
 すると、今度は姿の見えない風から一撃をくらったような衝撃を、アーキレイは頬に感じたのだった。
もう一度周りを見回した時、先ほどと同じ声がアーキレイの耳に届いたのだった。

「ローライン様。」今度ははっきりとローラインの声を認識すると、アーキレイは意を決して、第二の島まで
飛んで行ったのだっだ。

「ローライン様。」
うつむき、涙にくれるローラインの前に、アーキレイは舞い降りた。

 アーキレイの姿を見てローラインはうれしそうに頬笑むと、息せき切ってこう言ったのだった。
「アーキレイ様、お願い。今すぐカサレス王子の元に私を連れて行ってください。」そんなローラインの言葉に
アーキレイは驚いたのだったが、うつむきながらこう言ったのだった。

「しかし、ローライン様。ローライン様はあのような冷たい別れをカサレス王子に告げられたでは
ありませんか?」そう言うとアーキレイは、苦しそうにこう言った。「そして私も、もはやカサレス王子の従者で
はありませぬ。王子の元へ行く事はもう、私には許されていないのです。カサレス王子は儀式を無事に
終わらせたご様子。もう、われらの事は必要とされてはいないでしょう。」
最後はとても悲しそうな目で言ったのだった。

 しかし、そう言われてもローラインは、アーキレイに詰め寄った。
「アーキレイ様。アーキレイ様は本当にそう感じているのですか?カサレス王子が今、悲しみに暮れている
心を、あなたは感じ取れていないのですか?」

 ローラインにそう言われて、アーキレイは目の色を変えた。
「カサレス王子が悲しまれている・・・?」
しかしアーキレイは、すぐに身を固くしてローラインにこう言ったのだった。

「しかし、ローライン様。私はすでにカサレス王子には必要のない存在。私ごときは何も王子のお役に
立つことはできません。」そう言うと、唇を固く噛んで下を向いたのだった。そんなアーキレイを悲しそうに
見つめるローライン。

 ローラインは、車輪を動かしアーキレイの前に行くと、腕を伸ばしてアーキレイの手を取ったのだった。
「アーキレイ様の本当のお心は、どこにあるのですか?あなた様の本当のお気持ちは?そうして今でも
泣いているのではありませんか?」真っ直ぐに覗き込むローラインの瞳に、アーキレイは恥ずかしさを
覚えたのだった。

「しかし・・・。」
そう言ったまま、口をつぐむアーキレイにローラインはなおも続けたのだった。
「私はカサレス王子のそばに行きます。だって、今カサレス王子は誰かを必要としているもの。
それが私でなくてもいい。でも私はカサレス王子の元に行きたいの。今、自分の気持ちに素直に
なれなかったら、私、一生後悔するわ。アーキレイ様お願い。私を王子の元に連れて行って。
そしてどうか、アーキレイ様もご自分の気持ちを王子に伝えて。」

 ローラインの言葉に、アーキレイは唇をかむと、目頭を押さえたのだった。
そして、やわらかな頬笑みをローラインに向けてこう言った。

「ローライン様、私の本当の気持ちを言い当てていただきありがとうございます。私は、これからも
カサレス王子の傍でお仕えしたい。いいえ、私は一生王子の元を離れたくはありません。」

 そう言うと、ローラインをそっと抱きあげ、第五の島へ飛んでいったのだった。


a0073000_18382092.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-12-03 18:48 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No49








THE SIX ELEMENTS STORY





No49




                                    著 水望月 飛翔



カサレス王子の美しさは、空の領土の中にあって、一際輝く存在であった。
それは王子の、自身の事よりも他者の事を多く思う、強く優しい意志があっての事であろう。

 こうして、いよいよカサレス王子の成人の儀式の日がやってきたのだった。
「わが心の友よ。君は、はたして受け入れてくれるであろうか?」
そう呟くとカサレス王子は、大事な友が残していった古ぼけた釦をギュッと握りしめて、第一の島の
「癒しの浴室」へと向かったのだった。

 第一の島の人々は、それまで王家の人々の姿を「うつしみの鏡」でしか見た事が無く、ましてや
王家の者が、自身の成人の儀式の日に、この一番低い第一の島に現れて、「癒しの浴室」を使うなどという
事は、これまで一切なかった事であり、人々は初めて対面するカサレス王子の姿に、驚きを持って見て
いたのであった。

 しかし、王子の心に秘めた凛とした美しい気高さに、人々は一瞬にして何かを感じ取ると、我らが空の
王子を心より祝福し、儀式の無事を祈って、次々とその場に跪いたのだった。

 そして王子が、「癒しの浴室」へ入って行くと、そこを守る者がゆっくりと現れ、カサレス王子の姿に
驚きもせず、静かに会釈をすると、穏やかに王子に言葉をかけたのだった。

「我らが空の領土の誇り、比類なき美しさを湛えたる、カサレス王子。ようこそこの「癒しの浴室」へ
お越し下さりました。今日はあなた様の大事の儀式。どうぞごゆるりと、ここの湯を楽しまれて下さりませ。」
そう言うと、ゆっくりと先程よりも深く、頭を下げたのだった。

 王子は、自身の到着をまるで知っていたかの様な、落ち着きはらったこの者の物腰を見ると、不思議に
思いこう聞いたのだった。

「あなたはまるで、私の来訪を知っていた様な素振りを見せておいでですが、いったいこれはどういう事で
しょうか?」と問うと、その者の答えを引き出そうとするかのように、じっと視線を向けたのだった。

 するとその者は、全く歯の無い口を見せながらにっこりと、王子に向かってほほ笑むと、しばらくして
こう答えたのだった。

「大事なるカサレス王子の事でしたら、わたくしは何でも知っておりまする。」そう言うと男は、もう一段声を
低くして、こう言ったのだった。
「偉大なる父王へのあなた様のお気持ち。何処かにおわす幼き日の大事な友へのお心。
そして、可憐な少女への秘めたる思い。」その者の言葉に驚いた王子は、しかし、静かにじっとその者を
見つめたのだった。

 その者の姿は、空の領土には似つかわしくなく、漆黒の衣をまとい、額に刻まれた深いしわとは対照的な、
一本の産毛もないつややかな頭を持ち、歯のない口を見せて笑うのだった。その者の羽の色は、
光り輝くシルバーグレーなどとは程遠く、ぬぐいきれない悲しみの拠りどころの様な、重苦しい灰色の羽を
持っていたのであった。

 その男は身じろぎもせず、カサレス王子の視線を受け止めると、二人はそのままじっと互いの事を、
見つめあったのだった。

 やがて黒衣のその男は、カサレス王子にこう付け加えたのだった。
「そして、彼らを含むもっと多くの他者への慈しみのお心こそが、あなた様の美しさを司るもの。
この「癒しの浴室」の主もきっと、あなた様の御来訪を喜んでおられる事でありましょう。さあ、どうぞ中へ
お入り下さりませ。」と言うと、王子を浴室へと促したのだった。

(この浴室の主・・・。)
王子はその男の言葉を不思議に聞いたのだったが、案内されるまま、浴室へと進んでいったのだった。

 白い穏やかな湯気が立ち込める中、カサレス王子はゆっくりと温かな湯の中へと、身体を沈めた。
パールの様な輝く白い肌、真っ直ぐに伸びた白い翼。暖かな湯にぬれた黄金の巻き毛は、王子の額と
翼に美しい曲線を描いて王子を飾ったのだった。暖かな湯につかり、赤みを帯びた王子の唇は気高く咲く
バラの様。しかしその唇はもう、未来の誰かに愛をささやく事を拒んでいるかのように、固く閉ざされて
いたのだった。カサレス王子は、すらりと伸びた手足を投げ出すと、浴室の高い天井をぼんやりと眺めた。

 しばらくすると、天上から王子の事を祝福するかのように、高く低く幾重にも重なる歌声が、王子の頭上に
静かに降り注いだのだった。

 カサレス王子はそっと目を閉じると、この穏やかで温かな静けさを、ゆっくりとかみしめる様に
楽しんだのだった。

(こんなにも心落ち着く場所がこの空の領土にあろうとは。ここは、城の中にある「清めの浴室」とは違い、
随分穏やかな優しさで満ちている。何代もの前の王族は、この浴室にも訪れていたと聞いたが、
なぜ王家の者がここまで降りてこなくなったのだろうか?父王は一度もここに来たことは無いのだろうか?)

 カサレス王子がそんな事を考えていると、今度は天井から色取り取りの美しい羽根が、次から次へと
舞い降りはじめたのだった。

 それらの羽の色は、淡いライラックパープルや、若々しいマスカットグリーン、軽やかなアリウムの
ホワイトグリーンや、リンゴの花の様な可愛らしいピンクホワイト、そして優しい色合いのペネロープイエロー
など、色とりどりの色の羽なのであった。

 しかも普段は、浴室の天井から降る様々な贈り物達の実体はなく、この浴室を守る精霊による映像の
贈り物なのであったが・・・。

 しかしこの時ばかりは、誠に本物の色取り取りの美しい羽が降り続け、次第に王子の入っている
広い湯船を、大量の羽が覆い尽くしていったのだった。

 カサレス王子は、いつまでも降り続ける羽に、少し困った様な顔を見せたのだったが、それでも美しい
羽根の中から、可愛らしいピンクホワイトの羽に目をやると、腕を伸ばして一本手に取ったのだった。

 そして、その羽を手に取ると、「ふんわりとして愛らしい色だな。ローラインの寂しげな羽を変えるとしたら、
きっとこんな色が彼女に似合うのだろうな。」とローラインの艶の無い灰色の羽から、王子が手にした
ピンクホワイトの羽をたっぷりと携えた翼にその身を包まれて、嬉しそうにほほ笑んでいるローラインの姿を
思い描いたのだった。

 すると、天上の高い位置から、突然王子に向かって声がしたのだった。
「ほう、そなたが選んだのはその色か。」
 そう声がすると、先程まで振り続けていた羽の動きがピタッと止んだ。
次の瞬間、浴室中に降り積もった羽がその声のする方へと集まり、次第にぐるぐると回りながら、
丸い大きな球体を形作っていったのだった。

 そうしてそれらは、やがて大きな一対の翼の姿となって、まるで二枚貝がピッタリと閉じた様な姿で、
王子の前に現れたのだった。
 王子は内心驚いたのだったが、王子の口から出た言葉は、いつも通りの王子らしい落ち着きのある
言葉なのであった。

 カサレス王子は、その翼を前にしてこう聞いた。
「私はこの空の領土の王子。カサレス・クレドールと申す者。あなたはいったいどなたでしょう。この浴室を
守る精霊殿なのでしょうや?」そう一対の翼に向かって聞くカサレス王子。

 そんな王子の問いかけに、その翼の奥の方から返答が返ってきたのであった。
「そなたが今の空の王の息子か?カサレス王子と言ったな。なるほど、そなたの美しさはその光輝く
姿だけではなさそうじゃのう。」そう言うと、まるで王子をじっと探る様な気配を漂わせたのだった。

 そうして王子を試す様にこう聞いたのだった。
「カサレス王子そなたに聞く、真の美しさとは何ぞ?」

 その翼は相変わらず、ピッタリと閉じたまま、その翼の奥の方から何かを秘めた、凛とした声が王子に
向かってこう尋ねたのだった。

 カサレス王子は翼からの突然の声に戸惑いながらも、少し考えると、静かにこう答えたのだった。
「真の美しさ。それは、何ものをも責めず、そのものの、そのままの存在を受け入れる心ではないでしょうか。
この世の中を、それぞれの違いを選別を持って見るのではなく、ただ違いそのものすべてをも慈しむ心で
受けいれる。そういう心こそが、真に美しく尊いものだと、私は思います。」

 カサレス王子はその翼に向かって、そう言ったのだった。しかし、言っている途中で、王子の脳裏に
思い起こされたのは、王子の元に集まり、王子を支えようとしていた新しき若き仲間達の姿であった。

 彼らの、真っ直ぐに王子を見つめる目を、カサレス王子は受け止めていたであろうか?
王子の為に何か役に立ちたいと思うその意志を、果たして王子は真っ直ぐに受け止めていたであろうか?
あるがままの彼らを。

そうして、最後に現れたアーキレイの寂しそうに王子を見つめる目。
そして、小さく震えるローラインの姿。

 カサレス王子は目の前の翼に向けて言った言葉が、しかし、自身の胸に静かに突き刺さるのを
感じたのだった。(私は、自身で言っている言葉のほんの少しでも、彼らに対してきちんと見ていたで
あろうか?彼らの一人一人を。)と。

 そう王子が胸の中で呟いていると、その翼はしばし沈黙をした後、「ほう。」と一言発すると、一番下の
羽から上に向かってわさわさと身を揺すり出し、次第に翼全体を大きく震わせたのだった。

 すると次の瞬間、それまで纏っていた色とりどりの羽が一気にドサッと下に落ちたのだった。

 そして次に現れたのは、カラスの濡れ羽色の様な、しっとりとした漆黒の羽であった。全体を完全なる
漆黒の色が覆う。
 そんな色彩を、かつてこの空の領土で見た事などは無かったのであった。

その翼は一つ大きく身震いをすると、先程よりも一段低い声がカサレス王子に向かって、次の問いを
投げかけたのだった。「なるほどの。さすればもう一つ聞く。その様な寛大なる考えがまかり通れば、
己の事を顧みず努力を怠る者とて許されそうじゃが。それは、そなたの父が一番に嫌う秩序を乱す事にも
つながるのではなかろうか?はたしてその様な事が、この空の領土で増えてもよいのだろうかのう、
カサレス王子よ?」

 低く低く、王子の善なる心を突き刺す様に、王子に向かって放たれたのだった。しかし、カサレス王子は
そんな問いかけに優しくほほ笑むと、こう答えたのだった。

「我が領土の民達に、その様な考えをする者など、きっと出てはこないでしょう。しかし、万が一にも
その様な者が現れたとしても、それはそれで良いのではないでしょうか?きっとその者の歩む速さ
なのでしょう。全く欠点の無い世界など、きっとありは致しませぬ。それよりも、もっとそれぞれに合った
生き方を、それぞれがしてもいいのではないでしょうか?皆より遅れて歩く者を、見守る心があっても
いいのだと、わたくしはそう思います。」

 カサレス王子のハッキリとした答えに、固く強靭に見えていた漆黒の翼が、「おお~っ。」と低く唸り声を
あげて、また一番下の羽から順番に身震いしだすと、その漆黒の羽がドサッと、また一気に落ちたのだった。

 そして今度は、眩いばかりの美しいプラチナの輝きを持った翼が現れたのだった。しかし、その翼も
相変わらずピッタリと固く閉じたままであった。

 が、そのプラチナの翼の中から、今度は美しい竪琴がその糸を自ら震わす様に、涼やかな声が、
王子の耳に届いたのだった。

「比類なき優しさに満ちたカサレス王子よ。しかし、そなたとそなたの父王との間には、少し違った考えが
あるのではあるまいか?この空の領土をここまで美しく整えたは、そなたの父、タリオス王。次を継ぎたる
カサレス王子よ。その違いをそなたは何とする?」

 美しく輝くプラチナの翼から放たれたる言葉は、しかし、カサレス王子の胸に悲しい調べとなって
届いたのだった。



a0073000_1324101.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-11-29 13:33 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No48









THE SIX ELEMENTS STORY





No48



                                    著 水望月 飛翔 


 その頃、第二の島のローラインは、家に着くなりずっと自身の部屋に閉じこもると、自分ではどうしようも
できない、あふれ出る涙を何度もぬぐいながら、冷たい星々をただ黙って見詰めていたのだった。

 いつもよりも、早く帰ってきたローラインの顔を見て母は、何かあったのだろうと思ったのだったが、
アーキレイの腕から自身の椅子に着くと、固い表情をしたまま、無言ですぐに自分の部屋に戻る娘の背中を
見送ると、神妙な面持ちで立ち尽くすアーキレイに顔を向けたのだった。

「アーキレイ様。」そう言うと母は、すべてを悟った様にテレパシーでこう聞いたのだった。
(ローラインは、もうお城にいく事はできないのですね?王子のお側に行くことは、もうないのですね。)と。

 そんな、すべてを理解したローラインの母の言葉にアーキレイは、申し訳なさそうに(はい、お察しの
通りでございます。)とテレパシーで返したのだった。

 ローラインの母は傷つき悲しむローラインに、寄り添うようなアーキレイの、ローラインの悲しみを思う
心づかいを感じ取ると、静かに会釈をして、ローラインの部屋の方を振り返りながらこう言ったのだった。

「アーキレイ様。これが本来の姿。今までが随分と分に過ぎた事だったのです。あの子もその事は十分承知
でしょう・・・。どうぞ、カサレス王子には、成人の儀式のご成功をただお祈り申しておりますとお伝えください。」
と言うと、深々と頭を下げたのだった。

 アーキレイは、そんな母の言葉を受け取ると、静かに会釈をして、「ローライン様も、母上様もどうか
お健やかにお過ごしください。」と言うと、もう一度最後に深く頭を下げてから、ローラインの部屋のドアを
一瞬見つめ、そうして静かに、王の城に戻っていったのだった。
                               
 カサレス王子が食事の間から自身の部屋に戻ると、それからすぐにアーキレイが、王子を追うようにして、
王子の部屋にやってきたのだった。

アーキレイは遠慮がちに「カサレス王子。お邪魔をしてもよろしいでしょうか?」と、ドアの外でカサレス王子に
声をかけた。

 王子はそんなアーキレイの問いかけに、少し考えたのだったが、「どうぞお入りください、アーキレイ殿。」
と答え、王子自らドアを開けたのだった。

 アーキレイは、ドアが開きすぐ目の前にいる王子に驚いたのだったが、アーキレイを見るなり「どうぞ。」
と静かに部屋に促し、そのまま奥へと進むカサレス王子の後姿に、目には見えない拒絶の意志を感じて、
そのまま着いていく事がためらわれ、しばしドアの前から動けないでいたのだった。

 そして、ゆっくりと振り向いた王子は、自分に着いてこず、じっとドアの前で立ち止まったままのアーキレイの、
なにかもの思う姿を見とめると、表に出した表情とは違う本来のカサレス王子の感情が、ふと姿を現しそうに
なったのであった。が、しかしすぐに、自身の進むべき意志を思い出し、王子は体温の無い声でこう言った
のだった。

「どうしたのです?アーキレイ殿。何か用があったのではないのですか?」
 そうしたカサレス王子の言葉に、アーキレイはハッとして、すぐに王子から少し離れた場所まで進むと、
遠慮がちにそこに止まったのだった。

「申し訳ありませぬ、王子。」
そう言うと、アーキレイは次の言葉を必死で探したのだった。が、なかなか言葉が思う様に出ない
アーキレイに、カサレス王子は自分の方から告げるしか無い事を自覚して、アーキレイにこう言ったのだった。

「アーキレイ殿。先ほど、父とわたくしの話を聞いていたと思いますが、今宵からもう既に、あなたは私の
従者ではありません。これからわたくしの成人の日までは、私は一人で考えを整理したいのです。
どうぞ、ご自分の居るべき場所にお戻りください。」と告げたのだった。

 アーキレイは、王子のそんな言葉に、いまは何を言っても受け取ってはもらえない、そんな完全な
高い壁を感じ、言葉に詰まったのだった、が、しかし、ローラインの事だけは、最後に王子に伝えたいと思い、
カサレス王子の瞳を真っ直ぐに見つめると、ゆっくりと話し出したのだった。

「カサレス王子。王子のお考えはよく解かっております。わたくしはすぐにでも王子の前から控えましょう。
しかし、ローライン様は、ローライン様の事だけは、もう少し王子のお傍に考えをお残しください。
あの方は、きっと王子のお考えをすべて理解できる方。わたくしの様な至らぬ者が、王子のお側に着けない
のは致し方ありませぬ。しかし、あの方の事だけは、どうか王子のお心に残していただきたいのです。」
と、懸命に王子に告げたのだった。

 そんなアーキレイの言葉に、カサレス王子は心の中で、(アーキレイ。君は至らぬ者なんかじゃない。)
と、呟いたのだった。

がしかし、カサレス王子は静かに奥歯をかむと、冷静にアーキレイにこう告げたのだった。
「アーキレイ殿、確かにあなたの言葉は、私の心に残しておきましょう。ご助言、ありがとうございます。」
そう言うとカサレス王子は、軽く会釈をしたのだったが、何かを思いついたように続けてこう言ったのだった。

「それと、明日から成人の儀式の日まではもう、皆の者の前に私が姿を見せる事はありません。申し訳
ありませんが、他の者にも自身の居るべき場所に戻る様、あなたから告げていただきたいのですが。」
と言ったのだった。

 そんな王子の言葉を受けてアーキレイは、失意の表情を浮かべるであろうフリュースやミラディア、
そして皆の落胆した姿を思い浮かべると、表情を固くしてカサレス王子にこう言ったのだった。

「恐れながら、王子。彼らは王子をお助けすべく意志を持って集まった者。それを、私の様な者の口から
言うのでは、全く示しがつきませぬ。どうかここは、カサレス王子自らのお言葉を、最後に彼らにお伝えして
いただく事はできないでしょうか?」カサレス王子の言う事に、いつもは黙って従うアーキレイであったが、
しかしこの時だけは、カサレス王子に自身の思いを告げたのだった。

 そんなアーキレイの言葉に、カサレス王子は内心とても困って、この申し入れを聞いたのだった。

(彼らの熱い目を見ながら、冷たい決断を言わなければならないのか・・・。)

カサレス王子はそんな場面を、あるいは回避できればと、思っていたのであったが、しかし、アーキレイの
言葉を受けて、自身の決めた道を行くならば、自らの手ですべてに決着をつけなければならない。
そう覚悟を決めなければ、これから一人で進む事などできないであろうと、自身の思いを定めたのであった。

 そうして、思いを決めた王子は、アーキレイの瞳を真っ直ぐに見つめると、ゆっくりとこう言ったのだ。
「なるほど。あなたの言う事の方が、どうやら正しいようですね。解りました。明日は最後に私から、皆の者に
告げましょう。ありがとう、アーキレイ殿。それでは、どうぞお元気で。」と言うと、ゆっくりと頭を下げたのだった。

 アーキレイは、もうこれが王子からかけられた最後の言葉だと思うと、彼の胸に静かな痛みが走ったの
だったが、もう自分にはここにいる時間は残されてはいない事を、また十分理解してもいたのだった。

 アーキレイは最後に、「カサレス王子の成人の儀式が見事成功されます事を、遠くからお祈り申し上げて
おります。」とようやく言うと、深く頭を下げて、そのままカサレス王子の部屋を退出したのだった。

(アーキレイ。どうか元気でいて下さい。)
カサレス王子は、そんなアーキレイの事を強く思う気持ちを、彼に告げる事はなく、心の中でただそう最後に
呟いたのだった。

 次の日、王の庭に集められたフリュース達は、カサレス王子から、思いもよらない言葉を告げられ戸惑って
いたのだった。

「カサレス王子・・。我らが王子のお側にいては、ただ本当に邪魔なだけなのですか?」そう聞く、フリュースの
問いに対し、カサレス王子は、「いいえ皆さん。私が申し上げたいのは、今はただ自身の成人の儀式に集中
したい。という事なのです。そして、見事自身の石を宿した暁には、成人となった私自身の責任において、
新たにお声を掛けたいのです。」と、告げたのだった。

しかし、そう言う王子の言葉とは裏腹に、王子の元に集まった者達は、もうカサレス王子が自分たちに
声をかける事は無いだろうという、おぼろげながら、完全に近い確信が、思い違いであって欲しい自身の
思いを、完璧に踏みつける様に、何度も脳裏に浮かびあがってきたのであった。

 そして、彼らの間に居すわり続ける長い沈黙を、そっと払う様に、ラフェールが皆にこう言ったのだった。
「さあ、みなさん。カサレス王子がこの様に言っておいでなのですから、我らはただ、王子のお言葉を信じて
待つことにいたしましょう。今は、これ以上、王子のお時間を使う事は賢明ではない。次に動けるように待て。
と、風が私に言っております。」と、ラフェールは一同を見渡すと、少しさみしそうにほほ笑みながら
そう言ったのだった。

 そんなラフェールの言葉を、ただ寂しく一同は受け入れるしかなく、そうして一同が、カサレス王子の
申し出を受け入れると、王子は、「ありがとう。それでは、皆様。お元気で。」と言うと、カサレス王子の
居るべき場所へと戻っていったのだった。

 そんなカサレス王子の背中を見送りながら、ストーは、「カサレス王子は、本当に僕たちの事を、この後
呼んでくれると思うのですか?」と残った皆に聞いたのだった。

そんなストーの言葉にフリュースは、無言でただ悔しそうに下を見つめたのだった。
そしてミラディアは、「わたくしは、たとえ王子に呼ばれなくとも、ただ、自分の出来る事を努めるだけですわ。」
と涙をこらえて、言ったのだった。

 そんな気落ちする一同にラフェールは、目を閉じながら風のささやきを受け取ると、皆に向けて
こう言ったのだった。
「皆さん。今は静かに待ちましょう。カサレス王子の為に、今の僕たちに出来る事は、ただそれだけ
なのです。」と言ったのだった。

 こうして、カサレス王子の元に集まった者達は、静かに解散したのだった。




a0073000_18233795.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-11-26 18:29 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No47








THE SIX ELEMENTS STORY




No47





                                      著 水望月 飛翔



「こんにちは、カサレス王子。」ローラインが王子に声をかけると、王子もいつもとは違った、抑揚のない声で、
「こんにちは、ローライン。」と短く挨拶をしたのだった。

 そんな二人のいつもと違う気配を感じながらアーキレイは、王子のベッドにローラインを降ろすと、そのまま
無言で王子の部屋を出たのだった。

 取り残された二人は、お互いいつもとは違う静かな気配に、少し気まずさを覚えながら、次の言葉を
ぎこちなく探したのだった。

 そしてローラインは、何か話題を見つけようとカサレス王子を見たのだったが、王子の左腕の袖の下に、
かすかな違和感を覚えたのだった。

「カサレス王子。左の腕をどうかしたの?」と聞くローライン。
カサレス王子は、ローラインのこの問いに、アーキレイがこの傷の件をローラインに一言も言っていないの
だと知ると、少し寂しさも覚えたのだったが、何でもないという様に、ローラインに向かってこう言ったのだった。

「いいえ、ローライン。なんでもありません。それより、君は元気にしていましたか?」
 カサレス王子の、今までとは違う少し距離を置く様な言葉に、ローラインの鼓動が一つ、冷たく痛んだの
だった。

 そしてローラインは、王子の瞳を見つめると、「カサレス王子、今日は何処か具合でも悪いの?」と
遠慮がちに聞いたのだった。

 そんなローラインの問いにカサレス王子は、ローラインを見つめると、少し考える様に一言一言、
ゆっくりとこう言ったのだった。

「ローライン。君と出会ってから、僕はとても楽しい時を過ごすことができた・・・。本当に。ずっと君と一緒に
いる事が、このままできたらと、思った事もあった・・・。」カサレス王子はいったん言葉を切ったのだったが、
そんな王子の言葉とローラインは、先程から王子から伝わってくる悲しみの気配を感じないようにと、
懸命に神経を紛らわそうとしたのであった。

 しかし、いくら風を呼び止めようとしても、ローラインの心の声は風たちには届かず、カサレス王子からの
悲しみの波を、この時のローラインはとうとう追い払うことができなかったのだった。

 そしてローラインは、視線を下に落とし王子の言葉を小さく聞いたのだった。
「ローライン。僕の成人の儀式が近づいている事は知っているね?僕は、もう王家の責任を持って、
成人の儀式を受けなければならない。それは同時に、今までの子供時代に終止符をつけなければならない
という事でもある。」

 カサレス王子はそう言うと、一度目を固く瞑った。
そして目を開けると、まるで自分に言い聞かせるように、もうひとつ覚悟を持って話し始めたのだった。

「ローライン。僕はこれから、次の王となるべく、空の領土の為に尽くす覚悟でいる。だから、もう君をこうして
空の城に呼ぶことは出来ない。もう僕らはそれぞれに成人として、自分の居るべき世界に戻らなければ
ならないんだ。」

 美しい金蓮花色に染まる夕日の光が、いまこの時も、カサレス王子とローラインの身に優しく降り注いで
いたのであったが、そんな光がいま、二人の上に注がれている事も気づかずに、王子とローラインは目を
合わすことなく、この部屋に早く夕闇の色が訪れる事を、身を固くして待ったのだった。

 そうして、少しずつデュール・ブルーの気配がこの部屋に訪れると、カサレス王子は最後に、ローラインに
こう言ったのだった。

「ローライン。今日はもうこれで帰った方がいいでしょう。君の住む第二の島へ。」そう言うと、ローラインに
背を向けたのだった。

 そして、テレパシーでアーキレイに迎えに来るよう言ったのだった。
アーキレイは、不思議に思いながら王子の部屋に入ると、そこにいままで思ってもみなかった、寂しく
よそよそしい二人の気配を感じ取ったのだった。

 アーキレイは驚いてローラインの方を見ると、涙を目にいっぱいためて、しかし懸命に笑顔を創ろうとして
いる、悲しみに包まれたローラインの姿を見たのであった。

(ローライン様?)そんなローラインの姿を見てアーキレイは、カサレス王子にこう聞いたのだった。
「カサレス王子。どうかされましたか?リティシア姫のお部屋にローライン様をお連れいたしますか?」
そう聞くアーキレイであったが、カサレス王子は振り向くとただ、「いいえ、アーキレイ。」と短く答えただけ
なのであった。

 そんなカサレス王子の様子に、アーキレイはなおも不思議そうに「それとも、もう食事の間にお連れ
いたしましょうか?」と聞いたのだった。

 しかしカサレス王子は両手を固く握り直すと、感情の籠らないような面持ちで、「アーキレイ。ローラインを
第二の島の彼女の家まで送り届けてください。」と言うと、窓の方に近づいて、ローラインに背を向けたのだっ
た。

 そんな、人をもう一切近づけさせない様な、冷たいカサレス王子の言葉を聞いて、アーキレイはただ、
ローラインを静かに抱き上げたのだった。

(もう何を言っても、カサレス王子には届かないのだろう。)そう思うとアーキレイは、この凍った空気から、
一刻も早くローラインを連れ出そうとしたのだった。すぐに部屋を出ようとするアーキレイの動きを、
ローラインは静かに止めると、カサレス王子の背中に向かって、こう聞いたのだった。

「カサレス王子。最後に、私の「天上のよろこび」を受け取ってはもらえませんか?」ローラインは
消え入りそうな声で、それでも懸命に聞いたのだった。

 カサレス王子はこの時、今すぐにもローラインの方に向き直り、ローラインを見つめたかったのだったが、
しかし、そんな自身の感情を押し殺す様に、姿を見ようとはせず、少しだけ顔をローラインの方に向けると、
視線を下げて静かにこう告げたのだった。

「お気遣いありがとう、ローライン殿。しかし、もう私にはその様なものは、必要ありません。
どうか、あなたはあなたでお元気にお過ごし下さい。」と言うと、「アーキレイ、それではお願いします。」
と、ローラインにもアーキレイにも二の句を告がせないように、毅然と言って静かに背を向けたのだった。

 そんな王子の後姿にアーキレイは、「はい、カサレス王子。」と言うと、アーキレイの腕の中で震える
ローラインを守るように、すぐに王子の部屋を出たのであった。
(ローライン様。)テレパシーで、気遣う様にローラインに声をかけると、(大丈夫です、アーキレイ様。)
とローラインは、懸命に悲しみをこらえながら答えたのだった。

 そんなローラインを、アーキレイは、いつもより優しく抱きしめる様にして、ローラインの家に向かったの
だった。
 その日の雲は、少し重たく悲しみの涙を含んでいるかのように、そして静かに寄り添うように折り重なって
いたのであった。

 それからしばらくして、暗い部屋に一人取り残されたカサレス王子の部屋に、待ちくたびれた様に
リティシア姫が、従者と共に入ってきたのだった。

「ローラインさま、こんばんは。」勢いよく開けたドアは、しかし、リティシア姫も思ってもみなかった冷たい
気配に、ただ場違いなように、大きくバタンと音を立てて閉まったのだった。

 ローラインのいない部屋を見つめてリティシア姫は、カサレス王子に「にいさま?ローラインさまは?」
と聞いたのだった。

 王子はゆっくりとリティシア姫の方に振り向くと、「リティシア姫。ローライン殿は、もう自分の家に戻られた
のですよ。」と静かに答えた。

 今まで見せた事の無い、冷たい口調で言うそんな兄に向かってリティシア姫は「にいさま、どうして?」
と素直に聞いたのだった。

 そうして、まっすぐに自分を見つめる妹姫の顔をじっと見ると、カサレス王子は、何かを決心したように
こう言ったのだった。

「リティシア姫。ローライン殿は、もうこの城に来ることはありません。私達は、この空の領土の秩序を守る為、
それぞれ自分の立場に戻ったのです。」と、言ったのだった。

 しかし、そんな兄の言葉が全く解らずに、リティシア姫は、ただ今まで見た事もない兄の冷たい気配を
感じ取ると、後ずさりしながら、「そんな事、いやよ。にいさま、何があったの?」そう聞くリティシア姫の
問いに、カサレス王子は黙り込むと、目をそらしたのだった。リティシア姫は何も語らず黙り込む兄の姿に、
大きな悲しみを感じると、従者の手を引っ張って、カサレス王子の部屋を後にしたのだった。

 その夜、王一家が夜の食事を取っている時、王はカサレス王子に「カサレス王子。ローラインは
どうしたのだ?今日来るはずではなかったのか?」と聞いたのだった。

 カサレス王子は、父の質問に静かにこう答えたのだった。
「はい、父上。先ほどこの城に参りましたが、私は、近づいている自身の成人の儀式に集中したく、
あの者を家に帰しました。」と答えたのだった。

 そんなカサレス王子の淡々とした言葉に、王妃はカサレス王子を見つめたのだった。
が、しかし今目の前にしているカサレス王子に対して、何かを感じたのであろう、何気ないように、
ただ残念そうに、「まあ、それは寂しい事。あの者の明るい気配はとても好きだったのに。」とだけ
言ったのだった。  

 そんな母の言葉を受けて、カサレス王子は「母上。もともとあの者は第二の島に住む者。これ以上あの者を
この城に呼ぶことは、空の領土の秩序に関わりまする。そろそろ、それぞれの分を持っていかなければ。」
と言うと、続けて王子はタリオス王に向かって、こう言ったのだった。

「それから父上、わたくしも自身の成人の儀式に集中したい故、わたくしの周りの者を一度、控えさせたい
のですが。」と言ったのだった。タリオス王は王子の顔をゆっくりと見ると、テーブルに肘を突きながら、
姿勢を変えてこう聞いたのだった。「それはどういう事であるかな・・・?カサレス王子。」

 じっと自身を見つめてそう聞くタリオス王を、カサレス王子は真っ直ぐに見つめると「はい、アーキレイや
今集まっている近衛候補の者達を、一度白紙として、控えさせたいのです。そして私が己の石を
宿した暁には、もう一度私の周りに着く者を、成人となった自身のこの目で、自らの責任で選びたいのです。」
といつになく断固とした口調で、父王にこう告げたのだった。

そんなカサレス王子の強い気配に王はその時、(王子もようやく、成人となるべく意識を持ったか。)と思い、
カサレス王子に「よい、わかった。そなたの思った様にするがよい。」と言ったのだった。

(カサレス王子・・・。)
そんな王と王子のやり取りを、ただ後ろで控えていたアーキレイは、その場で何も言う事ができずに、
一人寂しく聞いていたのだった。

 そして、そんなやり取りの中ずっと、リティシア姫は固い表情でうつむき、泣きそうな顔でいたのだった





a0073000_18463283.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-11-22 18:56 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No46








THE SIX ELEMENTS STORY





No46



                                     著 水望月 飛翔



そう、第二の島に住む低い身分と、お世辞にも美しいとは言えない悲しげな翼と、歩くことの出来ない
脚を持つローラインの、他の者には見せない思いを、この時アーキレイは初めて聞いたのだった。

空の領土の人々は、他の領土の民達に比べて、あまり個人の外見の差を重く見るようなことは無く、
その点においては今までも、ローラインの事を偏見の目で見る様な事はなかったのだった。

そう彼らはきっと、その人の魂の美しさを見る事ができたのであろう。
そして、上の島に住む者は下の島に住む者に対しても、自らを上に、相手を下に見るような事は無かった
のだったが、ここは暗黙の了解という様に、下の者自らが、自身を下に置き、それぞれが秩序を守るように
していたのだった。

そして更に、己の責務と使命感を持って生まれて来る、こと王族に対しては、それぞれ自らが一歩退き、
己の分をわきまえて、また大いなる敬意をもって接していたのであった。

しかしそんな思いのローラインに対して、アーキレイは今まで一度も疑う事無く、この少女に初めて会った
時から、ずっとカサレス王子と共に過ごしていく方だろうと、ただ自然に思っていたのであった。

そんな思いを持っていた自身に、全く違う現実を、突然聞かされたアーキレ
イは、心の中で、(そうか・・・、私は何も考えずに、ただローライン様とカサレス王子は、ずっとこれからも
一緒にいるのだと思っていたが、王族の、しかも次を継がれるカサレス王子にとっては、確かに、単純に
いく話ではないな。いったい私は、何を考えていたのか・・・。)と心の中で苦笑したのであった。

そして改めてローラインに、「申し訳ありませぬ、ローライン様。私は、お二人の楽しそうにされているお姿に、
ずっとお二人はお傍にいるものだろうと、深く考えもせず、本当にただ単純にそう思っておりました・・・。」

そう、いたわりを持って言葉を選ぶアーキレイに、ローラインは「いいえ、アーキレイ様。わたくしは、
これからも天上の父と、この地を守る女神様の愛を、ただカサレス王子にお届けする事ができれば、
それだけでいいのです。」と言いながら、遠くの雲を見つめたのだった。

しかし、その言葉の中には、確かにいつもと違う、一人の乙女の悲しみがそこに入っている事を、この時
アーキレイは、感じ取っていたのであった。

それから、二人はただ無言で、王の城へと飛んでいったのだった。

その頃カサレス王子は、自身の部屋の窓に持たれながら、少しずつ色を変えていく雲を見つめ、
昨夜タリオス王に言われたことを、何度も頭の中でなぞらえていたのだった。

「カサレス王子よ。そなたの成人の儀式はもうすぐであるのう。そなたはいったいどの様な力を願うの
だろうか?きっとそなたの事であるから、この空の領土を、増々美しく気高く仕立てていくのであろうな。」
と、王子に言葉を投げたのだった。そして、すぐに続けてこう言ったのだった。

「して、あのローラインの石の力を、そなたは少しは自身に取り入れる事ができたであろうか?」と
カサレス王子に王はこう聞いたのだった。

 この思いもよらない父王の言葉にカサレス王子は、一瞬、王が何を言っているのか解らなかったので
あった。

「父上、何を申されているのか、一向に私には解らないのですが・・・。」そう言うカサレス王子に、父王は
ゆっくりと王子の顔を見つめながら、こう言ったのだった。

「何を申しておる。そなたは、もうすぐ成人の儀式を迎える大事な身。この空の領土を継ぎしそなたの
石の力は、どのような者にも引けを取らぬものでなければならぬ。あのローラインと申す者は、今までになく
天上よりの愛を一心に受けし身なればこそ、そなたの近くに置いたのだ。その石の力を少しでも、そなたの
ものにしなくて、いったいどうするのだ?」と言うと、すこし考えて、また王子を見つめると王は、静かに王子に
こう言ったのだった。

「カサレス王子よ。もう儀式まで間が無いのだ。必ずやそなたは、大いなる力を持って、空の王たるその身の
位置に、そなたの石を宿さなければならぬ。明日は、ローラインがこの城に来る日であろう。その者に会うのも
最後の時と思うて、よう、その者の石の力に集中するのじゃ。」と言ったのだった。

「最後の時?」王子が小さく口にすると、王は腰かけていた王の椅子に、改めてゆっくりと座りなおすと、
静かにしかし強くカサレス王子に、こう告げたのだった。

「カサレス王子よ。そなたが無事に成人の儀式を収めた暁には、もうあの者と会う必要はなかろう。
それに・・・、そろそろ、そなたの妃候補を考えねばならぬようにもなる。いつまでもあのような者を傍に
置いては、他の者にも示しがつかぬのじゃ。よいな。次を担い、次につなげる王家たる己の使命を
忘れるではない。」そう言いながら王はじっとカサレス王子を見つめると、王子の返事を待たずして、
王子を部屋から下がらせたのだった。

(もうローラインと会えなくなる・・・?)

カサレス王子はこの時まで、そんな事を一度も考えた事などはなかった。

王子はただローラインと共に過ごす貴重な時間を単純に楽しんでいたのだった。
 カサレス王子は自身の部屋に戻ってからも、先程の父王の言葉を受けて、もう会えないという事に、
この時初めて、ローラインの事を改めて真剣に考えたのだった。

(ローライン・・・。)
 カサレス王子は、ローラインと初めて会った時の事から、ずっと今までの月日を思い起こしたのだった。

 そしてこの時初めて、王子はローラインとカサレス王子との間に、越えるに難しい、身分の差を感じたの
だった。

(ローライン。父が君の城への訪問を受け入れたのは、ただ君の石の力と、天上と女神に通じる事の出来る、
君の不思議な力があったからこそだったのか。そして僕は、他の人を僕の妃として受け入れなければ
ならない。君ではなく、他の人を・・・。)

 そうしてカサレス王子は、今まで見てきたローラインへの気持ちを、もう一度考えようとしたのだった。

王子は常々、ローラインの事をずっと守っていきたいと、思ってはいたのだった。が、それははたして、
自身の妃に迎えたいという気持ちで見ていたのかどうか?
しかし、それには少し違う意味合いの方が多く、込められてもいたのであった。

ローライン・・・、キュリアスの妹。
ローライン・・・、不自由な身体の。

 カサレス王子には長年、誰にも明かした事のない秘めたる想いがあった。
それは、これから自分が願う石の力をこの少女に与えて、新しい翼、回復した脚で自由に野を駆けまわって
もらう事。
 そしてまた、他に必要としている人々に、誰にも知られないようにそっと、広くこの力を使って、新たな
生きる道を持ってもらいたいと、そう思っていたのであった。

 それは、キュリアスの様に成人の儀式に失敗して、霧のように消えていった者たちへの救済でもあり、
領土を超えたすべての者への救済なのであった。

 しかし、そのようなカサレス王子の想い、そしてその行為は、新たな道を踏み出す者の事を考えれば、
絶対世に知られてはいけない事。
 そんな王子の力は、空の領土を美しくさらなる繁栄をさせる事ではなく、空の領土の多くの人々に役に立つ
力でもない。

 だからこそ、タリオス王や他の人には理解されないであろう、孤独の善行を、しかしカサレス王子は自らの
心に、固く決めていたのであった。

 もちろんカサレス王子は、ローラインの事を可哀そうだとか、気の毒に、などと思ったことは一度たりとて
無い。
 ただ本当に、ローラインの心からの美しさを心地よく思い、そんなローラインの事をずっと見つめていたい、
と思っていたのであった。
 しかし、それが相手を思う恋心かと言うと、そうだとは断言できない程の、本当に淡いものでしかなかった
のであった。

 しかし、もう会えない。となると・・・。

その晩、カサレス王子はずっと寝付けずに、これからの事を何度も考えた。
それは、ローラインの事だけではない。

 カサレス王子は、これから宿す石の事で、ある事を心配していた。
それは、きっと父王や城の者達の多くは、カサレス王子の石を宿す位置と石の力に大いに失望して、
王子に不満の目を向けるであろう事だった。

 そしてそれは、これから王子と共に生きる、まだ見ぬ王妃や、近衛として王子の元に集った新しい仲間達に
対しても、周りの者から同時に投げかけられるであろう、冷たい目の事でもあったのだった。

(僕だけなら構わない。僕だけなら。しかし、僕に着いてくれる者にまでその様な冷たい目が及ぶとなれば・・・。
僕はいったい、どうしたらいいのだろうか?)
自分の周りの者にまで、多くの冷たい目が向けられる。
そう思うとカサレス王子は、これから先、はたして誰も王子に近づけない方がいいのでは?と思うのであった。

 そうして、この眠れない夜を過ごしたカサレス王子は、次の日のフリュースやアーキレイに対しての言動に
つながっていったのやもしれぬ。

 さて、いろいろな思いを巡らせながら、カサレス王子が少し痛みの残る腕を抱え、窓にもたれていると、
静かに王子の部屋のドアが開いたのだった。

 カサレス王子がドアの方に振り向くと、そこにはいつもの明るくほほ笑むローラインとは違い、
静かにほほ笑み、何かを覚悟したような面持ちのローラインが、アーキレイに抱かれて、静かに姿を
見せたのだった。




a0073000_11202364.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-11-19 11:28 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No45






THE SIX ELEMENTS STORY





No45




                                    著 水望月 飛翔



 しかし、そんな若者たちの交錯する思いを知らず、大人達はここに集まった若者たちを、
ただ頼もしく見ていたのであった。
 この日、いつものように自身の居住区に戻ったランダス執政官は、しかし自身の思いとは
裏腹な気配を感じると、寂しそうに窓辺に佇むミラディアの後姿を見とめ、どうしたのかと心配そうに
声をかけたのだった。

そんな父の問いかけにミラディアは、無理に笑顔を作ると、「いいえ、お父様。なんでもありませんわ。
ただ、このところの毎日の講義に少し疲れただけですわ。」と、明るく答えたのだった。

 こうして、カサレス王子との距離が一向に縮まらない関係に、それぞれが思い悩んでいたある日のこと。
フリュースはその日、王子に対する苛立ちを自身の槍に乗せ、カサレス王子と槍の手合わせを
していたのだった。

いつもは、王子の目線をこちらに向かせようとするかの様な、フリュースの少し強引な力強い槍先を、
静かにギリギリでかわすカサレス王子。

しかしその日はローラインの来る日であり、カサレス王子は早く槍の手合わせを終えて、ローラインの
元に行こうと、ふと気をそらせたその時であった。

次ぎの瞬間、カサレス王子の左腕をフリュースの槍先が捉えた。
「うっ。」フリュースの槍はカサレス王子の衣服を破き、そのまま王子の腕をするどく、傷つけて
しまったのだった。

 フリュースの槍の勢いに押され、勢いよく後ろに倒れ込むカサレス王子。
「きゃ~。」ミラディアが叫ぶと、二人の槍を少し離れた所で見ていたアーキレイが、誰よりもすぐに
王子の元に駆けつけた。

フリュースをはじめ、その場にいたみんなに緊張が走った。
「大丈夫ですか?カサレス王子。」すぐにカサレス王子の左腕を取って、その傷口を心配そうに見た
アーキレイ。

「王子・・・。」フリュースは自分の槍が王子を傷つけた事に動揺した。
そして皆も心配して駆け寄り、王子を覗き込んだのだったが、カサレス王子は、何でもないという様に
周りの者に声をかけたのだった。

「フリュース、皆さん。心配はいりません。私が少し不注意でした。」
そう言うとカサレス王子は、アーキレイにテレパシーで、(さあ、アーキレイ。今日はもうこの位でいいでしょう。
私はそろそろ部屋に戻りたいのです。)

そうして、心配そうに王子の傷口を見るアーキレイの手を、静かに振りほどいたのだった。
そして血が出ている腕を押えながら王子は、ゆっくりと立ち上がると皆の顔を見渡しながら、
「それでは皆さん、今日のところはこれで失礼いたします。」と言うと、王子を心配する一同にすぐに
背中を向けたのだった。

そうして他の者が一切立ち入る事の出来ない、王家の領域に一人帰っていったのだった。

 カサレス王子が自身の部屋に戻ると、アーキレイも王子の部屋に続けて入り、破れた衣服を脱がせて、
王子の腕の治療をしたのだった。

 細い何本もの金属で、流麗な装飾が施されている椅子に腰を掛けた王子は、アーキレイが傷の手当を
している時も、視線を合わそうともせず、ずっと遠くを見て、何も言葉を発しないでいた。

そんな王子に向かって、テレパシーで、(カサレス王子、どうかされましたか?)と静かに聞いたアーキレイ。

 しかし、そんなアーキレイの質問にも、カサレス王子は返事を返さずに、ただそこには、重い沈黙だけが
横たわっていたのであった。

そうして、カサレス王子の傷の手当てが終わると、アーキレイは静かに、「カサレス王子、傷の手当てが
終わりました。」と言って立ち上がり、一礼してそのまま王子の部屋を出ようとしたのであった。

 そんなアーキレイの背中にむかってカサレス王子は、「すまない・・・、アーキレイ。」とようやく一言だけ、
小さく口にしたのだった。

そんな、何か悲しみを含むカサレス王子の言葉に、「いいえ。」と、静かに答えると、アーキレイは
うつむきながら、王子の部屋を寂しく後にしたのであった。

 そうして、廊下に出たアーキレイは、一人思案にくれたのだった。
(カサレス王子・・・。夕べから少し、今までとは違う気配を王子から感じるのだが、もうすぐ王子の成人の
儀式が近づいている。その事に関係しているのだろうか?それに、王子はずっと以前から、誰にも
打ち明け様とはしない何か秘めた思いを一人で抱えておられる。そんな思いをあるいは、私に打ち明けては
くれないだろうかと思った事もあったが・・・。どうしても私では王子に近づくことができない。)そう思うと、
自分のふがいなさを悔しく思うアーキレイなのであった。(しかし、ローライン様なら、王子のお心をお察し
できるかもしれない・・・。今はローライン様を早くお迎えに上がらなければ。私にできる事と言えば、ただそれ
くらいだろう。)そう思いながら、急ぎ足で城の中庭に出たアーキレイなのであった。

しかし、アーキレイが中庭に姿を現すと、そこにはまだ、暗い顔をして心配そうに立っている、フリュースの
姿があったのだった。

「フリュース殿・・・。まだいらっしゃったのですか?」アーキレイがそう聞きながらフリュースに近づくと、
青白い顔をしながらフリュースはこう聞いたのだった。

「アーキレイ殿。カサレス王子の傷の具合はいかがですか?王子のご様子は・・・?」
重たい口調で、ようやく聞いたフリュース。

 すらっと伸びたしなやかで大きな身体。いつも堂々と自信にみなぎっている姿が、今は小さく心細く見える。
そんなフリュースの姿にアーキレイは、心配をかけない様にと明るく、こう答えたのだった。
「大丈夫ですよ。フリュース殿。大した傷ではありませんでしたので、ご心配はいりません。
さあ、フリュース殿ももう、ご自身の部屋に戻ってください。」そう明るくフリュースに告げると、アーキレイは
ローラインを迎えに行く為、急いでその場を離れようとしたのだった。

 しかし、そんなアーキレイの様子にフリュースは、この、王子に信頼を置かれている第一の従者にさえ、
自分が距離を置かれているように思い、先程より一層青白い顔でこう言ったのだった。

「あなたは、いつも一番カサレス王子の傍にいる方なので、王子のご様子がよくお分かりだと思います。
しかし・・・、カサレス王子を守る様集まった我々は、今も王子のお考えが解らず、未だに王子のお心に
近づくことができません。なんでもいいのです。王子の事をもっとお聞きする事はできないでしょうか・・・?」
そう思い詰めた様に、アーキレイに言うのだった。

 アーキレイは、そんなフリュースの言葉に驚いて、じっとフリュースの瞳を見つめたのだった。

 アーキレイの思いは、全く逆だった。
アーキレイは、自分はただの王子の従者に過ぎず、ましてや自身に何も語ろうとしない王子との距離に、
いま目の前で、王子との縮まらない距離を告白しているフリュースよりも、自分こそがもっと遠くにいると
思っていた自分とフリュースの姿を、この時初めて、重ね合わせて見たのだった。

(フリュース殿は、私よりもご自分の方が王子の遠くにいると思っていたのか?)

カサレス王子の、新しき近衛を集めるという話を聞いた時、アーキレイは自分も試験を受けて、
カサレス王子の近衛として、もっと傍につきたいと思っていたのだった。

が・・・しかし、自身の何か人より優れたものを持っていない事に、自分は王子にとって、ただの従者の
位置で留まる事しかない、という思いでいたのであった。

そして何事かに秀で、カサレス王子の近衛となるべくして新しく集まった者達を、一人離れて、寂しく、
眩しくその姿を見ていたのだった。

そんな風に見ていたアーキレイに、眩しく、輝く様な力強さをもったフリュースの、しかし、そんな思いとは
裏腹な、自分と似た思いを持っている姿にアーキレイは、どう言っていいのか戸惑ったのであった。

「フリュース殿・・・。」
そう言ったきり戸惑い、何も言えずに立っているアーキレイの姿に、フリュースは小さく苦笑すると、
「そうですね・・・。失礼いたしました。ずっと王子のお側にいたあなたから見たら、私ごときは外部の者。」
と言うとうつむいて、「王子がご無事なら、それでいいのです。お引き止めして申し訳ありませんでした。」
と言うと、アーキレイの言葉を待たずに、すぐに背を向け王の中庭を後にしたのだった。

 王の城の中庭に、一人取り残されたアーキレイ。 
しかし、そうして立ち尽くす今のアーキレイには、どうする事も出来ずにいたのだった。

(今は、ローライン様を早くお迎えに上がる事だけが、唯一私にできる事。)そう心にそう思うと、
エグランティーヌの色に染まっていく雲の間をすり抜けて、第二の島にあるローラインの家に急ぎ
向かったのだった。

 そうしてそんな気持ちのまま、ローラインの家の前に立ったアーキレイが、ドアをノックしようとした時。
ドアが突然開いて、ローラインが椅子を押しながら出てきたのだった。  

そして、驚くアーキレイに向かって、ローラインは、「あら、アーキレイ様。今日はどうされたのですか?
こんなに気持ちのいい晴れやかな風が吹いているというのに、アーキレイ様の周りだけ、まるで湿った
くもり空のようだわ。」と言うと、春の日差しの様に明るくほほ笑んだのだった。

 そんな、暖かな春風の様なローラインの声とほほ笑みを向けられて、アーキレイは、ようやく笑顔を
思い出すと、先程まで固くなっていた肩の力を抜いたのだった。

そして、「ローライン様、ごきげんよう。すみませぬ、つい暗い空気を身に纏ったまま、こちらに来て
しまいました。」少しはにかむようにして、そう告げるアーキレイの気配に、何かを感じとったローラインは、
彼女の耳元で囁く風の言葉を受け取ると、「まあ、カサレス王子はダメね。あなた様にそのような顔を
させるなんて。」と、笑いながらそう言ったのだった。

 そして、そんなローラインの言葉に、少し戸惑っているアーキレイに向かって、ローラインは気づかない
ふりをしながら、「さあ、そんな王子のところに、今日も連れて行ってくださいませね、アーキレイ様?」
と言うと、アーキレイの腕を待つように、ローラインは腕を伸ばしたのだった。

 それからアーキレイがローラインを抱えて、王の城に向かって飛び立とうとした時、ローラインは
アーキレイの胸に自身の右手をそっと置くと、自身の石にこう言ったのだった。

「私の天上のよろこびよ。どうぞ、この方の胸の中にある悲しみに、喜びの心を思いださせてくださいな。」
と言ったのだった。

 その言葉を受けて、ローラインの右手に宿る石が輝きだすと、アーキレイは自身の心の中から、
優しく温かな思いが広がってくる感覚を、ゆっくりと感じたのだった。

「ローライン様。ありがとうございます。」短くそう言うアーキレイに、ローラインは、アーキレイの顔を
下から見上げながら、こう言ったのだった。

「ごめんなさい、アーキレイ様。カサレス王子は・・・、なにか私達には思いもよらない程の固い決意を、
持っているようなのです。でもそこへは、私にもどうしても近づけさせてはくれないのです。」そう言うと
し寂しげに「そう、どなたか王子のお心を、お支えできる方が現れれば、いいのでしょうけど。」と言う
ローラインは、遠くの雲を少し切ない思いで、見つめたのだった。

 ローラインの最後の言葉にアーキレイは驚いて、「そんな、ローライン様がお側にいらっしゃるでは
ありませんか?」と、ローラインに言ったのだった。

そんな意外そうに言うアーキレイの言葉に、今度はローラインが驚いて、アーキレイをじっと
見つめたのだった。

それから、ゆっくりと首を横に振りながら短く笑うと、少し間を置いてから寂しそうに、こう言ったのだった。

「いやだわ、アーキレイ様。私は、カサレス王子のお心をほんの少しだけ、軽くすることは出来ても、
カサレス王子に寄り添う事は、私のこの身では、出来ないでしょう・・・?」

いつもの屈託のない、少し幼い様な表情とは明らかに違う、そこには確かに、一人の少女の姿が
あったのだった。




a0073000_19445349.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-11-15 19:57 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No44










THE SIX ELEMENTS STORY




No44



                                 著  水望月 飛翔




 それから、アーキレイはローラインの家へ送り届ける為に飛び立ったのだったが、
小さな気配を感じ、ふと下を見たのだった。
そして、王の庭を走り去る小さな悲しみを一つ、そこに見つけたのだった。

(ミラディア殿・・・?)

 そう、今宵の少女の悲しみを、ただ王子の従者アーキレイだけが、一人目撃したのであった。
(ミラディア殿・・・。大丈夫だろうか?)アーキレイは、可憐な胸を痛めているであろうミラディアを
心配しながら、ローラインを送り届けるため、第二の島まで飛んでいったのだった。

 そんなアーキレイのさびしげな鼓動を感じ取ったローラインは、「私の右手に宿る愛しい石よ。
天井の喜びをこの方の悲しみに届けておくれ。」と言うとローラインは、アーキレイの胸にそっと手を置き、
自身の石に言ったのだった。

「ローライン様?」アーキレイは驚いてローラインを覗き込んだのだったが、最初は困ったように
覗き込んでいた表情が、少しずつ暖かな頬笑みへと変わっていくのを、ローラインはうれしく
見つめたのだった。

「ローライン様、ありがとうございます。あなた様には、隠し事はできないですね。」と言うと、
アーキレイは(石の力を使わずとも、きっとこのローライン様の人を思う気持ちが、カサレス王子の心に、
より響くのだろう。どうか、お二人が幸せな道を歩まれますように。)と、そっとアーキレイは願ったのだった。

 「カサレス王子。」ちょうどその頃、自身の部屋に戻り、ベッドに身を沈めたミラディアは、彼女の純白の
心が悲しみの色に染まるのを感じたのだった。

 そしてその夜一晩中、いつまでも声を潜めて、悲しく泣いていたミラディアなのであった。

 こうして、それぞれの思いを胸に秘めながら、それでも日々つつがなく時は過ぎ、そうして王子は
もうすぐ成人の儀式を迎えようとしていたのであった。

 その日もカサレス王子は、フリュース・リュードと槍を交えてから、ミランディア・カランダムや
ストー・リマック等と共に、会議室で空の領土の執政に関わる講義を受けていたのであった。

 その頃フリュース・リュードは、王の城の中庭に寝転びながら、傍らに座るラフェール・イシレーと、高い所に
漂う雲をじっと見つめていたのだった。

「なあ、ラフェール。そなたはカサレス王子の事をどう思う?」
フリュースの突然の問いかけに、ラフェールはゆっくりとフリュースの顔を見つめたのだった。

 それからしばらく間を置いてから、静かにこう答えたのだった。
「そうですね。僕は、カサレス王子の事がとても好きなのですが。どうも王子は僕たちの事を、
あまり気には留めていないようですね。」心地よい風にその身をあずけながら、淡々と答えるラフェール。

 
  ラフェール・イシレー。
彼は髪の毛から、彼の滑らかな肌からすべてが、白一色で統一されており、その一片の翳りの無い姿と同様、
彼の意識は常に天上界に向かっていたのだった。

 そして生まれたばかりの彼は、第四の島の「慈しみの礼拝堂」に置き去りに
されていた事もあり、その彼の出生と相まって、まるで「天上界の落とし児」と、人々に思われて
いたのだった。

 そう彼は、いつも風と会話をしており、また天上の父との交信をたびたびできる存在でもあった為、
そんな彼を、タリオス王も一目置いていたのであった。

 そんなラフェールが言った言葉にフリュースは、自身がずっと感じていた、しかし、そんな断片を
表に出す事を恐れていた言葉を示されて、愕然としたのだった。先ほどから押し黙ったまま返事のない
フリュースに、ラフェールはどうしたのか、と聞いたのだった。

 フリュース・リュードは、痛いところを冷静に聞いてくる、自身よりも年下で、ずっと小柄な身体の
ラフェールに対し、彼自身もどう答えていいのかわからなかったのであった。

 そんな言葉に詰まるフリュースにラフェールは、静かにこう続けたのだった。
「フリュース殿。人の心は皆そう単純にはいきませぬ・・・。王子の悲しみ、王子のよろこびが
いったい何なのか、僕たちには簡単には解らないでしょう。本当に王子が心から僕たちを信頼してくれて、
本当に心に思う事を打ち明けてくれない限りは。」そこまで言うと、小さくほほ笑んだのだった。
 そして、「そう、あなたの苛立ちの様にね。あなたの苛立ちも、かなり複雑なようですね。」と言うと、
フリュースを真っ直ぐに見つめたのだった。

 フリュースは自身の内面を見透かすこの少年に、何も言い返せずただ見つめ返した。
そして、驚きながら静かに(ラフェール・イシレー。さすがこの者、天上の落とし児と言われるだけの
事はあるな・・・。)と、フリュースが心の中でそう呟くと、ラフェールは「いいえ、僕は天上の者ではありません。
皆さんと同じ、ただこの空の領土に住む者ですよ。」と言うと、にっこりとフリュースにほほ笑んだのだった。

 そう言うラフェールの髪を、優しい一陣の風が吹き抜けていった。
そんな風のささやきに静かに身を預けると、ラフェールはそれからしばらくして、ゆっくりと立ち上がり、
フリュースを見つめながら、こう言ったのだった。

「さあ、僕はそろそろ退出いたしましょう。あなたには少し、ご自分のお気持ちを見つめる必要が
あるようですね。大好きな気持ちと、歯がゆい気持ち・・・。それが混ざって、苛立ちとなる・・・。」

 そう言うと目を閉じて風を全身で受けながら、またフリュースの目を見つめると、
「そう、風たちが言っております。」とにっこりとほほ笑んだのだった。

 そうして一人残されたフリュースは、寝転んでいた身体を起こすと、静かに自身の考えに耽ったのだった。

(カサレス王子・・・。私は、王子が私の存在を知るずっと以前より、王子の事をずっと見詰めておりました。
まだ幼き王子のお姿は、しかし、もう既に王たる品格を備えており、私はそのお姿が眩しく、いつかは
王子のお側で、お仕えしたいと思うようになったのです。だからこそ、この度の招集は、天にも昇る
うれしさでした。しかし、王子と席を同じくする様になってからも、その距離は一向に縮まってはおりませぬ。
王子・・・。私の熱き槍も、目を合わせる事なくいつも冷静にかわされて。貴方様の思いは一体何処に
向かわれているのでしょうか?われらの思いはあなた様に届く事はないのでしょうか?カサレス王子・・・。)

 フリュースは、あれほど自身が焦がれた位置に、今こうして立っているにも関わらず、自身の思いとは
裏腹に、一向にカサレス王子の視線が自分に合わないことに、苛立ちを覚えていたのだった。

 優しい風が先ほどから頬をなでていくのであったが、しかし、今のフリュースには風の優しさは
届かないのであった。

 一方その頃、カサレス王子と、ミラディア、それからストーの三人は、ようやく空の領土の秩序についての
講義を終えると、それらについて少し話をしたのだった。そして儀礼的に一通りの議論も終わり、
自室に戻ろうと席を立とうとしていた王子の後ろ姿にミラディアは、遠慮がちに声をかけてきたのだった。

「あの・・、カサレス王子。やはりこの空の領土の秩序は素晴らしいものですね。ここまで整然と整われた
タリオス王やこれまでの王の偉大さを、わたくしは改めて、今日感じましたわ・・・。」そう王子に声を
かけたのだった。

 しかし、そんな言葉にカサレス王子は、ミラディアの方に振り向くと、静かにこう言ったのだった。
「なるほど・・・。あなたはその様に感じているのですね。整った均衡・・。その方角から捉えれば、
この空の領土程、整然とされている領土は他にはないでしょう。」そう言うと王子は、少し間を置いてから、
こう続けたのだった。

「しかし・・ミラディア殿、私の目からは少しあなたとは違う面が見受けられるのです。自由にこの城のある
第五の島に、空の人々が足を踏み入れられない事に、私は少し違和感を持っております。
それに・・、成人の儀式に失敗した者達のその後を、今まで誰も議論してこなかった。その事にも私はずっと、
腑に落ちない気持ちでいるのです。あなたはそれらをどう感じておられますか?」
そんな思いもよらない質問を、真っ直ぐにミラディアを見つめながら投げかけてくるカサレス王子の問いに、
ミラディアは困ってうつむいたのだった。

「カサレス王子・・。申し訳ありません。わたくしには、その様な事、今まで考えもおよびませんでしたわ・・・。」
ようやくその言葉だけを口に出来た、ミラディアは、そう言うと身を固くして下を向いたのだった。

 そんなミラディアの姿に、カサレス王子は寂しく微笑むと、申し訳なさそうにこうミラディアに言ったのだった。

「申し訳ありません、ミラディア。あなたはまだこの城への出入りを許される様になってから、何年も
経っていないというのに。それに、石宿しに失敗した者の事など、この空の領土でも誰も口にしない事。
そんな事をまだ幼いあなたに聞くなんて・・・。すみませんでした、ミラディア。」

 そう謝る王子にミラディアは、カサレス王子にとって自分は、未だこれからの未来を共にする者として
ではなく、ただ幼い少女としてしか見られていない事に、ひとり傷ついたのだった。

 そんな寂しげなミラディアの心を読み取ったストー・リマックは、二人の間の冷たい空気を断ち切るかのように、
カサレス王子にこう言ったのだった。

「王子・・・。ミラディアは幼い者ではありませぬ。恐れながら、これらの講義に席を同じくしている者は、
カサレス王子をお助けするために集まった者。もちろん、その意志は私も皆も同じ思いにございます。
そんな我らの同志に対して、ただ幼き者としか見られないのでは・・・。ミラディアにおけるご信頼の無さを
口にされるは、同時に我ら皆への信頼のなさでもございます。」

 カサレス王子を真っ直ぐに見つめ、そう言うストーに、ミラディアは慌てて入り、「ストー様。その様な事を
王子に言うのはおやめ下さい。わたくしが、ただ幼い考えしか持たないだけなのですから・・。」
そうストーに向かって言うと、すぐカサレス王子の方に向き直り、ミラディアはこう言ったのだった。

「申し訳ありません、カサレス王子。わたくしが不甲斐ないばかりに。わたくし・・、もっと広くを見る様、
努力いたしますわ。」そう懸命に王子に告げ、細く白い指を懸命に固く結ぶと、また下を向いたのだった。

 カサレス王子は、口を固く結んだストーと、震える体を懸命に抑えようとたたずむミラディアの、
そんな二人に対して目を伏せ、静かにこう言ったのだった。「二人とも、申し訳ありません。
どうやら私が一番もっと多くを学ばなければならないようですね・・・。」そう遠くを見ながら言うと、
儀礼的な会釈をしながら「それではお二人とも、私はこれで。」と短く言ってカサレス王子は、二人を
残して部屋を出ていったのだった。

 そんな王子の背中を寂しく見送りながら、ストーは申し訳なさそうにミラディアに振り向くと、
こう言ったのだった。「すみません、ミラディア。私が余計な事を言ったばかりに、もっと気まずい思いを
させてしまいました。」そう謝るストーに首を横に振ると、ミラディアはただただ、今までの自身の
狭い考えを恥じたのであった。

「いいえ、ストー様。本当にわたくしが幼い考えしか持たないばかりに、王子のご信頼を得る事が
できないのですわ。わたくしがこれでは、他の皆様にもご迷惑になってしまいますわね。」そう悲しそうに
気落ちした面持ちで、ストーに言うのであった。

 王の城に集まった者達の、カサレス王子への熱い視線を感じてはいるものの、王子は、城の出入りを
許されている事に喜んで、本当の核心にまで思いがいかない若き者達に対し、王子が見ている
その目線の先の違いにどうしても、カサレス王子はその距離を感じて、自身の立つその場所に未だ、
誰も近づけることができないでいたのであった。

 カサレス王子は、こうして集った新しい仲間達に、未だ王子の心の内を打ち明けることができずに、
彼らのいろいろな思いは、まだ交わる先を見いだせないでいたのだった・・・。




a0073000_18385872.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-11-12 18:54 | ファンタジー小説

THE SIX ELEMENTS STORY No43







THE SIX ELEMENTS STORY




No43




                                       著 水望月 飛翔


そして王の部屋の前に着くと、カサレス王子は一呼吸すると、「父上、入ります。」と言いながら、
神妙な面持ちで王の部屋に入ったのだった。

するとそこには、先程からカサレス王子を、タリオス王とランダス執政官が二人で待ち構えていたのであった。
 カサレス王子は何事かと思い、少し身を固くしたのであったが、タリオス王はいつもより少し微笑みを持って、
王子を出迎えたのだった。

「カサレス王子よ。先ほどの皆との対面、誠に素晴らしかったぞ。そなたは、強い意志の面持ちでは無いが、
そなたの持つ品格は何か、天をも味方に着けそうなものを備えておるようじゃ。」と王子に声をかけたのだった。

 そんな王の言葉を引き取って、ランダス執政官も嬉しそうに、「そうですね、
カサレス王子。あなた様の王子としてのお振舞、誠にご立派にございます。そして、我が娘のミラディアを
お認めいただき、わたくしも本当に心よりうれしく存じます。」と言うと、カサレス王子に深々と頭を下げたの
だった。
 カサレス王子は、そんな二人の言葉を半分うわの空に聞き、抑揚のない声でこう答えたのだった。
「いいえ父上、ランダス執政官。わたくしは、未だ何も持たぬ者。この様に何もこの空の領土の力になれず、
ただ小さき存在の者にございます。わたくしはただ、この領土の全ての人々の幸せを願うだけにございます。」
そう答えるとカサレス王子は、ローラインの姿とキュリアスの姿を思い浮かべて、遠い目をしたのだった。

 しかし、そんな王子の心の内を知らず、タリオス王とランダス執政官は、王子の謙虚なる言葉に、
大いに感心したのであった。

 それからタリオス王は王子にこう告げたのだった。
「カサレス王子よ。このランダス執政官の娘ミラディアは、そなたより年が下なれど、かの者の
聡明なる知識はすばらしきもの。どうかミラディアに目をかけてやってくれ。いずれそなたの力になるで
あろうからのう。」と王子に言ったのだった。

 ちょうどその時、王子は王子を待つローラインの事に考えを向けており、王
の言葉の半分の「そなたの力になるであろうから。」と言う言葉だけを耳にしたのだった。そして、王子の
返事を待つ王とランダス執政官に向かって、王子は「はい父上。共に精進いたしまする。」と答えたのだった。

 そんな王子の言葉に二人は、また安心したように頷いたのだった。
それからカサレス王子が王の部屋を退出すると、王の部屋に残った王とランダス執政官は、また話を
続けたのだった。

「ランダス執政官よ。カサレス王子はどうやらそなたの娘ミラディアを、悪く思うてはおらぬようだの。」
と言うと、ランダス執政官は嬉しそうに王にこう答えたのだった。

「はい、タリオス王。先ほどのお言葉と言い、対面の場でのミラディアに向けてのお言葉と言い、
わたくしは本当にうれしく思います。ミラディアも、心からこの空の領土の為に尽くしたい、と申して
居りますれば、カサレス王子をお支えできます事は、わたくしにとっても、この上ない喜びにございまする。」
と、王に言ったのだった。

 王は「そうじゃの。」と言うと、心にこう呟いたのだった。
(ランダス執政官の娘ミラディアの聡明なる事は、間違いなくこの空の領土を助けていく事であろう。
そして、あの者の美しさなれば、カサレス王子の妃候補としても、申し分ない。あの二人がこれからの
空の領土を担っていければ、我が意としては何も申すことは無い。その様になればよいのじゃが。)

 そう思うタリオス王の隣で、ランダス執政官もまた、(我が娘ミラディアが、カサレス王子と共に、こ
の空の領土を継ぐ事にでもなれば、私にとってこんなにうれしいことは無い。タリオス王も、
ミラディアを認めて下さっているようだし、これでカサレス王子のお心が、ミラディアに向かわれれば
良いのだが。)と、心に思うのであった。

 さて、そんな事を思う父親達を後に残してカサレス王子は、急いでリティシア姫の部屋に向かったのだった。
「リティシア姫。ローライン?」そう言いながら姫の部屋のドアを勢いよく開けたカサレス王子であったのだが、
部屋の明かりは消えて、窓が大きく開け放たれており、部屋に掛かっている飾りの細工と、色とりどりの
薄布たちが、この部屋の主の不在に、ただ退屈そうに風に揺らめいているだけなのであった。

 カサレス王子はその暗い、人の気配の全くしない部屋を見渡すと、ゆっくりと開け放たれた窓の方に
進んだのだった。

 もうすでに、夕暮れの衣の色に変わってきた空の色を眺めて、カサレス王子は一つため息を
着いたのだった。「ローライン。もう君は帰ってしまったのだろうか?」そう小さく呟くと、残念そうに夕刻から
ゆっくりと蒼の色へと変化を見せる空を遠く眺めたのだった。
と、その時であった。そんな寂しげな王子の背中に、小さな笑い声が思いもかけずに、
聞こえてきたのであった。

 カサレス王子はゆっくりと振り向き、不思議そうに部屋のなかを見回したのだった。
ると、しばらくしてから「もう、リティシア姫ったら、ダメじゃない。王子に気づかれてしまうわ。」
と残念そうに言うローラインの声が、先程まで気落ちしていた、カサレス王子の耳に小さく届いたのだった。

 そして今度は、頬に少しの笑みを湛えてカサレス王子は、もう一度、薄暗い部屋をゆっくりと
見渡したのだった。

 すると、「お帰りなさい、王子。」と、はじけるような明るいローラインの声が、彼女を抱いている
アーキレイと共に、王子の前に現れたのだった。

王子が驚いてローラインとアーキレイを見つめていると、「お帰りなさい、にいちゃま。」とリティシア姫が、
自分の方にカサレス王子の視線を向けさせようと、一生懸命に王子の服を引っ張ったのだった。

 カサレス王子は、目線を素早く落としてリティシア姫を見つめると、まだ腑に落ちない面持ちで、
小さな妹姫を抱き上げたのだった。

 それからもう一度、ローラインとアーキレイの顔を見て、二人にこう言ったのだった。
「この部屋には、まったく人の気配が感じられなかったのだが。」と言うと、途中で気が付いた様に
アーキレイを見ながら、「アーキレイ?」と問いかけたのだった。

 そんなカサレス王子に、申し訳なさそうにアーキレイはこう言ったのだった。
「申し訳ありませぬ、カサレス王子。お察しのとおり、私の石の力を少し使いました。」と言うアーキレイ。

 そう、アーキレイの石は「均衡を守りし力」という。
その名のとおり、周りの空気や時間を収める力を持っており、彼の右肩に収まっていたのだった。

 そして、そんなアーキレイの石の力を使い、このリティシア姫の部屋から、彼らの気配を消して
いたのであった。

 カサレス王子を前にして、困った顔をしているアーキレイの姿をみて、ローラインはあわてて
「ごめんなさい、カサレス王子。私が、アーキレイ様に頼んだの。王子がどういう顔をするのかなっ?
て思って。」と、王子の顔を覗き込みながら、少し神妙な顔で王子に言ったのだった。

 しかし、カサレス王子に抱かれて、楽しそうに微笑んでいるリティシア姫と目が合うと、ローラインは
先程までの神妙な面持ちとはうって変わって、「ふふっ。でも楽しかったわね。リティシア姫。」
と笑いをこらえながら、楽しそうにこう言ったのだった。

 そんなローラインに、リティシア姫も、「うん、たのしい。にいちゃま。こまってた。」と言って、
愛らしい笑い声をあげたのだった。

 そうして顔を見合せながらほほ笑む、ローラインとリティシア姫の姿見つめるカサレス王子は、
そんな二人に少し困った様な顔をすると、「二人にはかなわないな。」と笑ったのだった。

 それから四人は顔を見合わせると、穏やかに笑いあったのだった。

アーキレイは、そんなカサレス王子の、心を許している笑顔をみて、(ローライン様がいるだけで、
王子の心はこんなにも和らぐのか。)と、うれしくも、また自分に向ける時の表情の違いを、
少し寂しくも思うアーキレイなのであった。

 しかしアーキレイはすぐに寂しさを打ち払うと、(それでもいい。カサレス王が穏やかな時間を
過ごす表情を見られるだけで、私はこんなにも幸せな気持ちになれるのだから。)そんな事を一人、
胸に思うアーキレイなのであった。

 それからまた、ひとしきりリティシア姫の部屋で遊んだあと、カサレス王子はローラインを抱いて、
王子の部屋に向かったのだった。

「疲れたかい?ローライン。」カサレス王子が腕の中のローラインを気遣ってこう聞くと、
ローラインは首を横に振り、王子にこう言ったのだった。

「いいえ、カサレス王子。私、王子とリティシア姫にお会いする時だけは、咳も出ないで、
本当に元気になれるの。自分でも不思議なくらいにね。」と言うと、菫のような可憐なほほ笑みを
王子に向けたのだった。

 王子はそんなローラインの笑顔を見て、ホッとしたように「よかったよ、ローライン。
君が笑ってくれるだけで、僕は何故か気持ちが安らぐんだ。」と言うと、王子もまた風になびく若草のような
ほほ笑みを、優しくローラインに向けたのだった。

 しかし王子は、ふとなにかを思い出したように、少し疲れた様なため息を、一つ小さくついたのだった。

そんな王子にローラインは、「どうしたの?カサレス王子。」と心配そうに王子の顔を覗き込んだのだった。
 カサレス王子は、じっと自身をのぞき込むようにして見つめているローラインの瞳を見つめると、
気が乗らない様な声で、こう答えたのだった。

「ローライン。実は最近、僕の空の王になるべく教育が始まって、毎日いろいろ勉強させられているんだ。
それと、僕の補佐となるべき者達を、父王が広く呼び掛けて、今日初めてその者達と対面したんだよ
。皆、それぞれ素晴らしい能力を持った者達なんだけど。」と言うと、気乗りのしない、小さなため息を
ついたのだった。

 そんな王子にローラインは、「まあ、素晴らしいじゃない、カサレス王子。王子を助けてくれる仲間が
出来たってことでしょ?」と、無邪気に言うのだった。 しかしカサレス王子は、首を横に振ると、
「だけど、ローライン。僕はそんな事よりも、キュリアスに関する事を何でもいいから、調べたいんだ。
そして、少しでも早く彼の居所を見つけて、キュリアスに会いに行きたいんだよ。」

(それに、君と会う時間を今日みたいに割かれたくはないんだ。)そう最後の言葉を、胸に閉まった
カサレス王子なのであった。

「王子・・・。」自身の兄、キュリアスの事を案じる王子にローラインは、心の中で(ありがとう、カサレス王子。)
と呟いたのだった。
 
 それからローラインは、その日も王一家と共にテーブルを囲み、アーキレイに抱かれて、自身の家に
戻ろうとした時であった。

 いつもの様にローラインとの別れを惜しむカサレス王子。
そして、その姿を草陰から見つめる美しい瞳。そう、一人の少女の姿が人知れずひっそりと、
そこにあったのだった。

 それは、ランダス執政官の娘、ミラディアの姿。
ミラディアは、昼間の王子との対面の席で、カサレス王子に自分の名を呼んでもらえたことが本当にうれしく、
王の広間を後にしてから、急いで自分の居住区に戻ると、ミラディアが生まれた時に両親から贈られた、
クラスカス山の高い頂に咲いている、ミレンディラの花の花粉を入れた小瓶を王子に届けようとして、
王の城の庭まで来ていたのであった。

 ミレンディラの花の花粉。
それは、その花粉を吸った者を夢の中で、「天上の庭」に連れていく事ができると言われている、
大変貴重なものなのであった。

「よほどの時に使う様に。」
そう両親から言われていたそんな貴重なものを、それでも王子に差し上げたい、と心に思い、
夜の暗い庭を一人走ってきたミラディアなのであった。

 しかし、そんなミラディアの目の前で起きている光景は、カサレス王子を愛しく思う少女の胸には、
冷たく突き刺さる光景なのであった。

「カサレス王子。その方は・・・?」
タリオス王に王妃、そして妹リティシア姫までもが穏やかに、ローラインと談笑している姿に、ミラディアは、
自分の隠れているその場所のその距離よりも、もっと遠く小さく、自分の存在を感じていたのであった。

「じゃあローライン、また。」と言う王子の頬に、ローラインは自身の右手を添えると、
「天上のよろこび」を呼び出して、王一家の頭上に降り注いだのだった。

 そして、リティシア姫のよろこぶ姿と、アーキレイに抱かれたローラインの傍らを歩いて名残を惜しむ
カサレス王子の優しい横顔を見て、ミラディアは胸が締め付けられ、一人静かにその場を離れたのだった。



a0073000_12583141.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-11-08 13:05 | ファンタジー小説