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THE SIX ELEMENTS STORY No50










THE SIX ELEMENTS STORY




No50




                                 著 水望月 飛翔



 カサレス王子は、その翼の言葉を静かに聞くと、一瞬悲しみの色をたたえたのだったが、
しかし、王子の瞳の奥にある輝きは、純然たる石の強さを秘め一層蒼く、深く輝いたのだった。

「美しき崇高なる翼よ。私は、我が父王を心より尊敬しておりまする。この空の領土の均衡のとれた
美しさは、これまで父王が努力をされて創りだされたもの。そして父王が、私の事を頼りなく思っている事は
当に承知の事。しかし私は、私のこれからやろうとしている事を、今父に解っていただこうとは思っては
おりませぬ。それは、父が大事にされている秩序を壊す事でもありますれば。しかるに私は、すでに決心を
いたした者。この小さく芽生えた決意に、私は目を背けたくはないのです。」と言うとカサレス王子は、
両手を広げながら、こう続けたのだった。

「この「癒しの浴室」を司る心優しき聖霊よ。貴方は当に私の心をお読みのはず。どうか、今は何も言わず
私の道を進ませて欲しい。」カサレス王子がそう言うと、プラチナの翼は王子の言葉を聞き届けたかの様に
次の瞬間、「パーン。」と羽がはじけて、四方八方に散らばると、速やかにひとつ残らずその姿を消したの
だった。

 ただ最後の言葉に余韻を残して。
「カサレス王子よ。そなたの意志の強さはしかと受け止めた。そなたはそなたの道を進まれるがよい。
そなたの手中に残りし羽は、私からの贈り物じゃ。大事に使われるがよい。」

 そうして、この浴室の主は静かに姿を消したのだった。

「ありがとう。わが美しき飛翔の女神。」
小さくそう呟くと、カサレス王子は自身の手の中に残る、ピンクホワイトの羽をじっと見つめたのだった。
 
 そして、カサレス王子は自身の成人の儀式へと向かって行ったのだった。

 さてこの夜は、カサレス王子の成人の儀式を祝う宴が、用意されていたのだったが、その宴の間中
漂う空気は、とても祝い事の為のそれではなく、まるで何か悲しみ事でもあったかの様な、冷やかさと
静けさに満ちたものであった。

 そして、まだ幼いリティシア姫は、この王の広間に漂う冷たい空気に、じっと身を固くして、以前ローラインに
作ってもらったお人形を抱きしめながら、この宴の終わりを待っていたのだった。

 一方タリオス王は、とうとうこの宴の間中、一言も言葉を発する事なく、王妃も王の隣で、時折王と王子に
視線を送りつつ黙っているしかないのであった。

 そして、カサレス王子の元に集まった若き仲間達は、とうとうこの日、この祝いの席に呼ばれる事なく、
その夜を終えたのだった。

 こうしてカサレス王子は、自身の成人の日に誰からも祝いの言葉を掛けられず、王子に近づく者もおらず、
王の広間で一人寂しく佇んでいたのであった。

「のうロードス殿、今宵はせっかくの王子の祝いの席だというに。この冷たい空気は空の領土の習わし
かのう?」

「聖なる騎士団」の長老ゼンス・ショーインは、小さい音を立てるのもはばかれる様な、この冷たい静けさの
中にいる事に、少々不満げに言ったのだった。

「すみませぬ、ゼンス殿。」いつもは雄弁な長老ロードス・クレオリスであったのだったが、今宵の事を何と
言っていいのやら、言葉に詰まったのであった。

「カサレス王子は、難儀な道を選んだかのう。」ゼンスが小さく言うと、もう一人の長老、ユラン・アユターが
その言葉に小さくうなずく姿をみて、ロードスは二人がカサレス王子に対して、失望の言葉を交わしている
と思ったのであった。

 そして、そんなロードスはカサレス王子と目が合うと、なにか逃れる様に、すぐに視線を外したのだった。

そんな重くるしい空気の宴が早々に終わると、カサレス王子は静かに王の広間を後にして、そのまま王の
城の一番高い塔に登ると、今宵の冷たく輝く星々を、ただ静かに見上げたのだった。

 と、そこへ片羽が途中でちぎれてしまっている蛾が、フラフラと王子の目の前を力なく飛んでいる姿が、
王子の目に入ってきたのだった。
 その蛾は、くすんだ土色の羽に所々にぼやけた黒い斑が入っており、何かとても寂しげな風情を漂わせて
いたのだった。

 カサレス王子は、今の自身の心鏡に似たもの悲しさを、その蛾に感じたのであろうか。
そっと右手を伸ばしその蛾を優しく包み込むと、自身の方にゆっくりと引き寄せたのだった。

 そうしてその蛾に向かって優しくほほ笑むと、「君の羽を治してあげようね。僕は君の羽をもっと素敵な色に
してあげる事も出来るよ。君はどの様な羽の色がいいかな?さあ、君の好きな色を願ってごらん。」と、
手の中の蛾にそう話しかけると、サファイアが宿っている左手に、「フーッ。」と息を吹きかけて、その蛾を
両手で包み込んだのだった。

 それからゆっくりと両手を広げると、ちぎれていた羽はきれいに治り、その蛾はゆっくりと羽を動かしたの
だった。
 しかし、羽の色は、残念ながら元のくすんだ土色のままなのであった。
王子はがっかりしながら、ため息をつくと、「ちぎれた羽は治せたけど。君を素敵な色に変えてあげる事は
できなかったね。僕の力はまだまだだな。」と、寂しく呟いたのだった。

 しかしその蛾は、カサレス王子の心とは裏腹に、まるで王子に喜んでお礼を言っているかの様にしばらく
ずっと、王子の周りを軽やかに飛び続け、王子の左手にキスをすると、やがて何処かに飛んで行ったの
であった。

 そうして一人残された王子は、また冷たく輝く夜空を遠く、一人眺めたのだった。

 一方、冷たい別れをしたローラインは、今日のカサレス王子の成人の儀式の報告をじっと身体を
固くしながら一日中、第二の島の家で待っていたのだった。

 しかし、そんなローラインの元に届いたのは、晴れやかな成功のお触れではなく、ただ儀礼的な知らせが
届いただけなのであった。
 ローラインは不安に思った。「カサレス王子。なぜ、成功を伝える知らせではないの?カサレス王子は
本当にご無事なの?」
ローラインは耳を澄まし、風たちの声に一心に耳を傾けたのだった。

 王子の悲しみ。周りの失望。
ローラインがつかんだ気配は、そのような悲しみに彩られたものだった。
(カサレス王子。あなたの心はどこへ行ったの?今の私にはあなたの悲しみしか伝わってこないわ。
ああ、王子。私、どういしたらいいの?あなたの元へ今すぐ行きたい。こんな時、自由に飛べる翼があったら。
走っていける脚があったら・・・。)ローラインは車輪付きの椅子に乗ると、ドアを開け外へ飛び出して行った
のだった。

 そんなローラインの後ろ姿を、何も言わずに見送る母。きっと何かを感じたのであろう。
(ローライン。あなたの自由に思うままにいきなさい。)と、小さく胸の中で呟いたのだった。

 ローラインは車輪を懸命に回し、くず折れた「真実の礼拝堂」まで行くと、周りを漂う風に強く願った
のだった。

「どうかお願い。私の願いをアーキレイ様に届けて。」そう言うと、どこにいるかもわからないアーキレイに
テレパシーで話しかけたのだった。
(アーキレイ様。どこにいらっしゃいますか?どうか、私の声に答えてください。)一心に祈るローライン。

 風たちはいつもよりざわつきながら、空の領土を吹き渡った。
しかし、いつまでたってもただ時間だけが過ぎていき、ローラインの元にアーキレイの返事は返って
こなかったのだった。

 ローラインの瞳から大粒の涙がこぼれた。「キュリアス兄さま、助けて。」
その時、急に突風が吹きローラインの髪が舞い上がったかと思うと、第四の島へ風が向かったのだった。

「ア―キレイ様、どこにいらっしゃいますか?どうか、私の声に答えてください。」
その頃、ずっと一人自室にこもっていたアーキレイの元に、先ほどまでしっかりと閉ざされた窓が勢いよく
開くと、部屋に入ってきた風の中から声が聞こえたのだった。「ローライン様?」アーキレイは周りを見回した。

 しかし、この第四の島にローラインはいるはずもなく、アーキレイは首を横に振ると、ただの空耳だろうと
一人苦笑したのだった。
 すると、今度は姿の見えない風から一撃をくらったような衝撃を、アーキレイは頬に感じたのだった。
もう一度周りを見回した時、先ほどと同じ声がアーキレイの耳に届いたのだった。

「ローライン様。」今度ははっきりとローラインの声を認識すると、アーキレイは意を決して、第二の島まで
飛んで行ったのだっだ。

「ローライン様。」
うつむき、涙にくれるローラインの前に、アーキレイは舞い降りた。

 アーキレイの姿を見てローラインはうれしそうに頬笑むと、息せき切ってこう言ったのだった。
「アーキレイ様、お願い。今すぐカサレス王子の元に私を連れて行ってください。」そんなローラインの言葉に
アーキレイは驚いたのだったが、うつむきながらこう言ったのだった。

「しかし、ローライン様。ローライン様はあのような冷たい別れをカサレス王子に告げられたでは
ありませんか?」そう言うとアーキレイは、苦しそうにこう言った。「そして私も、もはやカサレス王子の従者で
はありませぬ。王子の元へ行く事はもう、私には許されていないのです。カサレス王子は儀式を無事に
終わらせたご様子。もう、われらの事は必要とされてはいないでしょう。」
最後はとても悲しそうな目で言ったのだった。

 しかし、そう言われてもローラインは、アーキレイに詰め寄った。
「アーキレイ様。アーキレイ様は本当にそう感じているのですか?カサレス王子が今、悲しみに暮れている
心を、あなたは感じ取れていないのですか?」

 ローラインにそう言われて、アーキレイは目の色を変えた。
「カサレス王子が悲しまれている・・・?」
しかしアーキレイは、すぐに身を固くしてローラインにこう言ったのだった。

「しかし、ローライン様。私はすでにカサレス王子には必要のない存在。私ごときは何も王子のお役に
立つことはできません。」そう言うと、唇を固く噛んで下を向いたのだった。そんなアーキレイを悲しそうに
見つめるローライン。

 ローラインは、車輪を動かしアーキレイの前に行くと、腕を伸ばしてアーキレイの手を取ったのだった。
「アーキレイ様の本当のお心は、どこにあるのですか?あなた様の本当のお気持ちは?そうして今でも
泣いているのではありませんか?」真っ直ぐに覗き込むローラインの瞳に、アーキレイは恥ずかしさを
覚えたのだった。

「しかし・・・。」
そう言ったまま、口をつぐむアーキレイにローラインはなおも続けたのだった。
「私はカサレス王子のそばに行きます。だって、今カサレス王子は誰かを必要としているもの。
それが私でなくてもいい。でも私はカサレス王子の元に行きたいの。今、自分の気持ちに素直に
なれなかったら、私、一生後悔するわ。アーキレイ様お願い。私を王子の元に連れて行って。
そしてどうか、アーキレイ様もご自分の気持ちを王子に伝えて。」

 ローラインの言葉に、アーキレイは唇をかむと、目頭を押さえたのだった。
そして、やわらかな頬笑みをローラインに向けてこう言った。

「ローライン様、私の本当の気持ちを言い当てていただきありがとうございます。私は、これからも
カサレス王子の傍でお仕えしたい。いいえ、私は一生王子の元を離れたくはありません。」

 そう言うと、ローラインをそっと抱きあげ、第五の島へ飛んでいったのだった。


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by maarenca | 2014-12-03 18:48 | ファンタジー小説