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THE SIX ELEMENTS STORY No48









THE SIX ELEMENTS STORY





No48



                                    著 水望月 飛翔 


 その頃、第二の島のローラインは、家に着くなりずっと自身の部屋に閉じこもると、自分ではどうしようも
できない、あふれ出る涙を何度もぬぐいながら、冷たい星々をただ黙って見詰めていたのだった。

 いつもよりも、早く帰ってきたローラインの顔を見て母は、何かあったのだろうと思ったのだったが、
アーキレイの腕から自身の椅子に着くと、固い表情をしたまま、無言ですぐに自分の部屋に戻る娘の背中を
見送ると、神妙な面持ちで立ち尽くすアーキレイに顔を向けたのだった。

「アーキレイ様。」そう言うと母は、すべてを悟った様にテレパシーでこう聞いたのだった。
(ローラインは、もうお城にいく事はできないのですね?王子のお側に行くことは、もうないのですね。)と。

 そんな、すべてを理解したローラインの母の言葉にアーキレイは、申し訳なさそうに(はい、お察しの
通りでございます。)とテレパシーで返したのだった。

 ローラインの母は傷つき悲しむローラインに、寄り添うようなアーキレイの、ローラインの悲しみを思う
心づかいを感じ取ると、静かに会釈をして、ローラインの部屋の方を振り返りながらこう言ったのだった。

「アーキレイ様。これが本来の姿。今までが随分と分に過ぎた事だったのです。あの子もその事は十分承知
でしょう・・・。どうぞ、カサレス王子には、成人の儀式のご成功をただお祈り申しておりますとお伝えください。」
と言うと、深々と頭を下げたのだった。

 アーキレイは、そんな母の言葉を受け取ると、静かに会釈をして、「ローライン様も、母上様もどうか
お健やかにお過ごしください。」と言うと、もう一度最後に深く頭を下げてから、ローラインの部屋のドアを
一瞬見つめ、そうして静かに、王の城に戻っていったのだった。
                               
 カサレス王子が食事の間から自身の部屋に戻ると、それからすぐにアーキレイが、王子を追うようにして、
王子の部屋にやってきたのだった。

アーキレイは遠慮がちに「カサレス王子。お邪魔をしてもよろしいでしょうか?」と、ドアの外でカサレス王子に
声をかけた。

 王子はそんなアーキレイの問いかけに、少し考えたのだったが、「どうぞお入りください、アーキレイ殿。」
と答え、王子自らドアを開けたのだった。

 アーキレイは、ドアが開きすぐ目の前にいる王子に驚いたのだったが、アーキレイを見るなり「どうぞ。」
と静かに部屋に促し、そのまま奥へと進むカサレス王子の後姿に、目には見えない拒絶の意志を感じて、
そのまま着いていく事がためらわれ、しばしドアの前から動けないでいたのだった。

 そして、ゆっくりと振り向いた王子は、自分に着いてこず、じっとドアの前で立ち止まったままのアーキレイの、
なにかもの思う姿を見とめると、表に出した表情とは違う本来のカサレス王子の感情が、ふと姿を現しそうに
なったのであった。が、しかしすぐに、自身の進むべき意志を思い出し、王子は体温の無い声でこう言った
のだった。

「どうしたのです?アーキレイ殿。何か用があったのではないのですか?」
 そうしたカサレス王子の言葉に、アーキレイはハッとして、すぐに王子から少し離れた場所まで進むと、
遠慮がちにそこに止まったのだった。

「申し訳ありませぬ、王子。」
そう言うと、アーキレイは次の言葉を必死で探したのだった。が、なかなか言葉が思う様に出ない
アーキレイに、カサレス王子は自分の方から告げるしか無い事を自覚して、アーキレイにこう言ったのだった。

「アーキレイ殿。先ほど、父とわたくしの話を聞いていたと思いますが、今宵からもう既に、あなたは私の
従者ではありません。これからわたくしの成人の日までは、私は一人で考えを整理したいのです。
どうぞ、ご自分の居るべき場所にお戻りください。」と告げたのだった。

 アーキレイは、王子のそんな言葉に、いまは何を言っても受け取ってはもらえない、そんな完全な
高い壁を感じ、言葉に詰まったのだった、が、しかし、ローラインの事だけは、最後に王子に伝えたいと思い、
カサレス王子の瞳を真っ直ぐに見つめると、ゆっくりと話し出したのだった。

「カサレス王子。王子のお考えはよく解かっております。わたくしはすぐにでも王子の前から控えましょう。
しかし、ローライン様は、ローライン様の事だけは、もう少し王子のお傍に考えをお残しください。
あの方は、きっと王子のお考えをすべて理解できる方。わたくしの様な至らぬ者が、王子のお側に着けない
のは致し方ありませぬ。しかし、あの方の事だけは、どうか王子のお心に残していただきたいのです。」
と、懸命に王子に告げたのだった。

 そんなアーキレイの言葉に、カサレス王子は心の中で、(アーキレイ。君は至らぬ者なんかじゃない。)
と、呟いたのだった。

がしかし、カサレス王子は静かに奥歯をかむと、冷静にアーキレイにこう告げたのだった。
「アーキレイ殿、確かにあなたの言葉は、私の心に残しておきましょう。ご助言、ありがとうございます。」
そう言うとカサレス王子は、軽く会釈をしたのだったが、何かを思いついたように続けてこう言ったのだった。

「それと、明日から成人の儀式の日まではもう、皆の者の前に私が姿を見せる事はありません。申し訳
ありませんが、他の者にも自身の居るべき場所に戻る様、あなたから告げていただきたいのですが。」
と言ったのだった。

 そんな王子の言葉を受けてアーキレイは、失意の表情を浮かべるであろうフリュースやミラディア、
そして皆の落胆した姿を思い浮かべると、表情を固くしてカサレス王子にこう言ったのだった。

「恐れながら、王子。彼らは王子をお助けすべく意志を持って集まった者。それを、私の様な者の口から
言うのでは、全く示しがつきませぬ。どうかここは、カサレス王子自らのお言葉を、最後に彼らにお伝えして
いただく事はできないでしょうか?」カサレス王子の言う事に、いつもは黙って従うアーキレイであったが、
しかしこの時だけは、カサレス王子に自身の思いを告げたのだった。

 そんなアーキレイの言葉に、カサレス王子は内心とても困って、この申し入れを聞いたのだった。

(彼らの熱い目を見ながら、冷たい決断を言わなければならないのか・・・。)

カサレス王子はそんな場面を、あるいは回避できればと、思っていたのであったが、しかし、アーキレイの
言葉を受けて、自身の決めた道を行くならば、自らの手ですべてに決着をつけなければならない。
そう覚悟を決めなければ、これから一人で進む事などできないであろうと、自身の思いを定めたのであった。

 そうして、思いを決めた王子は、アーキレイの瞳を真っ直ぐに見つめると、ゆっくりとこう言ったのだ。
「なるほど。あなたの言う事の方が、どうやら正しいようですね。解りました。明日は最後に私から、皆の者に
告げましょう。ありがとう、アーキレイ殿。それでは、どうぞお元気で。」と言うと、ゆっくりと頭を下げたのだった。

 アーキレイは、もうこれが王子からかけられた最後の言葉だと思うと、彼の胸に静かな痛みが走ったの
だったが、もう自分にはここにいる時間は残されてはいない事を、また十分理解してもいたのだった。

 アーキレイは最後に、「カサレス王子の成人の儀式が見事成功されます事を、遠くからお祈り申し上げて
おります。」とようやく言うと、深く頭を下げて、そのままカサレス王子の部屋を退出したのだった。

(アーキレイ。どうか元気でいて下さい。)
カサレス王子は、そんなアーキレイの事を強く思う気持ちを、彼に告げる事はなく、心の中でただそう最後に
呟いたのだった。

 次の日、王の庭に集められたフリュース達は、カサレス王子から、思いもよらない言葉を告げられ戸惑って
いたのだった。

「カサレス王子・・。我らが王子のお側にいては、ただ本当に邪魔なだけなのですか?」そう聞く、フリュースの
問いに対し、カサレス王子は、「いいえ皆さん。私が申し上げたいのは、今はただ自身の成人の儀式に集中
したい。という事なのです。そして、見事自身の石を宿した暁には、成人となった私自身の責任において、
新たにお声を掛けたいのです。」と、告げたのだった。

しかし、そう言う王子の言葉とは裏腹に、王子の元に集まった者達は、もうカサレス王子が自分たちに
声をかける事は無いだろうという、おぼろげながら、完全に近い確信が、思い違いであって欲しい自身の
思いを、完璧に踏みつける様に、何度も脳裏に浮かびあがってきたのであった。

 そして、彼らの間に居すわり続ける長い沈黙を、そっと払う様に、ラフェールが皆にこう言ったのだった。
「さあ、みなさん。カサレス王子がこの様に言っておいでなのですから、我らはただ、王子のお言葉を信じて
待つことにいたしましょう。今は、これ以上、王子のお時間を使う事は賢明ではない。次に動けるように待て。
と、風が私に言っております。」と、ラフェールは一同を見渡すと、少しさみしそうにほほ笑みながら
そう言ったのだった。

 そんなラフェールの言葉を、ただ寂しく一同は受け入れるしかなく、そうして一同が、カサレス王子の
申し出を受け入れると、王子は、「ありがとう。それでは、皆様。お元気で。」と言うと、カサレス王子の
居るべき場所へと戻っていったのだった。

 そんなカサレス王子の背中を見送りながら、ストーは、「カサレス王子は、本当に僕たちの事を、この後
呼んでくれると思うのですか?」と残った皆に聞いたのだった。

そんなストーの言葉にフリュースは、無言でただ悔しそうに下を見つめたのだった。
そしてミラディアは、「わたくしは、たとえ王子に呼ばれなくとも、ただ、自分の出来る事を努めるだけですわ。」
と涙をこらえて、言ったのだった。

 そんな気落ちする一同にラフェールは、目を閉じながら風のささやきを受け取ると、皆に向けて
こう言ったのだった。
「皆さん。今は静かに待ちましょう。カサレス王子の為に、今の僕たちに出来る事は、ただそれだけ
なのです。」と言ったのだった。

 こうして、カサレス王子の元に集まった者達は、静かに解散したのだった。




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by maarenca | 2014-11-26 18:29 | ファンタジー小説