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THE SIX ELEMENTS STORY No47








THE SIX ELEMENTS STORY




No47





                                      著 水望月 飛翔



「こんにちは、カサレス王子。」ローラインが王子に声をかけると、王子もいつもとは違った、抑揚のない声で、
「こんにちは、ローライン。」と短く挨拶をしたのだった。

 そんな二人のいつもと違う気配を感じながらアーキレイは、王子のベッドにローラインを降ろすと、そのまま
無言で王子の部屋を出たのだった。

 取り残された二人は、お互いいつもとは違う静かな気配に、少し気まずさを覚えながら、次の言葉を
ぎこちなく探したのだった。

 そしてローラインは、何か話題を見つけようとカサレス王子を見たのだったが、王子の左腕の袖の下に、
かすかな違和感を覚えたのだった。

「カサレス王子。左の腕をどうかしたの?」と聞くローライン。
カサレス王子は、ローラインのこの問いに、アーキレイがこの傷の件をローラインに一言も言っていないの
だと知ると、少し寂しさも覚えたのだったが、何でもないという様に、ローラインに向かってこう言ったのだった。

「いいえ、ローライン。なんでもありません。それより、君は元気にしていましたか?」
 カサレス王子の、今までとは違う少し距離を置く様な言葉に、ローラインの鼓動が一つ、冷たく痛んだの
だった。

 そしてローラインは、王子の瞳を見つめると、「カサレス王子、今日は何処か具合でも悪いの?」と
遠慮がちに聞いたのだった。

 そんなローラインの問いにカサレス王子は、ローラインを見つめると、少し考える様に一言一言、
ゆっくりとこう言ったのだった。

「ローライン。君と出会ってから、僕はとても楽しい時を過ごすことができた・・・。本当に。ずっと君と一緒に
いる事が、このままできたらと、思った事もあった・・・。」カサレス王子はいったん言葉を切ったのだったが、
そんな王子の言葉とローラインは、先程から王子から伝わってくる悲しみの気配を感じないようにと、
懸命に神経を紛らわそうとしたのであった。

 しかし、いくら風を呼び止めようとしても、ローラインの心の声は風たちには届かず、カサレス王子からの
悲しみの波を、この時のローラインはとうとう追い払うことができなかったのだった。

 そしてローラインは、視線を下に落とし王子の言葉を小さく聞いたのだった。
「ローライン。僕の成人の儀式が近づいている事は知っているね?僕は、もう王家の責任を持って、
成人の儀式を受けなければならない。それは同時に、今までの子供時代に終止符をつけなければならない
という事でもある。」

 カサレス王子はそう言うと、一度目を固く瞑った。
そして目を開けると、まるで自分に言い聞かせるように、もうひとつ覚悟を持って話し始めたのだった。

「ローライン。僕はこれから、次の王となるべく、空の領土の為に尽くす覚悟でいる。だから、もう君をこうして
空の城に呼ぶことは出来ない。もう僕らはそれぞれに成人として、自分の居るべき世界に戻らなければ
ならないんだ。」

 美しい金蓮花色に染まる夕日の光が、いまこの時も、カサレス王子とローラインの身に優しく降り注いで
いたのであったが、そんな光がいま、二人の上に注がれている事も気づかずに、王子とローラインは目を
合わすことなく、この部屋に早く夕闇の色が訪れる事を、身を固くして待ったのだった。

 そうして、少しずつデュール・ブルーの気配がこの部屋に訪れると、カサレス王子は最後に、ローラインに
こう言ったのだった。

「ローライン。今日はもうこれで帰った方がいいでしょう。君の住む第二の島へ。」そう言うと、ローラインに
背を向けたのだった。

 そして、テレパシーでアーキレイに迎えに来るよう言ったのだった。
アーキレイは、不思議に思いながら王子の部屋に入ると、そこにいままで思ってもみなかった、寂しく
よそよそしい二人の気配を感じ取ったのだった。

 アーキレイは驚いてローラインの方を見ると、涙を目にいっぱいためて、しかし懸命に笑顔を創ろうとして
いる、悲しみに包まれたローラインの姿を見たのであった。

(ローライン様?)そんなローラインの姿を見てアーキレイは、カサレス王子にこう聞いたのだった。
「カサレス王子。どうかされましたか?リティシア姫のお部屋にローライン様をお連れいたしますか?」
そう聞くアーキレイであったが、カサレス王子は振り向くとただ、「いいえ、アーキレイ。」と短く答えただけ
なのであった。

 そんなカサレス王子の様子に、アーキレイはなおも不思議そうに「それとも、もう食事の間にお連れ
いたしましょうか?」と聞いたのだった。

 しかしカサレス王子は両手を固く握り直すと、感情の籠らないような面持ちで、「アーキレイ。ローラインを
第二の島の彼女の家まで送り届けてください。」と言うと、窓の方に近づいて、ローラインに背を向けたのだっ
た。

 そんな、人をもう一切近づけさせない様な、冷たいカサレス王子の言葉を聞いて、アーキレイはただ、
ローラインを静かに抱き上げたのだった。

(もう何を言っても、カサレス王子には届かないのだろう。)そう思うとアーキレイは、この凍った空気から、
一刻も早くローラインを連れ出そうとしたのだった。すぐに部屋を出ようとするアーキレイの動きを、
ローラインは静かに止めると、カサレス王子の背中に向かって、こう聞いたのだった。

「カサレス王子。最後に、私の「天上のよろこび」を受け取ってはもらえませんか?」ローラインは
消え入りそうな声で、それでも懸命に聞いたのだった。

 カサレス王子はこの時、今すぐにもローラインの方に向き直り、ローラインを見つめたかったのだったが、
しかし、そんな自身の感情を押し殺す様に、姿を見ようとはせず、少しだけ顔をローラインの方に向けると、
視線を下げて静かにこう告げたのだった。

「お気遣いありがとう、ローライン殿。しかし、もう私にはその様なものは、必要ありません。
どうか、あなたはあなたでお元気にお過ごし下さい。」と言うと、「アーキレイ、それではお願いします。」
と、ローラインにもアーキレイにも二の句を告がせないように、毅然と言って静かに背を向けたのだった。

 そんな王子の後姿にアーキレイは、「はい、カサレス王子。」と言うと、アーキレイの腕の中で震える
ローラインを守るように、すぐに王子の部屋を出たのであった。
(ローライン様。)テレパシーで、気遣う様にローラインに声をかけると、(大丈夫です、アーキレイ様。)
とローラインは、懸命に悲しみをこらえながら答えたのだった。

 そんなローラインを、アーキレイは、いつもより優しく抱きしめる様にして、ローラインの家に向かったの
だった。
 その日の雲は、少し重たく悲しみの涙を含んでいるかのように、そして静かに寄り添うように折り重なって
いたのであった。

 それからしばらくして、暗い部屋に一人取り残されたカサレス王子の部屋に、待ちくたびれた様に
リティシア姫が、従者と共に入ってきたのだった。

「ローラインさま、こんばんは。」勢いよく開けたドアは、しかし、リティシア姫も思ってもみなかった冷たい
気配に、ただ場違いなように、大きくバタンと音を立てて閉まったのだった。

 ローラインのいない部屋を見つめてリティシア姫は、カサレス王子に「にいさま?ローラインさまは?」
と聞いたのだった。

 王子はゆっくりとリティシア姫の方に振り向くと、「リティシア姫。ローライン殿は、もう自分の家に戻られた
のですよ。」と静かに答えた。

 今まで見せた事の無い、冷たい口調で言うそんな兄に向かってリティシア姫は「にいさま、どうして?」
と素直に聞いたのだった。

 そうして、まっすぐに自分を見つめる妹姫の顔をじっと見ると、カサレス王子は、何かを決心したように
こう言ったのだった。

「リティシア姫。ローライン殿は、もうこの城に来ることはありません。私達は、この空の領土の秩序を守る為、
それぞれ自分の立場に戻ったのです。」と、言ったのだった。

 しかし、そんな兄の言葉が全く解らずに、リティシア姫は、ただ今まで見た事もない兄の冷たい気配を
感じ取ると、後ずさりしながら、「そんな事、いやよ。にいさま、何があったの?」そう聞くリティシア姫の
問いに、カサレス王子は黙り込むと、目をそらしたのだった。リティシア姫は何も語らず黙り込む兄の姿に、
大きな悲しみを感じると、従者の手を引っ張って、カサレス王子の部屋を後にしたのだった。

 その夜、王一家が夜の食事を取っている時、王はカサレス王子に「カサレス王子。ローラインは
どうしたのだ?今日来るはずではなかったのか?」と聞いたのだった。

 カサレス王子は、父の質問に静かにこう答えたのだった。
「はい、父上。先ほどこの城に参りましたが、私は、近づいている自身の成人の儀式に集中したく、
あの者を家に帰しました。」と答えたのだった。

 そんなカサレス王子の淡々とした言葉に、王妃はカサレス王子を見つめたのだった。
が、しかし今目の前にしているカサレス王子に対して、何かを感じたのであろう、何気ないように、
ただ残念そうに、「まあ、それは寂しい事。あの者の明るい気配はとても好きだったのに。」とだけ
言ったのだった。  

 そんな母の言葉を受けて、カサレス王子は「母上。もともとあの者は第二の島に住む者。これ以上あの者を
この城に呼ぶことは、空の領土の秩序に関わりまする。そろそろ、それぞれの分を持っていかなければ。」
と言うと、続けて王子はタリオス王に向かって、こう言ったのだった。

「それから父上、わたくしも自身の成人の儀式に集中したい故、わたくしの周りの者を一度、控えさせたい
のですが。」と言ったのだった。タリオス王は王子の顔をゆっくりと見ると、テーブルに肘を突きながら、
姿勢を変えてこう聞いたのだった。「それはどういう事であるかな・・・?カサレス王子。」

 じっと自身を見つめてそう聞くタリオス王を、カサレス王子は真っ直ぐに見つめると「はい、アーキレイや
今集まっている近衛候補の者達を、一度白紙として、控えさせたいのです。そして私が己の石を
宿した暁には、もう一度私の周りに着く者を、成人となった自身のこの目で、自らの責任で選びたいのです。」
といつになく断固とした口調で、父王にこう告げたのだった。

そんなカサレス王子の強い気配に王はその時、(王子もようやく、成人となるべく意識を持ったか。)と思い、
カサレス王子に「よい、わかった。そなたの思った様にするがよい。」と言ったのだった。

(カサレス王子・・・。)
そんな王と王子のやり取りを、ただ後ろで控えていたアーキレイは、その場で何も言う事ができずに、
一人寂しく聞いていたのだった。

 そして、そんなやり取りの中ずっと、リティシア姫は固い表情でうつむき、泣きそうな顔でいたのだった





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by maarenca | 2014-11-22 18:56 | ファンタジー小説