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THE SIX ELEMENTS STORY No46








THE SIX ELEMENTS STORY





No46



                                     著 水望月 飛翔



そう、第二の島に住む低い身分と、お世辞にも美しいとは言えない悲しげな翼と、歩くことの出来ない
脚を持つローラインの、他の者には見せない思いを、この時アーキレイは初めて聞いたのだった。

空の領土の人々は、他の領土の民達に比べて、あまり個人の外見の差を重く見るようなことは無く、
その点においては今までも、ローラインの事を偏見の目で見る様な事はなかったのだった。

そう彼らはきっと、その人の魂の美しさを見る事ができたのであろう。
そして、上の島に住む者は下の島に住む者に対しても、自らを上に、相手を下に見るような事は無かった
のだったが、ここは暗黙の了解という様に、下の者自らが、自身を下に置き、それぞれが秩序を守るように
していたのだった。

そして更に、己の責務と使命感を持って生まれて来る、こと王族に対しては、それぞれ自らが一歩退き、
己の分をわきまえて、また大いなる敬意をもって接していたのであった。

しかしそんな思いのローラインに対して、アーキレイは今まで一度も疑う事無く、この少女に初めて会った
時から、ずっとカサレス王子と共に過ごしていく方だろうと、ただ自然に思っていたのであった。

そんな思いを持っていた自身に、全く違う現実を、突然聞かされたアーキレ
イは、心の中で、(そうか・・・、私は何も考えずに、ただローライン様とカサレス王子は、ずっとこれからも
一緒にいるのだと思っていたが、王族の、しかも次を継がれるカサレス王子にとっては、確かに、単純に
いく話ではないな。いったい私は、何を考えていたのか・・・。)と心の中で苦笑したのであった。

そして改めてローラインに、「申し訳ありませぬ、ローライン様。私は、お二人の楽しそうにされているお姿に、
ずっとお二人はお傍にいるものだろうと、深く考えもせず、本当にただ単純にそう思っておりました・・・。」

そう、いたわりを持って言葉を選ぶアーキレイに、ローラインは「いいえ、アーキレイ様。わたくしは、
これからも天上の父と、この地を守る女神様の愛を、ただカサレス王子にお届けする事ができれば、
それだけでいいのです。」と言いながら、遠くの雲を見つめたのだった。

しかし、その言葉の中には、確かにいつもと違う、一人の乙女の悲しみがそこに入っている事を、この時
アーキレイは、感じ取っていたのであった。

それから、二人はただ無言で、王の城へと飛んでいったのだった。

その頃カサレス王子は、自身の部屋の窓に持たれながら、少しずつ色を変えていく雲を見つめ、
昨夜タリオス王に言われたことを、何度も頭の中でなぞらえていたのだった。

「カサレス王子よ。そなたの成人の儀式はもうすぐであるのう。そなたはいったいどの様な力を願うの
だろうか?きっとそなたの事であるから、この空の領土を、増々美しく気高く仕立てていくのであろうな。」
と、王子に言葉を投げたのだった。そして、すぐに続けてこう言ったのだった。

「して、あのローラインの石の力を、そなたは少しは自身に取り入れる事ができたであろうか?」と
カサレス王子に王はこう聞いたのだった。

 この思いもよらない父王の言葉にカサレス王子は、一瞬、王が何を言っているのか解らなかったので
あった。

「父上、何を申されているのか、一向に私には解らないのですが・・・。」そう言うカサレス王子に、父王は
ゆっくりと王子の顔を見つめながら、こう言ったのだった。

「何を申しておる。そなたは、もうすぐ成人の儀式を迎える大事な身。この空の領土を継ぎしそなたの
石の力は、どのような者にも引けを取らぬものでなければならぬ。あのローラインと申す者は、今までになく
天上よりの愛を一心に受けし身なればこそ、そなたの近くに置いたのだ。その石の力を少しでも、そなたの
ものにしなくて、いったいどうするのだ?」と言うと、すこし考えて、また王子を見つめると王は、静かに王子に
こう言ったのだった。

「カサレス王子よ。もう儀式まで間が無いのだ。必ずやそなたは、大いなる力を持って、空の王たるその身の
位置に、そなたの石を宿さなければならぬ。明日は、ローラインがこの城に来る日であろう。その者に会うのも
最後の時と思うて、よう、その者の石の力に集中するのじゃ。」と言ったのだった。

「最後の時?」王子が小さく口にすると、王は腰かけていた王の椅子に、改めてゆっくりと座りなおすと、
静かにしかし強くカサレス王子に、こう告げたのだった。

「カサレス王子よ。そなたが無事に成人の儀式を収めた暁には、もうあの者と会う必要はなかろう。
それに・・・、そろそろ、そなたの妃候補を考えねばならぬようにもなる。いつまでもあのような者を傍に
置いては、他の者にも示しがつかぬのじゃ。よいな。次を担い、次につなげる王家たる己の使命を
忘れるではない。」そう言いながら王はじっとカサレス王子を見つめると、王子の返事を待たずして、
王子を部屋から下がらせたのだった。

(もうローラインと会えなくなる・・・?)

カサレス王子はこの時まで、そんな事を一度も考えた事などはなかった。

王子はただローラインと共に過ごす貴重な時間を単純に楽しんでいたのだった。
 カサレス王子は自身の部屋に戻ってからも、先程の父王の言葉を受けて、もう会えないという事に、
この時初めて、ローラインの事を改めて真剣に考えたのだった。

(ローライン・・・。)
 カサレス王子は、ローラインと初めて会った時の事から、ずっと今までの月日を思い起こしたのだった。

 そしてこの時初めて、王子はローラインとカサレス王子との間に、越えるに難しい、身分の差を感じたの
だった。

(ローライン。父が君の城への訪問を受け入れたのは、ただ君の石の力と、天上と女神に通じる事の出来る、
君の不思議な力があったからこそだったのか。そして僕は、他の人を僕の妃として受け入れなければ
ならない。君ではなく、他の人を・・・。)

 そうしてカサレス王子は、今まで見てきたローラインへの気持ちを、もう一度考えようとしたのだった。

王子は常々、ローラインの事をずっと守っていきたいと、思ってはいたのだった。が、それははたして、
自身の妃に迎えたいという気持ちで見ていたのかどうか?
しかし、それには少し違う意味合いの方が多く、込められてもいたのであった。

ローライン・・・、キュリアスの妹。
ローライン・・・、不自由な身体の。

 カサレス王子には長年、誰にも明かした事のない秘めたる想いがあった。
それは、これから自分が願う石の力をこの少女に与えて、新しい翼、回復した脚で自由に野を駆けまわって
もらう事。
 そしてまた、他に必要としている人々に、誰にも知られないようにそっと、広くこの力を使って、新たな
生きる道を持ってもらいたいと、そう思っていたのであった。

 それは、キュリアスの様に成人の儀式に失敗して、霧のように消えていった者たちへの救済でもあり、
領土を超えたすべての者への救済なのであった。

 しかし、そのようなカサレス王子の想い、そしてその行為は、新たな道を踏み出す者の事を考えれば、
絶対世に知られてはいけない事。
 そんな王子の力は、空の領土を美しくさらなる繁栄をさせる事ではなく、空の領土の多くの人々に役に立つ
力でもない。

 だからこそ、タリオス王や他の人には理解されないであろう、孤独の善行を、しかしカサレス王子は自らの
心に、固く決めていたのであった。

 もちろんカサレス王子は、ローラインの事を可哀そうだとか、気の毒に、などと思ったことは一度たりとて
無い。
 ただ本当に、ローラインの心からの美しさを心地よく思い、そんなローラインの事をずっと見つめていたい、
と思っていたのであった。
 しかし、それが相手を思う恋心かと言うと、そうだとは断言できない程の、本当に淡いものでしかなかった
のであった。

 しかし、もう会えない。となると・・・。

その晩、カサレス王子はずっと寝付けずに、これからの事を何度も考えた。
それは、ローラインの事だけではない。

 カサレス王子は、これから宿す石の事で、ある事を心配していた。
それは、きっと父王や城の者達の多くは、カサレス王子の石を宿す位置と石の力に大いに失望して、
王子に不満の目を向けるであろう事だった。

 そしてそれは、これから王子と共に生きる、まだ見ぬ王妃や、近衛として王子の元に集った新しい仲間達に
対しても、周りの者から同時に投げかけられるであろう、冷たい目の事でもあったのだった。

(僕だけなら構わない。僕だけなら。しかし、僕に着いてくれる者にまでその様な冷たい目が及ぶとなれば・・・。
僕はいったい、どうしたらいいのだろうか?)
自分の周りの者にまで、多くの冷たい目が向けられる。
そう思うとカサレス王子は、これから先、はたして誰も王子に近づけない方がいいのでは?と思うのであった。

 そうして、この眠れない夜を過ごしたカサレス王子は、次の日のフリュースやアーキレイに対しての言動に
つながっていったのやもしれぬ。

 さて、いろいろな思いを巡らせながら、カサレス王子が少し痛みの残る腕を抱え、窓にもたれていると、
静かに王子の部屋のドアが開いたのだった。

 カサレス王子がドアの方に振り向くと、そこにはいつもの明るくほほ笑むローラインとは違い、
静かにほほ笑み、何かを覚悟したような面持ちのローラインが、アーキレイに抱かれて、静かに姿を
見せたのだった。




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by maarenca | 2014-11-19 11:28 | ファンタジー小説