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THE SIX ELEMENTS STORY No45






THE SIX ELEMENTS STORY





No45




                                    著 水望月 飛翔



 しかし、そんな若者たちの交錯する思いを知らず、大人達はここに集まった若者たちを、
ただ頼もしく見ていたのであった。
 この日、いつものように自身の居住区に戻ったランダス執政官は、しかし自身の思いとは
裏腹な気配を感じると、寂しそうに窓辺に佇むミラディアの後姿を見とめ、どうしたのかと心配そうに
声をかけたのだった。

そんな父の問いかけにミラディアは、無理に笑顔を作ると、「いいえ、お父様。なんでもありませんわ。
ただ、このところの毎日の講義に少し疲れただけですわ。」と、明るく答えたのだった。

 こうして、カサレス王子との距離が一向に縮まらない関係に、それぞれが思い悩んでいたある日のこと。
フリュースはその日、王子に対する苛立ちを自身の槍に乗せ、カサレス王子と槍の手合わせを
していたのだった。

いつもは、王子の目線をこちらに向かせようとするかの様な、フリュースの少し強引な力強い槍先を、
静かにギリギリでかわすカサレス王子。

しかしその日はローラインの来る日であり、カサレス王子は早く槍の手合わせを終えて、ローラインの
元に行こうと、ふと気をそらせたその時であった。

次ぎの瞬間、カサレス王子の左腕をフリュースの槍先が捉えた。
「うっ。」フリュースの槍はカサレス王子の衣服を破き、そのまま王子の腕をするどく、傷つけて
しまったのだった。

 フリュースの槍の勢いに押され、勢いよく後ろに倒れ込むカサレス王子。
「きゃ~。」ミラディアが叫ぶと、二人の槍を少し離れた所で見ていたアーキレイが、誰よりもすぐに
王子の元に駆けつけた。

フリュースをはじめ、その場にいたみんなに緊張が走った。
「大丈夫ですか?カサレス王子。」すぐにカサレス王子の左腕を取って、その傷口を心配そうに見た
アーキレイ。

「王子・・・。」フリュースは自分の槍が王子を傷つけた事に動揺した。
そして皆も心配して駆け寄り、王子を覗き込んだのだったが、カサレス王子は、何でもないという様に
周りの者に声をかけたのだった。

「フリュース、皆さん。心配はいりません。私が少し不注意でした。」
そう言うとカサレス王子は、アーキレイにテレパシーで、(さあ、アーキレイ。今日はもうこの位でいいでしょう。
私はそろそろ部屋に戻りたいのです。)

そうして、心配そうに王子の傷口を見るアーキレイの手を、静かに振りほどいたのだった。
そして血が出ている腕を押えながら王子は、ゆっくりと立ち上がると皆の顔を見渡しながら、
「それでは皆さん、今日のところはこれで失礼いたします。」と言うと、王子を心配する一同にすぐに
背中を向けたのだった。

そうして他の者が一切立ち入る事の出来ない、王家の領域に一人帰っていったのだった。

 カサレス王子が自身の部屋に戻ると、アーキレイも王子の部屋に続けて入り、破れた衣服を脱がせて、
王子の腕の治療をしたのだった。

 細い何本もの金属で、流麗な装飾が施されている椅子に腰を掛けた王子は、アーキレイが傷の手当を
している時も、視線を合わそうともせず、ずっと遠くを見て、何も言葉を発しないでいた。

そんな王子に向かって、テレパシーで、(カサレス王子、どうかされましたか?)と静かに聞いたアーキレイ。

 しかし、そんなアーキレイの質問にも、カサレス王子は返事を返さずに、ただそこには、重い沈黙だけが
横たわっていたのであった。

そうして、カサレス王子の傷の手当てが終わると、アーキレイは静かに、「カサレス王子、傷の手当てが
終わりました。」と言って立ち上がり、一礼してそのまま王子の部屋を出ようとしたのであった。

 そんなアーキレイの背中にむかってカサレス王子は、「すまない・・・、アーキレイ。」とようやく一言だけ、
小さく口にしたのだった。

そんな、何か悲しみを含むカサレス王子の言葉に、「いいえ。」と、静かに答えると、アーキレイは
うつむきながら、王子の部屋を寂しく後にしたのであった。

 そうして、廊下に出たアーキレイは、一人思案にくれたのだった。
(カサレス王子・・・。夕べから少し、今までとは違う気配を王子から感じるのだが、もうすぐ王子の成人の
儀式が近づいている。その事に関係しているのだろうか?それに、王子はずっと以前から、誰にも
打ち明け様とはしない何か秘めた思いを一人で抱えておられる。そんな思いをあるいは、私に打ち明けては
くれないだろうかと思った事もあったが・・・。どうしても私では王子に近づくことができない。)そう思うと、
自分のふがいなさを悔しく思うアーキレイなのであった。(しかし、ローライン様なら、王子のお心をお察し
できるかもしれない・・・。今はローライン様を早くお迎えに上がらなければ。私にできる事と言えば、ただそれ
くらいだろう。)そう思いながら、急ぎ足で城の中庭に出たアーキレイなのであった。

しかし、アーキレイが中庭に姿を現すと、そこにはまだ、暗い顔をして心配そうに立っている、フリュースの
姿があったのだった。

「フリュース殿・・・。まだいらっしゃったのですか?」アーキレイがそう聞きながらフリュースに近づくと、
青白い顔をしながらフリュースはこう聞いたのだった。

「アーキレイ殿。カサレス王子の傷の具合はいかがですか?王子のご様子は・・・?」
重たい口調で、ようやく聞いたフリュース。

 すらっと伸びたしなやかで大きな身体。いつも堂々と自信にみなぎっている姿が、今は小さく心細く見える。
そんなフリュースの姿にアーキレイは、心配をかけない様にと明るく、こう答えたのだった。
「大丈夫ですよ。フリュース殿。大した傷ではありませんでしたので、ご心配はいりません。
さあ、フリュース殿ももう、ご自身の部屋に戻ってください。」そう明るくフリュースに告げると、アーキレイは
ローラインを迎えに行く為、急いでその場を離れようとしたのだった。

 しかし、そんなアーキレイの様子にフリュースは、この、王子に信頼を置かれている第一の従者にさえ、
自分が距離を置かれているように思い、先程より一層青白い顔でこう言ったのだった。

「あなたは、いつも一番カサレス王子の傍にいる方なので、王子のご様子がよくお分かりだと思います。
しかし・・・、カサレス王子を守る様集まった我々は、今も王子のお考えが解らず、未だに王子のお心に
近づくことができません。なんでもいいのです。王子の事をもっとお聞きする事はできないでしょうか・・・?」
そう思い詰めた様に、アーキレイに言うのだった。

 アーキレイは、そんなフリュースの言葉に驚いて、じっとフリュースの瞳を見つめたのだった。

 アーキレイの思いは、全く逆だった。
アーキレイは、自分はただの王子の従者に過ぎず、ましてや自身に何も語ろうとしない王子との距離に、
いま目の前で、王子との縮まらない距離を告白しているフリュースよりも、自分こそがもっと遠くにいると
思っていた自分とフリュースの姿を、この時初めて、重ね合わせて見たのだった。

(フリュース殿は、私よりもご自分の方が王子の遠くにいると思っていたのか?)

カサレス王子の、新しき近衛を集めるという話を聞いた時、アーキレイは自分も試験を受けて、
カサレス王子の近衛として、もっと傍につきたいと思っていたのだった。

が・・・しかし、自身の何か人より優れたものを持っていない事に、自分は王子にとって、ただの従者の
位置で留まる事しかない、という思いでいたのであった。

そして何事かに秀で、カサレス王子の近衛となるべくして新しく集まった者達を、一人離れて、寂しく、
眩しくその姿を見ていたのだった。

そんな風に見ていたアーキレイに、眩しく、輝く様な力強さをもったフリュースの、しかし、そんな思いとは
裏腹な、自分と似た思いを持っている姿にアーキレイは、どう言っていいのか戸惑ったのであった。

「フリュース殿・・・。」
そう言ったきり戸惑い、何も言えずに立っているアーキレイの姿に、フリュースは小さく苦笑すると、
「そうですね・・・。失礼いたしました。ずっと王子のお側にいたあなたから見たら、私ごときは外部の者。」
と言うとうつむいて、「王子がご無事なら、それでいいのです。お引き止めして申し訳ありませんでした。」
と言うと、アーキレイの言葉を待たずに、すぐに背を向け王の中庭を後にしたのだった。

 王の城の中庭に、一人取り残されたアーキレイ。 
しかし、そうして立ち尽くす今のアーキレイには、どうする事も出来ずにいたのだった。

(今は、ローライン様を早くお迎えに上がる事だけが、唯一私にできる事。)そう心にそう思うと、
エグランティーヌの色に染まっていく雲の間をすり抜けて、第二の島にあるローラインの家に急ぎ
向かったのだった。

 そうしてそんな気持ちのまま、ローラインの家の前に立ったアーキレイが、ドアをノックしようとした時。
ドアが突然開いて、ローラインが椅子を押しながら出てきたのだった。  

そして、驚くアーキレイに向かって、ローラインは、「あら、アーキレイ様。今日はどうされたのですか?
こんなに気持ちのいい晴れやかな風が吹いているというのに、アーキレイ様の周りだけ、まるで湿った
くもり空のようだわ。」と言うと、春の日差しの様に明るくほほ笑んだのだった。

 そんな、暖かな春風の様なローラインの声とほほ笑みを向けられて、アーキレイは、ようやく笑顔を
思い出すと、先程まで固くなっていた肩の力を抜いたのだった。

そして、「ローライン様、ごきげんよう。すみませぬ、つい暗い空気を身に纏ったまま、こちらに来て
しまいました。」少しはにかむようにして、そう告げるアーキレイの気配に、何かを感じとったローラインは、
彼女の耳元で囁く風の言葉を受け取ると、「まあ、カサレス王子はダメね。あなた様にそのような顔を
させるなんて。」と、笑いながらそう言ったのだった。

 そして、そんなローラインの言葉に、少し戸惑っているアーキレイに向かって、ローラインは気づかない
ふりをしながら、「さあ、そんな王子のところに、今日も連れて行ってくださいませね、アーキレイ様?」
と言うと、アーキレイの腕を待つように、ローラインは腕を伸ばしたのだった。

 それからアーキレイがローラインを抱えて、王の城に向かって飛び立とうとした時、ローラインは
アーキレイの胸に自身の右手をそっと置くと、自身の石にこう言ったのだった。

「私の天上のよろこびよ。どうぞ、この方の胸の中にある悲しみに、喜びの心を思いださせてくださいな。」
と言ったのだった。

 その言葉を受けて、ローラインの右手に宿る石が輝きだすと、アーキレイは自身の心の中から、
優しく温かな思いが広がってくる感覚を、ゆっくりと感じたのだった。

「ローライン様。ありがとうございます。」短くそう言うアーキレイに、ローラインは、アーキレイの顔を
下から見上げながら、こう言ったのだった。

「ごめんなさい、アーキレイ様。カサレス王子は・・・、なにか私達には思いもよらない程の固い決意を、
持っているようなのです。でもそこへは、私にもどうしても近づけさせてはくれないのです。」そう言うと
し寂しげに「そう、どなたか王子のお心を、お支えできる方が現れれば、いいのでしょうけど。」と言う
ローラインは、遠くの雲を少し切ない思いで、見つめたのだった。

 ローラインの最後の言葉にアーキレイは驚いて、「そんな、ローライン様がお側にいらっしゃるでは
ありませんか?」と、ローラインに言ったのだった。

そんな意外そうに言うアーキレイの言葉に、今度はローラインが驚いて、アーキレイをじっと
見つめたのだった。

それから、ゆっくりと首を横に振りながら短く笑うと、少し間を置いてから寂しそうに、こう言ったのだった。

「いやだわ、アーキレイ様。私は、カサレス王子のお心をほんの少しだけ、軽くすることは出来ても、
カサレス王子に寄り添う事は、私のこの身では、出来ないでしょう・・・?」

いつもの屈託のない、少し幼い様な表情とは明らかに違う、そこには確かに、一人の少女の姿が
あったのだった。




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by maarenca | 2014-11-15 19:57 | ファンタジー小説