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THE SIX ELEMENTS STORY No44










THE SIX ELEMENTS STORY




No44



                                 著  水望月 飛翔




 それから、アーキレイはローラインの家へ送り届ける為に飛び立ったのだったが、
小さな気配を感じ、ふと下を見たのだった。
そして、王の庭を走り去る小さな悲しみを一つ、そこに見つけたのだった。

(ミラディア殿・・・?)

 そう、今宵の少女の悲しみを、ただ王子の従者アーキレイだけが、一人目撃したのであった。
(ミラディア殿・・・。大丈夫だろうか?)アーキレイは、可憐な胸を痛めているであろうミラディアを
心配しながら、ローラインを送り届けるため、第二の島まで飛んでいったのだった。

 そんなアーキレイのさびしげな鼓動を感じ取ったローラインは、「私の右手に宿る愛しい石よ。
天井の喜びをこの方の悲しみに届けておくれ。」と言うとローラインは、アーキレイの胸にそっと手を置き、
自身の石に言ったのだった。

「ローライン様?」アーキレイは驚いてローラインを覗き込んだのだったが、最初は困ったように
覗き込んでいた表情が、少しずつ暖かな頬笑みへと変わっていくのを、ローラインはうれしく
見つめたのだった。

「ローライン様、ありがとうございます。あなた様には、隠し事はできないですね。」と言うと、
アーキレイは(石の力を使わずとも、きっとこのローライン様の人を思う気持ちが、カサレス王子の心に、
より響くのだろう。どうか、お二人が幸せな道を歩まれますように。)と、そっとアーキレイは願ったのだった。

 「カサレス王子。」ちょうどその頃、自身の部屋に戻り、ベッドに身を沈めたミラディアは、彼女の純白の
心が悲しみの色に染まるのを感じたのだった。

 そしてその夜一晩中、いつまでも声を潜めて、悲しく泣いていたミラディアなのであった。

 こうして、それぞれの思いを胸に秘めながら、それでも日々つつがなく時は過ぎ、そうして王子は
もうすぐ成人の儀式を迎えようとしていたのであった。

 その日もカサレス王子は、フリュース・リュードと槍を交えてから、ミランディア・カランダムや
ストー・リマック等と共に、会議室で空の領土の執政に関わる講義を受けていたのであった。

 その頃フリュース・リュードは、王の城の中庭に寝転びながら、傍らに座るラフェール・イシレーと、高い所に
漂う雲をじっと見つめていたのだった。

「なあ、ラフェール。そなたはカサレス王子の事をどう思う?」
フリュースの突然の問いかけに、ラフェールはゆっくりとフリュースの顔を見つめたのだった。

 それからしばらく間を置いてから、静かにこう答えたのだった。
「そうですね。僕は、カサレス王子の事がとても好きなのですが。どうも王子は僕たちの事を、
あまり気には留めていないようですね。」心地よい風にその身をあずけながら、淡々と答えるラフェール。

 
  ラフェール・イシレー。
彼は髪の毛から、彼の滑らかな肌からすべてが、白一色で統一されており、その一片の翳りの無い姿と同様、
彼の意識は常に天上界に向かっていたのだった。

 そして生まれたばかりの彼は、第四の島の「慈しみの礼拝堂」に置き去りに
されていた事もあり、その彼の出生と相まって、まるで「天上界の落とし児」と、人々に思われて
いたのだった。

 そう彼は、いつも風と会話をしており、また天上の父との交信をたびたびできる存在でもあった為、
そんな彼を、タリオス王も一目置いていたのであった。

 そんなラフェールが言った言葉にフリュースは、自身がずっと感じていた、しかし、そんな断片を
表に出す事を恐れていた言葉を示されて、愕然としたのだった。先ほどから押し黙ったまま返事のない
フリュースに、ラフェールはどうしたのか、と聞いたのだった。

 フリュース・リュードは、痛いところを冷静に聞いてくる、自身よりも年下で、ずっと小柄な身体の
ラフェールに対し、彼自身もどう答えていいのかわからなかったのであった。

 そんな言葉に詰まるフリュースにラフェールは、静かにこう続けたのだった。
「フリュース殿。人の心は皆そう単純にはいきませぬ・・・。王子の悲しみ、王子のよろこびが
いったい何なのか、僕たちには簡単には解らないでしょう。本当に王子が心から僕たちを信頼してくれて、
本当に心に思う事を打ち明けてくれない限りは。」そこまで言うと、小さくほほ笑んだのだった。
 そして、「そう、あなたの苛立ちの様にね。あなたの苛立ちも、かなり複雑なようですね。」と言うと、
フリュースを真っ直ぐに見つめたのだった。

 フリュースは自身の内面を見透かすこの少年に、何も言い返せずただ見つめ返した。
そして、驚きながら静かに(ラフェール・イシレー。さすがこの者、天上の落とし児と言われるだけの
事はあるな・・・。)と、フリュースが心の中でそう呟くと、ラフェールは「いいえ、僕は天上の者ではありません。
皆さんと同じ、ただこの空の領土に住む者ですよ。」と言うと、にっこりとフリュースにほほ笑んだのだった。

 そう言うラフェールの髪を、優しい一陣の風が吹き抜けていった。
そんな風のささやきに静かに身を預けると、ラフェールはそれからしばらくして、ゆっくりと立ち上がり、
フリュースを見つめながら、こう言ったのだった。

「さあ、僕はそろそろ退出いたしましょう。あなたには少し、ご自分のお気持ちを見つめる必要が
あるようですね。大好きな気持ちと、歯がゆい気持ち・・・。それが混ざって、苛立ちとなる・・・。」

 そう言うと目を閉じて風を全身で受けながら、またフリュースの目を見つめると、
「そう、風たちが言っております。」とにっこりとほほ笑んだのだった。

 そうして一人残されたフリュースは、寝転んでいた身体を起こすと、静かに自身の考えに耽ったのだった。

(カサレス王子・・・。私は、王子が私の存在を知るずっと以前より、王子の事をずっと見詰めておりました。
まだ幼き王子のお姿は、しかし、もう既に王たる品格を備えており、私はそのお姿が眩しく、いつかは
王子のお側で、お仕えしたいと思うようになったのです。だからこそ、この度の招集は、天にも昇る
うれしさでした。しかし、王子と席を同じくする様になってからも、その距離は一向に縮まってはおりませぬ。
王子・・・。私の熱き槍も、目を合わせる事なくいつも冷静にかわされて。貴方様の思いは一体何処に
向かわれているのでしょうか?われらの思いはあなた様に届く事はないのでしょうか?カサレス王子・・・。)

 フリュースは、あれほど自身が焦がれた位置に、今こうして立っているにも関わらず、自身の思いとは
裏腹に、一向にカサレス王子の視線が自分に合わないことに、苛立ちを覚えていたのだった。

 優しい風が先ほどから頬をなでていくのであったが、しかし、今のフリュースには風の優しさは
届かないのであった。

 一方その頃、カサレス王子と、ミラディア、それからストーの三人は、ようやく空の領土の秩序についての
講義を終えると、それらについて少し話をしたのだった。そして儀礼的に一通りの議論も終わり、
自室に戻ろうと席を立とうとしていた王子の後ろ姿にミラディアは、遠慮がちに声をかけてきたのだった。

「あの・・、カサレス王子。やはりこの空の領土の秩序は素晴らしいものですね。ここまで整然と整われた
タリオス王やこれまでの王の偉大さを、わたくしは改めて、今日感じましたわ・・・。」そう王子に声を
かけたのだった。

 しかし、そんな言葉にカサレス王子は、ミラディアの方に振り向くと、静かにこう言ったのだった。
「なるほど・・・。あなたはその様に感じているのですね。整った均衡・・。その方角から捉えれば、
この空の領土程、整然とされている領土は他にはないでしょう。」そう言うと王子は、少し間を置いてから、
こう続けたのだった。

「しかし・・ミラディア殿、私の目からは少しあなたとは違う面が見受けられるのです。自由にこの城のある
第五の島に、空の人々が足を踏み入れられない事に、私は少し違和感を持っております。
それに・・、成人の儀式に失敗した者達のその後を、今まで誰も議論してこなかった。その事にも私はずっと、
腑に落ちない気持ちでいるのです。あなたはそれらをどう感じておられますか?」
そんな思いもよらない質問を、真っ直ぐにミラディアを見つめながら投げかけてくるカサレス王子の問いに、
ミラディアは困ってうつむいたのだった。

「カサレス王子・・。申し訳ありません。わたくしには、その様な事、今まで考えもおよびませんでしたわ・・・。」
ようやくその言葉だけを口に出来た、ミラディアは、そう言うと身を固くして下を向いたのだった。

 そんなミラディアの姿に、カサレス王子は寂しく微笑むと、申し訳なさそうにこうミラディアに言ったのだった。

「申し訳ありません、ミラディア。あなたはまだこの城への出入りを許される様になってから、何年も
経っていないというのに。それに、石宿しに失敗した者の事など、この空の領土でも誰も口にしない事。
そんな事をまだ幼いあなたに聞くなんて・・・。すみませんでした、ミラディア。」

 そう謝る王子にミラディアは、カサレス王子にとって自分は、未だこれからの未来を共にする者として
ではなく、ただ幼い少女としてしか見られていない事に、ひとり傷ついたのだった。

 そんな寂しげなミラディアの心を読み取ったストー・リマックは、二人の間の冷たい空気を断ち切るかのように、
カサレス王子にこう言ったのだった。

「王子・・・。ミラディアは幼い者ではありませぬ。恐れながら、これらの講義に席を同じくしている者は、
カサレス王子をお助けするために集まった者。もちろん、その意志は私も皆も同じ思いにございます。
そんな我らの同志に対して、ただ幼き者としか見られないのでは・・・。ミラディアにおけるご信頼の無さを
口にされるは、同時に我ら皆への信頼のなさでもございます。」

 カサレス王子を真っ直ぐに見つめ、そう言うストーに、ミラディアは慌てて入り、「ストー様。その様な事を
王子に言うのはおやめ下さい。わたくしが、ただ幼い考えしか持たないだけなのですから・・。」
そうストーに向かって言うと、すぐカサレス王子の方に向き直り、ミラディアはこう言ったのだった。

「申し訳ありません、カサレス王子。わたくしが不甲斐ないばかりに。わたくし・・、もっと広くを見る様、
努力いたしますわ。」そう懸命に王子に告げ、細く白い指を懸命に固く結ぶと、また下を向いたのだった。

 カサレス王子は、口を固く結んだストーと、震える体を懸命に抑えようとたたずむミラディアの、
そんな二人に対して目を伏せ、静かにこう言ったのだった。「二人とも、申し訳ありません。
どうやら私が一番もっと多くを学ばなければならないようですね・・・。」そう遠くを見ながら言うと、
儀礼的な会釈をしながら「それではお二人とも、私はこれで。」と短く言ってカサレス王子は、二人を
残して部屋を出ていったのだった。

 そんな王子の背中を寂しく見送りながら、ストーは申し訳なさそうにミラディアに振り向くと、
こう言ったのだった。「すみません、ミラディア。私が余計な事を言ったばかりに、もっと気まずい思いを
させてしまいました。」そう謝るストーに首を横に振ると、ミラディアはただただ、今までの自身の
狭い考えを恥じたのであった。

「いいえ、ストー様。本当にわたくしが幼い考えしか持たないばかりに、王子のご信頼を得る事が
できないのですわ。わたくしがこれでは、他の皆様にもご迷惑になってしまいますわね。」そう悲しそうに
気落ちした面持ちで、ストーに言うのであった。

 王の城に集まった者達の、カサレス王子への熱い視線を感じてはいるものの、王子は、城の出入りを
許されている事に喜んで、本当の核心にまで思いがいかない若き者達に対し、王子が見ている
その目線の先の違いにどうしても、カサレス王子はその距離を感じて、自身の立つその場所に未だ、
誰も近づけることができないでいたのであった。

 カサレス王子は、こうして集った新しい仲間達に、未だ王子の心の内を打ち明けることができずに、
彼らのいろいろな思いは、まだ交わる先を見いだせないでいたのだった・・・。




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by maarenca | 2014-11-12 18:54 | ファンタジー小説