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THE SIX ELEMENTS STORY No43







THE SIX ELEMENTS STORY




No43




                                       著 水望月 飛翔


そして王の部屋の前に着くと、カサレス王子は一呼吸すると、「父上、入ります。」と言いながら、
神妙な面持ちで王の部屋に入ったのだった。

するとそこには、先程からカサレス王子を、タリオス王とランダス執政官が二人で待ち構えていたのであった。
 カサレス王子は何事かと思い、少し身を固くしたのであったが、タリオス王はいつもより少し微笑みを持って、
王子を出迎えたのだった。

「カサレス王子よ。先ほどの皆との対面、誠に素晴らしかったぞ。そなたは、強い意志の面持ちでは無いが、
そなたの持つ品格は何か、天をも味方に着けそうなものを備えておるようじゃ。」と王子に声をかけたのだった。

 そんな王の言葉を引き取って、ランダス執政官も嬉しそうに、「そうですね、
カサレス王子。あなた様の王子としてのお振舞、誠にご立派にございます。そして、我が娘のミラディアを
お認めいただき、わたくしも本当に心よりうれしく存じます。」と言うと、カサレス王子に深々と頭を下げたの
だった。
 カサレス王子は、そんな二人の言葉を半分うわの空に聞き、抑揚のない声でこう答えたのだった。
「いいえ父上、ランダス執政官。わたくしは、未だ何も持たぬ者。この様に何もこの空の領土の力になれず、
ただ小さき存在の者にございます。わたくしはただ、この領土の全ての人々の幸せを願うだけにございます。」
そう答えるとカサレス王子は、ローラインの姿とキュリアスの姿を思い浮かべて、遠い目をしたのだった。

 しかし、そんな王子の心の内を知らず、タリオス王とランダス執政官は、王子の謙虚なる言葉に、
大いに感心したのであった。

 それからタリオス王は王子にこう告げたのだった。
「カサレス王子よ。このランダス執政官の娘ミラディアは、そなたより年が下なれど、かの者の
聡明なる知識はすばらしきもの。どうかミラディアに目をかけてやってくれ。いずれそなたの力になるで
あろうからのう。」と王子に言ったのだった。

 ちょうどその時、王子は王子を待つローラインの事に考えを向けており、王
の言葉の半分の「そなたの力になるであろうから。」と言う言葉だけを耳にしたのだった。そして、王子の
返事を待つ王とランダス執政官に向かって、王子は「はい父上。共に精進いたしまする。」と答えたのだった。

 そんな王子の言葉に二人は、また安心したように頷いたのだった。
それからカサレス王子が王の部屋を退出すると、王の部屋に残った王とランダス執政官は、また話を
続けたのだった。

「ランダス執政官よ。カサレス王子はどうやらそなたの娘ミラディアを、悪く思うてはおらぬようだの。」
と言うと、ランダス執政官は嬉しそうに王にこう答えたのだった。

「はい、タリオス王。先ほどのお言葉と言い、対面の場でのミラディアに向けてのお言葉と言い、
わたくしは本当にうれしく思います。ミラディアも、心からこの空の領土の為に尽くしたい、と申して
居りますれば、カサレス王子をお支えできます事は、わたくしにとっても、この上ない喜びにございまする。」
と、王に言ったのだった。

 王は「そうじゃの。」と言うと、心にこう呟いたのだった。
(ランダス執政官の娘ミラディアの聡明なる事は、間違いなくこの空の領土を助けていく事であろう。
そして、あの者の美しさなれば、カサレス王子の妃候補としても、申し分ない。あの二人がこれからの
空の領土を担っていければ、我が意としては何も申すことは無い。その様になればよいのじゃが。)

 そう思うタリオス王の隣で、ランダス執政官もまた、(我が娘ミラディアが、カサレス王子と共に、こ
の空の領土を継ぐ事にでもなれば、私にとってこんなにうれしいことは無い。タリオス王も、
ミラディアを認めて下さっているようだし、これでカサレス王子のお心が、ミラディアに向かわれれば
良いのだが。)と、心に思うのであった。

 さて、そんな事を思う父親達を後に残してカサレス王子は、急いでリティシア姫の部屋に向かったのだった。
「リティシア姫。ローライン?」そう言いながら姫の部屋のドアを勢いよく開けたカサレス王子であったのだが、
部屋の明かりは消えて、窓が大きく開け放たれており、部屋に掛かっている飾りの細工と、色とりどりの
薄布たちが、この部屋の主の不在に、ただ退屈そうに風に揺らめいているだけなのであった。

 カサレス王子はその暗い、人の気配の全くしない部屋を見渡すと、ゆっくりと開け放たれた窓の方に
進んだのだった。

 もうすでに、夕暮れの衣の色に変わってきた空の色を眺めて、カサレス王子は一つため息を
着いたのだった。「ローライン。もう君は帰ってしまったのだろうか?」そう小さく呟くと、残念そうに夕刻から
ゆっくりと蒼の色へと変化を見せる空を遠く眺めたのだった。
と、その時であった。そんな寂しげな王子の背中に、小さな笑い声が思いもかけずに、
聞こえてきたのであった。

 カサレス王子はゆっくりと振り向き、不思議そうに部屋のなかを見回したのだった。
ると、しばらくしてから「もう、リティシア姫ったら、ダメじゃない。王子に気づかれてしまうわ。」
と残念そうに言うローラインの声が、先程まで気落ちしていた、カサレス王子の耳に小さく届いたのだった。

 そして今度は、頬に少しの笑みを湛えてカサレス王子は、もう一度、薄暗い部屋をゆっくりと
見渡したのだった。

 すると、「お帰りなさい、王子。」と、はじけるような明るいローラインの声が、彼女を抱いている
アーキレイと共に、王子の前に現れたのだった。

王子が驚いてローラインとアーキレイを見つめていると、「お帰りなさい、にいちゃま。」とリティシア姫が、
自分の方にカサレス王子の視線を向けさせようと、一生懸命に王子の服を引っ張ったのだった。

 カサレス王子は、目線を素早く落としてリティシア姫を見つめると、まだ腑に落ちない面持ちで、
小さな妹姫を抱き上げたのだった。

 それからもう一度、ローラインとアーキレイの顔を見て、二人にこう言ったのだった。
「この部屋には、まったく人の気配が感じられなかったのだが。」と言うと、途中で気が付いた様に
アーキレイを見ながら、「アーキレイ?」と問いかけたのだった。

 そんなカサレス王子に、申し訳なさそうにアーキレイはこう言ったのだった。
「申し訳ありませぬ、カサレス王子。お察しのとおり、私の石の力を少し使いました。」と言うアーキレイ。

 そう、アーキレイの石は「均衡を守りし力」という。
その名のとおり、周りの空気や時間を収める力を持っており、彼の右肩に収まっていたのだった。

 そして、そんなアーキレイの石の力を使い、このリティシア姫の部屋から、彼らの気配を消して
いたのであった。

 カサレス王子を前にして、困った顔をしているアーキレイの姿をみて、ローラインはあわてて
「ごめんなさい、カサレス王子。私が、アーキレイ様に頼んだの。王子がどういう顔をするのかなっ?
て思って。」と、王子の顔を覗き込みながら、少し神妙な顔で王子に言ったのだった。

 しかし、カサレス王子に抱かれて、楽しそうに微笑んでいるリティシア姫と目が合うと、ローラインは
先程までの神妙な面持ちとはうって変わって、「ふふっ。でも楽しかったわね。リティシア姫。」
と笑いをこらえながら、楽しそうにこう言ったのだった。

 そんなローラインに、リティシア姫も、「うん、たのしい。にいちゃま。こまってた。」と言って、
愛らしい笑い声をあげたのだった。

 そうして顔を見合せながらほほ笑む、ローラインとリティシア姫の姿見つめるカサレス王子は、
そんな二人に少し困った様な顔をすると、「二人にはかなわないな。」と笑ったのだった。

 それから四人は顔を見合わせると、穏やかに笑いあったのだった。

アーキレイは、そんなカサレス王子の、心を許している笑顔をみて、(ローライン様がいるだけで、
王子の心はこんなにも和らぐのか。)と、うれしくも、また自分に向ける時の表情の違いを、
少し寂しくも思うアーキレイなのであった。

 しかしアーキレイはすぐに寂しさを打ち払うと、(それでもいい。カサレス王が穏やかな時間を
過ごす表情を見られるだけで、私はこんなにも幸せな気持ちになれるのだから。)そんな事を一人、
胸に思うアーキレイなのであった。

 それからまた、ひとしきりリティシア姫の部屋で遊んだあと、カサレス王子はローラインを抱いて、
王子の部屋に向かったのだった。

「疲れたかい?ローライン。」カサレス王子が腕の中のローラインを気遣ってこう聞くと、
ローラインは首を横に振り、王子にこう言ったのだった。

「いいえ、カサレス王子。私、王子とリティシア姫にお会いする時だけは、咳も出ないで、
本当に元気になれるの。自分でも不思議なくらいにね。」と言うと、菫のような可憐なほほ笑みを
王子に向けたのだった。

 王子はそんなローラインの笑顔を見て、ホッとしたように「よかったよ、ローライン。
君が笑ってくれるだけで、僕は何故か気持ちが安らぐんだ。」と言うと、王子もまた風になびく若草のような
ほほ笑みを、優しくローラインに向けたのだった。

 しかし王子は、ふとなにかを思い出したように、少し疲れた様なため息を、一つ小さくついたのだった。

そんな王子にローラインは、「どうしたの?カサレス王子。」と心配そうに王子の顔を覗き込んだのだった。
 カサレス王子は、じっと自身をのぞき込むようにして見つめているローラインの瞳を見つめると、
気が乗らない様な声で、こう答えたのだった。

「ローライン。実は最近、僕の空の王になるべく教育が始まって、毎日いろいろ勉強させられているんだ。
それと、僕の補佐となるべき者達を、父王が広く呼び掛けて、今日初めてその者達と対面したんだよ
。皆、それぞれ素晴らしい能力を持った者達なんだけど。」と言うと、気乗りのしない、小さなため息を
ついたのだった。

 そんな王子にローラインは、「まあ、素晴らしいじゃない、カサレス王子。王子を助けてくれる仲間が
出来たってことでしょ?」と、無邪気に言うのだった。 しかしカサレス王子は、首を横に振ると、
「だけど、ローライン。僕はそんな事よりも、キュリアスに関する事を何でもいいから、調べたいんだ。
そして、少しでも早く彼の居所を見つけて、キュリアスに会いに行きたいんだよ。」

(それに、君と会う時間を今日みたいに割かれたくはないんだ。)そう最後の言葉を、胸に閉まった
カサレス王子なのであった。

「王子・・・。」自身の兄、キュリアスの事を案じる王子にローラインは、心の中で(ありがとう、カサレス王子。)
と呟いたのだった。
 
 それからローラインは、その日も王一家と共にテーブルを囲み、アーキレイに抱かれて、自身の家に
戻ろうとした時であった。

 いつもの様にローラインとの別れを惜しむカサレス王子。
そして、その姿を草陰から見つめる美しい瞳。そう、一人の少女の姿が人知れずひっそりと、
そこにあったのだった。

 それは、ランダス執政官の娘、ミラディアの姿。
ミラディアは、昼間の王子との対面の席で、カサレス王子に自分の名を呼んでもらえたことが本当にうれしく、
王の広間を後にしてから、急いで自分の居住区に戻ると、ミラディアが生まれた時に両親から贈られた、
クラスカス山の高い頂に咲いている、ミレンディラの花の花粉を入れた小瓶を王子に届けようとして、
王の城の庭まで来ていたのであった。

 ミレンディラの花の花粉。
それは、その花粉を吸った者を夢の中で、「天上の庭」に連れていく事ができると言われている、
大変貴重なものなのであった。

「よほどの時に使う様に。」
そう両親から言われていたそんな貴重なものを、それでも王子に差し上げたい、と心に思い、
夜の暗い庭を一人走ってきたミラディアなのであった。

 しかし、そんなミラディアの目の前で起きている光景は、カサレス王子を愛しく思う少女の胸には、
冷たく突き刺さる光景なのであった。

「カサレス王子。その方は・・・?」
タリオス王に王妃、そして妹リティシア姫までもが穏やかに、ローラインと談笑している姿に、ミラディアは、
自分の隠れているその場所のその距離よりも、もっと遠く小さく、自分の存在を感じていたのであった。

「じゃあローライン、また。」と言う王子の頬に、ローラインは自身の右手を添えると、
「天上のよろこび」を呼び出して、王一家の頭上に降り注いだのだった。

 そして、リティシア姫のよろこぶ姿と、アーキレイに抱かれたローラインの傍らを歩いて名残を惜しむ
カサレス王子の優しい横顔を見て、ミラディアは胸が締め付けられ、一人静かにその場を離れたのだった。



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by maarenca | 2014-11-08 13:05 | ファンタジー小説