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THE SIX ELEMENTS STORY No40







THE SIX ELEMENTS STORY





No40




                               著 水望月 飛翔

 しかし、そんな和やかな部屋を、静かに後にした一人の人物がいた。
彼だけは、少し違った気持ちを持っていたのだった。

「これは、少し事を考えねばならぬな。」ランダス執政官は、王一家のやり取りを見ていたのだったが、 
急いでこの城の彼の居住区域に戻ると、勢いよく部屋のドアを開けたのだった。 

「お父様。どうされたのです?」
普段はいつ何時でも、この城の空気を静かに撫でるように、音も立てずに動くランダス執政官なので
あったが、いつになく急いだ音を響かせて部屋に入ってきた父に、娘のミラディアは、驚いて
振り向いたのだった。

 その娘の驚きに、ようやく我に返るとランダスは、「ああ、すまないミラディア。驚かせてしまったようだね。」と、
いつもと違う父を心配そうに覗き込む、娘のミラディアに優しく言うと、少し思案顔を見せたのだった。

(私の愛しい、ミラディア。そなたはずっと幼い頃より、カサレス王子にあこがれを持って見ていたな。
そなたは一言もこの父には言わないが、しかし、今も変わらずカサレス王子の事を思っているのであろう。
私は、そなたの思いがいつの日か、王子に通じればいいと思っていたのだが。)

 ランダス執政官の娘、ミラディア・カランダム。
彼女は初めて、カサレス王子と対面したその日から、ずっとこの心優しい王子の後姿を懸命に追っていた
のだった。

 城に仕える者達はたいがい、この王の城の中に住んでおり、中央の城は王の広間と、王族の住まいと
なっており、左翼の居住区には護衛をする者達が住み、右翼に広がる居住区には、執政や学者達が
彼らの家族と共に住んでいたのだった。

 その日、カサレス王子は7歳の誕生日を迎え、他の王族の子供達や城に仕える者の子供達も
王の広間に招待され、この日はカサレス王子との正式な対面の場を与えられたのだった。

 王子は広間の中央の椅子に腰を掛けて、堂々と座っていた。
その頃すでに、カサレス王子の気品と美しさは、この空の領土でも光輝いていたのだった。
ゆったりとした佇まいで、目の前に集まった多くの人々の祝福を受けるカサレス王子。
王子が一言二言なにか話し笑みをたたえると、彼の黄金の巻き毛が揺れ、何か目に見えない煌めきが
王子を祝福しているようであった。

 そして、集まった物の中から王家に近しい物たちの子息令嬢が、一人一人順番に名を呼ばれ、
王子の元に祝辞と挨拶に出向いたのだったが、当時まだ5歳のミラディアは、父の期待と初めて
足を踏み入れた王の広間の立派な空間に圧倒されて、不安と緊張で、その場に立っているのが
やっとの状態だったのだった。

 そして、とうとう自身の名が呼ばれると、ミラディアはあまりの緊張に、ただわけも解らぬまま
カサレス王子の前に立ったのだった。

 それからミラディアは、懸命にお辞儀をしたのだったが、しかし、一生懸命覚えてきた祝いの言葉が
一言も出てこず、ただ唇をかんで、今にも泣きだしそうになったのだった。

 そんなミラディアにカサレス王子は、にっこりとほほ笑むと、「ランダス執政官の娘さんのミラディアだね。
君のお父様にいつも僕は助けられているんだよ。君の髪の髪飾りは素敵だね。その花は、クラスカス山に
咲く「純白の心」を宿す、ミレンディラだね。君の名はそこからとったのかな。」と言って、
(大丈夫だよ、落ち着いてミラディア。君は立派に立っているからね。)とテレパシーを送ったのだった。

 それから、一言も発せずにいたミラディアに向かって王子は、先ほどよりも
大きな声で、「ああ、祝いの言葉ありがとうミラディア。本当にうれしいよ。そうだね。
また今度ゆっくり会いましょう。」と言うと、ランダス執政官の方を向いて、「ランダス執政官殿。
ミラディア嬢からの祝いの言葉ありがとうございます。しかし、彼女は少し具合が良くないようです。
どうぞ、そのまま休ませてあげてください。」と言って、ランダス執政官をミラディアに向かわせたのだった。

 ランダス執政は、カサレス王子の言葉に驚いて娘に急いで近づくと、心配そうにミラディアの顔を
のぞきこみ、「大丈夫かい。ミラディア?」と声をかけたのだった。

 しかし、そんな父にミラディアは、自分が祝いの言葉一つ言えなかった不甲斐なさに泣きそうになり、
「ごめんなさい。お父様。」とようやく小さな声で呟いたのだった。そして、父に肩を抱かれながら、
退出していくミラディアの後姿にカサレス王子は、「ありがとう、ミラディア。また会いましょう。」と言って、
笑顔を向けたのだった。

 そんな王子の元を後にしてミラディアは、その夜、熱を出して寝込んだのだった。
心配する両親の看護を受けながら、たびたび脳裏に思い出すカサレス王子の優しい笑顔が、
こうしてその後もずっとミラディアの心に住み着いていったのだった。
 
 それからのミラディアは、幼いながらに何をするにも一生懸命に、物事をこなしていったのだった。

それは、いつかまたカサレス王子に会う時の為に。

 それから、いつの事だっただろう。
カサレス王子が、そっと城から抜け出して、第二の島の礼拝堂へ行こうとした時の事だった。

 その頃カサレス王子の元に着いたばかりの、第一の従者アーキレイの目を逃れて、カサレス王子は
そっと王族の住む中央の塔から抜け出し、ミラディアの住む居住区に入り込んだのだった。

「王子。カサレス王子。どちらにおられるのですか?」
アーキレイは成人の儀式を終えたばかりでまだ若く、初めて着く王族の、まして後を継ぐカサレス王子に
対しても、まだどのように接していいのかわからず、遠慮をしていたのだったが、そんなアーキレイを
翻弄するように、王子はたびたび城を抜け出していたのだった。

 その日も執政官対たちの居住区まではうまく、アーキレイから逃げおおせた王子だったが、
そこから一番右端の城壁を飛び越えようとした時であった。

 勢いをつけて飛ぼうとした時に、その前に突然現れたミラディアとぶつかりそうになったのだった。
「あぶない。」カサレス王子は、とっさにミラディアを避けたのだったが、そのせいで勢いよく、
翼を壁に打ち付けて地面に倒れ込んだのだった。

 声を出さずに、痛みをこらえるカサレス王子に、ミラディアは心配して王子の元に駆け寄ったのだった。
「だいじょうぶですか?カサレス王子。」ミラディアは久しぶりに会う王子との出会いがこんな形で来ようとは、
胸の鼓動をドキドキさせながら、王子に声をかけたのだった。

 王子は、自身の名前を呼ぶ少女に、最初は誰だか思い出せないでいたのだったが、心配そうに
覗き込むミラディアの顔に、青ざめて立ち尽くす幼い少女の面影を思い出したのだった。

 それからカサレス王子はゆっくりと身体を起こすと、「やあ、ミラディア。元気そうだね。」
と声をかけたのだった。

 最初の対面の日からその後、王子の誕生日の日には挨拶をしていたのだったが、その他では
王子と話をすることは、なかなかできないでいたミラディア。

 ミラディアはドキドキしながら、王子の傍に座ると、恐る恐る王子の翼に目をやったのだったが、
そんなミラディアをまた、王子は優しく見つめたのだった。「大丈夫、心配しないで、ミラディア。」
そうカサレス王子が声をかけると、ミラディアは、うつむきながら王子にこう言ったのだった。

「カサレス王子。ごめんなさい、私、急に飛び出して。あの、本当にお怪我はありませんか?」
と、心配そうに聞いたのだった。

 そんな、申し訳なさそうに言うミラディアに王子は、ほほ笑みながら、「本当に大丈夫だよ、ミラディア。
僕の方こそ、君を驚かせてしまってすまない。」

 そう謝ると、先程まで遠くに聞こえていたアーキレイの声が急に近くで聞こえて、カサレス王子は
とっさにミラディアを自分の方に引き寄せると、二人で草陰に身を隠したのだった。

 そんな、王子の近くに引き寄せられたミラディアは、波打つ鼓動を必死で抑えようとしたのだった。
そうして、しばらく静かに身を隠していると、アーキレイはもっと奥の方を探そうと、王子たちの近くから
場所を変えて移動したのだった。

 アーキレイが二人から離れていった気配を確認すると、王子はミラディアに小さな声でこう言ったのだった。

「ミラディア。僕はこれからいかなければいけない所があるんだ。それじゃ、またね。」と言って立ち上がると、
カサレス王子はその場を離れ様としたのだったが、そんな王子の後ろ姿に、ミラディアは素早く
こう言ったのだった。

「カサレス王子。あの。もし、この城から出られるのでしたら、この壁のもっと東側に、小さな抜け穴が
あります。そちらを通って行かれてはどうですか?」遠慮がちではあるが、そう進言するミラディアに、
カサレス王子は振り向いて、「それは素晴らしいね。ミラディア、ありがとう。」と嬉しそうに言ったのだった。

 それからミラディアは、その抜け穴までカサレス王子を案内したのだった。

やがてその場所に着くと、確かに小さな穴が開いており、ここなら他の者に気づかれなく、
通れそうなのであった。

 カサレス王子はミラディアの方に振りかえると、「ありがとう、ミラディア。それじゃ。」と短く
声をかけて穴をくぐると、急いで飛んでいったのだった。

そうこの時のカサレス王子の頭には、ローラインと会う事だけが大きく支配しており、この時も、
その約束の時間に遅れてしまう事だけに、気を取られていたのであった。

 しかし、そんなカサレス王子の後姿を、ただ今日会えたこの小さな偶然がうれしく、心に残った
ミラディアなのであった。

 そしてそれからは、いつ王子がここを通るのか気にしていたミラディアであったが、満月の次の日に
カサレス王子が必ずこの抜け穴を通る事に気がつくと、その姿を一目見ようと遠くから見つめる
ミラディアなのだった。

 そんな娘の、王子への思いに気づいていたランダス執政官は、我が娘の気持ちがいつしか
カサレス王子に届くことを、父として願っていったのだった。

 しかし今日の王子の告白で、今までずっと、ローラインに会いに行っていた事と、先ほどまで、
ローラインと一緒にテーブルに着いた王をはじめ、王妃、リティシア姫までもが、楽しそうにしている
姿を目の当たりにして、父としてのランダス執政官は、娘の悲しみを思うと、その場に居続ける事が
できなかったのだった。

 そんな父の心を知らずミラディアは、心配そうに父の顔を見つめると、「お父様、どうされたのです?
お加減でもお悪いのですか?」と聞いたのだった。

 そうミラディアは、本当に「純白の心」の名にふさわしい、心優しい少女なのであった。

 さて一方、楽しいひとときを送った王一家は、いつまでも帰ってこないローラインの事を、
心配しているだろう母の元にローラインを見送ったのだった。

「それでは、また会いましょうね。かわいい勇者さん。」とローラインに王妃が言うと、カサレス王子に
抱かれているリティシア姫は寂しそうな顔をして、アーキレイに抱きかかえられているローラインの
衣の裾を、いつまでもつかんでいたのだった。

 そんなリティシア姫にローラインは、「リティシア姫。またお会いできるかしら?今度会う時まで、
私を忘れないでくださいね。」と言うと、自身の右手を優しく撫でて、「私の「天上のよろこび」よ。
私の大切なお友達にその光を。」と唱えたのだった。

 すると、キラキラと明るくきらめく無数の星達が、リティシア姫の前に集まり、くるくるとその頭上を
回ったのだった。

 そうして、無数の星の粉がリティシア姫に降り注がれると、光の粒の中で、姫は嬉しそうに体を揺らすと、
屈託のない明るい声をあげたのだった。

 そんな妹姫の姿を優しく見つめてカサレス王子は、「ありがとう、ローライン。」とローラインにささやくと
、ローラインは嬉しそうに王子に顔を向けて、こう言ったのだった。

「カサレス王子。私の方こそ、ありがとう。あなたが助けに来てくれなかったら、私、どうなっていたか。」
そう言うと、二人はしばし無言で見つめ合ったのだった。

 しかし、そんな二人にアーキレイが、遠慮がちに「そろそろ行きましょうか。」と間に入って言ったのだった。

カサレス王子はまだ名残惜しかったのだったが、アーキレイと後ろに控えている二人の従者の方を見ると、
「ああ、ローラインを母君の元に送ってください。」と声をかけたのだった。

 そして、王子たちに一礼をして、城を後にしようと歩き出したアーキレイに、ローラインが何やら囁くと、
カサレス王子の元にまた引き返してきたのだった。

「どうしたんだい?ローライン。」
そう不思議そうに聞くカサレス王子の耳元で、ローラインがなにやら小さく囁くと、アーキレイに向かって、
「アーキレイ様、それではお願いします。」と言って、ローラインは自身の家路に向かったのだった。

 背の高いアーキレイの後姿に、すっぽり隠れて見えないローラインであったが(またね、カサレス王子。)と、
王子にテレパシーを送ったのだった。






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by maarenca | 2014-10-29 10:55 | ファンタジー小説