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THE SIX ELEMENTS STORY No36








THE SIX ELEMENTS STORY





No36



                                     著 水望月 飛翔





 こうして「癒しの浴室」からローラインが出てくると、そこには、心配そうに待っている母と、
空の人々の姿があったのだった。
 ローラインは皆の顔をひとしきり見つめると、泣きそうになるのをこらえて、明るい笑顔で
こう言ったのだった。

「まあみんな。そんな心配そうな顔をして、いったいどうしたの?」
今朝、家を出ていった時とは明らかに違う、優しい表情で笑うローラインの顔を見ると、
皆は一様にほっとした表情を浮かべたのだった。

 そして、母はローラインに近づくと、気遣う様にこう言ったのだった。
「ローライン。大丈夫かい・・・?なにか、手伝うことは無いかい?」

 そう心配そうに覗き込む母に、ローラインはにっこり笑うと、まるでいたずらっ子の様に、
こう言ったのだった。
「じゃあ母様。私の事を抱きしめてくれない・・・?私、少し怖いから。」

 そう言うローラインであったが、しかしそんな言葉とは裏腹に、ローラインの表情は
寛いだ明るい笑顔そのものであった。

 母も集まった人々も、ローラインのうわべではない、本当に明るい笑顔を見ると、
嬉しそうに入れ替わり立ち代わり、ローラインを励まそうと抱きしめたのだった。

 しかし、それはいったいどちらが励まされた事であろう・・・。
明るく笑いあう人々の一団は、こうしてローラインを「成人の儀式」へと、見送っていったのだった。

 そうして、ローラインは自身の儀式に選んだ場所に皆と向かったのだった。
それは第二の島にあり、かつて兄のキュリアスが成人の儀式を行い、その時の閃光で廃墟と
化した「真実の礼拝堂」であった。

 しかし、キュリアスの失敗以来、人々は誰もこの半分崩れ落ちた礼拝堂で、儀式をあげようと
する者など、もちろん現れる事などなく、今日の儀式を司る司祭も、驚きを持って
この礼拝堂に来たのだった。

 司祭はこれから始まろうとする儀式を前に、最後にもう一度、ローラインに優しく聞いた。
「それでは最後に聞く。なんじローライン。そなたはこの「真実の礼拝堂」で、これから自身の
成人の儀式を執り行うが、それでほんによろしいか?もし少しでも、思いが変わったのであらば、
もちろん、他の礼拝堂に場所を移してもなんらかまわぬが。」と聞いたのだった。

 しかしローラインははっきりと美しい声で、「ありがとうございます、司祭様。でも私はこの
「真実の礼拝堂」で儀式をしたいのです。だって、この場所ならいい具合に壁が落ちているから、
この丘に吹く風たちを感じる事ができるんですもの。」そう言うと、風たちの祝福を受けて、
楽しそうににっこりほほ笑んだのだった。

 そんなローラインに、司祭も優しい笑みを浮かべると、「それでは、なんじローライン。
そなたの儀式を始めるとしよう。」と、周りの人々にも宣言する様に言ったのだった。

 そして司祭が儀式の呪文を唱え、聖典に光を出現させると、ローラインはその上に
自身の石を置き、こう言ったのだった。

「わたくしの名は、ローライン・グリュスター。この空の領土で生きる者。わたくしは自身の石に
宣言します。わたくしの愛しい石よ。私の右手に宿いしたまえ、「天上のよろこび」を持って。」
 そう宣言すると、ローラインの石から光が放たれ、ローラインを包み込んでいったのだった。
 
 そうして、明るい閃光の光の中でローラインが目を覚ますと、先程まで座っていた車輪付きの
椅子に居る自分ではなく、ふわふわと空中に漂う自身をみとめたのだった。
そして、その姿に驚きを持って周りを見回しすローライン。

「まあ、私飛んでいるのね。うれしい・・・。」
そう、ローラインの小さなみすぼらしい翼では、いままで一人で飛べたことなどなく、
この時生まれて初めて、一人で飛んでいる感覚を味わったのだった。

そうして、喜びながら周りを見回していると、ローラインの石が初めて、彼女に話しかけてきたのだった。

 ローラインの石は、ごつごつした岩石がその大部分を覆っており、小さな割れ目のその奥に、
ようやく淡いブルーの存在を確認する事ができたのであったが、そのブルーのサファイアの部分の
大きさが涙の様なかすかな粒なのか、それとも外を覆い尽くしている岩石がほんの一部で、
ほとんどをその淡いブルーの輝きが占めているものなのか、外からは全く解らなかったのであった。

 そんな姿の石が、ローラインにこう聞いたのだった。
「そなたが、私の主であるか?私は、そなたのその声をよく覚えている。私が生まれてから
眠っていたこの数年間、いつも私に歌を聞かせてくれていた。私はそなたの歌声に、いつも安らかな
眠りと共にこの時を過ごしていた。して、我が主の名はなんと言う・・?」

 そうローラインの石が聞くと、ローラインはにっこり微笑み、愛おしそうに「私の石さん。
私の名前は、ローライン。ローライン・グリュスターよ。」とヒバリのさえずりの様な声で、
自身の石にこう答えたのだった。

 そんなローラインの答えに石は、「ローライン。空のいにしえの言葉で「希望の光」。
そうか、そなたは「希望の光」か。その光がわたしにのぞむは、「天上のよろこび」であったろうか・・・?
さて、はたして天上界のよろこびが、この様な姿の私に、収まってくれるであろうか?」

 そう答える石に向かって、ローラインは明るくほほ笑むと「大丈夫よ、私の石さん。あなたなら
絶対うまくいくわ。だって、周りのみんなが応援してくれているんだもの。」と言うと、少し意味ありげに
笑ったのだった。

 そして、そっと自身の石を促すように、こう語りかけたのだった。
「ねえ、あなたにはわからない?皆が祈ってくれているこの波動を?」
そう言うとローラインは、静かに目を閉じながら、二人を包む光の外で漂っている風たちが
伝えてきた、人々の祈りの気配を感じ取っていたのであった。

 もちろん、いかなる時も、いかなる人も、他の人々の手助けを受ける事は、一切出来ぬ事・・・。

しかしローラインは、何ものをも通さぬ、成人の儀式の光の外の気配を、人々の祈りを、
いま確かに感じ取っていたのであった。

 そんな主に石は、驚いたのだった。「我が主。あなたには外の気配もわかるのですか?
しかし、私にあなたの願いを宿すほどの力があるかどうか・・・。」と口ごもり、少し間を置いてから
ローラインにこう尋ねたのだった。

「希望の光、我が主よ。あなたは自身の願いをどのように思われておいでか・・・?」
石にそう聞かれると、ローラインはにっこりほほ笑み、楽しそうにこう言ったのだった。

「ねえ、あなたも見てわかるでしょ?私の身体って、とても小さいし、それに脚だって、翼だって、
あまりきれいじゃないわ。」そう言うとくるっと一回りして、ローラインは何やら思い出したように笑い、
続けてこう言ったのだった。

「でもね、私、この身体が好きなの。自分ではあまり動けないけど、周りの皆がいつも助けてくれるの。
だからね、もし私の手の中に「天上のよろこび」が宿っていたら、その度にいつもギュッとして
皆に届ける事ができるのよ。ふふっ。それが、私の恩返し。ねえ、そう考えたら、とっても楽しくない?」 
 
 ローラインはそう考えると、もうじっといていられないという風に、楽しそうにはしゃいだのだった。

そんな主の姿を見て石は、フッと短く笑うと「我が主。あなたは本当に楽しそうですね。
私も、そんなあなたの姿を見られてうれしいです・・・。」そう言うと、少し時間を置いてから、
意を決したようにこう告げたのだった。

「わかりました、我が主。やってみましょう。私のこの小さな光が、天上からのよろこびを
受け取れますよう、どうか私にお力をお貸しください。」

 そう言うと石は、渾身の力を込めて、天上に呼びかけたのだった。

「天上に届け、我が祈りよ。そして我が主の望みを叶えたまえ。」
そう言うと、固く閉ざされた原石の割れ目から、一心に天上へと真っ直ぐに、自身の光を
伸ばしたのだった。
 二人を包む光の中から、まっすぐに天を目指すローラインの石の光。 

こうして、石はローラインの願いを受け、一心に天へと光を伸ばした。
天界を目指して真っ直ぐに進む光。

 しかし、その光は天界の高き所まで到達せず、空の途中まで来ると、ピタリと留まったまま、
それ以上進む事ができないでいたのだった。

人々は、固く閉ざした儀式の光の中から、天へと延びる光を見て、驚き見たのだった。
「ローライン・・・。」そんな中、母は心配そうにその光を見つめながら、胸がはちきれそうになるほど
、ローラインの無事を祈ったのだった。

 一方その頃、第二の島から何やら光が伸びているのを、空の城の者達も見つけると、
少しずつそのざわめきが広がっていったのだった。

 そんな気配にカサレス王子も気が着くと、その光がローラインの石の光であることを感じ取ったのだった。

「ローライン?いったい、君はどんな願いを望んだんだ・・・?」
 この空の領土での成人の儀式は、第二の島から第三、第四、空の城がある第五の島まで、
それぞれに礼拝堂があり、各々が自身の力に合わせて礼拝堂を選び、自身の「成人の儀式」を
おこなっていたのだった。

 しかしそれと同時に、礼拝堂は高さが増すごとに、儀式を行う者の力量もまた必要としていたのであった。

ましてや、天上に石の力を願い出る事は、そう容易いものではない。
それは今の空の王の「やすらぎの力」を願い出て以来、誰も天に向かって願い出た者はおらず、
もちろんかつて今まで、低い地の第二の島の礼拝堂から、天上に向けて願う者など、いなかったのであった。

 カサレス王子は鼓動の早まりを抑えて、ローラインの無事を祈った。
そしてその頃、こちらも気づいていたタリオス王も、この光がよもやか弱い少女の願いであろうとは、
この時思いもよらなかったのであった。

 遠くその光を見下ろすと王は、「ほう、第二の島の礼拝堂から、天に向かって願い出る者がおろうとは、
物好きな・・・。しかしかように豪胆な者がおろうとは、また頼もしい。ほんにその者の願いが届けばよいの。」
そう言うと、後押しをする様に見ていたのであった。

 しかし、なかなか天上を登る事ができない己の力に、やがてローラインの石は、気落ちして
こう告げたのだった。

「すみませぬ、我が主。私の力が弱いため、これ以上天を昇っては行けぬようです・・・。」
そう自身の力の弱さを口惜しがり、ようやく言葉を振りしぼる様に告げるローラインの石。

 しかし、そんな石に向かってローラインは、こう言ったのだった。

「大丈夫よ。あなたは一人じゃない、わたしもいるわ。そう、私は希望の光、ローライン。
この名のもとにあなたの為に歌うわ。」そう言うと、目を閉じて静かに「希望の詩」を歌い始めたのだった。



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by maarenca | 2014-10-15 09:45 | ファンタジー小説