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THE SIX ELEMENTS STORY No35










THE SIX ELEMENTS STORY




No35



                                        著 水望月 飛翔



 ローラインは温かい湯につかると、静かに自身の心に呼びかけたのだった。
(母様、みんな。いつも私の事を大事に思ってくれてありがとう。みんなが私に沢山の気持ちを
くれたおかげで、とうとう私にもこの日が来たわ。)そう言うと静かに目を閉じたのだった。

 そして、(でもね、私・・。これからの私は、もっと皆の役に立てる人になりたいの。
でも私の身体は全然成長しないし、すぐに咳もでて、とてもこの身体では、みんなの役に
立てられるとは思えないわ。だから私が皆にできる事。私が皆の手を借りずに、誰の迷惑にもならずに、
自分ひとりの力で立っていきたい。そうこれからは、私自身で立って生きたいの。)

 ローラインは、いつも彼女の事を心配そうに覗き込み、助けてくれる周りの人々を気遣って、
常に笑顔を浮かべ、楽しそうにしている事をいつの間にか自分に課していたのだった。

 兄のキュリアスがいた頃までは、まだ幼かった彼女は本当に自分の身体や翼が皆と同じように
成長する事を、少しの疑いも持たずに信じ、いつの日か豊かな羽根がうち揃う美しい翼をもった
自分を想像しながら、ずっと夢見てきたのだった。

 しかし、自分の大好きな兄の成人の儀式が失敗に終わり、母のあまりの嘆きの姿にいつしか、
自分が幸せになる事なんてできないのでは?と、そして、不自由な身体の私の存在が、
大好きな兄様を追い詰めていったのでは?と、少しずつその清らかな胸に、悲しみの翳りが姿を
現し始めていったのであった。

 そして、そんな彼女を心配するように、彼女に向ける人々の目の中に心配の色を見つけると、
ローラインは人々のいたわりの心の中にある憐みを見たくないがために、いつしか暗くなっていく
心とは裏腹に、幼い頃と同じように無邪気を装い、明るく振る舞うようになったのだった。

 しかし、そんな振る舞いにも時には疲れを感じる様になり、まだ無邪気に笑えた幼い頃の自分と、
もうその頃には戻れない、しかし、常に笑顔を絶やさないようにと、いつしか笑顔を演じる様になって
いったローライン。

 温かな湯と霧に包まれながら、一人きりになったローラインは「フーッ。」と、ため息をついたのだった。
しかしそこへ、そんなローラインに遥か高い天井から、誰やら話しかける声が聞こえてきたのであった。

「なにやら小さなため息が聞こえた様じゃが・・・。そこにいるのは誰じゃ?」

ローラインはすぐに、その声のする高い天井を仰ぎ見て、じっと目を凝らしたのだった。
が、最初は何の存在もその瞳では見つけられなかったのだった。

 しかし、じっとその気配のするあたりに視線を送っていると、次第にゆっくりとうごめく、
何やら半透明な物体が天井の高い所から、ローラインの方に降りてくるのを、かすかに
感じ取れたのであった。

「あなたは、誰・・・?」
ローラインはゆっくりと、少し怖れを持ってこの声の主に聞いたのだった。
この静かな問いかけにその物体は、何かを思い出そうとするかのように、こう言ったのだった。

「わたしか・・・。私は一体何者だろう?・・な。長い時間を・・、わたしは自身の名前も忘れて久しい・・・。」

 そう言うと、半透明なその物体は、相変わらずゆっくりと、そのあいまいな輪郭を動かし続けたのだった。

それから続けて、「しかし・・・、そなたの声には何か聞き覚えがあるぞ・・・。
だが・・・、何かが少し違うようだ。以前は・・、そう、もっと希望に満ちていたようだが。今はなにか、
愁いを秘めているようじゃ・・・。」

 そう言うと、何かを思い出そうと、またその身をくねらせたのだったが、その半透明な物体の身に、
黒いインクが一滴落とされたように、先程よりも少し暗い色が、ゆっくりと漂い始めたのだった。

 ローラインは、今まで見た事もないこの謎の物体に、自身の心の内を言い当てられて、
鼓動が一つ鳴ったのだった。

「あなたは、私の事を知っているの・・・?私、あなたに会ったことがあって?」ローラインは
こう聞いたのだったが、何か自身もこの物体を知っていたような、しかし、どうしても思い出せない、
なにか霧の向こうのおぼろげな記憶を、必死で探ろうとしたのであった。

 しかし、思いつこうとするとそのしっぽの名残りが、どうしても自身の手からするりと逃げてしまうような、
どうにもならないもどかしさを、強く感じていたのだった。

(知ってる・・・。私、知っているわ。あなたを。)
そう、今はたどり着けないが、記憶のもっと奥底にある確かな感触を、ローラインは少しずつ、
手繰り寄せていたのだった。

 そんなローラインの心の変化を感じたその物体は、「おお~、そうじゃ。わたしを思い出しておくれ。
わたしが何者なのかを。」と、そう言うと、またローラインの心の中を感じ取り、不思議そうに
こう言ったのだった。

「そなたは・・、なぜ希望を捨てたのだ・・・?ローライン。」思いもかけず、見知らぬその物体から
自身の名前を呼ばれたローラインは、驚いてこう聞いたのだった。

「なぜ、私の名前を知っているの?」そうローラインが聞くと、
「ローライン・・・。そなたの名前はローラインというのか。」と言うと、先程よりも少し嬉しそうな気配を持って、
またその身をくねらせたのだった。   

それからゆっくりとローラインにこう言ったのだった。
「そなたは知っておるか・・・?ローラインと言う言葉の意味を・・・。」
そう言うと、また一つ大きくその半透明な身体を、ゆったりと大きく回転させたのだった。

 ローラインが不思議そうに見ていると、また、ゆらゆらと漂いながらこう告げたのだった。
「ローライン・・。それは古い空の民の言葉で、「希望の光」と言う意味なのだよ・・・。」

「希望の光?」ローラインが小さく繰り返すと、なおもその物体は続けてこう言ったのだった。

「そう、そなたが持つ「希望の光」を私は覚えている・・・。私は本当にそなたの「希望の光」が
好きだったのだ・・・。だがどうしてだろう?その光が少しずつ小さくなってしまったのは。
そうして、わたしはだんだんと眠りについていったようだ・・・。それからわたしは、自分の名前さえ
忘れてしまった。風が・・・、そうだ。風たちがわたしの周りを吹かなくなったからだ。」そう言うと、
少し考え込んだ後、何かを思いついたように、ローラインにこう告げたのだった。

「おおそうじゃ。風たちはそなたが彼らの歌に耳を貸さなくなったと、嘆いておったな・・・。」
 この物体の言葉にローラインは、何を自分に言おうとしているのか、少しも理解できない事に、
いら立ちを覚えたのだった。

「待って、わたし・・、あなたの言っている事が全然わからないわ。風たちって、いったいなんなの?
私は、もう何も考えないただの子供じゃないわ。」ローラインは、ただ無邪気に夢見ていた幼い頃の
自分を、断ち切るかのように、そう強く言ったのだった。

 しかしその物体は、そんなローラインを、少し悲しそうに見つめ身体を震わすと、愁いを含めた声で
ローラインにこう言ったのだった。

「希望の光、ローライン。そなたには今、何が見えておる・・・?」
 そんな悲しみを含んだ言葉に、ローラインはこれまでの抑えていた感情をみせるように、怒って
その物体に自身の感情をぶつけたのだった。

「何が見えているかですって?私の目から見えているものは・・、母様や周りの皆の、
わたしを心配している目よ・・・。そう、そんな悲しそうな目しか見えないわ。わたしは・・・、
もうみんなの心配そうな目を見たくないのに・・・。だから・・、だから私はいつも笑っていたの。
 そう、たとえ笑いたくない時でも・・・。でも、もう嫌なの。私はもう、誰の手も借りずに一人で
なんでもできる様にしたいの。もう、みんなの迷惑になんかなりたくない・・。風の歌なんか知らない・・。
そんな歌、わたしは聞いた事なんかないわ。」   

 最後は語気を強めてそう言うと、ローラインは悲しそうに真っ直ぐにその物体を見つめたのだった。

「ローライン・・・。希望の光よ・・。本当に周りの者の目の中に、心配の色しか見つけられなかった
というのか・・・?本当にそなたは皆の目の中に、そなたへの憐みを見つけたとでも言うのか・・・?」
そう言うと、寂しそうに悲しい音を立てながら大きく天上を一回りしたのだった。
それから、またゆっくりと元の位置に戻って漂うと、そっとこう言ったのだった。

「希望の光。私はそなたの「希望の光」が本当にすきだった・・・。そなたはいつも明るく、楽しそうで、
そんなそなたの歌声が大好きだった・・・。人々がそなたの周りに集まるのは、ただそなたの温かな
「希望の光」に触れたいが為。ただそれだけで集まってきたのではないだろうか・・・?ローライン。
そなたを迷惑に思う者など、本当にいたのだろうか・・?そなたは人々の手を受け入れる事が
本当にもう嫌なのか?人々がそなたに近づくことはもうできないのか・・・?」

 最後は、自身がローラインに拒絶されたかの様に、悲しみを含めてこう言ったのだった。
ローラインはその悲しそうな言葉を、そっと胸の中で反復したのだった。

(みんなは私を心配して、いろいろ助けてくれていたんじゃなかったの・・・?
母様はこんな身体の私を哀れに見ていたんじゃなかったの・・・?)
そう思うと、ローラインは皆の顔をゆっくりと、思い出そうとしたのだった。

(みんな、いつも嬉しそうに笑ってた・・・。私が「ありがとう。」って言うだけで、いつも喜んでくれた・・・。
私が笑うだけで・・・。わたしが歌うだけで。みんな本当にうれしそうに、喜んでくれていたわ・・・。)

 こうして、人々の笑顔をゆっくりと思い出すとローラインは、静かに涙を流したのだった。
そんなローラインにその物体は静かに、温かくこう言ったのだった。

「ローライン・・・。希望の光。そなたが希望に満ちていた時の事を思い出してくれたかい?」
そう優しく聞かれると、ローラインは先程までとはうって変わった以前の優しい表情に戻り、
にこやかにこう答えたのだった。

「はい、思い出しました。私が人々の「希望の光」であることを。そして・・・、あなた様がこの空の守り神。
「碧き飛翔の女神」であるという事も。」

 ローラインが目の前の物体に向かってそう言うと、どこからともなく現れた風たちが、
その物体の周りを一斉に吹きぬけて、先程までの薄暗い半透明の色を拭い去り、心細そうな揺らぎを
追い払ったのだった。

 そしてその姿を、見る見るうちに美しいプラチナに輝く翼を凛と湛えた、光り輝く飛翔の女神の姿に
仕立てたのだった。

 こうして女神は、本来の姿であるその美しい顔を、ローラインに向け見下ろすと、懐かしそうに
ほほ笑み、こう言ったのだった。

「ローライン。わが希望の光よ。よう我の名を思い出してくれた。そなたの風たちも、
よく舞い戻ってきてくれたの・・・。」そう言いながら、周りを吹く風たちを嬉しそうに見つめたのだった。
風も自身の女神の覚醒を喜び、ローラインに温かく吹くと、その額に優しい歌を注いだのだった。
 ローラインは、彼らの優しい歌声を久しぶりに全身に浴びると、風たちに向かって、こう言ったのだった。

「私ったらいつの間にか、自分からあなた達の歌に耳をふさいでしまっていたのね・・・。
ごめんなさい。いつも私に歌ってくれていたのに・・・。」

 そうして周りに漂う風たちを、懐かしそうに慈しむ様にほほ笑んだのだった。
ローラインの優しい頬笑みを受けて、軽やかに晴れやかに舞う風たち。

すると、風たちの中の一番小さな風がローラインの元に近づいて、そっと小さく彼女に
耳打ちをしたのだった。

その風の言葉を聞いて、ローラインは嬉しそうに声をあげた。
「そう、兄様はご無事なのね・・・。」そう言うと、ローラインの頬に暖かな涙が流れたのだった。

「わかったわ・・・。私も人々の温かい気持ちを、これからも喜んで受け取っていくわ。
そうする事が、周りの人達に本当に喜んでもらえる事なのよね?私が、本当に心から喜んで
受け取る事が・・・。この身体に生まれたからこそ、唯一私にできる事。もう私は自分を憐れまないわ。
そして伸びやかな心ですべてを受けいれる。そうする事がまた、真の平和と美しさを備えた
「碧き飛翔の女神」であるあなたを讃えられる事なのですね?」

うれしそうに高らかに、ローラインはこの美しい女神にそう告げたのだった。
 
 女神はローラインの言葉を受け取ると、無言で頷き、真っ直ぐにローラインを見つめた。

それからしばらくして、女神は風たちから何かを囁かれると、ローラインに視線を戻して、
こう告げたのだった。
「我が娘、ローライン。そろそろそなたは成人の儀式に行かねばならぬようじゃ。しかし、案じる事は無い。
そなたならきっと、自身の信じる心を持って、そなたの石と一体となる事ができよう。さあ、お行きなさい。
皆の元に・・・。」

 そう言うと女神は両手をさっと広げると、ローラインを祝福する様に、金と銀に輝く美しい羽を
彼女の頭上に降り注いだのだった。

 ローラインはその羽を掌いっぱいに受け取ると、嬉しそうに顔に近づけてから、パーッと大きく
天上に向けて大きく撒いたのだった。

そしてローラインは、ゆっくりと浴室から出ていったのだった。




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by maarenca | 2014-10-11 12:15 | ファンタジー小説