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THE SIX ELEMENTS STORY No34






THE SIX ELEMENTS STORY No34





No34



                                    著 水望月 飛翔



「キュリアス・・。」

王子がふと彼の名前を口にすると、その瞬間、カサレス王子は我に返ったのだった。

 ローラインは少し楽になった呼吸にホッとしながら、ゆっくりと王子の方に顔を向けると、
カサレス王子は少しバツが悪そうにうつむいたのだった。

 しかし、ローラインの真っ直ぐに王子を見つめる力強い視線を感じとると、カサレス王子もまた、
ローラインの顔を見つめたのだった。

 しばしの間二人の間に言葉はなく、ただ優しい風だけが二人を暖かく包んだ。

「ローライン・・。」
王子はようやく口を開き彼女の名前を呼ぶと、ゆっくりと彼女の小さな白い手を取ったのだった。

 ローラインは王子のなすがまま、ただ静かに王子の顔を見つめていたのだったが、
やがて王子の美しいサファイアブルーの瞳から、一筋の涙がつたってきたのを見たのだった。

「カサレス王子。」ローラインは小さく王子の名前を口にすると、王子の手を両手で優しく包み、
ギュッと力を入れてカサレス王子に、にっこりと明るくほほ笑んだのだった。

 王子はそんなローラインの、自分を励まそうとする気丈な姿に、流れる涙をそのままに
王子も頷きながら、ローラインに笑顔を返したのだった。

 軽やかなアクアブルーの空の上を漂う真っ白な雲が、風に吹かれながら少しずつ歩を
進めていると、やがて柔らかなコーラルピンクの色が雲に変化の色を着せ、次第に
友情のオレンジ色の光が二人の上に温かに降り注いだのだった。

 カサレス王子とローラインは、キュリアスとの思い出を時の経つのを忘れて、語り合った。
いつまでも尽きない会話。大好きな人の記憶を話し合える喜びに満ちた笑顔。
しかしその時間は永遠ではなく、王子が城に戻らなければいけない時が来たのだった。

 しかし、王子は城に戻る前に、ローラインとある約束をした。
それはこれから、満月の夜の次の日に、またこの場所で二人で会おうというものであった。
 ローラインはこの王子の申し出に、喜んでうなずくと、城に戻っていくカサレス王子の後姿に
、大きく手を振りながら、いつまでも見送っていたのだった。

 そうして二人は、次の満月の夜をずっと待ち遠しく思う様になっていったのだった。

 最初の頃の二人は、大好きだったキュリアスの、しかし遠くはっきりとしない幼い記憶の断片を、
まるでパズルを一つ一つ繋ぎ合わせていくかの様に、埋め合わせていったのだったが、
いつしか二人の大切な人、キュリアスの話から、それぞれお互いが、満月と満月の間の会えない
時間を埋め合わせるかの様に、相手の様子や話に耳を傾ける事が多くなっていったのだった。

 そして、二人が出会ってから2年が過ぎたころ。

 その日のローラインは、いつもカサレス王子に見せる屈託のない笑顔の表情とは明らかに違う、
なにか思いつめた様にときどきため息をついては、少し怖い顔をしている事にカサレス王子は、
気づいたのだった。

 王子は、そんなローラインに、どうしたのかと尋ねたのだった。
カサレス王子の横で、足を伸ばして草の上に腰を降ろして座っていたローラインは
、ゆっくり一つ息を吐くと、意を決した様に王子を真剣に見つめて、こう言ったのだった。

「カサレス王子、あのね。実は私・・・。明日が私の16歳の誕生日なの。」そう言うとローラインは、
王子から視線をそらし、口をきゅっと固く結んで、高く空を見つめたのだった。

 カサレス王子は、このローラインの告白に驚き、「えっ?君って僕より2歳年上だったの?」
と聞いたのだった。

 しかし、明日の成人の儀式を、緊張して迎えようとしているローラインの耳に、全く考えても
みなかった事を聞くカサレス王子の言葉が届くと、ローラインは怒ったようにゆっくりと、
王子の方に向き直ったのだった。

 ローラインは最初、怒ったような顔を王子に向けたのだったが、この間の抜けたカサレス王子の質問と、
ローラインの怒っている表情に、戸惑を見せている王子の姿を見て可笑しくなり、ローラインは
いつもの様な明るい表情を見せると、つぎには明るい笑い声をあげたのだった。

 そして肩を震わせてひとしきり笑った後、目を丸くしてこちらを見ている王子に向かって、
「ええそうよ。私の方がカサレス王子より2歳お姉さんなんですからね。」と、いつもの屈託のない
笑顔でこう言ったのだった。

 カサレス王子は初めて会った時から、小さく華奢な身体で、あれから成長せず、いまだ幼い子供の様な
姿のローラインが、もうその様な年齢に達したのかと、驚きを持って見つめたのだった。

 しかしふと我に返ると、王子はローラインが明日、成人の儀式を迎えるという事の重大さに気づき、
少し心配そうにこう聞いたのだった。

「ローライン。明日が君の成人の儀式の日なんだね。何か僕に手伝えるような事は無いだろうか。
君は、その、大丈夫かい・・・?」と、先程までの表情とはうって変わって、今度は慎重に気遣う様に
一つ一つ言葉を選びながら、ゆっくりとローラインに聞くカサレス王子。

 そんなカサレス王子の問いに、ローラインはしばらく沈黙した後、王子の顔を見つめると、
今まで見せたことのないような思いつめた眼差しで、恐る恐るこう言ったのだった。

「カサレス王子。本当はわたし、少しだけ怖いの・・・。」

 そう言うとローラインは、唇を固く噛み、小さな身体をもっと小さくしたのだった。
そして、そのまま前を真っ直ぐに見つめながら、こう続けたのだった。

「でもね。わたしが元気のない顔をすると、すぐ母様が悲しそうな顔になるの
。ううん、母様だけじゃない。いつも私を気遣ってくれている周りの皆もすぐ心配そうな顔になるの。
だからわたし、頑張らないと。」  

 まるで、自身に言い聞かせるように、そう言うローラインだったが、しかしいつもの屈託のない
明るい笑顔は消え、小さく頼りなさそうに身体が小刻みに震えているのを、カサレス王子は
気づいたのだった。

「ローライン・・?」
ローラインの名を呼んで、カサレス王子がじっとローラインの事を見つめると、ローラインは
それまでずっと、一人で秘めていた悲しい感情を抑えきれず、その汚れのない美しい瞳からは
、大きな涙の粒が押し溢れてきたのだった。

「カサレス王子・・。どうしよう?もし、わたしまで失敗したら・・、母様、死んじゃうかもしれない・・。
そんなことになったら、わたし・・・。」

 ローラインはきっと、キュリアスの成人の儀式の失敗の後、ずっと悲しい思いに耐えてきた
母の姿を見て、幼いながらもこの母の事を思い、常に明るく振る舞ってきたのであろう。

 そして、周りの人々の優しい気遣いに、きっと自身の悲しみを少しでも、見せる事が出来なくなって
いったのだろう。

 明日の成人の儀式を前に、ようやくローラインは、自身の胸にずっと押し隠していた悲しみと、
対面したのだった。
 そしてカサレス王子の前で、ずっと心の奥底に眠っていた、自身の不安な思いを、打ち明ける事が
出来たのだった。

 そんな、初めて見せるローラインの不安げな姿に、カサレス王子は遠い日の自身の心細さを
なだめるかのように、ローラインを無意識のうちにゆっくりと抱きしめると、彼女の濡れた頬に
柔らかくキスをしたのだった。

 ローラインは、空の王子の身分のカサレス王子に、自分がキスをされた事に驚いて、
顔をあげたのだった。
 そんな動きを止めたローラインの頬を、そのまま王子は両手で包み込むと、ローラインに
ゆっくりとこう言ったのだった。

「泣かないで、ローライン。僕が、この僕がずっと君の傍に居るから。大丈夫、
君ならできるよ。ローライン。」真っ直ぐに見つめるカサレス王子の瞳の中に、ローラインを
勇気づける確かな思いを受け取ると、ローラインは先程までとは違う、新しい温かな涙を流したのだった。

「カサレス王子・・・。ありがとう。」
ローラインはようやくそう言うと、カサレス王子に笑顔を見せながら、溢れる涙をぬぐったのだった。

 その日の夜、カサレス王子はローラインの事が気になり、いつまでも眠りにつけないでいたのだった。
そして、そんな落ち着かない王子の波動にまだ幼いリティシア姫は、何を思ったのか、
「にいちゃまの所にいくの・・。」と言うと、無理やり従者にせがんで、王子の部屋に連れて行って
もらったのだった。

 そうしてカサレス王子は、真夜中に自身の部屋のドアをノックするこの予期せぬ、小さな来訪者に
驚いたのだったが、困ったような顔をしている従者から姫を受け取ると、そのまま王子のベッドに
連れて行ったのだった。

 そして小さなリティシア姫をそっと優しくベッドに置いて、その隣で横になり肘をつきながら
姫の顔を覗き込むと、「どうしたんだい?リティシア姫。」と優しく聞いたのだった。

 そんな兄の問いかけに、幼いリティシア姫は立ち上がると
、「にいちゃま、しんぱいしないで。いい子いい子。」と言いながら、兄の頭を優しく撫でたのだった。
まだ本当に小さなリティシア姫に、慰められるように頭を撫でられて、カサレス王子は、
最初は驚いのだったが、それから静かにほほ笑んだのだった。

 リティシア姫の優しい小さな手の感触に、カサレス王子はスーッと気持ちが穏やかになると、
それまではただただ心配に思っていたローラインの事を、強く信じる気持ちに変化させていったのだった。

 こうして、いつもの落ち着きを取り戻した兄の優しい気配にホッとしたのか、リティシア姫は
それからすぐに、兄の隣に寝転ぶと、王子の隣で幼い寝息を立て始めたリティシア姫なのであった。

 そんなあどけない姫を穏やかに見つめながら、カサレス王子は翼で姫を優しく抱くと、
自身の胸にこう言い聞かせたのだった。
「ありがとう、リティシア姫。そして、君を信じるよ。ローライン。」

 ローラインはその日、朝からずっと、緊張していたのであった。
そして、心配そうに覗き込む母と周りの人々の手伝いをすべて断り、一人第一の島の「癒しの浴室」へと
車輪を回しながら向かったのだった。

 ローラインが「癒しの浴室」の前に着くと、そこに今まで見た事の無い、真っ黒な衣を身にまとった男が、
ローラインを静かに出迎えていたのだった。

「ようこそいらっしゃいました。さあ、どうぞ中へ。」
男はそう言うと、ローラインを浴室内に招いた。
「こんな人、今までこの浴室にいたかしら?」ローラインは不思議に思ったのだったが、
すぐに自身の成人の儀式の事に気を向けると、緊張した面持ちで湯船に浸かったのだった。






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by maarenca | 2014-10-08 13:31 | ファンタジー小説