Blog|maarenca - マーレンカ

THE SIX ELEMENTS STORY No33








THE SIX ELEMENTS STORY





No33




                                         著 水望月 飛翔



 キュリアスには、年の離れた妹が一人。
彼女の名前は、ローライン・グリュスター。

 彼女は幼いながらも、とても美しい歌声とホワイトゴールドの絹糸の様な美しい髪を持ち、
また彼女のほほ笑みは周りの人々や、いやそれどころか天空の冷たく輝く星達でさえ、
その冷たい色を温かい色へと変えるほどの、愛らしさを持つ少女なのであった。

 キュリアスは、この幼い妹をそれはそれは大事に思っていた。
そして、ローラインの歌声を聴くことが、キュリアスにとっては何よりも幸せな時なのであった。

 キュリアスはいつも、目を瞑ってローラインの愛らしい歌声に耳を傾けていたのだったが、
キュリアスにとってはこの時が、いつまでも溶けない魔法であって欲しいと、何度願った事であろう・・・。

 しかしそんな思いとは裏腹に、歌の終わりとともに再び目を開けたキュリアスの視線の先には、
愛らしいローラインの笑顔と、彼女にはとても似つかわしくない、まるで干からびた枯れ枝の様な
二本の脚が、菫色の衣服の端から寂しくのぞいて見えたのだった。

 歌が終り目を開けた時、キュリアスはその脚に意識がいかないよう、すぐ視線をそらすのだったが、
横を向く時の悲しそうな瞳の色をローラインのきれいな瞳は見過ごさなかったのだった。

 そんな、悲しそうな目をする兄にローラインは、わざと少し怒ったように頬を膨らませると、
兄に向かって「兄さま、またそんな泣きそうな顔をして。私はちっとも悲しくなんかないのに。
兄さまはそんなに私の脚がおキライ?」と、無邪気に聞いたのだった。

 そんな時キュリアスは、自分よりずっと幼い妹にそう言われて、いつも慌てて
「ごめんローライン。僕もけっして君の脚が嫌いじゃないよ。ただ、ちょっとだけ、悲しくなっちゃったんだ。
ごめんよ、ローライン。」と、急いで幼い妹に謝るのだった。

 しかし、そんな済まなそうに謝る兄に向かって、ローラインは少しおどけながら、
「兄様、私は大丈夫よ。今はまだあまり外にでられないけど、でももう少し大きくなったら
私の翼だって、もっと大きくなるでしょ?そうしたら私、自由に飛んでどこへでも行っちゃうわ。
私の方が兄様よりずっと軽いから、きっと私に追いつかないわよ。」と、楽しそうに屈託なく笑うのだった。

 ローラインのそんな無邪気な姿を見て、キュリアスは必死で笑顔を作りながらも、しかし心の中では
また、新たな悲しみが湧き起ってくるのであった。

(ローライン。君の翼は君のその華奢で小さな身体と同じ様に、同い年の子供達と比べ物に
ならないくらい小さい。羽の一本一本も生気がなくみすぼらしくて。きっと君の翼も君の脚と同様に、
君の身体を自由に何処かに連れて行ってくれることは無いだろう。)と、心の中で一人さびしく
思ったのだった。

 そう、ローラインの羽はみすぼらしく、弱々しく、力のない羽は、同じ年の頃の子供たちと違って、
未だにぎこちない羽ばたきしかできないのであった。

 しかし、自身の兄がこの様な悲しい思いを持っていようとも、ローラインはいつも明るく、
「私はきっと、いつか自由に何処へでも飛んで行けるし、きっとたくさん幸せになるんだわ。」
と、一人夢を見る様に疑いなどみじんもなく、常にそう思っていたのであった。

 そしてまた、そんな前向きな気持ちをいつも胸に抱いているローラインの事を、周りの空の人々は
本当に大事に、慈しんでくれていたのだった。

 いつも咳き込むローラインは、あまり外に出られない為、ローラインの事を気遣って、いろいろな物を
持ってきてくれたり、大切にしてくれる人々の優しさと、ローラインの嬉しそうに笑う姿を見て、
キュリアスはいつしかもっと、人々の役に立ちたいと思う様になっていった。

 そしてキュリアスが14歳のとき、カサレス王子の世話係として、新しい従者を向かい入れる
御触れが領土中に出されると、キュリアスは第二の島から無謀にも、その試験に挑んだのだ。

 王の前に集まった者たちは、第三、第四の島だけでなく、城に仕える執政や学者の子息が居並ぶ中、
キュリアスは見事、空の王のお眼鏡にとまり、カサレス王子に仕えたのだった。

 厳格なる空の王がなぜ?キュリアスを選んだのだろうか・・・?

家柄や形式を大事に考えていた空の王ではあったが、人々の本質を見抜く力は誰よりもあり、
様々な試験を通してキュリアスの心の強さ、美しさを見抜くと、前例のない大抜擢をしたのであった。

 そうしてカサレス王子の元で、城に詰めるようになっていったキュリアスは、各領土から集まった
「聖なる騎士団」の長老たちの話を身近に聞く事により、彼らに憧れ、16歳の成人の儀式に
「どんな病をも治す力」を自身の石に願い、その力と共に、ローラインの病を治すだけでなく、
全領土の人々をも治す為、「聖なる騎士団」に入るという夢を、いつしか強く持っていったのだった。
 
 そんなキュリアスの石宿しが失敗してから、どれ程の時が経っただろう?
カサレス王子は、その日もこっそりと空の城を抜け出すと、キュリアスの釦を見つけたあの礼拝堂へと、
一人向かったのだった。

 カサレス王子はずっと、長年ある疑問を抱えていた。
それは、「どんな病をも治す力」を願ったキュリアスが何故失敗したのか?
何故、その様な崇高な願いを石が受け入れなかったのか?
 正しき心が挫かれる。はたしてそんな事があっていいのであろうか?
この美しい空の領土で、こんな悲しい事が、はたして起こっていいのだろうか・・?と、カサレス王子は
何度も自分の胸に問い続けたのだった。

 そう、残念ながらごく稀に、石宿しを失敗してしまう者は、この空の領土にもほかの領土でも
存在したのであった。そうして失敗した者は皆一様に、人知れぬまま、まるで霧が消え入るように、
そっと領内から消えていってしまったのだった。

 いったい彼らは何処にいってしまったのだろう?
その問いの答えは、まだ誰も、一向に得られないままなのであった。

 第二の島のひっそりとした丘に着くとカサレス王子は、今はもう、その姿を見せない友に
こう呟いたのだった。
「キュリアス・・。今年もここに来たよ。」

 王子はそう言うと、ゆっくりと目を閉じて腕を広げると、自身の周りを流れる風に、そのまま静かに
身を任せたのだった。

 そうしてしばらくの間、風の流れに耳を済ませて静かに佇む王子の頬に、いつしか一粒の涙が
伝って来た時、どこからか遠く、聞きなれぬ美しい歌声が王子の耳に届いたのだった。 

 カサレス王子の耳元に、小さく、しかし澄んだ歌声が届くと、王子は目を瞑ったまま、その歌声が
近づいてくるのを聞いたのだった。

 しかし、その美しい歌声が徐々に近づくにつれ、「ギシッ、ギシッ。」という耳障りな、何かが
こすれる様な音も一緒に近づいてきたのだった。

 カサレス王子は、(この音はいったいなんだろう・・・?)と思って聞いていたのだったが
、しばらくして涙をぬぐいながら、その歌声の方に振り向くと、まだ少し先の方から、何やら見慣れぬ
車輪の付いた動く椅子に座った少女が、王子の方に近づいてくる姿を目にしたのだった。

 その少女は、自分の方に振り返って、動きを止めてこちらを見ている王子の姿を見つけると、
王子の翼の隙間からこぼれる陽の光の眩しさと、神々しさに一瞬、「天使?」と小さくつぶやいたのだった。

 そして、車輪を動かしている両の手の動きを止めたのだったが、にっこりとほほ笑むと、
また歌いながら王子の方に近づいてきたのだった。

 王子の傍まで来たローラインは、明るく微笑みながら、「こんにちは。初めてお会いする方ですね。
お年は、私と同じ位かしら・・・?」と、まるで暖かい春の日差しにひばりが喜んで鳴くような、
美しい軽やかな声でカサレス王子に声をかけたのだった。

 王子は、穏やかな気配を持ちながらも、物怖じしない心地よい少女の問いかけに、先程まで
身を預けていた優しい風と、同じような心地よい温かさを感じ、王子もまたほほ笑みながら、
少女に向かってこう答えたのだった。

「こんにちは、初めまして。私はカサレスと言います。今年で12歳になります。
美しい声のひばりさん、あなたのお名前は?」カサレス王子の優しく優雅に滑るような物言いに、
すぐに何かを思い出した様に、少女の顔がパッと明るくなると、すかさず王子にこう聞いたのだった。

「まあ、あなたがカサレス王子ね?私はローライン。ローライン・グリュスター。ずっと前に
キュリアス兄様からあなたの事を聞いていたわ。そう、まだ私がずっと小さかった頃。覚えているわ。
兄様があなたの事をいつも話して聞かせてくれて。いつも本当に楽しそうに教えてくれたのよ。
私、ずっとお会いしたいって思っていたの。」

 そう言うと少女は、少し遠い目をしたのだったが、急に勢いよく話し出したせいか、少女の頬は
最初の頃よりも赤みを増して、瞳もキラキラと輝きだしたのだった。

 しかし次の瞬間、「ゴホッ、ゴホッ。」と激しくせき込むと、苦しそうに背中を丸めたのだった。
するとその拍子に、少女の膝の上に置かれていた布が崩れ落ち、少女の衣服の下から、
枯れ枝の様な脚があらわになったのだった。

 カサレス王子はその脚を見ると驚いて、思わず視線をそらそうと少女の翼の方に目をやったのだった。

 しかし、愛くるしい少女の笑顔に気を取られて、先程まで気づかなかったのだが、とてもこの少女の
笑顔には似つかわしくない、みすぼらしい小さな翼が寂しそうに、今度はしっかりと王子の目に
確認されたのだった。

 空の領土の民達は、あまり健康を害している者はおらず、皆それぞれ一様に美しさを保っていた。
そして、島を一つずつ登るごとにまた、美しさと思慮深さも増していったのだった。

 故に、空の王の城に仕える者達は皆美しく、ましてや身体に何か不便を生じている者を見る事など、
カサレス王子は今まで一度も無かったのであった。

 王子は少女の姿をみとめると、一瞬おどろいたのであったが、しかし、すぐ落ちた布を拾い上げると、
ゆっくりと少女の膝の上に乗せて、咳き込み苦しそうにしている少女の背中を、優しくさすったのだった。

 少女は苦しそうにしながらも、優しく背中をさすってくれている王子の方を見ると短く、「ありがとう。」
と言ったのだった。
 そんな少女に王子はほほ笑むと、「大丈夫。ゆっくり息を吸って。」と言いながら、そのまま少女の
背中をさすり続けたのだった。

(そうか・・・。彼女がキュリアスの妹のローラインか。少しだけ聞いた事があったな。歌が上手で、
髪がとても美しいんだって、キュリアスが嬉しそうに話してくれたな。そうか、彼女だったのか。)

 カサレス王子は、キュリアスが妹のローラインの事を、嬉しそうに話していた時の事を
思い出したのだった。

 そしてローラインも、ずっと自分の背中をさすってくれているカサレス王子の優しさに触れながら、
今は何処に居るやも知れぬ優しい兄の面影を、思い出していたのだった。

(キュリアス兄様。わたし、カサレス王子に会っていますよ。兄様がいつも話してくれていた様に
本当に心優しい、美しい方ね。)
 ローラインは、自身の心の中に描き出した、優しくほほ笑む兄の姿に向かって、そんな事を
話しかけていたのだった。

 そしてカサレス王子もまた、自身が描き出したキュリアスにこう話しかけていたのだった。
(キュリアス・・・。今、僕は君の大切な妹に会っているよ。彼女の美しい歌声と愛らしさは、
本当に君の言う通りだね。)

 こうしたカサレス王子の言葉に、うれしそうににっこりと頷くキュリアスの姿だったのだが、
やがて、悲しい雨に打たれたかの様に、愁いを秘めた悲しげな表情を見せると、ゆっくりと王子に
背を向けて、静かに離れていったのだった。





a0073000_9493097.jpg

[PR]
by maarenca | 2014-10-04 09:51 | ファンタジー小説