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THESIX ELEMENTS STORY No32







THE SIX ELEMENTS STORY




No32





                                    著 水望月 飛翔


左手に美しいサファイアを宿したカサレス・クレドール王子。
この美しき王子の成人の儀式は、大地の王妃に起こった悲劇より、一年前まで遡る。

 カサレス王子は幼い頃より、いつも何か思い耽るような面持ちの厳格なる父、タリオス王に対し、
時にはもっと、寛げる様な安らぎを持ってもらいたい、という思いをずっと、心の隅に持ち続けていた。

 そう、この空の領土を司りし父王タリオス王は、常にこの領土の空気の清浄を心がけ、
少しでも星達の歪みや乱れがないか、また領土の民達の生活は均衡が保たれているか、
自身の精神を集中していたのであった。

 そのためか、まだ幼いカサレス王子に対する視線も、常に王子の肩越しに視線を送るような、
まっすぐに見つめる王子の目線と交わらない寂しさを、カサレス王子は一人味わっていたのだった。

そして、カサレス王子の胸に、ずっとありつづけるもう一つの想い。

それは、カサレス王子が一生忘れる事の出来ない、幼い頃の悲しい別れの記憶。
その悲しい思いをずっと胸に収めた王子は、その事により、ある大いなる決意を
芽生えさせていたのだった。

 しかし、その理由は誰も知らず、また一切誰にも知られてはならぬ事。

この人知れぬ思いによりカサレス王子は、自身の成人の儀式に、歴代の王とは明らかに違う、
低い位置とされるその手の内に、「あらゆるものを変える力」を宿したのであった。

 そうカサレス王子は自身の固い決意の元、成人の儀式を見事成し遂げたのであった。
がしかし、王子を取り巻く周りの反応は、多くの失望と落胆が色濃く上る表情を湛えた、
静かな冷たい反応だけなのであったのだった。

 その時、その場にいた長老ロードスさえもまた、長老ゼンスと長老ユランの手前、
自身の領土の王子の不甲斐なさに、大いなる失望を持ったのだった。

 もちろんゼンスもユランも、カサレス王子のこの石宿しを、ロードスが憶測したような
低い志とも臆病者とも思う事などなく、ただ、この力をどのように使う為に願ったのだろうと、
不思議に思うぐらいであったのだった。

 がしかし、さしたる表情の変化を見せない二人に対し、この時ロードスは、恥ずかしい、
という風に思い、そうして落胆の表情をそのままカサレス王子に向けたのだった。

 しかしそれから後に目にする事となる、ある事によってロードスは、カサレス王子に対して
とった己の行動をひどく恥じ、それから後はずっと陰ながら、王子を支えていたのだが、
しかし、まさかその様に自身を見守る目があろうとは思わず、カサレス王子はこれから長い時を一人、
真に宿す王子の深き優しい心を、誰にも理解される事など無いだろう事を胸に秘め、自身の道を
一人きりで進んでいく事を、選んだのであった。

 普段人前では、いつも優しい微笑みを浮かべているカサレス王子であったが、ふとした瞬間に
見せる瞳の奥の悲しみを、幼い頃からリティシア姫一人だけは、感じ取っていたのだった。

 そして、そんな兄の悲しみを少しでも和らげようと、兄の左手を取ると、「きれいね。」といつまでも
優しくなで続けるリティシア姫。

 そんな幼くあどけないリティシア姫の小さな手の感触に、少しずつカサレス王子は、
柔らかさを取り戻していったのだった。


 カサレス王子は若き騎士団の三人との昼食会の後、自身の部屋に戻り、小さなテーブルの上に
置かれている美しい装飾が施された箱を開けると、鈍く光る銀の釦を一つ取り出して左手の上に乗せ、
自身のサファイアとその釦をじっと、長い事見つめたのだった。

「キュリアス・・・。いったい君はいま何処に居るのだろう?」

小さく口の中でそう呟くと、王子はギュッとその釦を握りしめ、窓に近づき、今宵の青々とした
冷たく輝く月の姿に、遠い日の友の影を探したのであった。


 そうあれは、まだリティシア姫が生まれる前の事。
まだカサレス王子が4、5歳の幼い頃の事であった。

その頃、王子と共にいつも一緒にいた16歳の少年がいたのだった。
彼の名は、キュリアス・グリュスター。
心優しきキュリアスは、まだ幼い王子のお守り役として、いつも正しい方に王子を導いていたのだった。

 カサレス王子は、この頼もしい年の離れた友人を兄として尊敬し、またそんなカサレス王子を、
いつも大事に思っていたキュリアスなのであった。

 この二人は本当に、いついかなる時も一緒であった。
カサレス王子が初めてテレパシーを使って、会話をしたのはキュリアス。
また、カサレス王子がはじめて「聖なる騎士団」の長老達に会い、空の民とは違うその姿に驚いて、
とっさに隠れたのもキュリアス。
 そしてキュリアスは、そんなカサレス王子を優しい微笑みで和ませて、無事に長老達への
挨拶をさせたのだった。

 そんな頼れるキュリアスは、やがて自身の成人の儀式を迎えたのだった。

キュリアスはある強い思いを胸に持っていたのであった。
それは、自身が「聖なる騎士団」に入る事。
そしてキュリアスは大層な願いを胸に、成人の儀式へと向かったのであった。

 しかし、それは残念ながら失敗に終わった。

彼の石は、彼の望みを拒絶して、その目覚めた力はもはや彼の力では、到底抑える事が
出来ないまでに暴走を始め、次第に石は誰が己の主かも忘れると、とうとう大きな閃光を放ち、
一瞬で粉々に砕け散ったのであった。

 そして、その閃光と熱い爆風で大きく身を焼かれたキュリアスは、意識を失いその場に倒れたのだった。

 キュリアスの事を王子が聞いたのは、それからだいぶ経ってからの事。
成人の儀式の日以来、ずっと城に姿を見せないキュリアスを案じ、城の者達に聞いて回った
カサレス王子であったのだったが、何人もの者たちに聞いては歩き、しかし、一向にキュリアスの
事を話さない中で、ようやくその重い口を開いた者から聞いた言葉は、カサレス王子の想像とは
とてもかけ離れた、残酷な現実なのであった。

 そうして、キュリアスの成人の儀式の失敗を聞いたカサレス王子は、激しく動揺すると、
一人自室に籠ったのだった。

 しかし、キュリアスの成人の儀式の失敗を思うたびに、胸の鼓童が今まで経験したことのないほど
激しく脈打ち、カサレス王子はその夜とうとう寝付けずに、一人でそっと城を抜け出して、
キュリアスが成人の儀式を行った、焼けただれた「真実の礼拝堂」その場所に、一人立ったのだった。

 そう、その頃にはすでに、キュリアスの行方は分からず、もう空の領土内でキュリアスの姿を
見た者など、誰もいなかったのだった。

 一人さびしくその場に立つ、まだ幼いカサレス王子の脳裏には、いくつもの表情のキュリアスの
姿が、王子に呼びかけては、また静かに消えていったのであった。

 そんなキュリアスの幻影に、カサレス王子は必死になって話しかけたのであったが、とうとう、
すべての幻影が王子の前から消えていったのだった。

 そうして、一人とり残され涙にぬれた王子の瞳の端に、くずおれた壁の隙間から零れ落ちてきた
月の光に照らされて、なにやら小さく光るものが一つ。

「なんだろう?」そう不思議に思いながらも、カサレス王子はその光の方に近づいていったのだった。
するとそこには、キュリアスがいつも身に着けていたマントの釦が、今は寂しく、ただ転がっていたのだった。

 震えるその手を近づけて、その釦をそっと拾い上げるとカサレス王子は、大事な友、キュリアスの
気配を少しでも感じ取ろうと、顔を近づけて必死に握りしめたのだった。 

 しかし、それはもはやただの薄汚れた釦でしかなく、なんの反応もないままに、カサレス王子は
やがて、悲しみのあまりその場に力なく、泣き崩れたのであった。

「キュリアス、キュリアス・・・。どこに行ってしまったの?お願いだよ、また僕の傍にもどってきて。
キュリアス。石なんかいらない。石なんかなくたって、キュリアスはキュリアスなんだから・・・。」

 そう心の中で叫びながら、まだ幼いカサレス王子は一人、冷たく蒼く輝く月に向かって、
声を押し殺して泣いたのだった。

ただ冷たい風に、吹かれながら・・・。

 こうしてそれから後、カサレス王子はこの時の哀しい思いと、ある少女との出会いによって、
自身の石の力を定めていったのであった。

 あれから大分月日が流れ、カサレス王子は16歳となり、自身の成人の儀式の日を
とうとう迎えたのであった。 

 カサレス王子はこの日、今までの空の領土の王族にはあるまじき、第一の島まで降りて、
「癒しの浴室」で身を清めてから、王の城までゆっくりと歩いていったのであった。

 そんなカサレス王子の姿を見送った空の領土の人々は、王子の美しい純白のマントに似つかわしくない、
くすんだ釦を見つけたのだった。

「あれは、キュリアスの・・・。」

空の人々は声を出さずに押し黙り、静かに王子の姿を見送ったのだった。
 そして、カサレス王子が自身の儀式を無事に終え、左手に石を宿した姿を見せると、
王をはじめ人々は、「王子はきっと、キュリアスの失敗で怖気づき、あのような低い手の位置に、
大した役にも立たない力を願ったのであろう。」と思ったのだった。

 そうこの時はまだ、誰一人として、カサレス王子の真の意志を知ろうとする者はいなかったのだった。



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by maarenca | 2014-10-01 09:42 | ファンタジー小説