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THE SIX ELEMENTS STORY No29







THE SIX ELEMENTS STORY





No29





                                  著 水望月 飛翔

 空の王の広間では、衛兵から学者、執政の者や王族の人々がみな打ち揃い、
王と王妃の入室を静かに待っていた。しかし、その静けさたるや、まるでこの世の者では
ない様な、気配と動きを感じさせぬ優美な佇まいで、その広い空間を清めている様でも
あったのだった。

 彼らの翼は白を基調とした淡いグラデーションになっており、ある者はグレーがかった
グラデーション、またある者はブルーがかったグラデーションと、様々な色の羽を持ち、
その羽に合った色の衣装が、深く美しいドレープを創り出していたのだった。

 それらのドレープが表したのは、彼らの思想の深さであろうか。
また、男女問わず美しく伸ばした髪は、銀髪や金髪、または白髪と淡く、なんとも壮麗で
静かな美しさを完成させていたのであった。

 そして彼らの頭上には、それぞれ自身の指針となる言葉が込められた植物で形作られた、
細い金属の細工が美しく人々を飾っていたのだった。

 そんな人々が生み出した静寂に、深淵たる厳格な空気が漂った。
ジインはなんだろう?と城内を見回すと、今までいりも一層深い威厳を漂わせながら、
空の王と王妃が姿を現したのだった。ジインは空の王の姿を見とめると、目に見えぬ
何ものかにはじかれたように、自身の身体を貫いた感覚に襲われたのだった。

 そして王と王妃が玉座に着くと、「聖なる騎士団」の一行は、空の人々があけた空間の中央を通り、
そのまま王と王妃の前まで進んだのだった。

 「聖なる騎士団」の一同が揃って深くお辞儀をして王の前に跪くと、長老ゼンスが代表として、
一人その場に立ち、空の王への口上を述べ始めたのだった。

「燦然たる空の領土を築きし偉大なる空の王。タリオス王。この度は我ら「聖なる騎士団」に、
この様な正式なる謁見の場をお与えくださり、誠にありがとう存じまする。王並びに王族の皆様にも
ご健勝のよし、誠に喜ばしく。」と言って、一度頭を下げると、続けてこう言ったのだった。

「さて、この度は我ら「聖なる騎士団」に大地の領土より、新たに入りましたる若者をご紹介いたしたく、
はせ参じました次第。どうか皆様、以後はこの者をお見知りおきいただきたく、何卒よろしく
お願いいたしまする。」と言うと、深々とお辞儀をして、その場に跪いたのだった。

 こうして、長老ゼンスからの言を受けると、空の王はゆっくりと一同を見回し、
静かにこう述べたのだった。

「永きに渡り、「聖なる騎士団」を司りし、長老ゼンス・ショーインよ。そなた達の尽力のおかげで、
この惑星も一段と秩序を増しておる事、誠に感謝いたす。」そうして高貴なる佇まいで、
「聖なる騎士団」の一同に頭を下げると、続けて「して、いよいよ大地の領土より「聖なる騎士」が
誕生いたした事、誠に喜ばしい。空の領土よりの祝福をその者に授けたいのじゃが。
いかがかな?大地の領土の聖なる騎士よ。」と、最後はジインの方を向いて、こう言ったのだった。

 ジインは下を向きながらも、空の王の目が自身に注がれていると思うと、緊張が走ったのだった。
そしてゆっくりと顔をあげると、ジインは緊張しながらも、空の王への口上を述べ始めたのだった。

「比類なき崇高なる空の王。タリオス王。はじめてお目に掛かりまする。我、大地の領土より参りました、
ジイン・クイードと申す者。自身の成人の儀式により、己の右腕に石を宿し、聖なる神器
「悲しみを断ち切りし剣」を出現させし者にて。この度「聖なる騎士団」へ入りましたる事、
大地の領土の誇りにかけましても、我が身命を賭す所存でございまする。どうか、空の王並びに
空の方々にも、お見知りおきをいただきたく、何卒よろしくお願いいたしまする。」
ジインは、一つ一つ慎重に誠心誠意を込めて、述べたのだった。

 大地の領土の者の初めて聞く空の言葉に、今まで聞いた事もない、熱く強い思いの波動を
感じた空の人々は、穏やかな優しい笑みを浮かべたのだった。

 それは嘲笑などというものではない。なにか久しぶりに感じた温かさに、少し懐かしむような
思いを抱いたのであろう。

そんな穏やかな気配が、この王の広間を包んだのであった。
 いつもは厳格なる空の王も、今までにない波動を持つこの大地の若者に対して、
優しくこう言ったのだった。
「聖なる神器、「悲しみを断ち切りし剣」を持つ大地の騎士、ジイン・クイードよ。
よう我が空の領土へ参られた。そなたが我が領土を讃えてくれている事は、わしにも
よう伝わっておる。同じく我等にもそなたを讃えさせてはくれまいか。」そう言うと空の王は、
ゆっくりと玉座を降りながら、この大地の若者に「祝福の詩」を歌い始めたのだった。

 すると、隣に座っていた王妃も玉座を降り、美しく優しい声で王の詩に加わると、
次々と広間に居る空の人々が一緒に、「祝福の詩」を歌い始めたのだった。

「聖なる騎士団」の一行がこの王の広間に入って来た時は、氷の結晶の様な美しい文様が、
キラキラと静かに王の広間の天井に、輝きを与えていたのだったが、「祝福の詩」が広間中に
響き始めると、「癒しの浴室」で起きた様に、うすく小さな羽が次々と舞い降りてきたのだった。

 この美しい祝福に、ジインはとても感動し、心の震えを抑えるのに必死なのであった。
(ああ、なんて美しいんだ。こんなに美しい城で、こんなに美しい祝福をしてもらっているなんて。
ユーリス、空の人々の美しさを、おまえにも見せてやりたいよ。)

 そんなジインの思いと感動で打ち震える姿に、空の人々もまた優しくほほ笑みながら、
歌い続けたのだった。

 少しすると、ようやく周りに視線を向ける事ができる様になったジインは、王と王妃の近くで
一際輝く様な姿の、カサレス王子とリティシア姫の姿に目が留まると、そのままジインは
この若々しい二人の美しい姿に目が奪われ、じっと見とれたのだった。

 二人は美しい文様が浮かび上がった、純白の絹の様な軽やかなローブを身に纏い、
カサレス王子の頭上には、黄金の美しく伸びた植物たちが形作る装飾が置かれ、
彼の金色の巻き毛と相まって、その誠実な横顔を縁取っていたのだった。

 そして、リティシア姫の頭上には、プラチナに輝く可憐な花々をちりばめた細工が、
彼女の愛らしさを一層讃えていたのであった。

 そんな二人に見とれていたジインの気配を感じ、そちらの方へ目を向け、ジインと
目があった二人は、ほほ笑みながら軽く会釈をすると、ジインもすかさず礼を返したのだった。

 こうして、「祝福の詩」が終わると、王がジインの元に歩み寄り、こう言ったのだった。
「新たなる力を宿いし大地の騎士よ。そなたの力がこの惑星の平安を一層強固なものと
してくれるであろう。しばらくは我が領土にて、ここの美しさをその目に焼き付けていかれるがよい。」
と言葉をかけると、いったん後ろを振り向き、王妃に目で促したのだった。

 王妃は、静かに自身のドレスの袖を振り払うと、一瞬で軽やかにジインの傍に着き、
天上の光のような笑顔をジインに向けたのだった。

「大地の聖なる騎士、ジイン・クイード殿。よう我らが空の領土にいらっしゃいました。
旅の疲れはありませぬか?そなたの故郷とこの空の領土。いろいろ違いがあるやもしれませぬが、
どうかこの滞在にて、我らが空の領土を楽しまれていかれませ。」王妃がジインに向かって
話しかけている間、ジインは王妃の優雅さ、まるで聖母を思わせる美しさに見とれ、ぼーっとしたのだった。

 そんなジインに優しく微笑む王妃。
そして王妃が王のもとに戻ると、王は後ろに控えているカサレス王子とリティシア姫を呼んだのだった。

そして、もう一度ジインに顔を向けると二人を紹介したのだった。
「さて、大地の聖なる騎士、ジイン・クイードよ。これに控えしは、次の空の
領土を収めしカサレス王子と、リティシア姫である。これからを担いし者同士、どうか
仲良くしてやってくれ。」そう言うと王は、カサレス王子の方に顔を向けたのだった。

 王子が静かにローブの裾を一度振り払うと、今度は一瞬で、その場の空気が穏やかな
たたずまいに変わったのだった。

 カサレス王子は優美な頬笑みを向け、ジインの元に軽くひと飛びすると、ゆったりと優雅に
ジインに会釈をしたのだった。

 ジインは目を奪われた。
「新しき力を誕生させし大地の騎士。ジイン・クイード殿。わたくしはカサレス・クレドールと申します。
あなたの訪問により、益々互いの領土の距離が縮まり、理解が深まります事を切に願います。
どうかあなたの知識をわたくしにもお授けいただけないでしょうか?」そう、ほほ笑みジインに聞く王子。

 しかし、その場に固まって言葉が出ないでいるジインを見て、少し間を置いてから王子は最後に
「そして、この空の領土の滞在を良きものにして下さる事を切に望みます。」そう言うと、
ほほ笑みまっすぐにジインを見つめたのだった。

 ジインは息をのんだ。
それは、初めて感じる感覚だった。

 空の領土に入ってからは、空気や人々、全ての存在の美しさを大いに感じていたジインだったが
、威厳あるタリオス王や王妃とはまた違う、カサレス王子の優美さ、神々しさに圧倒されたのだった。

(カサレス王子・・・。この方はなんて優美な人なんだ。この神々しさ。なんというのだろう?
カサレス王子の優しさは、まるで天からの祝福を一斉に受け、王子の内側から光り輝いているようだ。)

 頭の中で一人思うジイン。しかし、ジインのそんな思いは、空の領土の人々にとっては
筒抜けなのであった。
 そうして、動けないでいるジインに、今度はリティシア姫の愛らしい声が届いたのだった。

「穏やかなる大地の領土より、よくこの空の領土へいらっしゃいました。ジイン様。
わたくしは、リティシア・クレドールと申します。どうか、あなた様の故郷、大地の領土の事を
わたくしに教えてくださいませね。」

 カサレス王子と同じように、ふわっとジインの元にひと飛びすると、会釈をしながらリティシア姫は
ジインにそう話しかけたのだった。

リティシアは、色々話したい衝動を抑えながら、にっこりとジインにほほ笑んだ。
その姿はまるで、崇高なる天上に咲きし花。

 先ほどまで張りつめていた思いのジインは、リティシア姫の愛らしい声と頬笑みに、
ようやく我に返ったのだった。



空の領土    カサレス・クレドール王子              イラスト 佳嶋
THE SIX ELEMENTS STORY  No29_a0073000_10502559.jpg


キャラクター著作権は水望月飛翔が保有しているため、無断使用、転載は堅くお断りいたします。)


by maarenca | 2014-09-21 11:01 | ファンタジー小説