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THE SIX ELEMENTS STORY No27







THE SIX ELEMENTS STORY






No27




                                       著 水望月 飛翔




 一方、あれからあまり眠る事が出来ずにいたジインは、その日の早朝からそわそわと、
ずっと落ち着きなくいたのであった。
(もうすぐ初めて、空の王と会う。この俺が、他の領土の王に謁見する日がこようとは・・・。
大丈夫だろうか?大きな失態をしなければいいが。)と、一人心の内で心配していたのだった。

 そんな事をジインが考えていると、すぐその背後から、ジインの心を見透かした様にイズールが
こうささやいたのだった。

「そうですね。我らが空の王は思慮深く聡明なるお方ゆえ、君の一挙手一投足だけで、
きっと大地の領土の皆様を推し量る事でしょう。大地の領土の者として、つつがなく謁見の場を
終えないといけませんね。」と、少し笑いをこらえる様にして、ジインにこう言ったのだった。

 そんな、気配なく現れたイズールに驚いたジインは、「イズール。驚くじゃないか。
気配をなくして急に声を掛けないでくれよ。」と、早まる鼓動を抑えつつ、イズールの方を向いて
こう言ったのだった。
 が、すぐに真剣な顔をすると、イズールの顔に近づけて、周りを見渡してから、小声で他の誰にも
聞こえないようにそっと、こう聞いたのだった。

「なあ、イズール。空の王はお優しいお方か?それともロードス様の様に、少し近づきがたいお方か?」
と、聞いたのだった。

 しかし、そんなジインに答える声は、イズールからではなく、全く予期せぬ方角から聞こえてきたのだった。

「おおそうじゃな。偉大なる我らが誇り。空の王、タリオス王のお優しさは見る者の見方によって、
その者の目に映る場合もあれば、映らぬ場合もあるかのう。残念ながら、わしの優しさはそなたには、
見つける事はできない様じゃが。」と、今度は長老ロードスが、ジインの背後からこう言ってきたのだった。

 驚き、振り向くジイン。
先程のイズールに引き続き、全く気配を感じなかった背後からの突然の言葉に、またもや
驚かされるジインなのであった。

「ロードス様。すみません。そんなつもりで言ったのでは。」と、最後は小声で心細そうに、
そう言ったのだった。

 空の領土の二人に、いいようにされているそんなジインの姿をみて、長老ゼンスは
笑いをこらえきれずに、大きな声で笑うと、ジインに向かってこう言ったのだった。

「はっはっは。これは空の領土の者にいいようにやられたのう?大地の若者よ。」
そう言いながらゼンスは、ゆっくりとジインの元へ近づくと、杖を前に置き、こう続けたのだった。

「まあ、この二人を責めるでないぞ、ジイン・クイードよ。空の領土の人々はこの様に
小さな波動の乱れや、心に隠しておいた気配でも、すぐに読み取れる能力を持っておるのじゃ。
ましてや、空の王ともなったら、そなたの心の内など手に取るようにわかるじゃろうて。
だからこそ、無心でいくがよい。そなたがこれから目にする全てのものが初めての事となる。
驚きも動揺もあるじゃろうが、そのまま感じた事を素直に受け取ればよいのじゃ。どうかな?」
と、ジインにほほ笑みながら、優しく長老ゼンスはこう言い諭したのだった。

 そんな言葉にジインは、ゆっくりと頷くと「はい解りましたゼンス様。それに、ロードス様とイズールが、
俺が空の領土に着いてから、驚かないようにと教えてくれたという事も、ちゃんと解っています。」

そう言うとジインは信頼の表情を持って、空の二人の方に向き直り、「お二人とも、ありがとうございます。」
と、姿勢を正してこう言ったのだった。

 そんなジインの言葉に二人も、この大地の若者に静かに微笑みながら、ゆっくりと会釈を
返したのだった。

 その様なやり取りを見届けると、しばらくしてから長老ゼンスは、ゆっくりと丁寧に身支度を
整え始めたのだった。
そうして準備が整うと、今度はロードスがゼンスの身支度が終わるのを待ち構えていたように、
すぐさまゼンスの姿を自身の鏡に映し始めたのだった。

 そして、長老ゼンスはその大きな身体を正すと、空の王への謁見の申し出の口上を、
いつにもなく神妙な面持ちで、こう述べ始めたのであった。

「崇高なる思考を持ちし偉大なる空の王。タリオス王。「聖なる騎士団」のゼンス・ショーインめが、
謹んで王に正式なる謁見の許可をお願いいたしたく、ご挨拶申し上げまする。」そこまで言うと一度、
慇懃にお辞儀をしてからゆっくりと身体を起こし、続けてこう述べたのであった。

「さてこの度、我らが「聖なる騎士団」に、大地の領土より入りし若者がおりますれば、
是非にも、空の領土の方々にもお見知りおきをいただきたく何卒、王並びに空の皆様にも
正式なる謁見をお願いいたしまする。」
そう言うとまた、深々とお辞儀をしたのであった。

そして、長老ゼンスの空の王への口上が終わると、その姿を長老ロードスは、自身の鏡を
王の城に向け、素早い光で送ったのだった。

 それからしばらくして、空の王よりの返伝が「聖なる騎士団」の元に届いた
のだった。
ロードスは自身の鏡に空の城の者からの返伝を受け取ると、それを映し出して、皆に見せたのだった。

「偉大なる「聖なる騎士団の」の長老ゼンス殿。先ほどのあなた様の申し出、しかと承りまいた。
我らが空の王のお許しが出されましたゆえ、どうぞこのまま我等が空の領土へご入領下さりませ。
それでは、お待ち申しておりまする。」と、空の王よりの謁見の許しが伝えられると、
「聖なる騎士団」の一行は、いよいよ空の領土の閉ざされた断崖へと進んでいったのだった。

 空の領土はまず、比較的温かな森に囲まれているのだが、しばらくずっとその森を進んで行くと、
その中央には天高くそびえ立つ、真っ白な雪に覆われた断崖が立ちはだかっていたのだった。

 そして、その中の広く開けた空間には、六つの浮島が連なって浮かんでいたのであった。
しかし、普段は他の者にいっさい道を固く閉ざしている断崖なのであった。そして唯一、
「聖なる騎士団」の一行がその前に立つと、固く閉ざしていた断崖は、その一角を門の様に静かに
開けていったのだった。

「ゴゴゴゴーッ。」と広く周囲に鳴り響く大きな地響きを立てながら、目の前に広い空間と
美しい浮島の姿を、そうして初めて大地の騎士、ジインに見せたのであった。

「うわあ、こんなにも天に届きそうな断崖が開くなんて。それに、こうして島が浮いているなんて・・・。
話には聞いていたけど、なんてすばらしいんだ。なんて美しいんだ。」

 ジインは感嘆の声をあげると、自分の目の前で起こった現象と島が浮いている光景と空の領土の
美しさに、心底驚いた様子で口を開けたままただ立ち尽くしていたのだった。

 するとそんな驚き佇むジインに、「さあ、参りましょう。」と、イズールが優しく促すと、ようやく我に返り、
足を動かしたジインなのであった。

 「聖なる騎士団」の一行がその中に入っていくと、彼らの後ろでまた、大きな地響きを立てながら、
高くそびえる断崖は、元の通りに閉じていったのであった。

 「カラン、カラン。」
断崖の中では、まるで氷かガラスが静かにぶつかる様な、高く涼しげな音が天上から鳴り響き、
「聖なる騎士団」の入領をこの地の者達に知らせていたのだった。

(なんて澄んだ音色なんだ。それに、大地の領土では今まで感じた事の無い静かな涼しさだな。)
ジインはそう思いながら、目にするもの、感じるものすべてに集中ししながら、一歩一歩踏みしめて
いたのだった。

 そう、目には見えないが、静寂の粒がいたるところにある様な。
何かわからぬ落ち着きのある秩序が、この空間を清浄に保つように存在していたのであった。

 こうして、空の領土の六つからなる浮島の、まず一番低い第一の島に入ると、大きくそびえる
大理石の建物が「聖なる騎士団」の一行を悠然と出迎えたのだった。そして、この建物を守る者が
姿を現すと、静かに会釈して「聖なる騎士団」の一行を建物の中に案内したのだった。

 その建物の中はそれは見事な大浴場となっており、広い湯船が乳白色の温かく豊富な湯を昼夜に
問わず、静かに湛えていたのだった。

 湯船の真ん中には、高くそびえる流線の美しい装飾を施した噴水があり、そこから疲れを癒す湯が、
豊富に溢れ出てはその広い空間を癒していた。

 そして、ほんのりといい香りのする穏やかな霧が漂いながら、一行を出迎えたのだった。
「さあ、一同よ。まずはここで我らの身を洗い清めようぞ。」とゼンスが皆に言うと、一行は
それぞれ散らばって、暖かい湯の中へと、身を沈めていったのだった。

 しかしそんな中ジインは、緑の領土出身の長老ゼンスの長いローブの中身が、以前からずっと
気になっており、彼の大きな身体が一体どうなっているのか、その正体を見られる事を、
この時密かに伺っていたのであった。

 そう、緑の領土の人々は個々それぞれが制限のない自由な身体を持っている為、
ゼンスの背中で時折うごめく何者かや、何本あるかわからない彼の手足をこの時に、
はたして見られるのではないかと、心ひそかに期待していたのであった。

 しかしそんな思いを遮るように、この大浴場には静かな靄が存在しており、意味ありげに
ほほ笑みながらジインを見るゼンスの姿を、ゆっくりと隠してしまったのであった。

「あっ、あの~、ゼンス様。」ゼンスの背中を名残惜しそうに見送るジインにゼンスが一言
。「じゃあのう、大地の若者よ。ゆっくりと今までの疲れを取るのじゃぞ。」と、靄の中からジインに
こう言いながら静かに消えていったのだった。

 こうして、ジインの幼い好奇心をなだめるように、静かであたたかな靄が、今度は優しく
ジインの身体を包み込んでいったのだった。

 ゼンスの秘密を見る事が出来ず、残念に思ったジインであったが、すぐに気持ちを切り替えて、
湯船にゆっくりと身体を預けたのだった。

「ああ~、気持ちいいな。今までの緊張が一気に癒されるようだ。」
大きく身体を伸ばし、高く開けている天上を仰ぎ見たジインが、くつろいでいると、先程まで
天井を遮るように漂っていた霧がスーッと晴れ、ジインの頭に美しく気高いドームの天上が、
その姿を現したのだった。

 その美しい滑らかな流線の波は、まるで優雅な音楽を奏でている様な曲線で形作られており、
それを目で追いながら、ジインは本当に久しぶりに心寛げる時を、素直に楽しんだのであった。

(ああ、なんて美しいんだろう。どこもかしこも美しく、なんて気高い空気が漂っているんだろう。
それに、心をこんなに穏やかに和らげてくれるなんて。本当にありがとう。)

 そう一人心の中で思っていると、今度は薄くきらめく小さな羽がゆっくりと、次々と音もなく、
天上から舞い落ちてきたのであった。

 ジインがそんな光景を驚いて見ていると、少し離れた所からイズールの声が聞こえたのだった。
「やあジイン殿。君がこの「癒しの浴室」を気に入ってくれてうれしいよ。この羽は君への感謝を
表しているものなんですよ。実体はないので、どうぞ,このままこの羽の贈り物をゆっくりと楽しんでください。」

 そう言うイズールの周りを、先程まで覆っていた靄が少し晴れると、イズールの存在を短い間、
確認する事が出来たのだった。

 大地の民とは違う肌の色。大理石を思わせるような透き通る肌はまるで、乳白色の陶器を思わせる
滑らかさ。

 大きく広げた羽がイズールの引き締まった肢体の後ろで、キラキラと水滴を含ませて光る様は、
まるで天から舞い降りた天使のようであった。

 ジインは思わず、息をのむとまぶしそうにイズールを見つめたのだった。

この浴室は身を包む暖かで豊富な湯と、自由自在に現れる心地よい靄が現れては消え、
ここを訪れる者をこうしてそれぞれに癒していたのであった。

 そして、イズールの声がやむとまた、イズールの存在をゆっくりと、静かに白い靄が
包かくしてったのだった。
 ジインは今までに見せた事のない、一人の人間としての友の姿を見送ると、また心地よい湯に
静かに身を預けたのだった。

 ジインは自身の成人の儀式以来ずっと、まるで鋭い剣の切っ先にでも立っているような、
己に強いていた緊張があった事に気付き、それがようやく今、緩やかに解けていく感覚をまた
味わっていたのだった。

 こうしてそれぞれが、この「癒しの浴室」を楽しんだのだった。




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by maarenca | 2014-09-14 19:52 | ファンタジー小説