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THE SIX ELEMENTS STORY No24








THE SIX ELEMENTS STORY






No24






                                       著 水望月 飛翔






こうして、大地の領土を出発するまでの期間、ジインへの「聖なる騎士団」としての心得と、
剣の指導が始まったのであった。
 そして、この新しき若き騎士の教育係として、長老ロードス・クレオリスが、それから毎日、
朝から晩までつきっきりで、指導をしたのであった。
 それは術の発動だけではない。「聖なる騎士団」としてこれから訪れる、初めて接する領土の人々に、
失礼があっては絶対ならぬ事。

 それは一つ間違えば、長年ようやくの苦労の末に勝ち取った「聖なる騎士団」全体への信頼の、
失墜にもなりかねない事なのであった。

 故にロードスは、各地の領土のしきたりや性質の違い、王族に対する正式なる礼儀なども、
事細かに教え込んだのだった。

 そう、ジインは幼き頃より、大地の王の城にてユーリス王子と共に過ごしてきたのではあったが、
子供同士の世界を大事に思っていた王と王妃の寛大なる厚意により、ジインの言動は随分と
許されていた為、他の王族の前にそのまま出すには、特に厳格なる空の領土出身のロードスとしては、
かなり心配をしていたのであった。

「ジイン・クイード。彼の未知なる力には、他の者には無い力強さが宿っている。その力が如何なく
発揮される時には、何にも勝る力となろう。しかし、あの様に不安定な制御では一歩間違えると、
もろ刃の剣と化すやもしれぬ。一刻も早く、力の制御を身に着けさせねば。」と、心の中で一人、
強く思うロードスなのであった。
                                
 今までもそれ程明るい笑顔を見せる人ではなかったのであったが、ジインの教育係を
引き受けてからは、ジインの空回りする力の不安定さに、次第に何かを思いつめた様な寡黙な姿を、
ふと見せる様になっていたのであった。

 そして、そんなロードスの後ろ姿を見ては、一人心配をする空の若き騎士、イズール・キョークの
姿があったのだった。

 それからどの位の日が経ったであろう。
ジインの力の制御が、少しずつ安定を見せる様になってきた頃、長老ゼンスが二人の長老に
こう切り出したのだった。

「どうかのう?ジインの力の制御も少しは安定を見せてきたように思うのじゃが。そろそろ明日にでも
出発するというのは、いかがであろうかのう?」    

 そう言う長老ゼンスに、長老ユランは同意する様に、「そうですね。まだまだ荒削りではありますが、
そろそろいいかもしれないですね。」と、相槌を打ったのだった。

 しかしそんな二人の言葉にロードスは、一人反対意見を言ったのだった。
「しかし、まだまだジインの力は不安定で、とても安心して見てはいられませぬ。それに彼の
立居振る舞いは、まだ各地の王族の方々の前にお出しするには程遠く。どうか今しばらくの猶予を
お考え下さりませぬか。」と、二人に進言したのであった。

 そんな心配そうな顔のロードスに、穏やかにほほ笑みながらゼンスは、一歩近づくと、
こう言ったのだった。
「どうだろうか?ロードス殿。これからも道々そなたが教えていけば、きっと空の領土に着く頃には、
もっと立派になっておると思うのじゃが。それに、道中はわしらが皆おるではないか。
このまま何もないこの穏やかな土地で修業をするよりは、少し荒療治ではあるが「迷いの森」での
経験を積ませる方がいいと思うのじゃが。」と言ったのであった。

 そう言うゼンスに、しかし、なおもロードスは食い下がるように、こう言ったのだった。
「しかし、ゼンス殿。もし「迷いの森」で術が暴発でもすれば、大変な事になる事は解っているでは
ありませぬか。私はもう二度と、あのようなになる事は・・。」そう言うと、最後は苦しそうな表情を浮かべ、
最後の言葉を飲み込むように、おし黙ったロードスなのであった。

 そんなロードスに、ゼンスとユランはもう一歩近づくと、「わしはそなたを信じておる。
だからこそ明日の出発を決めたのじゃ。」とゼンスが言うと、「私も。それに、私達も居るではありませんか。
それとも、私達の事は信じてはいただけませぬか?」と、ユランが優しく聞いたのだった。

 ロードスは「聖なる騎士団」を一緒に作り、この長きに渡って共に過ごしてきた二人をじっと見つめると、
そんな二人の言葉にようやく自分に言い聞かせる様にこう言ったのだった。「解りました。
彼の力を信じましょう。しかし、もし何かが少しでも起こったら、その時には何ものにも代えて、
きっと私が守りましょう。」と二人に言ったのだった。

 そんなロードスにゼンスとユランは、永き時間を共にしたこの友に対し、信頼を持ってほほ笑みを送ると、
三人で肩をたたきあったのだった。

 しかし、長老たちがそんな話をしている所に、ひっそりと身を隠して一部始終を聞いていた人物がひとり。

長老たちがその場を静かに立ち去るまで、ずっと草陰から聞いていたジインなのであった。
ジインは、はやる気持ちと同時に少し不満そうに、寂しく聞いていたのだった。

「俺はロードス様に、まだまだ信用されていなのだな。」
そう小さくつぶやくと、乱暴に剣を振りながら空を見上げたのだった。

そんなジインに、優しい風が吹き抜けていったのだった。

 そうして、それから少しすると、長老たちから大地の領土を明日、出発すると若き騎士たちに
告げられたのだった。

 それから、ジインとユーリス王子は、その日の残された時間を二人だけで、大地の領土で
一番広く開けている、雄大なる「メグレスコ平原」をずっと馬で駆け抜けたのであった。

 それは、これから長い間を後にする、大地の領土のこの光景と空気を、強く自身に刻みつけるかの様に、
ただずっとひたすらに走り続けたのだった。

 そしてユーリス王子もまた、ずっと一緒だった兄と頼る友との別れを前にして、これから大地の領土
を守る為、自身の成人の儀式へ向けて、一人でやっていかなければならない覚悟を、
馬の鼓動と共に刻みつけようとしていたのだった。

 こうして二人は長い間、言葉を交わすこともなく、この平原に吹く風に耳を澄ませながら、
ただひたすら馬を走らせたのだった。

 馬が疲れを見せはじめてようやく、二人は馬を降りると、遠く高い空の下に漂う雲が、
速い流れで移ろうさまを眺めながら、二人は長い沈黙を破って、ジインがユーリス王子に
こう切り出したのであった。

「ユーリス。もう少しだけ待っててくれ。俺は必ず、この剣の力を自分のものとして、
この大地の領土に戻ってくる。必ず。」そう言うと、一人取り残される王子の寂しい心を思いながら、
しかし、友を信じる真剣なまなざしをユーリス王子に向けたのだった。

 そんな友の眼差しを受けながら、ユーリス王子もジインにこう言ったのだった。
「ジイン。君なら必ず立派な騎士になれるよ。大地の領土出身の者として、他の領土の人々に
慕われる騎士に。」そう言うと、人呼吸置いてからまた、「でもきっと次に会う時には、
僕も君の剣の力を頼らなくてもいい者になっている様にするから。」とユーリス王子は自身の寂しさを
押し隠す様に、ジインの顔を見つめて、こう明るく言ったのだった。

 そんな王子の言葉にジインは、「ああ。」と短く返事をすると、また二人は遠くの空を見つめたのだった。

 そうして次の日の早朝、まだ朝もやが立ち込める中、新たなる仲間を加え、「聖なる騎士団」の一行は、
次なる訪問地、空の領土へと静かに出発して行ったのであった。

 ジインは城に残るユーリス王子を心配する思いを断ち切ろうと、一生懸命に前を見つめ、
元気な様子を見せていたのだった。

 心の中で、ユーリス王子にこう言いながら。(ユーリス、行ってくるよ。ちゃんと成長して
この大地の領土に戻ってくるから。)と。

 その頃ユーリス王子は、王子の部屋の窓から、聖なる騎士団の一行の出発をそっと
一人見送りながら、心の中でジインに呟いたのだった。

(ジイン、頑張って。僕はこれからは、誰かを頼る気持ちを捨てて、もっと一人でちゃんと
立っていられる人物になるよ。)そう一人、誓ったのだった。

 ジインは「聖なる騎士団」の皆と森を歩き始めると、最初の頃は、これから目にする
新しい世界への期待に、ワクワクして元気な姿を見せていたのだった。

 しかし、穏やかな大地の森を進み、この森を奥に奥にと進んで行くと、次第にまるで冬枯れている様な、
生気のない木々が姿を多く現し始め、陰鬱な空気が漂い始めるのを、少し不安に感じ始めていたのだった。

 それからやがて、空の領土との境にある「迷いの森」からの、何かゾッと背筋が凍るような
気配を少しずつ感じ始めると、いよいよこの先は、大地の領土の者が初めて足を踏み入れる世界が、
ジインを不気味に待ち受けていたのであった。
 そう、穏やかな静けさの大地の領土の森を背に、ジイン・クイードは、自身の目の前に広がる
未知なる漆黒の闇を前に、立ったのだった。

 その場に立っているだけでも、目の前の闇に引きずり込まれそうになる、冷たい感覚を足に受け、
ジインは思わず身震いした。

 もちろん、普段大地の領土の者が、この「迷いの森」との境界線まで来る様な事などはなく、
この何とも身の凍るような得体の知れない闇を、ジインは初めて体感したのであった。




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by maarenca | 2014-09-03 13:17 | ファンタジー小説