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THE SIX ELEMENTS STORY No21







THE SIX ELEMENTS STORY





No21


                                 


                                       著 水望月 飛翔



 この日の大地の領土は、何と喜びに満ちた、幸せな一日を過ごしたことであったろう。
ユーリス王子の、「愛する者を守りし力」を持ったトパーズが無事に額に収まった喜びと、
そんな晴れやかな日に「聖なる騎士団」の一行が祝福に訪れるとは。

 この素晴らしき一日を、大地の民達はきっと、それぞれが胸に強く焼き付けた事であろう。
その夜は一晩中、大地の王の城でもずっと、祝宴が催されたのであった。
大地の領土の星々は、久しぶりに穏やかに温かな祝福の色を湛え、次々と美しい文様を創っては、
本当に久しぶりに悲しみの色を脱ぎ捨てて、慶びの詩を奏でたのであった。

 そんな祝福に満ちた星々が瞬く夜空の下、王の広間からバルコニーに姿を現した二人の影。
それは、今日の大事を終えて、寛いだ表情で笑うユーリス王子と、そんな王子の姿を、
優しく兄の様に見つめるジイン・クイードであった。

「ユーリス王子。本当に素晴らしい成人となられたお姿。私も心から嬉しく思います。」
しかし、そんなジインの騎士らしい儀礼的な言葉に、王子は少しそっけないように、こう言ったのだった。

「こちらこそ。我らが誇り、ジイン・クイード殿。あなた様のお言葉、感謝いたします。」そう言うと、
ユーリス王子は一瞬黙ったのだったが、目をそらしたまま、こう言ったのだった。
「しかし、貴殿からそのような他人行儀な物言いをされては、若輩であるわたくしは、
いったいどのような言葉をお返しせねばならぬのか、皆目見当も尽きませぬ。」

そうして下を向いてから、王子はジインの方に向き直りこう言ったのだった。
「そんな他人行儀な言葉、ジインには使ってほしくない。僕は今でも、君の前では
ただのユーリスだよ、ジイン。今日は来てくれて本当にありがとう。また君に会えて本当にうれしいよ。」
と、ユーリスが王子としての姿でも、また成人の姿でもなく、幼いころから変わっていない、
二人の間で交わされたままの姿でジインにこう言ったのだった。

 するとジイン・クイードは、聖なる騎士団としてではなく、一人の青年の顔に戻ると、
必死に涙をこらえながら、ユーリス王子の肩に両手を置き、こう言ったのだった。

「ユーリス・・・。俺は、俺は、「聖なる騎士団」に入ってからもずっと、お前の事を一瞬たりとも
忘れた事などなかった。王妃様にあの様な事が起こった時、俺はひどい怪我でずっと起きられず、
お前の傍に居てやることができなかった。ようやく俺が起き上がれる様になってからも、
お前が必死に悲しみをこらえる姿に、無力な俺は何も出来ずに、どんなに悔しかった事か。」

 そう言うとその当時を思い出したのか、ジインの目に涙が溢れてきたのだったが、
しかしジインはそのまま真っ直ぐに王子を見詰めて、続けてこう言ったのだった。

「ユーリス。あの頃の俺には、何もお前にしてやれる事ができなかった。だからこそ、
俺は自分の成人の儀式に大層な願いを賭けた。お前の悲しみを、この大地の悲しみを、
少しでも断ち切りたかったから。」 
そう言うとジインは、自身の剣を手にして、優しく撫でたのだった。

「だけど、せっかくこんなに素晴らしい剣が出現しても、俺の力がまだまだ未熟だったから、
お前の悲しみをすべて拭い去る事はできなかった。だからこそ、「聖なる騎士団」に入ってからの俺は、
長老や周りの仲間達の教えを一つ残らず聞いて、早く俺の力がもっと強くなる事を願ってきたんだ。」

 そこまで言うと、ジインは先程まで思いつめていた表情を和らげ一息つくと、ホッとした表情で、
今宵の穏やかな星々を眺めては、今度はうれしそうな顔を王子に向けたのだった。

「ユーリス。よくやったな。俺の弟にしてやった甲斐があったぜ。」
そう言ってほほ笑むジインの姿に、ユーリスは幼い頃から王子の供として守り、
時には兄の様な存在で、ずっと共に過ごした楽しかった時の事を、ゆっくりと思い出したのだった。

 そして、そんなジインが「聖なる騎士団」へ入ってからのこの何年間、これまで一人で
堪えていた感情が一気に溢れだし、次第に涙がとめどなく溢れてきたのだった。

「ジイン。君が自分の成人の儀式を終えて、すぐ僕と父上の元に来てくれたあの時の事を、
僕はずっと忘れた事などなかったよ。本当に、本当にうれしかったんだ。ボロボロになった身体で、
まだ慣れていないその剣を持って、何度も呪文を唱えてくれたね。でもあの時は、
まだ何も術が発動しなくて。そのうち君は怒って、悔しそうに泣き出したけど。
でも父上と僕は本当にうれしかったんだ。あの時の君の姿があったからこそ、
僕は今日の日を迎えられた。あの後、君の剣が放つ波動で、何度も悲しみを癒してもらったけれど、
でも、僕と父上が一番癒されたのは、そう、何も発動されなかったあの日の君の姿なんだ。
何にも勝る、あの日の君の姿だったんだよ。」

 ユーリス王子にとって、あの日の事は何があろうとも、きっと一生忘れる事などできないであろう。
ジインは、大した輝きを持たぬ自身の石に、大地の領土に依然として残る悲しみを断ち切りたいが為、
遥かに分を超えた望みを自身の石に賭け、成人の儀式に挑んだのだった。

 しかしそれは、相当なる石の反発を受け、長い時間を何度も絶望の淵にさらされたのであった。
そして、ようやく石の力を宿したのだったが、彼の身体は大層なダメージを受け、ボロボロになった
身体を引きずりながらも、ユーリスと王の前に現れたのだった。

 しかし、石を宿したからといって、すぐに石の力を使えるわけではなかったのだった。
ジインはその日、何度も術を発動させようと、懸命に自身の剣に呪文を唱え続けたのであったが、
気持ちばかりが空回りして、とうとうその日は、何も起こらなかったのであった。
 そしてジインは、あまりの自身の不甲斐なさに、王の前であることも忘れ、大きくその場に
泣き崩れたのだった。

 その時の場面を、ユーリス王子はまるで昨日の事の様に、鮮明に思い出し、そしてその時の
ジインの強い気持ちがずっと自身の支えとなった事を伝えたのだった。
そんな成長したユーリス王子の姿に、じっと聞いていたジインの二人は、今日のこの再会の日を、
本当にうれしく味わっていたのだった。


 そんな穏やかで、平和な時を過ごしていた大地の領土から、迷いの森を抜けて、
遥か彼方、空の領土。
その空の領土の中で一番天の近くに浮いている島に一際高くそびえたつ山。

そのクラスカス山に、一人近づく者の姿あり。

 ライラックと薄紅色からなる、グラデーションの色彩に彩られた柔らかな羽へと成長した、
美しき乙女となりしリティシア姫、その人であった。

 かねてより、ロードス・クレオリスの右眼に宿りしサファイアから、リティシア姫の持つ
サファイアへ移してもらった波動の力により、今日、かの大地の領土からの便りの波動を感じ取った
リティシア姫であったのだった。

 もともと高いところにある浮き島を領土としていた空の領土の気温は、他の領土よりも一段低く
肌寒いものであったのだったが、この一番上の浮島にそびえ立つクラスカス山の気温はまた一層冷たく、
氷の粒をいつも空気の層に忍び込ませているかの様な寒さであったのだった。

 そんな寒い冷気の中、リティシア姫はそっと城を抜け出して一人、クラスカス山の頂をめざし、
飛んでいたのであった。
「ロードス様からのこの知らせ。きっと、ユーリス王子の成人の儀式の知らせだわ。
ああ、どうかご無事で、成人の儀式が終わっています様に。」そう祈りながらリティシア姫は、
寒さに凍えながら飛び続けたのだった。

 静かに美しく瞬く星空の元、夜空の色彩が冷たく漂う空の領土。
そのクラスカス山の頂に、夜空のそれとは違う小さな輝きが、なにやら明るい光を放っていたのであった。

「ああ、あの光。きっとあれだわ。」
その小さな輝きを見つけると、リティシア姫は急いで傍に近づいて、その光をそっと両手ですくい上げると、
フーっと優しく息を吹きかけたのだった。

 姫の温かな優しいぬくもりを感じた光は、少しずつ大きく光を広げていき、やがては、
人がすっぽり入れるほどの大きな光に成長し、その中に少しずつ何やら人だかりの映像が
現れてきたのだった。

 それから、大勢の大地の人々の笑顔の中で、黄金色に輝く美しい衣装を纏った若者が、
時折自身の額のトパーズに手をやりながら、誇らしそうに笑っている姿に、姫の視線が止まったのだった。

「ユーリス王子。」姫はそう言うと、涙が出そうになるのを必死にこらえたのだった。
「よかった。ご無事に成人の儀式を果たされたのですね。何と美しいトパーズの輝きなのでしょう。
きっと素晴らしいお力を手に入れたのですね。」
 姫はホッとした表情で、ユーリス王子の姿をじっと見つめていたのだった。
しかし、ここは一際寒いクラスカス山の頂、薄布しか纏わずにきた姫は、そのあまりの寒さに、
次第に気を失ってしまったのだった。

 しばらくすると、月の明かりに静かに照らし出された一人の若者の姿が。
「やれやれ、リティシアときたら。こんな薄布だけでこの山の頂に来るとは、相変わらず無鉄砲な事をする。」
そう一人ごちると、暗闇から現れた若者は姫を抱えて空の城へと、そのまま飛んでいったのであった。




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by maarenca | 2014-08-23 09:58 | ファンタジー小説