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THE SIX ELEMENTS STORY  No18


いよいよ、大地の王子の「成人の儀式」が始まります。


THE SIX ELEMENTS STORY




No18





                                     著 水望月 飛翔



 あれから何度、季節が通り過ぎていっただろうか。

大地の領土に吹く風は、常に穏やかに流れ、人々は静かに祈りを口に佇ませながら、
平穏な暮らしを紡いでいたのだった。
 しかし、王妃がいた以前の様な晴れやかな、本当に晴れやかな青き空と、輝かしく眩しい程の
日の光が顔を出すことはほとんど無くなり、ときおり吹く少し寂しげな悲しみの名残を含ませた風に、
うすく漂う雲が大地の領土の空に姿を現していたのだった。
 そう、そしてそれは、大地の王をはじめとして、大地の領土の民達に現れたる表情と、
とても近しいものであったのだった。
 
そんなある日の事。
大地の領土の広々と開けた雄大な空の元、一人馬に乗り東の森へと走る少年の姿あり。 

 ある決意を胸に、ときおり遠く空の向こうに視線を向け、一人何を思う。
優しい風がときおり少年の顔を優しくなでたのだったが、少年はその優しさも気づかず、
馬を走らせたのだった。

 少年は森の中へとそのまま馬を進め、少し草木が空いた場所まで来ると、馬から降りて、
少し歩いて日の光がさすその場にそのまま跪いた。

 そして自身の首にかかっていたペンダントを握りしめ、深く目を閉じたのだった。
ただ、風に揺らぐ草木のこすれる音が、優しくかすかな音を奏でるだけのその空間。
少年はただ一心に、その握りしめたペンダントに収まっている自身の石に語りかける様に言ったのだった。

「母上、いよいよ私の成人の儀式の日がやってまいります。この日をどんなに長く、待ちわびた事か。
明日、長年の我が願いを必ずや叶えまする。そして、母上。あなた様を1日でも早くお迎えに。」
そう言うと、深く頭を垂れ、自分自身にそう言い聞かせる様に、改めて、固い決意を胸に
刻みつけたのだった。

 東の森のこの場所は、かつて母である大地の王妃が訪れて、「迷いの森」から現れた、
謎の物体に憑りつかれた場所なのであった。

ユーリス王子は後に、「聖なる騎士団」の長老達に、母の事を詳しく聞きだし、
この場所を教えてもらってからは、たびたび一人でここを訪れては、遠く「炎の洞窟」に住む母に一人、
話しかけていたのだった。
 
 一人涙にくれた日も、新たに決意を掲げた日も、誰も知らぬ多くの王子のさまざま思いを、
この森の草木だけは、知っていたのであった。

 それから、王子はゆっくりと立ち上がると、王子を包み込むように、暖かく滑らかな風が王子の周りを
吹き抜けていったのだった。
 そしてその時、一瞬王子の耳元で囁くような声がしたのであった。
「大丈夫、一人じゃない。」と。
 それはいったい、誰の声であったのだろうか。王子はあたりを見回してから、空を見上げ、
こう呟いたのだった。

「ああ、大丈夫。すべて乗り越えて見せるよ。」風に吹かれながら、じっと目を閉じ、そう呟いたのだった。
 それから王子は馬に飛び乗ると、大地の城へと戻っていったのだった。

 その頃、大地の城では次の王としての、大事な王子の成人の儀式とあって、明日の準備に皆が
あわただしく取り掛かっていたのだった。

 王の広間はピカピカに磨き上げられ、「天上の大いなる意思」と大地の領土の守り神である
「豊かなる芳情の女神」への捧げものが、次々と運びこまれてきていたのであった。

 いったいどれだけの人が出入りをしていたのであろう。
しかし、この王の広間は、天上と大地の守り神を迎えるべく、誰ひとり、口を開きその広間を
汚す事の無いよう、皆押し黙っていたのであった。

 ユーリス王子が城へ戻ると、そのまま「光さす浴室」へと促され、明日の儀式の為、一人身を清め、
この日の為にと織られた、希少なる植物の糸で紡がれ、縫われた黄金に輝く色の衣をまとい、
代々伝わる短剣を腰に差し、「祈りの小部屋」へと、入っていったのだった。

 それから、今宵の月を月見窓から眺めながら、自身のトパーズを手に取り、じっと見つめたのだった。
「いよいよ明日には、このトパーズを我が身に宿す時が来る。僕はずっとこの時を待っていた。
母を迎えに行く為に。その為には覚悟をせねば。我が石を我が願いに従わす為に。
やらなければならぬ。絶対に。」
 そう自分に言い聞かせる様に言う王子は、しかし、たびたび湧き起ってくる儀式への恐怖を抑えようと、
ただひたすら己に繰り返し言い聞かせたのだった。

そして、夜が終わりの時を告げ、新しい朝が訪れようとした時、王子は浅い眠りから目を覚し、
なんとなく月見窓の方を見たのだった。

 すると、そこに一羽の懐かしく見覚えのある鳥の姿が、透ける様に淡く儚げに姿を現していたのであった。
王子がゆっくりと起き上がるとその鳥は、「キューン。」と愛らしく小さく鳴いたのだった。
王子はそっと近づいていったのだったが、その鳥に伸ばした手は、実体をつかむことは出来ず、
ただ空を切るばかりであったのだった。

 しかし王子はその鳥の姿に確かに温かな思いを感じ、鳥に向かってこう言ったのだった。
「ありがとう。よく来てくれたね。僕はもう大丈夫だよ。」
そう言うと、懐かしくその鳥を見つめたのだった。

 そしてもう一度手を伸ばそうとした瞬間、おぼろげな鳥の姿はパッと消え、その細かな破片も、
スーッと窓の外へと消えていったのだった。
その後を目で追いながら王子は、確固たる覚悟を胸に刻みつけたのだった。

 しばらくして、朝の光が大地の領土を少しずつ照らし始めると、大地の「祈りの寺院」から、
大きく長く鐘が鳴らされ始め、王子を迎えに、使者が二人静かに部屋に入ってきて、
無言の内に王子を王の広間へと促したのだった。

 ずっと続く荘厳な鐘の音に、大地の民達は一人また一人と家の外へ出ては、王の城の方角へ跪き、
王子の石宿しの儀式が無事に終わるよう祈ったのだった。

 王の広間では王が玉座に着き、周りを城の者たちが大勢、取り囲んで王子が現れるのを、
じっと待っていた。

 自身の石を身体に収める「成人の儀式」は、16歳の誕生日に取り行われる。

石は魂のレベルによって、光を見いだせない原石であったり、宝石のように輝く石であったりする。
そして、王族に生まれし者は、すでに自身の覚悟と役目を選んで生まれてくれるため、その石は
宝石の輝きを身にまとっていのであった。しかし、石が美しければ美しいほど、石の力は増し、
石の抵抗も強いゆえ、「成人の儀式」で石の反発にあい、命を落とす者もいるのであった。

 また願い出る望の高さや、石を収める身体の位置によっても、石の反発は違いを見せた。
多くの民達は大抵、自身の得意な分野に役立つ場所に石を収める。
 それは、物作りが得意なものは手に、素早く走ったり、遠くまで行き来する者は足などに。
そうして、一体となった石の魔法の力を借りて、それぞれの生活に役立てていたのであった。
 その中で王族は、自身の領土に尽くすため、もっと多きな願いを石に込めた。

 しかし同時に大きな負荷も掛かるため、王子や姫の「成人の儀式」の失敗は、その領土の存続にも
かかわる大事なのであった。
だからこそ、人々は王子の儀式の成功を祈った。
 
 それぞれの領土では、石の特質も違っていた。
空の領土では、「崇高なる意志」を表すサファイアが。
水の領土では、「清廉なる意志」を表すアクアマリンが。
緑の領土では、「悠久なる意志」を表すエメラルドが。
炎の領土では、「躍動なる意志」を表すルビーが。
そして大地の領土では、「安寧なる意志」を表すオパールが。

それでは、身体を持たぬ「風の民」は一体どのような石を持っていたのであろう?
 身体を持たず自他と他者との違いを持たぬ風の民の事。
彼らにとっては、物など必要ではないのだが、その輝きは陽の光に輝く、「ダイヤのきらめき」
とでも言っておこうか。 

 さて、ここ大地の領土。
今はただ、長い沈黙と「祈りの寺院」からの遠く聞こえる鐘の音だけが、王の広間に存在して
いたのであった。
 やがて「祈りの寺院」の鐘が鳴り終わると、頭からすっぽりと黄金色のマントのフードを被った
王子の姿が、一同の前に現れたのだった。

 静かに、ゆっくりと、一歩一歩かみしめる様に王子は、王のいる玉座の前まで歩み出て、
王の元に跪くと、ゆっくりと顔を覆っていたフードを取ったのだった。
そして、王と王子が見つめあい、互いに頷きあうと、王は無言のまま手をあげて合図を送り、
成人の儀式を執り行う司祭が、ゆっくりとユーリス王子の前に進み出てきたのだった。

 そして、王子の顔をゆっくり確認してから、右手に持つ教本の上にトパーズを宿した左手をかざし、
目を閉じながら、静かに呪文を唱え始めたのだった。

 するとしばらくしてから、司祭の持つ教本から魔方陣が浮かび上がり、そこから無数の光が
噴水の様に湧き出てきたのだった。
 その無数の光を確認すると、ユーリス王子はゆっくりと立ち上がり、光に溢れたその魔方陣の中に、
自身のトパーズを置いたのだった。

 王子のトパーズは、溢れる光に洗われてその光の噴水に押し上げられるように宙に浮いていたのだった。
司祭は宙に浮くトパーズをゆっくり見つめた後、王子の顔に視線を向けて、静かに頷いて見せたのだった。

 ユーリス王子は、一度大きく息を吸うと、ゆっくりと大きな声で、こう宣言をしたのだった。
「大地の王の元に生を受けし我の名は、ユーリス・マレンスタイン。
我、我が石に命じる。本日今を持って、我の額に収まりたまえ。
我の願いし「愛するものを守りし力」を持って。」

 そう言うと王子は、腰に収めた王家に伝わる短剣を、自身の額にかざしたのだった。
それまで、司祭の教本の上で漂っていたトパーズは、王子の宣言を聞くと次の瞬間、
パッと眩しい程の閃光を四方八方へと放つと、そのまま大きな球体を形作り、王子を
そのまま飲み込んでいったのだった。

 こうしてこれから先は、王子と石との問答が、何者をも入れぬその空間で、静かに始まろうと
していたのであった。
 王の広間に取り残された人々は、まず王が玉座を降り広間を退出するのを見届けると、
次々と皆、広間を後にした。

 そう、石宿しの成人の儀式は、石とその主だけの神聖なる場。
石と主が問答を終え、一体となって光の中から出てくるまでは、誰もその場にいては
ならなかったのだった。
 それは、どの領土の者も、ただ一人、己の力だけでやり遂げねばならぬ事。
一切の口出しも、一切の手出しも許されぬ事なのであった。

 王の部屋に戻った王は、さき程の我が息子ユーリス王子の宣言を、繰り返し頭の中で唱えては、
王子を誇らしく思ったのであった。

「ユーリス王子。自身の石を宿す場所を額と定め、確か、「愛する者を守りし力」と言っておったな。
なかなか良い覚悟じゃ。「愛する者を守りし力」か。きっと、王妃を思うての事であろう。
漠然とした大きな望みなればこそ、石の理解も難儀なはず。これは相当なる反発を伴うものであろう。
王子の無事を願う我の力を届ける事はできぬが、何とも無事に石を宿し、成人となった王子を
早く祝福してやりたいものだ。王妃よ。そなたが守った王子は、たいそう大きな願いを決心いたしたぞ。」

そう呟いて、炎の領土の方角を遠くに、視線を飛ばしたのだった。
それから王の広間の方に目をやり、王子に向かってこう呟いたのだった。
「ユーリス王子よ。信じようぞ、そなたを。」

 それから王は、固く目を閉じて、一人静かに儀式の終わりを待ったのだった。
一方、城の中庭に出てきた城の者たちも、小声で周りの者同士、王子の決意を讃え、
また王子の無事を静かに待ったのだった。




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by maarenca | 2014-08-13 10:02 | ファンタジー小説