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THE SIX ELEMENTS STORY No14






THE SIX ELEMENTS STORY





No14


                                            
                                           著 水望月 飛翔




 そうして、二人が馬車に近づき、見た光景とは。

ゼンスが馬車を降りた後、ユランの導きに応え、身体を呈して闇の攻撃から馬車を守っていた
聖龍なのであったが、そんな姿を想像できぬほど、今はゆったりと寛ぎながら身体を投げ出して、
力を失った闇の最後の残骸を口にくわえ、飲み込んでいる龍の姿がそこにあったのだった。

「なんともはや・・・。」そんな龍の姿に絶句するゼンス。
彼らのいる場所はまだ「迷いの森」の中。
 この信じられない光景に、言葉を失い苦笑しながら馬車に乗り込んだゼンスを、
ユランは今では落ち着いた表情の王妃の寝顔に、ゆったりと「癒しの詩」を歌いながら
穏やかに出迎えたのだった。

 ユランは馬車に戻ったゼンスの無事な姿と、前よりも力強い印象になった精霊の姿を見て、
うれしそうに微笑み、ゼンスにこう言ったのであった。

「やあ、ゼンス殿。あなたもご無事でしたか。一時はどうなる事かと思いましたが。
あなたがいなくなった後、闇の力がどんどん増して、持ちこたえられるかどうかと不安に思いましたが。
しかし先ほど、突然沢山の強い光が森の奥から急に現れて、一気に闇を貫いたのです。
そのおかげで、闇の力が怯みましてな。それと同時に光を浴びた龍の力が回復して、ほらこの通り、
救われたという訳です。」

ユランは楽しそうに微笑みながら、外に寝転ぶ龍を指さして、こう言ったのだった。
 そう言いながらユランは、ゼンスの傍らにいる精霊を横目で見ると、ゼンスにこう付け加えたのだった。
「しかし、ゼンス殿。以前よりも増して、立派になられた様子の精霊殿ですが。もしやこちらの精霊殿が、
お力をお貸しくだされたのではありませぬかな?」
 そう言うと、穏やかにほほ笑みながら、ゼンスの方を見たのであった。そんなユランの言葉にゼンスは、
突然大事なことを思い出したかの様に、大仰にこう言ったのであった。

「おお、そうじゃそうじゃ。こちらの精霊殿がご自身のお力をたいそう発揮されてのう。実はこのわしも、
命を救われたのじゃった。」
 そうゼンスが言うと、二人で「回復の手」を持つ精霊をじっと見つめたのだった。
ゼンスの傍らに佇む「回復の手」を持つ精霊に、意味ありげに視線を送りながら、二人の勿体つけた
大仰な言葉に、精霊は困って自身の身を隠そうと、あたふたとしたのだった。

 そんな精霊の姿に、ゼンスもユランも可笑しさをこらえきれず、フッと噴き出したのだった。
が、しかし、そこは「聖なる騎士団」と呼ばれし者。
少し笑った後に二人は目を合わせると、今度はゆっくりと姿勢をただし、その場に跪くと、
ユランが丁重に精霊に向かってこう言ったのであった。

「「回復の手」を持つ精霊よ。そなたが自身の力を発揮されたおかげで、我々は皆、救われ申した。
そなたの真の力のなんと素晴らしき事。ここに感謝をいたしまする。」そう言いながら、
深々と頭を下げたユランの姿に、少し戸惑いを見せたものの、「聖なる騎士団」からの言葉を受け、
この精霊の心の中で、確かに何かが芽生えたのであった。

 それから精霊は、今は静かに眠りについている王妃の顔を覗き込むと、ホッとした表情を浮かべ、
再び静かに「回復の手」を王妃に向けたのであった。
 その姿をみて、ユランはのど元のアクアマリンに話しかけ、「カーンサークの泉」からもらった水を
戻すため、空気を吸い込むように自身の石に戻したのだった。すると、龍の姿はゆっくりと消えると、
元の竪琴の姿に戻っていったのだった。
 そうして一行は、炎の洞窟に向かって動き出したのであった。

「迷いの森」の闇の力はまだ完全に消えた訳ではない。
しかし、彼らの周りを漂ってはいるものの、今は大した力を向けては来ないのであった。

 そんな中再び、炎の領土に向けて進む一行の馬車。
それからようやく、燃えるような赤い色を帯びた、活発な星々に彩られた空が遠くに、
少しずつ見られるところまで、一行を乗せた馬車は進んだのであった。

 そう、それは炎の領土の空。
ひとつひとつが躍動感に満ち溢れた星々は、常に燃えるような生命力を湛えた赤い色と、
生命の喜びを表す黄色で彩られ、跳ねる様に動くさまは、常にじっとしていられない炎の民達の、
気質そのままを表していたのだった。

 そして、時折おこる民達のたわいのない衝突も、そのまま星の運航に現れ、幾度となく星々が
ぶつかり合い、砕けたその破片がこの炎の領土に振り落ちる事も、また、歪んだ音が炎の空を覆うことも、
そう珍しいことではなったのであった。

 しかし、各地を巡る「聖なる騎士団」のゼンスとユランにとっては、この不協和音に満ちた
騒々しい空を見ることは、そんなにいやな事では無かったのだった。そんな落ち着きの無い星々を目にして、
ゼンスがこう口を開いたのだ。

「おお、いつにも増して、また今宵は一段と騒々しい空を見る事になりそうじゃのう。
しかしのう、ユラン殿。わしはこの秩序の無い、不格好な騒々しい空が割合好きなのじゃ。
まあ、雑多という点では我が故郷の「緑の領土」も大して変わらぬからのう。」

 そう言うと、ふっふっふっと楽しそうに身体を揺らしながら笑うゼンスに、
ユランは「いやいや、ゼンス殿。そなたの故郷「緑の領土」とこの「炎の領土」とでは、
その雑多の意味があまりにも違いまする。この両者を同じようにされては。」と言うと、
少し間を置いてから、ゼンスに向かってこう言ったのだった。

「しかし、実を申せばこの私も、このような空でもあまり嫌いではないのですよ。
ある方角から見れば、ただ騒々しくて調和がとれていないやもしれませぬが、
また違う方角から見れば、こんなにも躍動感に満ち溢れ、生命のエネルギーが輝いて見える。
これは、我が領土「水の領土」にはない、何やら楽しい感覚でもありましてな。」ここまで言うと、
一つ間を置いてから、また続けてこう言ったのだった。

「しかし、こんな事は、「空の領土」ロードス殿の前では迂闊に言えませぬな。」
と、ユランは何やら意味ありげに、ゼンスの方に視線を送ると、二人は目を合わせて、
そのまま短い含み笑いをしたのだった。

 そう、緑、水、大地の領土からは、あまり「炎の領土」の空をしっかりと把握することは
難しかったのであったが、翼を持ち、また高いところに住む空の領土の民達からは、
この隣接する騒々しい、炎の領土の空が手に取るように見え、空の領土に比べて、
いつも不格好に瞬いている炎の領土の星々を目にしては、密かに眉をひそめているのであった。

 そして、この不協和音の気配が少しでも、空の領土に近づいてこようものなら、
すぐさま冷たい冷気を起こし、炎の領土へと追い返していたのだった。

 だからだろうか。
たまに炎の領土に似つかわしくない、冷たい風が吹くのは。

そんなことを二人が話していると、それから程なくして、三人を乗せた馬車は、
炎の領土に入っていったのだった。
 すると、他の者の進入を知らせるかの様に、星達がガチャガチャと音を鳴らし始め、
威嚇するかの様に赤黒く変化したり、奇妙な文様を作っては彼らの馬車に迫ってきたのだった。

 ゼンスはそんな空を見上げながら、「ほう、これはこれは。今宵の歓迎はまたいつにも増して、
にぎやかなものじゃのう。」と、可笑しそうに言ったのだった。
「やれやれ、今からこれでは先が思いやられますな。」と、ユランは半ばあきれながら、
フッとため息を漏らしたのだった。

 そう、未だ「聖なる騎士団」の中に「大地の領土」出身のものはおらず、故に大地の領土の者が
この炎の領土に足を踏み入れたのは、これが初めての事なのであった。

 そして馬車に乗る大地の王妃の、今までに感じた事のない未知なる気配に対し、
きっと星達も何かを感じたのであろう。
 ざわめく空の知らせにより、炎の民達も、やがてあちらこちらから姿を現し、大地の王妃を
乗せた馬車を、不思議そうに迎えたのであった。

 そんな異変が伝わったのであろうか、次第に、ある者は握り拳を振り上げる様に威嚇して、
またある者は大きな奇声をあげながら、彼らの馬車に近づいてきたのだった。 

いつもは「聖なる騎士団」を、温かく迎え入れる炎の民達ではあったのだったが、
大地の王妃の見知らぬ気配の為か、それとも「謎の物体」の残した、不吉な気配を感じたためであろうか、
星々と同様に落ち着きなく、ざわめく群衆の間をぬって、炎の王の城へと進む馬車であったのだった。
 
 炎の領土・・・。
そこはずっと、長きにわたり続いている、火山地帯からなる領土で、その中心部の一番高い山からは、
常に溶岩が流れ出ており、赤々とうねるように動き、営々とその移動を続けていたのであった。
 その、何者をも近づけぬ溶岩の流れは、徐々に冷めてくると少しずつその色を
赤から黒色へと変化をしはじめ、やがて次第にその動きも遅くなると、後から続く溶岩に押されては、
歪んだその溶岩の裂け目から、また赤々と燃える溶岩が新たに生まれる。

 そうして、その繰り返しの先には、次々に海へと落ちていくのだった。
赤と黒の塊が繰り返し永久にうごめくこの光景。
こうして、この領土の下で、その流れを止めない溶岩の動きが常に感じられるからだろうか、
炎の民達は、真に心落ち着くということを、生まれてから死ぬまで、経験することが無かったのやもしれぬ。

 炎の城の下には、この領土の中でも一際熱い溶岩が活発に動いており、常に凄まじいエネルギーが、
その活動を続けていたのだった。

 そして、その溶岩の爆発的な力を長きにわたり、抑えているのが、歴代の炎の王達なのであった。
歴代の王達は、王の城の地下で踊り狂う溶岩の動きを、常に封じなければならず、その為、
城外へは一切出る事をせず、自身の意識を常に地下の溶岩へ集中し、封じていたのであった。


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by maarenca | 2014-07-30 12:21 | ファンタジー小説