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THE SIX ELEMENTS STORY No13





THE SIX ELEMENTS STORY



No13


                                          
                                          著 水望月 飛翔



さて、炎の領土にある、「タンカークの洞窟」に送られた大地の王妃は、その後いったいどのように
なったのであろうか。

「聖なる騎士団」のゼンスとユランに伴われ、遠く炎の洞窟へとたどり着いた王妃であったが、 
そこまでくる道中は、弱り切った王妃の身体には、とても堪えた旅でもあった。
 顔や身体の多くを炎で焼かれた王妃。その体内の大部分も、謎の物体の侵入により、
多くを焼き尽くされた瀕死の状態なのであった。

 しかし王妃は、大地の王と王子や民達に心配を掛けまいと、何としてもこの大地の領土の中では、
自分が倒れるわけにはいかないと、気丈に最後の気力を振り絞り、炎の領土への道を進めたのだった。

 それでも、乱れる呼吸と時折大きく揺れる馬車の振動に、たびたび、苦痛の表情を登らせる王妃。
そんな懸命な王妃の姿にゼンスとユランは、心を痛めながら、ゼンスは「生命の息吹をもたらす杖」を振り、
森の精霊を集めると薬草を探させ、王妃の傷口に乗せ手当をさせたり、「回復の手を持つ」精霊を呼び出し、
つきっきりで王妃の看病に当たらせたのだった。

 そしてユランは、少しでも王妃の苦痛を和らげようと、「聖なる龍の鱗からなる竪琴」をつま弾きながら、
炎の領土に着くまでの間ずっと、「癒しの詩」を歌い続けたのだった。

 しかし、炎の領土に入る前には、そこに「迷いの森」の存在が、やはり大きく立ちはだかっていた。

 三人を乗せて歩を進めていた馬車であったが、少しずつ暗くなってくる闇の陰鬱な重い空気に、
息苦しいような圧迫感を覚え、時折、「ヒューン、ヒューン。」と見えない何ものかの気配が馬車に近づくと、
その気配が通り過ぎるたびに、馬車を少しずつ凍らせていったのであった。
 そして時折、この世の声ではないような、耳をつんざく悲鳴も加わり、馬車に激しくぶつかってきては、
次第に大きく馬車を揺さぶったのだった。
 一行を乗せた馬車がいよいよ「迷いの森」の深部に来た時、馬車の周りを覆う暗闇が一段と
その黒さを表すと、それまで王妃の看護にあたっていた精霊たちが、馬車の外から次々と押し寄せてくる、
闇の恐怖に恐れをなし、一人また一人と、ゼンスの杖の中に逃げ帰っていったのだった。

 そして、とうとう「回復の手」を持つ精霊までもが、己の務めを忘れ、ゼンスの杖の中に隠れて
しまったのであった。
 精霊の「回復の手」の力がなくなると、王妃の苦痛は一層強まった。
そして、外から迫りくる恐怖と自身の大きな身体の痛みが王妃を貫き、いよいよ王妃の精神は、
「迷いの森」の力により、王妃の身体から引き離れそうになったのだった。

 それを見たゼンスは意を決すると、一人馬車の外に出た。
そして、自身の杖を大きく振りながら「迷いの森」の闇に直接話かけたのだった。
「迷いの森の真なる闇よ。今こそ、我が声を聴け。そなた達はいかなる者であろうや?
そなた達の真なる姿をいま、我の元に現したまえ。」
 そう言いながら、大きく杖を振りかざし、闇の深部に入っていくゼンス。
ゼンスは、少しでも「光のかけら」が残っていないか、探し始めたのであった。

一方、増々激しく馬車が揺さぶられ始めると、一人王妃の元に残っていたユランは、
自身ののど元に宿るアクアマリンに話しかけ、己の意識をアクアマリンから通り抜けさせると、
遥かなる水の領土「カーンサークの泉」の元へと辿り着いたのだった。

 そして、この清き泉の精霊から「聖なる水」をすこし貰うと、のど元のアクアマリンから
また自身の意識とその「聖なる水」を出現させたのだった。
 そして自身の竪琴に飾られている龍の鱗にその水を降り注ぐと、こう言ったのだった。
「我が竪琴の元に眠りし、聖なる龍よ。今こそ己の真の姿を現し、我の元にその姿を現したまえ。」
自身の竪琴に語り掛けるユラン。
 すると、「聖なる水」を吸った龍の鱗が、見る見るうちに龍本体の身体を形成し始めて、
「水の領土」の美しい七色の湖の色を持つ、聖なる龍の姿を出現させたのであった。

 そしてユランの元に出現した龍は、そのまま馬車の周りを自身の身体で守るように覆いつくし、
王妃の魂を闇の力に渡さぬ様、王妃を守ったのであった。
 
 間断なく、激しく馬車に向かって疾風が吹き荒れた。
龍のうろこに突き刺す痛み。
四方八方から攻撃を仕掛けてくる闇に対し、龍は相手を一瞬にして凍らせる程の、冷たい冷気を口から
勢いよく吐いては、姿の見えぬ闇の攻撃に必死に耐えていたのであった。
 馬車の中では、そんな龍の力を持続させるため、一心不乱に力を込めて、呪文を唱え続けるユラン。
王妃は、ユランの「癒しの詩」が無くなった間、必死に恐怖と全身の痛みに耐えたのだった。

 一方、闇の深部に入っていったゼンスもまた、目には見えない攻撃の手が自身に降り注ぐ中、
さらに隠された闇の深部へ迫ろうとしていたのであった。
 肌を刺すするどい疾風。
一足進むごとに、闇の攻撃は増していった。
 先ほどから、ゼンスに襲いかかってきた勢いのある大きな疾風が、次第にその姿を鋭利な形に
変え始め、少しずつゼンスの身体を、ナイフがすり抜けていく様に傷つけていったのであった。
それと同時に先程からゼンスの足元にまとわりついていた闇が、次第にじわじわとゼンスの身体の動きを
静かに止めていったのだった。

 そしてとうとう、ゼンスがもはや一歩も動けぬようになると、一気に闇の力がうねりをあげて、
冷たい泥がゼンスに覆いかぶさって来たのであった。
 埋もれていくゼンス。
身体全部をその冷たい泥が埋め尽くし、動きを止められると、ゼンスの意識は遠のいていったのだった。

 しかし、遠のく意識の中でゼンスは最後の気力を振り絞った。
「ここで終わるわけにはいかぬのだ。わしは、闇を闇のままで終わらせるわけには、いかぬのだ。」
この最後の強い思いに全身全霊をかけて、自身に言い聞かせる様にゼンスが言うと、それまで
怖がってゼンスの杖の中に隠れていた「回復の手」を持つ精霊が、自ら姿を現したのだった。

 そして、そのゼンスの強い思いに呼応して、自身の「回復の手」の力を一気に、
ゼンスの持つ杖に向かって解放したのだった。
 すると、ゼンスの杖から勢いよく溢れだした光。
一瞬にしてゼンスを覆っていた固い泥を粉砕し、闇の中を勢いよく貫いた。

 それまでずっと長い間、この「迷いの森」に光など射した事はなかった。
この重くのしかかっていた暗闇を、まるで浄化するかの様に光の束が、神々しい程の輝きで、
どこまでも遠く、解き放ったのであった。

 その光の一筋に、当たったものが一つ。
それは、弱々しいが確かに闇の中に残っていた「光のかけら」なのであった。
ゼンスはゆっくりと重い身体を起こすと、自身の額に宿るエメラルドに話しかけ、
その頼りない儚げな「光のかけら」を出迎えるよう、道しるべとなる光を放出させたのだった。

 そしてゼンスの額から進み出た、真っ直ぐに伸びるエメラルドの光に出迎えられると、最初は
少し怯えた様に震えていた「光のかけら」であったのだったが、恐る恐るその光の上に自ら乗ったのだった。

 ゼンスの元へと優しく導びくエメラルドの光。
ゼンスは、自身の手にそっと「光のかけら」を乗せると、優しく話しかけたのだった。

「闇の中に残りし「光のかけら」よ。よう、我が元に来てくれたのう。さあ怖がらずともよい。
そなたの思いをこのわしに話してはくれぬか?」
 慈愛に満ちた、深く温かなビロードのようなゼンスの声に、「光のかけら」は、
最初はただ小刻みに震えながら黙っていたのであったが、しばらくしてから、
ゆっくりと小さい声で話し始めたのだった。

「・・・・さびしいの。悲しくて。でも、本当の闇にはなりたくない。助けて・・。」
最後はほとんど消え入るような小さな声で。

 しかし、ゼンスの手の温かな温もりにホッとしたのか、「光のかけら」の震えは次第に止まり、
その後はまるで雪が溶けてなくなるように、スーッと消えてしまったのだった。

「ありがとう。」そうゼンスの耳に小さく残して。

 ゼンスは消え入る小さな「光のかけら」を見送ると、静かに目を閉じて、自分に言い聞かせる様に
ひとり思った。

「やはり、闇は初めから闇として生まれたわけではない。この星に存在している闇をすべて、
元の光の姿に戻してやらねば。それと同時に、生まれた闇の原因を突き止めて、なんとしてもこれ以上、
新しい闇を生ませぬ様にせねばならぬ。」
そうゼンス心に決めたのであった。

 それからゼンスは、少し離れた所に佇む「回復の手」を持つ精霊の方に目をやると、
優しいまなざしでほほ笑み、精霊にこう言ったのであった。

「「回復の手」を持つ聖霊よ。そなたが我が杖に戻りし時は、どうしてくれようかと思ったのじゃが、
よう我が意志に答え、また戻ってくれたの。そなたのおかげで、わしは命拾いをした。
そなたの勇気に深く感謝をいたす。」
そう言うと、ゼンスは精霊に向かって深々と、頭を下げたのだった。
「回復の手」を持つ精霊は、最初に逃げ出した自分を恥ずかしく思う気持ちと、ゼンスに褒められて、
なにかくすぐったい様な気持ちとがないまぜになり、どうしていいのか落ち着かない様子で、
ふわふわと宙を浮いていたのだった。

 そんな精霊にゼンスは優しく手を伸ばし、自身の手に乗せると、そっと精霊に向かって、
「さあ、まだ闇の力が完全に消えたわけではない。急いで馬車に戻るとしよう。」と言うと、
二人で急ぎ馬車に戻っていったのだった。







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by maarenca | 2014-07-26 17:57 | ファンタジー小説