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THE SIX ELEMENTS STORY No12



"THE SIX ELEMENTS STORY



No12




                                      著 水望月 飛翔



 一方、王妃と共に自室に戻った姫は、少しの間ではあったが、不在にしていた自身の部屋を眺めると、
戻って来られた安堵感と懐かしさに、ひとり浸ったのだった。
 そう姫の部屋には、幾重にも重ねられた薄絹と、ふわりと漂う細いゴールドの細工と、
色取りどりにきらめくガラス細工が、この愛らしい姫の部屋を、ずっと守っていたのであった。

(ただいま、みんな。私のいない間、この部屋の留守をしてくれてありがとう。)
姫は懐かしそうにそれらのものたちに、テレパシーで話しかけたのだった。

 そして、姫からの感謝の言葉に、部屋に輝くそれらのもの達は、静かにキラキラと輝いて見せたのだった。
しかし、オレンジ色に輝くガラスのきらめきを見ると姫は、大地の王子の瞳の色がよみがえり、
次の瞬間、寂しそうなユーリス王子の横顔を思い出して、自分でも気づかない間に、
両の目からまた次々と、悲しみの涙が溢れだしてきたのであった。

「どうしたのです?姫。」王妃に心配そうに聞かれた姫は、優しく自分を見つめる王妃の顔を見ると、
ひとり心に思ったのだった。

(ああ、私には私をこんなにも心配してくれる母様や父様がいる。そして、私を守ってくれる兄様も。
それなのに、あんなに優しいユーリス王子にはもう、お母様は傍におられないのだわ。)
 心配そうに自身を見つめる母の顔を見て、心の中でそう呟いた姫は、今すぐユーリス王子の傍に行き、
少しでも王子の悲しみを和らげてあげたいと、また新たな涙を流すのであった。

 ただ幼く、明るく無邪気な表情しか浮かべなかった、今までの姫とは明らかに違う変化に、
静かに何かを感じる王妃。
 しかし王妃は、今は何も言わずに、ただ優しく姫をベッドへ促し、二人腰を
降ろすと、王妃は静かに「やすらぎの詩」を姫に歌って聞かせたのだった。
姫はそんな母の胸に頭をもたれながら、少しずつ、穏やかな夢の世界へと入っていったのであった。

 空の領土に姫が無事に戻ったことを知った民達は、一人また一人と、家の外に出て、
静かに天上の音が響き、星々が輝く夜空に向かって、「感謝の詩」を歌ったのだった。

空の民達は、様々な想いを歌に込める民。

 多くの者の歌声が夜空に響き始めると、ずっと姫のいない間、悲しみの色を湛えていた星達は、
少しずつ生気を取り戻し始め、次第に美しい色の変化を見せていったのだった。
 そうして、少しずつ「喜びの音」を空の領土に降り注ぐと、王の城へも祝福を届けたのだった。 
星々達からの祝福を受けた空の王は、星々に感謝をしめすと、少し何やら考え、
それから自身の首元に宿るサファイアの力を呼び覚まし、「やすらぎの詩」を天上に向かって
歌い始めたのだった。

 それは、王の詩を聞きし者の心を、忽ちにして癒す力を持つその歌声を、遥か彼方、
大地の領土へ届けようと、試みたのであった。

 そう、他の領土に向かって、「やすらぎの詩」を届けようとした事など、未だかつて無かった事。
はたして、途中にある謎の闇が支配する「迷いの森」の上空を抜け、無事に大地の領土へ届くのか?

 大地の領土へ向けて歌う王の詩の波動が広がると、カサレス王子や王妃をはじめ、
次々に気づいた空の民達は、王の意志を感じ取り、王の詩を無事に大地の領土へ届けようと、
王の詩の下に自身の歌声で支えをするかの様に、次から次へと現れる波の姿となって、
遥か彼方、大地の領土を目指し進んでいったのであった。
 
 その頃、深い眠りについていたリティシア姫は、城の外から伝わってくる今までに無い
祈りの籠った強い波動と、小刻みに震える空の城の異変を感じとり、眠りから目覚めたのだった。

 そして、ゆっくりと姫は身体を起こし、姫の上にかけられていた薄布をどけると、ふんわりと
空中を漂うように窓の方へ行き、姫の部屋のガラス戸をそっと、開けたのだった。  
そうしてリティシア姫は、空の城を取り巻く風と天空に瞬く星々に、これはいったいどうしたのかと、
静かに尋ねたのだった。

 すると、空の領土を流れる風と星々は、そうした姫の問いかけに、空の王が大地の領土に向かって
「やすらぎの詩」を歌い、その波動に呼応するように王子や王妃も加わると、空の民達も協力をして、
王の詩が無事に届くよう歌の波を形づくっているのだと、姫に教えたのだった。

 それを聞いた姫は嬉しそうに、「ああ、父さま。母さま、兄さま、空のみんなも。ありがとう。
本当にありがとう。」と、心の中で呟くと、姫もすぐに「やすらぎの詩」を歌い始めたのだった。
 すると、姫の小さな澄んだ歌声は、そのまま小さな鳥の姿となって、人々が作る波の上に現れると、
彼らの波の力で運ばれるように、大地の領土へと向かっていったのであった。

「どうか届きますように。大地の領土、ユーリス王子の元に、この「やすらぎの詩」が無事に届きますように。」
 
 空の民達が歌う「やすらぎの詩」とはなにか?
空の領土の者達は皆、人と物との区別をあまり設けず、常にこの世界にある全てのものに、
敬意を払う気持ちを持っている種族であり、いつしか万物に対して、安らぎを届けられるようにと、
祈りを込めた詩「やすらぎの詩」が誕生したのであった。

 そうして、現在の空の王はその「やすらぎの詩」をもっと大きな波動で、もっと多くのものに届けたいという
志を持って、成人の儀式に己の首元にサファイアを埋め、空の領土の玉座に着いた後は、
王の「大いなるやすらぎの力」を持って、この領土を平和に収めていったのであった。

 そんな力強い王の歌声が作り出した、大きな波の上に乗って、姫の歌声から生まれた小さな鳥は、
天上の光に照らし出された、美しい星々で埋め尽くされた空の領土をずっと、優雅に滑るように
渡っていったのだった。

 しかし、ずっと空の領土の端まで来ると、あんなに守るように輝いていた星達の姿がぐんと減り、
かなり心細さを増してきたのであった。
 そうして、いよいよ何もない暗闇が支配の色を強めだし、やがて最後の星の輝きを超えると、
そこから先の、「迷いの森」の上空に入っていったのだった。

 一見何もないような暗い空間に、姿は見えぬが何やら犇めく不穏な気配。
そのうねりを帯びた闇の気配が、息苦しさを感じるその空間。
 先程まで、あんなにすべらかな波に押し出される様に進んできた「やすらぎの詩」であったのだったが、
やがて「迷いの森」の上空に差し掛かると途端に、何者か見えない力によって、波の形が崩れだし、
少しずつ勢いの力が削がれてきたのであった。

 今まで均一だった、心地よい波のリズムが不規則に崩れだすと、小鳥の姿の姫の歌声も、
ともすると支えてくれている王の波から滑り落ちそうになり、何度も「迷いの森」の闇の中へ
吸い込まれそうになったのだった。

 そして時折吹く突風に、身体を激しく揺さぶられたのだったが、そんな時には、王の力強い歌声に
支えられ、ようやくもう少しで、この「迷いの森」を抜ける所まで来たのだった。

 そしてそこへ、大地の領土にある星達が、空の領土からの贈り物の気配を感じとると、
その方角へと出迎えるために、風を従えて向かおうとした矢先であった。
 まるで、最後の攻撃でもあるかのような突風が、迷いの森の暗闇から、姫の歌声の小鳥に向かって
、一気に襲いかかってきたのだった。

 しかしそこへ、姫の小鳥を守るように、王の最後の歌声が盾となり、その突風を遮った。
それと同時に最後の瞬間、強い衝撃に耐えきれず、小さな羽が舞い散るように突き崩されて、
王の盾はそのまま四方八方へと飛び散りながら、消滅してしまったのであった。
 その衝撃に飛ばされた小鳥の元に、大地の星々を運んできた柔らかな風が近づいて、
姫の歌声をそっと受け止めると、そのまま優しく包みながら、大地の城へと運んだのだった。
 
 ここは大地の領土の空。

大地の領土の星々は、穏やかな均衡を保ち、大地の人々を見守るような、温かさを持った音を
ゆったりと奏で、静かに揺らいでいた。
 そこへ、その星々の間を優雅に舞うように、小鳥を抱いた風が通り抜け、大地の王の城に着くと、
そのまま王子の部屋に向かい、そっとユーリス王子の部屋の窓を叩いたのであった。

 その夜も、いつもの様に寝付けずにいた王子は、一人ベッドの上で何度も寝返りを打っていたのだった。
夜が進むにつれ、頭の芯は逆に冴えてきて、繰り返し母の面影が、王子の脳裏に現れては
消えていくのであった。

 最初は穏やかに優しくほほ笑む、母の美しく温かな姿が王子の前に現れるのであったが、
その姿は次第に炎に包まれ、茫然と立ち尽くす母の姿にとって代わり、最後には、冷たい夜の冷気だけが
見送る馬車に乗せられ、無言でこの城を後にする、悲しい王妃の姿で終わるのであった。

「やめて、そんな姿を僕に見せないで。」
何に対して言っているのであろうか、王子の脳裏に映し出される母のさびしい姿を打ち消そうと、
その夜も、必死にもがいていたユーリス王子なのであった。

「トントン。」
そこへ何やら窓を叩く気配に気づき、王子は不思議そうに窓に近づいていくと、窓が静かに開き、
温かく穏やかな風が、王子を包み込んだのであった。

その風の気流の中で、リティシア姫の歌声で形作られた小鳥が、王子の周り
を飛び回り、鈴の様な清らかで愛らしい歌声が、王子の頭上に降り注がれた。
その心地よい歌声に、王子は全身を預け佇んでいたのだったが、やがてその歌声が
最期を迎えると同時に、淡い小鳥の姿も「パッ。」と一瞬で霧散したのだった。

その後に残ったのは、いつもの王子の部屋。

 突然の出来事に、最初は少し戸惑った王子であったが、自身の心に残る感覚の中に、
小鳥の姿のほかにもう一つ、実際にあったことはない、本来の空の姫としてのリティシア姫の姿を、
確かに知覚したのであった。

「さっきの小鳥の姿、あれは。それにあの姫はいったい、誰?」
しばらくの間、その場に佇む王子であったが、しかし、王子の心の中には明らかに、
確かな安らぎが、はっきりと残っていたのだった。

(僕は守られている。)
そう温かな安心感に包まれた王子なのであった。

「もうこれからは、ただ嘆き悲しむだけの時を過ごすのはやめよう。僕自身の手で、父上とこの大地の皆を
励まし、元気づけていこう。そして、一刻も早く大人になって、必ず母上をお迎えに行くんだ。」
そう王子は心に決めたのであった。

 それからの王子は、王や大地の民達の前では積極的に明るく振舞い、皆を安心させようと、
沈んだ表情を皆の前では一切見せずに、毎日を過ごしたのであった。
 ただ時折ふと遠く、炎の領土の方角へ視線を向けると王子は、母が少しでも元気でいられる様にと、
その場に跪き、一人深く祈りを捧げるのであった。

 そして、馬術やあらゆる勉強を意欲的にこなし、少しでも時間が空くと、まだ先の自身の
「成人の儀式」の事を考えるのであった。

「母上を一刻も早く、この大地の領土に連れ帰り、また、今後一切こんなことが起こらないように
する為には、いったいどんな事を石に望み、どんな場所へ宿せばいいのだろう。」
王子は何度も何度もその様に考えたのであった。







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by maarenca | 2014-07-23 13:27 | ファンタジー小説