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THE SIX ELEMENTS STORY No11

THE SIX ELEMENTS STORY


No11




                                             著 水望月 飛翔

 

王は静かに、王妃に姫を部屋で休ませるように言うと、王妃はそっと優しく肩を抱きながら、
姫を部屋へと連れて行ったのだった。
 そんな二人の後ろ姿を見送ると、空の王はロードスにこれまでのいきさつを説明するよう促した。
 ロードスは静かに語りだした。
ロードスが綿々と話す大地の王妃に起こった悲しい出来事は、その場にいた空の王や
カサレス王子をはじめ、城の者達に大きな衝撃を与えたのだった。
 ロードスがすべてを話終えるまで、皆一様に押し黙り、時には無言で首を横に振り
、時には深いため息をつき、皆、我がことの様に真剣に聞き入り、大地の王妃と残された
大地の人々の事を思ったのだった。

「そうか。大地の領土でその様な事が起こっていようとは。」
長い沈黙を破って王は、遥か彼方の大地の領土の方角を見つめ、しばらく何かを考えていたのだった。
 しかし、ゆっくりと向きを変え、カサレス王子の方を見ると、静かだが強い口調でこう言ったのであった。

「カサレス・クレドール王子よ、よいか。今後二度と、姫の姿を他のものに変えるような事をしてはならぬ。
今回の出来事が少しでも、もっと悪い方へ進んでいたら、一体どうなっていた事か。
よいな、そなたの力を安易に他の者に使ってはならぬ。私の次に、この空の領土を守る者ならば、
更なる自制と規律を自身に課さなければなるまいぞ。」静かだが、冷たく言い放つ王。
 
その断固たる強い口調を受けて、カサレス王子は深々と頭を下げると、静かにこう言ったのだった。
「はい、父上。この度の短慮なる我が振る舞い、誠に申し訳ありませぬ。以後はこのような事にならぬ様、
自身をもっと自制いたします。」
 カサレス王子は神妙な面持ちで、王に誓って言ったのであった。
その王子の姿に、唇をかみ心配そうに見守る二人の従者。

 すぐ傍で聞いていたロードスは、リティシア姫と大地の王妃に起こった事のカギを自身が
握っているであろう事と、今回の出来事でまた、カサレス王子が王に冷たく責められている事に対し、
心を痛めたのだった。
 そして全てをこの場で、王に事の次第を打ち明けようと思ったのだった。
しかし、すぐに「聖なる騎士団」長老ゼンスに、きつく言われたことを思い出し、一人押し黙ったのであった。

「よいか。空の聖なる騎士、ロードス・クレオリスよ。全てをそなたの所為だと思ってはならぬ。
あれは不可抗力だったのじゃ。まだあの森の謎がわからぬ今、この事を他の者に一切話してはならぬ。
今、少しでも己の所為だと言えば、ただ周りの者に混乱を与えるだけじゃ。これ以上苦しむ者が増えぬ様、
今は我らの胸に閉まっておくのじゃ。よいな。」
 ゼンスは時折、姿の見えぬ精霊と何やら話をしながら、今まで見せた事のない強いまなざしで、
ロードスにそう言い聞かせたのだった。
 そしてその傍らで、ユランも静かに頷き、この二人の強い視線にロードスは、
ようよう、頷いて見せたのであった。

 そんな二人とのやり取りから、自身のいる空の城へと意識を戻したロードスは、
空の王に向かって静かにこう言ったのだった。

「偉大なる父なる空の王、タリオス王。どうか何卒、カサレス王子を責めないでくだされ。
王子の完全なる変身の力があったればこそ、姫も大地の方々に怪しまれもせず、
こうして無事に戻ってこられたのです。
そして、空の王家の皆様をお守りする事が、このわたくしの聖なる役目。
以後も誓って、我が全身全霊を賭けて、皆様をお守りいたします故、何卒。」
ロードスは床に跪き、深々と頭を垂れて、空の王に誓ったのであった。

 そんなロードスの真摯なる願いを聞いて、空の王は神妙な面持ちでこう言った。
「我らが空の領土の誇り、「聖なる騎士団」のロードス・クレオリスよ。そなたの忠誠、深く感謝する。」
王がそう言うと、続いてカサレス王子も「深き智徳の崇高なる賢者、ロードス・クレオリス殿。
あなた様のお言葉、私の胸に深く染み入りました。私もあなた様に少しでも近づけるよう、
もっと自身を向上させまする。」と、ロードスに言ったのだった。

 王と王子に敬意の言葉を掛けられて、ロードスはこれから自身の生涯を賭けて、
「迷いの森」の謎を解き、二度とこのような悲しい出来事が起こらぬ様にと、心ひそかに誓ったのだった。

 一人城の中庭に出たカサレス王子は、おぼろげな昼の月を見上げていた。
「カサレス王子、どうかご自身を責めないでくだされ。」
王子の後を追ってきたロードスが、テレパシーで王子に語りかけてきた。
振り向く王子。
 ロードスの苦悩を感じとったカサレス王子は、穏やかにほほ笑むとテレパシーでこう返した。
「我らが空の誇り、ロードス殿。貴方様もまた、リティシアの持っている運命の重さを
感じとられたのではありませぬか?そしてまた、ご自身もその役目の一端を背負おうと。」

 自分の心の内を見透かしたカサレス王子の言葉に、ロードスはドキリとした。
(この王子の思慮深さには本当に驚かされる。まだ成人の儀式を経てから何年も経っていないというに。
王子のその瞳には、一体どれだけ永きにわたる未来が見えているのであろうか?)
ロードスは胸の内でそう思うと、じっとカサレス王子の瞳を見つめたのだった。

「慈悲深きカサレス王子。あなた様の瞳には一体どのような未来が見えているのでしょうや?」
ロードスはそういいながら、そっと「天上の光宿す鏡」で王子の姿をとらえたのだった。

「ロードス殿。あなた様のその鏡には、いったい私はどの様な姿で映っている事でしょう?
私には一切解りませぬが、しかし、私もあなた様と同様に、リティシアの未来を守りたいと思っているのです。」 
そう言うと、静かにほほ笑んだのだった。

 ロードスは、王子の言葉に観念して、「そうでしたか、カサレス王子。貴方様も何かを感じ取って
おられるのですね。私の年老いた瞳にはおぼろげにしか写りませぬが、姫は何かの使命を
背負われているご様子。私は少しでも、姫の使命の手助けをしたいと思っております。
しかし、とうのご本人はご自身の使命が何なのか、全く気づいてはおられぬ様子。
傍から見れば、姫の願いは無鉄砲に映るやもしれませぬが、今は姫がその使命に導かれますよう、
姫のされたいようにさせてあげたい。と思うておりまする。」
ロードスはそう言うと、深々と頭を下げたのだった。

 カサレス王子はうなづくと、「だからこそ、あなた様はご自身で負のお役目を背負おうとされているのでしょう。」
そう言ってほほ笑んだのだった。
そして、真剣なまなざしで「私もその為には、喜んでこの身を捧げましょう。」
とカサレス王子はロードスに告げたのだった。

 ロードスが去った後、カサレス王子の元に二人の従者が近付いてきた。
この二人はカサレス王子の両翼を守る者。

 右に控えるアーキレイ・カーライルは、アマラントレッドの由来を持つゴールドの輝きを放つ
長い髪をなびかせて、彼の頭上には「変わらぬ誠実」を現す植物のモチーフで作られた装飾が
添えられており、彼の右肩に収めた石の力は「均衡を守りし力」なのであった。
 
その対極の左に控えるフリュース・リュードは、アドリアティックブルーの由来を持つシルバーの
輝きを放つ長い髪を束ね、その頭上には「秘めたる熱情」を現す植物のモチーフの装飾を置き、
彼の左肩に収めし石の力は「何ものをも超えし者」なのであった。

 空の領土の民は、「成人の儀式」を終えた後、自身のこれからの道を指し示す言葉を決め、
その言葉の由来の植物をかたどった装飾を、その額に飾るのであった。

 カサレス王子の装飾は「深き信頼」である。
王子の身である彼にとっては、少し地味でもある装飾なのであるが、カサレス王子は、
何があっても空の民への忠誠と信頼を、一番に持ってきたいと願ったのだった。

 そんな控え目に、民に尽くそうとする王子に対し、タリオス王の装飾は「空翔ける誇り」の
堂々たる装飾であった。
 タリオス王の、空の領土の民を自身が引きあげていこうとする意志と対極にある、
カサレス王子の民と共にいたいという優しさは、王にとっては物足りなく映っていたのだった。

 そんな王に対しカサレス王子は、自身の周りに誰も置かず、一人自身の思うところを成し遂げようと、
孤独を選んだ時期もあったのだったが、そんな王子に対し、この二人の従者は自ら志願して、
王子の傍に就いたのだ。

「カサレス王子、ロードス殿といったい何を話されていたのです?」
フリュースはまっすぐに王子を見つめ、聞いてきたのだった。

 フリュースの熱きまなざしを受け止めると、王子は柔らかくフリュースにほほ笑んだ。
「フリュース。君の私への信頼は、常に私の進むべき力となる。いつも私の事を思ってくれてうれしいよ。
ありがとう。」と言うと、フリュースの隣に立つア―キレイにも礼を送ったのだった。
 カサレス王子の言葉にフリュースに代わってア―キレイが
「カサレス王子。わたくしはこうして、フリュース殿と共に王子のお側でお仕え出来ることこそが、
わたくしの喜びなのです。王子が目指すべき世界を、わたくし達はまだ見る事は出来ませぬが、
この先何があっても王子の元につき従いまする。」そう言うと、深く頭を下げるア―キレイなのであった。

ア―キレイを優しく見つめるカサレス王子。
フリュースは、「カサレス王子。わたくしにはよく解りませぬが、リティシア姫の今回の願いは、
ただの思い付きではなかったのでしょう?我らの住む世界はこれから大きく変わるのでしょうか?」
と、少し不安げに聞いたのだった。

 カサレス王子は少し間を置くと、先ほどまでの優しい表情から、真剣なまなざしに変って、
二人に話し始めたのだった。

「フリュース。ア―キレイ。私と同じようにロードス殿もリティシア姫の天からの信託を感じておられるようだ。
それが何なのかは私もロードス殿も解ってはおらぬ。しかし、ロードス殿もまた、姫の信託と未来を守ろうと
自身を捧げる覚悟を持っておられる。」
 そう言うと、一呼吸おいて、二人を優しく見つめたのだった。

「これからなにが起こるか分からぬが、これからも二人の助けが必要となろう。
いいや、他にも私に付く者達に、いばらの道を歩ませる事になるやも知れぬ。
安らかな道を示す事が出来ず申し訳ない。」そう言うカサレス王子にフリュースは、
「王子、我らはいついかなる時も王子と共におりまする。それこそが我らの幸せである事を、
どうか忘れないでください。」と、熱く語ったのだった。




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by maarenca | 2014-07-19 13:20 | ファンタジー小説