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Blog|maarenca - マーレンカ

THE SIX ELEMENTS STORY No10

いよいよ、私の大好きな王子が登場します。
これから展開する、空の領土の民の美しき心を一緒に楽しんでください。



THE SIX ELEMENTS STORY


No10



                                         著 水望月 飛翔


 どこまでも青く、気高い空へ。
それは、周りを白い雪で覆われ、高くそびえる断崖に守られた、他の者を拒むその空間。
閉ざされた、空の領土へと向かって。

 しかしその前に、越えなければならない不安定な空。
そう、暗く歪んだ「迷いの森」の上空を、姫を連れてロードスは、無事に越えなければならなかったのであった。
 ロードスは一瞬、不安に思った。
 「聖なる騎士団」を結成してからは、他の二人に考慮して、ロードスは自身の翼で「迷いの森」の
上空を飛んで横断する事がなかったからだ。
 また、「迷いの森」を横断する事は、「迷いの森」の解明の時でもあり、「聖なる騎士団」の
三人はただ無事に通り抜ける事よりも、この森の根源を少しでも探ろうとして、いたのだった。

 近づく者を闇へと引きずり込む「迷いの森」
永い間、その森に近づくものはいなかったのだったが、「聖なる騎士団」が結成されてからは唯一、
それぞれの騎士が持つ「聖なる神器」の力の庇護のもと、ようやく彼らがその森を
通り抜けられるようになったのであった。

 しかし、例え「聖なる神器」の力を借りることが出来たとしても、一瞬でも気を赦す事など
出来ない程の、計り知れない闇の力がこの「迷いの森」には、確かに存在していたのだった。

 鳥の姿の空の姫を抱えながら、空を飛んでいたロードスは、「迷いの森」の上空に差し掛かると、
突然襲い掛かる突風と、気流の落ち着きの無さを感じ取っていた。

「やはり、「迷いの森」の上空はどうしても気流が乱れるな。今回はまた殊更、得も言われぬ闇の
気配を感じるのだが、これは細心の注意をはらわねば、姫を安定した飛行でお運びする事ができぬ。
一層、気を引き締めていかねば。」と、ロードスは自身の翼の動きを慎重に操り、
「迷いの森」の上空を飛んで行ったのだった。

 しかし時折、得体の知れない何者かが、足を引っ張るかのように重く陰気な空気が、
ロードスの足元に絡みついてきたのだった。
 その都度、ロードスは方向感覚までもが狂わされ、目標を見失うのだったが、
そのたびに、彼の右眼のサファイアに話しかけ、彼の持つ「天上の光を宿す鏡」から、
天からの正しい方向を指し示してもらうのだった。
 そうして長い時間、慎重に空の領土に向けて飛行を続けたロードス。
その間、空の姫はずっとロードスの腕にくるまれながら、「迷いの森」から立ち上ってくる、
得も言われぬ恐怖に、小さく身を固めていたのだった。

 やがて、遠くの雲の切れ端から、ようやく黄金の光に輝く雲が、少しずつその姿を現すと、
ロードスは一つ息を吐き、空の姫にこう告げたのだった。
「姫、もうすぐ空の領土に入ります。もうしばらくのご辛抱を。」
ロードスがそう言うと、空の姫は今までにない程の明るい声で「キューン」と一鳴きしたのだった。

 そうして、次第に近づいてくる、晴れやかな神々しい黄金の雲の切れ間から、
柔らかな明るい光が降り注ぎ、美しい天上の音楽が鳴り響くその領域に、二人は入っていったのだった。
黄金に輝く雲達は、二人が近づいてくると、そっと門を開ける様に開き、空の領土へ続く道を促すと、
二人が通った後にはまた、他の侵入者をまるで防ぐかのように、静かにそっと
折り重なり閉じていったのであった。

 優しい柔らかな雲たちの間を抜け、しばらく飛んでいると、まだ遠くの向こうの方から、
二人を出迎える人影が少しずつ近づいてくるのが見えたのだった。
 しばらくして、その人影が二人に近づくと、満面の笑みを湛えた人物が、待ち遠しそうに、
一番に口を切ったのだった。

「リティシア、無事だったか。」一番先に近づいてきた、白くたくましい翼を持つ若者が、
晴れやかな顔でそう言うと、ロードスからすぐに鳥を受け取り、大事そうにそっと両手で抱きあげたのだった。
 鳥の姿の姫が「キューン」と、うれしそうに鳴いた瞬間、その若者は自身のサファイアが宿る
左手をその鳥にかざし、呪文を唱えたのであった。

「我が左手のサファイアよ。我の命に応えよ。汝の役目は終わった。かの者を元の姿に戻したまえ。」
左手のサファイアから、あふれるばかりの光が放出されると、鳥の身体を包み込み、
姫を元の姿に戻したのだった。
 ようやく鳥の姿から本来の姿である、空の姫に戻ったリティシア姫。
リティシア姫は、自身の翼や手足を思い切り伸ばすと、晴れ晴れとした表情で、「兄様。」
と叫びながら、若者に飛びついたのだった。

 
 そう、彼こそが次の空の王を継ぎし者。カサレス・クレドール王子なのであった。
明るく美しい黄金の長い巻き毛が肩で揺らぎ、彼の頭上には黄金の植物で縁取られた
繊細で控え目な細工の髪飾りが、彼の心の美しさを祝福するかのように輝いていた。
 カサレス王子の深い慈愛に満ちた、サファイアブルーの瞳と穏やかなほほ笑みは、
一瞬にして全ての心をつかみ、彼の翼の白く美しく真っ直ぐに伸びたさまは、
また空の領土きっての心の美しさを表していた。

 カサレス王子の石の力は「あらゆるものを変える力」である。
そう、カサレス王子が望めば、あらゆるものを変える力を宿していたのだった。
 そして、妹のリティシア姫のたっての願いで、カサレス王子は姫を鳥の姿に変え、
二人で空を飛んでいるところに、「迷いの森」からの突然大きな突風に、
小さな鳥の姿のリティシア姫だけが一人、大地の領土まで吹き飛ばされてしまったのだった。

 カサレス王子とリティシア姫の二人は、しばらくの間、互いの無事を喜び、
今まで会えなかった、しばしの空白期間を埋めるかのように、お互いを慈しみ深く眺めたのだった。
そして、心配していたよりも、元気そうなリティシア姫の顔を見て、カサレス王子はほっとした様子で
一息つくと、姫に向かってこう言ったのだった。

「リティシア姫、元気そうでよかった。怪我をしたと聞いたが、大丈夫だったかい?
私が姫を鳥の姿に変えたばかりに、こんな危ない目にあわせてしまった。本当に申し訳ない。」
カサレス王子は、先程まで見せていた笑顔から、少し心配そうな面持ちで、
リティシア姫に語り掛けたのだった。

 しかし姫は、そんな兄の姿に首を横に振ると、強くこう言ったのであった。
「兄様、謝らないで。私が、鳥の姿で飛びたいって、無理にお願いしたのだから。
でも、すぐにロードス様に助けてもらって、今はとっても元気よ。
それにね、大地の領土のユーリス王子にずっと看病してもらったの。ねえ兄様。
大地の人達は私にとっても優しくしてくれたのよ。あの人達には翼はないの。
肌の色も髪の色も、瞳の色だって全然私達とちがっているの。ねえ、兄様は大地の人達と
会ったことがあって?」姫は久しぶりに兄の顔を見て、ようやく空の言葉を話せるようになったからか、
次から次へと兄に話しかけたのだった。    

 急に矢継ぎ早に話し出したリティシア姫の姿に、ロードスも王子も、王子に着いてきた二人の従者も、
一同に顔を見合わせると、一斉に噴き出し互いの顔を見たのであった。
 そして、ひとしきり皆が笑った後、「さあ、リティシア。空の城へ戻ろう。」
とカサレス王子は姫を促すと、姫の手を優しく取ったのだった。
 そんな彼らを暖かな優しい風が包み込み、一同は穏やかに語らいながら、空の城へと
向かっていったのだった。

 空の領土は6つの浮島からなる領土で、空の王の城は下から5番目の島に、
高くそびえ立っていたのであった。白く美しく輝く大理石で形作られた三棟の塔で構成され、
中央の塔へと延びる幾重にも重ねられた流麗な装飾が、空の王の偉功を表していた。
 天空の光に輝く空の城は、まるで天界から祝福を受けるがごとく、光り輝いていたのだった。
そんな王の城の中庭に着くと、一同はそのまま王の広間へと入っていったのだった。

「姫よ。元気であったか?どこか具合の悪いところはないか?」
空の王は心配そうにリティシアを覗き込むと、しっかりと両手で姫の肩を抱いたのだった。
「リティシア姫。あなたがどうしているかと、本当にずっと心配していたのですよ。」
続いてそう言いながら、母である王妃にそっと深く抱きしめられると、ほっとしたのか、
姫の目から涙が溢れてきたのであった。

 常に空の領土の事を思い守ってきた父と、その父を支え、いつも王子と姫を優しく見守る母の心に触れ、
姫はようやく、自分が周りに起こした心配の大きさに気づいたのであった。
「お父様、お母様、心配させてごめんなさい。」

 姫はそう言うと、続けてこう言ったのだった。「でも、もう私は大丈夫です。それに、鳥の姿の私を、
大地の領土の王子がずっと優しく看病してくれたの。お父様、お母様。私は大地の方達に本当に
優しくしていただいたのです。でも、ちょうど同じ頃に、大地の王妃様にとても悲しいことが起きて。
お父様、どうかお願いです。お父様の「やすらぎの詩」を大地の領土に届けてくださいませんか?
私の事をずっと看病してくれたユーリス王子は、きっと、こうしている間も,一人で悲しんでおられるのだわ。」
 姫は一気にそう言うと、大地の城での事を思い出し、今もなお一人で悲しんでいるであろう、
ユーリス王子の姿を思い浮かべると、その美しいサファイアの瞳にまた、多くの悲しみの涙を浮かべたのであった。

「姫?」王をはじめ、王妃やカサレス王子、城の者達も皆、そんな姫の姿を見て、心配そうに姫を見つめたのだった。



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by maarenca | 2014-07-16 12:26 | ファンタジー小説