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THE SIX ELEMENTS STORY No9




THE SIX ELEMENTS STORY


No9



                                        著 水望月 飛翔



 ロードスは「迷いの森」での出来事から、ユーリス王子の部屋にいる自身に意識を戻した。
ロードスの顔を、心配そうに覗き込むユーリス王子。
 しかしこのままずっと、王子の問いかけに黙っているわけにもいかず、ロードスは王子の前に跪くと、
ようやく重い口を開いたのだった。

 「豊かなる大地の領土に生を受けし、ユーリス・マレンスタイン王子。あなた様はまだ幼きながら、
しかし、大地の王の元に生まれしお方。あなた様は、しかとこの事を胸に留め置かれ、
これから私が話すことをどうか、冷静にお聞きくださいませ。」
 王子の目をしっかりと見つめると、ロードスは初めから、王妃の身に起こった出来事を、
王子にゆっくりと話し始めたのだった。

 そして、王妃を支配し傷つけた謎の物体の最後と、王妃が受けた傷の深さを話し、
もう二度とこの大地の領土に、王妃が戻ってくることはない事を、この幼き王子に伝えたのだった。

 ユーリス王子は、ロードスの話を聞いている間、母を思って泣き叫びたい衝動を懸命に抑え、
心の震えを必死に押し殺そうと、唇を噛み全身に力を入れた。
 しかしその思いとは裏腹に、次第にとめどなく溢れてくる涙に呼応するように、
全身がわなわなと震えだす事を、止められずにいたのであった。

 悲しみの震えを懸命に打ち消そうと、必死に試みる王子の姿を見て、ロードスはゆっくり立ち上がると、
王子を静かにそして力強く抱きしめた。
 しばしの間、ただ王子の口から洩れる小さな嗚咽だけが、王子の部屋に静かに漂っていた。
その光景を、じっと心配そうに見つめる小さな目。

 そう、ベッドの上のこの鳥は、この時の光景を、これからずっと抱き続けるのであった。
そうして少しずつ、自分を取り戻していった王子は、しばらくの間その鳥を自身の部屋で看病したのだった。

 それからの数日、昼間の王子はこの見知らぬ客のおかげで、はたから見ると、
母の事を前向きに捉えているかの様に、元気そうな姿を見せていたのだった。
 しかし、この鳥の目からは、笑ったかと思った王子の瞳に、すぐ上る翳りの色を、
何度も何度も、見つけることが出来たのだった。
 そんな時、その鳥は「キューン」と一声鳴いて、王子の肩にとまると、そっと王子の頬に頭を
寄せるのであった。

 そうした鳥の姿に王子は、「僕の心がわかるんだね。君がいてくれてよかった。ありがとう。
君の事は僕がちゃんと治すからね。」と、語り掛けるのだった。
 そんな二人の姿をロードスは、離れた所からそっと見守り、二人に解らぬ様、
自身の鏡から天上の「癒しの光」を注ぐのであった。

「お二人の未来が、どうか栄光の光に彩られますように。」
ロードスはこの時、この二人の未来がその後、交錯しようとは露にも思わなかったのであった。

 それから少しして、鳥の傷もだいぶ治り、とうとう鳥を空の領土に連れ帰る日が、やってきたのだった。
王子はとても寂しそうに肩をすくめると、まるで自分に言い聞かせる様に、こう言った。

「よかったね。これで君の家に帰れるんだよね。君の家族が待っているんだよね。」
と、鳥の背を撫でながら必死に涙をこらえ、笑顔を作ってロードスの方を振り返るのであった。
 ロードスはそんな王子の問いかけに答えた。「そうですとも、ユーリス王子。王子のおかげで
この鳥の傷もすっかり良くなりました。本当に素晴らしいお働きぶりでしたな。」
と、王子にほほ笑むのだった。
 そんなロードスの言葉に王子は、誇らしげに、しかし少し寂しそうにうなずいたのだった。

 最後にロードスは、大地の王に謁見した。
ロードスは王の前に出ると一礼をし、王にこう言ったのだった。
「雄大なる慈愛の大地の王。この度は、ユーリス王子の懸命なる看病のおかげで、この鳥の傷も、
本当に早い回復を見せました。この度の寛大なるご配慮、誠にありがとうございます。」
と、うやうやしく礼を述べ深く頭を下げたのだった。

 しかし大地の王は、ずっと大地の王妃を心配してか、大分やつれた顔を向けると、
寂しげにロードスにこう言ったのだった。
 「いや、その鳥のおかげでユーリス王子も少しは気が晴れたであろう。
そなた達が居なくなるとまたさびしくなるが、それも致し方あるまい。」
そう言うと、一つため息をついたのだった。

 そして王は、もう一度まっすぐにロードスを見つめると「「聖なる騎士団」のロードス・クレオリスよ。
どうか、どうか王妃の事はよろしく頼む。」と、言ったのだった。
 王の言葉を聞いてロードスは、一つ深く息を吸うと、こう答えたのだった。
「穏やかなる大地を収めし偉大なる王よ。どうか、ご心配なさらずに。
我々「聖なる騎士団」が、この命に賭けて、大地の王妃様をお守りいたします故。」
と言うとロードスは床に深く跪き、大地の王に誓って言ったのだった。
 
そうして、ロードスは鳥を肩に乗せると、空の領土へと向かっていったのだった・・・。

「聖なる騎士団」のロードス・クレオリスは、しばらくの間ずっと無言のうちに大地の領土を歩いた。
 彼の周りに吹く風の優しさも感じようとはせず、木々の囁きに耳を傾けることもせず、
ただロードスは、少しでも早く大地の領土を通り抜けたい一心で、ずっと無言で歩いていたのだった。

 ようやく大地の領土の東の森のはずれまで来ると、ロードスは肩に乗せていた鳥をゆっくりと、
木漏れ日の差す切り株の上に下ろすと、天上の光を鏡に反射させ、その鳥の身体の上に
光を注いだのだった。
 すると、先程まで鏡に映っていた鳥の姿が一変して、純白の美しい翼を持つ、空の姫の姿が
映し出されたのだった。

 年のころは大地の王子、ユーリス王子と同じ位であろうか。
金髪に光る長く美しく伸びた髪の毛が風に揺れ、ホワイトゴールドで紡がれた繊細な花の髪飾りが、
姫の愛らしい顔を縁取り、ライラックの様な薄紫のグラデーションの薄衣を身に纏って、
恥じらい佇む姫の姿がそこにあったのだった。

 ロードスは、鏡に映しだされた姫の姿に、ホッと安堵した表情を浮かべると、
うやうやしく一礼をして、鏡の中の姫にこう言ったのだった。

「我らが空の誇り、美しき天空の花、リティシア・クレドール姫。よう、これまで辛抱なされました。
して、翼の具合はいかがでございましょうや?」
 ロードスが姫にこう語りかけると、鏡の中の姫もゆっくりとロードスに一礼して、こう答えたのだった。
「我らが空の誇り「聖なる騎士団」のロードス・クレオリス様。よくぞ鳥の姿のわたくしを理解し、
助けてくださいました。あなた様がわたくしの傍に居て下さったおかげで、わたくしは、
どんなに心強かった事でしょう。翼の痛みも大分とれました。本当に心から感謝いたします。ありがとう。」
 この空の愛らしい姫の心からの礼にロードスは、しかし内心、心の痛みを伴って聞いていたのだった。

(いいえ、リティシア姫。姫が大地の森まで飛ばされたのはきっと、私のせいなのでしょう。)

 心の中で一人、自分を責めるロードス・クレオリス。
しかし、すぐに柔らかなほほ笑みを作ると、姫に向かってこう言ったのだった。
「さあ、姫様。空の領土まで、まだ大分ございます。そして、その前に「迷いの森」の上空を
飛んでいきます故、どうぞわたくしの元を離れませぬ様。」そう言うとロードスは、
「天上の光を宿す鏡」と、鳥の姿の姫を抱いて、空高く飛び立ったのだった。



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by maarenca | 2014-07-12 10:48 | ファンタジー小説