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THE SIXELEMENTS STORY No8


THE SIX ELEMENTS STORY



No8



                                        著 水望月 飛翔



 その変化を感じたゼンスは窓に駆け寄ると、振り向きざまに大地の王に向かって、こう言った。
「大地の王よ、いけませぬ。今すぐ意識を戻されよ。」
ゼンスの強い言葉に、大地の王は、はっと我に返ると、ゼンスの所に駆け寄り、城の外の景色を見た。
 そして、目の前に広がる天候の変化に王は驚いたのだった。王は自身の石に語りかけた。
「我が右手のトパーズよ。我、そなたに命ずる。己の責務をはたせよ。」
そうして、右手のトパーズに冷静なる 王の意志を送り、命じたのだった。

 ロードスも素早く窓のもとに走ると、天上よりの光を自身の鏡に集め、外の世界に光を反射させ、
ユランも「癒しの歌」を歌ったのだった。
 すると、先程まで重暗い色に変容していった空は反転し、少しずつ以前の空の明るさを取り戻していった。
続いて、柔らかな光も雲の隙間からこぼれ始めると、頭を垂れ始めていた草木たちも、
安堵の色を見せたのだった。

 こうして、窓からいつもの世界に戻った空を見渡すと、ゼンスは王の元にゆっくりと歩み寄り、
静かにこう言ったのだった。
「慈しみ深き大地の王よ。王妃へのご心配は我らも重々承知しております。
しかし、どうか王妃の事は我らにおまかせ下さりませぬか。そして、どうかこの大地の領土を今まで通り、
お守りくだされ。」と、進言したのだった。
 大地の王はゼンスの言葉に、心は晴れぬままだったが、しかし、深く頷いて見せたのだった。

そんな大地の王の姿を、ただ静かに見守るロードス。

 それからロードスは一人、王の広間を後にして、ユーリス王子の部屋へと向かったのだった。
王子の部屋に続く廊下には、大きく開け放たれた窓が並び、草木で染め上げた薄布が、
ゆっくりと風に舞っていた。

「王子、ユーリス王子、失礼いたします。」ロードスの呼びかけに、しかしなんの返事もなく、
気配も感じぬ王子の部屋の扉をロードスはそっと開けた。
そして、ゆっくりと、ロードスは王子の部屋に入っていったのだった。

 王子の部屋の中を進んでいくと、ここにもまた、何層にも重なる草木で染めた色取りどりの布が、
ゆったりと天井からはためきながら、ロードスを迎えたのだった。

 王子のベッドに近づくロードス。
その視線の先には、王子のベッドの上で、王子と傷ついた鳥が顔を近づけ、寄り添いながら、
眠っている姿があったのだった。

 「お二人とも、だいぶ疲れていたのであろう。」
そのあどけない光景を見て、ずっとこわばっていた面持ちのロードスの頬に、
ようやく穏やかな色が戻ると、ロードスはそっとベッドの端に座った。
 そして、彼の持つ鏡から、柔らかな癒しの光を二つの頭上に届けたのだった。

 少しすると、王子の傍らで眠っていた鳥が目を覚まし、ロードスの姿を見つけて
「キューン」と小さく鳴いたのだった。

 ロードスは、そっとテレパシーでその鳥に向かって、「解っておりまする。あなた様は我らが誇り、
空の領土の大事な姫。なぜこのようなお姿でおられるのかは存じませぬが、
わたくしが着いておりまする故。どうぞ今しばらくはこの大地の城にて、その傷をお治しくだされませ。
あなた様の傷が治り次第、すぐに空の城へお連れいたしますので、どうかご安心を。」と、伝えたのだった。

 二人がしばし見つめあっていると、王子も目を覚まし、ロードスの姿を見てほっとした表情を浮かべ、
こう言った。
「ロードス。来てくれたんだね。ちゃんと、さっき教えてもらった薬草を傷に付けたんだよ。
もう心配いらないよね?すぐに治るよね?」と、ロードスの顔を覗き込むようにして、王子は聞いたのだった。

 王子の無邪気な姿にロードスも、いつになく柔らかい表情を見せ、
「はい、もう心配はいりませぬ。もう少し王子に看病していただければ、この鳥の傷も直に治りますとも。」
と答えたのだった。
 王子はその言葉に安心して、頷いて見せたのだった。そして王子は、少し間を置いてから、
聞き出すことに恐れを抱きながら、静かにこう聞いたのだった。

「聖なる騎士団のロードス・クレオリス。母上は、母上は無事なのですか?」
先ほどまでの無邪気な少年の顔は去り、何かを決心したかのような面持ちで、
しかし、最後は消え入りそうな程か細い声で、ロードスにこう問いかけたのだった。

 そんな王子の姿に、ロードスの胸は締め付けられた。
そして、まだ幼き王子の元に、母である大地の王妃を、この地に取り戻すこと
が出来なかった自分を、責めたのだった。

 そう、それは空の領土と大地の領土の間の「迷いの森」を歩いている時であった。

ゼンス、ロードス、ユランの三人はいつものように、陣形を組み、迷いの森の
攻撃をかわしながら大地の領土の方角へと向かっていたのだった。

ヒューン、ヒューンと風の通り抜ける音だけがこだまするその森は、しかし、
三人の横を通り過ぎる時、人の泣くような叫ぶような悲鳴と共に、ナイフのよ
うに鋭い切っ先となって、三人が作った結界を傷つけていったのだった。
 冷たい冷気が三人の体温を奪っていく。
近くに、遠くに何者か分からぬ悲しみと恐怖の感情が、この暗闇から、ひしひしと
伝わってくるのであった。

 迷いの森は、人知れぬ「意思」で作られた不思議な森。

隔絶してから、いつ頃から出来たのか?
この森の存在が人々に知れ渡った頃には、各領土の間に大きく闇が存在し、その森を
通ろうとするものを引き込み、二度とその姿を人々の前に戻す事は、なかったのだった。
 
 
 三人はいつもこの闇からの攻撃をかわしながら、こちらから攻撃をする事を一切控えていた。
この「迷いの森」が一体何で出来ているのか?解らないまま力を加える事は、
周りの領土にどのように影響するやも知れぬ。
 だからこそ三人は常に、この森を抜けるまでは必死に攻撃を耐え、攻撃の
風に込められた想いを、慎重に探ろうとしていたのだった。

 しかし、この日のロードスは、「迷いの森」を抜けながら、自身の意識をいつになく空の領土に、
飛ばしていたのだった。

 ロードスの故郷である空の領土は、他の領土よりも一層、整然と整った意志
で守られた領土であった。
 それを収める、タリオス王。

そのタリオス王の責任感と自身への戒めは、強固たるもので、空の人々からも、
絶大なる信頼を勝ち得ていたのだった。
 しかし、時には厳しすぎる一面もあり、幼いころから、自身を厳しく律する
父王に心をいためていたのが、心優しきカサレス王子であった。

 しかし、そうした想いは父王には届かず、互いの想いはすれ違い、
いつしか深い溝が横たわるようになっていったのであった。

「カサレス王子の、お優しきお心がいつの日か、タリオス王に伝わればよいの
だが。」想いにふけるロードス。
と、その時。今までにない、大きな衝撃が三人を襲った。
一瞬、体制を崩し地面にたたきつけられたユランの姿に、カサレス王子の姿が
重なったのだった。

ロードスはとっさに、彼の石の力を使った。
「我に宿りし右目のサファイアよ。この迷いを吹き消し王子をお守りするのだ。」
それは、自身の心にあった迷いだったのだろうか。迷いの森の攻撃の事だった
のだろうか?ロードスは、無意識にサファイアに命じたのだった。
サファイアはロードスの命に応じ、「闇払い」の印を放出すると、倒れたユラン
の身を守るように突風を巻き起こしたのだった。

 突風はすさまじい力で、周りの木々をもなぎ倒した。
「ぎゃあ~。」ロードスの石の力に、恐怖におののく闇の住人の悲鳴が遠く、
吹き飛ばされていった。
「ロードス殿。」ゼンスとユランは、ロードスに駆け寄った。
ロードスは我に返ると、二人を見つめた。

三人の間に言葉はなかった。
ただ黙ってうなづき合うと三人は、もう一度陣形を整えて、それぞれ癒しの波動を
「迷いの森」に送ったのだった。
無言で再び歩き出し、こうして数日、迷いの森を歩き通した三人なのであった。

そして、ようやく「迷いの森」を抜けた三人は、涙にくれ悲しみを抱えたユーリス王子に、
出会ったのだった。



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by maarenca | 2014-07-09 12:01 | ファンタジー小説