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THE SIX ELEMENTS STORY No7




THE SIX ELEMENTS STORY

                   
                        
                  
 

            
No7



                                                   著 水望月 飛翔





 ゆっくりと静かに、ロードスが王妃を抱きかかえると、ゼンスがユランに目で促し、
ユランは頷いて「癒しの歌」を奏でたのだった。
 王妃は意識を取り戻した。
心配そうに覗き込む三人の顔を見て、王妃はようやく、自分が謎の物体から解放された事を知り、
ほっと一息ついたのだった。

「もう、終わったのですね。」
喜びと悲しみの両方を顔に上らせて、静かに穏やかにほほ笑む王妃の顔を見て、
ロードスが王妃に何かを言おうとすると、ゼンスがロードスの肩に手を置いて、制した。

 そしてゆっくりと、ゼンスが王妃に語りかけたのだった。
「雄大なる大地の領土をその御身一つで守りし、偉大なる母なる大地の王妃。
よくぞここまでお一人で、あの「謎の物体」をご自分の体内に封印なされましたな。
また、このような深い傷を負われて。あなた様の負った苦痛はきっと、ここにいる我らにも
想像もつきかねる事でしょう。母なる王妃よ。」
そう言うと、三人は改めて王妃に敬意の礼を送ったのだった。

 王妃は少し苦しそうにほほ笑むと、ゆっくりとこう答えたのだった。
「聖なる騎士団」の尊き三賢者の皆様。わたくしがあの物体を抑える事の出来
る時間は、本当に残り少ないものでした。皆様が来てくださったおかげで、わたくしも、
この大地の領土も救われました。本当に感謝に堪えません。ありがとう。」
そう言うと、王妃を抱きかかえているロードスの手を、握りしめたのだった。

 そして、王妃は続けてこう言ったのだった。
「慈愛の賢者、ゼンス様。いったいあの物はなんだったのでしょう?
また、この大地の領土を襲ってくるものなのでしょうか。この大地の領土に住む我らの何かが、
あのような恐ろしい物を引き起こしたのでしょうか?」小さくそう言うと、
「そんな事などありませぬ。そんな事などは、絶対に。」
ロードスは、静かだが強い口調で王妃にこう言ったのだった。

 そして、そんなロードスの言葉に、ゼンスもユランも力強くうなずいたのだった。
そんな三人の表情に、王妃は少し安心をしたのだったが、しかしすぐにその表情は翳りを見せると、
ゼンスにこう聞いたのだった。
「ゼンス様。私のこの傷はもう治ることはないのでしょうね。」

 王妃が意を決したように、ゼンスに聞き彼の顔を見つめると、ゼンスは少し顔をこわばらせながら、
こう切り出したのだった。
「全身全霊でこの領土を守られし大地の王妃よ。残念ながら、あなた様の負ったこの傷は、
痛みを和らげることは出来ても、我らの術ではどうにも治すことはできませぬ。
お力になれず、もうしわけありませぬ。」

 ゼンスが苦しそうにそう言うと、王妃は覚悟を決めたように、こう言ったのだった。
 「あの物体がわたくしの体内に侵入してから、とうに解っておりました。わたくしのこの身体は、
もうこの大地の領土で生きることは出来ない者となったのですね・・。」
そう言うと王妃は、静かに涙を流したのだった。

 声も上げずに、静かに涙を流す気高い王妃の姿を、目の前にして三人は、
この王妃を大地の王の城に、戻すことの出来ぬ自身の力不足を、何とも悔しく思ったのであった。

ゼンスは、呪文を唱えながら杖をドンと床に打ち付けると、「回復の手」を持つ精霊を呼び出し、
ベットに寝かせた王妃の傷の治療にあたらせ、王妃をそのまま眠りの国へといざなったのだった。
 
 静かな寝息をたてる王妃。
その姿を見届けると、三人はしばしの間話し合った。

 ゼンスとユランで王妃を炎の領土にある洞窟へ連れて行く事。
そしてロードスは、しばらくの間大地の城にとどまり、あの傷ついた鳥の治療をした後、
その鳥を空の領土に送り届ける段取りを決めたのだった。
 そのように取り決めをすると、ユランを王妃の元に残して、ゼンスとロードスの二人は、
大地の城へと急ぎ戻っていったのだった。

「嘆きの塔」から少し離れて待たせていた馬車に乗りこもうとしたロードスは、
足をふらつかせて倒れそうになったのだった。ロードスの手をつかみ身体を支えるゼンス。
「大丈夫か?ロードス殿。」心配そうにのぞき込むと「天上の兵士をあれだけ導いたのだ。
その右目がいたむのであろう。ユラン殿と変わられてはいかがじゃ?」
 ゼンスがそう言うと、ロードスは首を横に振りこう言った。
「いいえ、ゼンス殿。大地の王に事の次第を告げるは我の役目。自分の招いた事は自分で
始末をつけねばなりませぬ。」
そう言うと、痛みをこらえて馬車に乗り込んだ。
ゼンスはそれ以上何もいわず、馬車を走らせたのだった。

 そして二人は、王の城に着くと大地の王に、事の次第を話した。
二人の話を聞いて王は、動揺した。
「何故、王妃はこの城へ戻れぬのだ。どうして、炎の洞窟になどへ連れて行かねばならぬ。」
 大地の王は、王妃がこの城へ戻ってこられない事を聞くと、悲しみと、自身の無力さに対する怒りで、
大きく苛立ちの声をあげたのだった。

 いつもは温厚な大地の王の怒りを見て、ゼンスは少し間を置いてから顔をあげ、
苦渋に満ちた表情で静かにこう切り出したのだった。
 「王よ。大地の王よ。どうかお心をお鎮め下され。王妃の体内に侵入した謎の物体は、
王妃の体内をかなり激しい炎で焼き尽くしておりますれば、このまま、この大地の領土の空気を
吸っていては、王妃の身体に害を成し、王妃の命は確実に縮まりまする。
王妃を一刻も早く、炎の領土にお運びせねばいけませぬ。炎の洞窟の空気のみが、
今の王妃をお救いする手立て。炎に焼き尽くされし者は、炎で癒しませんと。」と言うと、
「それは、炎の領土が原因なのか?」と、大地の王はいぶかったのだった。

ゼンスの最後の言葉に大地の王は、王妃に起こった原因が、炎の領土にあるのかと考えたのだった。
それを聞いたロードスは、慌てて王の言葉を遮ったのだった。
「いいえ大地の王、それは違いまする。この度の事は、炎の領土とは何ら関係などありませね。
わたくし達が申しあげたいのは、炎の洞窟の空気のみが、王妃の命を長らえさせる事だと
言っているのです。どうか、そこの所はお間違いの無きよう。何卒。」

 二人の真剣な眼差しに大地の王は、「よい。解った。」と短く答えると、
もう二度とこの大地の領土に戻ってこられぬ王妃の身を、深く案じたのだった。

 大地の王にとって、自身の心の中を大きく支配している事は、何もわからぬ「謎の物体」に、
王妃が傷つきながら、一人でこの城や領土を守ったという事であった。
そして解らなかった事とはいえ、冷たく追放し、今度は得体もしれぬ炎の洞窟へ、
王妃一人を追いやる事に、王は愛する王妃を守れなかった不甲斐なさと、自身の力の無力さに、
深いため息の底に一人、沈んでいったのであった。

(私はいったい何をしてきたのであろうか。我が領土の平和を願い、我が民の事を思い、
「豊穣なる収穫の喜び」を我が右手の石に願った。確かにこの領土はずっとそれから、
健やかなる収穫に恵まれ、どの民達も心配なく平穏な暮らしが出来るようにはなった。
しかし、そんな願いの石の力に、結局われらが領土の守り神、「豊かなる芳情の女神」は
我の声に答えず、王妃を助ける事も出来なかったのだ。ふふっ、自身の愛する者一人を、
助けることも出来ないとは、私の力など何と虚しいことよ。)

大地の王は、一人意識の暗闇に心を囚われ始めたのだった。
王の広間は徐々に重い沈黙に支配され始め、少しずつ大地の領土の空が、
暗い悲しみの雲に覆われ始めたのだった。     

風がざわめき、不安の色が姿を現すと、息吹きを始めていた若い草木の小さな芽が一転、
まるで生命の基を吸い取られたかの様に、みるみるうちに枯れ葉色に変容していったのだった。



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by maarenca | 2014-07-05 10:52 | ファンタジー小説