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THE SIX ELEMENTS STORY  No3

        






THE SIX ELEMENTS STORY
   
 


No3
                                                    
                                                 
                                              

   
                                             著 水望月 飛翔



 その晩王子は夜の間中、広間での光景を思い出しては眠れずに、何度も寝返りを打っていたのだった。
「母上・・・。一体母上に何があったんだ。」
そして王子は、夜がまだ明けきらぬうちにそっと部屋を抜け出すと、広間の方へ行ったのだった。

 王の広間からは、木の柱が焦げたにおいがツンと王子の鼻をさした。
「もしかしたら昨日の事は夢だったのかも?」という、王子の淡い期待は一瞬で打ち砕かれたのだった。
 恐る恐る広間を覗くユーリス王子。
「ユーリス王子。広間にいてはなりませぬ。」そう背後から王子に語りかける声。
驚いて王子が後ろを振り向くと、一番古老の学者がそこにいたのだった。

「先生、なぜ僕が広間にいてはいけないのですか?母上は?母上の要体は?」
王子の問いに学者は眉間にしわを寄せると、ため息を吐きながら、ゆっくりと首を横に振ったのだった。
「ユーリス王子よ。どうか心してお聞き下され。王妃様の意識はまだ戻られてはおりませぬ。 
昨日からずっと、王の魔法の蔓で王妃様の回復を図っておられますが・・・、この傷を治すには難しいかと。」  

「母上と父上は?お部屋にいるのですか?だったら僕も行きます。」
そう言って王と王妃の部屋に行こうとしたのだったが、すぐに従者が呼ばれ、
王子の行く手は、またしても阻まれたのだった。
「ユーリス王子よ。今はなりませぬ。昨日の王妃はいつもの王妃ではありませんでした。
王妃様の行動にはきっとなにか原因があるはず。まずその解明をしなければ、
大事なる王の跡継ぎであります王子の身を、王妃様に近づける事は出来ないのです。
どうか分ってくだされ。」学者はそう言うと、もう一度、王子の部屋に連れ戻すよう、
従者に命令したのだった。

「先生。」
王子は悲しそうな目で学者を見たのだったが、抵抗をあきらめ、そのまま王子の部屋に向かった。
そして王子は部屋に戻ると、自分が母の元に近寄ることすらできない自身の幼さを、悔しく思ったのだった。

 しかし、その日一日部屋から一歩も外へ出る事を禁じられた王子は、部屋を出る機会を狙っていた。
次の日の夜明け前。王子の部屋の前で見張っている従者の交代の隙間をついて、
王子はこっそりと部屋から出たのだった。
 冷たい冷気が漂う廊下を、気配を殺して歩いて行くと、城の者が話す小さな声が、
王子の耳に届いたのだった。
 それは、夜中のうちに王妃をこの城から「月嘆きの塔」に幽閉した事を、話していたのだった。

ユーリス王子の鼓動が一つ痛みと共に鳴った。
「母上?!」王子は後ずさりすると、そっと人目につかぬよう城を飛び出し、そのまま森へと走ったのだった。

 城の者が言っていた「月嘆きの塔」とは?
王子は初めて聞くその言葉に、よくは分らないが何か冷たいものを感じ、何もできない自分と、
母への想いを募らせたのだった。
 方角も分らず森をさまよう王子。
当てもなく、王妃を探して森を走りまわったのだったが、まだ少年の王子が、自身の足で聞いた事もない
「月嘆きの塔」を見つける事は、到底出来ないのであった。

 どれだけの時間が過ぎただろうか。
やがて疲れた王子は足を止めると、力なくその場に泣きくずれたのだった。

そうして泣きつかれ、知らぬ間に深い眠りに落ちていった王子。

「・・リス。ユーリス王子。どうか泣かないで。私はずっとあなたの傍にいますから。」
白い靄が立ち込める中、そっと王子の頭をなでる優しい手。

「母上・・・?」
王子は聞きなれたような、初めて聞くような不思議な感覚で王子に語りかける声を聞いたのだった。

「いや、母上ではない。一体あなたは誰?」
王子が不思議そうにその声の主に聞くと、王子をなでる手がすっと遠のき、少し離れた所に、
見た事もない金色の長い髪をした少女の後ろ姿を見たのだった。


「君は、誰・・・?」
王子がもう一度聞くと、顔は見えないが少しこちらに振り向いた様な気配を見せると、
すぐにその少女の姿は白い靄の中に消えていったのだった。
「待って。」
少女に向かって叫ぶ王子。王子は自身の声に驚き、目をさましたのだった。

 夢と現実の境界線が分らず、ぼんやりした頭で王子は、今自分がどこにいるのか、考えたのだった。
高い木々の枝からまぶしい木漏れ日を受けると、少しずつ、儚い夢から悲しい現実へと、
引き戻されたのだった。

 力なく笑いながら、ゆっくりと立ち上がろうとした王子。
その目の先に、ふとこの大地の領土では見た事もない鳥が一羽、うずくまっていた。
よく見るとその鳥は、片羽を痛めたのか動けないようでじっと身をすくめていたのだった。
 その鳥は、ちょうど鳩位の大きさで、滑らかで光沢のある美しい乳白色の羽と、濃いブルーの瞳を持ち、
胸元にはまるで美しいネックレスでもしているかの様な、色取りどりの羽が立ち並んでいた。

 そして、桜貝の様な愛らしい嘴が小さく震えるたびに、「キューン。キューン。」と、
心細そうな鳴き声がこぼれてくるのであった。

 王子はゆっくりと近づき、静かにその鳥を両手に抱えると、そっとその鳥に聞いたのだった。
「お前はどこから来たの?・・怪我をしたのかい?・・お前の仲間は?」
優しく話しかけるユーリス王子。
しかし、ただその鳥は心細そうに「キューン・・・キューン・・。」と、小さく鳴くだけなのであった。

 王子はこの時、この傷ついた鳥を王妃の姿と重ね合わせ、この鳥を助けたいと思うのだった。
苦しむ母を助けられなかった無念を、まるで埋め合わせようとするかの様に。
「もう大丈夫。僕が君の傷を直してあげるね。」そう言うと、優しく鳥の頭をなでたのだった。

 その時、穏やかな風が暖かな空気を連れて、王子の周りを吹き抜けていった。


 風が過ぎ去ったあとの方角を何気なく見つめていると、王子は何やら草が動く気配を感じた。
「こんな森の中で何だろう?動物達の気配ではないようだけど。」しばらくじっとして目を凝らしていると、
王子の目の前に大きな杖を持った、3mはあろう大男が姿を現したのだった。

「ゼンス様。」王子は、その男を見るなり懐かしそうに駆け寄った。

「おお、これはこれは。広大なる大地を収めし王のご子息、ユーリス・マレンスタイン王子。
我らは今しがた、大地の領土にようやく足を踏み入れたばかりと思いましたが、
まさかこのような時間にこのような森でお会いするとは。」
 大男はそう言うと、身体をギシギシ言わせながら、王子に頭を下げたのだった。

 それから顔をあげ彼の持つ「生命の息吹をもたらす杖」を大きく回し周りを見回すと、
不思議そうに王子に聞いたのだった。
「して、ユーリス王子。まさかこの様な時間に、森にお一人でおられるとは思いませぬが、
お付きの者はいかがなさいましたかな?」
 
 樹木の枝の様な三本の腕を持つ緑の民のゼンス・ショーインは、先ほどよりもっと身体をかがめて、
王子の顔を覗き込むように、優しく王子に問いかけたのだった。
 それと同時に、ゼンスの背中にいる小さな住人達が、何やら落ち着かぬようにざわめいているのを、
ゼンスの額に宿るエメラルドは感じとっていたのだった。

 ゼンスの問いかけに、何から話していいのか想いを巡らせる王子。
すると、今度はゼンスの背後から、落ち着いたブルーグレーの色合いの翼を持った人物が、
王子に声をかけたのだった。
「お久しゅうございます。安寧なる大地を司りし大地の王のご子息、ユーリス・マレンスタイン王子。
ご健勝の事、喜ばしく・・・。」ロードスは、あいさつの口上の途中で王子に抱かれた鳥に気付くと、
言葉を失い自身の目を疑ったのだった。
 ロードスの右目のサファイアが鋭く光った。

 ロードスはそっと、誰にも気づかれぬように注意深く、胸に抱いた「天上の光を宿す鏡」に
その鳥の姿を映し出した。
 そして、鏡に映し出された姿に息を呑んだのだった。
「王子。この鳥は一体・・。この鳥をどこで見つけたれたのですか?」
 いつもは3人の中で常に寡黙で、「崇高なる賢者」と呼ばれし、空の民のロードス・クレオリスであったが、
いつになく翼を広げ肩を震わせると、こわばった表情で王子に近寄ったのだった。
 ユーリス王子は、いつにないロードスの気迫に驚き、後ずさりした。

(つづく)






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by maarenca | 2014-06-21 10:20 | ファンタジー小説